(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の冷却装置1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、冷却装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、たとえば、車両の車内の冷房を行なうために、車両に搭載される。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた冷房は、たとえば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的に車両の室内の温度を設定温度になるように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。
【0020】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12と、第一熱交換器としての熱交換器14と、熱交換器15と、減圧器の一例としての膨張弁16と、第二熱交換器としての熱交換器18と、を含む。
【0021】
圧縮機12は、車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の作動時に熱交換器18から流通する冷媒を吸入圧縮して、冷媒通路21に高温高圧の気相冷媒を吐出する。圧縮機12は、冷媒通路21に冷媒を吐出することで、蒸気圧縮式冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
【0022】
熱交換器14,15は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された高圧の気相冷媒は、熱交換器14,15において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14,15は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器14,15の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。熱交換器14,15は、車両の走行によって発生する自然の通風またはエンジン冷却用のラジエータファンなどの冷却ファンからの強制通風によって供給された冷却風と冷媒との間で、熱交換を行なう。熱交換器14,15における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。
【0023】
膨張弁16は、冷媒通路25を流通する高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温・低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、熱交換器14,15によって凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。なお、冷媒液を減圧するための減圧器は、絞り膨張する膨張弁16に限られず、毛細管であってもよい。
【0024】
熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。熱交換器18は、膨張弁16によって減圧された冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気が車両の室内に再び戻されることによって、車両の室内の冷房が行なわれる。冷媒は、熱交換器18において周囲から吸熱し加熱される。
【0025】
熱交換器18は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。チューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流通する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して車両の室内の空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって蒸発し、さらに顕熱によって過熱蒸気になる。気化した冷媒は、冷媒通路27を経由して圧縮機12へ流通する。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。
【0026】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、圧縮機12と熱交換器14とを連通する第三通路としての冷媒通路21と、熱交換器14と熱交換器15とを連通する冷媒通路22,23,24と、熱交換器15と膨張弁16とを連通する冷媒通路25と、膨張弁16と熱交換器18とを連通する冷媒通路26と、熱交換器18と圧縮機12とを連通する冷媒通路27と、を含む。
【0027】
冷媒通路21は、冷媒を圧縮機12から熱交換器14に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路21を経由して、圧縮機12と熱交換器14との間を、圧縮機12の出口から熱交換器14の入口へ向かって流れる。冷媒通路22〜25は、冷媒を熱交換器14から膨張弁16に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路22〜25を経由して、熱交換器14と膨張弁16との間を、熱交換器14の出口から膨張弁16の入口へ向かって流れる。
【0028】
冷媒通路26は、冷媒を膨張弁16から熱交換器18に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路26を経由して、膨張弁16と熱交換器18との間を、膨張弁16の出口から熱交換器18の入口へ向かって流れる。冷媒通路27は、冷媒を熱交換器18から圧縮機12に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路27を経由して、熱交換器18と圧縮機12との間を、熱交換器18の出口から圧縮機12の入口へ向かって流れる。
【0029】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12、熱交換器14,15、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜27によって連結されて構成される。なお、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒としては、たとえば二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニアまたは水などを用いることができる。
【0030】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の経路上に配置された、気液分離器40を含む。気液分離器40は、熱交換器14から流出する冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する。気液分離器40の内部には、液相冷媒である冷媒液と、気相冷媒である冷媒蒸気と、が蓄蔵されている。気液分離器40には、冷媒通路22,23と、冷媒通路34とが連結されている。
【0031】
熱交換器14の出口側において冷媒は、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液二相状態の湿り蒸気の状態にある。熱交換器14から流出した冷媒は、冷媒通路22を通って気液分離器40へ供給される。冷媒通路22から気液分離器40へ流入する気液二相状態の冷媒は、気液分離器40の内部において気相と液相とに分離される。気液分離器40は、熱交換器14によって凝縮された冷媒を液体状の冷媒液とガス状の冷媒蒸気とに分離して、一時的に蓄える。
【0032】
分離された冷媒液は、冷媒通路34を経由して、気液分離器40の外部へ流出する。気液分離器40内の液相中に配置された冷媒通路34の端部は、液相冷媒の気液分離器40からの流出口を形成する。分離された冷媒蒸気は、冷媒通路23を経由して、気液分離器40の外部へ流出する。気液分離器40内の気相中に配置された冷媒通路23の端部は、気相冷媒の気液分離器40からの流出口を形成する。気液分離器40から導出された気相の冷媒蒸気は、第三熱交換器としての熱交換器15において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮する。
【0033】
気液分離器40の内部では、冷媒液が下側、冷媒蒸気が上側に溜まる。気液分離器40から冷媒液を導出する冷媒通路34の端部は、気液分離器40の底部に連結されている。冷媒通路34を経由して、気液分離器40の底側から冷媒液のみが気液分離器40の外部へ送り出される。気液分離器40から冷媒蒸気を導出する冷媒通路23の端部は、気液分離器40の天井部に連結されている。冷媒通路23を経由して、気液分離器40の天井側から冷媒蒸気のみが気液分離器40の外部へ送り出される。これにより、気液分離器40は、気相冷媒と液相冷媒との分離を確実に行なうことができる。
【0034】
熱交換器14の出口から膨張弁16の入口へ向かって流れる冷媒が流通する経路は、熱交換器14の出口側から気液分離器40へ至る冷媒通路22と、気液分離器40から冷媒蒸気を流出させ後述する流量調整弁28を経由する冷媒通路23と、熱交換器15の入口側へ連結される冷媒通路24と、熱交換器15の出口側から冷媒を膨張弁16へ流通させる冷媒通路25と、を含む。第一通路としての冷媒通路23には、気液分離器40で分離された気相冷媒が流れる。
【0035】
熱交換器14と熱交換器15との間を流通する冷媒の経路はまた、気液分離器40と冷却部30とを連通する冷媒通路34と、冷却部30と冷媒通路24とを連通する冷媒通路36と、を含む。冷媒通路34を経由して、気液分離器40から冷却部30へ冷媒液が流通する。冷却部30を通過した冷媒は、冷媒通路36を経由して、冷媒通路24へ戻る。第二通路としての冷媒通路34,36には、気液分離器40で分離された液相冷媒が流れる。冷却部30は、気液分離器40と膨張弁16との間を熱交換器14から熱交換器15へ向けて流通する冷媒の経路において並列に接続された第一通路と第二通路とのうち、第二通路上に設けられている。
【0036】
図1に示すD点は、冷媒通路23と冷媒通路24と冷媒通路36との連結点を示す。つまりD点は、冷媒通路23の下流側(熱交換器15に近接する側)の端部、冷媒通路24の上流側(熱交換器14に近接する側)の端部、および、冷媒通路36の下流側の端部を示す。冷媒通路23は、気液分離器40から膨張弁16へ向かう冷媒が流通する経路の、気液分離器40からD点へ至る一部を形成する。
【0037】
冷却装置1は、冷媒通路23と並列に配置された冷媒の経路を備え、冷却部30は、当該冷媒の経路上に設けられている。冷却部30は、車両に搭載される電気機器であるHV(Hybrid Vehicle)機器31と、冷媒が流通する配管である冷却通路32とを含む。HV機器31は、発熱源の一例である。冷却通路32の一方の端部は、冷媒通路34に接続される。冷却通路32の他方の端部は、冷媒通路36に接続される。
【0038】
気液分離器40と
図1に示すD点との間の冷媒通路23に並列に接続された冷媒の経路は、冷却部30よりも上流側(気液分離器40に近接する側)の冷媒通路34と、冷却部30に含まれる冷却通路32と、冷却部30よりも下流側(熱交換器15に近接する側)の冷媒通路36と、を含む。冷媒通路34は、気液分離器40から冷却部30に、液相の冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路36は、冷却部30からD点に冷媒を流通させるための通路である。D点は、冷媒通路23,24と、冷媒通路36と、の分岐点である。
【0039】
気液分離器40から流出した冷媒液は、冷媒通路34を経由して、冷却部30へ向かって流通する。冷却部30へ流通し、冷却通路32を経由して流れる冷媒は、発熱源としてのHV機器31から熱を奪って、HV機器31を冷却させる。冷却部30は、気液分離器40において分離され冷媒通路34を経由して冷却通路32へ流れる液相の冷媒を用いて、HV機器31を冷却する。冷却部30において、冷却通路32内を流通する冷媒と、HV機器31と、が熱交換することにより、HV機器31は冷却され、冷媒は加熱される。冷媒はさらに冷媒通路36を経由して冷却部30からD点へ向かって流通し、冷媒通路24を経由して熱交換器15へ至る。
【0040】
冷却部30は、冷却通路32においてHV機器31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。本実施の形態においては、冷却部30は、たとえば、HV機器31の筐体に冷却通路32の外周面が直接接触するように形成された冷却通路32を有する。冷却通路32は、HV機器31の筐体と隣接する部分を有する。当該部分において、冷却通路32を流通する冷媒と、HV機器31との間で、熱交換が可能となる。
【0041】
HV機器31は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の熱交換器14から熱交換器15に至る冷媒の経路の一部を形成する冷却通路32の外周面に直接接続されて、冷却される。冷却通路32の外部にHV機器31が配置されるので、冷却通路32の内部を流通する冷媒の流れにHV機器31が干渉することはない。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、HV機器31を冷却することができる。
【0042】
代替的には、冷却部30は、HV機器31と冷却通路32との間に介在して配置された任意の公知のヒートパイプを備えてもよい。この場合HV機器31は、冷却通路32の外周面にヒートパイプを介して接続され、HV機器31から冷却通路32へヒートパイプを経由して熱伝達することにより、冷却される。HV機器31をヒートパイプの加熱部とし冷却通路32をヒートパイプの冷却部とすることで、冷却通路32とHV機器31との間の熱伝達効率が高められるので、HV機器31の冷却効率を向上できる。たとえばウィック式のヒートパイプを使用することができる。
【0043】
ヒートパイプによってHV機器31から冷却通路32へ確実に熱伝達することができるので、HV機器31と冷却通路32との間に距離があってもよく、HV機器31に冷却通路32を接触させるために冷却通路32を複雑に配置する必要がない。その結果、HV機器31の配置の自由度を向上することができる。
【0044】
HV機器31は、電力の授受によって発熱する電気機器を含む。電気機器は、たとえば、直流電力を交流電力に変換するためのインバータ、回転電機であるモータジェネレータ、蓄電装置であるバッテリ、バッテリの電圧を昇圧させるためのコンバータ、バッテリの電圧を降圧するためのDC/DCコンバータなどの、少なくともいずれか一つを含む。バッテリは、リチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池等の二次電池である。バッテリに代えてキャパシタが用いられてもよい。
【0045】
熱交換器18は、空気が流通するダクト90の内部に配置されている。熱交換器18は、冷媒とダクト90内を流通する空調用空気との間で熱交換して、空調用空気の温度を調節する。ダクト90は、ダクト90に空調用空気が流入する入口であるダクト入口91と、ダクト90から空調用空気が流出する出口であるダクト出口92と、を有する。ダクト90の内部の、ダクト入口91の近傍には、ファン93が配置されている。
【0046】
ファン93が駆動することにより、ダクト90内に空気が流通する。ファン93が稼働すると、ダクト入口91を経由してダクト90の内部へ空調用空気が流入する。ダクト90へ流入する空気は、外気であってもよく、車両の室内の空気であってもよい。
図1中の矢印95は、熱交換器18を経由して流通し、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒と熱交換する空調用空気の流れを示す。冷房運転時には、熱交換器18において空調用空気が冷却され、冷媒は空調用空気からの熱伝達を受けて加熱される。矢印96は、熱交換器18で温度調節され、ダクト出口92を経由してダクト90から流出する、空調用空気の流れを示す。
【0047】
冷媒は、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜27によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を、
図1に示すA点、B点、C点、D点、E点およびF点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。
【0048】
図2は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図2中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
図2中には、熱交換器14の出口の冷媒通路22から気液分離器40を経由して冷媒通路34へ流入し、HV機器31を冷却し、冷媒通路36からD点を経由して熱交換器15の入口の冷媒通路24へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,C,D,EおよびF点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0049】
図2に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14における外気との熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる。気液二相状態である冷媒のうち、凝縮した冷媒は飽和液の状態である(C点)。
【0050】
冷媒は気液分離器40において気相冷媒と液相冷媒とに分離される。気液分離された冷媒のうち、液相の冷媒液が、気液分離器40から冷媒通路34を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。冷却部30において、熱交換器14を通過して凝縮された飽和液状態の液冷媒に熱を放出することで、HV機器31が冷却される。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。冷媒は、HV機器31から潜熱を受け取って一部気化することにより、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気となる(D点)。
【0051】
その後冷媒は、熱交換器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、熱交換器15において外気と熱交換して冷却されることにより再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却された過冷却液になる(E点)。その後冷媒は、冷媒通路25を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。
【0052】
膨張弁16から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路26を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して車両の室内の空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。その後冷媒は、冷媒通路27を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。
【0053】
冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
【0054】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、蒸発器として作用する熱交換器18において蒸発する際に気化熱を車両の室内の空気から吸収して、車室内の冷房を行なう。加えて、熱交換器14から流出し気液分離器40で気液分離された高圧の液冷媒が冷却部30へ流通し、HV機器31と熱交換することでHV機器31を冷却する。冷却装置1は、車両に搭載された発熱源であるHV機器31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。なお、HV機器31を冷却するために必要とされる温度は、少なくともHV機器31の温度範囲として目標となる温度範囲の上限値よりも低い温度であることが望ましい。
【0055】
熱交換器18において被冷却部を冷却するために設けられた蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、HV機器31の冷却が行なわれるので、HV機器31の冷却のために、専用の水循環ポンプまたは冷却ファンなどの機器を設ける必要はない。そのため、HV機器31の冷却装置1のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純にできるので、冷却装置1の製造コストを低減することができる。加えて、HV機器31の冷却のためにポンプや冷却ファンなどの動力源を運転する必要がなく、動力源を運転するための消費動力を必要としない。したがって、HV機器31の冷却のための消費動力を低減することができる。
【0056】
熱交換器14では、冷媒を湿り蒸気の状態にまで冷却すればよく、気液混合状態の冷媒は気液分離器40により分離され、飽和液状態の冷媒液のみが冷却部30へ供給される。HV機器31から蒸発潜熱を受け取り一部気化した湿り蒸気の状態の冷媒は、熱交換器15で再度冷却される。湿り蒸気状態の冷媒を凝縮させ完全に飽和液にするまで、冷媒は一定の温度で状態変化する。熱交換器15はさらに、車両の室内の冷房のために必要な程度の過冷却度にまで、液相冷媒を過冷却する。冷媒の過冷却度を過度に大きくする必要がないので、熱交換器14,15の容量を低減することができる。したがって、車室用の冷房能力を確保でき、かつ、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、冷却装置1を得ることができる。
【0057】
熱交換器14の出口から膨張弁16の入口へ向かう冷媒の経路の一部を形成する冷媒通路23は、熱交換器14と熱交換器15との間に設けられている。気液分離器40から膨張弁16へ向かう冷媒が流通する経路として、冷却部30を通過しない経路である冷媒通路23と、冷却部30を経由してHV機器31を冷却する冷媒の経路である冷媒通路34,36および冷却通路32と、が並列に設けられる。冷媒通路34,36を含むHV機器31の冷却系は、冷媒通路23と並列に接続されている。そのため、熱交換器14から流出した冷媒の一部のみが、冷却部30へ流れる。HV機器31の冷却のために必要な量の冷媒を冷却部30へ流通させ、HV機器31は適切に冷却される。したがって、HV機器31が過冷却されることを防止できる。
【0058】
熱交換器14から直接熱交換器15へ流れる冷媒の経路と、熱交換器14から冷却部30を経由して熱交換器15へ流れる冷媒の経路と、を並列に設け、一部の冷媒のみを冷媒通路34,36へ流通させることで、HV機器31の冷却系に冷媒が流れる際の圧力損失を低減することができる。全ての冷媒が冷却部30に流れないので、冷却部30を経由する冷媒の流通に係る圧力損失を低減することができ、それに伴い、冷媒を循環させるための圧縮機12の運転に必要な消費電力を低減することができる。
【0059】
膨張弁16を通過した後の低温低圧の冷媒をHV機器31の冷却に使用すると、熱交換器18における車室内の空気の冷却能力が減少して、車室用の冷房能力が低下する。これに対し、本実施の形態の冷却装置1では、蒸気圧縮式冷凍サイクル10において、圧縮機12から吐出された高圧の冷媒は、第一の凝縮器としての熱交換器14と、第二の凝縮器としての熱交換器15と、の両方によって凝縮される。圧縮機12と膨張弁16との間に二段の熱交換器14,15を配置し、HV機器31を冷却する冷却部30は、熱交換器14と熱交換器15との間に設けられている。熱交換器15は、冷却部30から膨張弁16に向けて流通する冷媒の経路上に設けられている。
【0060】
HV機器31から蒸発潜熱を受けて加熱された冷媒を熱交換器15において十分に冷却することにより、膨張弁16の出口において、冷媒は、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、熱交換器18において冷媒が蒸発するときに外部から受け取る熱量を十分に大きくすることができる。このように、冷媒を十分に冷却できる熱交換器15の放熱能力を定めることにより、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、HV機器31を冷却することができる。したがって、HV機器31の冷却能力と、車室用の冷房能力との両方を、確実に確保することができる。
【0061】
熱交換器14から冷却部30へ流れる冷媒は、HV機器31を冷却するときに、HV機器31から熱を受け取り加熱される。冷却部30において冷媒が飽和蒸気温度以上に加熱され冷媒の全量が気化すると、冷媒とHV機器31との熱交換量が減少してHV機器31を効率よく冷却できなくなり、また冷媒が配管内を流れる際の圧力損失が増大する。そのため、HV機器31を冷却した後に冷媒の全量が気化しない程度に、熱交換器14において十分に冷媒を冷却するのが望ましい。
【0062】
具体的には、熱交換器14の出口における冷媒の状態を飽和液に近づけ、典型的には熱交換器14の出口において冷媒が飽和液線上にある状態にする。このように冷媒を十分に冷却できる能力を熱交換器14が有する結果、熱交換器14の冷媒から熱を放出させる放熱能力は、熱交換器15の放熱能力よりも高くなる。放熱能力が相対的に大きい熱交換器14において冷媒を十分に冷却することにより、HV機器31から熱を受け取った冷媒を湿り蒸気の状態に留めることができ、冷媒とHV機器31との熱交換量の減少を回避できるので、HV機器31を十分に効率よく冷却することができる。HV機器31を冷却した後の湿り蒸気の状態の冷媒は、熱交換器15において効率よく再度冷却され、飽和温度を下回る過冷却液の状態にまで冷却される。したがって、車室用の冷房能力とHV機器31の冷却能力との両方を確保した、冷却装置1を提供することができる。
【0063】
熱交換器14の出口において気液二相状態にある冷媒は、気液分離器40内において、気相と液相とに分離される。気液分離器40で分離された気相冷媒は、冷媒通路23,24を経由して流通し直接熱交換器15に供給される。気液分離器40で分離された液相冷媒は、冷媒通路34を経由して流通し、冷却部30に供給されてHV機器31を冷却する。この液相冷媒は、過不足の全くない真に飽和液状態の冷媒である。気液分離器40から液相の冷媒のみを取り出し冷却部30へ流すことにより、熱交換器14の能力を最大限に活用してHV機器31を冷却することができるので、HV機器31の冷却能力を向上させた冷却装置1を提供することができる。
【0064】
気液分離器40の出口で飽和液の状態にある冷媒をHV機器31を冷却する冷却通路32に導入することにより、冷媒通路34,36および冷却通路32を含むHV機器31の冷却系を流れる冷媒のうち、気相状態の冷媒を最小限に抑えることができる。そのため、HV機器31の冷却系を流れる冷媒蒸気の流速が早くなり圧力損失が増大することを抑制でき、冷媒を流通させるための圧縮機12の消費電力を低減できるので、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の性能の悪化を回避することができる。
【0065】
気液分離器40の内部には、飽和液状態の冷媒液が貯留されている。気液分離器40は、その内部に液状の冷媒である冷媒液を一時的に貯留する機能を有する。気液分離器40内に所定量の冷媒液が溜められることにより、負荷変動時にも気液分離器40から冷却部30へ流れる冷媒の流量を維持できる。気液分離器40が液だめ機能を有し、負荷変動に対するバッファとなり負荷変動を吸収できるので、HV機器31の冷却性能を安定させることができる。
【0066】
図1に戻って、冷却装置1は、流量調整弁28を備える。流量調整弁28は、熱交換器14から膨張弁16へ向かう冷媒の経路において、並列に接続された経路のうちの一方を形成する、冷媒通路23に配置されている。流量調整弁28は、その弁開度を変動させ、冷媒通路23を流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路23を流れる冷媒の流量と、冷却通路32を含むHV機器31の冷却系を流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。
【0067】
たとえば、流量調整弁28を全閉にして弁開度を0%にすると、熱交換器14を出た冷媒の全量が気液分離器40から冷媒通路34へ流入する。流量調整弁28の弁開度を大きくすれば、熱交換器14から冷媒通路22へ流れる冷媒のうち、冷媒通路23を経由して熱交換器15へ直接流れる流量が大きくなり、冷媒通路34を経由して冷却通路32へ流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなる。流量調整弁28の弁開度を小さくすれば、熱交換器14から冷媒通路22へ流れる冷媒のうち、冷媒通路23を経由して熱交換器15へ直接流れる流量が小さくなり、冷却通路32を経由して流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなる。
【0068】
流量調整弁28の弁開度を大きくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなり、HV機器31の冷却能力が低下する。流量調整弁28の弁開度を小さくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなり、HV機器31の冷却能力が向上する。流量調整弁28を使用して、HV機器31に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、HV機器31の過冷却を確実に防止することができ、加えて、HV機器31の冷却系の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
【0069】
冷却装置1はまた、連通路51を備える。連通路51は、圧縮機12と熱交換器14との間を冷媒が流通する冷媒通路21と、冷却部30に冷媒を流通させる冷媒通路34,36のうち冷却部30に対し下流側の冷媒通路36と、を連通する。冷媒通路36および連通路51には、連通路51と冷媒通路21,36との連通状態を切り換える切換弁52が設けられている。切換弁52は、その開閉を切り換えることにより、連通路51を経由する冷媒の流通を可能または不可能にする。冷媒通路36は、連通路51との分岐よりも上流側の冷媒通路36aと、連通路51との分岐よりも下流側の冷媒通路36bと、に二分割される。
【0070】
切換弁52を使用して冷媒の経路を切り換えることにより、HV機器31を冷却した後の冷媒を、冷媒通路36b,24を経由させて熱交換器15へ、または、連通路51および冷媒通路21を経由して熱交換器14へ、のいずれかの経路を任意に選択して、流通させることができる。
【0071】
より具体的には、切換弁52として二つの弁57,58が設けられている。蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転中には、弁57を全開(弁開度100%)とし弁58を全閉(弁開度0%)とし、流量調整弁28の弁開度を冷却部30に十分な冷媒が流れるように調整する。これにより、HV機器31を冷却した後の冷媒通路36aを流通する冷媒を、冷媒通路36bを経由させて、確実に熱交換器15へ流通させることができる。一方、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の停止中には、弁58を全開とし弁57を全閉とし、さらに流量調整弁28を全閉とする。これにより、HV機器31を冷却した後の冷媒通路36aを流通する冷媒を、連通路51を経由させて熱交換器14へ流通させ、冷却部30と熱交換器14との間に冷媒を循環させる環状の経路を形成することができる。
【0072】
冷却装置1はさらに、冷媒通路36に接続された蓄ガス器70を備える。蓄ガス器70は、冷却部30に対し下流側の冷媒の経路に設けられている。蓄ガス器70は、冷却部30と、冷媒通路36と連通路51との分岐点と、の間に配置されている。つまり、蓄ガス器70は、冷媒通路36aに接続されている。
【0073】
蓄ガス器70は、冷却部30において冷媒液がHV機器31から伝熱されて気化した後の飽和蒸気状態の気相冷媒を、その内部に貯留する。冷媒通路36を流れる高圧の冷媒が蓄ガス器70の内部へ流入し、蓄ガス器70は流入した冷媒蒸気を蓄積する。冷媒通路36を流れる冷媒の圧力が低下すると、蓄ガス器70の中に入っていた冷媒蒸気を蓄ガス器70から冷媒通路36へ放出して、冷媒通路36を流通する冷媒蒸気の流量の低下を抑制する。
【0074】
冷却部30と蓄ガス器70との間に、逆止弁79が配置されている。逆止弁79は、蓄ガス器70から流出する冷媒蒸気が冷却部30へ逆流するのを防止する。逆止弁79は、冷媒蒸気が蓄ガス器70から排出され冷媒通路36へ流れるとき、冷媒蒸気が冷却部30側へ流れることなく、冷却部30に対し下流側の冷媒通路36と連通路51との分岐点へ向かって確実に冷媒蒸気が流れるように、設けられている。逆止弁79は、冷却部30から蓄ガス器70へ向かう気相冷媒の流れを許容するとともに、蓄ガス器70から流出する気相冷媒の冷却部30へ向かう流れを禁止する。
【0075】
図3は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中の、HV機器31を冷却する冷媒の流れを示す模式図である。
図3には、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を運転させる場合、すなわち圧縮機12を運転させて蒸気圧縮式冷凍サイクル10の全体に冷媒を流通させる場合の、冷媒の流れが示される。
【0076】
図3に示すように、圧縮機12を駆動させ蒸気圧縮式冷凍サイクル10が運転している「エアコン運転モード」のときには、流量調整弁28は、冷却部30に十分な冷媒が流れるように、弁開度を調整される。切換弁52は、冷媒を冷却部30から熱交換器15を経由して膨張弁16へ流通させるように操作される。すなわち、弁57を全開にし弁58を全閉にすることで、冷媒が冷却装置1の全体を流れるように冷媒の経路が選択される。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷却能力を確保できるとともに、HV機器31を効率よく冷却することができる。
【0077】
図4は、
図3に示す蓄ガス器70の詳細を示す拡大図である。蓄ガス器70と冷媒通路36とは、接続部71を介して接続されている。冷媒通路36から接続部71を経由して蓄ガス器70の内部へ気相冷媒が流入可能であり、また蓄ガス器70から接続部71を経由して冷媒通路36へ気相冷媒が流出可能である。
【0078】
蓄ガス器70は中空に形成され、蓄ガス器70の内部には可動仕切部72が配置されている。可動仕切部72は、冷媒通路36から可動仕切部72までの距離を変更するように、冷媒通路36へ近づきまたは冷媒通路36から離れる方向に、自在に移動可能である。可動仕切部72によって、蓄ガス器70の内部空間は、冷媒蒸気を受け容れる蒸気収容部73と、気体が封入されたガス封入部74と、に分けられている。蒸気収容部73は、接続部71を介して、冷媒通路36と連通する。ガス封入部74は、その内部に注入された窒素などの圧縮性気体の漏洩を防ぐように、密封されている。
【0079】
蒸気収容部73を密封するために、蒸気収容部73に面する側の可動仕切部72の表面の周縁部には、封止材78が配置されている。封止材78は、たとえばゴム材料製のOリング形状に形成されており、蒸気収容部73とガス封入部74とが連通するのを防止する。封止材78は、可動仕切部72と蓄ガス器70の筐体との隙間を通って気相冷媒が蒸気収容部73からガス封入部74へ漏洩することを防止し、かつ、可動仕切部72と蓄ガス器70の筐体との隙間を通ってガス封入部74内の気体が蒸気収容部73へ混入することを防止している。
【0080】
可動仕切部72が冷媒通路36から離れる方向に移動することにより、蒸気収容部73の容積が相対的に増大し、ガス封入部74の容積が相対的に減少する。このとき、蒸気収容部73内に溜められる冷媒蒸気の量が増大しており、ガス封入部74内の気体が圧縮されてガス封入部74の内圧が増加している。
【0081】
可動仕切部72が冷媒通路36へ近づく方向に移動することにより、蒸気収容部73の容積が相対的に減少し、ガス封入部74の容積が相対的に増大する。このとき、蒸気収容部73内に溜められる冷媒蒸気の量が減少しており、ガス封入部74内の気体が膨張してガス封入部74の内圧が減少している。
【0082】
図3に示す「エアコン運転モード」のときには、圧縮機12が運転しているので、冷媒通路36には、高圧の飽和蒸気状態の冷媒が流れる。そのため冷媒は、冷媒通路36を
図4に示す矢印方向に流れる。このとき、一部の冷媒は冷却部30から冷媒通路36を経由して熱交換器15へ流れ、一部の冷媒は冷媒通路36から蓄ガス器70の蒸気収容部73へ流入して蒸気収容部73に貯留される。
【0083】
圧縮機12で冷媒の圧力を上昇させ、冷媒通路36と蓄ガス器70の内部との間に圧力差を形成することで、冷媒液を蓄ガス器70に充填することができる。そのため、冷媒蒸気を蓄ガス器70へ流入させるための追加の動力は不要である。高圧の冷媒蒸気が蒸気収容部73へ流入することにより、冷媒蒸気によって可動仕切部72に圧力が加えられ、可動仕切部72は
図4の点線矢印に示すように冷媒通路36から離れる側へ移動する。これにより、より多くの冷媒蒸気を蓄ガス器70に溜め込むことができる。
【0084】
図5は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の停止中の、HV機器31を冷却する冷媒の流れを示す模式図である。
図5には、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を停止させる場合、すなわち、圧縮機12を停止させ、冷却部30と熱交換器14とを結ぶ環状の経路を経由させて冷媒を循環させる場合の、冷媒の流れが示される。
【0085】
図5に示すように、圧縮機12を停止させ蒸気圧縮式冷凍サイクル10が停止している「ヒートパイプ運転モード」のときには、冷媒を冷却部30から熱交換器14へ循環させるように切換弁52を操作する。すなわち、弁57を全閉にし弁58を全開にし、さらに流量調整弁28を全閉にすることで、冷媒は冷媒通路36bへは流れず連通路51を経由して流通する。このように切換弁52の開閉を設定することにより、熱交換器14から、冷媒通路22と冷媒通路34とを順に経由して冷却部30へ至り、さらに冷媒通路36a、連通路51、冷媒通路21を順に経由して熱交換器14へ戻る、閉じられた環状の経路が形成される。
【0086】
この環状の経路を経由して、圧縮機12を動作することなく、熱交換器14と冷却部30との間に冷媒を循環させることができる。冷媒は、HV機器31を冷却するとき、HV機器31から蒸発潜熱を受けて蒸発する。HV機器31との熱交換により気化された冷媒蒸気は、冷媒通路36a、連通路51および冷媒通路21を順に経由して、熱交換器14へ流れる。熱交換器14において、車両の走行風またはエンジン冷却用のラジエータファンからの通風により、冷媒蒸気は冷却されて凝縮する。熱交換器14で液化した冷媒液は、冷媒通路22,34を経由して、冷却部30へ戻る。
【0087】
このように、冷却部30と熱交換器14とを経由する環状の経路によって、HV機器31を加熱部とし熱交換器14を冷却部とする、ヒートパイプが形成される。したがって、蒸気圧縮式冷凍サイクル10が停止しているとき、すなわち車両用の冷房が停止しているときにも、圧縮機12を起動する必要なく、HV機器31を確実に冷却することができる。HV機器31の冷却のために圧縮機12を常時運転する必要がないことにより、圧縮機12の消費動力を低減して車両の燃費を向上することができ、加えて、圧縮機12を長寿命化できるので圧縮機12の信頼性を向上することができる。
【0088】
図3および
図5には、地面60が図示されている。地面60に対して垂直な鉛直方向において、冷却部30は、熱交換器14よりも下方に配置されている。熱交換器14と冷却部30との間に冷媒を循環させる環状の経路において、冷却部30が下方に配置され、熱交換器14が上方に配置される。熱交換器14は、冷却部30よりも高い位置に配置される。
【0089】
この場合、冷却部30で加熱され気化した冷媒蒸気は、環状の経路内を上昇して熱交換器14へ到達し、熱交換器14において冷却され、凝縮されて液冷媒となり、重力の作用により環状の経路内を下降して冷却部30へ戻る。つまり、冷却部30と、熱交換器14と、これらを連結する冷媒の経路とによって、サーモサイフォン式のヒートパイプが形成される。ヒートパイプを形成することでHV機器31から熱交換器14への熱伝達効率を向上することができるので、蒸気圧縮式冷凍サイクル10が停止しているときにも、動力を加えることなく、HV機器31をより効率よく冷却することができる。
【0090】
連通路51と冷媒通路21,36との連通状態を切り換える切換弁52としては、上述した一対の弁57,58を使用してもよく、または、冷媒通路36と連通路51との分岐に配置された三方弁を使用してもよい。いずれの場合でも、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転時および停止時の両方において、HV機器31を効率よく冷却することができる。弁57,58は、冷媒通路の開閉ができる単純な構造であればよいので安価であり、二つの弁57,58を使用することにより、より低コストな冷却装置1を提供することができる。一方、二つの弁57,58を配置するよりも三方弁の配置に要する空間はより小さくてよいと考えられ、三方弁を使用することにより、より小型化され車両搭載性に優れた冷却装置1を提供することができる。
【0091】
冷却装置1はさらに、逆止弁54を備える。逆止弁54は、圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒通路21の、冷媒通路21と連通路51との接続箇所よりも圧縮機12に近接する側に、配置されている。逆止弁54は、圧縮機12から熱交換器14へ向かう冷媒の流れを許容するとともに、その逆向きの冷媒の流れを禁止する。このようにすれば、
図5に示すヒートパイプ運転モードのとき、熱交換器14と冷却部30との間に冷媒を循環させる閉ループ状の冷媒の経路を、確実に形成することができる。
【0092】
逆止弁54がない場合、冷媒が連通路51から圧縮機12側の冷媒通路21へ流れる虞がある。逆止弁54を備えることによって、連通路51から圧縮機12側へ向かう冷媒の流れを確実に禁止できるので、環状の冷媒経路で形成するヒートパイプを使用した、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の停止時のHV機器31の冷却能力の低下を防止できる。したがって、車両の車室用の冷房が停止しているときにも、HV機器31を効率よく冷却することができる。
【0093】
また、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の停止中に、閉ループ状の冷媒の経路内の冷媒の量が不足する場合には、圧縮機12を短時間のみ運転することで、逆止弁54を経由して閉ループ経路に冷媒を供給できる。これにより、閉ループ内の冷媒量を増加させ、ヒートパイプの熱交換処理量を増大させることができる。したがって、ヒートパイプの冷媒量を確保することができるので、冷媒量の不足のためにHV機器31の冷却が不十分となることを回避することができる。
【0094】
図6は、
図5に示す蓄ガス器70の詳細を示す拡大図である。「ヒートパイプ運転モード」のときには、圧縮機12が停止している。サーモサイフォン式のヒートパイプを形成する閉ループ状の冷媒の経路内で冷媒を移動させる駆動力は、液状の冷媒に作用する重力、および、ガス状の冷媒に作用する浮力のみとなる。「エアコン運転モード」のときと比較して、「ヒートパイプ運転モード」のときには、冷媒に作用する駆動力が相対的に小さくなる。そのため、「ヒートパイプ運転モード」のとき、冷媒の駆動力が不足し、閉ループ状の冷媒の経路内に冷媒を流通させるために必要な駆動力が確保できないことが懸念される。
【0095】
特に、「エアコン運転モード」から「ヒートパイプ運転モード」への切替のために圧縮機12を停止させた直後、冷媒が循環を開始しHV機器31の冷却が再開されるまでにタイムラグが発生し、HV機器31の冷却性能が低下する問題がある。これは、閉ループ内の気化されたガス冷媒の流量が少ないと、ガス冷媒に作用する浮力が小さく、そのため、ガス状の冷媒がある程度の量に達するまで、初動に必要な冷媒の駆動力が確保できず、閉ループ内での冷媒の循環が行なわれないことが原因と考えられる。
【0096】
本実施の形態の冷却装置1では、冷却部30の下流側に蓄ガス器70が配置され、圧縮機12の運転中に蓄ガス器70内に冷媒蒸気が溜められる。「ヒートパイプ運転モード」への切替が行なわれるとき、圧縮機12が停止するので、冷媒通路36を流れる冷媒の圧力が相対的に低下する。蓄ガス器70に貯留された気相冷媒の圧力よりも冷媒通路36を流れる冷媒の圧力の方が小さくなると、冷媒は、
図6に示す矢印方向に、蓄ガス器70の蒸気収容部73から流出して冷媒通路36へ流れる。蓄ガス器70から冷媒液が流出し、蒸気収容部73内に貯留された冷媒蒸気の量が減少することにより、冷媒蒸気から可動仕切部72に作用する圧力が低下する。これにより、可動仕切部72は
図6の点線矢印に示すように冷媒通路36へ近づく側へ移動する。
【0097】
圧縮機12を停止させ、発熱源であるHV機器31を冷却するための冷媒の駆動力が低下するときに、冷媒蒸気を蓄ガス器70から放出して冷媒通路36へ流通させることで、閉ループ状の経路を流通する気相冷媒の流量の低下を抑制する。このようにして冷媒蒸気を補充することにより、閉ループ状の冷媒の経路内を流れる気相冷媒の流量を確保でき、冷媒の駆動力としての気相冷媒に作用する浮力を十分に確保することができる。そのため、「ヒートパイプ運転モード」の始動時のHV機器31の冷却能力の低下を抑制し、HV機器31の冷却性能を確保して、HV機器31を安定して冷却することができる。したがって、HV機器31の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0098】
このとき、逆止弁79が設けられることにより、蓄ガス器70から冷媒通路36へ圧送された冷媒が冷却部30側へ逆流することを防止できる。したがって、蓄ガス器70から気相冷媒を、閉ループ状の経路内の、連通路51を経由して熱交換器14へ向かう冷媒の流通方向に、確実に送り出すことができる。
【0099】
車両の車室内の空調用のエアコンが停止中に、HV機器31の冷却は「ヒートパイプ運転モード」で行なわれることになる。車両の運転開始時に、蓄ガス器70内に気相冷媒が溜められていない状態で、エアコンを作動させなければ、「ヒートパイプ運転モード」での冷媒の循環のための駆動力が不十分になる場合がある。そこで、エアコンを作動しておらず当初から「ヒートパイプ運転モード」でのHV機器31の冷却が必要な場合には、始動時に短時間だけ圧縮機12を運転する。この圧縮機12の運転により、閉ループ内へ冷媒を送り込み、蓄ガス器70内に気相冷媒を溜め込むことができるので、上述した通り冷媒の駆動力を確保でき、HV機器31の冷却性能を確保して、HV機器31を安定して冷却することができる。
【0100】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2の蓄ガス器70の詳細を示す模式図である。実施の形態1では、ガス封入部74内に充填された圧縮性気体が可動仕切部72に及ぼす圧力によって、可動仕切部72を冷媒通路36へ近づく方向に移動させたが、ガス封入部74に圧縮性気体を封入する代わりに、
図7に示すように付勢部材84を設けてもよい。付勢部材84は、冷媒通路36に向く側と反対側の可動仕切部72の表面に当接する一端と、蓄ガス器70の冷媒通路36から離れる側の内壁に当接する他端と、を有する。付勢部材84は、
図7に示すコイルばねなどの任意のばね形状を有してもよく、またはゴムなどの弾性材料を付勢部材84として蓄ガス器70の内部に配置してもよい。
【0101】
付勢部材84が可動仕切部72に作用する弾性力によって、可動仕切部72は、冷媒通路36から可動仕切部72までの距離を変更するように、冷媒通路36へ近づきまたは冷媒通路36から離れる方向に、自在に移動可能である。そのため、実施の形態1と同様に、「ヒートパイプ運転モード」への切替時に気相冷媒を蓄ガス器70から冷媒通路36へ供給して、閉ループ状の冷媒の経路内を流れる冷媒の流量を確保できる。したがって、HV機器31の冷却性能を確保して、HV機器31を安定して冷却することができる。
【0102】
(実施の形態3)
図8および
図9は、実施の形態3の蓄ガス器への気相冷媒の流出入を示す模式図である。実施の形態3の冷却装置1では、蓄ガス器70内に配置された可動仕切部75を強制的に駆動するための駆動部77が設けられている点で、実施の形態1と異なっている。実施の形態3の冷却装置1は、駆動部77を備えることにより、冷媒通路36から蓄ガス器70の内部へ冷媒蒸気を積極的に移動させることができ、または、蓄ガス器70の内部から冷媒通路36へ冷媒蒸気を積極的に移動させることができる。
【0103】
図8および
図9に示すように、可動仕切部75は、蒸気収容部73の容積を増減させる。可動仕切部75に対して冷媒通路36から離れる側に、可動仕切部75を駆動するための駆動力を発生する駆動部77が配置されている。なお、実施の形態1の蓄ガス器70では、ガス封入部74に充填された気体の内圧により可動仕切部72を移動させるためにガス封入部74は密閉空間とされたが、実施の形態3では、可動仕切部75は駆動部77により動かされるので、密閉空間のガス封入部を設けなくてもよい。
【0104】
動力伝達軸76は、可動仕切部75から駆動部77へ延在する。動力伝達軸76の一端は可動仕切部75に固定され、動力伝達軸76の他端は駆動部77内に配置される。動力伝達軸76は、その他端側において駆動部77から駆動力を受け、冷媒通路36に近づくまたは冷媒通路36から離れるように可動仕切部75を移動させる。駆動部77はたとえば、電気エネルギーにより動力伝達軸76を移動させることにより、動力伝達軸76を介して可動仕切部75を電気的に駆動してもよい。可動仕切部75、動力伝達軸76および駆動部77は、プランジャポンプを構成してもよい。
【0105】
たとえば、「エアコン運転モード」から「ヒートパイプ運転モード」への切替を感知することで、冷媒通路36への冷媒蒸気の供給が必要であると判断する。このとき駆動部77によって可動仕切部75を冷媒通路36に近づく方向に移動させ、蓄ガス器70の蒸気収容部73から気相冷媒を冷媒通路36へ圧送して、閉ループ状の冷媒の経路へ冷媒蒸気を供給する。駆動部77は、可動仕切部75を移動させることにより蒸気収容部73の容積を小さくして蓄ガス器70から冷媒蒸気を強制的に排出する、排出部として機能する。
【0106】
このようにすれば、「ヒートパイプ運転モード」への切替時に、蓄ガス器70から気相冷媒を強制排出してヒートパイプを形成する冷媒の経路に気相冷媒を供給できるので、冷媒の駆動力が不足するのを抑制でき、HV機器31の冷却能力が減少してHV機器31が過熱する不具合を抑制することができる。
【0107】
なお、これまでの実施の形態においては、HV機器31を例として車両に搭載された電気機器を冷却する冷却装置1について説明した。電気機器としては、少なくとも作動によって熱を発生させる電気機器であれば、インバータ、モータジェネレータなどの例示された電気機器に限定されるものではなく、任意の電気機器であってもよい。冷却の対象となる電気機器が複数個ある場合においては、複数の電気機器は、冷却の目標となる温度範囲が共通していることが望ましい。冷却の目標となる温度範囲は、電気機器を作動させる温度環境として適切な温度範囲である。
【0108】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。