【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、遠方視用の第1の度数をもたらす上方視区域と、第1の度数に対して加入度数をもたらす下方視区域と、加入度数に比べて相対的に正の度数を有する各区域を含む周辺領域とを備える、眼鏡レンズ部材を提供する。下方視区域及び上方視区域は、下方視区域が相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置するように、構成される。
【0022】
好ましくは、相対的に正の度数を有する区域及び下方視区域が組み合わされた水平範囲が、本又は雑誌などの近距離対象に対する対象視野の典型的な水平角度範囲に一致する。
【0023】
一態様においては、本発明は、
遠方視用の第1の度数をもたらす、遠方視基準点及び合わせ十字線を有する上方視区域と、
第1の度数に対して加入度数をもたらす、近方視用の下方視区域と、
上方視区域から下方視区域にかけて変化する度数を有する、上方区域と下方区域とをつなげる回廊区域と、
下方視区域の度数に対して正の度数をもたらすように、加入度数に相対的に正の度数を有する区域をそれぞれが含む、下方視区域の両側に配設される周辺領域と
を備え、
相対的に正の度数を有する区域が、下方視区域に直に隣接して配設されて、下方視区域が、相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置する、多焦点眼鏡レンズ部材を提供する。
【0024】
好ましくは、下方視区域は、低表面非点収差の比較的幅狭な区域である。これに関連して、下方視区域は、近方視基準点の下方に配設される0.5D非点収差等高線によって画定され得る。一実施例においては、下方視区域の最大水平範囲、したがって0.5D非点収差等高線間の最大距離は、約12mm未満である。
【0025】
加入度数(又は「Add」)は、典型的には所望の平均加入度値に関連して表される。0.50D〜3.00Dの範囲の平均加入度数が使用されてもよい。
【0026】
周辺領域における相対的に「正の度数」を有する区域はそれぞれ、第1の度数に対して相対的に正の度数差をもたらす。周辺領域内の相対的に「正の度数」を有する区域における度数と第1の度数との間の正の差は、下方視区域の加入度数よりも大きく、したがって加入度数に対して「正の度数」をもたらす。したがって、相対的に正の度数を有する区域は、下方視区域の加入度数よりも高い加入度数をもたらすものとして見なすこともできる。
【0027】
比較的幅狭な下方視区域を設けることにより、相対的に正の度数を有する各区域は、下方視区域を貫通して実質的に垂直方向に延在する中心線の比較的近傍に位置決めされ得るようになり、したがって、相対的に正の度数を有する区域及び下方視区域からなる比較的幅狭な組み合わされた水平範囲が形成される。好ましくは、相対的に正の度数を有する区域及び下方視区域からなる組み合わされた最大水平範囲は、約30mm未満である。
【0028】
本発明のいくつかの実施例は、近視作業の際に周辺遠視化を補償することができ、したがって近方視活動時に着用者に対して近視の進行を減速又は阻止させるための光学的矯正を与えることができる。
【0029】
いくつかの実施例においては、下方視区域は、近方視基準点を含んでもよい。近方視基準点(NRP)の位置は、レンズ部材の表面上のマーキングを用いて特定してもよい。しかし、レンズ部材がそのようなマーキングを備えることは、必須ではない。
【0030】
本発明の実施例は、近方視基準点の下方に配設された水平線に沿って水平方向又は横方向の平均加入度数分布(プロファイル)を示すことができ、前記線は、下方視区域と周辺領域とを超えて延在する。この平方向又は横方向の平均加入度数分布は、各周辺領域において各最大値を、及び下方視区域において局所的最小値を示し得る。好ましくは、各局所最小値は、水平線と、下方視区域に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の一連の水平中間点に合された線との交差部に位置する。水平中間点に対して線を合わせるために、少なくとも最小二乗タイプの近似法などの適切な近似法技術を伴ってもよい。他の適切な技術は、当業者には十分に理解されよう。この近似線は、実質的に垂直な線であってもよく、又は着用者の眼経路に位置合わせするように傾斜されてもよい。
【0031】
平均加入度数の各最大値は、約10mm〜約15mmだけ近似線から横方向に離隔されてもよい。
【0032】
第1の度数は、典型的には、着用者の遠方視要件に対する光学的矯正に対応する既定の度数である。したがって、本明細書の残りの部分に関して、「遠方視区域」への言及は、上方視区域への言及として理解すべきである。他方において、下方視区域の加入度数は、遠近調節の必要量を軽減させ、近方視作業の際に網膜に近いか又は網膜の前の周辺部中の像平面を変位させるように選択されてもよい。したがって、本明細書の残りの部分に関して、「近方視区域」への言及は、下方視区域への言及として理解すべきである。
【0033】
下方視区域は、近方視のために使用される可能性のある多焦点眼鏡レンズ部材の領域に位置決めされることとなる。下方視区域は、遠方視区域に対してレンズの鼻側の近くに挿し込まれてもよい。
【0034】
本発明の一実施例による多焦点眼鏡レンズ部材は、特に若年者による使用向けに設計されてもよい。なぜならば、若年者は、一般的に、近視野内の対象を見るための眼の遠近調節能力により近方視矯正を行う必要がないからである。例えば、若年者は、その遠方視区域を使用して、自身の遠近調節システムの補助により近距離対象を見ることが可能となり得る。しかし、加入度数を有する下方視区域を備えることにより、遠近調節必要量を低減させることにおいて若年者の着用者を支援することができ、したがって調節ラグにより近方視作業の際に中心窩及び傍中心窩上における中央ぼやけを低下させることができる。さらに、下方視区域に隣接する相対的に正のすなわち「プラス」の度数を有する区域を設けることにより、近距離対象が着用者の視野の比較的広い水平角度範囲を占め、したがって対象空間内に広がる、読書などの近方視作業の際に、直ぐ隣接する周辺視野における遠視性ぼやけを軽減させることができる。例として、例えば携帯電話画面は、一般的には、着用者の視野の広い水平角度範囲を占めず、したがって例えば本又は雑誌などと比較した場合に「対象空間内に広がら」ない。
【0035】
したがって、本発明の実施例は、先行の近視制御レンズよりもより効果的に、特に小児における近視の進行を減速又はさらには阻止することができる。
【0036】
この多焦点眼鏡レンズ部材の遠方視区域は、マイナスの規定度数を緩和するために比較的低めに使用されるように設計されてもよい。遠方視区域の度数は、着用者の要件に応じて異なってもよく、例えば度無し〜−6.00Dなどの範囲であってもよいことが理解されよう。これを目的として、マイナス規定に典型的な比較的平坦なベース・カーブのみならず、さらには周辺視覚におけるマイナスレンズ誘起遠視化を軽減させるいくつかの比較的急勾配のベース・カーブを含む、幅広いベース・カーブを使用することができる。例えば、0.50D〜9.00Dの範囲のベース・カーブを使用してもよい。
【0037】
周辺領域内の相対的に正の度数を有する区域の度数分布は、着用者が下方視区域を介して対象を見ている場合に、周辺視覚を矯正するための光学的矯正に寄与し得る。使用時には、この度数分布は、近視の進行を減速又は阻止する眼の望ましくない成長に対する「停止信号」の形態で、近視を減速又は阻止するための刺激を供給することができる。
【0038】
したがって、本発明の一実施例は、広範な眼の回転範囲にわたり着用者の軸上遠方視要件に対して適切な光学的矯正を与える、及び近方視作業に対する遠近調節必要量を低下させることもさらに可能な、その一方で同時に、他の場合であれば近方視時に眼が周辺網膜における遠視性ぼやけを常時被ることにより起こり得る近視の進行を減速又は阻止するための停止信号を供給する、多焦点眼鏡レンズ部材を提供する。
【0039】
一実施例においては、この停止信号は、主な近方視眼位置について網膜の周辺領域から遠視性ぼやけの大部分を除去するように、着用者の眼の多様な焦点面に対して補償を行い得る。したがって、本発明の一実施例による多焦点眼鏡レンズ部材の周辺領域内の相対的に正の度数を有する区域内に正の度数が分布することにより、望ましくない眼成長に対して停止信号を供給し、したがって網膜の周辺部における近視の減速又は阻止に至る、光学的矯正が実現されることとなることが予期される。
【0040】
本発明の一実施例よる多焦点眼鏡レンズ部材は、前方表面及び背部表面(すなわち眼に最も近い表面)を備える。前方表面及び背部表面は、上方視区域、下方視区域、及び回廊区域に対して適切な度数及び非点収差の等高線を与えるように形状設定されてもよい。
【0041】
このレンズの前方表面及び背部表面は、任意の適切な形状を有してもよい。一実施例においては、前方表面は、非球状表面であり、後方表面は、球状又は円環状である。別の実施例においては、前方表面は、球状表面であり、後方表面は、非球状である。
【0042】
さらに別の実施例においては、前方表面及び後方表面の両方が、非球状である。非球状表面は、例えば非円環状表面、多焦点表面、又はそれらの組合せなどを含んでもよいことが理解されよう。
【0043】
下方視区域の加入度数及び周辺領域における相対的に正の度数は、典型的には着用者の種々の光学的矯正要件に対応することとなる。特に、加入度数は、低い遠近調節必要量で着用者の近方視作業に対して明瞭な視覚(すなわち中心窩視覚)を与えるのに必要な軸上又は近軸の光学的矯正に対応する近方視度数を実現し、その一方で、下方視区域を介して近距離対象を見る場合に周辺度数が軸外光学的矯正をもたらし得るように、選択されることとなる。
【0044】
各周辺領域の正の平均度数は、着用者の周辺矯正要件を、すなわち着用者の周辺視覚の矯正に必要な光学的矯正を特徴づける臨床的測定に関連して表される光学的矯正要件に基づいて選択することができる。任意の適切な技術を用いて、周辺Rxデータ又は超音波A−Scanデータを含むがそれらに限定されない要件を求めることができる。かかるデータは、オープン・フィールド・オートリフラクタ(例えばShin−Nipponオープン・フィールド・オートリフラクタ)などの、当技術において公知のデバイスの使用を介して求められてもよい。
【0045】
上述のように、各周辺領域は、下方視区域の加入度数に対して正の度数をもたらし、したがって下方視区域の度数に対して高められた度数を有する区域をさらに成す区域を備える。したがって、各区域は、「プラス度数矯正」をもたらす相対的に正の度数を有する区域を成す。この正の度数、したがって「プラス度数矯正」は、加入度数に対して、したがって下方視区域の度数に対して、約0.50D〜2.50Dの範囲であってもよく、これは、通常は、レンズ部材の近方視基準点(NRP)における平均度数に関連して表されることとなる。
【0046】
上述のように、下方視区域は、好ましくは、比較的幅狭な区域である。一実施例においては、下方視区域は、着用者の近方視作業に対して眼回転範囲にわたり低表面非点収差範囲をもたらすような形状及び/又はサイズを有してもよい。換言すれば、近方視区域すなわち下方視区域は、眼回転角度範囲全体にわたって着用者の近方視要件を支援するように形状設定及び/又はサイズ設定されてもよい。
【0047】
遠方視区域の面積は、典型的には下方視区域の面積よりも広くなる。
【0048】
本発明の一実施例よる多焦点眼鏡レンズ部材は、任意の適切な材料から製造され得る。一実施例においては、ポリマー材料が使用されてもよい。ポリマー材料は、例えば熱可塑性材料又は熱硬化性材料を含み得る、任意の適切なタイプのものであってもよい。例えばCR−39(PPG Industries社)などのジアリルグリコールカーボネートタイプの材料を使用してもよい。
【0049】
このポリマー製品は、架橋可能なポリマー成形組成物から形成されてもよい。ポリマー材料は、ポリマー材料を生成するために使用されるモノマー生成物に例えば添加され得る、好ましくはフォトクロミック色素である色素を含んでもよい。
【0050】
本発明の一実施例による多焦点眼鏡レンズ部材は、エレクトロクロミック被覆材を含む標準的な追加の被覆を前方表面及び背部表面にさらに備えてもよい。
【0051】
前方レンズ表面は、例えば米国特許第5,704,692号明細書に記載されているタイプなどの非反射性(AR)被覆をさらに備えてもよい。該特許の全開示が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
前方レンズ表面は、例えば米国特許第4,954,591号明細書に記載されているタイプなどの耐摩耗性被覆をさらに備えてもよい。該特許の全開示が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
前方表面及び背部表面は、防止剤、例えば上述のようなサーモクロミック色素及びフォトクロミック色素を含む色素、分極剤、UV安定剤、並びに屈折率を変更し得る材料などの、成形組成物中において従来的に使用される1つ又は複数の添加物をさらに含んでもよい。
【0054】
本発明によるレンズ部材の好ましい一実施例は、下方視区域の度数に対して正の平均度数(すなわち「プラス度数矯正」)を有する区域を含む周辺領域を有する眼鏡レンズ部材を提供する。
【0055】
着用者が必要とするプラスの度数矯正のレベルは、Mutti等(2000)により発見された近視性周辺屈折における大きな散乱を所与とすると、多様となる。
【0056】
本発明による眼鏡レンズ部材は、近方視作業の際に中心視覚及び周辺視覚の両方を同時に及び大幅に矯正することができる。このタイプの矯正は、近視眼者、特に近視の若年者における近視の進行の推定される要因を取り除くか、又は少なくとも遅らせることが予期される。
【0057】
本発明の別の態様は、一対の多焦点眼鏡レンズ部材を担持する眼鏡を患者に対して提供することを含む、近視の進行を減速させるための方法であって、各レンズ部材が、
遠方視のための第1の度数をもたらす、遠方視基準点及び合わせ十字線を有する上方視区域と、
第1の度数に対して加入度数をもたらす、近方視のための下方視区域と、
上方視区域から下方視区域にかけて変化する度数を有する、上方区域と下方区域とをつなげる回廊区域と、
下方視区域の度数に対して正の度数をもたらすように、加入度数に対して正の度数を有する区域をそれぞれが含む、下方視区域の両側に配設される周辺領域と
を有する表面を備え、
相対的に正の度数を有する区域が、下方視区域に直に隣接して配設されて、下方視区域が、相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置する、方法を提供する。
【0058】
以下、添付の図面に示した様々な実例を参照として本発明を説明する。しかし、以下の説明は、上記の説明の普遍性を限定するものではない点を理解されたい。