(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融めっき浴から引き上げられる鋼板を挟んで、両側に前記鋼板の板面に向かってそれぞれ配置された一対のワイピングノズルから、ワイピングガスを前記鋼板に吹き付けるワイピング装置であって、
前記一対のワイピングノズル間の前記鋼板の幅方向の両側に、前記鋼板と平行にそれぞれ配置され、エアーを吸引する吸込口が前記鋼板の側端面に向かって配置され、断面形状が前記鋼板の引き上げ方向に幅広である吸引管を備え、
前記吸引管は、断面の短辺に対する長辺の比が1.2〜10である
ことを特徴とするワイピング装置。
【背景技術】
【0002】
図14は、連続式溶融めっき装置の概要を示す断面図である。
図14に示すように、連続式の溶融めっき装置11では、鋼板Pをスナウト13から溶融めっき浴12に浸漬することで、鋼板Pに溶融金属をめっきし、シンクロール14を介して引き上げ、ワイピングノズル15によるガスワイピングを行うことでめっきを行う。
【0003】
ワイピングノズル15によるガスワイピングは、鋼板P表面に付着した溶融金属が板幅方向および板長手方向に均一なめっき厚となるように、鋼板Pを挟んで両側に配置されたワイピングノズル15からワイピングガスを吹き付けることにより、過剰な溶融金属を払拭し、溶融金属の付着量を制御するものである。ワイピングノズル15は、鋼板Pの幅方向に延設されたスリットからワイピングガスを噴出するものであり、このスリットは、多様な鋼板Pの幅に対応するため、鋼板Pの幅よりも長く、すなわち鋼板Pのエッジ部より外側まで延びている。
【0004】
このようなワイピングノズル15から吹き付けられたワイピングガスは、高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下方向に分離されることで、過剰な溶融金属が上下方向に払拭され、均一なめっき厚を実現しようとするものである。ところが、鋼板Pのエッジ部については、このエッジ部に衝突する噴流が横方向に逃げてしまうため、噴流の衝突力が減少してエッジ部のめっき厚がセンター部に比べて厚くなる、いわゆるエッジオーバーコートが発生する。また、エッジ部に衝突した噴流の乱れによって溶融金属が周囲に飛び散る、いわゆるスプラッシュが発生して鋼板表面に付着することにより、鋼板Pの表面品質の低下を招く。
【0005】
このような問題を解決する試みとして、例えば特許文献1に記載のように、主に付着金属の厚さを制御するガスを噴射する主ノズルに、主ノズルから噴射されるガスの噴射方向に対して傾斜した、主ノズルから噴射するガスよりも低速のガスを噴射する副ノズルを設け、副ノズルからの低速の噴流によって主ノズルから噴射される噴流の拡散を防止することが提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、鋼板の幅方向の両側に、鋼板と平行にエッジプレート(0.5mm厚、755mm幅)を配設し、エッジプレートを鋼板の側端面から適宜間隔を隔てること、エッジプレートの鋼板の側端面に対向する部分に帯板を取り付けることで、エッジプレート側のガスと鋼板側のガスとが衝突しないようにし、ガスの乱流を発生させないようにして、エッジオーバーコートを防止することが提案されている。また、特許文献3では、鋼板の側端面に対向して吸引用ノズルを設け、エアー圧を利用することで、余分の溶融金属を除去する装置が提案されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態におけるワイピング装置の縦断面図である。
【
図2】
図1の鋼板のエッジ部のA−A矢視図である。
【
図3A】鋼板の幅方向のセンター部の断面図である。
【
図3C】吸引管が無い場合の
図2のB−B矢視図である。
【
図4A】鋼板のエッジ部におけるワイピングガスの衝突ガス圧力変動のグラフを示す図である。
【
図4B】鋼板のエッジ部におけるワイピングガスの衝突ガス圧力変動を測定する装置の概略図である。
【
図4C】鋼板のエッジ部におけるワイピングガスの衝突ガス圧力変動を測定する装置の配置図である。
【
図5A】鋼板の幅方向におけるワイピングガスの衝突ガス圧力分布のグラフを示す図である。
【
図5B】鋼板の幅方向におけるワイピングガスの衝突ガス圧力分布を測定する装置の配置図である。
【
図7A】鋼板のエッジ部におけるガス流れの概念図である(吸引管有無)。
【
図7B】鋼板のエッジ部におけるガス流れの概念図である(圧力低下が大きい場合)。
【
図7C】鋼板のエッジ部におけるガス流れの概念図である(エッジプレート有無)。
【
図8A】鋼板のエッジ部におけるスプラッシュ飛散角度θの概略図である。
【
図8B】衝突ガス圧力比(Pe/Pc)とスプラッシュ飛散角度θの関係図である。
【
図9】エッジプレートを使用した場合の、エッジプレートと鋼板のエッジ部との距離と、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)およびスプラッシュ飛散角度θとの関係を示す図である。
【
図10】吸引管を使用した場合の、吸引管と鋼板のエッジ部との距離と、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)およびスプラッシュ飛散角度θとの関係を示す図である。
【
図11】本実施形態における吸引管と従来のエッジプレートについて、各整流化装置と鋼板のエッジ部との距離における、鋼板のセンター部に対するエッジ部の衝突ガス圧力比(Pe/Pc)と装置へのスプラッシュの付着量(g/Hr)との関係を示す図である。
【
図12A】変形例に係る吸引管の断面形状を示す図である。
【
図12B】変形例に係る吸引管の断面形状を示す図である。
【
図12C】変形例に係る吸引管の断面形状を示す図である。
【
図12D】変形例に係る吸引管の断面形状を示す図である。
【
図13】吸引管の長辺長さと衝突ガス圧力比(Pe/Pc)及び、スプラッシュ付着量との関係を示す図である。
【
図14】連続式溶融めっき装置の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態におけるワイピング装置1の縦断面図である。
図2は、
図1の鋼板Pのエッジ部のA−A矢視図である。
【0024】
図1および
図2に示すように、本発明の実施形態におけるワイピング装置1は、前述の
図14に示すような連続式の溶融めっき装置11に備えられるものである。そして、溶融めっき浴12から引き上げられる鋼板Pを挟んで両側に、それぞれ配置された一対のワイピングノズル2a,2bと、一対のワイピングノズル2a,2b間の鋼板Pの幅方向の両側に、鋼板Pと平行にそれぞれ配置された吸引管3とを備える。
【0025】
ワイピングノズル2a,2bは、鋼板Pの板面に向かって鋼板の幅方向に延設された直線状のスリット4a,4bからそれぞれワイピングガスGを噴出するノズルである。このスリット4a,4bは、多様な鋼板Pの幅に対応するため、
図2に示すように、鋼板Pの幅よりも長く形成されており、鋼板Pのエッジ部Eより外側まで延びている。ワイピングノズル2a,2bから鋼板Pの板面に吹き付けられたワイピングガスGは、高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下方向に分離され、過剰な溶融金属を払拭する。
【0026】
吸引管3は、エアーを吸引する吸引口3aが鋼板Pの側端面に向かって配置された断面形状が楕円形(oval)の管である。吸引管3は、その楕円形断面の長辺が鋼板Pの引き上げ方向Dとなるように配置されている。また、吸引管3の途中には、吸引管3をエゼクタとして作動させるための駆動ガスgを供給する供給管3bが設けられている。この供給管3bに高圧の駆動ガスgを送り込むことにより、吸引管3aから鋼板Pのエッジ部E周辺のエアーが吸引される。
【0027】
図3A、
図3B、
図3Cは、ワイピングノズル2a,2bから噴出されたワイピングガスGの流れを可視化した図である。
図3Aは、鋼板Pの幅方向のセンター部Cの断面図である。
図3Bは、
図2のB−B矢視図である。
図3Aに示すように、鋼板Pの幅方向のセンター部Cにおいて、鋼板Pに衝突したワイピングガスGは上下に均一に分配される。一方、
図3Bに示すように、吸引管3に衝突したワイピングガスGは、上下に分離された後、楕円形断面の吸引管3の外側の凸形状に沿って上下に導かれ、整流されるので、幅方向センター部Cと同様に鋼板Pが存在するかのように吸引管3の中心がワイピングガスGの衝突点となり、安定した流れが形成される。なお、吸引管3が存在しない場合には、一対のワイピングノズル2a,2bから噴出されたワイピングガスG同士が直接衝突する。この場合は、
図3A、
図3Bの場合のように固体(鋼板Pあるいは吸引管3)によって気体の流れが規定されないため、各空間点ごとのガス流れのわずかな揺らぎが全て反映されて、ワイピングガス同士の衝突点が決定される。そのため
図3Cに示すようにワイピングガスGの衝突点が一点に固定されずに、位置が変動するため、その周辺は複雑な乱流となる。
【0028】
上記構成のワイピング装置1によれば、ワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスGが高速噴流として鋼板Pに衝突した後に上下に分離されることで、過剰な溶融金属が上下方向に払拭され、板幅方向の圧力分布が均一化されることにより均一なめっき厚が実現される。このとき、鋼板Pの幅方向の外側にワイピングノズル2a,2bから吹き付けられたワイピングガスGは、前述のように吸引管3の外側の凸形状に沿って上下に導かれ、整流されるので、鋼板Pの外側でワイピングガスG同士が直接衝突することによる乱流の発生が防止される。
【0029】
また、このワイピング装置1では、上記の効果に加え、鋼板Pの側端面に向かって配置された吸引管3の吸引口3aからのエアーの吸引によって、鋼板Pのエッジ部Eから吸引管3の間に形成されるワイピングガスGの衝突点の変動が抑制され、ガス圧力低下が抑制されることで鋼板Pのエッジ部Eから横方向に逃げるワイピングガスGが減少する。これにより鋼板Pのエッジ部EにおけるワイピングガスGの噴流の衝突力の低下も抑制される。
【0030】
次に、本実施形態におけるワイピング装置1の吸引管3によるエッジオーバーコートおよびスプラッシュSの防止効果について確認試験を行った。ワイピング条件は、ワイピングノズル2a、2bと鋼板Pとの距離d1が8mmで、ワイピングノズル2a、2bからのガス量が各々700Nm
3/Hrである。吸引管条件は、鋼板Pのエッジ部Eと吸引管3との距離d2が5mmであり、長辺25mm、短辺15mmの楕円形状の吸引管3と、直径15mmの円形状の吸引管103を使用した。圧力計A(岡野製作所ディジタル圧力計を使用)により、衝突ガス圧力を測定した。
図4Aの測定は、鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点F(
図4C参照)で実施した。
図4Aに示すように、本実施形態におけるワイピング装置1において、鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点Fの平均衝突ガス圧力は、センター部Cの圧力に近く、吸引管3が無い場合、また断面形状が円形の吸引管103を使用した場合よりも大きい。また、圧力変動も小さくなっており、吸引管3による整流効果が発揮されていると考えられる。
【0031】
図5Aに示すように、本実施形態におけるワイピング装置1では、楕円形状の吸引管3を設けることにより、吸引管無し、あるいは円形の吸引管103を使用した場合よりも、鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点Fでの圧力降下が抑制されている。
【0032】
以上のように、本実施形態におけるワイピング装置1において、吸引管3によって鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点Fの衝突ガス平均圧力は、センター部Cの圧力に近い圧力となり、圧力変動も小さく、鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点Fの圧力降下も抑制されるため、鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点Fにおいてセンター部Cと同様のワイピング効果が得られ、エッジオーバーコートを防止することが可能となる。
【0033】
次に、本実施形態におけるワイピング装置1によるスプラッシュS防止効果について詳述する(
図6)。ワイピングガスGによって払拭された溶融金属のスプラッシュSの発生条件については、様々な液体を使用した相似実験により定量化されている。一つの考え方として溶融金属のスプラッシュSは、ワイピングガスGによる慣性力(ρ・δ
02・Ug
2)と溶融金属に働く表面張力(σ/δ
0)に関係がある(但し、ρ:密度、δ
0:ストリップによる持ち上げ液膜、Ug:ワイピングガス速度、σ:溶融金属の表面張力)。
【0034】
本実施形態におけるワイピング装置1では、
図4Aおよび
図5Aに示すようにエッジ部Eの衝突ガス平均圧力を増加させることになる。しかし、前述のように吸引管3の形状および吸引口3aからのエアーの吸引によって、エッジ部EのワイピングガスGの流れを整流化し、鋼板Pの外側から鋼板Pの上下方向へ改善することによって、スプラッシュSが鋼板Pの外側へ飛散することを防止している。
【0035】
ワイピングガスGは、鋼板Pに衝突すると上下方向に分配されるが、従来のワイピング装置1において、鋼板Pのエッジ部Eの外側では衝突点が変動するためにガスが持つ運動エネルギーが減少し、衝突ガス平均圧力が低下する。このように鋼板Pのエッジ部Eから鋼板Pのセンター部Cへ3mm内側の点Fの衝突ガス圧力が低下する結果、鋼板Pのエッジ部Eのガス圧力差が発生し、この圧力差によって鋼板Pのエッジ部Eに衝突したガスは外側に流れることになる。
図7Bに示すように、鋼板Pのエッジ部Eの外側のガス流れの乱れが大きいほど、圧力勾配が大きくなり、鋼板外側へのガス流れが大きくなる。この場合、ワイピングガスGにより発生したスプラッシュSは、鋼板Pのエッジ部Eに飛散することになる。
【0036】
また、
図7Cに示すように、鋼板Pのエッジ部Eの外側にエッジプレートB等の整流板を設置した場合、整流化効果によりエッジ部Eの圧力低下が抑制され、その結果、横方向へのスプラッシュSの飛散は抑制される。しかし、エッジプレートBは、鋼板Pのエッジ部Eに近接して設置する必要があるため、スプラッシュSが付着して堆積し、鋼板Pのエッジ部Eの擦り疵発生の原因となる。一方、
図7Aに示すように、本実施形態におけるワイピング装置1では、吸引管3の供給管3bへ駆動ガスgを供給して、吸引口3aからエアーを吸引することで、鋼板Pのエッジ部Eとの距離を大きくしても、エッジ部Eの外側のワイピングガスGの衝突を安定化し、エッジ部Eの圧力低下を抑制することができる。
【0037】
次に、吸引管3やエッジプレートB等による整流化効果を示す指標として、鋼板Pのセンター部Cに対するエッジ部Eの衝突ガス圧力比(Pe/Pc)を定義し、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)とスプラッシュ飛散角度θとの関係について実験的に調査を行った(Pe:鋼板Pのエッジ部Eの衝突ガス圧力、Pc:鋼板Pのセンター部Cの衝突ガス圧力)。衝突ガス圧力比(Pe/Pc)は、吸引管3の断面形状、吸引管エアー供給量を変更して調整した。
図8Bからエッジ部Eのガス圧力が低下する程、横方向のスプラッシュS飛散が多くなることが分かる。したがって、鋼板Pのエッジ部Eと整流化装置との距離が小さいと、スプラッシュSの付着量が多くなることが考えられる。そこで、整流化の指標として、鋼板Pのセンター部Cに対するエッジ部Eの衝突ガス圧力比(Pe/Pc)を用いることとした。
【0038】
図9および
図10に、それぞれエッジプレートBおよび吸引管3の設置位置と、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)およびスプラッシュ飛散角度θとの関係を整理した。
図9に示すように、エッジプレートBの場合、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)が0.8未満では、エッジオーバーコートが発生したため、エッジオーバーコート対策のために衝突ガス圧力比(Pe/Pc)は0.8以上必要である。また、エッジプレートBと鋼板Pのエッジ部Eとの距離は、6mm以内を確保する必要がある。しかしながら、この場合、スプラッシュ飛散角度θは10°程度であるが、エッジプレートBが鋼板Pのエッジ部Eに近接している。そして、エッジプレートBと鋼板Pのエッジ部Eとの距離が7mm以下において、スプラッシュSが付着し、長期間での操業は困難であることが判明した。
【0039】
一方、本実施形態における吸引管3を使用した場合は、
図10に示すように吸引管3と鋼板Pのエッジ部Eとの距離を15mm以内とすることで、エッジオーバーコートを安定して回避することが可能となる。また、吸引管3と鋼板Pのエッジ部Eとの距離を2mm以上とすることで、スプラッシュS付着をより確実に回避することができる。以上より、吸引管3と鋼板Pのエッジ部Eとの距離を2〜15mmの範囲にて設置することで、長時間での操業で使用可能であることが判明した。
【0040】
図11の図中の数字は、各整流化装置と鋼板Pのエッジ部Eとの距離を示している。
図9および
図10に示すように、いずれの整流化装置においても鋼板Pのエッジ部Eとの距離を所定の条件とすることで、エッジ部Eの圧力低下を抑制することは可能であるが、同一距離の場合、吸引管3を用いる方が、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)が大きく改善される。これは吸引管3を用いることで、鋼板Pの外側でワイピングガスG同士が、直接衝突することによる乱流発生が抑制される効果に加え、吸引管3からのエアー吸引によるワイピングガスG同士の衝突点の変動が抑制されるためである。所定の衝突ガス圧力比(Pe/Pc)(0.8以上)を得るために、エッジプレートBの場合には、
図11に示すようにエッジプレートBへの付着量が増加することが判明した。
図8Bに示したように、圧力比を改善した場合に、スプラッシュSの横方向の飛散が改善するものの、エッジプレートBの場合は、鋼板Pのエッジ部Eに近接させる必要があり、スプラッシュSの付着を回避することが困難なためである。一方、本実施形態におけるワイピング装置1では、吸引管3と鋼板Pのエッジ部Eとの距離を離すことが可能であり、圧力比に拘わらずスプラッシュSの付着を回避可能となる。したがって、連続式の溶融めっき装置において長期間に亘り、板幅方向のめっき厚みを均一化することが可能である。
【0041】
なお、本実施形態におけるワイピング装置1では、吸引管3の断面形状を楕円形としているが、変形例として、
図12Aに示すようなエッジプレートBに吸引管3効果を取り入れた長方形の吸引管3Aとしたり、
図12B、
図12C或いは、
図12Dの示すような整流プレートpによる整流効果を発揮する類似の形状の吸引管3B、3C、3Dにすることも可能である。なお、いずれの場合も、断面形状が鋼板Pの引き上げ方向Dに幅広で、かつ外側に凸形状とする。これにより、吸引管3に衝突して上下に分離されたワイピングガスGは、吸引管3の外側の凸形状に沿って上下に導かれ、整流されるので、鋼板Pの外側でワイピングガスGが衝突することによる乱流の発生が防止され、前述と同様の整流効果が得られる。
【0042】
次に、吸引管3の形状による整流効果について説明する(
図13)。なお、比較のために
図13では、円形断面の吸引管103の場合についても示している。円形断面の吸引管103の場合、ワイピングガスGが円形断面の吸引管103に衝突後、円形断面の吸引管3を回り込んで再び衝突するため、ガス流れが乱れて衝突点が振動する。一方吸引管3(楕円)や吸引管3A(長方形)の場合、これらの形状の吸引管3に衝突したワイピングガスGは、吸引管3に沿って上下方向向きに導かれる。ガスの吸引管3壁面からの剥離点でのガス流れの向きが、吸引管3(楕円)や吸引管3A(長方形)では上下方向寄りとなるため、ガス同士の再衝突の際の衝突圧が低下し、乱流の発生が防止される。そのため、楕円や長方形などと比較して整流効果が低下し、スプラッシュ付着量も他形状と比較して大きいことが判明した。円形断面の場合、エッジオーバーコート解消のためには、吸引管の長辺長さ(直径)を35mm程度にする必要がある。一方、溶融めっき鋼板の製造条件において、
図1に記載のワイピングノズル2a,2b間の距離の最小値は、10〜20mm程度に設定する必要があるため、この円形断面の吸引管では設置が困難である。そこで本実施形態におけるワイピング装置1では、断面形状を鋼板Pの引き上げ方向Dに幅広とし、かつ外側に凸形状である吸引管3とすることで、ワイピングノズル2a,2b間に設置可能とし、かつ種々の操業条件においても整流効果を発揮可能とした。
【0043】
次に吸引管の断面形状について、詳細検討を行った。本実施形態におけるワイピング装置1において、整流効果を発揮させるために、長辺長さで15〜50mm、断面の短辺に対する長辺の比が1.2〜10であることが望ましいことを実験により明らかにした。以下に、その内容について説明する。
【0044】
本実施形態におけるワイピング装置1の吸引管3の使用前には、エッジ部Eの圧力低下が大きく、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)で0.46程度であった。そこで、吸引管3を使用したワイピング装置1の目標圧力比を0.8以上とし、改善可能な吸引管形状について調査を行った。
【0045】
吸引管の断面形状については、
図13で述べたように、ワイピングガスGの衝突後の流れにおいて整流化効果が最も大きい楕円を使用することが望ましい。また、
図1に記載のワイピングノズル2a,2b間の距離の最小値は10〜20mm程度に設定する必要があるため、
図2に記載の吸引管3への駆動ガスgの供給管3bは外径(短辺)を10〜20mm以下とする必要がある。吸引管3内において、供給管3bからの駆動ガスgにおけるエゼクタ効果を発揮させるためには、供給管3b径を小さくして吸引管3内における流速を向上させることがエゼクタとしての機能を最大限発揮させることがわかった。よってガス供給管の断面形状として円形を使用する場合、工業用配管における最小径である6A(外径10.5mm)を使用することとした。
【0046】
表1〜表3には、各種楕円形状の吸引管3を製作、供給管3bより駆動ガスgとして圧縮空気を導入した場合のエッジオーバーコート解消効果について調査した結果を示す。なお、以下の表中において、エッジオーバーコート改善効果は、4段階表示で、
4:Pe/Pc>0.9、
3:0.8≦Pe/Pc≦0.9、
2:0.6≦Pe/Pc<0.8、
1:0.6>Pe/Pc
を示す。4段階表示で数値が大きいほど、エッジオーバーコート改善効果が大きいとする。また、メタル付着状況は、3段階表示で、
3:メタル付着なし、
2:メタルは付着するが、長時間操業が可能、
1:メタル付着により長時間操業が不可能
を示す。
【0050】
表1より、短辺長さが最小の10mmとした場合、長辺長さが10mmの場合には、エッジオーバーコートの改善効果が不十分であり、さらに吸引管3へのメタル付着により長時間使用が困難であることが判明した。そこで、長辺長さを15mm以上に大きくした場合、吸引管3の吸引風量が増加し、衝突ガス圧力比(Pe/Pc)が大きく改善することが判明した。なお、長辺長さが55mm以上の場合、供給管3bの直径に対して吸引管3の断面積が大きくなりすぎるため、吸引風速が減少し、エッジオーバーコート改善効果が得られないことが判明した。これにより、長辺長さの最適範囲は15mm〜50mmであることが確認できた。
【0051】
次に、表2より、短辺長さを15mmに設定した場合、同一長辺長さにおいて吸引風量が短辺10mmよりも増加するが、吸引管3の風速が低下するため、改善効果が減少することが判明した。同様に長辺長さを長くしたところ、改善効果を確認したが、長辺が55mmの場合、短辺長さ10mmと同様にエッジオーバーコートの改善効果が得られないことが判明した。また、表3より、短辺長さを20mmとした場合、短辺長さを15mmとした場合よりもさらに操業可能範囲は減少した。これにより、長辺/短辺の比の下限値は1.0〜1.25であり、最適範囲は1.2以上であることが確認できた。
【0052】
次に、吸引管3の断面形状が長方形の吸引管3Aを用いる場合について、調査を行った。表4〜表6は、その調査結果を示している。楕円管は円管を変形させて製作したが、長方形については鋼板を溶接して製作可能なため、任意の板厚の素材を用いて製作可能である。短辺長さとして5mmの長方形管の場合、供給管3bの外径も5mm以下とする必要があるため、吸引風量が30Nm
3/Hrが上限となった。また、効果を発揮する長辺長さも楕円形同様、50mm以下となることが判明した。短辺長さが10mm、15mmの長方形管の場合は楕円形状同様、断面積増により吸引風量は改善されるものの、短辺5mmに対して吸引風速が低下するため、エッジオーバーコート改善効果が小さくなった。長方形管の場合、エッジオーバーコート改善効果を発揮可能な長辺/短辺比は10以下であることが確認できた。
【0056】
次に、吸引管形状がひし形の吸引管3Bについての同様の検討を行った。表7〜表9は、その調査結果を示している。ひし形の場合、長方形に対して吸引風量は減少するが、断面積が小さくなるため吸引風速が増加する。その結果、エッジオーバーコート改善効果は大きくなることが判明した。
【0060】
なお、目標のエッジオーバーコート改善効果が得られた吸引管3の形状であれば、スプラッシュの付着量は数g/Hr程度と軽微であり、付着増に伴うトラブルは確認されなかった。
以上の知見から、吸引管の長辺長さは15mm〜50mmとし、断面の短辺に対する長辺の比が1.2〜10を最適形状とした。なお、吸引管の最適形状について、オーバーコート改善に必要な衝突ガス圧力比(Pe/Pc)の目標に応じて異なるため、前記と同等の効果が得られた場合は、全て本発明と同様の効果とすべきである。