特許第5851411号(P5851411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851411
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ部材
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20160114BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   G02C7/06
   G02C7/10
【請求項の数】20
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-537268(P2012-537268)
(86)(22)【出願日】2010年11月9日
(65)【公表番号】特表2013-510331(P2013-510331A)
(43)【公表日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】AU2010001486
(87)【国際公開番号】WO2011054058
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年10月1日
(31)【優先権主張番号】2009905468
(32)【優先日】2009年11月9日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】512118587
【氏名又は名称】カール ツァイス ビジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100166349
【弁理士】
【氏名又は名称】帯包 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123180
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 克則
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルナス、サウリュス、レイモンド
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/052570(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/031166(WO,A1)
【文献】 特表2009−525835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠方視用の第1の度数をもたらす、遠方視基準点及び合わせ十字線を有する上方視区域と、
前記第1の度数に対して加入度数をもたらす、近方視用の下方視区域と、
前記上方視区域から前記下方視区域にかけて変化する度数を有する、前記上方視区域と前記下方視区域とをつなげる回廊区域と、
前記下方視区域の度数に対して正の度数をもたらすように、前記加入度数に相対的に正の度数を有する区域をそれぞれが含む、前記下方視区域の両側に配設される周辺領域と
を備え、
相対的に正の度数を有する前記区域は、前記下方視区域に直に隣接して配設されて、前記下方視区域は、相対的に正の度数を有する前記区域同士の間に位置している、多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項2】
前記遠方視基準点の下方の少なくとも18mmの位置に配設され、前記下方視区域と前記周辺領域とを超えて延在する任意の水平線に沿って、
前記多重焦点眼鏡レンズ部材は、各周辺領域において各最大値を有し、及び前記下方視区域において最小値を有する、正の平均加入度数分布を示すようになっている、請求項1に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項3】
前記各最大値を示す点は、前記下方視区域に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の水平中間点に合わせられた線から横方向にオフセットされ、前記オフセットは、10mm未満である、請求項2に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項4】
前記各最大値を示す点は、前記下方視区域に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の水平中間点に合わせられた線から横方向にオフセットされ、前記オフセットは、15mm未満である、請求項2に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項5】
各平均加入度数分布が、前記最小値から前記各最大値にかけて単調な値の増加を示すようになっている、請求項2から請求項4までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項6】
前記遠方視基準点から下方に18mmの位置の水平線に沿った前記平均加入度数分布は、前記加入度数よりも少なくとも0.5D高い各最大値を示すようになっている、請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項7】
前記遠方視基準点の下方の23mmの位置の水平線に沿った前記平均加入度数分布は、前記加入度数よりも少なくとも0.5D高い各最大値を示すようになっている、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項8】
前記遠方視基準点の下方の23mmの位置の水平線に沿った前記平均加入度数分布は、前記加入度数よりも少なくとも1.0D高い各最大値を示すようになっている、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項9】
前記遠方視基準点の下方の23mmの位置の水平線に沿った前記平均加入度数分布は、前記加入度数よりも少なくとも1.5D高い各最大値を示すようになっている、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項10】
前記遠方視基準点の下方の23mmの位置の水平線に沿った前記平均加入度数分布は、前記加入度数よりも少なくとも2.0D高い各最大値を示すようになっている、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項11】
前記遠方視基準点は、前記レンズの幾何学的中心の上方の8mmの位置に配置されている、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項12】
前記各最大値は、少なくとも20mmだけ側方に離隔されている、請求項2に従属する場合の請求項5から請求項11までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項13】
前記各最大値は、少なくとも25mmだけ側方に離隔されている、請求項2に従属する場合の請求項5から請求項11までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項14】
前記各最大値は、少なくとも30mmだけ側方に離隔されている、請求項2に従属する場合の請求項5から請求項11までのいずれか一項に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項15】
相対的に正の度数を有する各区域内において、前記相対的に正の度数の値が、前記下方視区域に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の水平中間点に合わせられた線から広がる水平方向範囲にわたって側方に、前記合わせられた線及び前記水平線の交差部における加入度数よりも少なくとも0.5D高い最大値まで上昇するようになっている、請求項2に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項16】
前記水平方向範囲は、10mm未満である、請求項15に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項17】
前記水平方向範囲は、15mm未満である、請求項15に記載の多重焦点眼鏡レンズ部材。
【請求項18】
遠方視用の第1の度数をもたらす上方視区域と、
前記第1の度数に対して加入度数をもたらす下方視区域と、
前記下方視区域の前記度数に対して正の度数をもたらすように、前記加入度数に相対的に正の度数を有する各区域を含む、周辺領域と
を備え、
前記下方視区域及び前記周辺領域は、前記下方視区域が相対的に正の度数を有する前記区域同士の間に位置するように構成される、眼鏡レンズ部材。
【請求項19】
前記眼鏡レンズ部材は、二重焦点レンズ部材である、請求項18に記載の眼鏡レンズ部材。
【請求項20】
多重焦点眼鏡レンズ部材である、請求項18に記載の眼鏡レンズ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年11月9日に出願された豪国仮特許出願第2009/905468号に基づく優先権を主張するものである。該出願は、参照により本明細書に組み込まれたものと見なされたい。
【0002】
本発明は、近視の進行を減速又は阻止するための眼鏡レンズ部材に関するものである。
【背景技術】
【0003】
視覚の焦点を合わせるためには、眼は、網膜上に光を集束させることが可能でなければならない。網膜上に光を集束させるための眼の能力は、眼球の形状に大幅に左右される。眼球が、その「軸上」焦点距離(すなわち、眼の光学軸に沿った焦点距離)に対して「過度に長い」か、又は眼の外側表面(すなわち角膜)が、過度に湾曲している場合には、眼は、遠距離対象の焦点を網膜上に適切に合わせることができない。同様に、軸上焦点距離に対して「過度に短い」、又は過度に平坦な外側表面を有する眼球は、近距離対象の焦点を網膜上に適切に合わせることができない。
【0004】
網膜の前方に遠距離対象の焦点を合わせる眼は、近視眼と呼ばれる。その結果生じる症状は、近視と呼ばれ、通常は適切な単焦点レンズにより矯正可能である。装着者に装着されると、従来の単焦点レンズは、中心視覚に関する近視を矯正する。すなわち、従来の単焦点レンズは、中心窩及び傍中心窩を利用する視覚に関する近視を矯正する。中心視覚は、しばしば中心窩視覚とも呼ばれる。
【0005】
従来の単焦点レンズは、中心視覚に関する近視を矯正することができるが、眼の軸外焦点距離特性は、軸焦点距離及び近軸焦点距離とはしばしば異なることが知られている(Ferree et al.、1931、Arch. Ophth. 5、717 -731;Hoogerheide et al.、1971、 Ophthalmologica 163、209 -215;Millodot 1981、Am. J. Optom. Physiol. Opt.、58、691 -695)。特に、近視眼は、網膜の中心窩領域に比べて、網膜の周辺領域において比較的低い近視度を示す傾向がある。これは、しばしば、像の周辺遠視化と呼ばれる。この差異は、近視眼が、長球状の硝子体眼房形状を有することに起因し得る。
【0006】
実際に、ある米国の研究(Mutti et al.、2000、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 41:1022 -1030)では、小児の近視眼における30°の画角での平均(±標準偏差)相対周辺部屈折により、+0.80±1.29Dの等値球面度数がもたらされることが判明した。
【0007】
興味深いことに、サルでの研究では、中心窩は明瞭な状態に留まった、周辺網膜のみにおける脱焦により、中心窩領域の伸長(Smith et al.、2005、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 46:3965-3972;Smith et al.、2007、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 48、3914 -3922)及びその結果としての近視が引き起こされる可能性があることが示唆されている。
【0008】
その他方で、疫学的研究により、近視と細かい作業との間に相関性があることが判明している。高学歴者集団における近視の罹患率は、単純労働者集団の罹患率よりもはるかに高いことが良く知られている。長時間にわたり読む作業を行うことにより、不十分な遠近調節による遠視性の中心窩のぼやけが引き起こされると考えられてきた。このことから、多くのアイ・ケアの専門家は、近視の進行が見られる若年者に対して多重焦点レンズ(累進多焦点レンズ)又は二重焦点レンズを処方する結果となっている。小児使用向けの特殊な累進レンズが設計されている(米国特許第6,343,861号明細書)。臨床治験におけるこれらのレンズの治療的有用性は、近視の進行の減速において統計学的に有意であることが判明しているが、臨床的有意性は、限定的であると考えられる(例えば、Hasebe et al.、2008、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 49(7)、2781 -2789;Yang et al.、2009、Ophthalmic Physiol. Opt. 29(1)、41 -48;及びGwiazda et al.、2003、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.、Vol.44、pp.1492 -1500)。しかし、Walker and Mutti(2002)、Optom. Vis. Sci.、Vol. 79、pp.424 -430によれば、遠近調節は、おそらく遠近調節により周辺網膜が内方に引っ張られる際に脈絡膜の張力が上昇することにより、さらに相対周辺屈折異常を増幅させることが判明している。
【0009】
近視の進行の1つの要因は、中心窩視覚が十分に矯正される状況においても周辺網膜上での遠視性脱焦を補償する眼の成長信号に関係していると考えられている。
【0010】
中心窩視覚異常及び周辺視覚異常の両方を矯正するためには、異なるレンズ度数(屈折力)からなる少なくとも2つの区域、すなわち中心窩視覚を矯正するための一定のマイナスの度数の中央区域又は中心鏡径部と、周辺視覚異常を矯正するための中央区域を囲む相対的にプラスの度数の周辺区域とが、同一レンズ上に必要となる。中央区域のサイズ、周辺区域の開始部、及び中央区域と周辺区域との間の移行部は、様々であり得る。例えば、中央区域のサイズが、典型的な習慣性の眼の回転度に応じて適合化され得る。これは、すなわち、例えば中央区域が、レンズ表面上において約10mm〜20mmの間の直径を有することが必要となる場合もあり得るということである。典型的には、0.5D〜2.0Dの相対的にプラスの度数が、周辺区域に与えられ得る。
【0011】
一定のマイナスの度数からなる中央区域と相対的にプラスの度数の周辺区域との間における「度数の移行」を実現させるための1つのアプローチは、国際公開第2007/041796号に記載されるタイプの「直裁的」移行部を形成することを伴う。しかし、かかる移行部は、動く眼に対して望ましくない「複視」タイプの影響をもたらす場合がある。
【0012】
一定のマイナスの度数の中央区域と相対的にプラスの度数の周辺区域との間における度数の移行を実現するための1つの代替的なアプローチは、「直裁的」度数移行部を形成するのとは対照的に、中央区域と周辺区域との間に移行度数区域すなわち累進度数区域を導入した「平滑」非球面設計部を形成することを伴う。例えば、回転対称移行区域を設けることが知られている。しかし、回転対称移行区域を設けることにより、高い非点収差量がもたらされ、これにより、周辺網膜上において望ましくない乱視性ぼやけが生じる場合がある。
【0013】
国際公開第2007/041796号に記載されている非球面単焦点レンズは、遠方視及び近方視の両方に関する周辺遠視化を矯正する。しかし、遠方視に関する遠視性のぼやけは、典型的にはレンズ鏡径の全幅に及ぶものである。その他方で、近方視に関する遠視性のぼやけは、本などの近方視認対象の角サイズに対応した比較的小さな鏡径部にしばしば及ぶ。読む行為などの多くの近方視作業もまた、多くの遠方視作業の場合の眼の回転度に比べて、はるかに小さな眼の回転度を要する。したがって、遠方視に関する周辺遠視化を矯正するためのレンズは、中央区域のサイズ並びに周辺区域の位置及び範囲に関して、近方視に関する周辺遠視化を矯正するためのレンズとは異なる要件を有することが予期される。これらの異なる要件に対処する1つの方法は、2対のレンズ、すなわち、一方の遠方視要件用のレンズと、他方の近方視要件用のレンズとを用意することである。しかし、2対のレンズを用意することは、多くの場合において実際的ではない。
【0014】
別のアプローチは、適合化された多重焦点レンズを用意することである。多重焦点レンズ(累進レンズ)は、遠方視作業用の比較的広い上方視区域、近方視に対応した度数を実現するように上方視区域とは異なる表面度数を有する比較的狭い下方視区域、及び上方視区域と下方視区域との間に広がりそれらの間において度数累進が施される中間区域(又は回廊区域)を実現する。これに関連して、米国特許第6,343,861号明細書は、非常に短い度数累進区域と、遠距離対象及び近距離対象のそれぞれを見るための比較的広い上方視区域及び下方視区域とを有する累進多焦点レンズを開示している。
【0015】
国際公開第2008/031166号は、下方視区域の加入度数に対応する相対的にプラスの度数をレンズの周辺部に有する累進多焦点レンズを開示している。国際公開第2008/031166号に開示されるレンズは、遠方視作業の際に周辺網膜上において近視化をもたらすことができる。しかし、下方視区域周辺エリアが、少なくとも下方視区域のごく近傍においては、下方視区域の中央部分に比べてより低い平均度数を有し、したがって所要の相対的なプラスの度数を実現しないため、このレンズは、近方視作業の際に周辺像の位置の効果的な制御を行うことができない。
【0016】
近年の研究(Rose et al.、2008、Ophthalmology、Vol.115、Issue 8、1279-1285)は、比較的多くの時間を屋外で過ごす若年者(彼らは、近視であっても、遠近調節されない眼において周辺遠視化を経験することとなる場合が殆どである)は、比較的低い近視進行傾向を示すことを示唆している。平常の弛緩状態にある眼を特徴付ける正の球面収差の存在下において、網膜の周辺部における遠視性脱焦は、眼の成長メカニズムを誘発するような著しいコントラスト減少をもたらし得ないことが示唆されている。実際に、Guo et al.、(2008)、Vision Res. 48、1804-1811による弛緩状態にある眼に関する脱焦の種々の値及び徴候についてのコントラストの測定及びシミュレーションは、正の(近視性の)脱焦が、弛緩状態にある近視眼が周辺網膜において典型的に被る遠視性脱焦よりも、網膜上におけるコントラストに対してより多くの損害をもたらすことを示している。これは、弛緩状態にある眼の脱焦と正の球面収差との間の相互作用の結果であると考えられている。この眼の球面収差は、脱焦の徴候を検出するための手掛かりをもたらし得ることが示唆されている(Wilson et al.、2002、J. Opt. Soc. Am. A 19(5)、833 -839)。さらに、遠近調節された近視眼の球面収差は、負となることが知られている(Collins et al.、1995、Vision Res. 35(9)、1157 -1163)。これは、遠方視とは対照的に、近方視時の像コントラストに対して非常に異なる遠視性脱焦効果をもたらすことにつながる。
【0017】
したがって、上述を鑑みると、国際公開第2007/041796号において提案されるような、度数が一定である比較的広い中央区域を形成する近視矯正用の既存の眼鏡用レンズは、近方視作業に関して近視を進行させる刺激を除去し得ないおそれがある。したがって、近方視作業の際に周辺遠視化を補償すると共に、比較的幅広の鏡径領域にわたって明瞭な遠方視を同時に実現する累進多焦点レンズを提供することが望ましい。
【0018】
本明細書における、本発明に対する背景のこの記述は、本発明の状況を説明するために含まれるものである。この記述は、参照した任意の題材が、公開済みである、公知である、又は、任意の特許請求の範囲の優先日の時点において一般的な知識の一部であることを自認するものとして解釈されるべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6,343,861号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/041796号
【特許文献3】国際公開第2008/031166号
【特許文献4】米国特許第5,704,692号明細書
【特許文献5】米国特許第4,954,591号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Ferree et al.、1931、Arch. Ophth. 5、717 -731
【非特許文献2】Hoogerheide et al.、1971、 Ophthalmologica 163、209 -215
【非特許文献3】Millodot 1981、Am. J. Optom. Physiol. Opt.、58、691 -695
【非特許文献4】Mutti et al.、2000、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 41:1022 -1030
【非特許文献5】Smith et al.、2005、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 46:3965-3972
【非特許文献6】Smith et al.、2007、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 48、3914 -3922
【非特許文献7】Hasebe et al.、2008、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 49(7)、2781 -2789
【非特許文献8】Yang et al.、2009、Ophthalmic Physiol. Opt. 29(1 )、41 -48
【非特許文献9】Gwiazda et al.、2003、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.、Vol.44、pp.1492-1500
【非特許文献10】Walker and Mutti(2002)、Optom. Vis. Sci.、Vol. 79、pp.424 -430
【非特許文献11】Rose et al.、2008、Ophthalmology、Vol.115、Issue 8、1279-1285
【非特許文献12】Guo et al.、(2008)、Vision Res. 48、1804-1811
【非特許文献13】Wilson et al.、2002、J. Opt. Soc. Am. A 19(5)、833 -839
【非特許文献14】Collins et al.、1995、Vision Res. 35(9)、1157 -1163
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、遠方視用の第1の度数をもたらす上方視区域と、第1の度数に対して加入度数をもたらす下方視区域と、加入度数に比べて相対的に正の度数を有する各区域を含む周辺領域とを備える、眼鏡レンズ部材を提供する。下方視区域及び上方視区域は、下方視区域が相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置するように、構成される。
【0022】
好ましくは、相対的に正の度数を有する区域及び下方視区域が組み合わされた水平範囲が、本又は雑誌などの近距離対象に対する対象視野の典型的な水平角度範囲に一致する。
【0023】
一態様においては、本発明は、
遠方視用の第1の度数をもたらす、遠方視基準点及び合わせ十字線を有する上方視区域と、
第1の度数に対して加入度数をもたらす、近方視用の下方視区域と、
上方視区域から下方視区域にかけて変化する度数を有する、上方区域と下方区域とをつなげる回廊区域と、
下方視区域の度数に対して正の度数をもたらすように、加入度数に相対的に正の度数を有する区域をそれぞれが含む、下方視区域の両側に配設される周辺領域と
を備え、
相対的に正の度数を有する区域が、下方視区域に直に隣接して配設されて、下方視区域が、相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置する、多焦点眼鏡レンズ部材を提供する。
【0024】
好ましくは、下方視区域は、低表面非点収差の比較的幅狭な区域である。これに関連して、下方視区域は、近方視基準点の下方に配設される0.5D非点収差等高線によって画定され得る。一実施例においては、下方視区域の最大水平範囲、したがって0.5D非点収差等高線間の最大距離は、約12mm未満である。
【0025】
加入度数(又は「Add」)は、典型的には所望の平均加入度値に関連して表される。0.50D〜3.00Dの範囲の平均加入度数が使用されてもよい。
【0026】
周辺領域における相対的に「正の度数」を有する区域はそれぞれ、第1の度数に対して相対的に正の度数差をもたらす。周辺領域内の相対的に「正の度数」を有する区域における度数と第1の度数との間の正の差は、下方視区域の加入度数よりも大きく、したがって加入度数に対して「正の度数」をもたらす。したがって、相対的に正の度数を有する区域は、下方視区域の加入度数よりも高い加入度数をもたらすものとして見なすこともできる。
【0027】
比較的幅狭な下方視区域を設けることにより、相対的に正の度数を有する各区域は、下方視区域を貫通して実質的に垂直方向に延在する中心線の比較的近傍に位置決めされ得るようになり、したがって、相対的に正の度数を有する区域及び下方視区域からなる比較的幅狭な組み合わされた水平範囲が形成される。好ましくは、相対的に正の度数を有する区域及び下方視区域からなる組み合わされた最大水平範囲は、約30mm未満である。
【0028】
本発明のいくつかの実施例は、近視作業の際に周辺遠視化を補償することができ、したがって近方視活動時に着用者に対して近視の進行を減速又は阻止させるための光学的矯正を与えることができる。
【0029】
いくつかの実施例においては、下方視区域は、近方視基準点を含んでもよい。近方視基準点(NRP)の位置は、レンズ部材の表面上のマーキングを用いて特定してもよい。しかし、レンズ部材がそのようなマーキングを備えることは、必須ではない。
【0030】
本発明の実施例は、近方視基準点の下方に配設された水平線に沿って水平方向又は横方向の平均加入度数分布(プロファイル)を示すことができ、前記線は、下方視区域と周辺領域とを超えて延在する。この平方向又は横方向の平均加入度数分布は、各周辺領域において各最大値を、及び下方視区域において局所的最小値を示し得る。好ましくは、各局所最小値は、水平線と、下方視区域に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の一連の水平中間点に合された線との交差部に位置する。水平中間点に対して線を合わせるために、少なくとも最小二乗タイプの近似法などの適切な近似法技術を伴ってもよい。他の適切な技術は、当業者には十分に理解されよう。この近似線は、実質的に垂直な線であってもよく、又は着用者の眼経路に位置合わせするように傾斜されてもよい。
【0031】
平均加入度数の各最大値は、約10mm〜約15mmだけ近似線から横方向に離隔されてもよい。
【0032】
第1の度数は、典型的には、着用者の遠方視要件に対する光学的矯正に対応する既定の度数である。したがって、本明細書の残りの部分に関して、「遠方視区域」への言及は、上方視区域への言及として理解すべきである。他方において、下方視区域の加入度数は、遠近調節の必要量を軽減させ、近方視作業の際に網膜に近いか又は網膜の前の周辺部中の像平面を変位させるように選択されてもよい。したがって、本明細書の残りの部分に関して、「近方視区域」への言及は、下方視区域への言及として理解すべきである。
【0033】
下方視区域は、近方視のために使用される可能性のある多焦点眼鏡レンズ部材の領域に位置決めされることとなる。下方視区域は、遠方視区域に対してレンズの鼻側の近くに挿し込まれてもよい。
【0034】
本発明の一実施例による多焦点眼鏡レンズ部材は、特に若年者による使用向けに設計されてもよい。なぜならば、若年者は、一般的に、近視野内の対象を見るための眼の遠近調節能力により近方視矯正を行う必要がないからである。例えば、若年者は、その遠方視区域を使用して、自身の遠近調節システムの補助により近距離対象を見ることが可能となり得る。しかし、加入度数を有する下方視区域を備えることにより、遠近調節必要量を低減させることにおいて若年者の着用者を支援することができ、したがって調節ラグにより近方視作業の際に中心窩及び傍中心窩上における中央ぼやけを低下させることができる。さらに、下方視区域に隣接する相対的に正のすなわち「プラス」の度数を有する区域を設けることにより、近距離対象が着用者の視野の比較的広い水平角度範囲を占め、したがって対象空間内に広がる、読書などの近方視作業の際に、直ぐ隣接する周辺視野における遠視性ぼやけを軽減させることができる。例として、例えば携帯電話画面は、一般的には、着用者の視野の広い水平角度範囲を占めず、したがって例えば本又は雑誌などと比較した場合に「対象空間内に広がら」ない。
【0035】
したがって、本発明の実施例は、先行の近視制御レンズよりもより効果的に、特に小児における近視の進行を減速又はさらには阻止することができる。
【0036】
この多焦点眼鏡レンズ部材の遠方視区域は、マイナスの規定度数を緩和するために比較的低めに使用されるように設計されてもよい。遠方視区域の度数は、着用者の要件に応じて異なってもよく、例えば度無し〜−6.00Dなどの範囲であってもよいことが理解されよう。これを目的として、マイナス規定に典型的な比較的平坦なベース・カーブのみならず、さらには周辺視覚におけるマイナスレンズ誘起遠視化を軽減させるいくつかの比較的急勾配のベース・カーブを含む、幅広いベース・カーブを使用することができる。例えば、0.50D〜9.00Dの範囲のベース・カーブを使用してもよい。
【0037】
周辺領域内の相対的に正の度数を有する区域の度数分布は、着用者が下方視区域を介して対象を見ている場合に、周辺視覚を矯正するための光学的矯正に寄与し得る。使用時には、この度数分布は、近視の進行を減速又は阻止する眼の望ましくない成長に対する「停止信号」の形態で、近視を減速又は阻止するための刺激を供給することができる。
【0038】
したがって、本発明の一実施例は、広範な眼の回転範囲にわたり着用者の軸上遠方視要件に対して適切な光学的矯正を与える、及び近方視作業に対する遠近調節必要量を低下させることもさらに可能な、その一方で同時に、他の場合であれば近方視時に眼が周辺網膜における遠視性ぼやけを常時被ることにより起こり得る近視の進行を減速又は阻止するための停止信号を供給する、多焦点眼鏡レンズ部材を提供する。
【0039】
一実施例においては、この停止信号は、主な近方視眼位置について網膜の周辺領域から遠視性ぼやけの大部分を除去するように、着用者の眼の多様な焦点面に対して補償を行い得る。したがって、本発明の一実施例による多焦点眼鏡レンズ部材の周辺領域内の相対的に正の度数を有する区域内に正の度数が分布することにより、望ましくない眼成長に対して停止信号を供給し、したがって網膜の周辺部における近視の減速又は阻止に至る、光学的矯正が実現されることとなることが予期される。
【0040】
本発明の一実施例よる多焦点眼鏡レンズ部材は、前方表面及び背部表面(すなわち眼に最も近い表面)を備える。前方表面及び背部表面は、上方視区域、下方視区域、及び回廊区域に対して適切な度数及び非点収差の等高線を与えるように形状設定されてもよい。
【0041】
このレンズの前方表面及び背部表面は、任意の適切な形状を有してもよい。一実施例においては、前方表面は、非球状表面であり、後方表面は、球状又は円環状である。別の実施例においては、前方表面は、球状表面であり、後方表面は、非球状である。
【0042】
さらに別の実施例においては、前方表面及び後方表面の両方が、非球状である。非球状表面は、例えば非円環状表面、多焦点表面、又はそれらの組合せなどを含んでもよいことが理解されよう。
【0043】
下方視区域の加入度数及び周辺領域における相対的に正の度数は、典型的には着用者の種々の光学的矯正要件に対応することとなる。特に、加入度数は、低い遠近調節必要量で着用者の近方視作業に対して明瞭な視覚(すなわち中心窩視覚)を与えるのに必要な軸上又は近軸の光学的矯正に対応する近方視度数を実現し、その一方で、下方視区域を介して近距離対象を見る場合に周辺度数が軸外光学的矯正をもたらし得るように、選択されることとなる。
【0044】
各周辺領域の正の平均度数は、着用者の周辺矯正要件を、すなわち着用者の周辺視覚の矯正に必要な光学的矯正を特徴づける臨床的測定に関連して表される光学的矯正要件に基づいて選択することができる。任意の適切な技術を用いて、周辺Rxデータ又は超音波A−Scanデータを含むがそれらに限定されない要件を求めることができる。かかるデータは、オープン・フィールド・オートリフラクタ(例えばShin−Nipponオープン・フィールド・オートリフラクタ)などの、当技術において公知のデバイスの使用を介して求められてもよい。
【0045】
上述のように、各周辺領域は、下方視区域の加入度数に対して正の度数をもたらし、したがって下方視区域の度数に対して高められた度数を有する区域をさらに成す区域を備える。したがって、各区域は、「プラス度数矯正」をもたらす相対的に正の度数を有する区域を成す。この正の度数、したがって「プラス度数矯正」は、加入度数に対して、したがって下方視区域の度数に対して、約0.50D〜2.50Dの範囲であってもよく、これは、通常は、レンズ部材の近方視基準点(NRP)における平均度数に関連して表されることとなる。
【0046】
上述のように、下方視区域は、好ましくは、比較的幅狭な区域である。一実施例においては、下方視区域は、着用者の近方視作業に対して眼回転範囲にわたり低表面非点収差範囲をもたらすような形状及び/又はサイズを有してもよい。換言すれば、近方視区域すなわち下方視区域は、眼回転角度範囲全体にわたって着用者の近方視要件を支援するように形状設定及び/又はサイズ設定されてもよい。
【0047】
遠方視区域の面積は、典型的には下方視区域の面積よりも広くなる。
【0048】
本発明の一実施例よる多焦点眼鏡レンズ部材は、任意の適切な材料から製造され得る。一実施例においては、ポリマー材料が使用されてもよい。ポリマー材料は、例えば熱可塑性材料又は熱硬化性材料を含み得る、任意の適切なタイプのものであってもよい。例えばCR−39(PPG Industries社)などのジアリルグリコールカーボネートタイプの材料を使用してもよい。
【0049】
このポリマー製品は、架橋可能なポリマー成形組成物から形成されてもよい。ポリマー材料は、ポリマー材料を生成するために使用されるモノマー生成物に例えば添加され得る、好ましくはフォトクロミック色素である色素を含んでもよい。
【0050】
本発明の一実施例による多焦点眼鏡レンズ部材は、エレクトロクロミック被覆材を含む標準的な追加の被覆を前方表面及び背部表面にさらに備えてもよい。
【0051】
前方レンズ表面は、例えば米国特許第5,704,692号明細書に記載されているタイプなどの非反射性(AR)被覆をさらに備えてもよい。該特許の全開示が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
前方レンズ表面は、例えば米国特許第4,954,591号明細書に記載されているタイプなどの耐摩耗性被覆をさらに備えてもよい。該特許の全開示が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
前方表面及び背部表面は、防止剤、例えば上述のようなサーモクロミック色素及びフォトクロミック色素を含む色素、分極剤、UV安定剤、並びに屈折率を変更し得る材料などの、成形組成物中において従来的に使用される1つ又は複数の添加物をさらに含んでもよい。
【0054】
本発明によるレンズ部材の好ましい一実施例は、下方視区域の度数に対して正の平均度数(すなわち「プラス度数矯正」)を有する区域を含む周辺領域を有する眼鏡レンズ部材を提供する。
【0055】
着用者が必要とするプラスの度数矯正のレベルは、Mutti等(2000)により発見された近視性周辺屈折における大きな散乱を所与とすると、多様となる。
【0056】
本発明による眼鏡レンズ部材は、近方視作業の際に中心視覚及び周辺視覚の両方を同時に及び大幅に矯正することができる。このタイプの矯正は、近視眼者、特に近視の若年者における近視の進行の推定される要因を取り除くか、又は少なくとも遅らせることが予期される。
【0057】
本発明の別の態様は、一対の多焦点眼鏡レンズ部材を担持する眼鏡を患者に対して提供することを含む、近視の進行を減速させるための方法であって、各レンズ部材が、
遠方視のための第1の度数をもたらす、遠方視基準点及び合わせ十字線を有する上方視区域と、
第1の度数に対して加入度数をもたらす、近方視のための下方視区域と、
上方視区域から下方視区域にかけて変化する度数を有する、上方区域と下方区域とをつなげる回廊区域と、
下方視区域の度数に対して正の度数をもたらすように、加入度数に対して正の度数を有する区域をそれぞれが含む、下方視区域の両側に配設される周辺領域と
を有する表面を備え、
相対的に正の度数を有する区域が、下方視区域に直に隣接して配設されて、下方視区域が、相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置する、方法を提供する。
【0058】
以下、添付の図面に示した様々な実例を参照として本発明を説明する。しかし、以下の説明は、上記の説明の普遍性を限定するものではない点を理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明の一実施例による眼鏡レンズ部材の概略図である。
図2】本発明の第1の実施例による眼鏡レンズ部材に関する表面非点収差の等高線図である。
図3図2の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数の等高線図である。
図4図2に示す眼経路に沿った図2の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図5図3に示す複数の水平線に沿った図2の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図6】本発明の第2の実施例による眼鏡レンズ部材に関する表面非点収差の等高線図である。
図7図6の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数の等高線図である。
図8図6に示す眼経路に沿った図6の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図9図7に示す複数の水平線に沿った図6の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図10】本発明の第3の実施例による眼鏡レンズ部材に関する表面非点収差の等高線図である。
図11図10の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数の等高線図である。
図12図10に示す眼経路に沿った図10の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図13図11に示す複数の水平線に沿った図10の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図14】本発明の第4の実施例による眼鏡レンズ部材に関する表面非点収差の等高線図である。
図15図14の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数の等高線図である。
図16図14に示す眼経路に沿った図14の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図17図15に示す複数の水平線に沿った図14の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入度数のグラフである。
図18】本発明の第5の実施例による眼鏡レンズ部材に関する表面非点収差の等高線図である。
図19図18の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入(脱線)度数の等高線図である。
図20図18に示す眼経路に沿った図18の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入(脱線)度数のグラフである。
図21図19に示す複数の水平線に沿った図18の眼鏡レンズ部材に関する平均表面加入(脱線)度数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明の実施例の説明に進む前に、上記において及び本明細書全体にわたって使用される言葉のいくつかに関して何らかの説明があってしかるべきである。
【0061】
例えば、本明細書において、「多焦点眼鏡レンズ部材」という用語への言及は、特定の患者に対して処方するためにさらなる仕上げを要するレンズ、レンズ・ウェーハ、及び半加工レンズ・ブランクを含むがそれらに限定されない、眼科技術において使用されるあらゆる形態の各屈折光学体への言及となる。
【0062】
さらに、「表面非点収差」という用語への言及に関しては、かかる言及は、レンズの曲率が、その表面上のある点においてレンズの表面に対して法線を成す交差し合う平面間において変化する度合いの測定値への言及として理解すべきである。表面非点収差は、任意のそれらの交差し合う平面中のレンズ表面の最小曲率と最大曲率との間の差に(n−1)を乗じたものに等しく、ここで、nは、基準屈折率である。
【0063】
「合わせ十字線」という用語への言及は、着用者の眼の前にレンズ部材を位置決めするための基準点として製造業者により規定された、レンズ部材又は半加工レンズ・ブランクの表面上のある点に位置するマーキングへの言及として理解すべきである。
【0064】
「遠方視基準点」(DRP)という用語への言及は、遠方視用の度数が施されるレンズの前方表面上のある点として理解すべきである。
【0065】
「近方視基準点」(NRP)という用語への言及は、所要の平均加入度数を測定することが可能な、多焦点レンズの前方表面上の眼経路に沿った「最高」点(すなわち、レンズの幾何学的中心の方向に最も垂直方向に変位された点)への言及として理解すべきである。NRPは、レンズの表面上のマーキングにより印をつけられるか又は指定されてもよい。しかし、そのような印づけ又は指定は必須ではない。
【0066】
「眼経路」という用語への言及は、レンズ部材が着用者に対して正確に設計された場合には、着用者が遠距離(遠視野)対象から近距離(近視野)対象へと固視を調節する際の鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の水平中間点軌跡と一般的に一致する、視覚固視軌跡への言及として理解すべきである。
【0067】
「下方視区域」という用語への言及は、近方視基準点の下方に位置する下方非点収差区域への言及として理解すべきである。典型的には、下方視区域は、近方視基準点の下方に位置する0.5D非点収差等高線により画定されることとなる。
【0068】
図1は、参照のために異なる区域同士を特定した、本発明の一実施例による眼鏡レンズ部材100の概略図を示す。図1は、0.5D非点収差等高線116、118を用いて眼鏡レンズ部材100のこのなる区域同士の相対位置を大まかに特定し示すことのみを目的とする程度に概略化されている。種々の区域の形状も、それらのサイズ及び正確な位置も、図1に示したものに制約される必要はないことを理解されたい。
【0069】
図1に示す眼鏡レンズ部材100は、着用者の遠方視作業に適した第1の度数を有する第1の視区域すなわち上方視区域102と、第1の度数に対して加入度数を加えた第2の視区域すなわち下方視区域104とを備える。遠方視基準点(DRP)が、上方視区域102内に設定される。近方視基準点(NRP)が、下方視区域104内に設定される。このレンズ部材は、合わせ十字線(FC)110と、幾何学的中心(GC)とをさらに備える。
【0070】
回廊区域106が、上方視区域102と下方視区域104とをつなぐ。この回廊区域106は、遠方視区域102から下方視区域104にかけて変化する度数を有する下方表面非点収差区域を形成する。本実例においては、回廊区域は、遠方視基準点(DRP)と近方視基準点(NRP)との間に広がる。線114(破線で示す)が、近方視基準点NRPから下方に延在する。本実例においては、線114は、下方視区域104に隣接する0.5D鼻側非点収差等高線116と0.5D側頭側非点収差等高線118との間の水平中間点に合された近似線である。本実例においては、線114は、垂線として示される。しかし、線114は、着用者の眼経路と一致するように傾斜されてもよい点を理解されたい。
【0071】
下方視区域104すなわち近方視区域104は、着用者の近方視作業に適するように位置決めされる。近方視基準点(NRP)における下方視区域104の加入度数は、この区域104を介して近距離対象を見る場合の遠近調節必要量を低下させ得る。したがって、下方視区域104は、近方視作業に対する遠近調節必要量を低下させ、周辺近方視における相対遠視化に対して一定量の補償をもたらし得る。
【0072】
図示した実施例においては、レンズ部材100は、下方視区域104の直ぐ隣に位置するように下方視区域104の両側に配設された周辺領域108をさらに備える。各周辺領域108は、下方視区域104の加入度数に対して正の度数を有する各区域120、122を備える。下方視区域104は、周辺領域108同士の間に、したがって相対的に正の度数を有する各区域120、122の間に位置する。
【0073】
相対的に正の度数を有する各区域120、122は、近視を減速又は阻止するための光学的矯正を着用者にもたらし、着用者の周辺近方視要件に対して適切である、平均加入度数分布を有する。相対的に正の度数を有する各区域120、122は、典型的には、下方視区域104の加入度数に対して低〜中の正の度数範囲を示す。相対的に正の度数を有する各区域120、122は、下方視区域104の直ぐ隣に配設される。
【0074】
上方視区域102、下方視区域104、及び回廊区域106は、典型的には、周辺領域108の表面非点収差に比べて比較的低い表面非点収差を有する。
【0075】
周辺領域108中の相対的に正の度数を有する区域120、122は、着用者の周辺視覚に光学的矯正をもたらすことにより、網膜の周辺領域に関連する近視を減速又は阻止するための刺激を与える。このような構成は、特に小児においては、従来の近視制御レンズよりも、近視の進行の減速又はさらには阻止において、より効果的なものとなり得る。
【0076】
周辺領域108中の相対的に正の度数を有する区域120、122における正の平均度数は、着用者の周辺矯正要件、すなわち着用者の周辺視覚を矯正するために必要な光学的矯正を特徴づける、臨床的測定に関連して表される光学的矯正要件に基づいて選択することができる。任意の適切な技術を利用して、周辺Rxデータ又は超音波A−Scanデータを含むがそれらに限定されない光学的矯正要件を求めることができる。かかるデータは、オープン・フィールド・オートリフラクタ(例えばShin−Nipponオープン・フィールド・オートリフラクタ)などの、当技術において公知のデバイスの使用を介して求めることができる。
【0077】
「実例1」
図2は、一実施例による眼鏡レンズ部材200の前方表面(すなわち、対象側表面)に関する表面非点収差の等高線図である。図3は、眼鏡レンズ部材200の前方表面に関する平均表面加入度数の等高線図である。
【0078】
図2及び図3を参照すると、眼鏡レンズ部材200は、ここでは部分円202の中心に位置するものとして示される遠方視基準点(DRP)にて測定された1.530屈折率において2.75Dのベース・カーブを有するように設計された。レンズ部材200の幾何学的中心(GC)は、点214に特定される。合わせ十字線(FC)は、マーキング206(ここでは十字線として示す)により指定される。半円208、近方視基準点(NRP)に中心が置かれる
【0079】
図2及び図3に示す眼鏡レンズ部材200は、遠方視基準点(DRP)が幾何学的中心(GC)214の約8mm上方に配置され、合わせ十字線(FC)206が幾何学的中心214の約4mm上方に配置された、前方表面多焦点多焦点レンズである。この等高線図の直径は、幾何学的中心214にて法線を成すレンズ前方表面に対して垂直な平面へと突出するレンズ前方表面上において60mmである。
【0080】
図2に示すように、0.5D非点収差等高線210、212が、上方視区域すなわち遠方視区域102、下方視区域すなわち近方視区域104、及び回廊区域106を含む低表面非点収差領域を画定する。眼鏡レンズ部材200は、比較的幅広な上方視区域102と、上方視区域102の下方に位置決めされ回廊区域106を介して上方視区域102につなげられた比較的幅狭な下方視区域104とを形成する。周辺領域108が、下方視区域104の両側に、及び下方視区域104に直に隣接して配設されて、下方視区域104は、相対的に正の度数を有する区域同士の間に位置する。以下において説明するように、各周辺領域108は、加入度数に対する正の度数を有する区域を含む。
【0081】
眼鏡レンズ部材200は、幾何学的中心214(GC)の下方の約9mmの距離から開始する下方視区域104において、+1.00Dの公称加入度数を実現する。近方視基準点(NRP)は、幾何学中心214(GC)、合わせ十字線(FC)、及び遠方視基準点(DRP)に対して鼻側に約2.1mmだけ水平方向に差し込まれる。
【0082】
図4は、図2に示す非点収差等高線図上のほぼ垂直な線216により印をつけられた眼経路に沿った前方表面加入平均度数のグラフである。本実例においては、線216が、下方視区域104に隣接する0.5D非点収差等高線210、212間の水平中間点に合わせられた線である。遠方視基準点(DRP)の上方及び近方視基準点(NRP)の下方の平均加入度数は、一定ではなく、レンズ後頂点が眼の回転中心から27mmに位置し、FCにおける水平傾斜角度が0°に等しいが、合わせ十字線におけるレンズ装用時傾斜角度が垂直平面に対して7°であり、+1.00D加入度を有する−2.50Dの規定に対して、それらの区域において安定的な光学透過度数を確保するようになっていることに留意されたい。
【0083】
図5は、下方視区域104を貫通して延在する線216のセクションの両側に20mmにわたって延在する、したがってレンズ部材200の下方視区域104及び周辺領域108を超えて延在する、図3に示す(破線で示す)一連の6つの直線水平線218−1、218−2、218−3、218−4、218−5、218−6に関する水平前方表面平均加入度数分布を示す。
【0084】
図5に示すように、各線218−1、218−2、218−3、218−4、218−5、218−6(図5を参照)に沿って、眼鏡レンズ部材200は、各周辺領域108における各最大値と、ほぼ線216の上に位置する(X=2.1mmで)局所的最小値とを含む、各平均加入度数分布を示す。各平均加入度数分布は、局所的最小値から各最大値にかけて、単調な値の増加を示す。
【0085】
この実例においては、一連の直線水平線218−1、218−2、218−3、218−4、218−5、218−6は、近方視基準点(NRP)の下方に位置するが、近方視基準点(NRP)に交差し、下方視区域104及び周辺領域108を超えて延在する水平線に沿って、同様の平均加入度数分布を実現させ得ることが可能であり、この実例においては、局所的最小値は、近方視基準点(NRP)のに位置することとなる。
【0086】
これらの一連の直線は、幾何学的中心(GC)の下方の10mm(218−1)、11mm(218−2)、12mm(218−3)、13mm(218−4)、14mm(218−5)、及び15mm(218−6)の位置に垂直方向に配置され、すなわち、線218−6は、レンズ部材200の遠方視基準点(DRP)の下方の23mmの位置に配置される。
【0087】
図5に示すように、これらの各水平平均加入度数分布は、幾何学的中心(GC)の下方の−10mm〜−15mmの間の距離(Y)の位置にて、側頭側及び鼻側の両方において、平均加入度数の上昇を示す。さらに、図3からは、周辺平均度数のこの傾向が、眼鏡レンズ部材200の底部にまで及ぶものであることが明らかである。
【0088】
この範囲の比較的高い端部(すなわち、Y=−10mm、218−1に相当)では、平均加入度数は、線218−1と眼経路を示す近似線216(図2を参照)の交差部から約11mmの水平方向距離の位置にて(線216により示す眼経路上の対応する度数に対して)約0.5Dだけ上昇し、この範囲の下方端部(すなわち、Y=−15mm、線218−6に相当)では、平均加入度数は、線218−6と眼経路を示す近似線216(図2を参照)との交差部から約14mmの水平方向距離の位置にて(線216により示す眼経路上の対応する度数に対して)最大で1.25Dだけ上昇する。本実例においては、平均加入度数の各最大値は、約22mm(線218−1)〜約27mm(線218−6)の間で横方向に離隔される。
【0089】
「実例2」
図6は、本発明の第2の実施例による眼鏡レンズ部材300の前方表面(すなわち対象側表面)に関する表面非点収差の等高線図である。図7は、図6に示す眼鏡レンズ部材300の前方表面に関する平均表面加入度数の等高線図である。
【0090】
図6及び図7に示す眼鏡レンズ部材300もまた、幾何学的中心(GC)に対する主要基準点(DRP、FC、及びNRP)の位置が上述の実例の眼鏡レンズ部材200と同一である、前方表面多焦点レンズである。
【0091】
眼鏡レンズ部材300は、遠方視基準点(DRP)にて、同一の2.75Dのベース・カーブ(1.530屈折率において)をやはり有する。したがって、図6及び図7を参照すると、眼鏡レンズ部材300が、図2及び図3を参照として説明した眼鏡用レンズ200とほぼ同様であることが明らかである。例えば、眼鏡レンズ部材200及び眼鏡レンズ部材300はそれぞれ、比較的短い回廊区域106と、DRP304の上方の上方視区域102及びNRP306の下方の下方視区域104の非球面化と、下方視区域104に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線210/212間の水平中間点に合わせられた線302から横方向に上昇する平均表面度数とを含む。この実例においては、下方視区域104の加入度数は、約+1.00Dである。しかし、眼鏡レンズ部材300の下方視区域104は、眼鏡レンズ部材200の下方視区域104よりも幅狭であり、図9の線308−6に沿った相対的に正のすなわち「プラス」の度数からなるピーク同士の間の水平方向距離は、約22mmである。
【0092】
図8は、図6に示す非点収差等高線図上におけるほぼ垂直な線302により印をつけられた眼経路に沿った前方表面加入平均度数のグラフである。
【0093】
図9は、下方視区域104を貫通して延在する線302のセクションの両側に20mmにわたって延在する、したがってレンズ部材300の下方視区域104及び周辺領域108を超えて延在する、図7に示す(破線で示す)一連の6つの直線水平線308−1、308−2、308−3、308−4、308−5、308−6に関する水平前方表面平均加入度数分布を示す。これらの一連の直線は、幾何学的中心(GC)の下方の10mm(308−1)、11mm(308−2)、12mm(308−3)、13mm(308−4)、14mm(308−5)、及び15mm(308−6)の位置に垂直方向に配置され、すなわち、線308−6は、レンズ部材300の遠方視基準点(DRP)の下方の23mmの位置に配置される。
【0094】
下方視区域の幅の違いの他に、及び次に図8及び図9を参照すると、初めの方で説明した実例とのさらなる違いには、下方視区域104の垂直中間点302から横方向へ向かう相対的にプラスの度数の度合い又は値が含まれる。例えば、図9に示すように、Y=−10mmの高さでは(図7、線308−1を参照)、周辺領域108における最大の相対的にプラスの度数は、線302により示す眼経路から約9mmの位置にて横方向に生じ、0.5Dの値を有する。Y=−15mmにおける範囲の下方端部では(図7、線308−6を参照)、相対的に正の度数の値は、約+1.1Dであり、眼経路から約11mmの位置にて生ずる。
【0095】
したがって、眼鏡レンズ部材300は、前記の実例と同一の加入度数を有するが、周辺近方視が遠視化を補償される「より狭い」区域を備える。換言すれば、各周辺領域108における加入度数分布(図9を参照)の最大値同士の間の横方向の離隔が、レンズ部材200に関する加入度数分布(図5を参照)の対応する最大値同士の間の横方向の離隔に比べて縮小される。例えば、レンズ部材300においては、幾何学的中心(GC)の下方の15mm(図3、線308−6を参照)において、平均加入度数の各最大値同士の間の横方向の離隔は、約22mmである(図9、線308−6の分布を参照)のに対して、レンズ部材200に関する平均加入度数の対応する各最大値は、約27mmだけ横方向に離隔される(図5、分布218−6を参照)。眼鏡レンズ部材200及び眼鏡レンズ部材300は共に、1.6屈折率材料において公称加入度数を実現するように設計される。
【0096】
「実例3」
図10は、本発明の第3の実施例による眼鏡レンズ部材400の前方表面(すなわち対象側表面)に関する表面非点収差の等高線図である。図11は、図6に示す眼鏡レンズ部材400の前方表面に関する平均表面加入度数の等高線図である。
【0097】
図10及び図11に示す眼鏡レンズ部材400もまた、幾何学的中心(GC)に対する主要基準点(DRP、FC、及びNRP)の位置が上述の実例の眼鏡レンズ部材200と同一である、前方表面多焦点レンズである。
【0098】
眼鏡レンズ部材400は、遠方視基準点402(DRP)にて、同一の2.75Dのベース・カーブ(1.530屈折率において)をやはり有する。したがって、図10及び図11を参照すると、眼鏡レンズ部材400が、図2及び図3を参照として説明した眼鏡用レンズ200とほぼ同様であることが明らかである。例えば、眼鏡レンズ部材200及び眼鏡レンズ部材400はそれぞれ、比較的短い回廊区域106と、DRP402の上方の上方視区域102及びNRP404の下方の下方視区域104の非球面化と、下方視区域104に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線210/212間の水平中間点に合わせられた線406から横方向に上昇する平均表面度数とを含む。しかし、この実例においては、下方視区域104の加入度数は、約+1.50Dである。
【0099】
図12は、図10に示す非点収差の等高線図上においてほぼ垂直な線406により印をつけられた眼経路に沿った前方表面加入平均度数のグラフである。
【0100】
図13は、下方視区域104を貫通して延在する線406のセクションの両側に20mmにわたって延在する、したがってレンズ部材400の下方視区域104及び周辺領域108を超えて延在する、図11に示す(破線で示す)一連の6つの直線水平線408−1、408−2、408−3、408−4、408−5、408−6に関する水平前方表面平均加入度数分布を示す。これらの一連の直線は、幾何学的中心(GC)の下方の10mm(408−1)、11mm(408−2)、12mm(408−3)、13mm(408−4)、14mm(408−5)、及び15mm(408−6)の位置に垂直方向に配置され、すなわち、線408−6は、レンズ部材400の遠方視基準点(DRP)の下方の23mmの位置に配置される。
【0101】
加入度数における違いの他に、及び次に図12及び図13を参照すると、前述の実例とのさらなる違いには、下方視区域104の垂直中間点406から横方向へ向かう相対的にプラスの度数の度合い又は値が含まれる。例えば、図9に示すように、Y=−10mmの高さでは(図13、線408−1を参照)、周辺領域108における最大の相対的にプラスの度数は、眼経路から約10mmの位置にて横方向に生じ、0.5Dの値を有する。Y=−15mmにおける範囲の下方端部では(図13、線408−2を参照)、相対的に正の度数の値は、約+1.1Dであり、眼経路から約10mmの位置にて生ずる。
【0102】
したがって、眼鏡レンズ部材400は、2つの前述の実例よりも相対的に高い加入度数と、実例1に比べて周辺近方視が遠視化を補償される「より狭い」区域とを有する。この実例においては、図13に示すように、線408−6に沿ったピークの相対的に正のすなわち「プラス」の度数の位置同士の間の横方向の離隔が、実例1における対応する線218−6(図5を参照)に沿った27mmに比べて、約21mmとなる。加入度数は、実例1における1.0Dに比べて、1.5Dとなる。眼鏡レンズ部材200及び眼鏡レンズ部材400は共に、1.6屈折率材料において公称加入度数を実現するように設計される。
【0103】
「実例4」
図14は、本発明の第4の実施例による眼鏡レンズ部材500の前方表面(すなわち対象側表面)に関する表面非点収差の等高線図である。図15は、図14に示す眼鏡レンズ部材500の前方表面に関する平均表面加入度数の等高線図である。
【0104】
図14及び図15に示す眼鏡レンズ部材500は、短い回廊区域長(DRP−NRP間が17mm、FC−NRP間が13mm)を有する前方表面多焦点レンズである。眼鏡レンズ部材500は、前述の実例と同一の2.75Dのベース・カーブを1.530屈折率においてやはり有する。しかし、図14及び図15に示す眼鏡レンズ部材500は、1.6の材料屈折率において+2.0Dの加入度数を実現する。
【0105】
図16は、図10に示す非点収差の等高線図上においてほぼ垂直な線506により印をつけられた眼経路に沿った前方表面加入平均度数のグラフである。
【0106】
図17は、下方視区域104を貫通して延在する線506のセクションの両側に20mmにわたって延在する、したがってレンズ部材500の下方視区域104及び周辺領域108を超えて延在する、図15に示す(破線で示す)一連の6つの直線水平線508−1、508−2、508−3、508−4、508−5、508−6に関する水平前方表面平均加入度数分布を示す。これらの一連の直線は、幾何学的中心(GC)の下方の10mm(508−1)、11mm(508−2)、12mm(508−3)、13mm(508−4)、14mm(508−5)、及び15mm(508−6)の位置に垂直方向に配置され、すなわち、線508−6は、レンズ部材500の遠方視基準点(DRP)の下方の23mmの位置に配置される。
【0107】
図17に示すように、周辺領域108における相対的に正の度数の最大値、したがってこの眼鏡レンズ部材500の周辺近方視の正度数補償は、Y=−15mm(図15、線508−2を参照)にて鼻側及び側頭側の両方において最大で約+1.5Dに達し、下方視区域104に隣接する鼻側及び側頭側の0.5D非点収差等高線間の水平中間点に合わせられた実質的に垂直な線506の両側に約13mm〜14mmにまで広がる。
【0108】
「実例5」
上記の実例において説明した眼鏡レンズ部材は、レンズ部材の前方部(すなわち対象側)に累進度数表面の形態の複雑な表面と、レンズ部材の後方部(すなわち対象側)に球状表面の形態の単純な表面とを有する、累進多焦点レンズである。しかし、本発明の他の実施例が、レンズ部材の背部(すなわち眼側)に累進度数表面を有する多焦点多焦点レンズ部材を形成することもまた可能である。或いは、本発明の他の実施例による光学レンズ部材は、前方表面と背部表面との間に度数累進分割部を形成し、これらの両表面が累進度数の付与に寄与する、累進多焦点レンズ部材を含んでもよい。
【0109】
図18は、本発明の第5の実施例による眼鏡レンズ部材600の背部表面(すなわち眼側表面)に関する表面非点収差の等高線図である。
【0110】
図19は、図18に示す眼鏡レンズ部材600の背部表面に関する平均表面加入度数の等高線図である。レンズ部材600においては、累進表面は、レンズ部材600の背部(眼側)表面に配設されるが、前方表面は球状である。
【0111】
図20は、図18に示す非点収差の等高線図上においてほぼ垂直な線606により印をつけられた眼経路に沿った背部表面加入(脱線)平均度数のグラフである。
【0112】
図21は、下方視区域104を貫通して延在する線606のセクションの両側に20mmにわたって延在する、したがってレンズ部材600の下方視区域104及び周辺領域108を超えて延在する、図19に示す(破線で示す)一連の6つの直線水平線608−1、608−2、608−3、608−4、608−5、608−6に関する水平背部表面平均加入(脱線)度数分布を示す。これらの一連の直線は、幾何学的中心(GC)の下方の10mm(608−1)、11mm(608−2)、12mm(608−3)、13mm(608−4)、14mm(608−5)、及び15mm(608−6)の位置に垂直方向に配置され、すなわち、線608−6は、レンズ部材600の遠方視基準点(DRP)の下方の23mmの位置に配置される。
【0113】
レンズ部材600は、複雑な表面(すなわち累進補油面)及び単純な表面(すなわち球状表面)の位置が逆である点を除いては、少なくともその光学的特徴に関しては、実例2に関連して説明したレンズ部材300(図6を参照)と実質的に同様である。レンズ部材300(図6を参照)及びレンズ部材600によりもたらされる光学的効果が、実質的に同一であるため、レンズ部材600及びレンズ部材300は、装用時位置においては、着用者にとって事実上区別のつかないものとなり得て、実質的に同一の累進度数及び相対周辺プラス度数をそれぞれ実現する。
【0114】
この実例においては、眼鏡レンズ部材600は、遠方視基準点602(DRP)にて3.00Dの背部表面カーブを有する。図20において分かるように、この眼鏡用レンズの下方視区域104は、レンズ部材600の背部(眼側)表面に度数脱線部を有する。かかる度数脱線部は、球状前方表面及び複雑な脱線背部表面を有するレンズ部材600を介して見た場合に、加入度数をもたらす。
【0115】
図21に示すように、下方視区域104における加入度数及びこのレンズの下方視区域104に隣接する周辺領域108における相対的に正のすなわち「プラス」の度数は、レンズ部材300(図6を参照)により実現される度数と実質的に同様であるが、異なる表面構成により実現される。例えば、背部表面の下方視区域104に隣接する周辺領域108は、レンズ部材の背部(眼側)表面に相対的にマイナスの表面を呈する。
【0116】
本発明の実施例は、近方視作業の際に周辺遠視化を矯正し、したがって近視の進行を低下又は防ぐ、周辺近方視プラス度数補償をもたらすことができる。
【0117】
多焦点眼鏡レンズ部材に関連して上記の実施例を説明したが、本発明は、二重焦点レンズ部材などの多の形態の多焦点レンズ部材にも適用可能となり得る点が理解されよう。本明細書において説明される構成に対する他の変形及び修正もまた、本発明の特許請求の範囲内にやはり含まれ得ることが理解されよう。
図1
図2
図3
図6
図7
図10
図11
図14
図15
図18
図19
図4
図5
図8
図9
図12
図13
図16
図17
図20
図21