【文献】
上田晃ら,含窒素カチオン系化合物添加による澄川地熱水中のシリカ回収,日本地熱学会誌,2000年10月25日,第22巻,249〜258ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生産井からの地熱流体を気水分離器により蒸気及び熱水に分離し、前記分離した蒸気を利用してタービンを駆動させ発電を行い、前記分離した熱水を還元井から地下に還元する地熱利用システムであって、
界面活性剤を添加する界面活性剤添加手段、及び、沈降した固形物を収集する固形物収集手段を有し、地下に還元する前の前記分離した熱水からシリカ成分を回収するシリカ回収装置と、
鋳型剤及び前記シリカ回収装置で回収されたシリカ成分からシリカライトを合成するシリカライト合成炉と、
を備え、
前記シリカライト合成炉の反応熱源として、前記生産井からの地熱流体を利用した加熱手段を有する地熱利用システム。
生産井からの地熱流体を気水分離器により蒸気及び熱水に分離し、前記分離した蒸気を利用してタービンを駆動させ発電を行い、前記分離した熱水を還元井から地下に還元する地熱利用システムにおいてシリカライトを合成する方法であって、
界面活性剤を添加する界面活性剤添加ステップ、及び、沈降した固形物を収集する固形物収集ステップを有し、地下に還元する前の前記分離した熱水からシリカ成分を回収するシリカ回収工程と、
鋳型剤、及び、前記シリカ回収工程で回収されたシリカ成分を、前記生産井からの地熱流体を利用した加熱手段により加熱し、シリカライトを合成する合成工程と、
を備えるシリカライト合成方法。
生産井からの地熱流体を気水分離器により蒸気及び熱水に分離し、前記分離した蒸気を利用してタービンを駆動させ発電を行い、前記分離した熱水を還元井から地下に還元する地熱利用システムにおいて炭酸リチウムを回収する方法であって、
マンガン酸化物を用いたイオン交換酸化物法により、請求項6に記載のシリカ回収工程を経た熱水からリチウムを炭酸リチウムとして回収するリチウム回収工程を備え、
前記リチウム回収工程が、
前記シリカ回収工程を経た熱水にマンガン酸化物を添加し、前記熱水からリチウムマンガン酸化物を生成させるマンガン酸化物添加ステップと、
前記リチウムマンガン酸化物に炭酸ナトリウムを添加する炭酸ナトリウム添加ステップと、
沈降した固形物を収集する固形物収集ステップと、
を備える炭酸リチウム回収方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置は、γ−アルミナ担体が数%、及びカチオン系界面活性剤が数10ppm必要である上、設備構成が複雑となる。よって、更なる設備の簡素化が求められる。また、特許文献1に記載のシリカ回収装置で回収されるシリカ成分は、そのままで処理をするには産業廃棄物となり、廃棄コストの負担が発生する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より単純な構成のシリカ回収装置を用いて、地下に還元される前の熱水中からシリカ成分を収集するとともに、収集したシリカ成分の廃棄コストを低減できる地熱利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の地熱利用システムは以下の手段を採用する。
本発明は、生産井からの地熱流体を気水分離器により蒸気及び熱水に分離し、前記分離した蒸気を利用してタービンを駆動させ発電を行い、前記分離した熱水を還元井から地下に還元する地熱利用システムであって、界面活性剤を添加する界面活性剤添加手段、及び、沈降した固形物を収集する固形物収集手段を有し、地下に還元する前の前記分離した熱水からシリカ成分を回収するシリカ回収装置と、鋳型剤及び前記シリカ回収装置で回収されたシリカ成分からシリカライトを合成するシリカライト合成炉と、を備える地熱利用システムを提供する。
【0009】
上記発明によれば、シリカ回収装置を設けることにより、分離した熱水に含まれるシリカ成分を回収することができる。これにより、地下に還元される熱水に含有されるシリカ量が減少するため、還元井へのシリカの付着を抑制して還元井の閉塞を抑制し、還元井の追堀までの寿命を延長することができる。シリカ回収装置は、界面活性剤添加手段を有し、分離した熱水に界面活性剤を添加することができる。熱水に所定量の界面活性剤を含有させると、重合シリカが生成され、溶解性シリカ(シリカモノマー)と分離して沈降する。沈降した重合シリカは、固形物収集手段により収集され得る。また、シリカ回収装置は、溶解度差を用いてシリカ成分を分離するために熱水の温度を下げるシステムとは異なり、熱水の温度を下げることなくシリカ成分を回収可能であるため、熱水の温度を変化させる熱交換器も不要となり、配管や環元井へ流れる熱水に含まれる不純物の析出抑制に好ましい。
【0010】
重合シリカは産業廃棄物であるため、そのままでは廃棄に新たに費用が発生するが、上記発明によれば、回収されたシリカ成分をシリカライト合成炉でシリカライトとすることができる。シリカライトは廃棄物ではなく、ゼオライト吸着剤として高価で市場に流通しており、有用で価値のある資源になるので、シリカライトの回収・運搬には新たな費用を発生させずに、さらには利益を発生することも可能となる。
【0011】
上記発明の一態様において、前記界面活性剤添加手段から添加される界面活性剤が、カチオン高分子化合物であることが好ましい。
【0012】
界面活性剤としてカチオン高分子化合物を選定することで、他の界面活性剤を用いた場合と比較して少ない使用量でシリカ成分を回収することが可能となる。
【0013】
上記発明の一態様において、前記シリカライト合成炉の反応熱源として、前記生産井からの地熱流体を利用した加熱手段を有す
る。
【0014】
シリカ成分と鋳型剤との合成反応において、反応温度は150℃程度が適温とされている。生産井からの地熱流体は、一般に150℃以上であるため、これを利用することで、別途加熱手段を設けずに、シリカライト合成を促進させることができる。
【0015】
上記発明の一態様において、前記鋳型剤が、結晶化調整剤または構造規定剤であることが好ましい。
【0016】
上記発明の一態様において、地熱利用システムは、マンガン酸化物を用いたイオン交換酸化物法により前記シリカ回収装置を経由した熱水からリチウムを炭酸リチウムとして回収するリチウム回収装置を更に備え、前記リチウム回収装置が、前記シリカ回収装置を経由した熱水にマンガン酸化物を添加し、前記熱水からリチウムマンガン酸化物を生成させるマンガン酸化物添加手段と、前記リチウムマンガン酸化物に炭酸ナトリウムを添加する炭酸ナトリウム添加手段と、沈降した固形物を収集する固形物収集手段と、を備えることが好ましい。
【0017】
さらに、地熱流体には、一般的にリチウムなど希少金属が数10ppmから数100ppmの濃度で含まれ、例えば海水より桁違いに高い濃度である。
地熱流体から分離した熱水から直接にイオン交換酸化物法を用いてリチウムを回収しようとすると、シリカ成分が多く含まれるため高濃度シリカが同時に析出してリチウムの回収が困難となる。上記発明の一態様によれば、シリカ回収装置を経由した熱水は、シリカ成分が大きく除去されているため、リチウムを容易に回収することが可能となる。また、イオン交換酸化物法は、熱水の温度を下げることなく実施できるため、熱水の温度を変化させる熱交換器も不要でとなり、配管や環元井へ流れる熱水に含まれる不純物の析出抑制に好ましい。また、イオン交換酸化物法は、リチウムの回収率が高いという利点がある。
【0018】
上記発明の一態様において、前記気水分離器が、界面活性剤を添加する界面活性剤添加手段、及び、沈降した固形物を収集する固形物収集手段を備えていても良い。
【0019】
上記発明の一態様によれば、気水分離器は、生産井からの地熱流体を蒸気及び熱水に気水分離するだけでなく、生産井からの地熱流体からシリカ成分を除くことができる。それにより、タービンへ導入する水蒸気からシリカ成分を削減できるため、タービンのノズルや翼、シール部分に付着しやすかったシリカスケールの発生を大きく抑制することが可能となり、メンテナンス周期や部品交換寿命を延長することが可能となる。
【0020】
また、本発明は、生産井からの地熱流体を気水分離器により蒸気及び熱水に分離し、前記分離した蒸気を利用してタービンを駆動させ発電を行い、前記分離した熱水を還元井から地下に還元する地熱利用システムにおいてシリカライトを合成する方法であって、界面活性剤を添加する界面活性剤添加ステップ、及び、沈降した固形物を収集する固形物収集ステップを有し、地下に還元する前の前記分離した熱水からシリカ成分を回収するシリカ回収工程と、鋳型剤、及び、前記シリカ回収工程で回収されたシリカ成分を、前記生産井からの地熱流体を利用した加熱手段により加熱し、シリカライトを合成する合成工程と、を備えるシリカライト合成方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、生産井からの地熱流体を気水分離器により蒸気及び熱水に分離し、前記分離した蒸気を利用してタービンを駆動させ発電を行い、前記分離した熱水を還元井から地下に還元する地熱利用システムにおいて炭酸リチウムを回収する方法であって、マンガン酸化物を用いたイオン交換酸化物法により、請求項7に記載のシリカ回収工程を経た熱水からリチウムを炭酸リチウムとして回収するリチウム回収工程を備え、前記リチウム回収工程が、前記シリカ回収工程を経た熱水にマンガン酸化物を添加し、前記熱水からリチウムマンガン酸化物を生成させるマンガン酸化物添加ステップと、前記リチウムマンガン酸化物に炭酸ナトリウムを添加する炭酸ナトリウム添加ステップと、沈降した固形物を収集する固形物収集ステップと、を備える炭酸リチウム回収方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、シリカ回収装置を設けることで、還元井へのシリカの付着を抑制することができる。それにより、還元井の寿命を延ばすことが可能となる。回収されたシリカは、シリカライト合成炉でシリカライトとされ、有用な資源となる。
本発明の一態様によれば、シリカ回収装置の後段にリチウム回収装置を設けることで、回収されたリチウムは有用な資源となる。
本発明の一態様によれば、シリカ回収装置を気水分離器に設けることで、タービン内部へのシリカスケールの発生を大きく抑制が可能となり、メンテナンス周期や部品交換寿命を延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る地熱利用システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
図1に、本実施形態に係る地熱利用システム1の概略構成図を示す。地熱利用システム1は、気水分離器2、第1発電部3、第2発電部4、シリカ回収装置5、及びシリカライト合成炉6を備えている。また、地熱利用システム1は、シリカ回収装置5の後段にリチウム回収装置7が設けられていることが好ましい。
【0025】
気水分離器2は、生産井8から噴出した地熱流体(蒸気及び熱水)を、蒸気及び熱水に分離する。生産井8から噴出した地熱流体の温度は、150℃以上とされる。分離された蒸気は、第1発電部3へと導かれる。分離された熱水は、第2発電部4へと導かれる。
【0026】
第1発電部3は、蒸気タービン9、復水器10、及び冷却塔11から構成されている。気水分離器2で分離された蒸気は、まず、蒸気タービン9内へと導かれ、タービンを駆動させて発電を行う。仕事を終えて蒸気タービン9を出た蒸気は、復水器10において凝縮されて復水となった後、冷却塔11へと送られ更に冷却される。冷却塔11からの排水は、復水器9における冷却用の散水として使用される。
【0027】
第2発電部4は、蒸発器12、熱媒タンク13、熱媒蒸気タービン14、復水器15、及び冷却塔16から構成されている。蒸発器12には熱媒タンク13より熱媒17が供給される。熱媒17は、分離された熱水の熱により蒸発可能な低沸点媒体とされる。熱媒17の大気圧での沸点は70℃〜100℃程度とされる。熱媒17としてはイソペンタン、アンモニア、またはフルオロカーボンなどが使用できる。気水分離器2で分離された熱水は蒸発器12の熱水経路18へと導かれ、蒸発器12内にある熱媒17を蒸発させる。蒸発した熱媒は、熱媒蒸気タービン14内へと導かれ、タービンを駆動させて発電を行う。復水器15中には冷却水循環経路19が設けられている。仕事を終えて熱媒蒸気タービンを出た熱媒蒸気は、復水器15において凝縮された後、熱媒タンク17へと戻される。冷却塔16では、冷却水循環経路19に供給するための冷却水が冷却されている。冷却水は、ポンプ20により冷却塔16から冷却水循環経路19へと送られる。
【0028】
蒸発器12の熱水経路18の出口には、環元井21を介して地下に熱水を環元するための環元経路22が接続されている。熱水経路18の出口における熱水(温水)の温度は、熱回収の観点からは極力低い温度としたいところであるが、シリカの含有量により変わり、本実施形態ではシリカスケールの析出抑制のためには、106℃程度以上であることが好ましい。上記温度とすることで、環元経路22(配管)及び還元井21でのシリカスケールの発生を抑制しながら、熱水(温水)の温度エネルギーを利用することができる。
【0029】
環元経路22は途中で分岐され、地下に還元する前の熱水(温水)をシリカ回収装置5へと導くことができる。分岐部Bにはバルブ23が設けられており、熱水(温水)の流路を切り替えることができる。分岐部Bとシリカ回収装置5との間には、熱交換部24が設けられていてもよい。熱交換部24によって、シリカ回収装置5から排出さる熱水(温水)を熱交換により適宜加熱することで、熱水(温水)に残存するシリカ成分によるシリカスケールの発生を大幅に抑制することが可能である。
【0030】
シリカ回収装置5は、熱水貯留容器25、界面活性剤添加手段26、撹拌手段27、及び固形物収集手段28から構成されている。界面活性剤添加手段26には界面活性剤が収容されており、熱水貯留容器25内に所定量の界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、溶解性シリカの重合を促進させ得る化合物であり、カチオン高分子化合物が選択されることが好ましい。カチオン高分子化合物は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(商品名:シャロール(登録商標) DC−902Pなど)などとされる。
【0031】
撹拌手段27は、撹拌翼などとされ、熱水貯留容器25内に導かれた熱水(温水)を撹拌可能に設けられている。
【0032】
固形物収集手段28は、複数の回転部材29と網状ベルト30とを備えるコンベアなどとされる。網状ベルト30は複数の回転部材29の周りに配置され、回転部材29を回転させることにより移動してゆくことができる。網状ベルト30は、腐食性の優れたステンレス系材料や、耐食性と高温耐久性を有するエンジニアリングプラスチック材(テフロン、PEEKなど)で表面を保護したものなどとされる。複数の回転部材29は、熱水貯留容器25内に導かれた熱水(温水)中に生成された固形物が網状ベルト30上に堆積付着でき、且つ、堆積付着した固形物を熱水貯留容器25外へと運び出せるよう配置されている。
【0033】
シリカ回収装置5に導かれた熱水(温水)は、熱水貯留容器25内にプールされる。プールされた熱水(温水)は、所定濃度の界面活性剤が含有されるよう界面活性剤添加手段26から界面活性剤が添加されるとともに、撹拌手段27により穏やかに撹拌されて界面活性剤が全体に行き届くようにする。これにより、熱水(温水)に含まれる溶解性シリカから重合シリカが生成される。凝集した重合シリカは、固形物として熱水(温水)中で沈殿し、熱水貯留容器床面を移動する網状ベルト30に堆積付着する。堆積付着した重合シリカは、熱水貯留容器25外へと搬送され、乾燥させる。網状ベルト30に堆積付着した乾燥した重合シリカは、振動を加える、または、ヘラ上のものでそぎ取ることで容易に回収することができる。固形のシリカ成分が収集された後、熱水(温水)はシリカ回収装置5から排出される。
固形のシリカ成分収集と、シリカ回収装置5からの熱水(温水)排出は、所定の時間(数10分から1時間程度)毎にバッチ式運用を行っても良いし、所定の滞在時間(数10分から1時間程度)を得られるような流量で排出されても良い。熱水貯留容器25内のプールできる容積は、所定時間もしくは所定滞在時間を設けることが出来るような大きな容積を保有し、本実施形態では数100tonの熱水貯留容積となるよう、複数系統のシリカ回収装置5で構成している。
【0034】
また、所定濃度の界面活性剤の添加としては、例えば、シリカが約500ppm〜1000ppm含まれている地下に還元する前の熱水(温水)(100℃〜110℃)をシリカ回収装置5内に導く。熱水貯留容器25内の熱水(温水)に、界面活性剤濃度が10ppm〜20ppmとなるようシャロール DC−902Pを添加し、撹拌すると、約30%の回収率でシリカ成分(重合シリカ)を回収できる。なお、シャロール DC−902Pは、10ppm〜20ppm程度で回収率が飽和する。
【0035】
シリカ回収装置5から排出された熱水(温水)は、ポンプ31などによりリチウム回収装置7に導かれることが好ましい。リチウム回収装置7は、熱水貯留容器32、マンガン酸化物添加手段33、撹拌手段34、熱水貯留容器42、HCl添加手段43、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)添加手段44、撹拌手段45、及び固形物収集手段48から構成されている。マンガン酸化物添加手段33は、熱水貯留容器42に接続されており、熱水貯留容器42で含まれるマンガン酸化物を熱水貯留容器32内に添加することができる。撹拌手段34は、撹拌翼などとされ、熱水貯留容器32内に導かれた熱水(温水)を撹拌可能に設けられている。
【0036】
固形物収集手段48は、複数の回転部材46、および網状ベルト47を備えたコンベアなどとされる。網状ベルト47は複数の回転部材46の周りに配置され、回転部材46を回転させることにより移動してゆくことができる。網状ベルト47は、腐食性の優れたステンレス系材料や、耐食性及び高温耐久性を有するエンジニアリングプラスチック材(テフロン、PEEKなど)で表面を保護したものなどとされる。複数の回転部材46は、熱水貯留容器42内に導かれた熱水(温水)中に生成された固形物が網状ベルト47上に堆積付着でき、且つ、堆積付着した固形物を熱水貯留容器42外へと運び出せるよう配置されている。
前段階で、シリカ回収装置5でシリカ成分が回収され、溶融シリカが大幅に減縮されているので、リチウム回収装置7では、シリカ成分の析出による阻害が少なく安定してリチウムの回収を行うことができる。
【0037】
リチウム回収装置7に導かれた熱水(温水)は、熱水貯留容器32内にプールされ、イオン交換酸化物法によりリチウムマンガン酸化物として吸収する。
詳細には、プールされた熱水(温水)は、所定濃度のマンガン酸化物(H
+MnO
x)がマンガン酸化物添加手段33により添加されるとともに、撹拌手段34により穏やかに撹拌されH
+MnO
xが全体に行き届くようにする。これにより、反応式(1)が生じ、熱水(温水)に含まれるリチウムからリチウムマンガン酸化物(Li
+MnO
x)を形成して沈殿する。
Li
++H
+MnO
x→Li
+MnO
x+H
+・・・(1)
沈殿したLi
+MnO
xは熱水貯留容器42にバルブ41を動作させて移動し、炭酸リチウムとして安定化させて回収される。詳細には、プールされた熱水(温水)は、所定濃度のNa
2CO
3が含有されるよう炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)添加手段44からNa
2CO
3が添加されるとともに、撹拌手段45により穏やかに撹拌されNa
2CO
3が全体に行き届くようにする。また、Li
+MnO
xはHClを添加して、H
+MnO
xと再分離して、その後に炭酸リチウムとして回収される。これにより、反応式(2)及び反応式(3)が生じ、熱水(温水)に含まれるリチウムから炭酸リチウムとして安定化させて回収される。
Li
+MnO
x+HCl→H
+MnO
x+Li
++Cl
−・・・(2)
2Li
++2Cl
−+Na
2CO
3→Li
2CO
3+2NaCl・・・(3)
【0038】
上記で生成された炭酸リチウムは、固形物として熱水(温水)中で沈殿し、熱水貯留容器床面を移動する網状ベルト47に堆積付着する。堆積付着した炭酸リチウムは、熱水貯留容器42外に搬送し、乾燥させる。乾燥させた網状ベルト47に堆積付着した炭酸リチウムは、振動を加える、または、ヘラ上のものでそぎ取ることで容易に回収することができる。炭酸リチウムが収集された後、熱水(温水)はリチウム回収装置7から排出される。
また、Li
+MnO
xにHClを添加して再分離したH
+MnO
xはマンガン酸化物添加手段33より熱水貯留容器32に回送される。また、NaClは環境に問題なければ還元井21から地中に戻してもよいし、ろ過装置で分離回収してもよい。
リチウム回収装置7からの熱水(温水)排出は、所定の時間(数10分程度)毎にバッチ式運用を行っても良いし、所定の滞在時間(数10分程度)を得られるような流量で排出されても良い。熱水貯留容器32、42のプールできる容積は、所定時間もしくは所定滞在時間を設けることが出来るような大きな容積を保有し、本実施形態では数10tonの熱水貯留容積となるよう、複数系統のリチウム回収装置7で構成している。
【0039】
リチウム回収装置7から排出された熱水(温水)は、熱交換部24により適宜加温した後、還元経路22の分岐部Bよりも下流側へと送られる。環元経路22に送られる熱水(温水)の溶融性シリカの濃度は大幅に減少しているが、その熱水(温水)の温度はシリカ成分がスケール化しないよう90℃から105℃程度が好ましい。なお、熱水の加温は、生産井8から噴出される地熱流体を加えて行われても良い。
【0040】
例えば、リチウムが約30ppm〜100ppm含まれているシリカ回収装置から排出された熱水(温水)をリチウム回収装置7内に導く。熱水貯留容器32内の熱水(温水)に、イオン交換酸化物法によりリチウムマンガン酸化物として吸収することで、Liの回収率を向上させ、Na
2CO
3を適量添加し、緩やかに撹拌すると、約60%の回収率でリチウムを回収できる。
リチウムの回収にはイオン交換樹脂を利用するものがあるが、熱水(温水)を冷却してイオン交換樹脂のダメージを抑制する必要があるので、この際に残留している溶融性シリカが析出してイオン交換樹脂の性能を低下させるとともに寿命を短縮する。これに対して本実施形態は熱水(温水)のままでリチウムを回収することができるので、残留している溶融性シリカの析出がなく好ましい。
【0041】
シリカ回収装置5で回収された固形のシリカ成分は、シリカライト合成炉6に搬送される。シリカライト合成炉6は、鋳型剤及び重合シリカを混合させてシリカライトを合成する合成炉である。鋳型剤としては、結晶化調整剤や構造規定剤として用いられるテトラプロピルアンモニウムブロミドなどを選択すると良い。シリカライト合成炉6は、約150℃の熱源が必要であるが、この熱源として生産井8からの地熱流体を利用した加熱手段を有する。該加熱手段は、生産井8から噴出した地熱流体の一部をシリカライト合成炉内の加熱管38へと導き、シリカライト合成炉6で鋳型及び重合シリカを水熱加温することができる。加熱に使用された地熱流体(温水)は、環元経路22の分岐部Bよりも下流側へと送られる。
【0042】
本実施形態の地熱利用システム1によれば、シリカ回収装置5は特許文献1のようにγ−アルミナ担体を用いないため、より単純な装置構成とすることができる。また、高温状態のまま熱水(温水)からシリカ成分を収集できるため、低温下に伴うシリカスケールの発生を抑制できる。
【0043】
回収された重合シリカは、付加価値の高いシリカライトに合成され、高い回収率で収集され得る。これにより、重合シリカの廃棄コストが無用となる上、シリカライトを化学反応に有用な吸着剤として販売することもできる。合成反応の促進には、生産井8からの地熱流体による熱を利用するため、別途熱源を設ける必要がなく、電力消費を抑えられるので、シリカライトの製造コストを低減できる。
【0044】
また、シリカ回収装置5でシリカ成分が大きく除かれた排水をリチウム回収装置7に導くことで、高濃度のシリカ成分による反応阻害が抑制されるため、熱水(温水)から容易にリチウムを回収することができる。リチウム回収装置7では、イオン交換酸化物法によりリチウムが効率よく収集される。イオン交換酸化物法は、イオン交換樹脂を使用しないため、温度の制約が無く、高い回収率でリチウムを回収することができる。回収されたリチウムは、付加価値の高い原料であるため、炭酸リチウムとして安定化させて販売することができる。
【0045】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係る地熱利用システム101は、気水分離器にシリカ回収機能を付与した以外は、第1実施形態と同様の構成とされる。
図2に、本実施形態に係る地熱利用システムの概略構成図を示す。同図において、第1実施形態と同様の構成は同じ符号を付与した。
【0046】
本実施形態に係る気水分離器102は、生産井8から噴出した地熱流体(蒸気及び熱水)を、蒸気及び熱水に分離するとともに、シリカ成分を回収することができる。気水分離器102は、地熱流体貯留容器103、界面活性剤添加手段104、撹拌手段105、及び固形物収集手段106から構成されている。
【0047】
地熱流体貯留容器103には、上部に地熱流体供給口107及び蒸気排出口108、下部に熱水排出口109が設けられている。
界面活性剤添加手段104には界面活性剤が収容されており、地熱流体貯留容器103内に所定量の界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、溶解性シリカの重合を促進させ得る化合物であり、カチオン高分子化合物が選択されることが好ましい。カチオン高分子化合物は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(商品名:シャロール(登録商標) DC−902Pなど)などとされる。
【0048】
撹拌手段105は、撹拌翼などとされ、地熱流体貯留容器103内に導かれた地熱流体を撹拌可能に設けられている。
【0049】
固形物収集手段106は、複数の回転部材110と網状ベルト111とを備えるコンベアなどとされる。網状ベルト111は複数の回転部材110の周りに配置され、回転部材110を回転させることにより移動する。網状ベルト111は、腐食性の優れたステンレス系材料や、耐食性及び高温耐久性を有するエンジニアリングプラスチック材(テフロン、PEEKなど)で表面を保護したものなどとされる。複数の回転部材110は、地熱流体貯留容器103内に導かれた地熱流体中に生成された固形物が網状ベルト111上に堆積付着でき、且つ、堆積付着した固形物を地熱流体貯留容器103外へと運び出せるよう配置されている。
【0050】
気水分離器102に導かれた地熱流体は、地熱流体貯留容器103内にプールされる。プールされた地熱流体は、所定濃度の界面活性剤が含有されるよう界面活性剤添加手段104から界面活性剤が添加されるとともに、撹拌手段105により穏やかに撹拌されて界面活性剤が全体に行き届くとうにする。これにより、地熱流体に含まれる溶解性シリカから重合シリカが生成される。凝集した重合シリカは、固形物として熱水中で沈殿し、地熱流体貯留容器床面を移動する網状ベルトに堆積付着する。堆積付着した重合シリカは、地熱流体貯留容器103外へと搬送され、乾燥させる。網状ベルト111に堆積付着した乾燥した重合シリカは、振動を加える、または、ヘラ上のものでそぎ取ることで容易に回収することができる。回収された重合シリカは、図示しない搬送手段によりシリカライト合成炉6へ搬送される。
【0051】
地熱流体貯留容器103内に導かれた地熱流体は、上記のようにシリカ成分が回収されると同時に、蒸気と熱水とに分離される。分離された蒸気は、蒸気排出口108から排出され第1発電部3へと導かれる。分離された熱水は熱水排出口109から排出され、第2発電部4へと導かれる。
【0052】
本実施形態によれば、上記構成の気水分離器102であれば、地熱流体の温度が高いままで、シリカ成分を回収することができる。気水分離器102によりシリカ成分を回収できるため、蒸気タービン9へ導入する水蒸気に含まれるシリカ成分を大幅に低減できる。それにより、蒸気タービン9内部のノズルや翼、シール部分に付着しやすかったシリカスケールの発生を大きく抑制することが可能となる。
【0053】
なお、第1実施形態及び第2実施形態において、シリカ回収装置5及びリチウム回収装置6から排出される熱水を還元経路22へと戻したが、該熱水は約90℃〜100℃であるため、近隣設備の冷暖房設備または給湯設備にも活用することが可能である。