(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
セラミックス製品の多くは、機能及び構造部材であるセラミックス部と、金属からなる電極部から構成されている。このようなセラミックス製品と電極部との組み合わせとしては、例えば、積層セラミックスコンデンサー(Ni、Pd、Pt電極)、LTCC部品(Ag、Cu、Ag−Pd電極)、ピエゾアクチュエータ(Pd電極)、半導体パッケージ(W電極)、スパークプラグ(Ir、Pt電極)などが挙げられる。
しかしながら、Ni、Cu、Wは、セラミックス部と共に焼成する際に雰囲気制御が必要であるため、セラミックス部の本来の性能を発揮し難くなる。また、製造コストが高くなるという問題がある。一方、Agは融点が低い(962℃)ため、適用するセラミックスが制限され、さらに低温で焼成するためにセラミックスの特性が低下することがある。また、Pd、Ir、Ptといった貴金属材料は高価であるため、大面積を必要とする電極には適用し難い。
【0003】
一方、セラミックス部に用いる酸化物として、常温での抵抗値が高く、温度の上昇とともに抵抗値が減少する負の抵抗温度特性を有するランタンコバルト系酸化物が知られている(特許文献1,2)。また、特許文献2の導電性酸化物は、室温付近での抵抗値が高く、しかもB定数の勾配が小さく、また高温でのB定数の勾配が大きいという特性を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セラミックス製品の電極部を金属から形成すると上述のような種々の問題が生じるため、本発明者は電極部を酸化物(セラミックス)で置き換えることを検討した。しかしながら、従来の酸化物は金属に比べると導電率が低く、かつB定数(温度係数)が大きいため、金属と代替することは困難であった。なお、導電率が大きな酸化物として、ルテニウム系酸化物(RuO
2、SrRuO
3等)が知られているが、Ruが高価であるという問題がある。
そこで、本発明は、導電率が高く、かつB定数(温度係数)が小さく、導電性材料として適した酸化物焼結体及びそれを用いた配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物焼結体は、
基体又は基板に形成される導電体を構成する酸化物焼結体であって、組成式:REaCobNicOx(但し、REは希土類元素を表し、a+b+c=1、1.3≦x≦1.7)で表され、ペロブスカイト型酸化物結晶構造を有するペロブスカイト相を含み、前記a,b,cが下記関係を満たすことを特徴とする。
0.459≦a≦0.535、
0.200≦b≦0.475、
0.025≦c≦0.300
このような酸化物焼結体によれば、3価のCoと2価のNiの構成比率を変化させることで、導電率およびB定数(導電率の温度係数)を制御することが可能となり、前記a,b,cを上記の範囲内に設定することにより、導電率を高く、且つ、B定数(温度係数)を小さく制御することが可能となる。そして、上記組成式とすることで、酸化物焼結体の直流4端子法にて測定した25℃における導電率が3.0S/cm以上となり、かつ25℃〜870℃におけるB定数(導電率の温度係数)が2500K以下となり、導電性材料として適した特性が得られる。さらに、前記a,b,cを上記の範囲内に設定することにより、室温から1000℃まで変化させた際の熱膨張係数を2.0×10
−5K
−1以下と小さくすることができ、この酸化物焼結体を導電性材料として基体や基板に形成するにあたり、基体や基板を構成する材質との熱膨張係数の合わせ込みが容易となるといった利点を得られ、また、高温環境下の使用に適した酸化物焼結体を得ることができる。
【0007】
REは、Laであることが好ましい。
この構成によれば、効果的に導電率が大きく、且つ、B定数が小さい酸化物焼結体が得られる。
【0008】
前記a,b,cが下記関係を満たすことが好ましい。
0.474≦a≦0.524、
0.200≦b≦0.475、
0.025≦c≦0.300
この構成によれば、より緻密な組織を有する酸化物焼結体が得られる。
【0009】
REは、Laであるとともに、前記b,cが下記関係を満たすことが好ましい。
0.200≦b≦0.375、
0.125≦c≦0.300
このような酸化物焼結体によれば、25℃での導電率が250S/cm以上、かつB定数が600K以下となり、導電率がさらに高くなり、かつB定数がさらに小さくなる。また、このような酸化物焼結体によれば、熱膨張係数を1.6×10
−5K
−1以下とさらに小さくすることができる。
【0010】
前記ペロブスカイト相に加え、さらにRE
4Co
3O
10またはRE
4Ni
3O
10を含むことが好ましい。
このような酸化物焼結体によれば、25℃での導電率が250S/cm以上、かつB定数が600K以下となり、導電率がさらに高くなり、かつB定数がさらに小さくなる。
【0011】
また、本発明の酸化物焼結体は、アルカリ土類金属元素を実質的に無含有とすることが好ましい。アルカリ土類金属元素を実質的に無含有とすることで、高温環境下(例えば、500℃以上)の温度領域においても酸化物焼結体自身の重量変化、即ち酸素吸放出が生じ難くなり、導電率やB定数の変化が生じ難くなる。これにより、高温環境下にて使用する導電性材料として適した酸化物焼結体が得られる。
【0012】
本発明の配線基板は、
前記基板としての絶縁基板の表面に、前記酸化物焼結体を
前記導電体である導電体層として形成してなる。これにより、貴金属材料を用いることなく、導電性に優れた導体層を
基板である絶縁基板の表面に形成した配線基板を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、導電率が高く、かつB定数(温度係数)が小さく、導電性材料(導電体)として適した酸化物焼結体及びそれを用いた配線基板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、組成式:REaCobNicOx(但し、REは希土類元素を表し、a+b+c=1、1.3≦x≦1.7)で表され、ペロブスカイト型酸化物結晶構造を有するペロブスカイト相を含み、さらにa、b、cが0.459≦a≦0.535、0.200≦b≦0.475、0.025≦c≦0.300の関係を満たす。
【0016】
ここで、aが0.459未満である(つまり、REの割合が少な過ぎる)か、又はaが0.535を超える(つまり、REの割合が多過ぎる)場合、酸化物焼結体の焼結性に劣る。
また、cが0.025未満である(つまり、Niの割合が少な過ぎる)場合、25℃における導電率が3.0S/cm未満となり、かつB定数が2500Kを超え、導電性材料として適さない。一方、cが0.300を超える(つまり、Niの割合が多過ぎる)場合、酸化物焼結体の焼結性に劣る。
bが0.200未満である(つまり、Coの割合が少な過ぎる)か、又はbが0.475を超える(つまり、Coの割合が多過ぎる)場合、他の元素の割合が上記範囲を外れ、導電性材料として適さないか、又は酸化物焼結体の焼結性に劣る。
なお、本発明の実施形態に係る酸化物焼結体がすべてペロブスカイト相からなる場合には、理論上はx=1.5となるが、酸素が量論組成からずれることがあるため、1.3≦x≦1.7と規定している。
【0017】
RE(希土類元素)としては、周期表の3族元素の中から選ばれる少なくとも1種が採用されればよく、その中でもLa、Pr、Ce及びGdから選ばれる1種以上を用いることが導電率及びB定数の制御に適しており、特にLaを用いると導電率を効果的に大きく、且つ、B定数小さく制御することができるので好ましい。
【0018】
なお、本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、上記ペロブスカイト相を含んでいればよく、ペロブスカイト相の含有割合は特に限定されない。ここで、酸化物焼結体の粉末X線回折(XRD)測定により、RE・MO
3(但し、MはCo又はNi)の3元系酸化物のピークが検出された場合、酸化物焼結体がペロブスカイト相を含んでいるものとみなす(
図2〜
図4参照)。酸化物焼結体中に上記ペロブスカイト相を50質量%以上含んでいると好ましい。
【0019】
さらに、a、b、cが、0.474≦a≦0.524、0.200≦b≦0.475、0.025≦c≦0.300の関係を満たすと、酸化物焼結体がより緻密な組織となるので好ましい。
特に、RE(希土類元素)としてLaを用いつつ、b、cが、0.200≦b≦0.375、0.125≦c≦0.300の関係を満たすと、25℃での導電率が250S/cm以上、かつB定数が600K以下となり、導電率がさらに高くなり、かつB定数がさらに小さくなるので好ましい。また、b、cのモル比がこの範囲にあると、酸化物焼結体は上記ペロブスカイト相に加え、さらにRE
4Co
3O
10またはRE
4Ni
3O
10を含む傾向にある。なお、酸化物焼結体の粉末X線回折(XRD)測定により、RE
4Co
3O
10またはRE
4Ni
3O
10のピークが検出された場合、酸化物焼結体がこれらを含んでいるものとみなす(
図2〜
図4参照)。
【0020】
また、本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、導電性に影響を与えない範囲で極微量のアルカリ土類金属元素を含有することを排除するものではないが、アルカリ土類金属元素を実質的に無含有とすることが好ましい。室温から900℃近傍までの温度領域において酸化物焼結体が晒された場合にも、当該焼結体の重量変化、即ち酸素吸放出が生じ難くなる。これにより、高温環境下にて使用する導電性材料として適した酸化物焼結体が得られる。なお、本発明において、「アルカリ土類金属元素を実質的に無含有」とは、蛍光X線分析(XRF)によってもアルカリ土類金属元素が検出ないし同定できないことを意味するものである。
【0021】
本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、原料粉末と有機バインダ等を混合したスラリーを、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で、例えば1250〜1450℃で1〜5時間焼成して製造することができる。焼成温度が1250℃未満であると、緻密化しないことがあるため、所望の導電率及びB定数が得られないことがある。焼成温度が1450℃を超えると、過焼結となり緻密性が低下するため、所望の導電率及びB定数が得られないことがある。
【0022】
本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、例えば、各種電極材料、電気配線材料、熱電材料、ヒータ材料、温度検知用素子等に、金属の代替として用いることができる。また、本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、抵抗体素子等に用いることもできる。
本発明の実施形態に係る配線基板は、セラミック基板の表面に、上記した導電性酸化物焼結体を導体層として形成してなる。セラミック基板としては、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素等のセラミック体を用いることができる。
【0023】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【0024】
<実施例>
まず、原料粉末として、REOH
3又はRE
2O
3、Co
3O
4及びNiO(REは表1に示す希土類元素であり、全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用い、表1に示す組成のREaCobNicOxとなるように、これら原料粉末をそれぞれ秤量した後、湿式混合して乾燥することにより、原料粉末混合物を調製した。なお、原料粉末混合物の調製にあたり、アルカリ土類金属元素についての添加は行っていないものとする。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下、1000〜1200℃で1〜5時間仮焼して仮焼粉末を得た。次に、この仮焼粉末と適量の有機バインダとを加え、これを分散媒のエタノールと共に樹脂ポットに投入し、ジルコニア玉石を用いて湿式混合粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーを80℃で2時間ほど乾燥し、さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得た。
次いで、得られた造粒粉末をプレス機(成形圧力;98MPa)によって、4.0mm×4.0mm×高さ20mmの角柱状の成形体に成形し、その後、大気雰囲気下、1250〜1450℃の温度で1〜5時間焼成した。さらに得られた焼結体を平面研磨し、3.0mm×3.0mm×高さ15mmの酸化物焼結体を得た。
【0025】
得られた各酸化物焼結体について、直流4端子法により導電率を測定した。測定に用いる電極及び電極線にはPtを用いた。また導電率測定は、電圧・電流発生器(エーディーシー社製のモニタ6242型)を用いた。
上記方法で測定した25℃と870℃の導電率より、下記(1)式によりB定数(K)を算出した。
B定数=ln(ρ1/ρ2)/(1/T1−1/T2) ・・・(1)
ρ1=1/σ1
ρ2=1/σ2
ρ1:絶対温度T1(K)における抵抗率(Ωcm)
ρ2:絶対温度T2(K)における抵抗率(Ωcm)
σ1:絶対温度T1(K)における導電率(S/cm)
σ2:絶対温度T2(K)における導電率(S/cm)
T1=298.15(K)
T2=1143.15(K)
【0026】
また、得られた各酸化物焼結体を粉砕して粉末とし、粉末X線回折(XRD)測定を行い、結晶相の同定を行った。測定条件は以下の通りである。
測定装置:リガク社製RINT‐TTR−3(ゴニオ半径285mm)
光学系:集中型光学系ブラッグ-ブレンターノ型
X線出力:50kV−300mA
その他の条件;発散SLIT:1/3°、発散縦制限SLIT:10mm、散乱SLIT:1/3°、受光SLIT:0.3mm、走査モード:FT、計数時間:2.0sec、ステップ幅:0.0200°、走査軸:2θ/θ、走査範囲:20.00°〜120.00°、回転:有
【0027】
さらに、得られた各酸化物焼結体に対し、JIS‐R−1634に基づき焼結性を評価した。具体的には、まず試料の乾燥重量W1、飽水重量W3を測定し、これらの値と以下の式(2)を用いて、吸水率を算出した。
吸水率(%)=(W3−W1)/W1×100 ・・・(2)
そして、以下の基準で評価した。
×:吸水率が0.10wt%を超えた場合
△:吸水率が0.05wt%以上0.10wt%以下の場合
○:吸収率が0.05wt%未満の場合
なお、吸水率の評価結果が、△、○であれば、酸化物焼結体が緻密な組織を有するような良好な焼結性を示し、当該焼結体を導電体として用いることに実用上問題はない。
【0028】
また、得られた各酸化物焼結体に対し、室温から1000℃に変化させた際の熱膨張係数の測定を行った。測定条件は、以下の通りである。
測定装置:リガク社製TMA8310
標準試料:SiO
2
測定雰囲気:大気雰囲気
昇温速度:10.0℃/min
【0029】
得られた結果を表1、
図1〜
図4に示す。なお、表1には記載していないが、得られた各酸化物焼結体に対して、別途に蛍光X線回折(XRF)測定を行った結果、いずれについてもアルカリ土類金属元素は検出されなかった。
【0031】
表1、
図1から明らかなように、組成式:REaCobNicOxで表され、a,b,cが0.459≦a≦0.535、0.200≦b≦0.475、0.025≦c≦0.300の関係を満たす各実施例の場合、ペロブスカイト相を含み、25℃における導電率が3.0S/cm以上となり、かつ25℃〜870℃におけるB定数(導電率の温度係数)が2500K以下となり、導電性材料として適した特性が得られた。
【0032】
なお、REが同一(La)の実施例1〜14において、b,cが、0.200≦b≦0.375、0.125≦c≦0.300の関係を満たす実施例4〜14の場合、25℃での導電率が250S/cm以上、かつB定数が600K以下となり、これら関係を満たさない実施例1〜3に比べて導電率がさらに高くなると共にB定数がさらに小さくなった。また、b,cのモル比がこの範囲にある実施例4〜16の場合、酸化物焼結体はペロブスカイト相に加え、さらにRE
4Co
3O
10またはRE
4Ni
3O
10を含むことがわかった。
また、REが異なること以外、構成元素のモル比(a,b,cの比)が同一である実施例7、15、16において、REがLaである実施例7の導電率が最も高く、かつB定数が最も小さくなった。このことより、REとしてLaが好ましいことがわかる。
【0033】
一方、cが0.025未満である(つまり、Niの割合が少な過ぎる)比較例1、7の場合、25℃における導電率が3.0S/cm未満となり、かつB定数が2500Kを超え、導電性材料として使用が困難であることがわかった。なお、比較例7は、上記特許文献2の組成を再現したものである。
cが0.300を超えた(つまり、Niの割合が多過ぎる)比較例2〜4の場合、酸化物焼結体が比較的大きな吸水を生じ、焼結性に劣った。
aが0.459未満である(つまり、REの割合が少な過ぎる)比較例5の場合、及びaが0.535を超えた(つまり、REの割合が多過ぎる)比較例6の場合も、酸化物焼結体が比較的大きな吸水を生じ、焼結性に劣った。
【0034】
なお、
図1は、実施例1〜3、実施例5〜7、及び比較例1の導電率と温度との関係を示す。
図1から明らかなように、実施例1〜7は比較例1に比べて低温でも導電率が高く、導電率の温度変化(つまり、B定数)が小さいことがわかる。さらに、b,cが、0.200≦b≦0.375、0.125≦c≦0.300の関係を満たす実施例5〜7の場合、実施例1〜3に比べて低温でも導電率がさらに高く、B定数がさらに小さいことがわかる。
また、
図2〜
図4は、それぞれ実施例7、比較例1、比較例4のXRDチャートを示す。実施例7及び比較例1(
図2、
図3)の場合、RE・MO
3(但し、MはCo又はNi)の3元系酸化物のピークが検出され、酸化物焼結体がペロブスカイト相を含んでいることがわかる。一方、比較例4(
図4)の場合、RE・MO
3の3元系酸化物のピークが検出されなかった。さらに、実施例7の場合、RE・MO
3の3元系酸化物のピークに加え、RE(La)
4Co
3O
10のピークも検出された。