(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
図1と
図2は、第一実施形態に係るピストンモータ1を示す。ピストンモータ1は、作業車両等に変速機として搭載されるハイドロスタティックトランスミッション(HST)に用いられる。
【0012】
図1のように、ピストンモータ1は、対向式斜板型ピストンポンプ・モータであり、ピストンモータ1は、ポンプとしても使用できる。ピストンモータ1は、シリンダブロック4の両側に第一斜板30と第二斜板40を備える。なお、ピストンモータ1の基本構造は、特開2009−203927号公報に開示された従来のピストンモータと同様である。
【0013】
ピストンモータ1は、ケース25とポートブロック50とによりハウジング室24が形成され、このハウジング室24にシリンダブロック4および第一、第二斜板30、40等が収容される。なお、ケース25とポートブロック50をまとめて、ハウジング(収容部材)と呼ぶ場合がある。
【0014】
モータシャフト5は、シリンダブロック4を貫通してこれに取付けられる。モータシャフト5は、軸受91を介してポートブロック50に回転可能に支持され、軸受92を介してケース25に回転可能に支持される。
【0015】
シリンダブロック4にはその軸心回りの同一円周上に複数のシリンダ6が一定の間隔を持って形成される。シリンダ6には両側から第一ピストン8と第二ピストン9がそれぞれ挿入され、これらの間に容積室10が形成される。
【0016】
第一、第二ピストン8、9の一端は、シリンダブロック4の両端面からそれぞれ突出し、第一、第二斜板30、40にシュー21、22を介して支持される。シリンダブロック4が回転すると、第一、第二ピストン8、9は第一、第二斜板30、40との間で互いに反対方向に往復動する。
【0017】
図1のように、各容積室10に作動油を給排する油通路は、ポートブロック50の第一軸受部32(第一すべり軸受部)に開口する対の軸受ポート39と、第一斜板30に開口する対の斜板ポート16と、斜板プレート60に開口するシリンダ6と同数のバルブポート61と、各シュー21を貫通するシューポート19とによって形成される。
【0018】
ピストンモータ1における作動油の流れは、一方の軸受ポート39→一方の斜板ポート16→バルブポート61→シューポート19→容積室10→シューポート19→バルブポート61→他方の斜板ポート16→他方の軸受ポート39となる。各容積室10に導かれる作動油圧によって第一、第二ピストン8、9がシリンダ6を互いに反対方向に往復動し、シリンダブロック4とモータシャフト5が回転する。
【0019】
シュー21、22を付勢する手段として、複数のスプリング95、96が設けられる。シリンダブロック4の穴93、94のそれぞれにスプリング95、96が入れられる。一方の各スプリング95の付勢力は、リテーナホルダ97、リテーナプレート98を介して各シュー21に伝えられ、この付勢力により各シュー21が斜板プレート60に押し付けられる。他方の各スプリング96の付勢力はリテーナホルダ87、リテーナプレート88を介して各シュー22に伝えられ、この付勢力により各シュー22が第二斜板40に押し付けられる。この結果、二斜板40は、スプリング96のバネの力(弾性力)によって、後述の第二軸受部42に付勢されている。
【0020】
第一、第二斜板30、40は、それぞれ第一軸受部32と第二軸受部42によって、斜板背面ジャーナル部31、41を介して傾転可能に支持され、ピストンモータ1の1回転当たりの押しのけ容積を変えられるようになっている。入力側のポンプシャフトと出力側のモータシャフト5の回転数の比率は、ピストンポンプとピストンモータ1の押しのけ容積の比に応じて変化する。
【0021】
サーボ機構33は、ピストンモータ1のポートブロック50に設けられ、第一斜板30を傾転させる。サーボ機構33は、ポートブロック50に摺動可能に収装されるサーボレギュレータピストン34を備える。サーボレギュレータピストン34が油圧等によって移動することにより、駆動用係合ピン65、スライドメタル66を介して第一斜板30が傾転する。サーボレギュレータピストン34には、スライドメタル66を摺動可能に係合させる環状の凹部67が形成され、駆動用係合ピン65はスライドメタル66を介して凹部67に係合する。サーボレギュレータピストン34の動きはスライドメタル66、駆動用係合ピン65を介して第一斜板30に伝えられる。
【0022】
ピストンモータ1には第一、第二斜板30、40を互いに連動させる傾転連動機構45が設けられる。傾転連動機構45は、ケース25に支持ピン49を介して揺動可能に連結される揺動リンク48と、第二斜板40をこの揺動リンク48の一端に係合させる第二係合ピン54と、第一斜板30をこの揺動リンク48の他端に係合させる第一係合ピン53とを備える。後述するように第一、第二斜板30、40の傾転角度が所定の関係をもって変化するように各部の寸法が設定される。
【0023】
第一係合ピン53は、第一斜板30の側部から突出しており、スライドメタル75を介して揺動リンク48の凹部58に摺動可能に係合する。第二係合ピン54は、第二斜板40の側部から突出しており、スライドメタル62を介して揺動リンク48の凹部55に摺動可能に係合する。
【0024】
支持ピン49、第一係合ピン53、第二係合ピン54、駆動用係合ピン65は、それぞれの中心軸がモータシャフト5の中心軸O5と直交し、第一、第二斜板30、40の傾転中心軸O30、O40と平行に延びるように配置される。
【0025】
図1に示すように、サーボ機構33と傾転連動機構45とを両者の間に第一斜板30が挟まれるように配置される。駆動用係合ピン65と第一係合ピン53は第一斜板30の両側部からそれぞれ反対方向に突出する。
【0026】
第二斜板40の一方の側部にはサイドプレート46が2本のボルト76、77を介して締結される。このサイドプレート46の先端部から第二係合ピン54が突出して設けられる。第二係合ピン54は、サイドプレート46を介して第二斜板40の傾転中心軸O40よりも第一斜板30側に配置される。
【0027】
揺動リンク48は、支持ピン49に軸受63を介して揺動可能に支持される。支持ピン49はブラケット82にナット83を介して締結される。ブラケット82は複数のビス84を介してケース25に締結される。
【0028】
揺動リンク48は、支持ピン49から第一斜板30に向けて延びる第一リンク部48aと、支持ピン49から第二斜板40に向けて延びる第二リンク部48bとを有する。第一リンク部48aにスライドメタル75に係合する凹部58が形成され、第二リンク部48bにスライドメタル62に係合する凹部55が形成される。スライドメタル62は、揺動リンク48の凹部55に摺動可能であるとともに、第二係合ピン54に対して揺動可能(回転可能)である。スライドメタル75は、揺動リンク48の凹部58に摺動可能であるとともに、第一係合ピン53に対して揺動可能(回転可能)である。
【0029】
サーボ機構33のサーボレギュレータピストン34が移動することにより、第一斜板30が傾転するとともに、第二斜板40が傾転連動機構45を介して第一斜板30に連動して傾転する。ピストンモータ1の容量は、サーボレギュレータピストン34のストロークに応じて連続的に変えられる。
【0030】
図2はピストンモータ1が最大容量に切換えられた状態を示し、第一斜板30の傾転角度が最大値(例えば16〜17°)になるとともに、第二斜板40の傾転角度(例えば16〜17°)が最大値になる。ピストンモータ1が最小容量に切換えられた状態では、第一斜板30の傾転角度が0°になり、第二斜板40の傾転角度TH5が0°より大きい最小値(例えば6〜7°)になる。
【0031】
第一斜板30は、斜板背面ジャーナル部31を介して傾転中心軸O30を中心として回動する。一対の斜板背面ジャーナル部31は、第一斜板30の背後からハーフログ形に突出し、その円柱面状の摺動面がポートブロック50の第一軸受部32の軸受メタル38を介して摺動可能に支持される。円弧状断面を有する第一軸受部32及び軸受メタル38は、円筒の一部である円弧形状を有し、この円筒の軸が傾転中心軸O30に一致する。斜板背面ジャーナル部31は、第一斜板30と一体で形成されるが、これに限らず第一斜板30と別体で形成しても良い。
【0032】
駆動用係合ピン65と第一係合ピン53は、斜板背面ジャーナル部31に形成された各穴に圧入して固定される。これにより、駆動用係合ピン65と第一係合ピン53は、斜板背面ジャーナル部31の側面からそれぞれ突出して設けられる。
【0033】
第二斜板40は、傾転中心軸O40を中心として回動する。一対の斜板背面ジャーナル部41は、第二斜板40の背後からハーフログ形に突出し、その円柱面状の摺動面がケース25の第二軸受部42(第二すべり軸受部)の軸受メタル44を介して摺動可能に支持される。円弧状断面を有する第二軸受部42及び軸受メタル44は、円筒の一部である円弧形状を有し、この円筒の軸が傾転中心軸O40に一致する。斜板背面ジャーナル41は、第二斜板40と別体で形成され、2本のノックピンを介して第二斜板40に固定される。なお、これに限らず、斜板背面ジャーナル41を第二斜板40と一体で形成しても良い。
【0034】
以下、ピストンモータ1が従来のピストンモータから改良された点について述べる。
【0035】
シャフト101は、ケース25の孔25aに挿入され、ケース25に取り付けられている。シャフト101は、ケース25に固定されても回転可能に支持されてもよい。シャフト101のケース外部側の端は、シールリング102aを有する蓋部102により覆われ、ハウジング室24がケース外部に対して密閉されている。蓋部102は、ケース25にねじ止めされ、取り付けられる。
【0036】
シャフト101は、サイドプレート46の孔(又は凹部)46aに挿入されている。シャフト101の中心軸は、第二斜板40の傾転中心軸O40に一致する。本実施形態では、サイドプレート46がシャフト101の周りで回転できるように、シャフト101はサイドプレート46に固定されていない。しかし、逆に、シャフト101をサイドプレート46に固定する場合、シャフト101は、ケース25に回転可能に支持され、傾転中心軸O40の周りで回転する。シャフト101は、第二斜板40の傾転中心軸O40に対する半径方向において第二斜板40の移動を制限し、第二斜板40をハウジング(ケース25)に対して傾転可能に支持する支持機構を構成する。
【0037】
なお、可能であれば、シャフト101は、サイドプレート46の孔ではなく、第二斜板自体に設けられた孔に挿入されるようにしてもよい。
【0038】
次に、第一実施形態の作用効果について述べる。第一実施形態によると、対向式斜板型ピストンポンプ・モータ(ピストンモータ1)は、第二斜板40の傾転中心軸O40に対する半径方向において第二斜板40の移動を制限し、第二斜板40をハウジング(ケース25)に対して傾転可能に支持する支持機構を備える。これにより、第二斜板40が第二軸受部42の軸受メタル44から離れて浮くことを防止できる。
【0039】
また、支持機構は、第二斜板40の傾転中心軸O40上で延在するシャフト101を備える。シャフト101は、第二斜板40とこれに取付けられる部材(サイドプレート46)の少なくとも一方、及び、ハウジング(ケース25)を通過して設けられる。このため、傾転中心軸O40の周りでの第二斜板40の傾転を維持しつつ、傾転中心軸O40に対する半径方向において第二斜板40の移動を確実に制限でき、第二斜板40が第二軸受部42の軸受メタル44から離れて浮くことを確実に防止できる。
【0040】
<第二実施形態>
図3と
図4を参照して、第二実施形態について説明する。第一実施形態では、ケース(ハウジング)とサイドプレートを通るシャフトを支持機構として設けた。しかし、第二実施形態では、代わりにケースに取付けたレールと、レールに係合する係合部材が支持機構として設けられる。他の構成は、第一実施形態と同様であり説明は省略される。
【0041】
図4のように、レール103は、円弧状断面を有する部材であり、第二軸受部42の円弧状断面を有する軸受メタル44に接して重ねて配置される。レール103の円弧状表面と軸受メタル44の円弧状表面の中心(即ち円弧状表面を構成する円柱の中心)は、第二斜板40の傾転中心軸O40に一致する。レール103は、第二斜板側で軸受メタル44に形状的に適合して接する前面(円弧面)と、第二斜板側とは反対側の背面(円弧面)とを有する。レール103は、ネジ107によって、ケース25に取付けられる。
【0042】
係合部材104は、ボルト105によって、第二斜板40の斜板背面ジャーナル部41の傾転中心軸O40方向の側面に取付けられている。係合部材104は、L字状の形状を有し、モータシャフト5の中心軸O5と平行に延在する平板部104aと、平板部104aから傾転中心軸O40方向と平行に延在する爪部104bを備える。爪部104bは、レール103の第二斜板側とは反対側の背面に引っ掛って摺接し、この背面に沿って摺動する。
【0043】
なお、
図5(a)(b)のように、第二軸受部42の軸受メタル44の厚みを大きくして、レール103を省略してよい。代わりに、軸受メタル44がレールとして使用される。この場合、係合部材104の爪部104bは、軸受メタル44の第二斜板側とは反対側の背面(円弧面)に引っ掛って摺接し、この背面に沿って摺動する。軸受メタル44は、ネジ107によって、ケース25に取付けられる。
【0044】
レール103及び係合部材104とは、第二斜板40の傾転中心軸O40に対する半径方向において第二斜板40の移動を制限し、第二斜板40をハウジング(ケース25)に対して傾転可能に支持する支持機構を構成する。
【0045】
第二実施形態によると、支持機構は、円弧状の第二軸受部42に沿って設けられてハウジング(ケース25)に取付けられた円弧状のレール103と、第二斜板40に取付けられレール103に係合する係合部材104とを備える。このため、傾転中心軸O40の周りでの第二斜板40の傾転を維持しつつ、傾転中心軸O40に対する半径方向において第二斜板40の移動を確実に制限でき、第二斜板40が軸受部42の軸受メタル44から離れて浮くことを確実に防止できる。
【0046】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。例えば、ピストンモータ1は、斜板型油圧ピストンポンプ・モータとして油圧ポンプとしても使用できる。