特許第5852360号(P5852360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5852360-銀インク組成物 図000012
  • 特許5852360-銀インク組成物 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5852360
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】銀インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20160114BHJP
【FI】
   C09D11/52
【請求項の数】1
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2011-178351(P2011-178351)
(22)【出願日】2011年8月17日
(65)【公開番号】特開2012-92299(P2012-92299A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2014年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-218638(P2010-218638)
(32)【優先日】2010年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】トッパン・フォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】関口 卓也
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−114232(JP,A)
【文献】 特開2009−197133(JP,A)
【文献】 特開2008−176951(JP,A)
【文献】 特開2008−198595(JP,A)
【文献】 特開2006−328472(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/004437(WO,A1)
【文献】 特開2008−159535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、イソブチリル酢酸銀及びピバロイル酢酸銀からなる群から選択される一種以上のβ−ケトカルボン酸銀と、n−ヘキシルアミンと、エチレングリコールと、が配合されてなり、
前記β−ケトカルボン酸銀の配合量1モルあたりの、前記n−ヘキシルアミンの配合量が2.5モル以上であり、
前記β−ケトカルボン酸銀の配合量1モルあたりの、前記エチレングリコールの配合量が3.3モル以上であることを特徴とする銀インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銀は、記録材料や印刷刷版材料として、また、導電性に優れることから高導電性材料として幅広く使用されている。金属銀の一般的な製造方法としては、無機化合物である酸化銀を還元剤の存在下で加熱する方法が例示できる。具体的には、例えば、粒子状の酸化銀をバインダーに分散させ、これに還元剤を添加してペーストを調製し、このペーストを基材等に塗布して加熱すれば良い。このように、還元剤の存在下で加熱することによって、酸化銀が還元され、還元により生成された金属銀が相互に融着し、金属銀を含む被膜が形成される。
【0003】
しかし、金属銀の形成材料として酸化銀を使用する場合には、還元剤が必要であり、その加熱温度が約300℃程度と極めて高温であるという問題点があった。さらに、金属銀を導電性材料として使用する場合には、形成される被膜の抵抗を低減するために、より微細な酸化銀粒子を使用する必要があった。
【0004】
一方、近年では、上記のような無機物に代えて有機酸銀を使用した金属銀の形成方法も報告されている。このような有機酸銀としては、例えば、ベヘン酸銀、ステアリン酸銀、α−ケトカルボン酸銀が報告されている(特許文献1〜3参照)。
しかし、ベヘン酸銀を使用する場合には、金属銀を形成させるために、還元剤存在下での加熱が必要であるという問題点があった。また、ステアリン酸銀やα−ケトカルボン酸銀を使用する場合には、無機物を使用した場合よりは低いものの、速やかに金属銀を形成させるためには、加熱温度を約210℃以上にする必要があるという問題点があった。
【0005】
近年、これらの問題点を解決する金属銀の製造方法として、β−ケトカルボン酸銀を加熱する方法が開示されている(特許文献4参照)。この方法は、還元剤が不要で、且つ従来よりも低い加熱温度で特性に優れた金属銀を形成させることができる点で、極めて優れた方法である。そして、このようなβ−ケトカルボン酸銀が配合された銀インク組成物を使用して、基材上に金属銀を形成させる具体的な方法が開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−191646号公報
【特許文献2】特開平10−183207号公報
【特許文献3】特開2004−315374号公報
【特許文献4】国際公開第2007/004437号パンフレット
【特許文献5】特開2009−114232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5には、確かに、還元剤が不要で、且つ従来よりも低い加熱温度で金属銀が形成可能であることが記載されており、例えば、2−メチルアセト酢酸銀が配合された銀インク組成物を使用して、これを150℃で5分間加熱することで、金属銀の皮膜を形成した具体例が記載されている。
しかし、従来よりも低いとは言え、150℃という加熱温度では、金属銀を形成させる基材として、耐熱性の低いものは使用できず、銀インク組成物の用途が限定されてしまうという問題点があった。例えば、ある種の樹脂性フィルムや紙類等は、薄く軽量であり、情報記録媒体の基材として大きな可能性を秘めているが、耐熱性が低いために、パターン形成に高い加熱温度を必要とするインク組成物は使用できない。そして、このような耐熱性の低い基材上に、金属銀を形成させる方法の開発が強く望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも低い加熱温度で金属銀が形成可能な銀インク組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、2−メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、イソブチリル酢酸銀及びピバロイル酢酸銀からなる群から選択される一種以上のβ−ケトカルボン酸銀と、n−ヘキシルアミンと、エチレングリコールと、が配合されてなり、前記β−ケトカルボン酸銀の配合量1モルあたりの、前記n−ヘキシルアミンの配合量が2.5モル以上であり、前記β−ケトカルボン酸銀の配合量1モルあたりの、前記エチレングリコールの配合量が3.3モル以上であることを特徴とする銀インク組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも低い加熱温度で金属銀を形成させることができる。したがって、ある種の樹脂性フィルムや紙類等の耐熱性が低い基材上にも、金属銀を形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】製造例1で得られたアセト酢酸銀のFT−IRスペクトルを示す図である。
図2】製造例2で得られたイソブチリル酢酸銀、及び製造例3で得られたピバロイル酢酸銀の、FT−IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<銀インク組成物>
本発明の銀インク組成物は、下記一般式(1)で表されるβ−ケトカルボン酸銀(以下、β−ケトカルボン酸銀(1)と略記することがある)と、n−ヘキシルアミンと、炭素数が2〜5で且つ炭素数が最多の分子鎖の両末端に水酸基を有する鎖状の二価アルコール(以下、二価アルコール(2)と略記することがある)と、が配合されてなり、β−ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたりの、前記n−ヘキシルアミンの配合量が2.5モル以上であり、β−ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたりの、二価アルコール(2)の配合量が3.3モル以上であることを特徴とする。二価アルコール(2)としては、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)が好適である。
【0015】
【化2】
(式中、Rは炭素数が1〜20の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基、一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「(RO)CY−」若しくは「RN−」で表される基、置換基を有していても良いフェニル基、水酸基又はアミノ基であり、前記脂肪族炭化水素基は一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良く;
は炭素数が1〜19の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;Rは炭素数が1〜20の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基であり;Rは炭素数が1〜16の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基であり、複数のRはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く;R及びRはそれぞれ独立して炭素数が1〜18の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基であり;Yはそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子であり、複数のYはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く;R〜Rにおける前記脂肪族炭化水素基は一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良く;
Xは炭素数が1〜20の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基、一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有していても良いフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基又は2−エトキシビニル基であり、前記脂肪族炭化水素基は一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良く、複数のXはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く;
は炭素数が1〜10の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基、チオフェン基、又は置換基を有していても良いフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【0016】
(β−ケトカルボン酸銀(1))
まず、β−ケトカルボン酸銀(1)について説明する。
式中、Rは炭素数が1〜20の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基、一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「(RO)CY−」若しくは「RN−」で表される基、置換基を有していても良いフェニル基、水酸基又はアミノ基である。
Rにおける前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が例示でき、一般式「−C2n+1」、「−C2n−1」又は「−C2n−3」(nはそれぞれ独立して1〜20の整数である)で表される基が例示できる。
【0017】
Rにおける前記脂肪族炭化水素基は、炭素数1〜20の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基であることが好ましく、前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基が例示できる。
なかでも、前記脂肪族炭化水素基は、炭素数1〜10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0018】
Rにおける前記脂肪族炭化水素基がアルケニル基である場合、該アルケニル基としては、前記アルキル基において、炭素原子間の一つの単結合(C−C)が二重結合(C=C)に置換されたものが例示でき、好ましいものとして具体的には、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2−プロペニル基)、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等が例示できる。
Rにおける前記脂肪族炭化水素基がアルキニル基である場合、該アルキニル基としては、前記アルキル基において、炭素原子間の一つの単結合(C−C)が三重結合(C≡C)に置換されたものが例示でき、好ましいものとして具体的には、エチニル基、プロパルギル基(2−プロピニル基)等が例示できる。
Rにおける前記脂肪族炭化水素基がシクロアルキル基である場合、該シクロアルキル基の好ましいものとしては、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が例示できる。
Rにおける前記脂肪族炭化水素基がシクロアルケニル基である場合、該シクロアルケニル基の好ましいものとしては、1,3−シクロヘキサジエニル基、1,4−シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等が例示できる。
【0019】
Rにおける前記脂肪族炭化水素基は、一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良い。水素原子が置換される位置は、特に限定されない。
【0020】
Rにおける一般式「R−CY−」、「CY−」、「R−CHY−」、「RO−」、「(RO)CY−」若しくは「RN−」で表される基について、Rは、炭素数が1〜19の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基又はフェニル基である。
における前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が例示でき、一般式「−C2n+1」、「−C2n−1」又は「−C2n−3」(nはそれぞれ独立して1〜19の整数である)で表される基が例示できる。
における前記脂肪族炭化水素基の好ましいものとしては、Rにおける前記脂肪族炭化水素基のうち、炭素数が1〜19であるものが例示できる。
における前記脂肪族炭化水素基は、一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良く、水素原子が置換される位置は、特に限定されない。
【0021】
は、炭素数が1〜20の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基である。
における前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が例示でき、一般式「−C2n+1」、「−C2n−1」又は「−C2n−3」(nはそれぞれ独立して1〜20の整数である)で表される基が例示できる。
における前記脂肪族炭化水素基の好ましいものとしては、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが例示できる。
における前記脂肪族炭化水素基は、一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良く、水素原子が置換される位置は、特に限定されない。
【0022】
は、炭素数が1〜16の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基であり、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、炭素数が1〜16であること以外は、Rと同様である。
複数(二つ)のRは、それぞれ互いに同一でも異なっていても良く、異なっている場合のRの組み合わせは、特に限定されない。
【0023】
及びRは、それぞれ独立して炭素数が1〜18の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基であり、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、炭素数が1〜18であること以外は、Rと同様である。
【0024】
Yは、それぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子であり、複数のYはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。すなわち、一般式「R−CY−」で表される基における二つのY、及び一般式「CY−」で表される基における三つのYは、それぞれの一般式において互いに同一でも異なっていても良い。そして、一般式「R−CY−」で表される基におけるYと、一般式「CY−」で表される基におけるYは、それぞれ互いに同一でも異なっていても良い。
【0025】
Rにおけるフェニル基は、置換基を有していても良い。すなわち、Rにおけるフェニル基は、一つ以上の炭素原子が置換基で置換されていても良く、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていても良い。例えば、水素原子が置換される置換基の好ましいものとしては、一般式「R−」若しくは「RO−」(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜16の直鎖状、分枝鎖状又は環状の脂肪族炭化水素基である。)で表される基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基(−OH)、シアノ基(−C≡N)又はフェノキシ基(C−O−)等が例示できる。RはRと同様である。また、水素原子が置換される置換基の位置は、特に限定されず、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれでも良い。
【0026】
Rは、アルキル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0027】
式中、Xは、炭素数が1〜20の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基、一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有していても良いフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基又は2−エトキシビニル基である。
複数(二つ)のXはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、異なっている場合のXの組み合わせは、特に限定されない。
【0028】
Xにおける前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様である。
なかでも、Xにおける前記脂肪族炭化水素基は、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基又はエチル基であることが特に好ましい。
Xにおける前記脂肪族炭化水素基は、一つ以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子又は臭素原子で置換されていても良く、水素原子が置換される位置は、特に限定されない。
【0029】
Xにおける一般式「RO−」、「RS−」、「R−C(=O)−」若しくは「R−C(=O)−O−」で表される基について、Rは、炭素数が1〜10の直鎖状、分枝鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基、チオフェン基、又は置換基を有していても良いフェニル基若しくはジフェニル基である。
における前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良く、炭素数が1〜10であること以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様である。
【0030】
におけるフェニル基又はジフェニル基は、置換基を有していても良い。すなわち、Rにおけるフェニル基又はジフェニル基は、一つ以上の炭素原子が置換基で置換されていても良く、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていても良い。例えば、水素原子が置換される置換基の好ましいものとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が例示できる。また、水素原子が置換される置換基の位置は、特に限定されず、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれでも良い。
【0031】
Xにおけるフェニル基若しくはベンジル基は、置換基を有していても良い。すなわち、Xにおけるフェニル基若しくはベンジル基は、一つ以上の炭素原子が置換基で置換されていても良く、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていても良い。例えば、水素原子が置換される置換基の好ましいものとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ニトロ基(−NO)等が例示できる。また、水素原子が置換される置換基の位置は、特に限定されず、例えば、芳香族環においては、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれでも良い。
【0032】
また、二つのXのうち、一方のXのみに、式「=CH−C−NO」で表される基が結合していても良い。
【0033】
Xは、水素原子又はアルキル基であることが好ましく、少なくとも一つが水素原子であることが好ましい。
【0034】
本発明において、特に好ましいβ−ケトカルボン酸銀(1)としては、イソブチリル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、ピバロイル酢酸銀、アセト酢酸銀、α−メチルアセト酢酸銀(2−メチルアセト酢酸銀)、α−エチルアセト酢酸銀(2−エチルアセト酢酸銀)が例示できる。
【0035】
β−ケトカルボン酸銀(1)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜調節すれば良い。
【0036】
β−ケトカルボン酸銀(1)は、例えば、β−ケトカルボン酸銀(1)のカルボニル基に結合している式「−OAg」で表される基が、アルコキシ基又はアラルキルオキシ基で置換されたβ−ケトカルボン酸エステルを原料として使用し、このエステル結合を塩基性条件化で加水分解してβ−ケトカルボン酸塩とした後、硝酸銀等の銀化合物と反応させることで製造できる。
【0037】
本発明の銀インク組成物におけるβ−ケトカルボン酸銀(1)の配合量は、特に限定されない。ただし、銀インク組成物中のβ−ケトカルボン酸銀(1)の濃度を高めることで、実用的な量の金属銀が容易に形成可能である点から、配合成分の総量に占めるβ−ケトカルボン酸銀(1)の比率が2.5質量%以上であることが好ましく、より高い強度の金属銀が得られる点から、11質量%以上であることがより好ましい。
配合成分の総量に占めるβ−ケトカルボン酸銀(1)の比率の上限は、銀インク組成物の取り扱い性が損なわれない範囲内であれば良い。
【0038】
(n−ヘキシルアミン)
本発明の銀インク組成物におけるn−ヘキシルアミンの配合量は、β−ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり、2.5モル以上であり、3モル以上であることが好ましい。下限値以上とすることで、金属銀の形成温度を低くできる顕著な効果が得られる。
n−ヘキシルアミンの配合量の上限値は特に限定されない。ただし、銀インク組成物中のβ−ケトカルボン酸銀(1)の濃度を高めることで、実用的な量の金属銀が容易に形成可能である点から、n−ヘキシルアミンの配合量は、β−ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり、45モル以下であることが好ましく、より高い強度の金属銀が得られる点から、10モル以下であることがより好ましい。
【0039】
(二価アルコール(2))
二価アルコール(2)は、炭素数が2〜5で且つ炭素数が最多の分子鎖の両末端に水酸基を有する鎖状の二価アルコールである。すなわち、炭素数が2〜5である鎖状炭化水素の、炭素数が最多となっているひと続きの炭化水素鎖の両末端の炭素原子において、水素原子が一つずつ水酸基に置換された構造を有するものである。
二価アルコール(2)は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでも良いが、直鎖状であることが好ましい。
二価アルコール(2)として、具体的には、エチレングリコール(1,2−エタンジオール、HO−CHCH−OH)、1,3−プロパンジオール(HO−CHCHCH−OH)、1,4−ブタンジオール(HO−CHCHCHCH−OH)、1,5−ペンタンジオール(HO−CHCHCHCHCH−OH)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(HO−CHCH(CH)CH−OH)、2−メチル−1,4−ブタンジオール(HO−CHCH(CH)CHCH−OH)が例示でき、エチレングリコールが特に好ましい。
【0040】
二価アルコール(2)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜調節すれば良い。
【0041】
本発明の銀インク組成物における二価アルコール(2)の配合量は、β−ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり、3.3モル以上であり、3.5モル以上であることが好ましい。下限値以上とすることで、金属銀の形成温度を低くできる顕著な効果が得られる。
二価アルコール(2)の配合量の上限値は特に限定されない。ただし、銀インク組成物中のβ−ケトカルボン酸銀(1)の濃度を高めることで、実用的な量の金属銀が容易に形成可能である点から、二価アルコール(2)の配合量は、β−ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり、50モル以下であることが好ましく、より高い強度の金属銀が得られる点から、12モル以下であることがより好ましい。
【0042】
(その他の成分)
本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀(1)、n−ヘキシルアミン及び二価アルコール(2)以外に、必要に応じてさらに、その他の成分が配合されていても良い。
前記その他の成分としては、本発明の効果を妨げないものであれば特に限定されず、目的に応じて任意に選択でき、好ましいものとしては、各種溶媒、バインダ樹脂、アセチレンアルコール類が例示できる。
【0043】
前記溶媒は、各配合成分と反応しないものであれば良く、好ましいものとしては、二価アルコール(2)に該当しないアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類が例示できる。
前記バインダ樹脂としては、本分野において周知慣用のものが使用できる。
【0044】
前記アセチレンアルコール類は、エチニル基(−C≡CH)と水酸基(−OH)を共に有する化合物であり、例えば、水酸基を有するが、前記溶媒とは区別する。
前記アセチレンアルコール類は、下記一般式(II)で表わされるものが好ましい。
【0045】
【化3】
(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基又は置換基を有していても良いフェニル基である。)
【0046】
式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基又は置換基を有していても良いフェニル基である。
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。
フェニル基が有していても良い前記置換基としては、炭素数が1〜16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合した一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、シアノ基、フェノキシ基等が例示できる。
置換基としての前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が例示できる。前記脂肪族炭化水素基が環状である場合、単環状及び多環状のいずれでも良い。
前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合した一価の基の好ましいものとしては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基等が例示できる。
フェニル基が置換基を有する場合、該置換基の数及び位置は特に限定されない。
R’及びR’’は、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
【0047】
前記その他の成分が液状である場合、その沸点は、後述する銀インク組成物の加熱温度よりも低いことが好ましい。
【0048】
前記その他の成分は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0049】
本発明の銀インク組成物において、配合成分の総量に占めるβ−ケトカルボン酸銀(1)、n−ヘキシルアミン及び二価アルコール(2)の総量の比率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であっても良い。通常は、この比率が高いほど、金属銀の形成温度を低くできる顕著な効果が得られる。
【0050】
本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀(1)と併用する必須成分として、特にn−ヘキシルアミン及び二価アルコール(2)を選択することで、金属銀の形成温度を大幅に低下させることができる。例えば、特開2009−114232号公報には、2−メチルアセト酢酸銀が配合された銀インク組成物を使用して、これを150℃で5分間加熱することで、金属銀の皮膜を形成させた具体例が記載されている。一方、本発明の銀インク組成物を使用することで、150℃を大きく下回る100℃程度の温度でも、高純度で抵抗値が低く、組成の均一性が高い、極めて優れた特性の金属銀を形成させることができる。そして、形成した金属銀は、強度が高いため、本発明の銀インク組成物は、例えば、配線等の微細且つ複雑なパターン形成にも好適である。
【0051】
二価アルコール(2)は、数多いアルコールのなかでも、(a)鎖状の二価アルコールである、(b)炭素数が2〜5である、(c)炭素数が最多の分子鎖の両末端に水酸基を有する、という極めて限定された構造を有する。また、n−ヘキシルアミンは、数多い塩基性化合物のなかから見出された、ただ一種の有機塩基である。このように、n−ヘキシルアミン及び二価アルコール(2)の組み合わせは、塩基性化合物とアルコール類との膨大な組み合わせの中から容易に選択し得るものではなく、このような極めて限定された成分を組み合わせて配合することで、はじめて、大幅に低い加熱温度でβ−ケトカルボン酸銀(1)から金属銀を形成させることが可能となる。
【0052】
<銀インク組成物の製造方法>
本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀(1)、n−ヘキシルアミン及び二価アルコール(2)、並びに必要に応じて前記その他の成分を配合することで、製造できる。
各成分の配合時には、すべての成分を添加してからこれらを混合しても良いし、一部の成分を順次添加しながら混合しても良く、すべての成分を順次添加しながら混合しても良い。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法、ミキサーを使用して混合する方法、超音波を印加して混合する方法等、公知の方法から適宜選択すれば良い。
【0053】
配合成分は、銀インク組成物中ですべて溶解していても良いし、一部の成分が溶解せずに分散した状態であっても良い。
【0054】
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、−5〜30℃であることが好ましい。
【0055】
<金属銀の製造方法>
本発明の銀インク組成物を加熱することで、金属銀を形成させることができる。
金属銀は、基材上で形成させることが好ましく、この場合、基材上に本発明の銀インク組成物を付着させ、所望の温度で加熱すれば良い。
【0056】
基材上に銀インク組成物を付着させる方法は、特に限定されない。例えば、塗布装置を使用して銀インク組成物を基材上に塗布する方法;シリンジ、スポイト等の吐出手段を使用して銀インク組成物を基材上に載せる方法が例示できる。
【0057】
銀インク組成物の塗布方法は、特に限定されず、スクリーン印刷;オフセット印刷;ディップ方式;インクジェット方式;ディスペンサー方式;エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、スピンコーター等の各種コーターを使用する方法;ワイヤーバー等の装置を使用する方法が例示できる。塗布方法は、例えば、銀インク組成物の粘度に応じて選択すると、銀インク組成物を一層安定して塗布できる。
【0058】
銀インク組成物の付着量は、特に限定されず、例えば、銀インク組成物中のβ−ケトカルボン酸銀(1)の配合比率、目的とする金属銀の厚さ等に応じて、適宜調節すれば良い。
【0059】
銀インク組成物の加熱は、銀インク組成物の付着後、その組成や性状が変化する前に開始することが好ましい。ここで「組成の変化」とは、例えば、揮発等により銀インク組成物中の成分の一部が消失したり、吸湿等により銀インク組成物中に新たな成分が加わったりすることで、含有される成分の種類又は比率が明確に変化することを指す。また、「性状の変化」とは、例えば、溶解していた成分の一部が析出したり、析出することなく分離したりすることで、銀インク組成物の外観が明確に変化することを指す。
銀インク組成物の付着後から加熱開始までの時間は、銀インク組成物の配合成分の組み合わせに応じて調節すれば良い。
【0060】
銀インク組成物の加熱温度は、β−ケトカルボン酸銀(1)の分解温度に応じて、適宜調節しても良いが、100℃程度という従来にない極めて低い加熱温度で、金属銀が形成可能である。これは、上記のようにn−ヘキシルアミン及び二価アルコール(2)を組み合わせて併用することで、β−ケトカルボン酸銀(1)の分解が顕著に促進されるためである。なお、ここで「β−ケトカルボン酸銀(1)の分解温度」とは、β−ケトカルボン酸銀(1)が単独で存在する場合の分解温度を指す。
したがって、銀インク組成物の加熱温度を、好ましくは115℃以下、より好ましくは105℃以下とすることで、例えば、耐熱性が低い基材上にも金属銀が形成可能なので、本発明の銀インク組成物は、有用性及び汎用性に極めて優れる。銀インク組成物の加熱温度の下限値は、金属銀を形成できる限り特に限定されないが、通常、90℃であることが好ましい。
【0061】
銀インク組成物の加熱方法は特に限定されず、電気炉による加熱、感熱方式の熱ヘッドによる加熱等を例示でき、大気下で行っても良いし、不活性ガス雰囲気下で行っても良い。そして、常圧下及び減圧下のいずれで行っても良い。
【0062】
加熱時間は、加熱温度や加熱方法に応じて適宜設定すれば良く、特に限定されない。例えば、電気炉を使用して100℃程度で加熱する場合には、5〜30分程度の加熱時間でも、優れた特性の金属銀を形成させることができる。
【0063】
前記基材の材質は、目的に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されない。具体的には、セラミック、石英ガラス等の無機材料;各種樹脂等の有機材料;紙類が例示できる。
前記樹脂としては、合成樹脂が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等が例示できる。
前記紙類としては、原紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、レジンコート紙、グラシン紙、光沢紙、合成紙等が例示できる。
本発明の銀インク組成物では、β−ケトカルボン酸銀(1)が、100℃程度の極めて低い加熱温度で十分に分解するため、高温処理が必要な従来の方法では使用できない耐熱性の低い基材も使用できる。したがって、例えば、紙類等の材質からなる基材が特に好適である。
【0064】
前記基材は、単層構造でも良いし、複数層構造でも良い。複数層構造の場合、これら複数の基材の材質はすべて同じでも良いし、一部が異なっていても良く、すべて異なっていても良い。材質が異なる複数の基材を使用する場合、その材質の組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0065】
前記基材の厚さは、材質や目的に応じて任意に設定でき、特に限定されないが、通常は10〜15000μmであることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。なお、以下において、単位「K」はキロ(10)を、「M」はメガ(10)をそれぞれ示す。
【0067】
<銀インク組成物の製造>
[実施例1]
表1に示すように、2−メチルアセト酢酸銀(α−メチルアセト酢酸銀)(1.25g、5.61mmol)、n−ヘキシルアミン(1.70g、16.83mmol)、及びエチレングリコール(2.05g、33.10mmol)を氷水で冷却しながら混合して、銀インク組成物を製造した。
【0068】
[実施例2〜14、参考例1〜3]
二価アルコール(2)の種類及び使用量、並びにn−ヘキシルアミンの使用量を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造した。
【0069】
[比較例1〜16]
表2に示すように、塩基とアルコールの種類、使用量を設定したこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
<金属銀の製造>
スポイトを使用して、実施例1〜14、参考例1〜3、比較例1〜16の銀インク組成物を、表3及び4に示す基材上の異なる箇所に1滴ずつ滴下して、合計で5滴滴下することで、5つの銀インク組成物のスポットを作製した。1滴の滴下量は10〜20μlとした。使用した基材は、具体的には以下の通りである。
PET(ポリエチレンテレフタレート):テトロン SL−50(商品名、帝人社製、耐熱性105℃、厚さ50μm)
PEN(ポリエチレンナフタレート):テオネックス Q83(商品名、帝人社製、耐熱性150℃、厚さ50μm)
アラミド(芳香族ポリアミド):アラミカ 228S(商品名、帝人社製、耐熱性200℃、厚さ16μm)
ガラス:マイクロスライドガラス(松浪ガラス工業社製、厚さ1000μm)
LP紙:カラーレーザープリンター用厚手光沢紙 BP−FG1310(商品名、コクヨ社製、厚さ190μm)、オーブンを使用して100℃で1時間加熱した時に、黄変等の変質が生じないことを確認した。
PC(ポリカーボネート):ポリカエース(商品名、住友ベークライト社製、耐熱性120℃、厚さ500μm)
【0073】
次いで、オーブンを使用して、この基材を100℃で15分間加熱し、金属銀を製造した。得られた金属銀のスポットの直径は、実施例1〜12及び比較例1〜16では約5mmであり、実施例13では約2mmであり、実施例14では約1.5mmであった。
【0074】
次いで、テスターを使用して、得られた金属銀の表面抵抗値を測定した。抵抗値は、金属銀のスポット1つあたり2箇所で測定し、合計で10箇所測定した。測定結果を表3及び4に示す。なお、抵抗値は、表3及び4において「最小値〜最大値」として示している。例えば、「1〜10K」は、最小値が1Ωで最大値が10KΩであったことを示し、「1M〜10M」は、最小値が1MΩで最大値が10MΩであったことを示し、「0.3」は、測定値がいずれも0.3Ωであったことを示す。
抵抗値が3Ω以下である場合、形成された金属銀は高純度で優れた導電性を有していると言うことができ、抵抗値が1Ω以下である場合、特に優れた特性を有していると言える。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
表1〜4に示すように、実施例1〜14、参考例1〜3の銀インク組成物を使用することで、100℃という低温でも、抵抗値が低く(導電性が高く)、組成の均一性が高い、良好な特性の金属銀を形成させることができた。
これに対して、n−ヘキシルアミンの配合量が少ない比較例1〜2、二価アルコール(2)の配合量が少ない比較例3〜8の銀インク組成物を使用した場合には、形成した金属銀は抵抗値のばらつきが大きく、且つ最大値が著しく高くなっており、組成が不均一であった。
また、二価アルコール(2)に該当しないアルコールが配合された、比較例9〜14の銀インク組成物を使用した場合にも、比較例1〜8の銀インク組成物を使用した場合と同様であり、特にグリセリン、エタノール又はエトキシエタノールが配合された比較例12〜14の銀インク組成物を使用した場合には、金属銀の抵抗値がオーバーロード(測定可能な上限値以上)となり、測定不能となってしまった。
また、n−ヘキシルアミン以外の塩基が配合された比較例15の銀インク組成物、n−ヘキシルアミン以外の塩基と二価アルコール(2)に該当しないアルコールが配合された比較例16の銀インク組成物を使用した場合にも、比較例12〜14の銀インク組成物を使用した場合と同様の結果となった。
【0078】
<β−ケトカルボン酸銀(1)の製造>
[製造例1]
(アセト酢酸銀の製造)
水冷下、水酸化ナトリウム(NaOH)(15.8g(395.0mmol))を水(213.8g)に溶解させ、得られた水酸化ナトリウム水溶液の温度を室温に調節し、これを20℃のアセト酢酸エチル(井上香料製造所社製、51.5g(395.7mmol))に20分間かけて全量滴下して、さらに引き続き20℃で一晩撹拌し、加水分解を行った。
次いで、得られたアセト酢酸ナトリウムを含む溶液を5〜10℃に冷却しながら、ここに69%硝酸(HNO)水溶液(1.73g)を5分間かけて滴下して、さらに約10分間攪拌した。この時、得られた反応液のpHは5であった。
次いで、硝酸銀(AgNO)(47.8g(281.3mmol))を水(47.8g)に溶解させ、これを5〜10℃に冷却しながら、ここに上記のpH5の反応液を15分間かけて全量滴下して、さらに約10分間攪拌することにより、アセト酢酸銀を生成させた。
次いで、得られた反応液を遠心濾過して結晶をろ別し、この結晶を水(40mL)で一回洗浄した後、適量のエタノールで三回洗浄し、乾燥させることにより、目的物であるアセト酢酸銀の無色(白色)結晶を得た(収量41.2g、収率70%)。
【0079】
得られたアセト酢酸銀を、(1)元素分析、(2)フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)及び(3)熱分析−示差熱熱重量同時測定(TG/DTA)に供した。(1)元素分析は常法に従って行った。また、(2)FT−IR及び(3)TG/DTAは、それぞれ下記装置を使用して下記条件により、常法に従って行った。
(2)FT−IR
(装置)
FT−IR装置 : Spectrum One/Auto Image FT−IR Spectrometer(Perkin Elmer社製)
付属装置 : Universal ATR Sampling Accessory
(条件)
測定範囲 : 4000〜600cm−1
測定回数 : 4回
温度 : 室温
雰囲気 : 空気
(3)TG/DTA
(装置)
分解装置 : EXSTAR TG/DTA6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
(条件)
昇温速度 : 10℃/分
温度範囲 : 室温〜200℃
雰囲気 : 空気
【0080】
(1)元素分析の結果を以下に示す。ここに示すように、分析値は理論値とよく一致していた。
元素分析値:C=22.9%、H=2.3%、N=検出限界値(0.4)以下(理論値:C=23.0%、H=2.4%、N=0.0%)
また、(2)FT−IRのスペクトルを図1に示す。
(3)TG/DTAでは、分解温度が137.4℃であった。そして、190℃まで昇温させたところ、残渣の量は56質量%であり、アセト酢酸銀一分子中に占める銀の理論量(52質量%)とほぼ一致していた。
これらの結果から、得られたものが目的物であるアセト酢酸銀であることを確認できた。
【0081】
[製造例2]
(イソブチリル酢酸銀の製造)
イソブチリル酢酸メチル(日本精化社製、25.23g(175.04mmol))に、10%水酸化ナトリウム水溶液(70.0g(水酸化ナトリウム175.0mmol))を、20℃以下を保つように5分間かけて滴下し、さらに引き続き20℃で一晩撹拌して、加水分解を行った。
次いで、得られた加水分解反応液を5〜10℃に冷却しながら、ここに5%硝酸(22.0g)を滴下し、さらに10分間撹拌した。この時、反応液のpHをpH試験紙で測定したところ、5であった。
次いで、25%硝酸銀水溶液(95.2g)を15℃以下に冷却し、ここに上記のpH5の反応液を10分間かけて全量滴下して、さらに10分間撹拌することにより、イソブチリル酢酸銀を生成させた。
次いで、得られた反応液を遠心ろ過して結晶をろ別し、この結晶を水(50mL)で1回洗浄した後、適量のエタノールで6回洗浄し、乾燥させることにより、目的物であるイソブチリル酢酸銀の無色(白色)結晶を得た(収量24.0g、収率72%)。
【0082】
得られたイソブチリル酢酸銀を、製造例1の場合と同様に、(1)元素分析、(2)FT−IR及び(3)TG/DTAに供した。
(1)元素分析の結果を以下に示す。ここに示すように、分析値は理論値とよく一致していた。
元素分析値:C=30.4%、H=3.7%、N=検出限界値(0.4)以下(理論値:C=30.4%、H=3.8%、N=0.0%)
また、(2)FT−IRのスペクトルを図2に示す。
(3)TG/DTAでは、分解温度が141℃であった。そして、300℃まで昇温させた後、そのまま30分間保持したところ、残渣の量は46.5質量%であり、イソブチリル酢酸銀一分子中に占める銀の理論量(45.5質量%)とほぼ一致していた。
これらの結果から、得られたものが目的物であるイソブチリル酢酸銀であることを確認できた。
【0083】
[製造例3]
(ピバロイル酢酸銀の製造)
ピバロイル酢酸メチル(日本精化社製、27.69g(175.08mmol))に、10%水酸化ナトリウム水溶液(70.0g(水酸化ナトリウム175.0mmol))を、20℃以下を保つように4分間かけて滴下し、さらに引き続き20℃で一晩撹拌して、加水分解を行った。
次いで、得られた加水分解反応液を5〜10℃に冷却しながら、ここに5%硝酸(22.0g)を滴下し、さらに10分間撹拌した。この時、反応液のpHをpH試験紙で測定したところ、5であった。
次いで、25%硝酸銀水溶液(95.2g)を15℃以下に冷却し、ここに上記のpH5の反応液を10分間かけて全量滴下し、さらに蒸留水200gを滴下して、10分間撹拌することにより、ピバロイル酢酸銀を生成させた。
次いで、得られた反応液を遠心ろ過して結晶をろ別し、この結晶を水(50mL)で1回洗浄した後、適量のエタノールで6回洗浄し、乾燥させることにより、目的物であるピバロイル酢酸銀((CHCC(=O)CHC(=O)OAg)の無色(白色)結晶を得た(収量27.4g、収率78%)。
【0084】
得られたピバロイル酢酸銀を、製造例1の場合と同様に、(1)元素分析、(2)FT−IR及び(3)TG/DTAに供した。
(1)元素分析の結果を以下に示す。ここに示すように、分析値は理論値とよく一致していた。
元素分析値:C=33.5%、H=4.4%、N=検出限界値(0.4)以下(理論値:C=33.5%、H=4.4%、N=0.0%)
また、(2)FT−IRのスペクトルを図2に示す。
(3)TG/DTAでは、分解温度が152℃であった。そして、300℃まで昇温させた後、そのまま30分間保持したところ、残渣の量は42.9質量%であり、ピバロイル酢酸銀一分子中に占める銀の理論量(43.0質量%)とほぼ一致していた。
これらの結果から、得られたものが目的物であるピバロイル酢酸銀であることを確認できた。
【0085】
<銀インク組成物の製造>
[実施例15]
表5に示すように、製造例1で得られたアセト酢酸銀(0.5g、2.39mmol)、n−ヘキシルアミン(0.97g、9.60mmol)、及びエチレングリコール(0.64g、10.33mmol)を氷水で冷却しながら混合して、銀インク組成物を製造した。
【0086】
[実施例16〜22]
n−ヘキシルアミン及びエチレングリコールの使用量を表5に示す通りとしたこと以外は、実施例15と同様に銀インク組成物を製造した。
【0087】
[実施例23]
表5に示すように、製造例2で得られたイソブチリル酢酸銀(0.5g、2.11mmol)、n−ヘキシルアミン(0.85g、8.42mmol)、及びエチレングリコール(0.65g、10.50mmol)を氷水で冷却しながら混合して、銀インク組成物を製造した。
【0088】
[実施例24]
表5に示すように、製造例3で得られたピバロイル酢酸銀(0.5g、1.99mmol)、n−ヘキシルアミン(0.80g、7.92mmol)、及びエチレングリコール(0.62g、10.01mmol)を氷水で冷却しながら混合して、銀インク組成物を製造した。
【0089】
[比較例17〜32]
表6に示すように、β−ケトカルボン酸銀(1)、塩基及びアルコールの種類並びに使用量を設定したこと以外は、実施例15と同様に銀インク組成物を製造した。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
<金属銀の製造>
実施例1〜14と同様に、実施例15〜24及び比較例17〜32の銀インク組成物を使用して、PET基材上で金属銀を製造し、その表面抵抗値を測定した。結果を表7及び8に示す。
【0093】
【表7】
【0094】
【表8】
【0095】
表5〜8に示すように、2−メチルアセト酢酸銀以外のβ−ケトカルボン酸銀(1)が配合された実施例15〜24の銀インク組成物を使用した場合でも、100℃という低温で、抵抗値が低く(導電性が高く)、組成の均一性が高い、良好な特性の金属銀を形成させることができた。
これに対して、二価アルコール(2)の配合量が少ない比較例17〜20、エチレングリコール以外のアルコールが配合された比較例21〜26及び28〜32、並びにn−ヘキシルアミン以外の塩基が配合された比較例27の銀インク組成物を使用した場合には、形成した金属銀は抵抗値のばらつきが大きく、且つ最大値が著しく高くなっており、組成が不均一であった。特に、アルコールとしてグリセリン、エタノール又はエトキシエタノールが配合された比較例23、25及び26の銀インク組成物、塩基としてn−オクチルアミンが配合された比較例27の銀インク組成物を使用した場合には、金属銀の抵抗値がオーバーロード(測定可能な上限値以上)となり、測定不能となってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、記録材料、印刷刷版材料、高導電性材料としての金属銀の製造に利用可能である。
図1
図2