特許第5851533号(P5851533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851533
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】可動式仮設足場
(51)【国際特許分類】
   E04G 1/24 20060101AFI20160114BHJP
   E04G 1/36 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   E04G1/24 302A
   E04G1/36 302Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-6574(P2014-6574)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135001(P2015-135001A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義徳
(72)【発明者】
【氏名】舞田 裕之
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−106524(JP,A)
【文献】 実開昭59−011098(JP,U)
【文献】 特開平01−295968(JP,A)
【文献】 特開2006−291630(JP,A)
【文献】 実開昭63−140441(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3179171(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0234629(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 1/24
E04G 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜した地盤面に沿って斜め上下方向に配設された構築物の側方において、前記地盤面に立設され、且つ前記構築物に着脱自在に固定される可動式仮設足場であって、
足場部材と、
前記足場部材を支持しつつ前記地盤面に立設される脚部材を有したベース部材と、
前記足場部材、又は前記ベース部材から、該ベース部材よりも斜め上方に位置する前記地盤面へ延びて該地盤面と接するサポート部材と、
前記ベース部材を前記構築物に対して着脱自在に固定する固定部材と、を備えたことを特徴とする可動式仮設足場。
【請求項2】
前記固定部材は、前記脚部材に対して上下方向に進退自在に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の可動式仮設足場。
【請求項3】
前記サポート部材は、前記地盤面に向けて進退自在に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の可動式仮設足場。
【請求項4】
前記サポート部材は、作業員が歩行可能な上面を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の可動式仮設足場。
【請求項5】
前記固定部材を複数個備えると共に、隣接する前記固定部材間を接続する棒状の接続部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の可動式仮設足場。
【請求項6】
前記構築物は磁性体から構成されており、前記固定部材が磁石であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の可動式仮設足場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山等の傾斜した地盤面に沿って上下方向に配設された水圧鉄管等の構築物の側方において地盤面に立設される可動式の仮設足場に関し、特に、構築物に着脱自在に固定可能に構成して足場上を歩行する作業員の安全を確保しつつ、簡易な構成とすることにより設置、撤去、及び移動を容易に行えるようにした可動式の仮設足場に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム内の水を水力発電所へ導水するための水圧鉄管は、山の傾斜した地盤面に沿って配設されている。雨水等の影響により水圧鉄管の表面に発生した錆は、徐々に水圧鉄管を腐食させるため、定期的な点検及び保守作業が必要である。
従来実施されてきた代表的な保守作業には、10〜15年に1回程度行われる水圧鉄管外面の塗装作業がある。この作業においては、水圧鉄管の側方に長手方向に沿った大掛かりな仮設足場を構築して水圧鉄管の外面全体を塗装していた。このため、作業にかかる期間も費用も多大なものとなっていた。
【0003】
近年では、コスト削減のため、水圧鉄管の外面のうち腐食した部分にのみ再塗装をすることが提案されている。水圧鉄管の一部分のみが作業対象となる場合に、水圧鉄管の全長に亘って大掛かりな足場を構築することは、非効率的、且つ非経済的である。
この問題を解決しうる発明として特許文献1には、作業対象となる部分に沿って設置される移動式の足場が記載されている。この足場は、水圧鉄管のような円筒管の外側に配設される移動式の足場であり、円筒管の外周方向に沿って円弧状に湾曲した円弧部と、円弧部から地盤面に向けて伸びる延出部とを備えた足場本体を備えている。円弧部を円筒管の上面に載置し、延出部を地盤面に接地させることで足場を安定させる。また、この足場は円筒管と接触する走行車輪を備えており、足場は円筒管の長手方向に沿って移動自在に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平7−26482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の移動式足場は、水平に設置された円筒管の外側に配設することを前提としており、傾斜した地盤面に沿って上下方向に配設された水圧鉄管等に配設することを前提としていない。仮に、水圧鉄管のような構築物の側方に特許文献1に記載の移動式足場を立設した場合には、傾斜面に沿って足場が滑り落ちたり、傾倒することになり、非常に危険である。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、傾斜した地盤面に沿って上下方向に配設された構築物の側方に立設される足場であって、傾斜した地盤面であっても足場を安定して立設させることにより足場を歩行する作業員の安全を確保することができ、且つ設置及び移動が容易な可動式仮設足場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、傾斜した地盤面に沿って斜め上下方向に配設された構築物の側方において、前記地盤面に立設され、且つ前記構築物に着脱自在に固定される可動式仮設足場であって、足場部材と、前記足場部材を支持しつつ前記地盤面に立設される脚部材を有したベース部材と、前記足場部材、又は前記ベース部材から、該ベース部材よりも斜め上方に位置する前記地盤面へ延びて該地盤面と接するサポート部材と、前記ベース部材を前記構築物に対して着脱自在に固定する固定部材と、を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、前記固定部材は、前記脚部材に対して上下方向に進退自在に構成されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、前記サポート部材は、前記地盤面に向けて進退自在に構成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、前記サポート部材は、作業員が歩行可能な上面を有することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、前記固定部材を複数個備えると共に、隣接する前記固定部材間を接続する棒状の接続部材を備えていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、前記構築物は磁性体から構成されており、前記固定部材が磁石であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固定部材により足場を構築物に固定し、サポート部材を地盤面と接触させて、足場を地盤面に安定して立設させるので、傾斜した地盤面であっても足場を歩行する作業員の安全を確保することができる。また、構成が簡易であるので、設置、撤去及び移動が非常に容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一の実施形態に係る可動式仮設足場を示す図であり、(a)は側面図であり、(b)は(a)のA矢視図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る可動式仮設足場の斜視図である。
図3】足場部材及びサポート部材の斜視図である。
図4】ベース部材を示す図である。
図5】(a)、(b)はサポート部材の変形例を示す図である。
図6】本発明の第二の実施形態に係る可動式仮設足場を示す図であり、(a)は側面図であり、(b)は(a)のC矢視図であり、(c)は(a)のD矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0011】
〔第一の実施形態〕
本発明の第一の実施形態に係る可動式仮設足場について図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本発明の第一の実施形態に係る可動式仮設足場を示す図であり、(a)は側面図であり、(b)は(a)のA矢視図である。図2は、本発明の第一の実施形態に係る可動式仮設足場の斜視図である。本実施形態に係る可動式仮設足場は、傾斜した地盤面に沿って斜め上下方向に配設された構築物の側方に着脱自在に固定される点に特徴がある。
【0012】
まず、本発明の各実施形態に係る可動式仮設足場が固定される構築物の一例について説明する。
可動式仮設足場1が固定される構築物としては、例えばダム内の水を水力発電所へ導水するための水圧鉄管100が好適である。水圧鉄管100は、山等の傾斜した地盤面110等に沿って斜め上下方向に伸びる円筒状の導水パイプである。水圧鉄管100には非常に高い水圧が加わるため、鋼鉄など高強度の素材を用いて作製されている。

可動式仮設足場1は、水圧鉄管100の側方において、地盤面110に立設され、且つ水圧鉄管100に着脱自在に固定される。可動式仮設足場1は、作業員が歩行する歩行面を形成する足場部材10と、足場部材10を支持しつつ地盤面110に立設される脚部材21を有したベース部材20と、足場部材10から、ベース部材20と地盤面110との接触部位110aよりも斜め上方に位置する地盤面110bへ延びて地盤面110bと接するサポート部材40と、ベース部材20を水圧鉄管100に対して着脱自在に固定する磁石70(固定部材)と、を備えている。
【0013】
図3は、足場部材及びサポート部材の斜視図である。
足場部材10は、軽量且つ耐久性のある材料、例えばアルミニウムから作製された長尺、板状の部材であり、長手方向両端部にベース部材20に設けられた支持部材31(図4参照)に係止する係止部11(11A、11B)を備えている。係止部は、係止部11Aのように支持部材31の外側面に係合する凹所を有したフック状の部材とすることができる。また係止部11Bのように、支持部材31の外側面に係合する凹所とすることができる。なお、係止部11Bをフック状の部材としてもよいが、後述するサポート部材40の進退動作を阻害しない位置に形成する必要がある。
足場部材10の係止部11が支持部材31に係止されたときに、足場部材10は、支持部材31の軸線方向周りに上下方向に回動する(例えば図1(a)中矢印B方向)。足場部材10は、長手方向が地盤面110の傾斜に沿った方向に伸び、且つ作業員の歩行面となる上面が略水平となるように設置される。
図1及び図2に示すように、可動式仮設足場1は、地盤面110の傾斜方向にみて上側と下側に配置された2つのベース部材20(20A、20B)を備えている。
【0014】
図4は、ベース部材を示す図である。
各ベース部材20は、互いに平行に地盤面110に立設される2つの脚部材21、21と、2つの脚部材21、21を接続・一体化すると共に、足場部材10を支持する支持部材31を備えている。
脚部材21、21と支持部材31には、金属や樹脂、或いはグラスファイバー等、剛性を有する棒状部材を用いることができる。脚部材21、21と支持部材31には、単管パイプ等の中空のパイプ材を用いることできる。脚部材21、21と支持部材31とは、溶接等により予め固定的に一体化されていてもよいし、クランプ等により着脱自在に一体化されていてもよい。2つの脚部材21のうち、一方の脚部材21は水圧鉄管100側に配置され、他方の脚部材21は一方の脚部材21よりも水圧鉄管100から離間した位置に配置される(図1(b)、図2参照)。
支持部材31は、足場部材10の係止部11が係止されるとともに、足場部材10を支持する。
なお、可動式仮設足場1が有するベース部材20の個数には、特に制限はない。少なくとも足場部材10を撓ませることなく支持することができればよい。
【0015】
脚部材21は、複数の棒状部材を伸縮自在に連結した構成を有する。即ち、脚部材21は、軸方向に貫通した互いに内外径の異なる筒状の中空パイプ21a、21bを入れ子式に配置して、長手方向(図中上下方向)に伸縮自在に連結したものである。各中空パイプ21a、21bは円筒形である必要はなく、互いの外面形状と内面形状が整合し合う形状であればよい。
脚部材21の長さを調整する長さ調整機構は、大径の中空パイプ21aの上端部に貫通形成された1個の貫通穴23と、小径の中空パイプ21bの下端部に貫通形成された複数の貫通穴24と、貫通穴23と何れか1つの貫通穴24とに跨がって挿通されるロックピン25とを有する。貫通穴24は中空パイプ21bの長手方向に沿って複数形成されている。
中空パイプ21aの貫通穴23と中空パイプ21bの何れか1つの貫通穴24とを連通させた状態にて、両穴に跨がってロックピン25を挿通することにより、脚部材21を所定の長さに段階的に調整すると共に、その長さを固定することができる。
図3に示した脚部材21の長さ調整機構は一例であって、脚部材の全長を伸長、又は短縮できる構造であれば、どのような機構を採用してもよい。また、中空パイプの数は説明の便宜のために設定したものであり、この例に限定されない。
【0016】
ここで、支持部材31は、上下方向に進退する小径の中空パイプ21bに固定されている。このため、中空パイプ21bの上下動に伴って支持部材31が上下動する。即ち、脚部材21を伸縮させる際に支持部材31の地盤面110からの高さ位置が変化し、水圧鉄管100に対する足場部材10の高さ位置を調整できる。
なお、脚部材21は、長さ調整機構を備えない構成としてもよい。この場合、支持部材31を脚部材21に対して上下動可能に構成して、足場部材10の地盤面110からの高さ位置を調整可能にすることが望ましい。支持部材31を脚部材21の長手方向に沿って上下動させるには、例えば図6に示す可動式仮設足場2のようにクランプ89を用いて支持部材31を脚部材21に取り付ければよい。
【0017】
脚部材21の下端には敷板27が設けられている。また、敷板27の下面には、脚部材21の地盤面110に対する滑動を防止する滑止部材28が設けられている。滑止部材28としては、ゴムや樹脂等、地盤面との間で高い摩擦力を発生させる部材(高摩擦力発生部材)や、地盤面110に突き刺さる爪や突起を備えた部材等を用いることができる。
滑止部材28の地盤面と接触する部位は、地盤面110の傾斜に応じてその傾斜角度が変更できるように構成されていることが望ましい。
例えば図4に示すように、滑止部材28をネジ止め等の方法により敷板27に対して着脱自在に構成することで、滑止部材28の下面を地盤面110の傾斜に対応させることができる。即ち、傾斜の異なる複数の滑止部材28から、地盤面110の傾斜に応じた滑止部材28を選定して敷板27に装着することで、滑り止め機能を効果的に発揮させることができる。
また、敷板27を脚部材21に対してヒンジ等により回動自在に支持することにより、滑止部材28を地盤面110の傾斜に対応させるようにしてもよい。
【0018】
ベース部材20の上部、言い換えれば足場部材10よりも上方に位置するベース部材20の部位には、作業員の不慮の落下事故を防止する手摺33、35が取り付けられている(図2参照)。手摺33は支持部材31の上方に、ベース部材20が有する2つの脚部材21、21を接続・一体化するように脚部材21、21に取り付けられている。手摺35は、2つのベース部材20A、20Bを接続・一体化するように、各ベース部材20A、20Bの脚部材21に取り付けられている。
【0019】
磁石70は、鋼鉄などの磁性体から作製された水圧鉄管100に対してベース部材20を着脱自在に固定する手段である。磁石70は、水圧鉄管100の表面に密着する湾曲面を有し、水圧鉄管100の表面に磁力により吸着することにより、ベース部材20を水圧鉄管100に対して固定する。
磁石70は、図2示すように脚部材21に取り付けられてもよいし、支持部材31に取り付けられてもよい(図6の支持部材83及び磁石70参照)。
磁石70には、例えばいわゆるリフティングマグネットを用いることができる。リフティングマグネットは、吸着対象への吸着/非吸着(オン/オフ)を自在に切り替えることができるため、着脱が容易となる。電磁石を利用する電磁式リフティングマグネットも、永久磁石を利用する永磁式リフティングマグネットの何れも、磁石70として使用することができる。しかし、後者は電源を必要としないため、可動式仮設足場1の小型化及び軽量化を図ることができる上、可動式仮設足場1の設置箇所が限定されにくいという利点を有する。
水圧鉄管100の側面にリフティングマグネットを吸着させる際には、まずリフティングマグネットの吸着切替スイッチ(不図示)をオフ(非吸着)として水圧鉄管100に対する位置決めを行い、位置が決定した後、リフティングマグネットの吸着切替スイッチをオン(吸着)にして水圧鉄管100に吸着させればよい。また、水圧鉄管100に吸着したリフティングマグネットをオフ(非吸着)にすれば、水圧鉄管100から容易に取り外すことができる。
【0020】
磁石70は脚部材21に対して上下方向に進退自在に取り付けられる。具体的には、磁石70は脚部材21の上下方向に進退自在な状態と、脚部材21の上下方向の任意の部位に固定された状態とを自在に変更可能なクランプ71を備える。クランプ71には、例えば単管クランプを用いることができる。クランプ71は、脚部材21を挟圧保持したときに磁石70を脚部材21に対して進退不能に固定する一方で、クランプ71を緩めたときには、磁石70を脚部材21の上下方向に進退自在にする。また、クランプ71を完全に開放した場合には、磁石70を脚部材21から取り外すことができる。
磁石を脚部材21に対して進退自在に構成することにより、磁石70を水圧鉄管100に対して固定した後に、脚部材21の長さを調整して足場部材10の地盤面110からの高さ位置を調整することができる。
【0021】
可動式仮設足場1が有する磁石70の数には特に制限はない。可動式仮設足場1は、複数の磁石70を有している方がベース部材20をより強固に水圧鉄管100に対して固定できるので好適である。このため、本実施形態においては、各ベース部材20の脚部材21のうち、水圧鉄管側に位置する脚部材21の夫々に磁石70を備えている。
磁石70を固定する水圧鉄管100の部位は、水圧鉄管100の長手方向と直交する断面の中心(水圧鉄管の軸線)を通り、水平方向に伸びる直線(直径を含む線)を考えたとき、この直線と水圧鉄管100の表面との交点に相当する部位とすることが望ましい。この位置は、水圧鉄管100の側方に脚部材21を鉛直方向に立設した場合に、脚部材21と水圧鉄管100とが最短距離となる部位に等しい。また、複数の磁石70を水圧鉄管100の表面に磁着させる場合は、各磁石70を水圧鉄管100の長手方向に沿って配置することが望ましい。
【0022】
ここで、2つの磁石70間は直線、棒状の接続部材73にて接続されている。接続部材73は、磁石70を水圧鉄管100の長手方向に沿って取り付けるためのガイドとして機能する。即ち、接続部材73と水圧鉄管100外面との距離が、接続部材73の長手方向において一定となるように水圧鉄管100の外面に磁石70を装着することで、磁石70を水圧鉄管100の長手方向に沿って取り付けることが可能となる。
水圧鉄管100等の構築物の側面に可動式仮設足場1を着脱自在に固定する手段(固定部材)としては、磁石70以外にも、構築物の側面に着脱自在に吸着する吸盤(吸着手段)を用いることができる。また、構築物が側面にフック等の被係止部材を備えている場合には、可動式仮設足場は、被係止部材に係止するロープやフック等の係止部材を、固定部材として備えてもよい。
【0023】
サポート部材40は、ベース部材20と地盤面110との接触部位110aよりも斜め上方に位置する地盤面110bと接触することにより可動式仮設足場1を補助的に支持して、その安定性を確保する。
図3に示すサポート部材40は、足場部材10と同様に軽量且つ耐久性のある材料、例えばアルミニウム等から作成された長尺、板状の部材である。サポート部材40は、足場部材10の内部(内側)に長手方向に沿って進退自在に挿入されており、地盤面110bに向けて進退する。サポート部材40は、足場部材10の上面を水平に保持しつつ、地盤面110bに接触する。また、サポート部材40は進退動作時に支持部材31とは干渉しない位置に配置されている。
【0024】
可動式仮設足場1は、足場部材10のサポート部材40に対する相対移動を規制するロック機構41を備えている。ロック機構41は、例えば足場部材10の短手方向に位置する各側面に貫通形成された挿通穴42と、サポート部材40の短手方向に位置する各側面に長手方向に沿って複数個貫通形成された挿通穴43と、挿通穴42と何れか1つの挿通穴43とに跨がって挿通されるストッパピン44とから構成することができる。
足場部材10の挿通穴42とサポート部材40の何れかの挿通穴43とを連通させた状態にて、両穴に跨がってストッパピン44を挿通することにより、サポート部材40の足場部材10からの突出長を段階的に調整すると共に、足場部材10に対するサポート部材40の相対移動を規制する。
なお、上記方式のロック機構は一例であって、サポート部材40の足場部材10からの突出長を調整することができ、且つサポート部材40が足場部材10内に没入することを阻止することができる構造であれば、どのような機構を採用してもよい。
【0025】
図3においてサポート部材40は、作業員が歩行可能な上面(歩行面)を有する。特に、サポート部材40は足場部材10内に進退自在に収容されているので、足場部材10との間で連続的な歩行面を形成することができ、作業員が歩行可能な歩行面を増大させることができる。
サポート部材40は、地盤面110と接触する長手方向の端部下面にサポート部材40の地盤面110に対する滑動を防止する滑止部材45を備えている。滑止部材45としては、ゴムや樹脂等、地盤面110との間で高い摩擦力を発生させる部材(高摩擦力発生部材)や、地盤面110に突き刺さる爪や突起等の部材を用いることができる。
【0026】
サポート部材の変形例について説明する。図5(a)、(b)はサポート部材の変形例を示す図である。
図5(a)に示すサポート部材50は、足場部材10によって長手方向に進退自在に支持された棒状部材51と、棒状部材51の先端において軸支部52によって回動自在に支持された滑止部材53とを備えている。棒状部材51は、地盤面110bに向けて進退し、足場部材10の上面を略水平に保持しつつ、地盤面110bに接触する。
棒状部材51の外面には雄ネジが形成されており、足場部材10の長手方向一側面に形成された穴54内に形成された雌ネジと螺合する。棒状部材51を軸周りに回転させることにより、棒状部材51の突出長を無段階に調整でき、足場部材10に対するサポート部材50の相対移動を禁止することができる。また、滑止部材53を軸支部52周りに回動させることで、滑止部材53の下面(地盤面110との接触面)の角度を地盤面110の傾斜に応じて調整することができる。
【0027】
サポート部材は、図5(b)に示すサポート部材60のように、脚部材21の適所から、脚部材21と地盤面110との接触部位110aよりも斜め上方に位置する地盤面110bへ延びて、地盤面110bと接触する部材としてもよい。図示するサポート部材60は、脚部材21の適所から突出形成された中空のパイプ61と、パイプ61によって進退自在に支持された棒状部材62と、棒状部材62の先端に配置された滑止部材63とを備える。棒状部材62は地盤面110bに向けて進退し、足場部材10の上面を略水平に保持しつつ、地盤面110bに接触する。パイプ61の内面には雌ネジが形成され、棒状部材62の外面には雄ネジが形成されており、両ネジは螺合する。棒状部材62を軸周りに回転させることにより、棒状部材62の突出長を無段階に調整できる、パイプ61に対する棒状部材62の相対移動を禁止することができる。なお、サポート部材60は、ベース部材20A、20B(図1(a)参照)の何れに設けてもよい。
【0028】
このようにサポート部材を備えることにより、可動式仮設足場1が地盤面110と複数の箇所において接触し、可動式仮設足場1を支持することができるので、可動式仮設足場1の安定性が高まる。
また、滑止部材は図5(a)に示す滑止部材53のように、地盤面110の傾斜に応じて接触面(下面)の角度を調整できるように、サポート部材の先端部によって回動自在に軸支されていてもよい。
なお、可動式仮設足場は、足場部材10から延びるサポート部材(40又は50)と、脚部材21から延びるサポート部材60の双方を備えてもよい。
【0029】
本実施形態に係る可動式仮設足場の設置方法について説明する。
可動式仮設足場1を設置する場合は、予め2つのベース部材20A、20Bと足場部材10とを一体化させておく。即ち、2つのベース部材20A、20Bの各支持部材31、31に足場部材10の係止部11A、11Bを夫々係止して、側面視概略H形状の仮設足場を構築しておく。
可動式仮設足場1を、水圧鉄管100の作業対象となる部位の側方に立設させる。
一方のベース部材20に設けられた磁石70(例えば斜面の下側に位置するベース部材20Aに設けられた磁石70)を水圧鉄管100の側面に固定する。このとき、クランプ71を緩めておき、磁石70が、脚部材21の長手方向に自在に進退するようにしておく。非吸着状態(オフ)の磁石70を水圧鉄管100の側面の適所に配置する。具体的には、水圧鉄管100の長手方向と直交する断面において水平方向に伸びる直径の延長線上に磁石70を配置する。その後、磁石70を吸着状態(オン)にして、磁石を水圧鉄管100の側面に固定する。
【0030】
同様にして、他方のベース部材20に設けられた磁石70(例えば斜面の上側に位置するベース部材20Bに設けられた磁石70)を水圧鉄管100の側面に固定する。このとき、接続部材73と水圧鉄管100外面との距離が、接続部材73の長手方向において一定となる位置に磁石70を配置する。
続いて、脚部材21の長さを調整して、足場部材10の地盤面110からの高さを作業に適した位置となるように設定する。クランプ71を緩めたまま、脚部材21の中空パイプ21bを長手方向に上下動させて中空パイプ21aの貫通穴23と中空パイプ21bの何れかの貫通穴24とを連通させ、両穴に跨がってロックピン25を挿通して、脚部材21を固定する。
クランプ71を脚部材21に締結して、磁石70を脚部材21に固定する。
【0031】
最後に、サポート部材40を足場部材10から突出させて、ベース部材20Bと地盤面110との接触部位110aよりも斜め上方に位置する地盤面110bと接触させる。
設置した可動式仮設足場1を移動させる場合は、サポート部材40を足場部材10内に退避させ、磁石70の吸着をオフにして可動式仮設足場1を水圧鉄管100から取り外し、次の作業場所まで移動させて、上記と同様の設置作業を行えばよい。
なお、本実施形態に示した可動式仮設足場は、傾斜した地盤面のみならず、地盤面の高さが段階的に変化する階段に設置することも可能である。
【0032】
〔第二の実施形態〕
本発明の第二の実施形態に係る可動式仮設足場について図6に基づいて説明する。図6は、本発明の第二の実施形態に係る可動式仮設足場を示す図であり、(a)は側面図であり、(b)は(a)のC矢視図であり、(c)は(a)のD矢視図である。本実施形態に係る可動式仮設足場は、いわゆる一側足場であり、ベース部材が1つの脚部材を有する点に特徴がある。以下、第一の実施形態と同様の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
本実施形態に示す可動式仮設足場2は、地盤面の傾斜方向に沿って上下方向に3つのベース部材80(80A、80B、80C)を備えている。
夫々のベース部材80は、図6(b)に示すように、地盤面110に立設された1つの脚部材81と、脚部材81から脚部材の長手方向と直交する方向に突出して足場部材10(10A、10B)を支持する支持部材83と、支持部材83の姿勢を維持する補強材としての斜材85と、を備える。斜材85の一部は支持部材83の適所に固定されており、支持部材83と斜材85とは片持ち状のブラケット87を構成する。
【0034】
支持部材83と斜材85は、クランプ89により脚部材81に固定されている。クランプ89には、例えば単管クランプを用いることができる。クランプ89は、脚部材81を挟圧保持したときに支持部材83と斜材85を脚部材81に対して進退不能に固定する一方で、クランプ89を緩めたときには、支持部材83と斜材85を脚部材81の長手方向に進退自在にする。従って、クランプ89を緩めて脚部材81の長手方向における支持部材83の位置をずらすことにより、足場部材10の地盤面110からの高さ位置を自在に調整することができる。なお、クランプ89を完全に開放した場合には、支持部材83と斜材85を脚部材81から取り外すことができる。
支持部材83には第一の実施形態と同様に足場部材10の係止部11(11A、11B)が係止される。
【0035】
本実施形態に係る可動式仮設足場2は、水圧鉄管100の長手方向に沿って3つの磁石70(70a、70b、70c)を有している。3つの磁石のうち中央に位置する磁石70aのみが、ベース部材80Aの支持部材83に固定されている。支持部材83は、脚部材81の長手方向に自在に進退することから、磁石70aも脚部材81の長手方向に対して自在に進退する。その他の磁石70b、70cは、直線的に伸びる棒状の接続部材73によって磁石70aと接続されている。接続部材73は、第一の実施形態と同様に、3つの磁石70を水圧鉄管100の長手方向に沿って取り付けるためのガイドとして機能する。
【0036】
地盤面110の傾斜方向にみて最上方に位置するベース部材80Bと中央に位置するベース部材80Aの夫々の支持部材83には、足場部材10Aが係止されている。足場部材10Aは第一の実施形態に示した足場部材10(図3参照)と同様の構成であり、その内部にサポート部材40を収容している。
地盤面110の傾斜方向にみて中央に位置するベース部材80Bと最下方に位置するベース部材80Cの夫々の支持部材83には、足場部材10Bが係止されている。足場部材10Bは軽量且つ耐久性のあるアルミニウムから作製された長尺、板状の部材から構成されている。足場部材10Bは、長手方向両端部に支持部材83に係止する係止部11Aを備えている。即ち足場部材10Bは、内部にサポート部材40を収容していない以外は、足場部材10Aと略同様の構成である。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、ベース部材が有する脚部材を1つとしたので、可動式仮設足場の軽量化を図ることができる。また、ベース部材及び足場部材は、本実施形態に示したように、適宜増設することができる。
なお、第一の実施形態に係る可動式仮設足場を構成する各部材と、第二の実施形態に係る可動式仮設足場を構成する各部材は、矛盾しない限り相互に入れ替えて実施してもよい。
【0038】
〔本発明の実施態様例と効果〕
<第一の実施態様>
本態様に係る可動式仮設足場(1、2)は、傾斜した地盤面110に沿って斜め上下方向に配設された水圧鉄管100(構築物)の側方において、地盤面110に立設され、且つ水圧鉄管100に着脱自在に固定される可動式仮設足場である。可動式仮設足場は、足場部材10と、足場部材10を支持しつつ地盤面110に立設される脚部材(21、81)を有したベース部材(20、80)と、足場部材10、又はベース部材(20、80)から、ベース部材よりも斜め上方に位置する地盤面110bへ延びて地盤面110と接するサポート部材(40、50、60)と、ベース部材(20、80)を水圧鉄管に対して着脱自在に固定する磁石70(固定部材)と、を備えたことを特徴とする。
本実施態様に係る可動式仮設足場によれば、固定部材により足場を構築物に固定し、サポート部材を地盤面と接触させて、足場を地盤面に安定して立設させるので、傾斜した地盤面であっても足場を歩行する作業員の安全を確保することができる。また、構成が簡易であるので、設置、撤去及び移動が非常に容易である。
【0039】
<第二の実施態様>
本態様に係る可動式仮設足場においては、固定部材(磁石70)が脚部材(21、81)に対して上下方向に進退自在に構成されている点に特徴がある。
即ち、第一の実施形態において磁石70は、立設された脚部材21の長手方向に自在に進退するようにクランプ71によって脚部材21に取り付けられている。また、第二の実施形態において磁石70は、立設された脚部材81の長手方向に自在に進退する支持部材83の取り付けられており、脚部材81に対して自在に上下動する構成である。
本実施態様によれば、磁石70を脚部材に対して上下動自在に構成したので、磁石の取り付けに適した水圧鉄管100の側面部位に合わせて、脚部材に対する磁石70の位置を調整できる。
【0040】
<第三の実施態様>
本態様に係る可動式仮設足場1においてサポート部材(40、50、60)は、地盤面110bに向けて進退自在に構成されていることを特徴とする。
地盤面110bの傾斜角度に対応してサポート部材を進退させることで、サポート部材を確実に地盤面110bに接触させることができ、可動式仮設足場1を補助的に支持して、その安定性を確保することができる。
【0041】
<第四の実施態様>
本態様に係る可動式仮設足場1においてサポート部材40は、作業員が歩行可能な上面を有することを特徴とする。
作業員はサポート部材40の上面を歩行することができるので、足場部材10の上面と合わせ、全体として歩行面が増大する。
【0042】
<第五の実施態様>
本態様に係る可動式仮設足場は、磁石70(固定部材)を複数個備えると共に、隣接する磁石間を接続する棒状の接続部材73を備えていることを特徴とする。
接続部材73と水圧鉄管100外面との距離が、接続部材73の長手方向において一定となるように水圧鉄管100の外面に磁石70を装着することで、磁石70を水圧鉄管100の長手方向に沿って取り付けることが可能となる。即ち、接続部材73は、磁石70を水圧鉄管100の長手方向に沿って取り付けるためのガイドとして機能する。
【0043】
<第六の実施態様>
本態様に係る可動式仮設足場において水圧鉄管100(構築物)は磁性体から構成されており、固定部材が磁石であることを特徴とする。
本実施態様に係る可動式仮設足場は、水圧鉄管100の側方に立設する仮設足場として好適である。
【符号の説明】
【0044】
1、2…可動式仮設足場、10…足場部材、11…係止部、20…ベース部材、21…脚部材、21a、21b…中空パイプ、23、24…貫通穴、25…ロックピン、27…敷板、28…滑止部材、31…支持部材、33、35…手摺、40…サポート部材、41…ロック機構、42、43…挿通穴、44…ストッパピン、45…滑止部材、50…サポート部材、51…棒状部材、52…軸支部、53…滑止部材、54…穴、60…サポート部材、61…パイプ、62…棒状部材、63…滑止部材、70…磁石、71…クランプ、73…接続部材、80…ベース部材、81…脚部材、83…支持部材、85…斜材、87…ブラケット、89…クランプ、100…水圧鉄管、110…地盤面、110a…接触部位、110b…地盤面
図1
図2
図3
図4
図5
図6