特許第5851495号(P5851495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851495
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】太陽光制御板ガラス
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20160114BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20160114BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20160114BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20160114BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   G02B5/28
   G02B5/26
   B32B7/02 103
   C03C17/36
   C03C27/12 L
【請求項の数】21
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-514454(P2013-514454)
(86)(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公表番号】特表2013-535025(P2013-535025A)
(43)【公表日】2013年9月9日
(86)【国際出願番号】EP2011058569
(87)【国際公開番号】WO2011147875
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年4月30日
(31)【優先権主張番号】2010/0311
(32)【優先日】2010年5月25日
(33)【優先権主張国】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ヘヴェシ, カドサ
(72)【発明者】
【氏名】シチャ, ジャン
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−111644(JP,A)
【文献】 特表2004−522677(JP,A)
【文献】 特表2004−536013(JP,A)
【文献】 特表平03−503755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
B32B 7/02
C03C 17/36
C03C 27/12
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を反射する材料に基づく三つの機能層、及び四つの誘電体コーティングを、各機能層が誘電体コーティングによって包囲されるように含む太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、前記透明基板は、スタックが6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスのシート上に付着されるとき、及びこのコーティングされたシートが、コーティングされていない4mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスの別のシートとともに二層板ガラスとして装着されるとき、1.9より大きい選択性を与えること、及び透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも4%小さいことを特徴とする透明基板。
【請求項2】
透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも8%小さいことを特徴とする請求項1に記載の透明基板。
【請求項3】
透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも8%小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の透明基板。
【請求項4】
透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも15%小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明基板。
【請求項5】
透明基板から出発して第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.3〜2.6であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明基板。
【請求項6】
透明基板から出発して第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.5〜2.1であることを特徴とする請求項5に記載の透明基板。
【請求項7】
透明基板から出発して第三の機能層の幾何学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、5.5〜10であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の透明基板。
【請求項8】
第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する透明基板と第一の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.5〜2.7であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明基板。
【請求項9】
第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する透明基板と第一の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.8〜2であることを特徴とする請求項8に記載の透明基板。
【請求項10】
透明基板から出発して第一の機能層と第二の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さに対する、第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.4〜1.1であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の透明基板。
【請求項11】
透明基板と第一の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して第一の機能層と第二の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.15〜3.4であることを特徴とする請求項10に記載の透明基板。
【請求項12】
スタックが6mmの厚さを有する標準透明ガラスのシートの上に付着されるとき、透明基板側で測定した、スタックを担持するガラスの全光吸収率Aが、少なくとも25%であるようにスタックが少なくとも一つの吸収層を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の透明基板。
【請求項13】
赤外線を反射する材料に基づく三つの機能層、及び四つの誘電体コーティングを、各機能層が誘電体コーティングによって包囲されるように含む太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも4%小さいこと、及び透明基板から出発して第三の機能層の幾何学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、5.5〜10であることを特徴とする透明基板。
【請求項14】
透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも8%小さいことを特徴とする請求項13に記載の透明基板。
【請求項15】
透明基板から出発して第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.3〜2.6であることを特徴とする請求項13又は14に記載の透明基板。
【請求項16】
第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する透明基板と第一の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.5〜2.7であることを特徴とする請求項1315のいずれかに記載の透明基板。
【請求項17】
透明基板から出発して第一の機能層と第二の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さに対する、第二と第三の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、0.4〜1.1であることを特徴とする請求項1316のいずれかに記載の透明基板。
【請求項18】
透明基板と第一の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さに対する、透明基板から出発して第一の機能層と第二の機能層の間に位置された誘電体コーティングの光学的厚さの比が、1.15〜3.4であることを特徴とする請求項17に記載の透明基板。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板を少なくとも一枚含む複層板ガラス。
【請求項20】
14〜36%のソーラファクタ、38〜69%の光透過率、7〜25%の、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板のガラス側の外部光反射率、及びbがaより小さいか又はaに等しく、0°〜55°のaの角度変動が−3.6〜2である外部反射における色を有することを特徴とする請求項19に記載の複層板ガラス。
【請求項21】
接着性プラスチックによってガラス状材料のシートに接合された請求項1〜20のいずれかに記載の透明基板を少なくとも一枚含む積層板ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板、及び太陽光制御多層スタックを担持するかかる透明基板を少なくとも一枚含む複層板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が関係する太陽光制御スタック(太陽光保護スタックとも称される)は、銀ベース層のような赤外線を反射する機能層を含み、それと反射防止誘電体コーティングが組み合わされる。反射防止誘電体コーティングは、光反射を低減し、色のようなスタックの他の特性を制御するのに役立つが、機能層のための結合及び保護コーティングとしても役立つ。太陽光制御スタックは一般に、誘電体層によって包囲された二つの機能層を含む。最近では、三つの機能層を含むスタックが、最も高い可能な光透過率を保持しながら太陽光保護をさらに改良するために提案されている。各機能層は、各機能層が誘電体コーティングによって包囲されるように少なくとも一つの誘電体コーティングによって間隔をあけられている。スタックの種々の層は、例えばマグネトロンタイプの周知の装置で磁界によって増強された減圧下でスパッタリングすることによって付着される。しかしながら、本発明はこの特定の層付着法に限定されない。
【0003】
これらの太陽光制御スタックは、例えば大きなガラスはめ込み表面積を有する封入空間の太陽光による過剰な過熱の危険を低減し、従って夏に求められる空調負荷を低減するために、太陽光保護板ガラスの製造に使用される。そのとき透明基板はガラスのシートからなることが多いが、それはPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのようなプラスチックフィルムから形成されてもよく、それは次いで積層板ガラスを形成するためにPVB(ポリビニルブチラール)又はEVA(エチレン/酢酸ビニル)フィルムのような接着性ポリマーフィルムによって二枚のガラスシートの間に封入されるか、又は複層板ガラスの内側上に封入される。
【0004】
この場合において、板ガラスは全エネルギー太陽光放射線を制御しなければならない。即ち、それは相対的に低いソーラファクター(solar factor)(FS又はg)を持たなければならない。しかしながら、それは建造物の内側の照明の満足のいくレべルを与えるように光透過率(T)の最も高い可能なレべルを保証しなければならない。これらの幾らか対立する条件は、ソーラファクターに対する光透過率の比によって規定される高い選択性(S)を有する板ガラスを得たいという希望を表わす。これらの太陽光制御スタックはまた、長波長赤外線放射によって熱の損失を低減することを可能にする低放射率を持つ。従って、それらは大きな板ガラス表面積の断熱性を改良し、寒い時期のエネルギー損失及び加熱コストを低減する。
【0005】
光透過率(T)は、可視範囲において板ガラスによって透過される光源D65の入射光束の百分率である。ソーラファクター(FS又はg)は、一方では板ガラスによって直接透過され、他方では板ガラスによって吸収され、次いで板ガラスに対してエネルギーの源とは反対の方向に放射される、入射エネルギー放射線の百分率である。
【0006】
これらの太陽光保護板ガラスは一般に、二層又は三層板ガラスのような複層板ガラスに組み立てられ、そこではスタックを担持するガラスのシートは一枚以上の他のガラスシート(それはコーティングを与えられても与えられなくてもよい)と組み合わされ、複層太陽光制御スタックはガラスシート間の内部空間と接触される。
【0007】
ある場合において、機械的応力に対する耐性を改良するためにガラスシートの熱強化のように板ガラスを機械的に強化するための操作を実施する動機がある。高温曲げ操作の助けで、特定の用途のためのガラスシートに対して多かれ少なかれ複雑な曲面を与えることも任意選択的に可能である。板ガラスを製造及び成形するための方法において、既に処理された基板をコーティングする代わりに、既にコーティングされた基板上にこれらの熱処理操作を実施することに特定の利点がある。これらの操作は相対的に高い温度で実施され、その温度では例えば銀に基づくような赤外反射材料に基づく機能層は、劣化し、赤外線に対してその光学的特性及びその特性を失う傾向を持つ。これらの熱処理は特に、シートの厚さ及び処理のタイプに依存して、空気中で560℃を越える温度で、例えば560℃〜700℃、特に約640℃〜670℃で、約6,8,10,12又はさらには15分間、ガラス状シートを加熱することにある。曲げ処理の場合において、ガラス状シートはそのとき所望の形状に曲げられてもよい。強化処理は、そのときシートの機械的強化を得るために空気又は冷却剤のジェットで平坦な又は湾曲したガラス状シートの表面を突然冷却することにある。
【0008】
それゆえ、コーティングされたガラスシートが熱処理を受ける場合には、本質的な目的を与える光学的及び/又はエネルギー特性を失わずに、強化及び/又は曲げ熱処理を受けることができる(以下「強化可能」という表現で言及される場合がある)スタック構造を製造するために極めて特別な注意を払うことが必要である。損傷する構造変性を示さずに高温の熱処理に耐える誘電体コーティングを形成するために誘電体材料を使用することが特に必要である。この使用のために特に好適な材料の例は、亜鉛−スズ混合酸化物であり、特にスズ酸亜鉛、窒化ケイ素及び窒化アルミニウムである。また、例えば銀に基づいた機能層が、例えば処理のときに自由酸素を捕獲することによって銀の代わりに酸化することができる犠牲層があることを確実にすることによって、処理時に酸化されないことを確保することが必要である。
【0009】
また、板ガラスが光反射率(R)(即ち可視範囲における板ガラスによって反射される光源D65の入射光束の百分率)及び反射及び透過の色に関して特定の美的基準を満たすことが望ましい。特定の低い光条件下で正面を見るときに「ブラックホール」効果を避けるために適度であるが低すぎない光反射率の板ガラスを持つことが市場の要求である。適度な光反射率と高い選択性の組み合わせは、反射において紫色が得られることに導くことがあり、それはあまり美しくない。
【0010】
太陽光保護板ガラスはまた、自動車の窓ガラス、例えば自動車のフロントガラス及び他の窓ガラス(例えばサイドウィンドウ又はリアウィンドウ)の分野で使用される。この分野では、窓は積層されることが多い。即ち、スタックを担持する基板は、PVBから一般に作られた接着性プラスチックフィルムによって別の透明基板(それはスタックを担持しても又は担持しなくてもよい)と組み合わされ、太陽光保護スタックはPVBと接触して積層体の内側上に位置される。自動車の窓は一般に、自動車の形状に対応するために湾曲されなければならない。基板が一枚のガラスシートであるとき、曲げ操作は高温で実施され、従ってそのスタックを備えた基板は、迅速な冷却ありで又はなしで強化処理と同様の熱処理を受け、上記のようにさらに基板が高温である間に成形操作を受ける。
【0011】
板ガラスを通って家屋又は車両に入る熱の量を低減するためには、目に見えない赤外線熱輻射が、板ガラスを反射することによって板ガラスを通って進むことが防止される。これは、赤外線を反射する材料に基づく機能層の役割である。それは、太陽光制御スタックにおける本質的要素である。
【0012】
最大の光透過率を保持しながら太陽光保護を改良するための幾つかの方策が提案されてきたが、本当に満足のいく板ガラスを与える方策は与えられていない。
【0013】
PPG Industriesの名前の特許出願WO2009/029466A1は、ガラスシートが三つの銀ベース機能層を有するスタックを担持する自動車のための積層板ガラスを記載する。銀層は、それらを担持するガラスシートから出発して減少する厚さを有する。この文献は、自動車のフロントガラスを形成するために使用されうる高い光透過率を有するスタックを記載する。しかしながら、このスタックの選択性は相対的に低い。
【0014】
Saint−Gobain Vitrageによって出願された特許出願EP645352A1は、太陽光保護板ガラスを記載し、そのスタックは、ガラスから出発して増加する厚さを有する銀の三つの層を含む。しかしながら、この文献の実施例1及び2によれば、選択性が相対的に低いか、又は反射における色があまり安定せず、製造時の厚さの変動もしくは横方向の均一性の不足に対して極めて敏感である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的の一つは、高い選択性を有する効果的な太陽光保護を確実にする太陽光制御多層スタックを担持する透明基板を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、コーティングされた基板が基板側で透過及び反射の両方において心地良い外観を有し、例えば特に相対的に中性色を有する商業的な要求に合致することである。
【0017】
本発明の別の目的は、反射における色の良好な角度安定性を有するコーティングされた基板をより容易に得ることを可能にすること、即ち、それが色相の大きな変化なしで極めて低い大きさ又は許容可能な大きさの色変動を持つことである。
【0018】
本発明の別の目的は、陰極の長さにわたる変動可能な付着速度に従って横方向の均一性の不足またはコーティングされた基板のバッチの製造時間時の層の厚さの変動があるときに基板側上で観察される反射における色の低い変動を持つコーティングされた基板を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、有利な費用コストで工業的規模で容易に大量生産されることができるコーティングされた基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、赤外線を反射する材料に基づく三つの機能層、及び四つの誘電体コーティングを、各機能層が誘電体コーティングによって包囲されるように含む太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、透明基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さが、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも4%小さいことを特徴とする透明基板に関する。
【0021】
この特徴は、高い太陽光保護性能(即ち、心地良く安定した美的外観を有する、高い選択性と組み合わされた高い光透過率)を持つコーティングされた基板を容易に得ることを促進することが見い出された。また、この特徴(それによれば、第一の機能層の厚さ、及び第三の機能層の厚さが、第二の機能層の厚さより有意に(少なくとも4%)大きい)は、4より小さいか又はそれに等しい透過におけるbの値、及び−3.6〜2の基板側上の反射におけるaの0〜55°の角度変動をより容易に達成できることが見い出された。観察の角度による色変動a及びbは相対的に小さいかもしれない。また、コーティングされた基板が基板側上で反射において検査されるときに製造公差の高い安定性が容易に達成されることができることが観察される。
【0022】
このタイプの多層スタックの干渉複雑性が与えられると、観察の角度の変動に対して及び製造時の厚さ変動に対して基板側上の反射で観察される色の相対的に高い変動が一般的に予想されるので、この結果は驚くべきことである。
【0023】
波長に従って、透明誘電体コーティングを形成する様々な材料の屈折率の変動が実質的に異なりうる。本発明の文脈において、誘電体の光学的厚さは、以下の式を使用して計算されるだろう:
光学的厚さ=d×nν
式中、dは、問題の層の幾何学的(物理的)厚さであり、nνは、以下の式を使用して得られる実質的な屈折率である:
式中、n(550)は550nmの波長の材料の屈折率である。
【0024】
もし誘電体コーティングが幾つかの層から構成されるなら、考えられる誘電体コーティングの全光学的厚さは様々な層の光学的厚さの合計である。機能層を保護するためのバリヤー層が犠牲金属層であるとき、この層は実際には酸化され、最終製品において透明誘電体に変換される。この層は極めて薄いので、それは光学的特性に対してほとんど影響を持たない。しかしながら、もし多層スタックが強化及び/又は曲げのような高温熱処理に耐えなければならないなら、この犠牲金属層は、機能層を保護するために十分に酸化可能な金属性の予備を形成するためにより厚くされる。実質的にはこの層の全厚さは酸化物に変換される。誘電体コーティング厚さを含む本発明による種々の厚さ比の計算では、この酸化された犠牲金属層の厚さは、もし酸化された形態のその物理的厚さが2.5nm(それはTiから作られたバリヤーのために付着された金属の約1.4nmに対応する)を越えるなら、問題の誘電体コーティングの全厚さに含めなければならない。従って、比の計算は、高温熱処理を受けてはいけないスタックに慣習的に使用される薄いバリヤー層を考慮しない。特に吸収層として作用しうる、おそらく金属形態で残っている層の部分の厚さは、もちろん含められるべきではない。もし犠牲金属から作られた外部保護層が、熱処理を待つスタックを保護するために使用され、最終製品においてこの処理によって酸化されるなら、酸化された層の厚さは、比の計算で考慮されなければならない。同じことはまた、もし犠牲金属が窒化されかつ透明誘電体を形成するなら当てはまる。
【0025】
本明細書では、多層スタックの層の幾何学的厚さが与えられるとき、又は幾何学的厚さへの参照がなされるとき、それらは、波長分散型検出(WDS)を有するX線螢光(XRF)装置の助けでコーティングされた基板上で包括的に最初に測定される。この装置は、単一層として及び種々のスタック内に挿入される層として、2〜300nmで分布される既知の厚さの問題の材料の5〜10個のコーティングされた試料に基づいて各材料に対して測定される。もし材料がスタックにおける多数の層として存在するなら、この材料の全厚さは上記のようなXRF分析から導出され、次いでスタックの個々の層の各々にわたる全厚さの分布が、スタックのプロファイリング測定の助けで、例えばXPSプロファイリング(1〜3keVのエネルギー範囲のアルゴンイオンを使用するプロファイリングガンでのX線光電子分光プロファイリング)の助けで割り当てられる。
【0026】
大規模な大量生産における色の安定性は、一定の品質の製品の製造を保証するための重要な要素である。比較目的のため、層の厚さの変動後の反射における色の変動は数学式の助けで定量化されている。製造における色変動の指数は「Deltacol」と称され、以下の式によって規定される。
式中、Δa及びΔbは、スタックの各銀層及び各誘電体コーティングの厚さが±2.5%で個々に変動するときに見い出されるa及びbのそれぞれの最高値と最低値の間の差である。値a及びbは、光源D65/10°の下で測定されたCIELAB 1976L値である。
【0027】
好ましくは、基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さは、第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも8%小さい。
【0028】
好ましくは、基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さは、第一及び第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも8%小さい。
【0029】
好ましくは、基板から出発して第二の機能層の幾何学的厚さは、第三の機能層の幾何学的厚さより少なくとも15%小さい。
【0030】
好ましくは、基板から出発して第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングD4の光学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された第三の誘電体コーティングD3の光学的厚さの比は、2.6未満、有利には2.2未満、好ましくは2未満である。D4に対するD3のこの比は、好ましくは1.3より大きく、有利には1.4より大きい。この比は、特に高い光透過率を得るためには、好都合には1.3〜2.6、好ましくは1.5〜2.1である。
【0031】
好ましくは、基板から出発して第三の機能層の幾何学的厚さに対する第二と第三の機能層の間に位置された第三の誘電体コーティングD3の光学的厚さの比は、5.5〜10、有利には6.6〜9.3、好ましくは7〜9である。
【0032】
好ましくは、第三の機能層を越えて位置された最後の誘電体コーティングの光学的厚さに対する基板と第一の機能層の間に位置された第一の誘電体コーティングD1の光学的厚さの比は、0.5〜2.7、有利には0.8〜2.3、好ましくは1.3〜2.3である。この比は、特に高い光透過率を得るためには、0.8〜2であることが好ましい。
【0033】
好ましくは、基板から出発して第一の機能層と第二の機能層の間に位置された第二の誘電体コーティングD2の光学的厚さに対する第三の誘電体コーティングD3の光学的厚さの比は、0.4〜1.1、有利には0.4〜0.95、好ましくは0.4〜0.85である。
【0034】
好ましくは、第一の誘電体コーティングD1の光学的厚さに対する第二の誘電体コーティングD2の光学的厚さの比は、1.15〜3.4、好ましくは1.4〜3.4、有利には1.4〜2.8である。この比は、特に高い光透過率を得るためには、1.6〜2.1であることが好ましい。
【0035】
上で述べた機能層の幾何学的厚さ及び/又は誘電体コーティングの光学的厚さの間のこれらの種々の比を尊重することは、相対的に高い光透過率を保持しながら、高いエネルギー性能を有する太陽光制御スタックを得るために好ましく、それは、特にこれらの比が全て組み合わされて製造されるときに心地良い安定した色及び高い選択性を持つ。このスタックは、尊重しやすい製造公差における良好な色安定性を持つので、工業的設備で容易に大量生産されることができる。スタック側で検査した反射のレベルが低い、特に20%未満のものが容易に得られることができることも見い出された。この方法では、スタックが位置2(位置1は通常、外側の面である)に置かれるときの家屋の内側の反射は、コーティングされた基板を通しての視界を制限しないようにあまり高くない。
【0036】
上で述べたように、機能層は貴金属から形成されることが有利である。それらは、銀、金、パラジウム、プラチナ、又はそれらの混合物もしくは合金に基づくことができるが、単独で、合金として又は一種以上の貴金属との合金として、銅又はアルミニウムに基づくことができる。好ましくは、全ての機能層は銀に基づく。これは、赤外線の反射の極めて高い効率を有する貴金属である。それはマグネトロン装置に容易に使用され、その費用コストは特にその効率に対してあまり高くない。有利には、銀は、数パーセントのパラジウム、アルミニウム、又は銅を例えば1〜10%の割合でドープされるか、又は銀合金を使用することができる。
【0037】
好ましくは、基板側上で見た反射における色変動Deltacol(上で規定した)は、3.4未満、有利には3未満、好ましくは2.6未満、さらに好ましくは2.2未満である。従って、コーティングされた基板が得られ、基板側上の反射におけるその外観は、製造時の層の厚さの変動に導きうる工業的規模の大量生産の予想のつかない変転にあまり敏感ではない。
【0038】
好ましくは、スタック側上で見た反射における色変動Deltacolは、6未満、有利には4未満、好ましくは2.8未満である。同じようにして、コーティングされた基板が得られ、スタック側上の反射におけるその外観は、製造時の層の厚さの変動に導きうる工業的規模の大量生産の予想のつかない変転にあまり敏感ではない。
【0039】
好ましくは、0〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるaの変動は、絶対値として最大3.5であり、有利には最大2である。これは、特に有利な色安定性を与える。なぜならば正面の全体外観は、観察の角度に従って、例えば観察者の動きに従ってほとんど変動しないからである。
【0040】
好ましくは、0〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるbの変動は、絶対値として最大5であり、有利には最大4である。これはまた、特に青色調を有する公称色及びaの低い変動と組み合わせて、特に有利な色安定性を与える。
【0041】
好ましくは、スタックを担持する基板は、スタックが6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスのシート上に付着されるとき、及びこのコーティングされたシートが、コーティングされていない4mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスの別のシートとともに二層板ガラスとして装着されるとき、1.9より大きい、有利には1.94より大きい、好ましくは1.98より大きい選択性を有する。
【0042】
透明誘電体コーティングは、スパッタリングによって付着される層の分野では良く知られている。多くの好適な材料が存在し、ここではその完全なリストを作ることは無駄である。それらは一般的に酸化物、酸窒化物又は金属窒化物である。最も一般的なものでは、例えばSiO,TiO,SnO,ZnO,ZnAlO,Si,AlN,Al,ZrO,Nb,YO,TiZrYO,TiNbO,HfO,MgO,TaO,CrO及びBi並びにそれらの混合物が挙げられる。AZO,ZTO,GZO,NiCrO,TXO,ZSO,TZO,TNO,TZSO,TZAO及びTZAYOもまた、挙げられる。表現「AZO」は、アルミニウムをドープされた酸化亜鉛、又は亜鉛及びアルミニウムの混合酸化物に関し、好ましくは中性又はわずかに酸化している雰囲気において付着される酸化物によって形成されたセラミック陰極から得られるものである。同様に、表現「ZTO」又は「GZO」は、それぞれチタン及び亜鉛の混合酸化物、又は亜鉛及びガリウムの混合酸化物に関し、それらは中性又はわずかに酸化している雰囲気においてセラミック陰極によって得られるものである。表現「TXO」は、酸化チタンのセラミック陰極から得られる酸化チタンに関する。表現「ZSO」は、酸化雰囲気下で付着された合金の金属陰極から又は中性もしくはわずかに酸化している雰囲気で対応する酸化物のセラミック陰極から得られた亜鉛−スズ混合酸化物に関する。表現「TZO」、「TNO」、「TZSO」、「TZAO」又は「TZAYO」は、それぞれチタン−ジルコニウム、チタン−ニオブ、チタン−ジルコニウム−スズ、チタン−ジルコニウム−アルミニウム又はチタン−ジルコニウム−アルミニウム−イットリウム混合酸化物に関し、それらは中性又はわすかに酸化している雰囲気においてセラミック陰極から得られるものである。上で引用した全てのこれらの材料は、本発明に使用される透明誘電体コーティングを形成するために使用されることができる。
【0043】
好ましくは、少なくとも一つの誘電体コーティングは、ZnSnOを形成するために少なくとも20重量%、例えば約50重量%のスズを含有する亜鉛−スズ混合酸化物に基づいた少なくとも一つの層を含む。この酸化物は、熱処理を受けることができるスタックにおいて誘電体コーティングとして極めて有用である。
【0044】
好ましくは、ガラス状材料のシートと機能層の間に位置された下側の誘電体コーティングは、少なくとも20重量%のスズを含有する少なくとも一つの亜鉛−スズ混合酸化物を含み、外側の誘電体コーティングはまた、少なくとも20重量%のスズを含有する少なくとも一つの亜鉛−スズ混合酸化物を含む。この配置は、外側から生じる酸化及びガラス状材料から生じる酸素の両方に対して機能層を保護するために極めて好ましい。
【0045】
好ましくは、一つの又はそれぞれの機能層の下に位置された誘電体コーティングは、機能層と直接接触して、例えばアルミニウム又はガリウムを任意選択的にドープされた酸化亜鉛に基づく層を含む。酸化亜鉛は、特に機能層が銀であるときに機能層の安定性及び耐腐食性に対して特に好ましい効果を持つことができる。また、銀ベースの層の電気伝導性の改良、従って特に熱処理時の低放射性を得るために好ましい。
【0046】
有利には、各機能層の下に位置された誘電体コーティングは、機能層と直接接触して、約20重量%以下のスズ及び少なくとも約80重量%の亜鉛、好ましくは約10重量%以下のスズ及び少なくとも約90重量%の亜鉛を有する亜鉛−スズ混合酸化物に基づいた層を含む。機能層の下側で機能層と直接接触して高含有量の酸化亜鉛を有するこの混合酸化物は、特に機能層が銀に基づくときに強化及び/又は曲げタイプの高温熱処理に対する機能層の抵抗のために有利である。機能層の下で高含有量の亜鉛を含有するこの混合酸化物と下側及び外側の誘電体において少なくとも20重量%のスズを含有する亜鉛−スズ混合酸化物との組み合わせは、高温熱処理時のスタックの良好な耐性のための最も有利な構造を構成する。
【0047】
好ましくは、基板は標準ソーダライムシリカガラスのシートである。これは、太陽光制御板ガラスのためのベースとして作用するために最も好適な基板である。好ましくは、基板は、90%より大きい、さらには91%に等しいか又はそれより大きい、さらには92%に等しいか又はそれより大きい光透過率を有する超透明ガラスのシートである。一つの特に好ましい基板は、AGC Glass Europeという会社によって商品名「CLEAR VISION(登録商標)」の下で販売されるガラスである。
【0048】
一つの有利な実施形態によれば、スタックは、スタックが6mmの厚さを有する標準透明ガラスのシート上に付着されるとき、基板側上で測定されたコーティングされた基板の全光吸収率Aが少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、有利には少なくとも33%であるように、少なくとも一つの吸収層を含む。記載されるような単一の板ガラスにおける光透過率は、この場合において、64%に等しいか又はそれより小さく、好ましくは61%より小さい。吸収層は、「Solar control glazing with low solar factor」という名称の本願出願人の名前で同日に提出された特許出願に記載されるように金属性を有してもよく、又はそれは、TiN,NbN,TaN,もしくはWO,Fe,ステンレス鋼酸化物SSOのような吸収性酸化物、もしくは吸収性の化学量論以下の形態のような誘電体材料から形成されてもよい。本発明による機能層の特別な構成により、吸収層が必ずしも第一及び/又は最後の誘電体コーティングに位置される必要はないことが発見された。それは、製造工程の見地から有利であり、所望のスタックを開発するために大きなフレキシビリティを可能にする。さらに、得られた色変動の指数Deltacolは、上で述べた従来技術に従ったものより小さい。
【0049】
本発明は、上記のような太陽光制御多層スタックを担持する少なくとも一つの基板を含む複層板ガラスに及ぶ。基板は、好ましくは標準ソーダライムガラスのシート、有利にはAGC Glass Europeという会社によって商品名「CLEARVISION(登録商標)」の名称で販売されるガラスのような上述の90%より大きい光透過率を有する超透明ガラスである。本発明は、極めて有用な太陽光制御複層板ガラスを提供する。
【0050】
多層スタックのコーティングされた基板は、例えば二層又は三層板ガラスのような複層板ガラスとして組み立てられることが好ましく、従ってそれが建造物に装着されるとき、太陽光線は、まずコーティングされたガラスシートのスタックのない側上に当たり、次いでスタックに当たり、次いで第二ガラスシートに当たり、次いで任意選択的に第三ガラスシート(もしそれが三層板ガラスであるなら)に当たる。それゆえ、スタックは、一般的に使用される慣習に従えば、位置2にある。この位置では、太陽光保護が最も効果的である。
【0051】
好ましくは、多層スタックを担持する基板が6mm標準透明ガラスのシートであるとき、及びそれが4mmの厚さを有するコーティングなしの標準透明ガラスのシートを有する二層板ガラスとして装着されるとき、かくして形成された二層板ガラスは、39%未満、有利には14〜36%、好ましくは18〜34%のソーラファクター、30〜72%、有利には38〜69%、好ましくは45〜64%の光透過率、7〜25%、好ましくは11〜19%の外部光反射率(即ち、コーティングされたガラスシートのガラス側上のもの)を有し、外部反射において青っぽい色を持ち、bの値がaに等しいか又はそれより小さく、好ましくはa>−5、有利には−1〜−3であることによって特徴づけられる。0°〜55°の外部光反射率における色の値aの角度変動は−3.6〜2であることが好ましい。透過における光は、4に等しいか又はそれより小さい、有利には3に等しいか又はそれより小さいbの値によって特徴づけられることが好ましい。
【0052】
一つの好ましい実施形態によれば、多層スタックを担持する基板が標準透明ガラスの6mmシートであるとき、及びそれが、コーティングされていない4mmの厚さを有する標準透明ガラスのシートを有する二層板ガラスとして装着されるとき、かくして形成された二層板ガラスは、25〜34%、有利には27〜31%のソーラファクター、及び55%より大きい、有利には57〜72%の光透過率を有する。従って、高い光透過率と組み合わされた効果的な太陽光保護スクリーンを形成する透明板ガラスを得ることができる。
【0053】
別の好ましい実施形態によれば、多層スタックを担持する基板が標準透明ガラスの6mmシートであるとき、及びそれが、コーティングされていない4mmの厚さを有する標準透明ガラスのシートを有する二層板ガラスとして装着されるとき、かくして形成された二層板ガラスは、18〜27%、有利には21〜26%のソーラファクター、及び35〜55%、有利には40〜52%の光透過率を有する。従って、極めて日当たりの良い領域のために特に好適な高度に効果的な太陽光保護スクリーンを形成する透明板ガラスを得ることができる。
【0054】
本発明はまた、接着性プラスチックによってガラス状材料のシートに接合された上記のような少なくとも一つの透明基板を含む積層板ガラスに及ぶ。かかる板ガラスは、自動車のための板ガラスとして有利に使用される。
【0055】
本発明は、以下の好ましい例示的実施形態の助けで、非限定的な方法で、より詳細に記載されるだろう。
【実施例】
【0056】
実施例1
6mmの厚さを有する標準ソーダライム透明フロートガラスの3.2m×1mのシートが、マグネトロンタイプの減圧(約0.3Pa)で磁界によって増強されたスパッタリング装置に置かれる。このガラスシート上に、以下のものを以下の順序で含む多層太陽光制御スタックが付着される。
【0057】
第一誘電体コーティングがガラスシート上に付着される。この第一コーティングは、異なる組成の亜鉛−スズ合金の陰極から、アルゴン及び酸素の混合物からなる反応雰囲気において付着される亜鉛−スズ混合酸化物の二つの層から形成される。第一の亜鉛−スズ混合酸化物は、スズ酸亜鉛ZnSnOのスピネル型構造を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金の陰極から形成される。約9.2nmの幾何学的厚さを有する第二の亜鉛−スズ混合酸化物ZnSnOは、90重量%の亜鉛及び10重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金のターゲットから付着される。亜鉛−スズ混合酸化物の第一層の厚さは、以下の表1に示された第一誘電体コーティングD1の光学的厚さに相当する幾何学的厚さを達成するために第二層の厚さに対するバランスである。
【0058】
アルゴンの中性雰囲気において実質的に純粋な銀のターゲットからの銀から形成された赤外反射IR1機能層は、次いで第一誘電体コーティングD1上に付着される。この層IR1の幾何学的厚さは、表1に与えられる。
【0059】
犠牲金属Tiの1.4nmの保護層は、チタンターゲットから中性雰囲気において、それと共通の界面を有する銀層の上に直接付着される。以下に記載される、続く層の付着時のプラズマの酸化雰囲気は、チタンのこの犠牲層を酸化するだろう。強化、曲げ及び/又は硬化処理(その硬化処理は、迅速冷却があまり顕著でない強化処理である)を受けるために意図されるスタックのために、2.6〜3.2nmのチタンは、同じ条件下で付着されるだろう。2.5nmを超える酸化物に変換された保護層の厚さ(強化不可能なスタックの場合において付着されるような保護層のTiの幾何学的厚さの1.4nmに対して酸化物として対応する値)は、本発明による比の計算のために続く誘電体コーティングの厚さに加えられなければならないだろう。
【0060】
同様に、以下の層が次いで保護層の上に付着される:第二誘電体コーティングD2、第二機能層IR2、1.4nmのTiの犠牲層、第三誘電体コーティングD3、第三機能層IR3、1.4nmのTiの犠牲層、続いて第四及び最後の誘電体コーティングD4。
【0061】
この第四誘電体コーティングD4は、異なる組成の亜鉛−スズ合金の陰極からアルゴン及び酸素の混合物から構成される反応雰囲気において付着される亜鉛−スズ混合酸化物の二つの層から形成される。約8nmの幾何学的厚さを有する第一の亜鉛−スズ混合酸化物ZnSnOは、90重量%の亜鉛及び10重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金(以下、ZSO9として言及される)のターゲットから付着される。第二の亜鉛−スズ混合酸化物は、スズ酸亜鉛ZnSnOのスピネル型構造を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金(以下、ZSO5として言及される)の陰極から形成される。亜鉛−スズ混合酸化物のこの第二層の厚さは、以下の表1に示される第四誘電体コーティングD4の光学的厚さに対応する幾何学的厚さを達成するために第一層の厚さに対するバランスである。
【0062】
第二及び第三の赤外反射機能層IR2及びIR3は、層IR1と同様の方法でアルゴンの中性雰囲気においてスパッタリングされた実質的に純粋な銀のターゲットからの銀から形成される。
【0063】
第二及び第三の誘電体コーティング(それぞれD2及びD3)はそれぞれ、異なる組成の亜鉛−スズ合金の陰極からアルゴン及び酸素の混合物から構成された反応雰囲気において付着された亜鉛−スズ混合酸化物の二つの層から形成される。これらの二つの誘電体コーティングの各々の第一の亜鉛−スズ混合酸化物は、スズ酸亜鉛ZnSnOのスピネル型構造を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金の陰極から形成される。約16nmの幾何学的厚さを有する、これらの二つの誘電体コーティングの各々の第二の亜鉛−スズ混合酸化物ZnSnOは、90重量%の亜鉛及び10重量%のスズを含有する亜鉛−スズ合金のターゲットから付着される。これらの二つのコーティングの各々の亜鉛−スズ混合酸化物の第一層の厚さは、以下の表1に示される第二及び第三の誘電体コーティングD2及びD3の光学的厚さにそれぞれ対応する幾何学的厚さを達成するためにこれらの二つのコーティングの各々の第二層の厚さに対するバランスである。
【0064】
表1では、上で述べた誘電体コーティング及び機能層の厚さの様々な比の値もまた、示されている。上で述べたように、これらの比は、保護犠牲金属層の厚さ(各々は1.4nmのTiを有する)を考慮せずに計算される。
【0065】
このコーティングされたガラスシートは、次いで別の透明ガラスの4mmシートを有する二層板ガラスとして組み立てられ、コーティングは、二層板ガラスの内側の空間の側上に位置される。二つのシートの間の間隔は15mmであり、その中の空気の90%はアルゴンで置き換えられる。コーティングされた基板のガラス側上で二層板ガラスを観察することによって(スタックは位置2に置かれ、即ち、まずスタックを与えられた板ガラスがガラス側上で観察され、次いで層のない透明ガラスのシートが観察される)、表2に示された光学的及び熱的特性が記される。本発明において、以下の慣習が、測定又は計算された値のために使用される。光透過率(T)、光反射率(R)、光吸収率(A)(可視範囲における板ガラスによって吸収される−光源D65/2°の−光束の百分率)は光源D65/2°で測定される。反射における色及び透過における色に関して、CIELAB1976(Lb)値は光源D65/10°で測定される。ソーラファクター(FS又はg)は、EN410標準規格に従って計算される。
【0066】
表2には、選択性(S)及びDeltacolの値が示され、0°〜55°の観察の角度の変動時の基板側上の反射におけるa及びbの変動の値(それぞれ「シフトa」及び「シフトb」として言及される)もまた、示される。Deltacol(Rv)は、変動の指数が基板側上で反射において得られることを意味し、一方Deltacol(Rc)は、変動の指数がスタック側上で得られることを意味する。色の値について、「(T)」は、値が透過において測定されることを意味し、「(Rc)」は、値がスタック(層)側上で反射において測定されることを意味し、「(Rv)」は、値が基板(ガラス)側上で反射において測定されることを意味する。表2の欄Aは、EN410標準規格に従って計算された、単一シートとしてのコーティングされた基板のエネルギー吸収率値をとり上げる。誘電体材料ZSO5及びZSO9の550nmの波長における屈折率n(550)は2.03である。
【0067】
得られた反射における色が同意可能であり、かつ商業的な要求に対応することが観察される。基板側上の反射のレベルは低すぎることなく、それは、鏡効果を避けながら「ブラックホール」を避ける。色の角度変動は低く、完全に許容可能であり、製造安定性は特に良好である。
【0068】
変形例として、様々な誘電体コーティングの亜鉛−スズ混合酸化物は、D1,D2及び/又はD3についてTiO/ZnO:Al又はTZO/TiO/ZnO又はSnO/ZnO/SnO/ZnO又はZnO:Al/ZSO5/ZnOのうちの一つによって置換され、D1についてSi/ZnO又はAlN/ZnOのうちの一つによって置換され、D4についてZn/SnO又はZnO/TZO又はZnO:Al/ZSO5又はZnO/SnO/Si又はZnO/SnO/AlNのうちの一つによって置換され、任意選択的に外部保護層を有する。毎回、様々な構成要素の幾何学的厚さは、表1に示されるような対応する誘電体コーティングの光学的厚さを得るために(上記のような)それらの実質上の屈折率の関数として適応された。使用された誘電体材料の550nmの波長における実際の屈折率n(550)は、次の通りである:TiOについて、n(550)=2.5;Siについて、n(550)=2.04;Alについて、n(550)=1.8;ZSO5及びZSO9について、n(550)=2.03;AlNについて、n(550)=1.9;TZOについて、n(550)=2.26。実質的に同じ特性が得られた。
【0069】
変形例として、銀層IR1、IR2及び/又はIR3の上に直接付着された保護層は、任意選択的にドープされた酸化チタン又は酸化亜鉛のそれぞれのセラミック陰極から中性雰囲気において付着された、アルミニウムを任意選択的にドープされたTiO又はZnOの2nmの薄い層である。三つの保護層がセラミック陰極から付着されたTiOによってかくして形成されるとき、光透過率のTLの増加は、続く誘電体コーティングを酸化雰囲気において付着するための方法によって酸化されたTi犠牲金属から形成された保護層に対するモノリシックシートとして8%である。三つの保護層がセラミック陰極から付着されたZnO:Al(2重量%のアルミニウム)によってかくして形成されるとき、光透過率TLの増加は、続く誘電体コーティングを酸化雰囲気において付着するための方法によって酸化されたTi犠牲金属から形成された保護層に対するモノリシックシートとして3%である。
【0070】
さらに他の変形例によれば、透明誘電体コーティングD4では、亜鉛−スズ混合酸化物の順序は、ZnO:Al/TiO又はTZOの順序によって、ZnO:Al/SnO/TiO又はTZOの順序によって、又はZnO:Al/ZSO5/TiO又はTZOの順序によって置換された。
【0071】
実施例2〜6
実施例2〜6は、実施例1と同じ材料で同じ構造に従って同じ方法で実施された。しかしながら、これらの実施例では、様々なコーティングの光学的厚さ及び様々な機能層の幾何学的厚さは、表1の表示に従って変更された。誘電体コーティングに関して、実施例1と同じ原理が使用された。即ち、それらは二つの層から形成され、それらの層の一方は、固定された厚さを有し、他方の層は、表に示された光学的厚さを得るために相補的な厚さを有する。
【0072】
比較例1
表1及び2に記載される比較例1は、本発明の外側のスタックを示し、特許出願WO2009/029466A1によって記載される構造に従って実施された。
【0073】
この比較例では、誘電体コーティングD1は30.7nmのスズ酸亜鉛及び8nmのZnOからなり、誘電体コーティングD2及びD3はそれぞれ58.6nm及び54.8nmのスズ酸亜鉛から形成され、各々は各側上を8nmのZnOによって包囲され、D4は、8nmのZnO、続いて24.6nmのスズ酸亜鉛及び4nmのTiOから形成される。三つの機能層は銀から形成される。完成した製品において2nmのTiOを生じるTiの犠牲層は各銀層上に付着される。基板は標準ソーダライムガラスから作られる。
【0074】
選択性が極めて低いことが特に観察される。
【0075】
実施例7〜12
実施例7〜12は、実施例1と同じ材料で同じ構造に従って同じ方法で実施され、本発明の第二実施形態に関する。これらの実施例では、実施例7〜9及び11のために第一機能層IR1の上に又は実施例10のために三つの機能層IR1,IR2及びIR3の上に付着された犠牲金属Tiから作られた保護層は、同時に、完成製品において吸収層Abs1,Abs2及びAbs3を形成するために意図される。続く層の付着時にプラズマの酸化雰囲気は、チタンのこの犠牲層を部分的に酸化するだろう。付着されるようなTiの層の幾何学的厚さは十分であり、従って、表1に特定される厚さを有する吸収層Abs1,Abs2又はAbs3を形成する金属性のTiが完成製品において幾らか残っている。
【0076】
変形例として、任意選択的にドープされた酸化チタン又は酸化亜鉛のそれぞれのセラミック陰極から中性雰囲気においてアルミニウムを任意選択的にドープされたTiO又はZnOの1〜2nmの薄い層を、吸収層を付着する前に銀層の上に直接追加的に付着することもできる。
【0077】
対応する特性は表2に与えられる。
【0078】
実施例13〜15
実施例13〜15は、以下に特定されていることを除いて、実施例1と同じ材料で同じ構造に従って同じ方法で実施され、本発明の第二実施形態に関する。これらの実施例では、光吸収層は第一機能層IR1の上に付着された。
【0079】
実施例13では、5.7nmの幾何学的厚さを有するTiN光吸収層は、チタン金属ターゲットから窒素雰囲気においてスパッタリングすることによって第一銀層IR1の上に直接付着された。次に、1.4nmの幾何学的厚さを有する犠牲Tiの保護層は付着された。
【0080】
実施例14では、2.4nmの幾何学的厚さを有するTiOの保護層が、第一銀層IR1の上に直接、酸化チタンのセラミック陰極から中性雰囲気において付着された。次に、23.6nmの光学的厚さを有する二つのSi層の間に封入された、5.7nmの幾何学的厚さを有するTiN光吸収層が、チタン金属及びアルミニウムをドープされたケイ素ターゲットから窒素雰囲気においてスパッタリングによって付着された。従って、IR1の直後の構造は以下のものである:IR1/Ti/Si/TiN/Si/ZSO5/ZSO9/IR2。表1では、吸収層についての57Åの値は、この層が実際の構造の順序において実際に正しい位置にないことを示すために欄Abs1における括弧の間に置かれた。なぜならば吸収層は二つのSi層の間に実際に封入されるからである。誘電体コーティングD2について示された全光学的厚さは、二つのSi層の厚さ、並びにZSO5及びZSO9層の厚さを考慮する。
【0081】
実施例15は、光吸収層がここで1.2nmの幾何学的厚さを有するPdの層であり、二つのSi層の23.6nmの各々の間に封入されていることを除いて、実施例14と同じ構造を有する。
【0082】
これらの実施例の特性は、表2に示される。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】