【実施例】
【0095】
[使用機器]
1H,13C NMRは、JEOL製 JNM-MY60FT及びJEOL製JNM-GSX 500N NMR spectrometerを用いた。赤外分光光度計は、Hitachi-Nicolet製 FT-IR 5020及び日本分光株式会社製 FT/IR-4100STを用いた。質量分析装置は、JEOL製 JMS SX-102 (EI,FAB) 及び島津製作所製 GC-MS QP5050Aを用いた。融点測定器は、柳本製作所製 微量融点測定器MP-S3を用いた。無溶媒における合成実験の実施に関しては、共栓付き試験管に試薬を詰めたものをドライサーモユニットTAITEC社製 Dry Thermo Unit DTU-1Cを用いて反応速度をコントロールしながら行なった。反応の確認は、Merck社製アルミシートSilicagel 60 F254を用いた薄層クロマトグラフィーによって行なった。無溶媒反応では、
図2に示すような、めのう乳鉢1と乳棒2とを用い各試料を混合した。収率(%)はモル換算(mol%)とした。これらの実験設備によって、無溶媒環境での合成や生成物の分析等を実施した。
【0096】
[メチルベンゼンチオスルホン酸エステル(化合物1)の合成]
5 mL共栓付試験管にジメチルジスルフィド(188 mg,2.0 mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(984 mg, 6.0 mmol)、ヨウ素(1.01 g, 4.0 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち1日反応させた。下層に固化した反応物をスパーテルで十分に砕いてからジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、エバポレーターで溶媒を減圧留去することで無色透明油状の、下記反応式に示す「化合物1」を得た(652 mg, 収率87%)。
【0097】
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.6-7.9 (d, 5H), 2.5 (s,3H).
MS (EI): m/z [M]
+= 188 (65), 141 (100), 125 (13).
化合物1の合成の反応式を示す。
【0098】
【化19】
【0099】
[アルキルジスルフィド(化合物2)の合成]
めのう乳鉢上に「化合物1」(1.88 g, 10mmol)と1,2-エタンジチオール(471 mg, 5.0 mmol)を入れて撹拌した後に、p-トルイジン(803 mg, 7.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をn-ヘキサン:ジクロロメタン=1:3で抽出し、抽出液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=1:3)で精製した。溶媒を減圧留去することで無色透明油状の、下記反応式に示す「化合物2」を得た(763 mg, 収率82%)。
【0100】
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 3.01 (s, 4H), 2.44 (s,6H).
MS (EI): m/z [M]
+= 139 (94), 124 (22), 107 (100).
化合物2の合成の反応式を示す。
【0101】
【化20】
【0102】
[アリールジスルフィド(化合物3)の合成 (1,4-phenylene)]
50 mL共栓付三角フラスコに「化合物1」(903 mg,4.8 mmol)と1,4-ベンゼンジチオール(284 mg, 2.0 mmol)を入れた後、p-トルイジン(514 mg, 4.8 mmol)とn-ヘキサン5 mLを加えて10分間十分に撹拌させた。得られた反応物をn-ヘキサン20 mLで抽出し、抽出液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン)で精製した。溶媒を減圧留去することで黄色油状の、下記反応式に示す「化合物3」を得た(389 mg, 収率83%)。
【0103】
IRγmax (KBr): 484 cm
-1 (S-S).
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.4-8.1 (m, 4H), 2.4 (s,6H).
MS (EI): m/z [M]
+= 234 (100), 187 (77), 140 (32).
化合物3の合成の反応式を示す。
【0104】
【化21】
【0105】
[アリールジスルフィド(化合物4)の合成 (1,2-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物1」(451 mg, 2.4mmol)と1,2-ベンゼンジチオール(142 mg, 1.0 mmol)を入れて撹拌した後に、p-トルイジン(257 mg, 2.4 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。反応物を試験管に移し、n-ヘキサン20 mLを数回に分けて加え、すりつぶしながら抽出した。この抽出液を直接カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン)にて精製し、溶媒を減圧留去することで黄色油状の、下記反応式に示す「化合物4」を得た(150 mg, 収率64%)。
【0106】
IRγmax (KBr): 475, 438 cm
-1 (S-S).
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 6.1-6.5 (d, 4H), 1.3 (s,6H).
化合物4の合成の反応式を示す。
【0107】
【化22】
【0108】
[ethyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物5)の合成]
5 mL共栓付試験管に「化合物2」(745 mg, 4.0mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム (1.96 g, 12 mmol)、ヨウ素(2.03 g, 8.0 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち2日間置いた。反応物を十分に砕いてからジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去させると目的物の「化合物5」と、副生成物の「化合物1」とが生成した。これをカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=2:3)で分離することで無色個体の、下記反応式に示す「化合物5」を得た(1.07 g, 収率71%)。
【0109】
mp: 79-80 ℃
IRγmax (KBr): 1326, 1142, 1075 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.7-7.9 (d, 10H), 3.3 (s,4H).
化合物5の合成の反応式を示す。
【0110】
【化23】
【0111】
[1,4-butyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物6)の合成]
5 mL共栓付試験管に1,2-ジチアン(120 mg, 1.0 mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(820 mg,5.0 mmol)、ヨウ素(1.01g,4.0 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち1日置いた。反応物を十分に砕きながらジクロロメタン50 mlで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去することで無色結晶状の、下記反応式に示す「化合物6」を得た(362 mg, 収率90%)。
【0112】
mp: 92-93 ℃(文献値 :93-94 ℃)
IRγmax (KBr): 1329, 1143, 1078 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 500 MHz):δ 7.91 (d, 4H, J = 7.5 Hz),7.65 (dd, 4H, J = 7.5, 7.5 Hz) , 7.57 (dd, 4H, J = 7.5, 7.5 Hz), 2.93 (t, 4H, J= 7.0 Hz), 1.65 (quintet, 4 H, J = 3.5 Hz).
13C NMR (126 MHz):δ 142.65, 133.82, 129.39, 126.92, 35.15,27.48.
MS (FAB): m/z [M+H]
+= 403.
HRMS (EI): m/z [M]= 403.0177.
なお、mpにおける参照文献は、Hayashi, S.,Ueki, H., Harano, S., Komiya, J., Iyama, S., Harano, K. and Miyata, K., Chem.Pharm. Bull. 12, 1271-1276(1964). である。
【0113】
化合物6の合成の反応式を示す。
【0114】
【化24】
【0115】
[1,4-phenyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物7)の合成]
5 mL 共栓付試験管に「化合物3」(468 mg, 2.0mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(1.96 g, 12 mmol)、ヨウ素 (2.03 g, 8 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち3日間置いた。反応物を十分に砕きながらジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去させると目的物の「化合物7」と、副生成物の「化合物1」とが生成した。これをカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=1:3)で分離することで白色粉末状の、下記反応式に示す「化合物7」を得た(632 mg, 収率74%)。
【0116】
mp: 165-167 °C
IRγmax (KBr): 1326, 1144, 1074 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.2-8.5 (m, 14 H).
MS (EI): m/z [M]
+= 422 (56),297 (25), 281 (36), 141 (100), 125 (55).
HRMS (EI): m/z [M]= 421.9791.
化合物7の合成の反応式を示す。
【0117】
【化25】
【0118】
[1,2-phenyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物8)の合成]
5 mL 共栓付試験管に「化合物4」(234 mg, 1mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(984 mg, 6 mmol)、ヨウ素(1.01 g, 4 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち2日間置いた。反応物を十分に砕きながらジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去させると目的物の「化合物8」と、副生成物の「化合物1」とが生成した。これをカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=2:3)で分離することで白色結晶状の、下記反応式に示す「化合物8」を得た(319 mg, 収率75%)。
【0119】
mp: 152-154 °C
IRγmax (KBr): 1326, 1141,1075 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.2-7.7 (m, 14 H).
化合物8の合成の反応式を示す。
【0120】
【化26】
【0121】
[実施例1]
[ジスルフィドポリマー(重合体9)の合成) (ethylene)]
めのう乳鉢上に「化合物5」(449 mg, 1.2mmol)と1,2-エタンジチオール(94 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、無色結晶状の固体の、下記反応式に示す「重合体9」を得た(157 mg, 収率85%)。
【0122】
IRγmax (KBr): 2912, 481 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 3.0 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]
+= 233 (19), 141 (26), 125 (27),109 (9).
重合体9の合成の反応式を示す。
【0123】
【化27】
【0124】
[実施例2]
[ジスルフィドポリマー(重合体10)の合成 (1,4-butylene)]
めのう乳鉢上に「化合物6」(483 mg, 1.2mmol)と1,4-ブタンジチオール(122 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、白色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体10」を得た(211 mg、収率86%)。
【0125】
IRγmax (KBr): 2925 , 2852 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 2.7 (s, 4H), 1.8 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]
+= 120 (100),105 (2).
重合体10の合成の反応式を示す。
【0126】
【化28】
【0127】
[実施例3]
[ジスルフィドポリマー(重合体11)の合成 (1,4-butylene,1,4-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物6」(483 mg, 1.2mmol)と1,4-ベンゼンジチオール(142 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、黄色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体11」を得た(206 mg、収率72%)。
【0128】
IRγmax (KBr): 2923 , 485 cm
-1 .
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.4 (s, 4H), 2.6 (s, 4H),1.7 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]
+= 140 (6), 120 (100).
重合体11の合成の反応式を示す。
【0129】
【化29】
【0130】
[実施例4]
[ジスルフィドポリマー(重合体12)の合成 (1,4-butylene,1,2-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物6」(483 mg, 1.2mmol)と1,2-ベンゼンジチオール(142 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、無色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体12」を得た(241 mg、収率85%)。
【0131】
IRγmax (KBr): 2924 , 436 cm
-1.
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.3-7.6 (d, 4H), 2.7 (s,4H), 1.7 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]
+=260 (11), 184 (14), 140 (38), 120(100).
重合体12の合成の反応式を示す。
【0132】
【化30】
【0133】
[実施例5]
[ジスルフィドポリマー(重合体13)の合成 (1,2-phenylene,1,4-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物7」(270mg, 0.64mmol)と1,2-ベンゼンジチオール(75 mg, 0.53 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(128 mg, 0.80 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、薄黄色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体13」を得た(241 mg、収率85%)。
【0134】
IRγmax (KBr): 486 cm
-1 (S-S).
1H NMR (CDCl
3, 60 MHz):δ 7.3 (s, 8H).
MS (EI): m/z [M]
+= 560 (1), 420 (1), 280 (17), 216(16), 184 (9), 140 (100).
重合体13の合成の反応式を示す。
【0135】
【化31】
【0136】
[実施例6]
[ジスルフィドポリマー(重合体14)の合成]
上記と同様の方法により、「化合物7」と1,4-ベンゼンジチオールから、下記反応式に示す「重合体14」を得た。
【0137】
重合体14の合成の反応式を示す。
【0138】
【化32】
【0139】
[無溶媒反応の様子]
図3は無溶媒反応(チオスルホン酸エステル化)の進行の様子を示し、(a)は反応前、(b)は反応後の試験管の写真である。白色の固体混合物が反応し、褐色(茶褐色)に変化している。
【0140】
[ポリマーの充放電性能評価]
図4に、実施例1(重合体9)のジスルフィドポリマーを陽極活物質として用いたリチウムイオン電池の充放電評価の結果を示す。試験では、下記条件にて充電(c)−放電(d)を4サイクル行った(1c-1d-2c-2d-3c-3d-4c-4d)。
【0141】
Voltage: 1.5-4 V
Cathode: 10% active material (Disulfide polymer)
70% Carbon black
20% PVDF
Anode: Li metal
Electrolyte: LiPF6
【0142】
実施例1のポリマーを陽極活物質として用いると、プラトー電位範囲は十分に確認できないものの、充放電容量が280〜240AhKg
−1と、実用化されているリチウム遷移金属活物質を超える結果が得られた。また、直鎖型ジスルフィド化合物は繰り返し耐久性が良い化学種であることが確認された。
【0143】
また、同様に、実施例6(重合体14)を用いたリチウムイオン電池においても、充放電性が確認された。この電池では、高い電池容量が確認され、さらにプラトー電位範囲も観測された。なお、プラトー電位範囲とは、放電時の電位が一定に維持する状態のことである。