(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851903
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】作動液
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20160114BHJP
C10M 107/34 20060101ALN20160114BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20160114BHJP
C10M 145/26 20060101ALN20160114BHJP
C10M 129/40 20060101ALN20160114BHJP
C10M 145/34 20060101ALN20160114BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20160114BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20160114BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20160114BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20160114BHJP
【FI】
C10M169/04
!C10M107/34
!C10M137/04
!C10M145/26
!C10M129/40
!C10M145/34
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:08
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-64660(P2012-64660)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-194190(P2013-194190A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150681
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 荘助
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100105061
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 喜博
(72)【発明者】
【氏名】加賀 伸行
(72)【発明者】
【氏名】長岡 俊大
【審査官】
馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−107388(JP,A)
【文献】
特開平02−120398(JP,A)
【文献】
特開昭59−038295(JP,A)
【文献】
特開平04−202598(JP,A)
【文献】
特開平02−022394(JP,A)
【文献】
特開平10−036869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類を基材とする作動液であって、
(a)炭素数8〜20の分岐脂肪族カルボン酸、
(b)[RO(AO)n]m−PO(OH)3−m
RはC4〜25のアルキル基、AOはエチレンオキシド又はプロピレンオキシド、nは1〜15、mは1〜3であるリン酸エステル、
を含有する作動液。
【請求項2】
(c)0.01〜0.3重量%の数平均分子量2000〜4000のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含有する請求項1に記載の作動液。
【請求項3】
前記分岐脂肪族カルボン酸の含有量は0.01〜5重量%である請求項1又は2に記載の作動液。
【請求項4】
前記分岐脂肪族カルボン酸が2−エチルヘキサン酸、バルブロ酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソデカン酸、ネオデカン酸、4−エチルオクタン酸、4−メチルノナン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソアラキジン酸及びイソステアリン酸の1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の作動液。
【請求項5】
防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤の1種以上を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の作動液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール類を基材とする作動液に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧式自動車用ブレーキシステムは、マスターシリンダのピストンの摺動によりホイルシリンダへ液圧を伝達する機構となっている。従来、これらのシリンダ部品は、シリンダー、ピストン、ゴムカップ等から構成され、その材質は、アルミニウム、鋳鉄、鋼等の金属とゴム類であった。また近年、車輌の軽量化のためにこれらの部品において、金属製にかわりプラスチック製のものが使用されている。
しかし、一般的にプラスチックとゴムの潤滑性は、金属とゴムの潤滑性より悪く、スティックスリップによる異音の発生が問題となっている。
そして、潤滑性を向上させるために、特許文献1には、ブレーキ液としてリン酸エステルと脂肪酸とを併用することが記載されている。潤滑性は脂肪酸の炭素数が大きいほど向上する傾向にあるが、脂肪酸の炭素数を多くすることは耐寒性を悪化させることになり、これらの性質を両立させることは困難であった。
【0003】
また、特許文献2には、一般式(RO)
2 P(O)OHおよび(RO)P(O)(OH)
2 で表されるリン酸エステル混合物とグリコール類を含有する自動車用ブレーキ液が記載されており、その自動車用ブレーキ液によれば摩擦係数の低減や摺動面の傷発生防止効果を奏するとされているが、スティックスリップの発生防止や耐寒性の向上を目的としたものではない。
特許文献3には、ブレーキ液にリン酸エステルを配合することが記載されているが、具体的に示唆されているリン酸エステルとしてはエチルホスフェート、ジメチルホスフェート等であり、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの繰り返し構造を有するものは使用されていないし、スティックスリップ発生防止や耐寒性向上を目的としたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/053641
【特許文献2】特開平10−36869号公報
【特許文献3】特表2010−540728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景技術においては、潤滑性は脂肪酸の炭素数が大きいほど向上する傾向にあるが、脂肪酸の炭素数を多くすることは耐寒性を悪化させることになり、スティックスリップ発生防止と耐寒性向上の性質を両立させることは困難であった。本発明は作動液においてスティックスリップ発生による滑り防止と耐寒性向上の性質を両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.グリコール類を基材とする作動液であって、
(a)炭素数8〜20の分岐脂肪族カルボン酸
(b)[RO(AO)
n]
m−PO(OH)
3−m
RはC4〜25のアルキル基、AOはエチレンオキシド又はプロピレンオキシド、nは1〜15、mは1〜3であるリン酸エステルを含有する作動液。
2.0.01〜0.3重量%の数平均分子量2000〜4000のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含有する1に記載の作動液。
3.前記分岐脂肪族カルボン酸の含有量は0.01〜5重量%である1又は2に記載の作動液。
4.前記分岐脂肪族カルボン酸が2−エチルヘキサン酸、バルブロ酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソデカン酸、ネオデカン酸、4−エチルオクタン酸、4−メチルノナン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソアラキジン酸及びイソステアリン酸の1種以上である1〜3のいずれかに記載の作動液。
5.防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤の1種以上を含有する1〜4のいずれかに記載の作動液。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐寒性を悪化させることなく作動液のスティックスリップ発生防止による摩擦性向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本発明の作動液の用途)
本発明の作動液は、液圧作動用流体として例えば自動車用ブレーキ液やクラッチ液、各種産業機器のシリンダ用の作動液等の油圧伝達媒体として使用することができる。
以下、具体的に本発明について述べる。
(グリコール類)
本発明におけるグリコール類は、ブレーキ液の基材となるものである。
そのようなグリコール類としては、例えば、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、n=4もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、又はそれらの2種以上の組み合わせを含むものを使用できる。
なかでも、好ましいグリコール成分は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、n=4もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル(n=5もしくはそれ以上)の組み合わせ(例えば、混合物)を含むものから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0009】
(ポリオール類)
上記グリコール類に加えてその他のポリオール類を添加することもできる。
そのようなポリオール類としては、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。該ポリオール類の含有量としては、作動液中0〜30重量%である。
【0010】
(炭素数8〜20の分岐脂肪族カルボン酸)
炭素数8〜20の分岐脂肪族カルボン酸としては、2−エチルヘキサン酸、バルブロ酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソデカン酸、ネオデカン酸、4−エチルオクタン酸、4−メチルノナン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソアラキジン酸及びイソステアリン酸等の飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。
これらのカルボン酸は、作動液に0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%となるように含有させることが必要である。含有させない場合には、耐寒性は良好ではあるものの、作動液をスティックスリップ試験に図ることによりスティックスリップが発生する。
仮に炭素数8〜20の分岐脂肪族カルボン酸を添加せず、直鎖脂肪族カルボン酸を添加すると、スティックスリップが発生しやすいか、又は耐寒性が悪化することになる。
【0011】
(リン酸エステル)
本発明におけるリン酸エステルは、式[RO(AO)
n]
m−PO(OH)
3−mで示される化合物である。この式において、RはC4〜25のアルキル基、AOはエチレンオキシド又はプロピレンオキシド、nは1〜15、mは1〜3である。
C4〜25のアルキル基の中でも特にC6〜14のアルキル基が好ましく、さらに好ましくはC8〜12のアルキル基である。
AOの重合度であるnは好ましくは6〜15、さらに好ましくは8〜12である。
【0012】
(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー)
本発明の作動液に添加できるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーとしては、数平均分子量として、2,000〜4,000でよく、2,500〜3,000がより好ましい。さらに、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のモル比としては、オキシエチレン単位:オキシプロピレン単位=0.1:1〜1:0.1の範囲である。
【0013】
(その他添加剤)
本発明の作動液には、用途等に応じて潤滑剤、耐磨耗剤、消泡剤、防錆剤、酸化防止剤、極圧剤、pH調整剤の1種以上を含有させることができる。
【0014】
(実施例)
下記表1の記載に基づいて、本発明の実施例1の作動液及び比較例1〜5の作動液を調整し、これらの作動液に対してスティックスリップ発生試験、及び耐寒性試験を行った。
これらの実施例及び比較例にて使用した作動液の組成と、これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0015】
(スティックスリップ発生試験)
新東科学株式会社製「トライボギア14FW」により、ナイロン6,6とEPDMを作動液に浸し、その間のスティックスリップ発生の有無を、垂直荷重6N、すべり速度1800mm/minで評価した。
(耐寒性試験)
JIS K2233に基づき耐寒性試験を行った。
【0016】
【表1】
表1中のポリエーテルポリオールは下記式にて示される分子量が約3000の化合物であり、
lは1以上の互いに同一な値又は同一でない値であるプロピレングリコールの繰り返し数であり、上記のように分子量が約3000になる値である。
表1中のリン酸エステルはR−[(0CH
2CH
2)
10O]
n−P(OH)
3−n=O、RはC12〜15のアルキル基、nは1又は2で示される化合物である。
【0017】
本発明の作動液である実施例1によると、スティックスリップ発生試験によってもスティックスリップが発生せず、振動や異音の発生を防止できる。また−50℃で6時間放置した後においても濁りや沈殿を生じないので耐寒性を備えていることがわかる。
これに対して、分岐脂肪族カルボン酸を配合しない比較例1によれば、耐寒性は備えるものの、スティックスリップを発生するので十分な滑り防止性を備える作動液とはならなかった。
さらに、実施例1におけるイソステアリン酸に代えて直鎖脂肪酸であるラウリン酸やオレイン酸を採用した比較例2及び5によっても、比較例1と同様の結果となった。
また、実施例1におけるイソステアリン酸に代えて直鎖脂肪酸であるステアリン酸やパルミチン酸を採用した比較例3及び4による作動液は、スティックスリップを発生しないものの、−50℃で6時間放置した後において濁りを発生するので耐寒性に劣ることが明らかである。