特許第5851519号(P5851519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5851519耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン組成物を製造する方法、および耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン組成物を含む充填配合物を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851519
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン組成物を製造する方法、および耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン組成物を含む充填配合物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20160114BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20160114BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20160114BHJP
   C08F 255/02 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   C08L23/12
   C08L23/16
   C08F2/44 C
   C08F255/02
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-546261(P2013-546261)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公表番号】特表2014-500389(P2014-500389A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】US2011065555
(87)【国際公開番号】WO2012087832
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年11月25日
(31)【優先権主張番号】61/424,762
(32)【優先日】2010年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513156456
【氏名又は名称】ブラスケム アメリカ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRASKEM AMERICA,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】ドゥファス,アントニオス,ケー
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ,エドワード
(72)【発明者】
【氏名】サーストン,ウィリアム,シー
(72)【発明者】
【氏名】マジュースキー,リタ
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0217502(US,A1)
【文献】 特開2006−240519(JP,A)
【文献】 米国特許第06689846(US,B1)
【文献】 国際公開第2010/144080(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C08F2/00−2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系マトリックスおよびプロピレン/エチレンまたは他のプロピレン/α−オレフィン・コポリマー・ゴム相を含む耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン(ICP)組成物を製造する方法であって
(a)少なくとも1つのバルクまたはガス相重合反応器またはその組合せを含む第1の段階で、チーグラー・ナッタ触媒の存在下でプロピレンを無溶媒で重合させて目標のプロピレン系ポリマーを生成し、
(b)脱ガスのとき、前記第1の段階の前記目標のプロピレン系ポリマーを、少なくとも1つの気相反応器を含む第2の段階に移動させ、
(c)プロピレンおよびエチレンまたは他のα−オレフィンを、前記第2段階において前記第1の段階の前記目標のプロピレン系ポリマーの存在下で、および帯電防止抑制剤存在下で、無溶媒で重合させて、プロピレン/エチレンまたは他のプロピレン/α−オレフィン・ゴム・コポリマーを生成
工程を含
前記組成物は、180℃で周波数0.1rad/sにおいて5.0未満の値の損失正接(tanδ)を有し、ゲル数およモールド流動性と組み合わされて成型部品においタイガー(フロー)マーク性能によって示され外観を示すものである方法
【請求項2】
外部供与体が前記第1の段階に加えられ、外部供与体が前記第2の段階に加えられる、請求項1に記載の方法
【請求項3】
0.1rad/sでのtanδに対する0.4rad/sでのtanδの比が1.0より大きいまた1.0に等しい、請求項1に記載の方法
【請求項4】
前記ゲル数が、60メッシュ・スクリーンについ300未満である、請求項1に記載の方法
【請求項5】
前記組成物は10より大きいメルト・フロー・レート、および0.1rad/s180℃)5.0未満のtanδを有するものである、請求項1に記載の方法
【請求項6】
前記マトリックスおよび前記ゴム相が単峰性である、請求項1に記載の方法
【請求項7】
前記組成物は酸化防止剤、成核剤、酸捕捉剤、ゴム改質剤またはポリエチレンを含む、ペレットの形態を有し、または成形品の形態を有するものである、請求項1に記載の方法
【請求項8】
耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン(ICP)組成物を含む充配合物を製造する方法であって、
前記組成物は、プロピレン系マトリックスおよびプロピレン/エチレンまたは他のプロピレン/α−オレフィン・コポリマー・ゴム相を含み
(a)少なくとも1つのバルクまたはガス相重合反応器またはその組合せを含む第1の段階で、チーグラー・ナッタ触媒の存在下でプロピレンを無溶媒で重合させて目標のプロピレン系ポリマーを生成し、
(b)脱ガスのとき、前記第1の段階の前記目標のプロピレン系ポリマーを、少なくとも1つの気相反応器を含む第2の段階に移動させ、
(c)プロピレンおよびエチレンまたは他のα−オレフィンを、前記第2段階において前記第1の段階の前記目標のプロピレン系ポリマーの存在下で、および帯電防止抑制剤存在下で、無溶媒で重合させて、プロピレン/エチレンまたは他のプロピレン/α−オレフィン・ゴム・コポリマーを生成
工程を含
前記組成物は、180℃で周波数0.1rad/sにおいて5.0未満の値の損失正接(tanδ)を有し、ゲル数およモールド流動性と組み合わされて成型部品においタイガー(フロー)マーク性能によって示され外観を示すものである、方法
【請求項9】
外部供与体が前記第1の段階に加えられ、外部供与体が前記第2の段階に加えられる、請求項に記載の方法
【請求項10】
0.1rad/sでのtanδに対する0.4rad/sでのtanδの比が1.0より大きいまた1.0に等しい、請求項に記載の方法
【請求項11】
前記ゲル数が、60メッシュ・スクリーンに対し300未満である、請求項に記載の方法
【請求項12】
前記組成物は10より大きいメルト・フロー・レート、および0.1rad/s180℃)5.0未満のtanδを有するものである、請求項に記載の方法
【請求項13】
前記マトリックスおよび前記ゴム相が単峰性である、請求項に記載の方法
【請求項14】
前記充填配合物は、さらに、充填剤、および外部エラストマ衝撃改質剤を含み、前記充填剤がタルクである、請求項に記載の方法
【請求項15】
前記組成物は酸化防止剤、成核剤、酸捕捉剤、ゴム改質剤またはポリエチレンを含む、ペレットの形態を有し、または成形品の形態を有するものである、請求項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイガー(フロー)マーク(tiger (flow) marking:虎(流動)の縞模様)性能(performance:成績、出来映え)と、少ないゲル数(カウント、計数値、数)との組合せの改善によって現れる優れた表面外観を有し、モールド(型)流動性と剛性耐衝撃性のバランス(調和)を示すプロピレン系組成物に関し、また、その組成物を製造する方法、および、その組成物でできた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車への適用例において典型的に用いられる大きい/長い部品(パーツ)の射出成型に関する耐衝撃性コポリマー(共重合体)ポリプロピレン(ICP)組成物の改善された(enhanced:高められた)タイガー・マーク性能(成績)(以下で説明する)を達成するために、非常に高い分子量(MW)(または同等に高い固有粘度(intrinsic viscosity)(I.V.)のゴム相、例えば、エチレン−プロピレン(EPR)コポリマー、またはプロピレンとその他のα−オレフィンとのコポリマー)の導入がしばしば要求され、その結果、ゴム相とマトリックス(母材)(例えば、プロピレン系ポリマー、例えば、ホモポリマー・ポリプロピレン(HPP))の間の粘度比が高くなり、表面外観および最終部品の彩色適性(paintability)に有害な多数(大きい計数値)の大きい重合性ゲル(polymeric gels)が生じる。特殊なフィルタ媒体(例えば、非常に低い多孔性(porosity)の媒体)の使用によって、大きいゲルの数を或る程度減少させることができるが、そのゲルの存在は、成型部品の表面外観にとって依然として有害である可能性がある。さらに、大きいゲルを破壊するために特殊なフィルタ媒体を用いると、押出機ダイ圧力に悪い(負の)影響を与える可能性があり、それによって、生産速度(率)が制限され、および生産コストが上昇することもあり得る。
【0003】
スナイダー氏(1999年の文献)[Snyder, A.,“A Unique High Stiffness, High Melt Flow Impact PP Copolymer From a Solvent/Slurry Process“(溶媒/スラリー・プロセスによる、固有の高い剛性、高メルトフロー耐衝撃性PPコポリマー)9th International Business Forum on Specialty Polyolefins, Scotland (SPO 99) Conference, October 12-13, 1999, Houston, Texas]は、特定のプロピレン系製品の生産に関連するスラリー/溶媒プロセスを説明している。溶媒/スラリー・プロセスのR1とR2のHPP反応器間の二峰性(2モード、2相性)処理(動作)が説明された。平均重量分子量(MW)900,000g/molのコポリマー・キシレン可溶性(XS)画分(割合)は、非常に高いゴム固有粘度(I.V.)(即ち、少なくとも6dl/g)の存在を示唆した。この文献は、特定のプロピレン系組成物のタイガー・マーク、ゲルおよび揮発性物質の性能または成績を教示していない。スナイダー氏(1999)の文献は、スラリー/溶媒プロセスに特有のものであり、本発明によって想定されるような、バルク相または気相の重合プロセスをカバーしていない(含まない)。スラリー/溶媒プロセスの大きな欠点は、最終成型部品の寿命の期間において不快な臭いの生成および有害な蒸気の放出に起因して、自動車部品に使用される組成物における非常に望ましくない最終組成物において高レベルの揮発性物質を発生させることである。
【0004】
一連の特許(米国特許第4,771,103号、第5,461,115号、第5,854,355号)は、低減されたフィッシュ・アイ(魚眼状の斑点)を有するエチレン・ブロック・コポリマーの製造のための連続的なプロセスを開示している。フィッシュ・アイを減少させる重要な要素は、単独重合(第1段階)と共重合段階の間の脱ガス(脱気)段階へのグリコール化合物の供給である。これらの特許に記載されているスラリー/溶媒プロセスは、バルク/ガス・プロセスと比較して最終製品において高レベルの揮発性有機化合物を生成し、これは、低減された揮発性排出物の材料を必要とする自動車産業では非常に望ましくないものである。さらに、スラリー/溶媒プロセスは、本発明の場合と同様の、バルク相/気相プロセスに対して、生産速度(率)の観点から効率的でない。また、このプロセスは、溶媒抽出工程に起因する別の廃棄物処理の問題を生じさせる重大な欠点を有する。これらの文献の別の欠点は、優良なタイガー・マーク性能との組合せでフィッシュ・アイを減少させること関して、プロセスの有効性が、本発明のバルク相/気相重合プロセスと同様のバルク相/気相重合プロセスについて、達成も教示も証明もされていないことである。
【0005】
幾つかの他の化合物、主として帯電防止剤は、反応器の壁上の微粒子の堆積および凝集/付着、および/または充填排出管の詰まりによって生じるシーティング(sheeting:シート)および汚染(fouling:付着物)を減少させることが知られている。これらの物質は、大きい粒子に比べて表面/体積の比がより大きいことに起因して、微粒子で優先的に見いだされる。幾つか文献(米国特許第5,410,002号、米国特許出願公開第2008/0161610号(A1)、米国特許出願公開第2005/0203259号(A1))は、防汚剤としての帯電防止組成物の使用を開示しているが、(バルクにおける)低減されたゲルと、優良なタイガー・マークまたは流動性との組合せを教示していない。
【0006】
ミツタニ氏、他は、米国特許第6,466,875号において、オプションとして(任意に)分級機および/または化学添加物を使用することができる連続プロセスによって得られるプロピレン・ブロック・コポリマーのゲル含有量(率)を推定する方法を開示している。その双方のオプションは、短い滞留時間(分級機)を有する粒子を第1段階反応器に戻すことによって、または第1段階(化学添加物)からの短い滞留時間の粒子を選択的に毒する(poison)ことによって、第2段階において高いゴム含有量(率)を有する粒子の数を減少させるよう作用する。しかし、この文献は、本発明のような、組成物(特に、高粘度比の耐衝撃性コポリマーで)の少ないゲル数(計数値)と優良なタイガー・マーク性能との組合せを教示していない。
【0007】
米国特許第6,777,497号および第7,282,537号は、成型品におけるフロー・マーク(流動模様)の少ない生成、粒状構造(フィッシュ・アイ)の僅かな生成、および剛性と靭性の改善されたバランスに対して、影響を与えるために、高い固有粘度(I.V.)のエチレン−プロピレンのランダム・コポリマーとプロピレン系成分(例えば、ホモポリマー(homopolymer))を用いた組成物に関する。これらの組成物の欠点の1つは、本発明のエチレン−プロピレン・ゴム成分と実質的に異なるランダムなコポリマー成分に起因する、不良な(劣った)低温耐衝撃性である。本発明によって提供される、改良された部品外観、高い流動性、および優れた機械特性の組合せを呈するプロピレン系組成物に対するニーズ(必要性)が存在する。
【0008】
グレイン氏(Grein)、他の米国特許第7,504,455号は、フロー・マークを示さず良好な衝撃強度対剛性の比を有するプロピレン系組成物に関する。この文献は、その組成物のフロー・マークを開示しておらず、成型品の外観を典型的に劣化させる高い固有粘度(I.V.)(高い粘度比)のゴム成分(4〜6.5dl/g)の存在に起因する、例えば大きいゲルのような表面外観に関する性能を教示していない。
【0009】
米国特許第6,518,363号および第6,472,477号は、組成混合物(ブレンド)の一部として、高い固有粘度(I.V.)のプロピレン−エチレンのランダム・コポリマー・ゴム部分を含有するポリプロピレン組成物を開示している。これらの組成物は、少ない(低い)フロー・マークおよび僅かな数のフィッシュ・アイ(粒状構造)によって規定される許容可能な外観を有する成型品を製造するよう設計されている。米国特許第6,518,363号において、組成物は、2つのプロピレン−エチレンのブロック・コポリマーと別のHPP相との混合物(ブレンド)を含んでいる。米国特許第6,472,477号において、組成物はHPPとプロピレン−エチレン・ブロック・コポリマーとの混合物(ブレンド)を含み、高い固有粘度(I.V.)のゴム(例えば、固有粘度(I.V.)>6dl/g)を含有する組成物は、表面外観に悪影響を与える大きいゲルの数(計数値)の満足な度合の減少を達成しない。本発明は、単一の反応器内エチレン−プロピレン・コポリマー組成物を利用するものであり、それによってこれらの文献の組成物と比較してプロセスおよび分子構造が単純であるという利点を提示し、さらに、高い固有粘度(I.V.)のゴムにおいて遙かに低い濃度のフィッシュ・アイ濃度を生じさせる。
【0010】
米国特許公開第2006/0194924号は、大きい物体を射出成型することができるポリオレフィンのマスターバッチ組成物を請求の範囲に記載しており、その物体は、改善された表面特性、特にタイガー・ストライプおよびゲルの減少に関する改善された表面特性を示す。これらの組成物の1つの制限は、概して、合計の組成物MFRがかなり低いことである。これらの低いMFRは、モールド流動性が少ないという欠点を提示する。さらに、この文献は、良好なゲル品質を、1500μm未満の“平均の”直径サイズとして規定している。1500μmより大きいゲル・サイズが、大きい部品の低い審美性と、部品彩色適性に対する負の効果とにより、全く望ましくないこと、は周知である。この文献に対して、改善されたモールド流動性に加えて、平均ゲル直径サイズが500μmより充分小さいので、本発明における組成物は、かなり改善された表面外観の利点を有する。
【0011】
多数の他の発明者(例えば、米国特許第6,441,081号、第6,667,359号および第7,064,160号)が、優良なタイガー・マーク性能のICP組成物を教示しているが、彼らは、ゲル数(計数値)の所望の性能を教示も達成もしておらず、また、その特許請求の範囲の組成物の構造は、本発明のものとは実質的に(かなり)異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4771103号
【特許文献2】米国特許第5461115号
【特許文献3】米国特許第5854355号
【特許文献4】米国特許第5410002号
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0161610号(A1)
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0203259号(A1)
【特許文献7】米国特許第6466875号
【特許文献8】米国特許第6777497号
【特許文献9】米国特許第7282537号
【特許文献10】米国特許第7504455号
【特許文献11】米国特許第6518363号
【特許文献12】米国特許第6472477号
【特許文献13】米国特許出願公開第2006/0194924号(A1)
【特許文献14】米国特許第6441081号
【特許文献15】米国特許第6667359号
【特許文献16】米国特許第7064160号
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
驚くことに、無溶媒の重合プロセスで製造された或る級または種類の(class)のICP組成物は、ゴム相とマトリックス相の間での高い粘度比(例えば、4より大)にもかかわらず、非常に少ないゲル数(計数値)と組み合わされた、大きい/長い成型部品における優良なまたは優れたタイガー・マーク性能を示すことが、発見された。これは、直感に反し予想外のことである。その理由は、高い粘度比(モールド(成型)における流頭(flow front)の安定化、およびタイガー・マークの重症度の低減に必要な、高い粘度比)は、通常、文献(例えば、Nello Pasquini、“Polypropylene Handbook”(プロプロピレン・ハンドブック)2nd Edition, 2005, pp.226-227)に記載されたウェーバー無次元数の原則に基づく多数の大きいゲルを生じさせるからである。大きいゲルの形成に対する粘度比の効果は、配合構成成分として組成物を用いた充填化合物にまで及ぶ(持ち込まれる)。
【0014】
さらに、驚くことに、本発明の組成物は、例えば二軸または単軸スクリューのような押出機のスクリュー・タイプ(種類)に関係なく、例えば60メッシュのような全く粗いメッシュ・ワイヤ・スクリーンを用いるときにも、非常に少ないゲル数(計数値)に関連づけられる。最後に、本発明の組成物は、かなり低減されたレベルの揮発性物質を呈し、単独(スタンドアロン)の材料としておよび/または充填化合物に用いられても、優れた剛性と耐衝撃性のバランスを示す。そのかなり低減されたゲル数は、成形部品の優れた表面外観および改善された彩色適性(滑らかな表面)をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、約90〜140dg/分のMFR範囲を有する本発明による組成物および比較用組成物(単独、即ち非充填化合物)に関する、タイガー・マーク性能を表す、180℃での角周波数の関数としての損失正接(タンジェント)(tanδ)のレオロジー応答を示している。この図および以下の図では、全ての試料は、60メッシュ・ワイヤ・スクリーンを用いて30mmの二軸押出機で調整されたペレットである。本発明による組成物と比較用の組成物との間のレオロジー応答の相対的な差は、スクリュー・タイプおよびメッシュ・サイズに無関係であることが判明した。
図2図2は、約15〜17dg/分のMFR範囲を有する本発明による組成物および比較用組成物(単独、即ち非充填化合物)に関する、タイガー・マーク性能を表す、180℃での角周波数の関数としての損失正接(tanδ)のレオロジー応答を示している。
図3図3は、図1のtanδの外形(プロファイル)に対応する約15〜17dg/分のMFR範囲を有する本発明の組成物および比較用組成物の粘度フロー曲線を示している。
図4図4は、tanδ(0.1および0.4rad/s、180℃)の関数としてのタイガー・マークの開始(発現)距離を示している。射出速度は12.7mm/sである。350mmにおけるデータ点は、タイガー・マークが見られなかったことを示している。充填化合物は、68.53重量%の組成物、10重量%のタルク(Cimpact 710C, Rio Tinto)、21.32重量%の衝撃調整剤(Engage ENR 7467, Dow Chemical Company)、および0.15重量%の酸化防止剤B225からなる。
図5図5は、単独の組成物に関する、tanδの関数としてのタイガー・マークの開始距離(0.1rad/s、180℃)を示している。射出速度は12.7mm/sである。350mmにおいて示されたデータ点は、タイガー・マークが観測されなかったことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を、図面を参照し、例を用いて説明する。
【0017】
ICP(耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン)を利用する相異なる適用例において、タイガー/フロー・マーク(縞模様)の開始または発現を、射出成型部品のゲートからできるだけ遠く離れさせるように遅延させ(理想的には無くす)ことが非常に望ましい。タイガー/フロー・マークは、相対的に長い射出成型部品において典型的に生じる粘弾性的な(viscoelastic)溶融流れ不安定性として定義(規定)され、その成型部品において、交互する鈍い領域と光沢ある領域とが、そのゲートからの或る距離(フロー・マークまでの開始距離)を超えて生じる。タイガー・マーク領域不安定性の基礎は、文献[例えば、Hirano et al., J. Applied Polym. Sci. Vol.104, 192-199 (2007);Pathan et al., J. Applied Polym. Sci. Vol.96, 423-434 (2005);Maeda et al.、Nihon Reoroji Gakkaishi、Vol.35, 293-299 (2007)]に記載されている。
【0018】
タイガー・マーク(マーキング)は、特に大きい/長い射出成型部品について、許容できない部品外観のために、非常に望ましくない。タイガー・マークの遅延された開始または削除に加えて、最良の部品表面外観(審美性および彩色適性)のために、大きい重合性(ゴム)粒子(ゲル)の数(計数値)をできるだけ減少させることが、非常に望ましい。また、大きいゲル(例えば、500μmより大)は、耐衝撃性(例えば、落下重量衝撃強度)に有害なので、特に望ましくない。タイガー・マーク不安定性は、ヒラノ氏、他(2007)の論文に開示されているように、ICP組成物、外部耐衝撃性改良剤(外部ゴム)および充填剤(フィラー)(好ましくは、タルク)を典型的に含む充填化合物(充填された化合物)において、特に明らかである。モールドにおける流動性を改善し、モールドのサイクル(周期)時間を減少させるためには、配合処方(compounding formulation)における成分として、高いメルト・フロー(MFR)のICPが、望ましい。
【0019】
タイガー・マーク性能を改善するための1つの方法は、モールド(型)中の流頭(フロー・フロント)を安定化させるために、ICP組成物中に非常に高いMW(分子量)または同等に高い固有粘度(I.V.)のEPR成分を導入することが、報告されている[例えば、ヒラノ氏、他(2007)、特にFIGS.5〜10参照]。ICP組成物全体の高いMFRを達成するために、プロピレン系(propylene based)マトリックスは、全く高いMFR(例えば、200dg/分より大。約100dg/分の組成物MFRに対するもの)を有する必要がある。その結果として、通常、HPPマトリックスとEPRの間で粘度の著しい相違が得られ、従って、2つの相の間に高い粘度(ここでは、固有粘度比によって近似される)が得られる。その高い粘度比の結果として、通常、HPPマトリックスとEPR相の間の適合性または両立性が減少し、これが、大きい重合性ゴム粒子(ゲル)の形成を生じさせる。これは、ネロ・パスキーニ(Nello Pasquini、“Polypropylene Handbook”、2nd Edition、2005、pp. 226-227)の記載によるものであり、ウェーバー数(界面テンション力(張力)に対する粘度の比)の原理に基づくものである。EPR相とHPP相の間の粘度比が約4より大きい結果として、大きいゲルを壊すまたは無くすことがかなり困難になる。その重合性粒子は、典型的には、最大で約1700μmまでのまたは最大でそれ以上のサイズまでのサイズ範囲を有することができ、500μmより大きいサイズの粒子は、“大きいゲル”または単に“ゲル”と称され、部品表面外観に特に有害であり、従って非常に望ましくない。
【0020】
優良なターガー・マーク性能(ここで、優良なターガー・マーク性能は、成型部品上のタイガー・マークの遅れた開始もしくは発現またはタイガー・マークの不存在、として定義される)、および、充填化合物における各機械的特性の優れたバランス(例えば、破壊伸張、剛性、および低温耐衝撃性/延性(ductility))を有するICP組成物は、典型的には、かなりの数の大きいゲルが存在する点で劣っており、これは、低粘度(高いMFR)のプロピレン系マトリックスとの好ましい適合性のない高いMW(分子量)(固有粘度(I.V.))ゴム相の存在に起因するものである。要約すると、ターガー・マーク性能が良好であればあるほど、高いMW(分子量)成分の存在および高い粘度比に起因して組成物中の大きいゲルの数(計数値)がより多くなる(より悪くなる)。
【0021】
本発明の目的は、分子構造および製造工程の簡易性を維持しつつ、優良なタイガー・マーク性能、高められた表面外観のためのかなり低減された大きいゲルの数、例外的なモールド流動性(例えば、高いMFR、低い粘度)/減少されたモールド・サイクル時間、および充填化合物における優れた剛性と耐衝撃性のバランス、の新規な組合せを示すICP組成物、を開発することである。充填化合物は、典型的には、ヒラノ氏、他(2007)の論文において規定された、ICP組成物、外部エラストマ/耐衝撃改質剤、および充填剤(例えば、タルク)を含んでいる。具体的には、本発明の例における重量百分率の充填化合物の含有量(率)は、68.53%の組成物、10%のタルク(Cimpact 710C、リオ・ティント社(Rio Tinto))、21.32%の耐衝撃改質剤(Engage ENR 7467、ダウ・ケミカル社(Dow Chemical Company))、および0.15%の酸化防止剤B225である。押出機加工性(例えば、高い生産速度および減少したダイ(型)圧力)を改善するために、相対的に粗いメッシュ・ワイヤ・スクリーン(例えば、60メッシュ・スクリーン)も、非常に望ましく、その使用は大きいゲルを壊すまたは無くす方向とは反対方向のものである。押出機において通常のメッシュ・ワイヤ・スクリーンを用いる少数の大きいゲルと組合せた優良なタイガー・マーク性能は、前述の粘度比の説明に基づく直観に本来的に反している。最後に、本発明の組成物によって達成される特徴である、最終成型部品の寿命の期間において、不快な臭いを消しまたは有害な蒸気の放出を無くすことができる低レベルの揮発性有機化合物(VOC)を、新規なICP組成物が示すことが、非常に望ましい。
【0022】
方法
本発明の組成物は、プロピレン系ポリマー(ICP“マトリックス”として定義される)が最初に調整され、その後でコポリマー・ゴムが調製される形態の逐次重合プロセス(法)で調製される。ここに記載される組成物は、チーグラー・ナッタ(Ziegler-Natta)触媒、例えばトリエチルアルミニウム(triethylaluminum)(“TEA”)のような共触媒、および任意に電子供与体(electron donor)を用いて調整することができる。その電子供与体は、非限定的な例として、ジシクロペンチルジメトキシシラン(dicyclopentyldimethoxysilane)(“DPCMS”)、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(cyclohexylmethyldimethoxysilane)(“CMDMS”)、ジイソプロピルジメトキシシラン(diisopropyldimethoxysilane)(“DIPDMS”)、ジ−t−ブチルジメトキシシラン(di-t-butyldimethoxysilane)、シクロヘキシルイソプロピルジメトキシシラン(cyclohexylisopropyldimethoxysilane)、n−ブチルメチルジメトキシシラン(n-butylmethyldimethoxysilane)、テトラエトキシシラン(tetraethoxysilane)、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン(3,3,3-trifluoropropylmethyldimethoxysilane)、モノ−およびジ−アルキルアミノトリアルコキシシラン(mono- and di-alkylaminotrialkoxysilanes)、またはこの技術分野で公知のその他の電子供与体、または、その組合せを含んでいる。本発明の実施に適用できる相異なる世代のチーグラー・ナッタ触媒の例は、ネロ・パスキーニ(Nello Pasquini)、“Polypropylene Handbook”(プロピレン・ハンドブック)、2nd Edition、2005、Chapter 2に記載されており、フタル酸系、ジ−エーテル系、コハク酸エステル系の触媒(phthalate-based, di-ether based, succinate-based catalysts)、またはこれらの組み合わせを含んでいるが、これらに限定されるものではない。その触媒系は、プロピレンの重合の開始において導入され、結果として得られるプロピレン系ポリマーとともに、共重合反応器に移送され、その反応器においてプロピレンとエチレン(またはより高級のα−オレフィン)の気相共重合を触媒して(に触媒として作用して)、ゴム相(ここでは、バイ−ポリマー(bi-polymer、二元ポリマー)とも称する)を生成する。
【0023】
プロピレン系ポリマー(マトリックス)は、少なくとも1つの反応器を用いて調製されてもよく、並列の複数の反応器または直列の複数の反応器を用いて調製されてもよい(段階1)。プロピレン系ポリマーのプロセスは、直列の1つまたは2つの液体充填のループ反応器を利用することが好ましい。ここで使用される液相またはバルク相反応器という用語は、サー・ヴァン・フェン氏(Ser van Ven)“Polypropylene and Other Polyolefins”(ポリプロピレンおよびその他のポリオレフィン)、Elsevier Science Publishing Company, Inc.、1990、pp.119-125に記載されている液体プロピレン・プロセスを含み、ここでは、液体が不活性溶媒(例えば、ヘキサン)中にあるスラリー/溶媒プロセスを除く。液体充填のループ反応器が好ましいにもかかわらず、プロピレン・ポリマーは、米国特許第7,217,772号に記載されているように、気相反応器、一連の気相反応器、または、液体充填の複数のループ反応器と複数の気相反応器の任意の順序またはシーケンスでの組合せであってもよい。プロピレン系ポリマーは、好ましくは、単峰性(unimodal)の分子量の形態で生成され、即ち、段階1の各反応器は同じMFR/MWのポリマーを生成する。単峰性のプロピレン系ポリマーが好ましいにもかかわらず、二峰性(bimodal)または多峰性(multi-modal)のプロピレン系ポリマーも、本発明の実施において製造されてもよい。本発明による組成物の全ての例において(表1)、プロピレン系ポリマー(ICPマトリックス)の製造に、単峰性処理(動作)の2つの液体充填ループ反応器の組合せが使用された。
【0024】
プロピレン系ポリマー結晶性およびアイソタクチック性(isotacticity)は、電子供与体(electron donor)に対する共触媒(co-catalyst)(共触媒:電子供与体)の比と、共触媒/供与体系(システム)のタイプ(種類)とによって制御することができ、また、重合温度の影響を受ける。電子供与体に対する共触媒の適切な比は、選択される触媒/供与体系に応じて決まる。所望の特性を有するポリマーに到達するための適切な比および温度を決定することは、当業者の技術の範囲内のものである。
【0025】
本発明によるプロピレン系(マトリックス)成分を調整するのに必要な水素の量は、使用される該供与体および触媒系に大きく依存する。過度の実験を行うことなく、ここに開示された特性の組合せ(MFRを含む)を有するプロピレン・ポリマーを調整するために所与の触媒/供与体系に適切な量の水素を選択することは、当業者の技術の範囲内のものである。プロピレン系マトリックスの例には、ホモポリマー・ポリプロピレン、ランダムなエチレン−プロピレン、または概してランダムなプロピレン−アルファオレフィン・コポリマーが含まれるが、これに限定されるものではなく、そのコモノマーは、C4、C6またはC8のアルファオレフィン、またはそれらの組合せを含むが、これに限定されるものではない。表1の全ての例では、プロピレン系ポリマーは、100%のプロピレン(HPP)で構成される。
【0026】
プロピレン系(マトリックス)ポリマーの形成がいったん完了すると、その結果として得られた粉末は、脱ガス段階を通過し、その後で1つ以上の気相反応器(段階2)に渡される。ここで、プロピレンは、段階1で生成されたプロピレン系ポリマーおよびそれと共に移送された触媒の存在下で、エチレン(C2)またはα−オレフィンコモノマーと共重合され、そのα−オレフィンコモノマーはC4、C6またはC8アルファオレフィンまたはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。気相反応器の例は、流動(水平または垂直の)層(床)反応器または攪拌床反応器(fluidized (horizontal or vertical) or stirred bed reactor)またはそれらの組合せを含むが、これに限定されるものではない。
【0027】
米国特許出願公開第2006/0217502号に記載されているように、任意選択的に、追加的な外部供与体を、気相重合プロセス(第2段階)で加えてもよい。第2段階に加えられる外部供与体は、第1段階に加えられた外部供与体と同じであってもまたは異なっていてもよい。本発明の例(表1)では、外部供与体は、第1段階でのみ(各ループ液体反応器)に加えられた。
【0028】
例えば、米国特許出願公開第2006/0217502号、米国特許出願公開第2005/0203259号および米国特許出願公開第2008/0161510号A1および米国特許第5,410,002号に教示されているような、例えば帯電防止剤抑制剤(antistatic inhibitor)または有機化合物/剤の組合せ(combination of organic compounds/agents)のような適切な有機化合物/剤が、段階2に加えられる。帯電防止剤抑制剤または有機化合物の例は、ATMER(米国登録商標)163およびARMOSTAT(米国登録商標)410LMの商品名で入手可能なヒドロキシルエチルアルキルアミン(hydroxylethyl alkylamine)の化学的誘導体、少なくとも1種の脂肪酸サルコシナート(fatty acid sarcosinate)を含む1種の副次的な帯電防止剤抑制剤と組み合わされた少なくとも1種のポリオキシエチルアルキルアミン(polyoxyethylalkylamine)を含む主要な帯電防止剤(major antistatic agent)、または類似の化合物、またはそれらの組合せであるが、これらに限定されるものではない。本発明の利点は、例えばATMER(米国登録商標)163およびARMOSTAT(米国登録商標)410LMのような組成物を製造するプロセスにおいて使用される好ましい帯電防止剤抑制剤が、食品接触に関するFDAの認証を有しており、従って自動車用の配合物の適用例を越えた適用性の範囲を拡大していることである。さらに、ATMER163およびARMOSTAT410LMの双方は、中国では、食品包装に適したものとしてリストアップされており、一方、ARMOSTAT410LMは、化粧品関連の適用例に適したものとして欧州連合(EU)の在庫リストに含まれており、さらに本発明の組成物に関連するこれらの添加剤の産業上の適用例の範囲を拡大している。
【0029】
共重合反応では、反応器の気相組成物は、エチレン(またはα−オレフィン)およびプロピレンの合計モル(モル数)に対する気相のエチレン(またはα−オレフィン)のモル(モル数)の比が、一定値に保持されるようにされるように、維持される。所望のモル比およびバイ−ポリマー含有量(率)を維持するために、プロピレンおよびエチレン(またはα−オレフィン)のモノマー供給が適切に調整される。
【0030】
1つまたは複数の気相反応器に、任意選択的に水素を加えて、コポリマー・ゴムのMW(分子量)(従って固有粘度(I.V.))を制御してもよい。この文脈において、MWは、重量平均の重量分子量として定義される。気相の組成物は、エチレンに対する水素(水素対エチレン)の比R(モル/モル)が一定に保持されるように、維持される。ループにおける水素制御と同様に、目標の固有粘度(I.V.)を達成するための必要なH/Cは、触媒および供与体の系に応じて決まる。当業者であれば、適切なH/Cの目標を決定できるはずである。単峰性のコポリマー・ゴム(即ち、均一な固有粘度(I.V.)およびコモノマーの組成の、コポリマー・ゴム)が好ましいにもかかわらず、二峰性または多峰性のゴム・コポリマー(即ち、相異なる固有粘度(I.V.)またはコモノマーの組成またはコノモマーのタイプ(種類)またはそれらの組合せの複数の成分、を有するコポリマー・ゴム)が、本発明の実施において可能である。
【0031】
二峰性または多峰性のコポリマー・ゴム組成物の場合、“粘度比”は、最大MWゴム・コポリマー成分の固有粘度(I.V.)を、(i)単峰性マトリックスの場合のプロピレン系マトリックスの固有粘度(I.V.)、または(ii)二単峰性または多峰性マトリックスの場合の該マトリックス(プロピレン系マトリックス)の最小MW成分の固有粘度(I.V.)のいずれかの固有粘度(I.V.)で、除算した値として、定義される。単峰性のコポリマー・ゴムの場合、“粘度比”は、アセトン沈降キシレン不溶部画分(insolubles fraction)(XS AP)の固有粘度(I.V.)を、組成物のキシレン不溶部画分(XIS)の固有粘度(I.V.)で除算した値として、定義される。表1の全ての例において、C2が、気相反応器においてプロピレンと反応するモノマーとして使用されて、単峰性のエチレン−プロピレン・コポリマー・ゴムが生成された。
【0032】
上述の本発明による組成物の反応器プロセスは、ここでは、“バルク/ガス”と称される。重合プロセスが完了すると、上述の手順に従って生成されたポリマー粉末を押出機に供給することができる。押出機が用いられる場合、最良の可能な溶融混合および相分散(phase dispersion)を得るために、典型的には、二軸スクリュー押出機が好ましい。二軸押出機が好ましいにもかかわらず、この技術分野で公知のその他の押出機、例えば、単軸スクリュー押出機を用いても、所望の溶融混合を達成することができる。
【0033】
比較用組成物の製造は、所望のポリマー属性を達成するために適切な1組の反応器条件を用いてバルク/ガス反応器プロセスで行われ、または、代替的に、溶媒としてヘキサンを用いてスラリー/溶媒プロセスで行われた。これ(スラリー/溶媒プロセス)は、シンダー氏(Snyder)(1999)の論文、またはW.S.フォング氏(W.S. Fong)、R.L.マゴヴァーン氏(R.L. Magovern)およびM.サックス氏(M. Sacks)、“Polypropylene”(ポリプロピレン)、Report No.128、SRI International、Menlo Park, California、April 1980に記載されている(以下、溶媒/スラリーと称する)。
【0034】
L/D=24(スクリュー直径に対するスクリュー長の比(screw diameter over screw length))および二重供給システムを有する、30mm(スクリュー直径D)の共回転二軸スクリュー押出機(ZSK−30、ヴェルナー&プフライデラー(Werner & Pfleiderer)(WP)/コペリオン(Coperion))が、粉末試料(サンプル)を混合するために用いられた。その押出機は、1つのスクリュー当り、2つの混練(ニーディング)混合ブロックおよび2つの反時計回り逆混合要素を含んでいる。その押出機は、スクリーン・チェンジャ(交換器)、直径1.5インチ(1.5")のブレーカ・プレート、および溶融ポンプ(エックスアロイ社(Xaloy Inc.))と結合される。ダイ・プレートは、それぞれ直径0.125インチ(0.125")の4つの穴を含んでいる。同じ押出機条件が、整合性または一貫性のために全ての試料(サンプル)に対して用いられて、表1にまとめられている。単独(スタンドアロン)の組成物(即ち、例えば、酸化防止剤、酸捕捉剤(acid scavenger)および任意に成核剤(nucleator)のような、押出機安定化のためのベアフット(barefoot)添加剤(添加剤を含まない)パッケージを用いたまたは有する組成物)と、それぞれの充填化合物の双方が、製造された。
【0035】
表1:全ての試料に使用された30mm二軸スクリュー押出機の押出機条件
【表1】
* 75 AL3 FMF=公称空隙率(porosity)75μmの繊維金属フェルト・スクリーン(ピュロレータ社(Purolator))。
** 60および200メッシュは、標準的な正方形の織りスクリーン(ピュロレータ社(Purolator))の空隙率に関するものである。
【0036】
粉末(本発明による組成物および比較用組成物)試料を混合するのに、L/D=24を有する1.5インチ(38mmスクリュー直径)の“イエロー・ジャケット”単軸スクリュー押出機(ウェイン社(Wayne))も使用された。スクリューは、長さ4インチの混合ゾーンおよび長さ8インチの外部固定ミキサ(mixer)を含んでいる。押出機は、直径1.5インチのブレーカ・プレートを有するスクリーン・チェンジャと結合される。ダイ・プレートは、それぞれ直径0.125インチの6つの孔を含んでいる。同じ押出機条件が、整合性のために全ての試料に用いられて、表2にまとめられている。単軸スクリュー機の押出機条件(表2)の選択は、剪断速度または温度外形(プロファイル)について、30mm二軸スクリューで用いられた条件(表1)との同等性を反映していないことに留意されたい。従って、2つのタイプ(種類)のスクリューに対する複数組の条件は、互いに無関係または独立である。
【0037】
表2:全ての試料に使用された38mm単軸スクリュー押出機の押出機条件。
プロセス条件は、単独の組成物(即ち、非充填化合物)の押出しに関する。
【表2】
【0038】
粒子/ゲル・サイズ分布が、キャスト・フィルム・ラインと一体化された走査型デジタル・カメラ・システムを用いて測定された。粒子/ゲル・テスタ(試験器)のモデルは、OCS(光学制御システム)のFSA(フィルム表面アナライザ)である。システムは、粒子/ゲルの視覚的観測用のプログラム可能なツールを有する高速および高解像度のものである。ゲル・テスタの条件は、典型的には、次の通りである。
5つの範囲(ゾーン)にわたる180〜200℃の範囲の、押出機からダイ・ヘッドまでの温度:
範囲(ゾーン)1:180℃
範囲(ゾーン)2:190℃
範囲(ゾーン)3〜5:200℃
スクリュー速度:35rpm
冷却ロール:12m/分
冷却ロール温度:40℃
フィルム厚さ:約(〜)0.02mm
フィルム幅:約(〜)4.5インチ(約11.4cm)
走査されたフィルム面積:5m
【0039】
本発明において、ゲル・テスタに対する同じ組の条件が、全ての材料に対して用いられた。ゲル・テスタは、100μmの間隔または区間(例えば、500〜600、600〜700μm、等)でキャスト・フィルムの1m当たり粒子数として、約1〜1700μmの範囲の粒子サイズ分布を供給する。組成物のゲル性能が“優良”(excellent)と定められるのは、フィルム(厚さ0.02mm)におけるゲル(500μmより大)の数/mが、60メッシュ・ワイヤ・スクリーンでは約300個未満、または200メッシュ・ワイヤ・スクリーンでは約100個未満であり、75 AL3 FMF(プロレータ社(Purorator))のスクリーンで約50個未満であり、これは、単独の組成物(即ち、例えば、押出機の安定化のために、酸化防止剤(antioxidant)および酸捕捉剤(acid scavenger)のようなベアフット添加剤(添加剤を含まない)パッケージを用いた組成物)に対する値であり、その際、二軸スクリュー押出機を用いて、上述のプロセス条件でペレット試料(任意選択的に、酸化防止剤(antioxidants)、成核剤(nucleators)、酸捕捉剤(acid scavengers)、ゴム改質剤(rubber modifiers)またはポリエチレン(polyethylene)を含むもの)が調整される。粗いメッシュ・ワイヤス・クリーン(例えば、60メッシュ)の使用は、二軸または単軸スクリューのいずれにおいても少ないゲル数(計数値)を依然として達成し、押出しプロセスの観点から特に有利である(例えば、より高い生産速度、フィルタ媒体の交換の頻度の少なさ、より低いダイ圧力、等)。上述のゲル数の要求のいずれをも満たさない組成物は、許容できない“不良”なゲル性能を有すると考えられる。
【0040】
試料の劣化をなくすために窒素でパージ状態にある25mmの互いに平行なプレートを有する制御された歪/ストレス(応力)レオメータ(rheometer)(モデルMCR501、アントンパール社(Anton Paar))を用いて、動的周波数掃引等温(isothermal)データが生成された。1ディケード当り(per decade:周波数比10倍当り)5点の割合で0.1〜300rad/sの周波数範囲が、線形粘弾性(linear viscoelastic)領域内に位置する歪振幅(約5〜15%)で、温度180℃および間隙2mmで使用された。組成物の低い角周波数(例えば、0.1および0.4rad/s)における損失正接(loss tangent)(tanδ)(損失係数)は、ここでは、単独の組成物とその充填化合物のタイガー・マーク性能のメトリック(metric:測定基準)として定義され、これは、マエダ氏、他、(2007)[Maeda, S., K. Fukunaga, and E. Kamei、“Flow mark in the injection molding of polypropylene/rubber/talc blends”(ポリプロピレン/ラバー/タルクの射出成型におけるフロー・マーク)、Nihon Reoroji Gakkaishi 35, 293-299 (2007)]の研究と整合するものである。
【0041】
理論によれば、剪断応力(shear stress)が法線方向の応力を超えたときに、フロント領域または前頭部におけるフローまたは流動が不安定になる。フロー・マークが発生するか否かは、この領域における法線方向の応力と剪断応力(tanδに関連する)の間のバランスによって制御される。この基準の有効性は、ポリプロピレン/ゴム/タルクの混合物(ブレンド)の射出成型について、実験的に検証された[マエダ、他(2007)]。低い剪断速度での溶融弾性の増強によって、効果的に、成型部品上のフロー・マークの発生が防止されることが、見出された[マエダ、他(2007)]。
【0042】
単独の組成物とその充填化合物の双方について、170トン ヴァンドーン(HTシリーズ)(Van Dorn (HT Series))のコールド・ランナ射出成型機を用いて、350mm(長さ)×100mm(幅)×3mm(厚さ)のモールドで射出成型されたプラーク(plaques:飾り板)が生成された。射出成型の条件として、バレル(barrel)温度:華氏400度(°F)、モールド冷却温度:華氏83度(°F)、スクリュー速度:100rpm、射出速度:25.4mm/s、充填時間:2.1秒(s)、および冷却時間:17.1秒、が使用された。また、ランナー・サイズは12.7mmであり、ファン・ゲート厚さは1.14mmであり、ゲート幅は82.6mmであった。全ての場合において、単独の組成物またはその充填化合物に、2重量%の青色のマスターバッチ濃縮物が加えられて、裸眼でのタイガー・マークの可視化が容易にされた。5つのプラークが材料ごとおよび条件ごとに形成され、その結果の再現性が優れていることが見出された。
【0043】
タイガー・マーク性能が本発明において“優良”(excellent)と規定されるのは、単独の組成物とその充填化合物(前述の定義による)の双方について、(i)プラーク上にタイガー・マークが存在しないまたは見えない、または、(ii)タイガー・マークの開始距離が、ゲートから臨界的な距離を超えて離れている(例えば、ゲートと最初(第1)のタイガー・マークの間の距離が、プラークの合計の長さの約75%またはそれより長い)ときである。タイガー・マーク性能が“不良”(poor)と規定されるのは、ゲートからのタイガー・マークの開始距離がプラークの合計長さの約75%未満で、タイガー・マークが見えるときである。10dg/分より大きいMFRの耐衝撃性コポリマー・ポリプロピレン組成物について、0.1rad/sで約5未満のtanδ(単独の組成物)の結果として、増強された溶融弾性(melt elasticity)に起因して、単独の組成物とその充填化合物の双方について、優良なタイガー・マーク性能が得られることが見出された。また、5〜10(最悪から最良まで)のタイガー・マークの順位等級(スケール、尺度)が、プラークの視覚的な観察に基づいて、9〜10が“優良”(excellent)および5〜8が“不良”(poor)として設定された。
【0044】
成型されたプラーク上のタイガー・マークの開始距離と、低周波数でのtanδとの相関性または相関関係が、図4および5にそれぞれ示されているように、充填化合物と単独の組成物の双方について検証された。充填化合物について、低周波数(例えば、0.1〜0.4rad/s)でのtanδが減少するにしたがって、タイガー・マークの開始距離がゲートから離れて遠ざかる(良好)。図4に示された全ての材料は、同じ充填化合物配合の(formulation)組成物[即ち、68.53%の組成物、10%のタルク(Cimpact 710C、Rio Tinto)、21.32%の衝撃改質剤(Engage ENR 7467、Dow Chemical Company)および0.15%の酸化防止剤B225]であって、同じ押出機条件で製造された組成物で構成されているので、複数の充填化合物のタイガー・マークの開始距離の差は、ベース組成物(base composition:主成分組成物、塩基組成物)のレオロジー(流動学、流性)の差(低周波でのtanδ)を反映する。図4において、350mmの開始距離に対応する複数のデータ点は、タイガー・マークが観測されなかったことを示す。これらのデータ点は、充填化合物における本発明による組成物IおよびIIIに対応する。本発明による組成物IおよびIIIは、特定の射出成型条件(25.4 mm/s)だけでなく、広い範囲の条件(例えば、射出速度12.7〜88.9mm/sが、12.7mm/sの間隔で試験された)内でも、タイガー・マークの兆候(サイン)を全く示さなかったことは、充分注目に値する。
【0045】
図5において、単独の組成物について、0.1rad/s(180℃)におけるtanδの関数としてのタイガー・マークの開始距離の相関性は、充填化合物の場合の相関性(図4)と、方向性として類似していること、が示されている。本発明による組成物IおよびIIIは、25.4mm/sの射出速度でタイガー・マークの兆候(サイン)を全く示さなかった(プラークの長さとして示された開始距離、即ちプロットのための305mm)が、広い範囲の射出速度(12.7〜88.9mm/s)についてもタイガー・マークが観測されなかった。
【0046】
ICP組成物の重量百分率XS画分(ゴム・コポリマーおよびマトリックス・キシレン可溶分の双方の寄与を含む)は、200mlのキシレン中に2gの組成物を用いてASTM D5492に従って決定された。組成物の百分率XIS画分は、100から百分率XSを減算して得られた差として決定された。
【0047】
アセトン沈降キシレン可溶部画分(XSAP)は、次の方法に従って測定された。即ち、300mlの予め濾過されたアセトンが1000mlのフラスコに注入される。ASTMD5492に従って回収された100mlのXS濾液(filtrate)が、そのアセトンを含有するそのフラスコ内に加えられた。そのフラスコは、2分間激しく振盪され、続いてその系(システム)が少なくとも15分間静置(set:放置)された。乾燥したフィルタが、予め秤量された後で、清浄な漏斗に入れられ、1000mlのフラスコでの沈殿物がアセトンから濾過された。清浄なアセトンが幾度か洗浄されて、できるだけ多くのポリマーが回収されて、キシレン残留物が除去された。次いで、そのフィルタは、オーブン内で、Nでのパージで軽い真空引き状態で、1時間、65℃で乾燥された。そのフィルタは、続いて、取り出されて、乾燥デシケータ(乾燥機)に30分間入れられて、その後で再び秤量された。そのフィルタ上に堆積した物質(材料)は、XSAP画分(またはICP組成物の粘着性の(gummy)またはアモルファスの部分)であった。百分率XSAP(コポリマー・アモルファス)画分は、次の式で計算された。
%XS AP = 2A × 100

ここで、
A = 粘着性(アモルファス)材料およびフィルタの重量 −(マイナス) フィルタの重量。
S = 試料サイズ(開始試料/組成物の重量(g)、これは、コポリマーとマトリックスの双方からのXS寄与分を含む合計XS画分(留分)を回収するためにASTMD5492湿式分別(wet fractionation)を行うための200mlのキシレンに元々加えられていたもの)。
【0048】
特定の種(species)の固有粘度(I.V.)、例えば組成物のXS APおよびXIS画分(留分)が、0.7g/ltの濃度(23℃での濃度)を有する溶液に、デスロ−ビショフ(Desreux-Bischoff)希釈粘度計(ウベローデ(Ubbelohde)タイプ)を使用して、135℃でテトラリン(tetralin)中で測定された。
【0049】
メルト・フロー・レートまたは溶融流量(MFR;g/10分またはdg/分の単位)が、230℃で2.16kgの負荷(荷重)を用いて、ASTM D1238によって測定された。1%の割線曲げ弾性率(secant flexural modulus)が、23℃で、ASTM D790に従って測定された。切欠きアイゾット衝撃力(notched Izod impact strength)が、23℃で、ASTM D256に従って測定された。降伏点(yield point)での百分率(%)歪みおよび降伏応力(yield stress)を含む引張特性が、ASTM D638−08に従って測定された。各物理的試験に対して、10個の複製物が生成され、平均値が報告された。
【0050】
高速の機器を備えた衝撃(instrumented impact)(IIMP)特性が、直径4インチおよび厚さ0.125インチの円形衝撃ディスクを用いて、ASTM D3763−08に従って測定された(各試験について、10個の複製物が測定された)。そのディスクは、ASTM D4001に従って、射出成型プロセスによって製造された。22.49kgのストライカ(槌)質量が使用された。衝撃高さは0.39mであり、衝撃速度は2.76m/sであった。−20℃での測定が、セスト(Ceast)社の衝撃強度機を用いて行われた。
【0051】

次に、以下、表および図にまとめられた非限定的な例について説明する。本発明を実証する例が、表3〜6および図1〜3に含まれている。開示された例の幾つかの観測結果は、次のものを含んでいる。
【0052】
表3は、EPR相とプロピレン系マトリックスの間の、4より大きい固有粘度(I.V.)比で、大きいゲルの数(計数値)が驚くほど少なく(“優良な”ゲル性能)、一方、同時にタイガー・マーク性能が優良である(0.1rad/sでtanδ<5;180℃)ことを示している。前述したように、EPR相の固有粘度(I.V.)は、本発明において、アセトンから沈殿したキシレン可溶部画分の固有粘度(I.V.)として定義される。プロピレン系(マトリックス)相の固有粘度(I.V.)は、ここでは、実験的に検証された組成物のXIS部分の固有粘度(I.V.)として近似される。所与の組成物のMFRでは、低周波数(0.1rad/s、180℃)でのtanδは、組成物の種々の分子特性の組合せの反映である(例えば、ゴム・コポリマーの百分率(%)含有量、EPR相とHPP相の間の固有粘度(I.V.)比、ゴム相におけるコモノマー混入および組成物、マトリックス相とゴム相のMW、マトリックス相とゴム相のMWD、等)。
【0053】
表4、5において、同じ押出機条件、スクリューのタイプおよびフィルタ媒体において、本発明による組成物は、優良なタイガー・マーク性能を有する類似のMFRおよび固有粘度(IV)比の比較用組成物(例えば、スラリー/溶媒プロセスで製造されたもの)に対して(と比して)、かなり(有意に)低減された数(計数値)の大きいゲル(優良なタイガー・マーク性能と組み合わされたもの)を有する。本発明による組成物は、驚くことに、スラリー/溶媒プロセスで製造された類似のMFR、固有粘度比およびタイガー・マーク性能の比較用組成物(類似の低周波数tanδ)に対して(と比して)、500μmより大きいサイズのゲルが少なくとも90%減少すること(かなりの減少)を示している。高度のフィルタ媒体(例えば、FMF)を使用しても、本発明による組成物は、驚くことに、比較用組成物に対して(と比して)、かなり(有意に)より少ない数(計数値)の大きいゲルを有する(表4)。
【0054】
表6は、本発明による組成物が、優良なタイガー・マーク性能および多いゲル数(計数値)(例えば、スラリー/溶媒プロセスで製造され組成物)を呈する比較用組成物に対して(と比して)、充填化合物における同等なまたは改善された機械的特性を有することを示している。
【0055】
図1〜3は、通常の(比較用の)組成物に対する、本発明による組成物の動的なレオロジー・フロー曲線の実証例を示している。同様の粘度フロー(流動)曲線において、本発明による組成物は、通常の組成物に対して(と比して)、類似のまたは改善された溶融弾性率(melt elasticity)を有し、その結果、優良なタイガー・マーク性能が得られること、に留意されたい。低周波でのtanδの最大値は、モールド内のフロー・フロント(流頭)を安定化させてタイガー・マークの発生を遅らせる弾性応答の良好な指標(これは、高いMW種(species)に関連付けられる)である。
【0056】
表3:例示的な本発明の組成物と比較用組成物のまとめ
【表3】

ここで、
固有粘度比:固有粘度(I.V.)(XS AP)/固有粘度(I.V.)(XIS)は、組成物のゴム相とHPPマトリックス相の間の粘度比を近似し、大きいゲルは、約500μmより大きいサイズの粒子として定義される。
表1の全てのデータは、60メッシュ・スクリーンを用いて30mmの二軸スクリュー押出機で調整された試料に対応する。レオロジー・パラメータに対するメッシュの効果は、無視し得ることが判明した。
【0057】
表4:30mmの二軸スクリュー押出機で混合された、本発明による組成物および比較用組成物のゲル(500μmより大)および合計の粒子(〜1〜1700μm)の計数値(キャスト・フィルムの1m当り)。全ての試料は同じ押出機条件で混合された(表1参照)。タイガー・マーク等級:5〜10(最悪から最良)、9〜10:“優良”、5〜8:“不良”(許容できない)。
【表4】
【0058】
表5:38mmの単軸スクリュー押出機で混合された、本発明による組成物および比較用組成物のゲル(500μmより大)および合計の粒子(〜1〜1700μm)の計数値(キャスト・フィルムの1m当り)。全ての試料は同じ押出機条件で混合された(表2参照)。タイガー・マーク等級:5〜10(最悪から最良)、9〜10:“優良”、5〜8:“不良”(許容できない)。
【表5】
【0059】
表6:充填化合物における本発明による組成物 対 比較用組成物の機械的特性のまとめ。
配合物(重量%)は、68.53%の組成物、10%のタルク(Cimpact 710C, Rio Tinto)、21.32%の衝撃改質剤(Engage ENR 7467, Dow Chemical Company)および0.15%の酸化防止剤B225。
【表6】
【0060】
プロピレン系マトリックスと、プロピレン/エチレンまたはその他のプロピレン/α−オレフィン衝撃改質剤(ゴム)との異相の(heterophasic)混合物(ブレンド)であって、反応器内および押出機に基づく(based)異相の混合物を用いることができる。単軸および二軸スクリュー押出機を使用することもできる。相対的に粗いメッシュ・ワイヤ・スクリーン(例えば、60メッシュ)が、充分なものであり、ほとんどの場合好ましいが、米国特許出願公開公報第20080268244号(A)に記載されているような、より微細なメッシュ・ワイヤ・スクリーンまたはより高度のスクリーン媒体[例えば、繊維金属フェルト(FMF)]を利用することもできる。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明による組成物は、ゴム相とマトリックス相の間に高い粘度比が存在するにもかかわらず、(単独の組成物または充填化合物のいずれかにおいて)タイガー・マーク性能、少ないゲル数(計数値)、モールド流動性および機械的特性を含む複数の優れた製品性能属性の組合せを含むが、これに限定されるものではない。
【0062】
粗いメッシュ・ワイヤ・スクリーン(例えば、60メッシュ・ワイヤ・スクリーン)の使用は、単軸または二軸スクリューのいずれでも少ないゲル数(計数値)を達成する一方で、大きい処理上の利点を有する(例えば、より高い生産速度(率)、フィルタ媒体の交換のより低い頻度、より低いダイ圧力、等)。また、本発明による組成物に固有の、低レベルの揮発性有機含有量は、成型部品の相異なる適用例において非常に有利である。
【0063】
優良なタイガー・マーク性能と少ないゲル数(計数値)との組合せは、組成物のEPR相とHPP相の間の高い粘度比にもかかわらず、本発明によるバルク/気相プロセスおよびかなり粗いメッシュ・スクリーン(例えば、60メッシュ)の使用との協働で(と併せて)、予想外のものであり有利である。
【0064】
優良なタイガー・マーク性能および多いゲル数(計数値)を呈する(例えば、高い粘度比に起因する)通常の組成物に対して(と比して)、単独の組成物またはそれらの充填化合物の機械的特性の保持または改善は、直感に反すものであり、驚くべきことである。低レベルの揮発性物質は、上述の固有な組(集合)の製品性能属性と協働して(と併せて)、予想外のものである。
【0065】
反応器内の異相混合物(ブレンド)は、押出機異相混合物(ブレンド)に対して(と比して)、コスト節減、および組成物の相異なる相の改善された分散(dispersion)により、好ましい。二軸スクリュー押出機は、製品属性の最良のバランスを与えることが好ましい。
【0066】
本発明をその特定の実施形態に関して説明したが、本発明の多数のその他の形態または変形は、この分野の専門家にとって明らかであることは、明白である。特許請求の範囲および本発明は、一般的に、本発明の真の精神および範囲内にあるそのような全ての自明な形態および変形を含むものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5