(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1金属層の前記色素増感型太陽電池素子側の基板表面において、十点平均粗さRzjisは、0.50μm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用金属基板。
前記第1金属層の前記色素増感型太陽電池素子側の基板表面において、十点平均粗さRzjisは、1.20μm以上である、請求項4に記載の色素増感型太陽電池用金属基板。
前記第1金属層の前記色素増感型太陽電池素子側の基板表面において、算術平均粗さRaは、0.10μm以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用金属基板。
前記第1金属層の前記色素増感型太陽電池素子側の基板表面において、算術平均粗さRaは、0.22μm以上である、請求項6に記載の色素増感型太陽電池用金属基板。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
(第1実施形態)
まず、
図1〜
図4を参照して、本発明の第1実施形態による色素増感型太陽電池100の構造について説明する。
【0027】
本発明の第1実施形態による色素増感型太陽電池100は、
図1に示すように、光入射側(Z1側)に配置された太陽電池素子1と、光入射側とは反対側(Z2側)に配置された金属基板2とを備えている。なお、太陽電池素子1は、本発明の「色素増感型太陽電池素子」の一例であり、金属基板2は、本発明の「クラッド材」および「色素増感型太陽電池用金属基板」の一例である。
【0028】
太陽電池素子1は、光入射側に配置され、光を透過するガラス基板11と、ガラス基板11の下面上(Z2側)に形成された上部電極12と、白金薄膜により形成されており、金属基板2の上面上に形成された白金触媒層13とを含んでいる。また、白金触媒層13の代わりにグラファイトにより形成された触媒層を用いてもよい。なお、白金触媒層13は、本発明の「触媒層」の一例である。
【0029】
また、太陽電池素子1は、さらに、上部電極12と白金触媒層13との間に充填されたヨウ素電解質14と、上部電極12の下面の端部と白金触媒層13の上面の端部とを接続するように配置され、ヨウ素電解質14をガラス基板11と金属基板2との間に封止するための封止材15とを含んでいる。また、ヨウ素電解質14には、ヨウ化物イオン(I
3−)とヨウ素イオン(I
−)とが含まれている。なお、ヨウ素電解質14は、本発明の「電解質」の一例である。
【0030】
上部電極12は、ヨウ素電解質14に対して耐食性を有するとともに、光を透過することが可能なFTO(微量のフッ素が添加された酸化スズ)により形成されている。なお、FTOの体積抵抗率は、約800×10
−8Ω×mである。また、上部電極12は、太陽電池素子1の負極として機能し、金属基板2は、太陽電池素子1の正極として機能するように構成されている。
【0031】
また、上部電極12と金属基板2とには、それぞれ、色素増感型太陽電池100において発生した電力を取り出すための端子3aおよび3bが接続されている。このため、金属基板2の所定の領域と、端子3bとの間に電流を流すためには、X−Y平面に沿った方向(X方向、Y方向およびX方向の成分とY方向の成分とを合成した方向)に電流が流れる必要がある。
【0032】
また、上部電極12の下面側には、粒子状の二酸化チタン12aが無数に固定されている。また、二酸化チタン12aの表面には、吸光部12bが吸着されている。この吸光部12bは、ルテニウム錯体などの色素からなり、可視光などからなる光を吸収して電子を放出する機能を有する。また、二酸化チタン12aは、吸光部12bから放出された電子を上部電極12に伝達する機能を有する。
【0033】
また、太陽電池素子1は、色素増感型の太陽電池素子である。この太陽電池素子1の具体的な発電機構を説明する。まず、太陽電池素子1に光が照射されると、吸光部12bが光を吸収することにより吸光部12bから電子が放出され、吸光部12bが酸化状態になる。そして、吸光部12bから放出された電子は、二酸化チタン12aを介して上部電極12(負極)に到達する。その後、電子は、上部電極12から端子3aを介して図示しない外部回路を通過する。そして、電子は、端子3bを介して金属基板2(正極)に到達する。ここで、白金触媒層13の白金を触媒として、ヨウ素電解質14のヨウ化物イオン(I
3−)が電子を受け取って、3つのヨウ素イオン(3I
−)が形成される。そして、ヨウ素イオン(I
−)から酸化状態の吸光部12bに電子が供給されることによって、元の吸光部12bに戻るとともに、3つのヨウ素イオン(I
−)がヨウ化物イオン(I
3−)に戻る。この一連のサイクルが繰り返されることによって、太陽電池素子1において電力が発生するように構成されている。
【0034】
金属基板2は、
図2および
図3に示すように、太陽電池素子1の白金触媒層13側である上方(Z1側)から順に、Ti層21とCu層22とステンレス層23とが配置されることによって形成されている。つまり、Ti層21は、白金触媒層13の下面に接触した状態で配置されている。なお、Ti層21は、本発明の「第1金属層」の一例であり、Cu層22は、本発明の「第2金属層」の一例であり、ステンレス層23は、本発明の「第3金属層」の一例である。
【0035】
また、この金属基板2は、各々平板状の形状を有するTi層21とCu層22とステンレス層23とが、厚み方向(Z方向)に積層した状態で接合された、3層構造のクラッド材により構成されている。
【0036】
Ti層21は、非多孔質のTiにより形成されており、ヨウ素電解質14に対して耐食性を有する。また、
図4に示すように、Ti層21の白金触媒層13側の上面2a(Z1側の面)が粗くされることによって、上面2aには凹凸が形成されている。なお、上面2aは、本発明の「基板表面」の一例である。
【0037】
具体的には、Ti層21の白金触媒層13側の上面2aの算術平均粗さRaが約0.22μmであり、十点平均粗さRzjisが約1.20μmであり、表面積/平面積が約1.05であるように形成されている。ここで、表面積/平面積とは、任意の正方形領域における上面2aの表面積を、正方形領域の平面積で除した値を意味する。なお、上面2aの算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjisおよび表面積/平面積は、それぞれ、約0.10μm以上、約0.50μm以上、および、約1.03以上であればよい。
【0038】
また、白金触媒層13は、凹凸を有する上面2a上を覆うように形成されている。この結果、白金触媒層13の表面積は上面2aに凹凸が形成されていない場合よりも大きくなる。なお、白金触媒層13が粉末状の場合には、白金は薄膜状(層状)に形成されずに上面2aの一部に付着すると考えられる。この場合においても、上面2aが粗くされていることにより上面2a上に白金が付着しやすいので、白金の表面積は大きくなる。
【0039】
Cu層22は、Cuにより形成されている。ステンレス層23は、Cuよりも耐食性の高いSUS430(JIS規格)により形成されている。具体的には、ステンレス層23は、約16%以上約18%以下のCrを含むフェライト系のステンレスであるFe合金により形成されている。
【0040】
ここで、第1実施形態では、
図3に示すように、金属基板2の厚み方向(Z方向)における厚みt1は、約100μmになるように構成されている。また、Cu層22の厚み方向(Z方向)における厚みt2は、金属基板2の厚みt1の約40%の約40μmになるように構成されている。なお、Cu層22の厚みt2は、金属基板2の厚みt1の約20%(約20μm)以上約70%(約70μm)以下であるのが好ましい。また、Cu層22の厚みt2は、金属基板2の厚みt1の約30%(約30μm)以上約60%(約60μm)以下であるのがより好ましい。
【0041】
また、Ti層21の厚み方向(Z方向)における厚みt3と、ステンレス層23の厚み方向における厚みt4とは、略同一になるように構成されている。つまり、Ti層21の厚みt3およびステンレス層23の厚みt4は、共に、金属基板2の厚みt1の約30%の約30μmになるように構成されている。なお、Ti層21の厚みt3は、金属基板2の厚みt1の約20%(約20μm)以上であるのが好ましい。なお、Ti層21の上面2a上に形成された白金触媒層13の厚みt5(
図4参照)は、約1nm以上約300nm以下になるように形成されている。
【0042】
また、Ti層21が有する体積抵抗率R1は、約54×10
−8Ω×mである。また、Cu層22が有する体積抵抗率R2は、約1.7×10
−8Ω×mである。また、ステンレス層23が有する体積抵抗率R3は、約60×10
−8Ω×mである。つまり、Cu層22の体積抵抗率R2は、Ti層21の体積抵抗率R1およびステンレス層23の体積抵抗率R3の約20分の1以下であるように構成されている。
【0043】
また、Ti層21の熱膨張係数は、約8.9×10
−6/℃である。また、Cu層22の熱膨張係数は、約17×10
−6/℃である。また、ステンレス層23の熱膨張係数は、約10.4×10
−6/℃である。つまり、Ti層21の熱膨張係数とステンレス層23の熱膨張係数との差(=約1.5×10
−6/℃)は、Cu層22の熱膨張係数とステンレス層23の熱膨張係数との差(=約8.1×10
−6/℃)よりも小さい。
【0044】
また、
図2に示すように、厚み方向(Z方向)と直交する上面2aに沿ったX方向において、Ti層21の体積抵抗率R1と、Cu層22の体積抵抗率R2と、ステンレス層23の体積抵抗率R3とを合成したX方向の合成体積抵抗率Ryzは、約2×10
−8Ω×mになるように構成されている。なお、X方向の合成体積抵抗率Ryzとは、Y−Z平面と直交する方向(X方向)に沿ってY−Z平面を貫通するように流れる電流Ixに対する、金属基板2の体積抵抗率のことである。
【0045】
また、Y方向、および、X方向成分とY方向成分とを合成した方向は、X方向と同様に、厚み方向(Z方向)と直交する上面2aに沿った方向である。したがって、Y方向の合成体積抵抗率(Y方向に沿って流れる電流に対する金属基板2の体積抵抗率)と、X方向成分とY方向成分とを合成した方向の合成体積抵抗率(合成した方向に沿って流れる電流に対する金属基板2の体積抵抗率)とは、共に、X方向の合成体積抵抗率Ryzと同一になる。このため、これ以降、厚み方向(Z方向)と直交する上面2aに沿った方向の合成体積抵抗率として、X方向の合成体積抵抗率Ryzのみを考慮する。
【0046】
また、厚み方向(Z方向)において、Ti層21の体積抵抗率R1と、Cu層22の体積抵抗率R2と、ステンレス層23の体積抵抗率R3とを合成した厚み方向の合成体積抵抗率Rxyは、約18×10
−8Ω×mになるように構成されている。つまり、X方向の合成体積抵抗率Ryz(約2×10
−8Ω×m)は、厚み方向(Z方向)の合成体積抵抗率Rxy(約18×10
−8Ω×m)よりも小さくなるように構成されている。なお、厚み方向の合成体積抵抗率Rxyとは、X−Y平面と直交する方向(厚み方向:Z方向)に沿ってX−Y平面を貫通するように流れる電流Izに対する、金属基板2の体積抵抗率のことである。
【0047】
次に、
図1および
図3を参照して、本発明の第1実施形態による色素増感型太陽電池100の製造プロセスについて説明する。
【0048】
まず、非多孔質からなるロール状のTi板、ロール状のCu板およびSUS430のロール状のステンレス板(図示せず)を準備する。なお、Cu板の厚みは、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの約40%である。また、Ti板の厚みおよびステンレス板の厚みは、共に、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの約30%である。
【0049】
そして、ロールを解いてTi板、Cu板およびステンレス板の順に積層させた状態で、図示しない圧延機によって連続的に接合する。この際、Ti板、Cu板およびステンレス板を、所定の圧力を加えながら冷間で圧延する。これにより、
図3に示すように、約30μmの厚みt3を有するTi層21と、約40μmの厚みt2を有するCu層22と、約30μmの厚みt4を有するステンレス層23とが接合されて約100μmの厚みt1を有するクラッド材(金属基板2)が連続的に形成される。そして、
図4に示すように、クラッド材(金属基板2)の白金触媒層13側の上面2a(Z1側の面)にショットブラストを行う。この際、Ti層21の上面2aにおける算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjisおよび表面積/平面積が、それぞれ、約0.22μm、約1.20μm、および、約1.05になるように上面2aを粗くして凹凸を形成する。
【0050】
その後、クラッド材(金属基板2)の上面2a上に、スパッタ法やペースト塗布などによって、白金薄膜の白金触媒層13を形成する。これにより、凹凸を有する上面2a上に白金触媒層13が形成される。そして、白金触媒層13が形成されたクラッド材(金属基板2)が連続的に形成されて、ロール状に巻き取られる。
【0051】
一方、準備したガラス基板11の下面上に、スパッタ法などによって、FTOの上部電極12を形成する。その後、粒子状の二酸化チタンの粉末を含む塗布材を上部電極12の下面上に塗布した後に、乾燥および焼成を行う。これにより、上部電極12の下面上に粒子状の二酸化チタン12aが固定される。そして、ガラス基板11をルテニウム錯体などの色素を含む溶液に浸すことによって、二酸化チタン12aの表面に色素からなる吸光部12bを吸着させる。これにより、上部電極12、二酸化チタン12aおよび吸光部12bが形成されたガラス基板11が形成される。そして、ガラス基板11の下面上に所定の間隔を隔てて、封止材15を配置する。
【0052】
その後、ガラス基板11とクラッド材(金属基板2)との間に所定の間隔が形成されるように、ロールを解いたクラッド材(金属基板2)の上面上にガラス基板11を配置する。そして、ガラス基板11の両端部に対応する位置でクラッド材を切断した後に、ガラス基板11と金属基板2と封止材15とで形成される空間内にヨウ素電解質14を充填する。これにより、太陽電池素子1が形成される。最後に、上部電極12と金属基板2とに、それぞれ、端子3aおよび3bを接続することによって、
図1に示す色素増感型太陽電池100が製造される。
【0053】
第1実施形態では、上記のように、太陽電池素子1の正極として機能する金属基板2が、非多孔質のTi層21と、Ti層21の体積抵抗率R1(約54×10
−8Ω×m)よりも低い体積抵抗率R2(約1.7×10
−8Ω×m)を有するCuにより形成されているとともに、Ti層21に接合されたCu層22とを備えることによって、金属基板2がTi層21のみからなる場合と異なり、金属基板2の一部がTi層21の電気抵抗よりも低いCuにより形成されているCu層22であるので、金属基板2の電気抵抗を、Ti層のみからなる金属基板の電気抵抗よりも低くすることができる。これにより、金属基板2において電気的な損失が増大するのを抑制することができる。この結果、金属基板2がTi層21のみからなる場合よりも、色素増感型太陽電池100の発電効率を向上させることができる。
【0054】
また、第1実施形態では、上記のように、Ti層21の白金触媒層13側の上面2aを粗くすることにより上面2aに凹凸を形成することによって、上面2aの凹凸により白金触媒層13に覆われる上面2aの表面積を大きくすることができるので、白金触媒層13の表面積を大きくすることができる。この結果、白金触媒層13を介した電子の授受をより行われやすくすることができるので、色素増感型太陽電池100の発電効率をより向上させることができる。
【0055】
また、第1実施形態では、上記のように、Ti層21の白金触媒層13側の上面2aの算術平均粗さRaが約0.22μmであり、十点平均粗さRzjisが約1.20μmであり、表面積/平面積が約1.05であるように形成することによって、上面2aの凹凸により触媒層に覆われる上面2aの表面積を効果的に大きくすることができるので、白金触媒層13の表面積を効果的に大きくすることができる。
【0056】
また、第1実施形態では、上記のように、Ti層21がヨウ素電解質14に対して耐食性を有するTiにより形成されているとともに、Cu層22をTi層21の太陽電池素子
1とは反対側に接合することによって、Cu層22を金属基板2に形成した場合においても、太陽電池素子1のヨウ素電解質14に対する耐食性を維持することができる。これらの結果、太陽電池素子1のヨウ素電解質14に対する耐食性を維持しつつ、色素増感型太陽電池100の発電効率を向上させることができる。
【0057】
また、第1実施形態では、上記のように、Ti層21の熱膨張係数とSUS430のステンレス層23の熱膨張係数との差(=約1.5×10
−6/℃)を、Cu層22の熱膨張係数とステンレス層23の熱膨張係数との差(=約8.1×10
−6/℃)よりも小さくすることによって、金属基板2が熱変形する際に、Cu層22がTi層21に対して変形することに起因して金属基板2全体が変形するのを、Ti層21の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するSUS430のステンレス層23によって抑制することができる。
【0058】
また、第1実施形態では、上記のように、ステンレス層23を、Cu層22を構成するCuよりも耐食性の高いフェライト系ステンレスにより形成することによって、外部環境などに起因してCu層22が腐食するのをステンレス層23によって抑制することができる。
【0059】
また、第1実施形態では、上記のように、Ti層21の厚みt3およびステンレス層23の厚みt4を、共に、金属基板2の厚みt1(約100μm)の約30%(約30μm)にすることによって、金属基板2全体が変形するのを、Ti層21の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するとともに、Ti層21の厚みt3と同一の厚みt4を有するステンレス層23によってより抑制することができる。また、Ti層21の厚みt3とステンレス層23の厚みt4とが異なることに起因してTi層21、Cu層22およびステンレス層23を接合してクラッド材を形成するのが困難になるのを抑制することができる。
【0060】
また、第1実施形態では、上記のように、Cu層22の厚みt2を、金属基板2の厚みt1(約100μm)の約40%(約40μm)にすることによって、電気抵抗の低いCuにより形成されているCu層22の占める領域をある程度大きくすることができるので、金属基板2全体の電気抵抗をより低くすることができる。また、Cu層22の占める領域が過度に大きくなるのを抑制することができるので、Ti層21の占める領域が過度に小さいことに起因してTi層21に破れなどの欠陥が生じるのを抑制することができる。また、熱変形の大きなCu層22の占める領域が過度に大きくなることに起因して金属基板2が変形しやすくなるのを抑制することができる。
【0061】
また、第1実施形態では、上記のように、Cu層22の体積抵抗率R2を、Ti層21の体積抵抗率R1およびステンレス層23の体積抵抗率R3の約20分の1以下にすることによって、Ti層21とCu層22とステンレス層23とを含む金属基板2の電気抵抗を効果的に低くすることができるので、金属基板2内での電気的な損失が増大するのを効果的に抑制することができる。
【0062】
(第2実施形態)
次に、
図1および
図5を参照して、本発明の第2実施形態による色素増感型太陽電池200の構造について説明する。この第2実施形態による色素増感型太陽電池200では、上記第1実施形態と異なり、金属基板202が、Ti層221とCu層222とが接合された2層構造のクラッド材により構成されている場合について説明する。
【0063】
本発明の第2実施形態による色素増感型太陽電池200(
図1参照)の金属基板202は、
図5に示すように、太陽電池素子1側(
図1参照)である上方(Z1側)から順に、Ti層221とCu層222とが配置されることによって形成されている。つまり、白金触媒層13の下面に接触した状態でTi層221が配置されている。なお、金属基板202は、本発明の「クラッド材」および「色素増感型太陽電池用金属基板」の一例である。また、Ti層221は、本発明の「第1金属層」の一例であり、Cu層222は、本発明の「第2金属層」の一例である。
【0064】
この金属基板202は、各々平板状の形状を有するTi層221とCu層222とが、厚み方向(Z方向)に積層した状態で接合された、2層構造のクラッド材により構成されている。また、Ti層221は非多孔質のTiにより形成されているとともに、Cu層222はCuにより形成されている。
【0065】
ここで、第2実施形態では、Cu層222の厚み方向(Z方向)における厚みt2は、金属基板202の厚みt1(約100μm)の約70%の約70μmになるように構成されている。なお、Cu層222の厚みt2は、金属基板202の厚みt1の約20%(約20μm)以上約85%(約85μm)以下であるのが好ましい。また、Cu層222の厚みt2は、金属基板202の厚みt1の約50%(約50μm)以上約80%(約80μm)以下であるのがより好ましい。
【0066】
また、Ti層221の厚み方向(Z方向)における厚みt3は、金属基板202の厚みt1(約100μm)の約30%の約30μmになるように構成されている。なお、Ti層221の厚みt3は、金属基板202の厚みt1の約15%(約15μm)以上であるのが好ましい。
【0067】
また、第2実施形態では、Ti層221の白金触媒層13側の上面2aの算術平均粗さRaが約0.22μmであり、十点平均粗さRzjisが約1.20μmであり、表面積/平面積が約1.05であるように、上面2aに凹凸が形成されている。なお、第2実施形態の色素増感型太陽電池200のその他の構成は、上記第1実施形態と略同様である。
【0068】
次に、
図5を参照して、本発明の第2実施形態による色素増感型太陽電池200の製造プロセスについて説明する。
【0069】
まず、非多孔質からなるロール状のTi板およびロール状のCu板(図示せず)を準備する。なお、Cu板の厚みは、Ti板およびCu板の合計の厚みの約70%である。また、Ti板の厚みは、Ti板およびCu板の合計の厚みの約30%である。
【0070】
そして、ロールを解いてTi板およびCu板を積層させた状態で、図示しない圧延機によって連続的に接合する。この際、Ti板とCu板とを、所定の圧力を加えながら冷間で圧延する。これにより、
図5に示すように、約30μmの厚みt3を有するTi層221と、約70μmの厚みt2を有するCu層222とが接合されて約100μmの厚みt1を有するクラッド材(金属基板202)が連続的に形成される。なお、第2実施形態のその他の製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
【0071】
第2実施形態では、上記のように、金属基板202が、非多孔質のTi層221と、Ti層221の体積抵抗率R1(約54×10
−8Ω×m)よりも低い体積抵抗率R2(約1.7×10
−8Ω×m)を有するCuにより形成されているとともに、Ti層221に接合されたCu層222とを備えることによって、金属基板202の電気抵抗を、Ti層のみからなる金属基板の電気抵抗よりも低くすることができる。これにより、金属基板202において電気的な損失が増大するのを抑制することができるので、色素増感型太陽電池200の発電効率を向上させることができる。
【0072】
また、第1実施形態では、上記のように、Ti層221の白金触媒層13側の上面2aを粗くすることにより上面2aに凹凸を形成することによって、上面2aの凹凸により白金触媒層13に覆われる上面2aの表面積を大きくすることができるので、白金触媒層13の表面積を大きくすることができる。この結果、白金触媒層13を介した電子の授受をより行われやすくすることができるので、色素増感型太陽電池200の発電効率をより向上させることができる。
【0073】
また、第2実施形態では、上記のように、Ti層221がヨウ素電解質14に対して耐食性を有するTiにより形成されているとともに、Cu層222をTi層221の太陽電池素子1とは反対側に接合することによって、Cu層222を金属基板202に形成した場合においても、太陽電池素子1のヨウ素電解質14に対する耐食性を維持することができる。
【0074】
また、第2実施形態では、上記のように、Cu層222の厚みt2を、金属基板202の厚みt1(約100μm)の約70%(約70μm)にすることによって、電気抵抗の低いCuにより形成されているCu層222の占める領域を大きくすることができるので、金属基板202全体の電気抵抗をより低くすることができる。
【0075】
また、第2実施形態では、上記のように、Ti層221の厚みt3を、金属基板202の厚みt1(約100μm)の約30%(約30μm)にすることによって、Ti層221の厚みt3が過度に小さくなるのを抑制することができるので、Ti層221の厚みt3が過度に小さいことに起因してTi層221に破れなどの欠陥が生じるのを抑制することができる。また、熱変形の大きなCu層222の占める領域が過度に大きくなることに起因して金属基板202が変形しやすくなるのを抑制することができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0076】
[実施例]
次に、
図2〜
図13を参照して、本発明の効果を確認するために行った体積抵抗率のシミュレーションおよび測定と、発電効率の測定とについて説明する。具体的には、上記第1実施形態による3層構造の金属基板2における体積抵抗率、および、上記第2実施形態による2層構造の金属基板202における体積抵抗率のシミュレーションを行った。また、上記第1実施形態による3層構造の金属基板2における上面2aに沿った方向の体積抵抗率の測定と、この金属基板2を用いて作製した色素増感型太陽電池100の発電効率の測定と、金属基板2の表面粗さを変化させた場合の色素増感型太陽電池100の発電効率の測定とを行った。
【0077】
(体積抵抗率のシミュレーション)
以下に説明する3層構造の金属基板における体積抵抗率のシミュレーションでは、
図6に示すように、上記第1実施形態の金属基板2に対応する実施例1〜9の金属基板2として、各々平板状の形状を有するTi層21とCu層22とステンレス層23とが、厚み方向に積層した状態で接合された、3層構造のクラッド材により構成されている金属基板2を想定した。ここで、実施例1〜9の金属基板2として、Cu層22の厚みt2(
図3参照)が、それぞれ、金属基板2の厚みt1(
図3参照)の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%および90%である場合を想定した。また、実施例1〜9において、Ti層21の厚みt3(
図3参照)およびステンレス層23の厚みt4(
図3参照)は、同一の厚みであると仮定した。したがって、実施例1〜9の金属基板2では、Ti層21の厚みt3およびステンレス層23の厚みt4は、それぞれ、金属基板2の厚みt1の45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%および5%であるようなモデル化を行った。
【0078】
また、実施例1〜9に対する比較例1として、Ti層およびステンレス層とが、厚み方向に積層した状態で接合された、2層構造のクラッド材により構成されている金属基板(Cu層を含まない金属基板)を想定した。なお、比較例1の金属基板において、Ti層の厚みおよびステンレス層の厚みは、共に金属基板の厚みの50%であると仮定した。
【0079】
また、2層構造の金属基板における体積抵抗率のシミュレーションでは、
図8に示すように、上記第2実施形態の金属基板202に対応する実施例10〜18として、各々平板状の形状を有するTi層221とCu層222とが、厚み方向に積層した状態で接合された、2層構造のクラッド材により構成されている金属基板202を想定した。ここで、実施例10〜18の金属基板202として、Cu層222の厚みt2(
図5参照)が、それぞれ、金属基板202の厚みt1(
図5参照)の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%および90%である場合を想定した。また、実施例10〜18の金属基板202において、Ti層221の厚みt3(
図3参照)は、それぞれ、金属基板202の厚みt1の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%および10%であるようなモデル化を行った。
【0080】
また、実施例1〜18に対する比較例2として、Cu層のみからなる金属基板(Ti層およびステンレス層を含まない金属基板)を想定した。また、実施例10〜18に対する比較例3として、Ti層のみからなる金属基板(Cu層を含まない金属基板)を想定した。
【0081】
また、体積抵抗率のシミュレーションでは、実施例1〜18および比較例1〜3のそれぞれにおいて、金属基板の上面に沿った方向(X方向)の合成体積抵抗率Ryzと、厚み方向(Z方向)の合成体積抵抗率Rxyとを算出した。なお、X方向の合成体積抵抗率Ryzは、式「1/Ryz=a/R1+b/R2+c/R3」から求めた。また、Z方向の合成体積抵抗率Rxyは、式「Rxy=a×R1+b×R2+c×R3」から求めた。なお、上記式内のa、bおよびcは、それぞれ、金属基板の厚みに対するTi層の厚み、Cu層の厚みおよびステンレス層の厚みの比率である。また、R1、R2およびR3は、それぞれ、Ti、Cuおよびステンレス層の体積抵抗率である。ここで、R1、R2およびR3として、それぞれ、54×10
−8Ω×m、1.7×10
−8Ω×mおよび60×10
−8Ω×mを用いた。
【0082】
図6および
図7に示した実施例1〜9と比較例1および2との結果から、3層構造の金属基板にCu層を形成することによって、3層構造の金属基板がCu層を含まない場合(比較例1)と比べて、X方向の合成体積抵抗率RyzおよびZ方向の合成体積抵抗率Rxyのいずれも小さくなることが分かった。同様に、
図8および
図9に示した実施例10〜18と比較例2および3との結果から、2層構造の金属基板にCu層を形成することによって、2層構造の金属基板がCu層を含まない場合(比較例3)と比べて、X方向の合成体積抵抗率RyzおよびZ方向の合成体積抵抗率Rxyのいずれも小さくなることが分かった。これらの結果から、金属基板にCu層を形成することによって、金属基板において電気的な損失が増大するのを抑制することが可能であることが判明した。
【0083】
また、
図6〜
図9に示した実施例1〜18と比較例1〜3との結果から、体積抵抗率の小さいCuにより形成されたCu層の厚みの比率を大きくすることによって、合成体積抵抗率RyzおよびRxyのいずれも小さくすることが可能であることが分かった。また、X方向の合成体積抵抗率Ryzは、Cu層の厚みの比率が小さい領域において変化量が大きくなるとともに、Cu層の厚みの比率が大きい領域において変化量が小さくなることが分かった。
【0084】
また、
図6〜
図9に示した実施例2〜9および11〜18の結果と比較例2の結果とから、Cu層の厚みを金属基板の厚みの20%以上にすることによって、X方向の体積抵抗率Ryzを8×10
−8Ω×m以下にすることが可能であることが分かった。これにより、Cu層の厚みを金属基板の厚みの20%以上にすることによって、主にX方向に電流を流す際の電気的な損失が増大するのをより抑制することが可能であることが判明した。このことから、太陽電池素子を大型化するのに伴い金属基板の厚み方向と直交するX−Y平面(上面)の面積を大きくした場合であっても、Cu層の厚みが金属基板の厚みの20%以上であれば金属基板における電気的な損失の増大を抑制することが可能であるので、大型化した色素増感型太陽電池からより多くの電気を得ることが可能になると考えられる。
【0085】
さらに、実施例5〜9および14〜18の結果と比較例2の結果とから、Cu層の厚みを金属基板の厚みの50%以上にすることによって、X方向の体積抵抗率Ryzを4×10
−8Ω×m以下にすることが可能であることが分かった。これにより、Cu層の厚みを金属基板の厚みの50%以上にすることによって、主にX方向に電流を流す際の電気的な損失が増大するのをさらに抑制することが可能であることが分かった。
【0086】
(金属基板の上面に沿った方向の体積抵抗率の測定)
以下に説明する上面に沿った方向の体積抵抗率の測定では、実際に上記第1実施形態の金属基板2に対応する金属基板2を作製して体積抵抗率の測定を行った。具体的には、非多孔質からなるTi板、Cu板およびSUS430のステンレス板を準備した。そして、Ti板、Cu板およびステンレス板の順に積層させた状態で、圧延機によって連続的に接合した。この際、Ti板、Cu板およびステンレス板に所定の圧力を加えながら冷間で圧延した。これにより、上記第1実施形態の金属基板2に対応する実施例2a、4aおよび6aの金属基板2をそれぞれ6枚ずつ、合計18枚作製した。
【0087】
ここで、上記したシミュレーションの実施例2(
図6参照)に対応する実施例2aの金属基板2では、Cu板の厚みが、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの20%であり、Ti板の厚みおよびステンレス板の厚みが、共に、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの40%(Cu板の厚みの2倍)であるように構成した。
【0088】
また、上記したシミュレーションの実施例4(
図6参照)に対応する実施例4aの金属基板2では、Cu板の厚みが、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの40%であり、Ti板の厚みおよびステンレス板の厚みが、共に、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの30%(Cu板の厚みの3/4倍)であるように構成した。
【0089】
また、上記したシミュレーションの実施例6(
図6参照)に対応する実施例6aの金属基板2では、Cu板の厚みが、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの60%であり、Ti板の厚みおよびステンレス板の厚みが、共に、Ti板、Cu板およびステンレス板の合計の厚みの20%(Cu板の厚みの1/
3倍)であるように構成した。
【0090】
そして、作製した18枚の金属基板2(実施例2aの6枚の金属基板2、実施例4aの6枚の金属基板2および実施例6aの6枚の金属基板2)の各々において、Ti層21の厚みt3、Cu層22の厚みt2、ステンレス層23の厚みt4および金属基板2の厚みt1を所定の測定方法によって測定した。
【0091】
また、作製した18枚の金属基板2の各々において、上面2aに沿ったX方向の合成体積抵抗率Ryzを、4探針法によって測定した。具体的には、
図10に示す体積抵抗率測定器300の探針300a〜300dのうち、外側に配置された探針300aおよび300bの間に一定電流I
0を流した際の、内側に配置された探針300cおよび300d間の電位差Vを測定することによって、X方向の合成体積抵抗率Ryzを算出した。
【0092】
そして、実施例2a、4aおよび6aのそれぞれにおいて、6枚の金属基板2における測定結果(Ti層21の厚みt3、Cu層22の厚みt2、ステンレス層23の厚みt4、金属基板2の厚みt1およびX方向の合成体積抵抗率Ryz)の平均値を算出した。
【0093】
図11に示した実施例2a、4aおよび6aの結果から、実際に測定した場合においても、X方向の合成体積抵抗率Ryzは、Ti層およびステンレス層のみからなる金属基板の体積抵抗率(57×10
−8Ω×m、比較例1)およびTi層のみからなる金属基板の体積抵抗率(54×10
−8Ω×m、比較例3)よりも小さくなることが分かった。これにより、実際に、金属基板2にCu層22を形成することによって、金属基板2がCu層22を含まない場合(金属基板がTi層およびステンレス層のみからなる場合、および、金属基板がTi層のみからなる場合)と比べて、X方向の合成体積抵抗率Ryzを小さくすることができることが判明した。
【0094】
また、実施例2a、4aおよび6aの実験結果(実測値)と、体積抵抗率のシミュレーションの実施例2、4および6のシミュレーション結果(計算値)とから、X方向の合成体積抵抗率Ryzの実測値は、計算値よりも大きくなることが分かった。これは、クラッド材の各層間の界面における化合物層の生成によるものであると考えられる。
【0095】
また、Cu層22の厚みt2の比率が小さい場合(実施例2および2a)における合成体積抵抗率Ryzの実測値と計算値との差(=8.76×10
−8Ω×m)は、Cu層22の厚みt2の比率が大きい場合(実施例6および6a)における合成体積抵抗率Ryzの実測値と計算値との差(=0.57×10
−8Ω×m)よりも大きくなることが分かった。これは、上記したように、実測値の合成体積抵抗率Ryzには、Ti層21を通過する際の電気抵抗が加わっているため、Ti層21の厚みt3の比率が大きい実施例2および2aでは、Ti層21の厚みt3の比率が小さい実施例6および6aに比べて、Ti層21を通過する際の電気抵抗が大きくなる。このため、Cu層22の厚みt2の比率が小さい場合における合成体積抵抗率Ryzの実測値と計算値との差は、Cu層22の厚みt2の比率が大きい場合における合成体積抵抗率Ryzの実測値と計算値との差よりも大きくなったと考えられる。
【0096】
(Cu層の厚みの比率を異ならせた場合の発電効率測定)
以下に説明するCu層の厚みの比率を異ならせた場合の発電効率の測定では、
図12に示すように、上記第1実施形態の金属基板2に対応する実施例2b〜7bの金属基板2として、各々平板状の形状を有するTi層21とCu層22とステンレス層23とが、厚み方向に積層した状態で接合された、3層構造のクラッド材により構成されている金属基板2を準備した。この際、実施例2b〜7bの金属基板2において、厚みt1(
図3参照)と、厚み方向と直交するX−Y平面(
図2参照)の面積とが互いに同一になるようにした。
【0097】
ここで、実施例2b〜7bの金属基板2として、Cu層22の厚みt2(
図3参照)が、それぞれ、金属基板2の厚みt1(
図3参照)の20%、30%、40%、50%、60%および70%である金属基板2を作製した。なお、実施例2b〜7bの金属基板2として、Ti層21の厚みt3(
図3参照)とステンレス層23の厚みt4(
図3参照)とを同一にした。具体的には、実施例2b〜7bの金属基板2では、Ti層21の厚みt3およびステンレス層23の厚みt4を、それぞれ、金属基板2の厚みt1の40%、35%、30%、25%、20%および15%にした。
【0098】
また、実施例2b〜7bに対する比較例4の金属基板として、平板状の形状を有するTi層のみからなる金属基板を準備した。この際、比較例4の金属基板の厚みと、実施例2b〜7bの金属基板2の厚みt1(
図3参照)とが同一になるようにした。また、比較例4の金属基板の厚み方向と直交するX−Y平面の面積と、実施例2b〜7bの金属基板2の厚み方向と直交するX−Y平面(
図2参照)の面積とが同一になるようにした。つまり、比較例4の金属基板として、Ti層のみからなる点だけが実施例2b〜7bの金属基板2と異なる金属基板を作製した。
【0099】
そして、上記第1実施形態における色素増感型太陽電池100の製造プロセスと同様の製造プロセスを用いて、実施例2b〜7bおよび比較例4に対応する色素増感型太陽電池をそれぞれ作製した。その後、同一条件下において、比較例4の色素増感型太陽電池の発電効率を100%とした場合の、実施例2b〜7bの色素増感型太陽電池100の発電効率をそれぞれ計測した。
【0100】
図12に示した実施例2b〜7bと比較例4との結果から、金属基板2にCu層22を形成することによって、金属基板がTi層のみからなる場合(比較例4、発電効率:100%)と比べて、色素増感型太陽電池の発電効率が大きくなる(実施例2b〜7b、発電効率:110%以上115%以下)ことが分かった。これは、Ti層のみからなる金属基板(比較例4)と比べて、Cu層を含む金属基板2(実施例2b〜7b)は、X方向の体積抵抗率RyzおよびZ方向の体積抵抗率Rxyのいずれも小さいので、金属基板において電気的な損失が増大するのが抑制されたためである。したがって、実施例2b〜7bに対応する色素増感型太陽電池100では、比較例4に対応する色素増感型太陽電池に比べて、発電効率が大きくなったと考えられる。
【0101】
また、実施例5b〜7bの結果から、Cu層22の厚みt2が金属基板2の厚みt1の50%以上になる場合には、色素増感型太陽電池100の発電効率は略変化しない(115%)ことが分かった。つまり、Cu層22の厚みt2は、金属基板2の厚みt1の50%以上であるのが好ましいことが判明した。これは、
図7に示す体積抵抗率のシミュレーションのグラフから、Cu層22の厚みt2の割合が50%以上の領域では、X方向の合成体積抵抗率Ryzの変化が非常に小さくなっており、電流がX方向に流れる際の電気抵抗値がさほど変わらないからであると考えられる。
【0102】
また、実施例2b〜7bの結果から、Cu層22の厚みt2が金属基板2の厚みt1の30%以上の場合(実施例3b〜7b、発電効率:113%以上115%以下)では、Cu層22の厚みt2が金属基板2の厚みt1の20%の場合(実施例2b、発電効率:110%)に比べて、色素増感型太陽電池100の発電効率をより大きくすることができることが確認できた。さらに、Cu層22の厚みt2が金属基板2の厚みt1の50%以上の場合(実施例5b〜7b、発電効率:115%)では、色素増感型太陽電池100の発電効率をさらに大きくすることができることが確認できた。
【0103】
(金属基板の表面粗さを異ならせた場合の発電効率測定)
以下に説明する金属基板の表面粗さを異ならせた場合の発電効率測定の測定では、上記第1実施形態の金属基板2に対応する上記実施例4bの金属基板2を3枚準備した。つまり、Cu層22の厚みt2(
図3参照)が、金属基板2の厚みt1(
図3参照)の40%であるとともに、Ti層21の厚みt3(
図3参照)とステンレス層23の厚みt4(
図3参照)とが、金属基板2の厚みt1の30%である金属基板2を準備した。
【0104】
そして、3枚の実施例4bの金属基板2のうちの2枚の金属基板2のTi層21の上面2aに対してショットブラストを行うことによって、実施例4bの金属基板2の上面2aよりも表面粗さが大きい上面2aを有する、実施例4cの金属基板2および実施例4dの金属基板2を作製した。この際、実施例4dの金属基板2の上面2aの表面粗さを、実施例4cの金属基板2の上面2aの表面粗さよりも大きくなるように作製した。
【0105】
その後、実施例4bの金属基板2、実施例4cの金属基板2および実施例4dの金属基板2の各々の上面2aの表面粗さを測定した。具体的には、上面2aの算術平均粗さRaおよび十点平均粗さRzjisについては、接触式の表面粗さ測定器(surfcom480A、株式会社東京精密製)を用いて測定し、表面積については、レーザ顕微鏡(VK−9700、株式会社キーエンス製)を用いて測定した。表面積の測定条件としては、50倍の対物レンズを用いる表面形状の測定モードで測定を行うとともに、超高精細の測定品質になるように測定した。なお、表面積/平面積は、任意の240μm四方の正方形領域における金属基板2の表面積を、正方形領域の平面積(240×240μm
2)で除することによって求めた。
【0106】
そして、実施例4bの金属基板2、実施例4cの金属基板2および実施例4dの金属基板2の各々の上面2a上に、スパッタ法によって白金薄膜の白金触媒層13を形成した。その後、上記第1実施形態における色素増感型太陽電池100の製造プロセスと同様の製造プロセスを用いて、実施例4b、4cおよび4dに対応する色素増感型太陽電池をそれぞれ作製した。その後、同一条件下において、実施例4bの色素増感型太陽電池の発電効率を100%とした場合の、実施例4cおよび4dの色素増感型太陽電池100の発電効率をそれぞれ計測した。
【0107】
実施例4b、4cおよび4dの実験結果を
図13に示す。なお、発電効率における三角印は発電効率が100%以上105%未満であったことを示し、発電効率があまり向上しなかったことを意味する。また、丸印は発電効率が105%以上であったことを示し、発電効率が十分に向上したことを意味する。
【0108】
実施例4b、4cおよび4dの実験結果から、金属基板2のTi層21の上面2aの表面粗さ(算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjisおよび表面積/平面積)を大きくすることによって、発電効率を向上させることができることが判明した。
【0109】
また、実施例4cおよび4dの結果から、上面2aの算術平均粗さRaが0.10μm以上である場合、十点平均粗さRzjisが0.50μm以上である場合、または、表面積/平面積が1.03以上のいずれか1つを満たす場合には、発電効率の向上が期待できることが判明した。特に、上面2aの算術平均粗さRaが0.22μm以上である場合、十点平均粗さRzjisが1.20μm以上である場合、および、表面積/平面積が1.05以上である場合には、発電効率が十分に向上することが判明した。これは、金属基板2のTi層21の上面2aの表面粗さが大きくなったことにより、Ti層21の上面2aに付着した白金触媒層13の白金の量が増加した。これにより、白金を介した電子の授受がより行われるようになったからであると考えられる。
【0110】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0111】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、本発明の「第1金属層」を非多孔質のTiのTi層21(221)から構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、本発明の「第1金属層」を非多孔質でかつヨウ素電解質に対して耐食性を有するTi合金により形成されるように構成してもよい。
【0112】
また、上記第1および第2実施形態では、本発明の「第2金属層」をCuにより形成されたCu層22(222)から構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、本発明の「第2金属層」を電気抵抗の低いCu合金、AlまたはAl合金のいずれか1つにより形成されるように構成してもよい。
【0113】
また、上記第1実施形態では、本発明の「第3金属層」をSUS430のステンレス層23から構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、本発明の「第3金属層」をSUS430以外のフェライト系ステンレスにより形成されるように構成してもよい。また、たとえば、本発明の「第3金属層」をフェライト系ステンレス以外のFe、TiまたはTi合金のいずれか1つにより形成されるように構成してもよい。この際、第3金属層を安価なFeにすることによって、金属基板に安価に第3金属層を形成することが可能である。また、第3金属層を耐食性の高いTiまたはTi合金にすることによって、金属基板の耐食性をより向上させることが可能である。
【0114】
また、上記第1実施形態では、金属基板2がTi層21とCu層22とステンレス層23とが接合されたクラッド材により構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、金属基板は、ステンレス層23と接してCu層22とは反対側の表面にさらに他の金属層を備えていてもよいし、Cu層22とステンレス層23との間に他の金属層を備えていてもよい。
【0115】
また、上記第1実施形態では、Ti層21の厚みt3とステンレス層23の厚みt4とが略同一になるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Ti層の厚みt3とステンレス層の厚みt4とを異ならせてもよい。この際、Tiは、SUS430(フェライト系ステンレス)よりも一般的に高価であるため、Ti層の厚みt3をステンレス層の厚みt4よりも小さくする方が好ましい。
【0116】
また、上記第1実施形態では、Ti層21の上面2aの算術平均粗さRaが約0.22μmであり、十点平均粗さRzjisが約1.20μmであり、表面積/平面積が約1.05である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Ti層21の上面2aの算術平均粗さRaを約0.22μmよりも大きくしてもよいし、十点平均粗さRzjisを約1.20μmよりも大きくしてもよいし、表面積/平面積を約1.05よりも大きくしてもよい。
【0117】
また、上記第1実施形態では、Ti層21の上面2aにおける算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjisおよび表面積/平面積が、それぞれ、約0.10μm以上、約0.50μm以上、および、約1.03以上でもよいことを示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、算術平均粗さRaを約0.10μm以上にする一方、十点平均粗さRzjisおよび表面積/平面積を、それぞれ、約0.50μm未満、および、約1.03未満にしてもよい。なお、少なくとも表面積/平面積を約1.03以上にするのが好ましい。