【実施例1】
【0036】
a)まず、本実施例の多層配線基板の構成について、
図1に基づいて説明する。
図1に示す様に、本実施例の多層配線基板1は、複数のセラミック層3とそのセラミック層3の間に配置された複数の配線層5とが積層されて一体に焼結されたものであり、セラミック層3には、その積層方向(基板の厚み方向:
図1上下方向)を貫いて配線層5同士や配線層5と表面導電層7と電気的に接続するビア9が形成されている。
【0037】
このうち、セラミック層3は、平面方向に広がる板状の絶縁層であり、例えば、ガラス成分とセラミック成分との混合物を、800〜1050℃程度の低温にて焼成した低温焼成のガラスセラミックで構成されている。
【0038】
詳しくは、各セラミック層3は、例えば、ムライト及び/又はホウケイ酸系ガラスをセラミックの主成分とするガラスセラミックからなり、ホウケイ酸系ガラス中にSiO
2、Al
2O
3、B
2O
3等を含んでいる。
【0039】
また、配線層5は、セラミック層3の広がる方向(平面方向:
図1の左右及び紙面に垂直な方向)において所定方向(ここでは
図1の左右方向)に線状に延びる導電層であり、例えば、ガラスセラミックの焼成の際に低温で同時焼成可能な、Ag、Ag/Pt合金、Ag/Pd合金などの導体で構成されている。
【0040】
表面導電層7は、多層配線基板の表裏の表面に形成された電極パッドであり、例えば、Ag/Ni/Au層を順に積み重ねた構造を有している。
なお、ビア9は、前記配線層5と同様な材料から構成された貫通導通部である。
【0041】
b)次に、本実施例の要部である配線層5の断面形状について説明する。
図2に拡大して示す様に、配線層5の断面、即ち配線層5の延びる方向(配線方向:例えば
図1の左右方向)に対して垂直に破断した断面は、2つの台形を重ね合わせた形状を有している。
【0042】
詳しくは、配線層5を配線方向に対して垂直に破断した断面形状は、前記平面方向に延びる上底11a及び下底11bを有する第1台形部11と上底13a及び下底13bを有する第2台形部13とを積層方向に並べて一体とした形状である。
【0043】
つまり、配線層5の断面形状は、第1台形部11の上底11aと第2台形部13の下底13bとを同じ長さとして、第1台形部11の上底11aと第2台形部13の下底13bとを一致させて一体とした形状である。
【0044】
また、第1台形部11の平面方向における側辺11c、11dと上底11aとで形成されるテーパ角θ1は、60°以上90°未満の範囲の例えば70°であり、第2台形部13の平面方向における側辺13c、13dと上底13aとで形成されるテーパ角θ2は、30°以上60°未満の範囲の例えば45°であり、テーパ角θ1はテーパ角θ2より大きく設定されている。
【0045】
更に、第1台形部11の厚みは、90〜200μmの範囲内の例えば150μmであり、第2台形部13の厚みは、10〜50μmの範囲内の例えば15μmである。
c)次に、多層配線基板1の製造方法の具体例を、
図3及び
図4に基づいて詳細に説明する。
【0046】
<セラミックグリーンシートの製造>
まず、ガラスセラミックからなるセラミック層3を形成するための原料粉末として、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3を主成分とするホウケイ酸系ガラス粉末と、アルミナ粉末とを用意した。
【0047】
また、セラミック層3となるセラミックグリーンシートを形成するために、前記原料粉末以外に、バインダ成分としてアクリル系バインダ、成形後のグリーンシートに適度な柔軟性を与える可塑剤成分としてDOP(ジ・オチクル・フタレート)、適当なスラリー粘度とシート強度を持たせる溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を用意した。
【0048】
次に、前記ホウケイ酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを、重量比で50:50、総量で1kgとなるように秤量して、アルミナ製のポットに入れた。これに、バインダを120gと、可塑剤(DOP)及び溶剤(MEK)の適量を、前記ポットに入れ、5時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
【0049】
そして、
図3(a)に示す様に、得られたセラミックスラリーを用いて、ドクターブレード法により、例えばポリイミドからなる厚さ25μmのキャリアフィルム21上に、セラミックグリーンシート23を形成した。
【0050】
詳しくは、キャリアフィルム21の第1主面21a上に、厚み100〜300μm(例えば150μm)のセラミックグリーンシート(第1のセラミックグリーンシート)23aを形成した。
【0051】
<配線層5の形成>
次に、(
図3(a)とは上下逆の)
図3(b)に示す様に、配線層5を形成するために、まず、キャリアフィルム21の第1主面21aと対向する第2主面21b側から、レーザ光(例えばUV−YAG光)を照射して、キャリアフィルム21を厚み方向に貫通させて、配線方向に伸びるフィルム貫通孔25を形成した。それとともに、第1のセラミックグリーンシート23aに、厚み方向に貫通しない例えば深さ100〜200μmの配線方向に伸びるシート側凹部27を同時に形成した。
【0052】
このフィルム貫通孔25の幅(即ち配線方向に垂直な断面における開口側の幅)は100〜1000μmであり、フィルム貫通孔25及びシート側凹部27により、開口側が大径の凹部29が形成されている。
【0053】
この凹部29の配線方向に垂直な断面形状は、レーザ光を照射した側から反対側へ行くに従って、レーザ光のエネルギー減衰により、その径が小さくなるテーパ形状となっている。
【0054】
つまり、前記凹部29は、レーザ加工によって、レーザ光の入射側の開口が大きな形状、即ち、底部側(
図3(b)下方)の配線幅よりも開口側(
図3(b)上方)の配線幅が大きな逆台形形状となっている。
【0055】
次に、
図3(c)に示す様に、キャリアフィルム21の第2主面21b側から凹部29内に、即ち、フィルム貫通孔25及びシート側凹部27内に、スクリーン印刷等により、配線層5用の導電ペーストを充填して配線パターン31を形成した。なお、この配線パターン31は、シート側凹部27内の第1配線形成部33とフィルム貫通孔25内の第2配線形成部35とからなる。
【0056】
この配線層5用の導電ペーストは、銀粉末100重量部に対して、軟化点が700℃のホウケイ酸系ガラス粉末を2重量部添加した粉末原料に、エチルセルロース樹脂を加えるとともに、溶剤としてターピネオールを加え、3本ロールミルにて混練して作製したものである。
【0057】
次に、
図3(d)に示す様に、第1のセラミックグリーンシート23aからキャリアフィルム21のみを剥離する。
このとき、第1配線形成部33と第2配線形成部35とは連続して一体に形成されており、また、導電ペーストの粘度が(実験等により)適度に調整されているので、キャリアフィルム21を剥離する際に、第2配線形成部35は第1配線形成部33上に残る。
【0058】
次に、
図3(e)に示す様に、第1のセラミックグリーンシート23a上に他の第2のセラミックグリーンシート23bを載置し、加圧することにより積層する。この加圧により、第2配線形成部35は、押しつぶされながら第2のセラミックグリーンシート23b内に押し込まれ、第2配線形成部35は、その幅方向(同図左右方向)の両端部が鋭角となるように変形する。その結果、図示する様な断面形状の配線パターン31が形成される。
【0059】
つまり、第2配線形成部35の第1配線形成部33と反対側(同図上方)の配線幅は、第1配線形成部33側の配線幅より広くなり、第2配線形成部35の(平面方向の)側辺35cのテーパ角度θ2は、第1配線形成部33の側辺33cのテーパ角度θ1より小さくなる。例えばθ1は60°以上90°未満の例えば70°であり、θ2は30°以上60°未満の例えば45°である。
【0060】
なお、上述した各セラミックグリーンシート23a、23b(23と総称する)には、
図4(a)に示す様に、予めビア9に対応する位置に、パンチングにより貫通孔(スルーホール)37が形成され、このスルーホール37に、導電ペーストが充填されてビア形成部39が形成されている。なお、このビア9用の導電ペーストは、配線層5用の導電ペーストと同様なものである。
【0061】
ここで、ビア形成部39の形成は、第1、第2のセラミックグリーンシート23を積層する前の工程において、配線パターン31を形成する前に行ってもよいし、配線パターン31を形成した後に行ってもよい。
【0062】
<グリーンシート積層体の製造>
次に、第1、第2のセラミックグリーンシート23を積層するように、複数のセラミックグリーンシート23を積層して、
図4(b)に示す様に、グリーンシート積層体41を形成した。
次に、
図4(c)に示す様に、グリーンシート積層体41の表面に、導電ペーストを印刷して表面導電パターン43を形成した。なお、この導電ペーストは、配線層5用の導電ペーストと同様なものである。また、表面導体パターン43の形成は、グリーンシート積層体41の表面に行ってもよいし、セラミックグリーンシート23を積層する前の工程においてセラミックグリーンシート23の表面に行ってもよい。
次に、この表面導電パターン43が形成されたグリーン積層体41を、800〜1050℃にて焼成して、(表面導電パターン43が焼成されてなる)表面導電ベース層45を備えた積層焼成体47を形成した。
次に、この積層焼成体47の表面導電ベース層45の表面に、Niメッキ、Auメッキを施して、表面導電層7を形成し、多層配線基板1を完成した。
【0063】
d)次に、本実施形態の効果を説明する。
本実施例の多層配線基板1では、配線層5の断面形状は、第1台形部11の上底11aと第2台形部13の下底13bとを同じ長さとして、第1台形部11の上底11aと第2台形部13の下底13bとを一致させて一体とした形状である。
【0064】
従って、例えば従来の紡錘形の単一の配線層に比べて、第1、第2台形部11、13を積層した形状によって配線層5の厚みを例えば100μm以上に大きくできるので、その断面積を大きくできる。
【0065】
よって、配線層5に高周波信号を印加した場合に、表皮効果によって電流が流れにくいときでも、紡錘形の配線層に比べて電流が流れやすく、大電流を容易に流すことができる。そのため、電流の損失(伝送損失)が少なく、高周波特性が良いという顕著な効果を奏する。
【0066】
この様な多層配線基板1は、例えばパワーモジュールの基板として利用できる。また、高周波(例えば10GHz以上)で、しかも、大電流を流す多層配線基板にも利用できるだけでなく、厚みのある配線層を有する多層配線基板に広く利用することができる。
【0067】
また、本実施例の多層配線基板1の製造方法では、キャリアフィルム21の第1主面21a側にセラミックグリーンシート23を形成し、キャリアフィルム21の第2主面21b側より、キャリアフィルム21を貫通してセラミックグリーンシート23の内部に到るまで、開口側が大径のテーパ状の凹部29を形成し、その凹部29に対して導電ペーストをキャリアフィルム21の第2主面21b側の表面に到るまで充填し、キャリアフィルム21をセラミックグリーンシート23から剥離し、セラミックグリーンシート23側に残された導電ペーストを覆うように他のセラミックグリーンシート23を積層し、その後焼成する。
【0068】
これにより、単にセラミックグリーンシート23に凹部を形成するだけの場合に比べて、十分に厚みある配線パターン31を形成することができる。これにより、上述した様な大電流を流すことができ、しかも高周波特性に優れた配線層5を容易に実現することができる。
【0069】
また、本実施例では、凹部29は、フィルム貫通孔25とシート側凹部27とが一体の構成となるので、フィルム貫通孔25とシート側凹部27とが接続する部分の形状及び径は、完全に一致している。
【0070】
そのため、第1配線形成部33と第2配線形成部35との形成時には、これらは一致するので、この第1配線形成部33と第2配線形成部35とを精度良く位置合わせする必要がない。
【0071】
更に、キャリアフィルム21とセラミックグリーンシート23とは密着しているので、スクリーン印刷等によって配線パターン31を形成する際に、配線パターン31のズレが発生しない。その結果、配線パターン31を精度良く形成することが可能となる。
【0072】
従って、本実施例によれば、配線パターン31が焼成されてなる配線層5の配線位置及び形状の精度が向上するという顕著な効果を奏する。
また、本実施例では、第1配線形成部33と第2配線形成部35とが連続的にセラミックグリーンシート21上に残るため、キャリアフィルム21を剥離する際に、第1配線形成部33の表面がえぐれることはない。
【0073】
しかも、第2配線形成部35の第1配線形成部33と接しない側の表面は、積層時に他のセラミックグリーンシート23に加圧されるため、平坦に形成することが可能となる。
また、本実施例では、キャリアフィルム21の材料として、レーザ光をほぼ100%吸収するポリイミドを用いるので、レーザ光によって容易にフィルム貫通孔25を形成できる。
【実施例4】
【0083】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、前記実施例1とは、凹部を形成する手法が異なるので、異なる点を説明する。
【0084】
本実施例では、凸状部材を押し当てることにより凹部を形成する。
図7に示す様に、凸状部材91で凹部93を形成する場合には、配線パターンに対応した(先端側ほど幅の狭くなった)テーパ形状の凸状部95を有する金型(凸状部材)91を用意し、この凸状部材91を、キャリアフィルム97側から押しつける。
【0085】
これにより、キャリアフィルム97にフィルム貫通孔99をあけるとともに、セラミックグリーンシート101にシート側凹部103を形成する。よって、フィルム貫通孔99及びシート側凹部103からなる逆台形形状の凹部93が形成される。
【0086】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば配線層の断面形状は、前記
図2に示す様に、(平面方向における)左右の両側辺が(同図)上方に向かって広がるような台形形状に限らず、
図8に示す様に、配線層111の左右の一方の側辺111a、111bのみが、上方に向かって広がるような台形形状が挙げられる。
【0087】
なお、
図8に示す様な台形形状は、例えばレーザ光の照射方向が傾斜した場合など、各種の加工状態によって形成されることがある。
(2)また、前記実施例1では、セラミック層の材料として、低温焼成セラミックであるガラス−セラミックを例に挙げたが、アルミナ等の高温焼成セラミックを用いてもよい。
【0088】
(3)更に、前記各実施例では、セラミック層にビアを形成したが、それ以外に、スルーホールを形成してもよい。なお、スルーホールの内周面にはメッキ等によって導電層を形成する。
【0089】
(4)キャリアフィルムとしては、レーザ加工を行う場合には、ポリアミド以外に、PEN等を利用でき、それ以外にも、レーザ光を70%以上吸収するものを採用できる。
(5)また、レーザ加工以外で凹部を形成する場合には、キャリアフィルムの材料としては、凹部の形成が可能な範囲で、周知の各種の材料を使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエステル、PET等の有機高分子フィルムを用いることができる。