(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
各図面において、主軸10の回転軸Oの長手方向をZ方向とする。
図2の上下方向をY方向、
図2の左右方向をX方向とする。
また、各図面において、冷却油LとオイルエアMが流れる流路を理解しやくするため、これらの流路にハッチングを施している。
【0012】
主軸装置1は、主に、主軸10と、主軸10を回転自在に支持する前側軸受30,32と、前側軸受30,32を外周側から覆うように固定する前側ハウジング40と、主軸10を回転自在に支持する後側軸受50,52と、後側軸受50,52を外周側から間接的に覆うように固定する後側ハウジング56と、を備えている。
また、前側ハウジング40と後側ハウジング56の間に外筒28を備えている。さらに前側ハウジング40と後側ハウジング56のそれぞれの外側に前蓋14と後蓋70を備えている。
そして、前蓋14、前側ハウジング40、外筒28、後側ハウジング56、後蓋70が主軸10の中心軸O(Z方向に)に沿って積み重なるように密着して連結される。
【0013】
主軸10は、工具側(+Z方向)を支持する2列の前側軸受30,32と、反工具側(−Z方向)を支持する2列の後側軸受50,52とによって、前側ハウジング40及び後側ハウジング56に対して、回転自在に支持される。主軸10の先端部には、切削工具が接続される工具ホルダ12が形成される。
【0014】
外筒28は、円筒形の部材であり、その内部には、ロータ20とステータ22が配置される。
ロータ20は、主軸10の外周面に外嵌される。ステータ22は、ロータ20の外周側に配置される。ロータ20とステータ22はモータを構成し、ステータ22に電力が供給されると、ロータ20に回転力を発生させて、主軸10を回転させる。
【0015】
前側軸受(第一軸受)30と前側軸受(第二軸受)32は、例えばアンギュラ玉軸受であり、それぞれ、外輪と内輪と転動体と転動体をほぼ等間隔で保持する保持器と、を有する。前側軸受30,32の内輪は主軸10に固定され、前側軸受30,32の外輪は前側ハウジング40に固定される。
【0016】
前側ハウジング(ハウジング)40は、中心が中空部分になっている円筒状部材であり、前側軸受30,32を外周側から覆うように固定している。
【0017】
後側軸受50,52は、例えばアンギュラ玉軸受であり、それぞれ、外輪と、内輪と、接触角をもって配置される転動体である玉と、玉をほぼ等間隔で保持する外輪案内の保持器と、を有する。後側軸受50,52の外周部は軸箱受54に固定され、後側軸受50,52の内周部は主軸10に接している。
【0018】
主軸装置1の前側ハウジング40には、前側軸受30,32を冷却油Lにより間接的に冷却する軸受冷却構造100が設けられる。
また、主軸装置1の前側ハウジング40には、前側軸受30,32にオイルエアMを供給して焼き付きや高い温度上昇を防止する軸受潤滑構造130が設けられる。
【0019】
まず、軸受冷却構造100について説明する。
軸受冷却構造100は、前側軸受30,32をそれぞれ外周側から冷却するための第一円環溝114,第二円環溝118と、第一円環溝114と第二円環溝118を連結する連結通路116と、第一円環溝114に冷却油を供給する冷却油通路110,112と、第二円環溝118から冷却油Lを排出する冷却油通路120,122と、から構成される。
これらの流路(軸受冷却構造100)は、冷却油Lの流れの上流から下流に向けて、冷却油通路122,120、第二円環溝118、連結通路116、第一円環溝114、冷却油通路110,112の順に、繋がっている。
【0020】
なお、
図3に示すように、外筒28、後側ハウジング56及び後蓋70には、冷却油通路110に冷却油Lを供給する冷却油通路106が形成される。
また、
図4に示すように、外筒28、後側ハウジング56及び後蓋70には、冷却油通路122からの冷却油Lを排出する冷却油通路124が形成される。
【0021】
第一円環溝(第一環状通路)114は、
図1、
図3〜
図9に示すように、前側軸受32の外周側に、前側軸受32から所定の距離を隔てて形成された円環形の溝である。
第一円環溝114は、前側ハウジング40の−Z方向の端面からエンドミルなどにより掘り込んで加工される。第一円環溝114の+Z方向の深さは、前側軸受32の+Z方向の側面とほぼ同じ位置まで形成される。
第一円環溝114の開口(前側ハウジング40の−Z方向の端面)は、一対のOリング(環状リング)が配置され、さらにドーナツ状に形成された金属蓋42で塞がれる。
【0022】
第二円環溝(第二環状通路)118は、
図1、
図3〜
図9に示すように、前側軸受30の外周側に、前側軸受30から所定の距離を隔てて形成された円環形の溝である。
第二円環溝118は、前側ハウジング40の+Z方向の端面からエンドミルなどにより掘り込んで加工される。第二円環溝118の−Z方向の深さは、前側軸受30の−Z方向の側面とほぼ同じ位置まで形成される。
第二円環溝118の開口(前側ハウジング40の+Z方向の端面)は、一対のOリング(環状リング)が配置され、さらにドーナツ状に形成された前蓋14で塞がれる。
【0023】
連結通路116は、
図1、
図8〜
図14に示すように、第一円環溝114の底面から第二円環溝118の底面に繋がる貫通孔であり、前側ハウジング40をZ方向に貫いている。連結通路116は、その中心軸がO−Y´線上に位置するように、ドリルにより形成される。
【0024】
冷却油通路(冷却油供給通路)110は、
図3、
図8、
図9に示すように、前側ハウジング40に形成された第一円環溝114よりも外周側に、Z方向に沿って形成される。
冷却油通路110は、前側ハウジング40の−Z方向の端面からドリルにより加工される。冷却油通路110の+Z方向の深さは、第一円環溝114の深さとほぼ同一である。
冷却油通路110の開口は、前側ハウジング40の−Z方向の端面に密着する外筒28の冷却油通路106の開口に繋がる。
【0025】
冷却油通路(冷却油供給通路)112は、
図3、
図9に示すように、冷却油通路110と第一円環溝114を連結するための穴部である。冷却油通路112は、前側ハウジング40の外周面からドリルにより+X方向に沿って加工される。
冷却油通路112の+X方向の深さは、第一円環溝114に到達する深さである。冷却油通路112の開口は、止め栓111により埋められる。
【0026】
冷却油通路(冷却油排出通路)122は、
図4、
図8〜
図13に示すように、前側ハウジング40に形成された第二円環溝118よりも外周側に、Z方向に沿って形成される。
冷却油通路122は、前側ハウジング40の−Z方向の端面からドリルにより加工される。冷却油通路122の+Z方向の深さは、第二円環溝118の底面の位置とほぼ同一となる深さである。
冷却油通路122の開口は、前側ハウジング40の−Z方向の端面に密着する外筒28の冷却油通路124の開口に繋がる。
【0027】
冷却油通路(冷却油排出通路)120は、
図4、
図13に示すように、冷却油通路122と第二円環溝118を連結するための穴部である。冷却油通路120は、前側ハウジング40の外周面からドリルにより−X方向に沿って加工される。
冷却油通路120の−X方向の深さは、第二円環溝118に到達する深さである。冷却油通路120の開口は、止め栓121により埋められる。
【0028】
図6、
図8、
図9に示すように、第一円環溝114の一部には、円環形の通路を塞ぐ止め栓113が配置される。止め栓113は、第一円環溝114の一部に対して、前側ハウジング40の−Z方向の端面から+Z方向に向けて挿入される。なお、第一円環溝114の一部に、止め栓113を挿入するための穴がドリルにより形成される。
【0029】
止め栓(規制部)113は、第一円環溝114のうち、連結通路116が形成された部位と冷却油通路112が連結された部位の間の部位に配置される。
このため、連結通路116から第一円環溝114に流入した冷却油Lは、
図9において第一円環溝114の内部を反時計回りに流れる。そして、冷却油Lは、止め栓113により塞き止められるので、冷却油通路112から流出することになる。
【0030】
図7、
図13、
図14に示すように、第二円環溝118の一部には、円環形の通路を塞ぐ止め栓115が配置される。止め栓115は、第二円環溝118の一部に対して、前側ハウジング40の+Z方向の端面から−Z方向に向けて挿入される。なお、第二円環溝118の一部に、止め栓115を挿入するための穴がドリルにより形成される。
【0031】
止め栓(規制部)115は、第二円環溝118のうち、連結通路116が形成された部位と冷却油通路120が連結された部位の間の部位に配置される。
このため、冷却油通路120から第二円環溝118に流入した冷却油Lは、止め栓115により塞き止められるので、
図13において第二円環溝118の内部を反時計回りに流れる。冷却油Lは、連結通路116からから流出することになる。
【0032】
次に、軸受潤滑構造130について説明する。
軸受潤滑構造130は、前側軸受30に向けてオイルエアMを供給するための第一オイルエア通路134,136と、前側軸受32に向けてオイルエアMを供給するための第二オイルエア通路144,146と、オイルエアMを前側軸受30,32に向けて噴射する噴射口138,148と、から構成される。
これらの流路(軸受潤滑構造130)は、オイルエアMの流れの上流から下流に向けて、第一オイルエア通路134、第一オイルエア通路136、噴射口138の順、第二オイルエア通路144、第二オイルエア通路146、噴射口148の順に、それぞれ繋がっている。
噴射口138,148は、前側ハウジング40の中空部分において前側軸受30,32の外輪の間に配置された噴射口形成円筒140に形成される。
【0033】
なお、
図3に示すように、外筒28、後側ハウジング56及び後蓋70には、第一オイルエア通路134にオイルエアMを供給するオイルエア通路132が形成される。
また、
図4に示すように、外筒28、後側ハウジング56及び後蓋70には、第二オイルエア通路144にオイルエアMを供給するオイルエア通路142が形成される。
【0034】
第一オイルエア通路134は、
図3、
図8〜
図12に示すように、前側ハウジング40に形成された第一円環溝114よりも外周側に、Z方向に沿って形成される。
第一オイルエア通路134は、前側ハウジング40の−Z方向の端面からドリルにより加工される。第一オイルエア通路134の+Z方向の深さは、前側軸受30及び第二円環溝118の位置よりも手前側(−Z方向)となる深さである。
第一オイルエア通路134の開口は、前側ハウジング40の−Z方向の端面に密着する外筒28のオイルエア通路132の開口に繋がる。
【0035】
第一オイルエア通路136は、
図3、
図12に示すように、第一オイルエア通路134と前側ハウジング40の中空部分を連結するための穴部である。第一オイルエア通路136は、前側ハウジング40の外周面からドリルにより−X方向・−Y方向に向けて加工される。
第一オイルエア通路136の−X方向側(前側ハウジング40の中空部分側)は、噴射口形成円筒140に形成された噴射口138の開口に繋がる。噴射口138は、前側軸受30の内側面側(−Z方向)から、前側軸受30に向けてオイルエアMを噴き付け可能である。
第一オイルエア通路136の+X方向側(前側ハウジング40の外周面側)は、止め栓135により埋められる。
【0036】
第二オイルエア通路144は、
図4、
図8〜
図10に示すように、前側ハウジング40に形成された第一円環溝114よりも外周側に、Z方向に沿って形成される。
第二オイルエア通路144は、前側ハウジング40の−Z方向の端面からドリルにより加工される。第二オイルエア通路144の+Z方向の深さは、前側軸受32及び第一円環溝114の位置よりも奥側(+Z方向)となる深さである。
第二オイルエア通路144の開口は、前側ハウジング40の−Z方向の端面に密着する外筒28のオイルエア通路142の開口に繋がる。
【0037】
第二オイルエア通路146は、
図4、
図10に示すように、第二オイルエア通路144と前側ハウジング40の中空部分を連結するための穴部である。第二オイルエア通路146は、前側ハウジング40の外周面からドリルにより+X方向・−Y方向に向けて加工される。
第二オイルエア通路146の+X方向側(前側ハウジング40の中空部分側)は、噴射口形成円筒140に形成された噴射口148の開口に繋がる。噴射口148は、前側軸受32の内側面側(+Z方向)から、前側軸受32に向けてオイルエアMを噴き付け可能である。
第二オイルエア通路146の−X方向側(前側ハウジング40の外周面側)は、止め栓145により埋められる。
【0038】
図15は、軸受冷却構造100及び軸受潤滑構造130を立体的に示す模式図である。
軸受冷却構造100では、前側軸受30の外周側に形成された第二円環溝118に対して、冷却油通路124,122,120を経由して冷却油Lが供給される。第一円環溝118に供給された冷却油Lは、第二円環溝118をほぼ一周する。冷却油が第二円環溝118を流れることにより、前側軸受30が外周側から間接的に冷却される。
第二円環溝118をほぼ一周した冷却油Lは、連結通路116を経由して、前側軸受32の外周側に形成された第一円環溝114に流出(供給される)する。第一円環溝114に供給された冷却油は、第一円環溝114をほぼ一周する。冷却油Lが第二円環溝114を流れることにより、前側軸受32が外周側から間接的に冷却される。
そして、第一円環溝114をほぼ一周した冷却油Lは、冷却油通路112,110,106を経由して、外部へ排出される。
このように、主軸装置1は、主軸10を回転自在に支持する前側軸受30,32の外周側に、冷却油Lが循環する第一円環溝114,第二円環溝118をそれぞれ設けて、前側軸受30,32を冷却する。
【0039】
従来の主軸装置では、前側ハウジングにおける前側軸受の間の領域を全て冷却していた。
これに比べて、主軸装置1の軸受冷却構造100では、前側軸受30,32の外周側を集中的に冷却することができる。つまり、主軸装置1の軸受冷却構造100は、高温となるために冷却が必要な領域を的確に冷却することができる。
【0040】
従来の主軸装置では、前側ハウジングの内部をZ方向に沿って流れていた。
これに比べて、主軸装置1の軸受冷却構造100では、冷却油Lが第一円環溝114,第二円環溝118の内部をZ方向回りにほぼ一周して流れる。つまり、主軸装置1の軸受冷却構造100では、冷却油Lが前側軸受30,32の外周面に沿って流れるので、冷却油Lが前側軸受30,32からの熱を吸収する時間が長くなり、効率的な冷却が可能である。
【0041】
しかも、主軸装置1の軸受冷却構造100では、第一円環溝114,第二円環溝118は、前側ハウジング40の端面側から容易に加工可能である。このため、前側ハウジング40を、従来のような分割構造ではなく、一体構造にすることができ、主軸装置1の製造コスト等の低減が図られる。
【0042】
また、軸受潤滑構造130では、前側軸受30,32に対してオイルエアMを供給する第一オイルエア通路134と第二オイルエア通路144が、第一円環溝114の外周側をZ方向に向けて通り、一旦前側軸受30,32に向けて折り曲げられた後に、第一オイルエア通路136と第二オイルエア通路146が第一円環溝114,第二円環溝118の間を通って前側軸受30,32の近傍に連通している。
そして、前側軸受30に対して、第一オイルエア通路132,134,136を経由して噴射口138からオイルエアMが供給される。これにより、前側軸受32が潤滑及び冷却される。
また、前側軸受32に対して、第二オイルエア通路142,144,146を経由して噴射口148からオイルエアMが供給される。これにより、前側軸受30が潤滑及び冷却される。
【0043】
このように、主軸装置1の軸受潤滑構造130では、前側ハウジング40の内部に形成した第一円環溝114,第二円環溝118の間に十分な領域が確保されているので、第一オイルエア通路134,136と第二オイルエア通路144,146の経路を単純な形状にすることができる。つまり、主軸装置1の軸受潤滑構造130では、第一オイルエア通路134,136及び第二オイルエア通路144,146と、第一円環溝114,第二円環溝118との干渉を容易に回避できる。
【0044】
従来の主軸装置では、第一オイルエア通路と第二オイルエア通路が何度も折れ曲がる複雑な形状であった。
これに比べて、主軸装置1の軸受潤滑構造130では、第一オイルエア通路134,136と第二オイルエア通路144,146の経路が単純な形状であるため、加工時間やシール部材を大幅に削減することができ、製造コスト等の低減が図られる。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において設計変更されたものにも適用可能である。
【0046】
本実施形態の主軸装置1では、軸受冷却構造100及び軸受潤滑構造130を前側ハウジング40に形成した例を挙げたが、これに限らない。例えば、軸受冷却構造100及び軸受潤滑構造130を後側ハウジング56に形成してもよいし、前側ハウジング40及び後側ハウジング56の両方に形成してもよい。
【0047】
主軸装置1では、軸受冷却構造100及び軸受潤滑構造130を同時に備える場合について説明したが、これに限らない。主軸装置1が軸受冷却構造100のみを備える場合であってもよい。
【0048】
主軸装置1では、第一円環溝114,第二円環溝118の一部に止め栓113,115を設ける場合について説明したが、これに限らない。止め栓113、115を設けない場合であってもよい。例えば、第一円環溝114,第二円環溝118を馬蹄形に形成してもよい。
【0049】
連結通路116の形成位置は、中心軸がO−Y´線上に位置する場合に限らず、任意に設けてもよい。連結通路116を複数箇所に設けてもよい。連結通路116を設けずに、第一円環溝114,第二円環溝118のそれぞれに、冷却油供給通路と冷却油排出通路を連結してもよい。
【0050】
第一円環溝114が下流側、第二円環溝118が上流側となる場合について説明したが、これに限らない。第一円環溝114が上流側、第二円環溝118が下流側となる場合であってもよい。
【0051】
第一軸受(前側軸受30)と第二軸受(前側軸受32)がともに一つの軸受の場合について説明したが、これに限らない。第一軸受と第二軸受の一方又は両方が複数の軸受であってもよい。
【0052】
本実施形態の主軸装置1では、第一円環溝114と第二円環溝118の間に2つのオイルエア通路(第一オイルエア通路134,136、第二オイルエア通路144,146)を設ける場合について説明したが、これに限らない。
例えば、第一円環溝114,第二円環溝118の間に一つのオイルエア通路を設け、このオイルエア通路に複数の噴射口を形成した部材を連結するようにしてもよい。例えば、第一円環溝114,第二円環溝118の間に三つ以上のオイルエア通路を設けてもよい。