(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係るデータ処理装置を図面を参照しつつ説明する。本実施の形態のデータ処理装置1は、
図1に例示するように、制御部11、記憶部12、操作部13、出力部14、及び入力インタフェース部15を含んで構成される。以下では、具体的に、脳磁計(MEG)の出力するデータ(時間変化する一連のデータ)を入力インタフェース部15を介して受け入れる例について説明するが、本実施の形態のデータ処理装置1は、脳磁計のデータを処理するものに限られない。
【0010】
脳磁計のデータには、被験者のいない状態で脳磁計が出力するデータ(ノイズのみのデータ)と、被験者が安静な状態にあるときに脳磁計が出力するデータ(外的刺激を受けていない状態:安静時データと呼ぶ)と、被験者に対して外的刺激を与えたときに脳磁計が出力するデータ(ノイズ、自発脳磁場及び、刺激による誘発脳磁場が累算されたデータ:刺激時データと呼ぶ)とがある。
【0011】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)等のプログラム制御デバイスであり、記憶部12に格納されたプログラムに従って動作する。この制御部11は、入力インタフェース部15から入力される、外部の測定装置(ここでは例えば脳磁計とする)により測定されたデータを受け入れる。また、この制御部11は、少なくとも一つのノイズパラメータを含み、ノイズを模式的に表すノイズ演算式について、過去に得られたデータを用いて定められる基準に基づいて、ノイズパラメータを決定する。
【0012】
さらに制御部11は、測定されたデータに含まれる信号を模式的に表す信号演算式であって、少なくとも一つの信号パラメータを含む信号演算式と、測定されたデータと、ノイズ演算式とに基づいて、信号パラメータを推定し、当該推定した信号パラメータと、信号演算式とを用いて、測定されたデータに含まれる信号の推定結果を生成し、出力する。この制御部11の詳しい処理の内容は後に説明する。
【0013】
記憶部12は、メモリデバイス等であり、制御部11によって実行されるプログラムを保持している。このプログラムは、例えばDVD−ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)等のコンピュータ可読な記録媒体に格納されて提供され、この記憶部12に複写されたものであってもよい。また、この記憶部12は制御部11のワークメモリとしても動作する。
【0014】
操作部13は、キーボードやマウスなどを含み、利用者の指示操作を受け入れて、制御部11に当該指示操作の内容を出力する。出力部14は、ディスプレイや、プリンタ、ネットワークインタフェース等であり、制御部11から入力される指示に従って、情報を出力する。
【0015】
入力インタフェース部15は、USB(Universal Serial Bus)やパラレルポート等のデータの入力を受け入れるデバイスであり、ここでの例では脳磁計に接続されて、脳磁計が出力するデータを受け入れ、当該受け入れたデータを制御部11に出力する。
【0016】
本実施の形態では、脳磁計から入力されるデータは時々刻々と変化する(時間変化する)。そして時刻tにおけるデータm
tが、測定の対象たる信号s
tとノイズとの和により表現されているものとする。すなわち、
【数1】
ここにノイズは、要因ごとに複数の成分の和として表現されており、(1)式ではτ
tがベースラインドリフト成分、q
tが交流電源成分、e
tがベースラインドリフトや交流電源成分以外の定常ノイズ成分、n
tは、このようにモデル化したことによるデータからの差を表すモデル化誤差成分であるものとしている。また本実施形態では、不定期に生じる測定値のとび(例えばグリッチノイズ)、眼球運動や心拍等の生体から生じるノイズはないものとする。
【0017】
ノイズの各成分は、具体的に次のような形の演算式で表されるものとする。ベースラインドリフト成分τ
tの時間発展を、平滑化事前分布を用いた確率的トレンドモデルを採用し、
【数2】
と表す。
【0018】
ここでv
τ ,tはトレンドの変化を起こす外乱であり、平均ゼロ分散σ
τのガウス分布と仮定しておく。なお、この(2)式、及び以下の説明において時刻t+jは、tから予め定めた単位時間(例えばTとする)を用いてj×Tだけ後の時刻を意味するものである。
【0019】
さらに(1)式におけるq
tの時間発展を、サンプリング周波数と交流周波数とから決まる自己回帰モデル(ARモデル)を用いて、
【数3】
と表す。
【0020】
ここでも同様に、v
q ,tは平均ゼロ分散σ
qのガウス分布と仮定する。またΔTはサンプリング周波数と交流電源の周波数から決定される、離散化された周期を表す。
【0021】
定常ノイズ成分e
tの時間発展は次数lのARモデルを仮定する。すなわち、
【数4】
とする。
【0022】
これにおいても、v
e ,tは平均ゼロ分散σ
eのガウス分布と仮定する。モデル化誤差成分n
tは、平均ゼロ分散σ
nのガウス分布と仮定しておく。
【0023】
本実施の形態の制御部11は、ノイズ演算式として、(1)から(4)式の和、
【数5】
を用いる。このノイズ演算式に含まれるノイズパラメータを成分とするベクトルθ(モデルパラメータθベクトル)は、従って、
【数6】
となる。
【0024】
本実施の形態の制御部11は、機能的には、
図2に例示するように、データ記録部21、モデル学習部22、ノイズパラメータ管理部23、信号推定部24、及び信号出力部25を含んで構成される。ここにデータ記録部21は、入力インタフェース部15を介して受け入れられるデータを記憶部12に蓄積して保持する。本実施の形態では、このデータ記録部21は、操作部13から入力される指示に従い、受け入れたデータを、ノイズのみのデータ、ノイズと自発脳磁場とを含んだデータ、ノイズ、自発脳磁場、及び誘発脳磁場を含んだデータのいずれかに分類して記憶部12に格納する。
【0025】
モデル学習部22は、データ記録部21によって記憶部12に蓄積されたデータを参照し、過去に得られたデータ(被験者のいない状態で得られたノイズのみのデータ)を用いて定められる基準に基づいて、(6)式のモデルパラメータθベクトルの成分(各ノイズパラメータ)を決定する。
【0026】
具体的に、このモデル学習部22は、過去に得られたノイズのみの時系列のデータm
1,m
2,…,m
tを記憶部12から読み出す。そしてベクトルθが与えられたときにデータがこの順に観測される確率p(m
1,m
2,…,m
t|θ)を最大とするベクトルθを求める。すなわち、現実の観測変数m
tを生成する真の確率モデルは未知であるものの、当該真の確率モデルを、近似的に(5)式で与えられるものとし、真の確率モデルと近似的なモデルとの擬距離であるKL(カルバック・ライブラー)ダイバージェンス(KL情報量)を最小とする(5)式のパラメータ(ベクトルθの成分)を求めることとするのである。
【0027】
例えば上記KL情報量を最小とする赤池情報量基準を用いてベクトルθを決定すればよい。このためモデル学習部22は、上記確率p(m
1,m
2,…,m
t|θ)の対数log(p(m
1,m
2,…,m
t|θ))を対数尤度とし、赤池情報量基準AICを、
AIC=−2×p(m
1,m
2,…,m
t|θ)+2×N
として演算する。ここにNは自由に設定できるモデルパラメータの数を表し、ここではθの次元である、(l+4)となる。
【0028】
モデル学習部22は、このAICの値を、複数の予め定めたθである値の組ごとに演算する。具体的にここで予め定めたθの値の組は、
a
1,a
2,…,a
l,σ
τ,σ
q,σ
e,σ
n
で張られるベクトル空間上に設定された複数の格子点とすることができる。そして演算したAICの値が最小となるθを、上記複数の予め定めたθである値の組のうちから選択する。つまりモデル学習部22は、AICの値を最小とするベクトルθを、まずはグリッドサーチにより大域的に粗く探索する。
【0029】
モデル学習部22は、さらにグリッドサーチにより求めたベクトルθ(θ
0とする)を初期値として、非線形最適化により最適化されたベクトル
【数7】
を求める。
【0030】
ここで非線形最適化の一例としては、上記対数尤度log(p(m
1,m
2,…,m
t|θ))をカルマンフィルタにより求める方法がある。上記グリッドサーチにより求めたベクトルθ
0を初期値として、対数尤度を最大とするベクトルθを、例えば最急降下法により予め定めた終了条件を満足するまで繰り返し逐次的に更新して求め、当該求めたθを、
【数7】
とする。ここで終了条件は、更新前のθと更新後のθとの距離が予め定めたしきい値を下回っているなどの広く使われる条件を適用すればよい。
【0031】
ノイズパラメータ管理部23は、モデル学習部22が演算により求めた
【数7】
を、ノイズパラメータとして記憶部12に格納する。また、このノイズパラメータ管理部23は、信号推定部24からノイズパラメータの要求を受けて、記憶部12に格納したノイズパラメータを読み出し、信号推定部24に対して出力する。
【0032】
本実施の形態の信号推定部24は、自発脳磁場推定部24aと、誘発脳磁場推定部24bとを含んで構成される。自発脳磁場推定部24aは、記憶部12に格納されている、ノイズと自発脳磁場とを含んだ安静時データ(安静状態にある被験者を測定した脳磁場のデータ)を読み出す。ここで自発脳磁場推定部24aは、自発脳磁場が
【数8】
によって表される確率モデルで近似的に表されるものとする。ここにr
tは時刻tの自発脳磁場成分を意味し、δ波(約2Hz),θ波(約4Hz),α波(約10Hz),β波(約20Hz),low-γ波(約40Hz),high-γ波(約80Hz)の成分から構成されるものとし、各成分を、
【数9】
と表したものである。なお、ここでのθは、θ波に対応する自発脳磁場成分であることを意味するものとして便宜的に利用しているもので、パラメータのベクトルθとは異なる。
【0033】
また、これらの成分の各々はいずれも、次の準周期振動モデルで表現されるものとする。
【0034】
【数10】
ここでωは、δ,θ,α,β,γ
l,γ
hのそれぞれをとる。また、f
ωは、成分ω(δ,θ,α,β,γ
l,γ
hのそれぞれをとる)の中心周波数であり、v
t(ω)は、平均が0、分散がσ
ω2であるガウス分布に属するとの条件、
【数11】
を満足する確率的入力である。
【0035】
以上より、自発脳磁場の成分を表すモデルパラメータであるθベクトルは、
【数12】
となる。ここにおいて、左辺のθ
pのθはθベクトルを表すθであり、右辺中、σ
θ2とあるθは、θ波に対応する自発脳磁場成分を表す便宜的なものである。
【0036】
自発脳磁場推定部24aは、記憶部12に格納されているノイズと自発脳磁場とを含んだ時系列の安静時データm
1,m
2,…,m
tを記憶部12から読み出す。
【0037】
また自発脳磁場推定部24aは、ノイズパラメータ管理部23に対してノイズパラメータを要求し、この要求に応答してノイズパラメータ管理部23が出力するノイズパラメータと(5)式とを用いて、ノイズの時系列推定データν
1,ν
2,…を得る。自発脳磁場推定部24aは、ノイズと自発脳磁場とを含んだ時系列の安静時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれ対応する時刻のデータからノイズの時系列推定データの対応する時刻のデータを差引きして、m′
i=m
i−ν
iを求め、ノイズがないと仮定される状態のデータ、m′
1,m′
2,…,m′
tを得る。
【0038】
そして自発脳磁場推定部24aは、(10)式で表されるベクトルθ
pが与えられたときに安静時データが実際に測定された時系列順に観測される確率p(m′
1,m′
2,…,m′
t|θ
p)を最大とするベクトルθ
pを求める。この場合も、現実の観測変数m′
tを生成する真の確率モデルは未知であるものの、当該真の確率モデルを、近似的に(7)式で与えられるものとし、真の確率モデルと近似的なモデルとの擬距離であるKL(カルバック・ライブラー)ダイバージェンス(KL情報量)を最小とする(7)式のパラメータ((10)式のベクトルθ
pの成分)を求めることとするのである。
【0039】
例えば上記KL情報量を最小とする赤池情報量基準を用いて(10)式のベクトルθを決定すればよい。このため自発脳磁場推定部24aは、上記確率p(m′
1,m′
2,…,m′
t|θ
p)の対数log(p(m′
1,m′
2,…,m′
t|θ
p))を対数尤度とし、赤池情報量基準AICを、
AIC=−2×p(m′
1,m′
2,…,m′
t|θ
p)+2×N
として演算する。ここにNは自由に設定できるモデルパラメータの数を表し、ここでは(10)式のベクトルθ
pの次元である、6となる。
【0040】
自発脳磁場推定部24aは、このAICの値を、複数の予め定めたθ
pである値の組ごとに演算する。具体的にここで予め定めたθ
pの値の組は、σ
ω2(ただしωはδ,θ,α,β,γ
l,γ
hのそれぞれをとる)で張られるベクトル空間上に設定された複数の格子点とすることができる。そして演算したAICの値が最小となるθの値の組を、上記複数の予め定めたθ
pとしての値の組のうちから選択する。つまり自発脳磁場推定部24aは、AICの値を最小とするベクトルθ
pを、まずはグリッドサーチにより大域的に粗く探索する。
【0041】
自発脳磁場推定部24aは、さらにグリッドサーチにより求めたベクトルθ
p(θ
p0とする)を初期値として、非線形最適化により最適化された自発脳磁場のモデルのためのパラメータのベクトル
【数13】
を求める。
【0042】
ここで非線形最適化の一例としては、上記対数尤度log(p(m′
1,m′
2,…,m′
t|θ
p))をカルマンフィルタにより求める方法がある。上記グリッドサーチにより求めたベクトルθ
p0を初期値として、対数尤度を最大とするベクトルθ
pを、例えば最急降下法により予め定めた終了条件を満足するまで繰り返し逐次的に更新して求め、当該求めたθ
pを、
【数13】
とする。ここで終了条件は、更新前のθ
pと更新後のθ
pとの距離が予め定めたしきい値を下回っているなどの広く使われる条件を適用すればよい。
【0043】
自発脳磁場推定部24aは、こうして求めた
【数13】
を、誘発脳磁場推定部24bに出力する。
【0044】
誘発脳磁場推定部24bは、記憶部12に格納されている、ノイズと自発脳磁場とを含んだ刺激時データ(刺激を受けた状態にある被験者を測定した脳磁場のデータ)を読み出す。ここで誘発脳磁場推定部24bは、誘発脳磁場を次の2次の線型モデル
【数14】
のインパルス応答で近似できるものとする。
【0045】
本実施の形態の誘発脳磁場推定部24bは、誘発脳磁場を、確率的入力を持つ2次の定常線形モデルとして(11)式で表現しておく。この(11)式においてモデルパラメータはシステム入力強度と、システム入力に対するモデルの応答を決めるシステムパラメータb
1,b
2である。
【0046】
ここでは単一の線型モデルのインパルス応答で誘発脳磁場を近似できるものとして、この刺激(システム入力)の確率分布を次のようにして与える。すなわち、誘発脳磁場推定部24bは、システムパラメータとしてb
1,b
2をもつシステムのインパルス応答hの時系列h
1,h
2,…と、得られている刺激時データm
1,m
2,…との相互相関関数を求める。そして誘発脳磁場推定部24bは、刺激の確率分布が、上記相互相関の絶対値が最大となる時間的ラグt(誘発脳磁場が現れる時刻t)を中心とする二項分布
B(2t,0.5)
であるとする。ここでは時間が離散化されているので二項分布とした。また、入力強度はラグtでの相互相関関数の値を平均値Iとするガウス分布
N(I,σ
I2)
としておく。
【0047】
誘発脳磁場推定部24bは、ノイズパラメータ管理部23に対してノイズパラメータを要求し、この要求に応答してノイズパラメータ管理部23が出力するノイズパラメータと(5)式とを用いて、ノイズの時系列推定データν
1,ν
2,…を得る。誘発脳磁場推定部24bは、また自発脳磁場推定部24aから入力される自発脳磁場に関するパラメータと(7)式とを用いて、自発脳磁場の時系列推定データg
1,g
2,…を得る。そして誘発脳磁場推定部24bは、刺激時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれ対応する時刻のデータから、ノイズの時系列推定データの対応する時刻のデータ及び、自発脳磁場の時系列推定データの対応する時刻のデータを差引きして、m″
i=m
i−ν
i−g
iを求め、ノイズ及び自発脳磁場がないと仮定される状態のデータ、m″
1,m″
2,…,m″
tを得る。
【0048】
(11)式では、モデルから直接にデータが得られるものではないので、上述のように刺激の確率分布を、ガウス分布を用いた演算式(これには上記パラメータb
1,b
2が含まれる)で表現しておき、この演算式における時刻tでの期待値μ(t)と分散σ
2とを用いた確率差分方程式により、刺激に対する推定される誘発脳磁場の時刻tでの信号s
t及び時刻t−1での信号s
t-1を、その成分に含む状態ベクトルxの時間発展の演算式を得ておく。
【0049】
この演算式は、時刻t,t−1において推定される誘発脳磁場s
tから、時刻t+1において推定される誘発脳磁場s
t+1が得られる時間発展の確率(運動のモデル)p(s
t+1|s
t,s
t-1)を表す。
【0050】
誘発脳磁場推定部24bは、システムパラメータb
1,b
2を用いて表される信号s
t,s
t-1を成分として含む状態ベクトルx
tについて、初期状態p(x
0)(これは誘発脳磁場が発生していないものとして既知である)と、上記時間発展の確率とを用いて、時刻tで観測されるデータがm″
tであったとき、状態ベクトルがx
tである確率p(x
t|m″
t)を演算する。本実施の形態の誘発脳磁場推定部24bは、この確率p(x
t|m″
t)を、次のように求める。
【0051】
すなわち、ベイズの定理より、
【数15】
が成立するので、これを変形して、
【数16】
を得る。ここでp(m″
t)は、
【数17】
と表すことができ、またp(x
t)は、時間発展の確率を用いて、
【数18】
と表すことができるから、結局(13)式は、
【数19】
とすることができる。
【0052】
この(16)式は、時刻tで観測されるデータがm″
tであったとき、状態ベクトルがx
tである確率密度p(x
t|m″
t)が、観測のモデルp(m″
t|x
t)と、運動のモデルp(x
t+1|x
t)と、初期状態p(x
0)とから推定できることを表す。
【0053】
誘発脳磁場推定部24bは、システムパラメータb
1,b
2を含むベクトルθsが与えられたときに確率p(x
t|m″
t)を最大にするベクトルθsを求める。具体的に誘発脳磁場推定部24bは、KL情報量を最小とする赤池情報量基準を用いてベクトルθsを決定する。このため誘発脳磁場推定部24bは、上記確率p(x
t|m″
t)の対数log(p(x
t|m″
t))を対数尤度とし、赤池情報量基準AICを、
AIC=−2×p(x
t|m″
t)+2×N
として演算する。ここにNは自由に設定できるモデルパラメータの数を表し、ここではθsの次元である、2となる。
【0054】
誘発脳磁場推定部24bは、このAICの値を、複数の予め定めたθsである値の組ごとに演算する。具体的にここで予め定めたθsの値の組は、
b
1,b
2
で張られるベクトル空間上に設定された複数の格子点とすることができる。そして演算したAICの値が最小となるθsを、上記複数の予め定めたθsとしての値の組のうちから選択する。つまり誘発脳磁場推定部24bは、AICの値を最小とするベクトルθsを、まずはグリッドサーチにより大域的に粗く探索する。
【0055】
誘発脳磁場推定部24bは、さらにグリッドサーチにより求めたベクトルθs(θs
0とする)を初期値として、非線形最適化により最適化されたベクトル
【数20】
を求める。
【0056】
ここで非線形最適化の一例としては、上記対数尤度log(p(x
t|m″
t))をカルマンフィルタにより求める方法がある。上記グリッドサーチにより求めたベクトルθs
0を初期値として、対数尤度を最大とするベクトルθsを、例えば最急降下法により予め定めた終了条件を満足するまで繰り返し逐次的に更新して求め、当該求めたθsを、
【数20】
とする。ここで終了条件は、更新前のθsと更新後のθsとの距離が予め定めたしきい値を下回っているなどの広く使われる条件を適用すればよい。
【0057】
信号出力部25は、誘発脳磁場推定部24bが演算により得た
【数20】
と、(11)式で表されるモデルの式とを用いて、誘発脳磁場の時間変化波形を演算して出力する。
【0058】
さらに本実施の形態の制御部11は、以上の演算を、複数のセンサ(脳磁計の場合はSQUIDs)から得られた各データについて行い、センサごとに
【数20】
のパラメータを得てもよい。このときには、複数のセンサの一つを注目センサとするとき、注目センサに係るパラメータを得るためには、ノイズのみのデータや安静時データ、刺激時データは、当該注目センサによって得られたものを用いてもよい。
【0059】
そして制御部11は、複数のセンサの各々に対応して得られたパラメータと(11)式とを用い、各センサの位置における誘発脳磁場の時間変化波形を演算し、等磁界線図を作成して出力してもよい。この等磁界線図の作成処理は広く知られているので、ここでの詳細な説明を省略する。
【0060】
[モンテカルロ法による演算]
ところで制御部11における(16)式の演算では、右辺分母の積分(ベイズ推定における、事前確率と事後確率との積を被積分関数とする積分)が解析的な解が得られないので困難になる。そこで本実施の形態の制御部11は、複数の演算素子を含み、次のように演算を行うこととしてもよい。
【0061】
ここで複数の演算素子は、CPUでなく、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算素子を用いてもよい。このように複数の演算素子を利用できる場合、制御部11は、各演算素子に対し、積分範囲内からランダムにx
tとx
t-1との値を選択させ、当該ランダムに選択した積分変数の値(複数ある場合はそれぞれ積分範囲からランダムに選択する)を被積分関数に代入して得た被積分関数値を、並列的に演算させる。そして制御部11は、各演算素子で得られた複数の被積分関数値を累算してモンテカルロ法により積分を遂行する。
【0062】
[ノイズのみのデータを得るタイミング]
また、以上の説明において、ノイズパラメータの決定に用いた、ノイズのみのデータは、演算を行う時点より過去であれば、いつ得られたものであってもよかった。例えば刺激データを得る直前(刺激データを実際に測定する被験者が入る直前に、測定に先立って得られたデータ)であってもよいし、刺激データを測定した後、被験者が退席してから得られたデータであってもよい。
【0063】
[自発脳磁場をベイズ推定で求める例]
ここまでの説明において、自発脳磁場推定部24aは、(10)式で表されるベクトルθが与えられたときに、安静時データが、測定された時系列順に観測される確率p(m′
1,m′
2,…,m′
t|θ)を最大とするベクトルθを求めていた。しかしながら、本実施の形態はこれに限られない。
【0064】
すなわち、自発脳磁場推定部24aは、時刻tでの状態ベクトルx
tとして、時刻t以前の自発脳磁場を表すデータg
t,g
t-1,…と、時刻t以前の各ノイズを表すデータτ
t,q
t,q
t-1, …, q
t-T+2, e
t, …, e
t-l+1,n
t…とを含めた
x
t=[τ
t,q
t,q
t-1, …, q
t-T+2, e
t, …, e
t-l+1,n
t,g
t,g
t-1,…]
T
を生成する。なお、肩のTは、転置を表す。
【0065】
ここで、各ノイズのデータや自発脳磁場のデータを、時刻tよりどれだけ前のデータから含めるかは、ノイズによって異なり、それぞれ時刻t+1における対応するノイズを予測するに十分な数とする。これは採用するモデルによっても異なり、例えば自発脳磁場でいえば、g
t一つだけの場合もあり得る。
【0066】
自発脳磁場推定部24aは、誘発脳磁場推定部24bが行う(16)式の演算と同様の演算により、(10)式のベクトルθが与えられたときに確率p(x
t|m′
t)を最大にするベクトルθを求める。具体的に自発脳磁場推定部24aは、KL情報量を最小とする赤池情報量基準を用いてベクトルθを決定する。このため自発脳磁場推定部24aは、上記確率p(x
t|m′
t)の対数log(p(x
t|m′
t))を対数尤度とし、赤池情報量基準AICを、
AIC=−2×p(x
t|m′
t)+2×N
として演算する。ここにNは自由に設定できるモデルパラメータの数を表し、ここではθの次元である、6となる。
【0067】
そして自発脳磁場推定部24aは、このAICを最小とするθを、既に述べたグリッドサーチや非線形最適化を組み合わせた方法で見出すこととしてもよい。
【0068】
この際の(16)式の演算においても、モンテカルロ法による演算を行うことができる。
【0069】
[自発脳磁場もベイズ推定に含める例]
さらに、ここまでの説明では、誘発脳磁場推定部24bは、自発脳磁場推定部24aから入力される自発脳磁場に関するパラメータと(7)式とを用いて、自発脳磁場の時系列推定データg
1,g
2,…を得て、刺激時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれ対応する時刻のデータから、ノイズの時系列推定データの対応する時刻のデータ及び、自発脳磁場の時系列推定データの対応する時刻のデータを差引きして、m″
i=m
i−ν
i−g
iを求め、ノイズ及び自発脳磁場がないと仮定される状態のデータ、m″
1,m″
2,…,m″
tを得ていた。
【0070】
しかしながら本実施の形態はこれに限られない。すなわち誘発脳磁場推定部24bは、刺激時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれ対応する時刻のデータから、ノイズの時系列推定データの対応する時刻のデータを差引きして、m″
i=m
i−ν
iを求め、ノイズがないと仮定される状態のデータ、m″
1,m″
2,…,m″
tを得ておき、次のように処理を遂行してもよい。
【0071】
この場合、誘発脳磁場推定部24bは、時刻tでの状態ベクトルx
tに、時刻t以前の自発脳磁場を表すデータg
t,g
t-1,…を含めて、
x
t=[s
t,s
t-1,g
t,g
t-1,…]
T
とする。なお、肩のTは、転置を表す。
【0072】
ここで、自発脳磁場を時刻tよりどれだけ前のデータから含めるかは、g
t+1を予測するに十分な数とする。これは採用するモデルによっても異なり、例えばg
t一つだけの場合もあり得る。
【0073】
誘発脳磁場推定部24bが行う(16)式の演算は、このように状態ベクトルの成分が増えても、既に説明した方法と同様に行うことができ、従って誘発脳磁場推定部24bは、既に述べたと同様にして
【数20】
を求めることができる。
【0074】
[ノイズもベイズ推定に含める例]
さらに、ここまでの説明では、誘発脳磁場推定部24bは、自発脳磁場の時系列推定データg
1,g
2,…を得て、刺激時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれ対応する時刻のデータから、ノイズの時系列推定データの対応する時刻のデータ及び、自発脳磁場の時系列推定データの対応する時刻のデータを差引きして、m″
i=m
i−ν
i−g
iを求め、ノイズ及び自発脳磁場がないと仮定される状態のデータ、m″
1,m″
2,…,m″
tを得ていた。
【0075】
しかしながら本実施の形態はこれに限られない。すなわち誘発脳磁場推定部24bは、刺激時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれ対応する時刻のデータから、自発脳磁場の時系列推定データg
1,g
2,…の対応する時刻のデータを差引きして、m″
i=m
i−g
iを求め、自発脳磁場がないと仮定される状態のデータ、m″
1,m″
2,…,m″
tを得ておき、次のように処理を遂行してもよい。
【0076】
この場合、誘発脳磁場推定部24bは、時刻tでの状態ベクトルx
tに、時刻t以前の各ノイズを表すデータτ
t,q
t,q
t-1, …, q
t-T+2, e
t, …, e
t-l+1,n
t…を含め、
x
t=[s
t, s
t-1,τ
t,q
t, q
t-1, …, q
t-T+2,e
t, …, e
t-l+1,n
t]
T
とする。なお、肩のTは、転置を表す。
【0077】
ここで、各ノイズのデータを、時刻tよりどれだけ前のデータから含めるかは、ノイズによって異なり、それぞれ時刻t+1における対応するノイズを予測するに十分な数とする。これは採用するモデルによっても異なる。
【0078】
誘発脳磁場推定部24bが行う(16)式の演算は、このように状態ベクトルの成分が増えても、既に説明した方法と同様に行うことができ、従って誘発脳磁場推定部24bは、既に述べたと同様にして
【数20】
を求めることができる。
【0079】
[ノイズも自発脳磁場もベイズ推定に含める例]
さらに誘発脳磁場推定部24bは、刺激時データm
1,m
2,…,m
tのそれぞれを、そのまま上記m″
1,m″
2,…,m″
tとして、次のように処理を遂行してもよい。
【0080】
すなわち誘発脳磁場推定部24bは、時刻tでの状態ベクトルx
tに、時刻t以前の各ノイズを表すデータτ
t,q
t,q
t-1, …, q
t-T+2, e
t, …, e
t-l+1,n
t…を含め、
x
t=[s
t,s
t-1,τ
t,q
t, q
t-1, …, q
t-T+2,e
t, …, e
t-l+1,n
t,g
t,g
t-1,…]
T
とする。なお、肩のTは、転置を表す。
【0081】
ここで、各ノイズのデータを、時刻tよりどれだけ前のデータから含めるかは、ノイズによって異なり、それぞれ時刻t+1における対応するノイズを予測するに十分な数とする。これは採用するモデルによっても異なる。
【0082】
また誘発脳磁場推定部24bは、時刻t以前の自発脳磁場を表すデータg
t,g
t-1,…も時刻tでの状態ベクトルx
tに含める。ここで、自発脳磁場を時刻tよりどれだけ前のデータから含めるかは、g
t+1を予測するに十分な数とする。これは採用するモデルによっても異なり、例えばg
t一つだけの場合もあり得る。
【0083】
誘発脳磁場推定部24bが行う(16)式の演算は、このように状態ベクトルの成分が増えても、既に説明した方法と同様に行うことができ、従って誘発脳磁場推定部24bは、既に述べたと同様にして
【数20】
を求めることができる。
【0084】
[グリッドサーチにおけるARモデルの変数変換]
さらにここまでの説明では定常ノイズ成分e
tの時間発展を表すARモデルにおいては、安定性の条件が見にくいので、次の方法により繰り返し変数変換を行って、1次のARモデルに変換してもよい。
【0085】
すなわち、L次のARモデルをL−1次のARモデルに変換する方法として、
【数21】
を用いる。ただし、i=1,2,…,l−1である。ここにaの肩にある添字のlは、l次の変数であることを意味する。この(17)式による変換を、1次となるまで繰り返して行うと、各変換の段階で、a
jjが得られる(ここにj=1,2,…l)。すると、安定なARモデルとなるための必要十分条件が、
【数22】
と得られる。そこで、グリッドサーチにおいては、この(18)式で表される範囲を定義域として、この定義域を均等に分割した格子点を用いればよい。
【0086】
[他のモデル]
なお、一般に活動部位や刺激の種類に応じて、誘発脳磁場モデルの入力の確率分布は異なると考えられるうえ、線形モデルに限らず非線形なモデルが適当な場合が想定される。また本実施の形態は脳磁計のデータに限らず、一般的な測定データの処理に用いることができるものである。そこで利用者がそれぞれの仮説に従い、測定対象となるデータのモデル(ここでの例では誘発脳磁場のモデル)の確率分布を作成してもよい。本実施の形態の処理は、種々の確率分布を仮定した場合でも実行可能なものである。
【0087】
また、自発脳磁場のモデルについても、ここでは(8)式によって表されるものとしたが、振幅の時間変化が大きい場合には、確率的入力項のパワーが時間的に変化するものと仮定し、当該パワーをパラメータを含む何らかの関数形で記述し、当該パラメータをモデルパラメータに含めて処理を行ってもよい。さらに、被験者の各自発脳磁場帯域のピーク周波数が典型的なものと大きく異なる場合は、中心周波数もモデルパラメータに含めてもよい。これらの場合も、上述の処理と同様にモデルパラメータの一つとして推定を行うことができる。
【0088】
[動作]
本実施の形態は、以上の構成を有し、次のように動作する。すなわち、本実施の形態のデータ処理装置1は、ノイズのみのデータ、安静時データ、刺激時データを受け入れて記憶部12に保持しており、
図3に例示するように、まずノイズのみのデータを用いて予め定めたノイズのモデルに含まれるノイズパラメータを推定する(S1)。
【0089】
またデータ処理装置1は、安静時データに含まれるノイズを、上記推定したノイズパラメータと予め定めたノイズのモデルとを用いて除去し、ノイズを除去した安静時データを参照して、予め定めた安静時データのモデルに含まれるパラメータを推定する(S2)。
【0090】
そしてデータ処理装置1は、刺激時データから、処理S1で推定したノイズパラメータと予め定めたノイズのモデルとを用いて除去し、刺激時データに含まれる自発脳磁場を、処理S2で推定したパラメータと、予め定めた安静時データのモデルとを用いて除去する。そしてデータ処理装置1は、こうしてノイズ及び自発脳磁場を除去したデータを参照して、予め定めた刺激時データのモデル(誘発脳磁場のモデル)に含まれるパラメータを推定する(S3)。
【0091】
データ処理装置1は、処理S3で推定したパラメータと誘発脳磁場のモデルとを用いて、誘発脳磁場のデータを推定して出力する(S4)。
【実施例】
【0092】
本発明の一実施例について説明する。ここでは被験者に、「ボタンを押してもらう」という刺激を与えたときの誘発脳磁場を得たときの例について述べる。
【0093】
図4は、LPF(Low Pass Filter)を経た169回の測定データを加算平均した、従来の方法で得られた誘発脳磁場の波形(複数のセンサの信号を重ね合わせて表している、以下も同様)と、これらの波形から得られた等磁界線図である。
図5は、ノイズを含めて実際に得られる時系列データの例と、当該時系列データを基に得られた等磁界線図である。この
図5のようなデータを169回得て加算平均したものが
図4に示した従来の結果である。
【0094】
図6は、この
図5に示したデータ(単一測定のデータ)に基づき、上記本実施の形態で説明した処理を経て本発明の実施例に係るデータ処理装置1が出力する誘発脳磁場の波形(複数のセンサの信号を重ね合わせて表している)と、これらの波形から得られた等磁界線図である。
【0095】
図4に示した従来の解析図と、
図6に示した本実施例の解析図とを比較すると、略一致していることが理解される。
【0096】
図7は、自発脳磁場の強度が大きい場合のノイズを含めて実際に得られる時系列データの例と、当該時系列データを基に得られた等磁界線図である。この
図7に例示したようなデータを複数回得て加算平均した、従来の方法によって推定された等磁界線図と、この
図7に例示したような複数のデータのそれぞれから、本実施例のデータ処理装置1で推定して得た複数の等磁界線図(
図8に例示する)とのコヒーレンスを演算して表したものを
図9に示す。また、従来の方法で推定された等磁界線図を
図10に示す。
図9,
図10から見られるように、
図10で得られた等磁界線図のうち、信号の強度が大きい領域でのコヒーレンスは、
図9に示されるように0.8を超えている。つまり、本実施例のデータ処理装置1での推定は、ロバストネスの面からも十分であることが理解される。