特許第5851907号(P5851907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5851907流体粘度算定装置、超音波診断装置、流体粘度算定装置の流体粘度算定プログラム及び超音波診断装置の制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5851907
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】流体粘度算定装置、超音波診断装置、流体粘度算定装置の流体粘度算定プログラム及び超音波診断装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20160114BHJP
【FI】
   A61B8/06
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-72635(P2012-72635)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-202135(P2013-202135A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】劉 磊
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−235009(JP,A)
【文献】 特開平10−134103(JP,A)
【文献】 特開2004−121735(JP,A)
【文献】 特開2012−055621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 − 5/03
A61B 8/00 − 8/15
G01N 11/00 − 13/04
G01N 29/00 − 29/52
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション部と、該シミュレーション部で得られる前記流体の速度ベクトルと前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション部フィードバックするフィードバック部と、を有する計測融合シミュレーション部であって、前記シミュレーション部は、前記二つの異なる粘度の他、前記差分ベクトルを用いて前記シミュレーションを行なう計測融合シミュレーション部と、
前記フィードバック部から前記シミュレーション部へフィードバックされる差分ベクトルの大きさに基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定部と、
前記二つの粘度のうち、前記特定部で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定部と、
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定部と、
を備えることを特徴とする流体粘度算定装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記差分ベクトルの大きさが大きい方のシミュレーションで用いられた粘度を、前記流体の粘度から離れている粘度とすることを特徴とする請求項1に記載の粘度算定装置。
【請求項3】
被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション部と、該シミュレーション部で得られる前記流体の速度ベクトルと前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション部フィードバックするフィードバック部と、を有する計測融合シミュレーション部であって、前記シミュレーション部は、前記二つの異なる粘度の他、前記差分ベクトルを用いて前記シミュレーションを行なう計測融合シミュレーション部と、
前記シミュレーション部におけるシミュレーションの収束時間に基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定部と、
前記二つの粘度のうち、前記特定部で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定部と、
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定部と、
を備えることを特徴とする流体粘度算定装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記収束時間が長い方のシミュレーションで用いられた粘度を、前記流体の粘度から離れている粘度とすることを特徴とする請求項に記載の粘度算定装置。
【請求項5】
前記粘度算定部は、前記変更粘度から前記他方の粘度までの範囲に含まれる特定値を、前記流体の粘度として算定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘度算定装置。
【請求項6】
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定部を備え、
前記判定部によって、前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内ではないと判定された場合、前記シミュレーション部は、前記変更粘度と前記他方の粘度を用いて再度シミュレーションを行なうことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘度算定装置。
【請求項7】
前記シミュレーション部は、前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になるまで、前記粘度設定部によって繰り返し設定される変更粘度及び前記他方の粘度によるシミュレーションを繰り返し行うことを特徴とする請求項6に記載の流体粘度算定装置。
【請求項8】
前記粘度算定部によって算定された流体の粘度を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の流体粘度算定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の流体粘度算定装置を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
コンピュータに、
被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション機能と、該シミュレーション機能で得られる前記流体の速度ベクトルと、前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション機能によるシミュレーションを行なうためにフィードバックするフィードバック機能と、を含む計測融合シミュレーション機能であって、前記シミュレーション機能は、前記二つの異なる粘度の他、前記差分ベクトルを用いて前記シミュレーションを行なう計測融合シミュレーション機能と、
前記フィードバック部から前記シミュレーション部へフィードバックされる差分ベクトルの大きさに基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定機能と、
前記二つの粘度のうち、前記特定機能で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定機能と、
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定機能と、
を実行させることを特徴とする流体粘度算定装置の流体粘度算定プログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション機能と、該シミュレーション機能で得られる前記流体の速度ベクトルと、前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション機能によるシミュレーションを行なうためにフィードバックするフィードバック機能と、を含む計測融合シミュレーション機能であって、前記シミュレーション機能は、前記二つの異なる粘度の他、前記差分ベクトルを用いて前記シミュレーションを行なう計測融合シミュレーション機能と、
前記フィードバック部から前記シミュレーション部へフィードバックされる差分ベクトルの大きさに基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定機能と、
前記二つの粘度のうち、前記特定機能で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定機能と、
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定機能と、
を実行させることを特徴とする超音波診断装置の制御プログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション機能と、該シミュレーション機能で得られる前記流体の速度ベクトルと、前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション機能によるシミュレーションを行なうためにフィードバックするフィードバック機能と、を有する計測融合シミュレーション機能であって、前記シミュレーション機能は、前記二つの異なる粘度の他、前記差分ベクトルを用いて前記シミュレーションを行なう計測融合シミュレーション機能と、
前記シミュレーション機能におけるシミュレーションの収束時間に基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定機能と、
前記二つの粘度のうち、前記特定機能で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定機能と、
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定機能と、
を実行させることを特徴とする流体粘度算定装置の流体粘度算定プログラム。
【請求項13】
コンピュータに、
被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション機能と、該シミュレーション機能で得られる前記流体の速度ベクトルと、前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション機能によるシミュレーションを行なうためにフィードバックするフィードバック機能と、を有する計測融合シミュレーション機能であって、前記シミュレーション機能は、前記二つの異なる粘度の他、前記差分ベクトルを用いて前記シミュレーションを行なう計測融合シミュレーション機能と、
前記シミュレーション機能におけるシミュレーションの収束時間に基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定機能と、
前記二つの粘度のうち、前記特定機能で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定機能と、
前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定機能と、
を実行させることを特徴とする超音波診断装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液などの流体の粘度を算定する流体粘度算定装置、超音波診断装置、流体粘度算定装置の流体粘度算定プログラム及び超音波診断装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液の粘度は、健康のバロメータとして一般的に認識が高い。近年では、メタボリックシンドローム(特に高脂血症)の進行と血液の粘度とを関連付ける研究も多い。
【0003】
従来、血液粘度の検査として、被検体から採取した血液サンプルを試験機にかけて行なう手法が広く行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】有限会社山久化成ホームページ、血液サラサラ測定装置の紹介ページ、平成24年3月7日検索、URL:http://www.yamahisa-net.co.jp/product/kenkoukanri/mcfan/mcfan.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被検体から採取された血液は時間の経過とともに変質する。従って、検査によって得られた粘度が実際の粘度とは異なる恐れがある。また、被検体から血液を採取する必要があるので侵襲的であり、できるだけ非侵襲で血液の粘度を得ることができる手法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、上記課題を解決すべく、特許第4269623号公報やその他非特許文献(例えば、船本健一、早瀬敏幸、「医療計測と数値シミュレーションを融合した血管内血流の解析」、可視化情報、vol.29、NO.114(2009年7月)、p.20−p.26)等に記載された流体の流れ場を解析する計測融合シミュレーション(simulation)に着目した。この計測融合シミュレーションでは、数値シミュレーションで得られた前記流体の速度ベクトル(vector)と、前記被検体に送信された超音波のエコー(echo)信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差(差分ベクトル)がフィードバック(feedback)されて数値シミュレーションを行なう。この数値シミュレーションを行なうにあたっては、流体の粘度をパラメータ(parameter)として用いる。本願発明者は、数値シミュレーションにおけるパラメータとして用いた粘度と、流体の実際の粘度との差によって、前記差分ベクトルの大きさや数値シミュレーションの収束時間が変わるなど、数値シミュレーションに影響を与えると考え、本願発明に至った。
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、被検体の流体について二つの異なる粘度を用いて流れ場を解析するシミュレーションを行なうシミュレーション部と、このシミュレーション部で得られる前記流体の速度ベクトルと、前記被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて求まる前記流体の速度ベクトルとの差分ベクトルを前記シミュレーション部によるシミュレーションを行なうためにフィードバックするフィードバック部と、前記シミュレーション部で行われるシミュレーションに基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を特定する特定部と、前記二つの粘度のうち、前記特定部で特定された粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定する粘度設定部と、前記変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、前記変更粘度と前記他方の粘度とから、前記流体の粘度を算定する粘度算定部と、を備えることを特徴とする流体粘度算定装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記観点の発明によれば、前記シミュレーション部で行われるシミュレーションに基づいて、前記二つの粘度のうち、前記流体の粘度から離れている粘度を変更して他方の粘度に近づけた変更粘度を設定し、この変更粘度と前記他方の粘度との差が所定の範囲内になると、流体の粘度が算定されるので、非侵襲でより正確な粘度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る流体粘度算定装置の一実施形態の解析ワークステーションの概略構成の一例を示すブロック図である。
図2】超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
図3】エコーデータ処理部の詳細構成を示すブロック図である。
図4】血液の粘度を算定するための処理を示すフローチャートである。
図5】変更粘度の設定を説明する図である。
図6】変更粘度と他方の粘度との差が所定の範囲内ではない状態を示す図である。
図7】変更粘度と他方の粘度との差が所定の範囲内である状態を示す図である。
図8】第二実施形態の超音波診断装置におけるエコーデータ処理部と制御部の構成を示すブロック図である。
図9】第二実施形態において、血液の粘度を算定するための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について、図1図7に基づいて説明する。本発明に係る流体粘度算定装置は、図1に示す解析ワークステーション(workstation)1において実現される。前記解析ワークステーション1は、汎用のパーソナルコンピュータ(personal computer)であってもよい。解析ワークステーション1は、本発明に係る流体粘度算定装置の実施の形態の一例である。
【0010】
前記解析ワークステーション1は、被検体内の流体の流れ場を解析するものであり、コンピュータとして既知の構成を有している。ここでは、その詳細な構成は省略するものとし、機能ブロックについて主として説明する。
【0011】
前記解析ワークステーション1は、前記計測融合シミュレーション部2、特定部3、粘度設定部4、判定部5、粘度算定部6、表示部7、記憶部8を有している。前記計測融合シミュレーション部2は、数値シミュレーション部21及びフィードバック部22を有している。前記数値シミュレーション部21は、血液などの流体の流れ場を解析する数値シミュレーションを行なう(数値シミュレーション機能)。前記数値シミュレーション部21は、本発明に係るシミュレーション部の実施の形態の一例である。また、前記数値シミュレーション部21が実行する数値シミュレーション機能は、本発明におけるシミュレーション機能の実施の形態の一例である。
【0012】
前記数値シミュレーション部21による数値シミュレーションでは、ナビエ・ストークス(Navier−Stokes)方程式と圧力方程式を基本支配方程式とする。後述するように、ナビエ・ストークス方程式では、粘度を含む項を有している。前記数値シミュレーション部21は、二つの異なる粘度μを用いて、数値シミュレーションSm1、Sm2を行なう。詳細は後述する。
【0013】
前記フィードバック部22には、被検体に送信された超音波のエコー信号に基づいて作成される流体情報が、超音波診断装置100から入力される。前記フィードバック部22では、前記数値シミュレーション部21で得られる流体情報と前記超音波診断装置100から入力される流体情報との差を算出して、前記数値シミュレーション部21へフィードバックする(フィードバック機能)。詳細は後述する。前記フィードバック部22は、本発明におけるフィードバック部の実施の形態の一例である。また、前記フィードバック部22が実行するフィードバック機能は、本発明におけるフィードバック機能の実施の形態の一例である。
【0014】
前記超音波診断装置100から入力される流体情報は、カラードプラデータである。また、前記超音波診断装置100からは、後述するようにBモードデータも前記解析ワークステーション1へ入力される。
【0015】
前記特定部3は、前記数値シミュレーション部21で行われるシミュレーションに基づいて、前記二つの粘度μのうち、解析対象の流体の粘度から離れている粘度を特定する(特定機能)。前記二つの粘度μのうち、解析対象の流体の粘度から離れている粘度をμf、解析対象の粘度に近い粘度をμnとする。前記特定部3は、本発明における特定部の実施の形態の一例である。また、前記特定部3が実行する特定機能は、本発明における特定機能の実施の形態の一例である。
【0016】
前記粘度設定部4は、前記二つの粘度μのうち、前記特定部3で特定された前記粘度μfを変更して粘度μnに近づけた変更粘度μf′を設定する(粘度設定機能)。前記粘度設定部4は、本発明における粘度設定部の実施の形態の一例である。また、前記粘度設定部4が実行する粘度設定機能は、本発明における粘度設定機能の実施の形態の一例である。
【0017】
前記判定部5は、前記変更粘度μf′と前記粘度μnとが所定の範囲内であるか否かを判定する。
【0018】
前記粘度算定部6は、前記変更粘度μf′と前記粘度μnとが所定の範囲内になると、解析対象の流体の粘度を算定する。前記粘度算定部6は、本発明における粘度算定部の実施の形態の一例である。また、前記粘度算定部6が実行する粘度算定機能は、本発明における粘度算定機能の実施の形態の一例である。
【0019】
ちなみに、前記特定部3、前記粘度設定部4、判定部5及び前記粘度算定部6の処理についても、詳細は後述する。
【0020】
前記表示部7は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などである。前記表示部7は、本発明における表示部の実施の形態の一例である。また、前記記憶部8は、半導体メモリ(memory)やハードディスクドライブ(Hard disk drive)などである。
【0021】
次に、前記超音波診断装置100について図2に基づいて説明する。前記超音波診断装置100は、超音波プローブ101、送受信部102、エコーデータ処理部103、表示制御部104、表示部105、操作部106、制御部107及び記憶部108を備える。
【0022】
前記超音波プローブ101は、生体組織に対して超音波の送受信を行なう。また、前記送受信部102は、前記超音波プローブ101を所定のスキャンパラメータで駆動させてスキャン面を走査させる。そして、前記送受信部102は、前記超音波プローブ101で得られたエコー信号について、整相加算処理等の信号処理を行なう。
【0023】
前記エコーデータ処理部103は、図3に示すようにBモード処理部1031及びドプラ処理部1032を有する。前記Bモード処理部1031は、前記送受信部102から出力されたエコー信号に対し、対数圧縮処理及び包絡線検波処理等を含むBモード処理を行なってBモードデータを作成する。また、前記ドプラ処理部1032は、前記送受信部102から出力されたエコー信号に対し、直交検波処理及びフィルタ処理等を含むドプラ(doppler)処理を行なってドプラデータを作成したりする。ドプラデータは、例えば血流などの流体の速度、分散、パワーを含むカラードプラデータである。
【0024】
前記表示制御部104は、前記Bモードデータに対し、スキャンコンバータ(Scan Converter)による走査変換を行なってBモード画像データを作成し、このBモード画像データに基づくBモード画像を前記表示部105に表示させる。ただし、前記表示制御部104は、Bモード画像データの作成に加え、前記ドプラデータに対してスキャンコンバータによる走査変換を行なってカラードプラ画像データを作成し、このカラードプラ画像データに基づくカラードプラ画像を表示させるようになっていてもよい。
【0025】
前記表示部105は、LCDやCRTなどである。前記操作部106は、操作者が指示や情報を入力するためのキーボード及びポインティングデバイス(図示省略)などを含んで構成されている。
【0026】
前記制御部107は、特に図示しないがCPU(CentRal Processing Unit)を有して構成される。この制御部107は、前記記憶部108に記憶された制御プログラムを読み出し、前記超音波診断装置1の各部における機能を実行させる。
【0027】
前記記憶部108は、半導体メモリやハードディスクドライブなどである。
【0028】
さて、本例の解析ワークステーション1による流体の粘度の算定について説明する。ここでは、被検体の血液の粘度を算定する例について、図4のフローチャートに基づいて説明する。先ず、ステップS1では、前記超音波診断装置100において、被検体に対して超音波の送受信を行ない、少なくとも数心周期分のエコー信号を取得する。前記超音波診断装置100では、エコー信号に基づいてBモードデータ及びカラードプラデータが作成される。Bモードデータ及びカラードプラデータは、前記解析ワークステーション1の前記記憶部8へ入力され記憶される。
【0029】
次に、ステップS2では、前記計測融合シミュレーション部2が計測融合シミュレーションを行なう。計測融合シミュレーションは、前記超音波診断装置100において得られる超音波ドプラ計測と数値シミュレーションとを融合した血流解析手法である。
【0030】
ステップS2における計測融合シミュレーションについて具体的に説明する。この計測融合シミュレーションは、上述の特許第4269623号公報等の記載と基本的には同様にして行われる。先ず、前記数値シミュレーション部21は、前記記憶部8に記憶されたBモードデータに基づいて、被検体における血管を特定する。ここで、血管はBモード画像において低輝度で表示される。従って、前記数値シミュレーション部21は、Bモードデータを二値化することにより、血管を特定することができる。前記数値シミュレーション部21は、特定された血管内に、数値シミュレーションを行なう計算格子を設定する。
【0031】
前記計測融合シミュレーション部21は、前記各計算格子に対して数値シミュレーションを行なう。前記計測融合シミュレーション部2は、前記超音波診断装置100において計測された血流の速度ベクトルと数値シミュレーションで得られる速度ベクトルとの誤差に応じた体積力をフィードバックして反復計算を行ない実際の血流場に収束するよう数値シミュレーションを行なう。
【0032】
具体的には、前記数値シミュレーション部21は、数値シミュレーションにおいて、下記(式1)のナビエ・ストークス方程式と、下記(式2)の圧力方程式のそれぞれに、前記フィードバック部22からのフィードバック信号である体積力(ベクトルf)を加えた式を基本支配方程式とする。
【数1】

【数2】

上記(式1)及び(式2)において、ベクトルuは三次元の速度ベクトル、pは圧力、ρは密度、μは粘度である。これら圧力p、密度ρ及び粘度μとしては、設定された所定値が用いられる。
【0033】
前記フィードバック部22は、前記数値シミュレーション部21で得られる血流速の速度ベクトルuの超音波ビーム方向の速度成分と、前記超音波診断装置100の前記ドプラ処理部1032で得られた超音波ビーム方向の速度成分um(ベクトル)の差(本発明の差分ベクトル)を求めて、フィードバックする。
【0034】
実際の前記フィードバック部22からのフィードバック信号であるベクトルf(体積力)は、下記(式3)である。
【数3】

上記(式3)において、Kはフィードバックゲインであり、ベクトルu及びベクトルuは三次元ベクトルで、ベクトルu=[u,v,w]、ベクトルu=[um,vm,vc]である(上述の特許第4269623号の段落[0008]及び図7参照)。前記ベクトルfは、本発明の差分ベクトルの実施の形態の一例である。
【0035】
前記数値シミュレーション部21は、二つの異なる粘度を用いた数値シミュレーションを行なう。具体的には、前記(式1)において、粘度μをμ1としたナビエ・ストークス方程式NS1を用いた数値シミュレーションSm1と、前記(式1)において、粘度μをμ2(μ1≠μ2)としたナビエ・ストークス方程式NS2を用いた数値シミュレーションSm2とを行なう。
【0036】
前記粘度μ1,μ2は、例えば被検体における血液がとりうる粘度の範囲の最小値と最大値に設定される。従って、前記粘度μ1と前記粘度μ2の間に実際の血液の粘度が含まれる。
【0037】
次に、ステップS3では、前記特定部3が、前記数値シミュレーションSm1,Sm2に基づいて、前記粘度μ1,μ2のうち、実際の血液の粘度から離れていると推定される粘度(前記粘度μf)を特定する。例えば、前記特定部3は、前記ベクトルfの大きさに基づいて、前記粘度μ1,μ2のうち、どちらが実際の血液の粘度から離れているか判定する。
【0038】
ここで、数値シミュレーションにおいて設定された粘度μが、実際の血液の粘度から離れているほど、前記数値シミュレーション部21で得られる血流速の速度ベクトルと前記超音波診断装置100のドプラ処理部1032で得られる血流速の速度ベクトルとの差が大きくなるので、前記ベクトルfの大きさは大きくなる。従って、前記特定部3は、前記数値シミュレーションSm1におけるベクトルfと,前記数値シミュレーションSm2におけるベクトルfとを比較する。そして、ベクトルfの大きさが大きい方の数値シミュレーションで用いられた粘度μを、実際の血液の粘度から離れているとする。前記数値シミュレーションSm1,Sm2でそれぞれ用いられる二つの粘度のうち、実際の血液の粘度から離れている方が前記粘度μfであり、近い方が前記粘度μnである。
【0039】
次に、ステップS4では、図5に示すように、前記粘度設定部4が、前記粘度μf,μnのうち、一方の前記粘度μfを他方の前記粘度μnに近づけた変更粘度μf′を設定する。例えば、前記粘度設定部4は、黄金分割法などの手法を用いて変更粘度μf′を設定する。ただし、黄金分割法に限られるものではない。
【0040】
ちなみに、図5において符号μrは実際の血液の粘度である。この粘度μrは、前記粘度μfと前記粘度μnの間に含まれている。
【0041】
次に、ステップS5では、前記判定部5が、前記変更粘度μf′と他方の前記粘度μnとの差dが所定の範囲X内であるか否かを判定する。前記所定の範囲Xについては後述する。
【0042】
前記ステップS5において、図6に示すように、前記変更粘度μf′と前記粘度μnとの差dが所定の範囲X内ではないと判定された場合(前記ステップS5において「NO」)、前記ステップS2の処理へ戻り、再び前記ステップS2〜S5の処理を繰り返す。この場合の前記ステップS2における数値シミュレーションSm1,Sm2では、前記変更粘度μf′と前記粘度μnとが用いられる。
【0043】
一方、前記ステップS5において、図7に示すように、前記変更粘度μf′と前記粘度μnとの差dが所定の範囲X内であると判定された場合(前記ステップS5において「YES」)、ステップS6の処理へ移行する。このステップS6では、前記粘度算定部6が、前記変更粘度μf′と前記粘度μnとから、血液の粘度を算定する。前記粘度算定部6は、例えば前記変更粘度μf′と前記粘度μnの中間の値を、流体の粘度と推定する。ただし、前記粘度算定部6によって算定される粘度は、前記変更粘度μf′から前記粘度μnまでの範囲に含まれる特定値であればよく、上述のものに限られるものではない。
【0044】
ここで、前記ステップS5で前記判定部5による判定基準とされる前記所定の範囲Xは、前記ステップS6において算定される粘度が、実際の血液の粘度と一致するかできるだけ近い値になるように設定される。
【0045】
前記粘度算定部6によって算定された粘度は、前記解析ワークステーション1の表示部7に表示されてもよい。
【0046】
以上説明した本例によれば、前記解析ワークステーション1によって、非侵襲でより正確な血液の粘度を得ることができる。
【0047】
また、本例によれば、特に血管の分岐部分や蛇行している部分において、正確な血液の粘度を得ることができる。その理由について説明する。血管の分岐部分や蛇行している部分においては、血液の粘度が高くなるほど乱流が発生しやすく、その結果前記ベクトルfの大きさが大きくなるので、数値シミュレーションSm1,Sm2におけるベクトルfは、これら数値シミュレーションSm1,Sm2で用いられた粘度と実際の血液の粘度との差をより確実に反映した大きさになり、なおかつ二つのベクトルfの大きさの差が顕著になりやすい。従って、ステップS3において、数値シミュレーションSm1,Sm2で用いられた二つの粘度のうち、実際の血液の粘度から離れている方をより正確に特定でき、最終的により正確な血液の粘度を得ることができる。
【0048】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。以下、第一実施形態と同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0049】
本例では、前記超音波診断装置100が流体粘度算定装置を有している。具体的には、図8に示すように、本例の超音波診断装置100の制御部107は、第一実施形態の解析ワークステーション1とほぼ同一の構成になっている。すなわち、前記制御部107は、計測融合シミュレーション部2、特定部3、粘度設定部4、判定部5、粘度算定部6を有している。
【0050】
本例の超音波診断装置100においては、図9に示すフローチャートの処理が行われて被検体の血液の粘度が算定される。この図9のフローチャートも、第一実施形態の図4に示されたフローチャートと基本的には同一であるが、ステップS1′の処理が異なっている。このステップS1′では、上述のステップS1と同様に、被検体に対して超音波の送受信を行なって、少なくとも数心周期分のエコー信号を取得する。そして、このエコー信号に基づいて作成されたBモードデータ及びカラードプラデータは、前記制御部107へ入力される。前記Bモードデータは、前記数値シミュレーション部21へ入力される。また、前記カラードプラデータは、前記フィードバック部22へ入力される。
【0051】
本例では、前記ステップS6において、前記粘度算定部6によって算定された粘度が、前記超音波診断装置100の表示部105に表示されてもよい。本例では、前記表示部105が本発明における表示部の実施の形態の一例である。
【0052】
以上説明した本例においても、超音波診断装置100によって、第一実施形態と同様に、非侵襲でより正確な血液の粘度を得ることができる。
【0053】
以上、本発明を前記各実施形態によって説明したが、本発明はその主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。例えば、前記ステップS3において、前記特定部3は、前記数値シミュレーション部21によって行われた数値シミュレーションSm1,Sm2の収束時間に基づいて、実際の血液の粘度から離れている方の前記粘度μfを特定してもよい。ここで、数値シミュレーションSm1,Sm2で用いられた粘度μが、実際の血液の粘度から離れているほど、数値シミュレーションの収束時間は長くなる。従って、前記特定部3は、前記数値シミュレーションSm1,Sm2のうち、収束時間が長い方の数値シミュレーションで用いられた粘度μを、実際の血液の粘度から離れているとする。
【符号の説明】
【0054】
1 解析ワークステーション(流体粘度算定装置)
3 特定部
4 粘度設定部
5 判定部
6 粘度算定部
7 表示部
21 数値シミュレーション部
22 フィードバック部
100 超音波診断装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9