(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸孔を有する絶縁碍子と、自身の先端が前記絶縁碍子の先端面から突出する状態で前記軸孔に保持される中心電極と、前記絶縁碍子の先端を突出させた状態で前記絶縁碍子を保持する主体金具と、一端が前記主体金具に固定されるとともに他端が前記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と、を備えるスパークプラグの製造方法であって、
前記主体金具は、下記の工程により得られた主体金具であることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
(a)主体金具の基材を準備する工程
(b)前記基材と電極とを互いに離間した状態でアルカリ性溶液に浸漬させて通電させる電解洗浄として、第1のアルカリ性溶液槽において、前記基材を陽極側として予め設定された時間だけ通電する陽極電解洗浄を実行した後に、第2のアルカリ性溶液槽において、前記陽極電解洗浄の通電時間より短い周期で陰極と陽極とを周期的に切り替えつつ前記基材に通電するPR電解洗浄を実行する工程
(c)電解洗浄された前記基材の外表面にニッケルめっき層を形成する工程。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、スパークプラグの構造の一例を示す要部断面図である。このスパークプラグ100は、筒状の主体金具1と、先端部が突出するようにその主体金具1内に嵌め込まれた筒状の絶縁体2と、先端部を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3とを備えている。主体金具1には、接地電極4が接合されている。接地電極4は、一端が主体金具1に結合されるとともに、他端が中心電極3の先端と対向するように配置され、中心電極3との間に火花放電ギャップgを形成する。
【0014】
絶縁体2は、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウム等のセラミック焼結体により構成され、その内部には絶縁体2の軸方向に沿って中心電極3や端子金具13を嵌め込むための貫通孔6が形成されている。中心電極3は、貫通孔6の先端側(紙面下側)に挿入・固定され、端子金具13は、貫通孔6の後端側(
図1の紙面上側)に挿入・固定される。また、貫通孔6内において、端子金具13と中心電極3との間には、抵抗体15が配置される。この抵抗体15の両端部は、導電性ガラスシール層16,17を介して中心電極3と端子金具13とにそれぞれ電気的に接続される。
【0015】
主体金具1は、炭素鋼等の金属により中空円筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成する。主体金具1の先端側(
図1の紙面下側)の外周面には、スパークプラグ100を内燃機関の燃焼室(図示せず)に取り付けるためのねじ部7が形成されている。ねじ部7には、燃焼室に設けられたスパークプラグを取り付けるためのねじ孔に螺合するねじ溝が切られている。なお、ねじ部7の後端側(紙面上側)には、六角部1eが設けられている。六角部1eは、主体金具1を燃焼室に取り付ける際に、スパナやレンチ等の工具を係合させる工具係合部であり、六角状の横断面形状を有している。
【0016】
主体金具1の後端側の開口部の内壁面と、絶縁体2の外壁面との間には、タルク等の粉体が充填された充填層61が形成されている。充填層61は、絶縁体2のフランジ状の突出部2eと、主体金具1の開口部端部が内側に加締められた加締め部1dとの間に形成されている。充填層61の突出部2e側と加締め部1d側のそれぞれの端部には、リング状の線パッキン62,60が配置されている。なお、充填層61および加締め部1dの形成工程については後述する。
【0017】
主体金具1の六角部1eとねじ部7との間には、フランジ状のガスシール部1fが設けられ、ガスシール部1fのねじ部7側には、ガスケット30がはめ込まれている。このガスケット30は、炭素鋼等の金属板素材を曲げ加工したリング状の部品であり、ねじ部7をシリンダヘッド側のねじ孔にねじ込むことにより、ガスシール部1fとねじ孔の開口周縁部との間で、軸線方向に圧縮されてつぶれるように変形し、ねじ孔とねじ部7との間の隙間をシールする役割を果たす。なお、ガスシール部1fと六角部1eとの間には、溝部1hが形成されている。溝部1hは、厚みが主体金具1の中で最も薄く形成されており、外側にわずかに湾曲している。以後、本明細書では、溝部1hを「薄肉部1h」とも呼ぶ。
【0018】
図2(A)〜(D)は、主体金具の製造工程の一例を工程順に示す説明図である。
図2(A)の工程では、接地電極4が接合された主体金具1の基材1aが準備される。基材1aは、加締め部1dとなるべき加締め予定部1daが、後端側に延びる壁部として形成されている点と、薄肉部1hが湾曲しておらず、接地電極4も屈曲していない直棒状の形状のままである点以外は、
図1で説明した主体金具1とほぼ同じである。なお、基材1aの表面は、防食のためのめっき処理がすでに施された状態である。
【0019】
次に、
図2(B)の工程では、基材1aの貫通孔に絶縁体2を、基材1aの後端側の挿入開口部1pから挿入し、絶縁体2と基材1aのそれぞれに設けられた係合部2h,1cを、板パッキン63を介して互いに係合させる。なお、絶縁体2には、中心電極3及び導電性ガラスシール層16,17、抵抗体15及び端子金具13が予め組みつけられている。
【0020】
図2(C)の工程では、基材1aの挿入開口部1pから線パッキン62を配置し、その後、タルク等の充填層61を形成して、さらに、線パッキン60を挿入開口部1p側に配置する。そして、加締め金型111により、加締め予定部1daを線パッキン62、充填層61及び線パッキン60を介して、突出部2eの端面2nを加締め受部として加締める。これにより、
図2(D)に示すように加締め予定部1daが変形して加締め部1dが形成され、基材1aが絶縁体2に加締め固定される。なお、薄肉部1hは、この加締め時における圧縮応力によって湾曲する。加締め工程の後、接地電極4を中心電極3側に曲げ加工して屈曲部Rを形成することにより、火花放電ギャップgが形成され、
図1のスパークプラグ100が完成する。
【0021】
このように、主体金具1の加締め部1dや接地電極4の屈曲部、薄肉部1hは、表面にめっき処理が施された後の工程で変形される。従って、加締め部1dや接地電極4の屈曲部R、薄肉部1hには、残留応力が生じており、めっき層の剥離が生じやすい。特に、めっき層の剥離は、接地電極4の屈曲部Rにおいて生じやすい。そこで、本実施形態では、以下に説明するめっき処理の工程により、めっき層の剥離を抑制する。
【0022】
図3は、本実施形態における主体金具のめっき処理の手順を示すフローチャートである。このめっき処理は、
図2で説明した工程の前に、主体金具1の基材1aに対して行われる。ステップS100では、電解脱脂処理(電解洗浄処理)が行われる。この電解脱脂処理は、炭素鋼で形成された主体金具1の基材1aの表面に付着した油脂分を洗浄することにより、後に基材1aの表面に形成されるめっき層と下地金属との密着性を向上させるために行われるものである。
【0023】
図4(A)〜(C)はそれぞれ、異なる種類の電解脱脂処理を実行する電解処理装置の構成を示す概略図である。一般に、電解脱脂処理としては、陽極電解脱脂処理、PR電解脱脂処理、陰極電解脱脂処理の3種類が知られている。本実施形態における電解脱脂処理工程では、このうちの陽極電解脱脂処理と、PR電解脱脂処理とを実行する。
図4(A)は、陽極電解脱脂処理を行うための電解処理装置200の構成を示す概略図である。この電解処理装置200は、電解浴槽201と、2つの電極202a,202bと、基材容器203と、整流器204とを備える。電解浴槽201には、アルカリ性溶液が貯められており、そのアルカリ溶液中に2つの電極202a,202bと、基材容器203とが配置されている。
【0024】
基材容器203は、複数の基材1aを保持するための容器であり、一般にバレルとも呼ばれる。ここで、基材1aは、めっき処理が施されていない点以外は、
図2(A)で説明したものと同様のものである。電解脱脂処理の際には、複数の基材1aは、基材容器203の内部にバラ積みされる。基材容器203の容器壁は、アルカリ性溶液が容器内部に透過するように多孔質に構成されている。これによって、複数の基材1aは、基材容器203内においてアルカリ性溶液に浸漬される。また、基材容器203は、アルカリ性溶液中において、中心部203cを中心として回転可能に配置されており、電解脱脂処理実行中には、駆動モータ(図示せず)によって、ほぼ一定の周期で回転する。これによって、基材容器203にバラ積みされた複数の基材1aは、電解脱脂処理実行中に、アルカリ性溶液中で攪拌される。
【0025】
2つの電極202a,202bは、鉄やステンレス(登録商標)、カーボンによって構成された導電性の板状部材である。2つの電極202a,202bは、アルカリ性溶液中において、基材容器203を挟むように配置されている。なお、2つの電極202a,202bは、基材容器203から互いにほぼ等距離の位置に配置されることが好ましい。整流器204は、直流電源として機能し、直流電源ラインDCLを介して、2つの電極202a,202bおよび基材容器203の中心部203cと電気的に接続されている。より具体的には、整流器204の陰極は、2つの電極202a,202bのそれぞれと並列に接続されており、整流器204の陽極は、基材容器203の中心部203cと接続されている。即ち、この陰極電解脱脂処理では、基材1a側を陰極として通電することにより、電解洗浄が行われる。なお、陽極電解脱脂処理の具体的な好ましい処理条件の例は、下記の通りである。
【0026】
<陽極電解脱脂処理の処理条件の例>
・アルカリ性溶液: 水酸化ナトリウム溶液(NaOH溶液)
濃度2〜6%程度
pH7以上、15以下
・処理温度(溶液温度): 40〜65℃
・印加電流密度: 0.1〜0.6A/dm
2
・処理時間: 5〜15分
【0027】
なお、アルカリ性溶液としては、上記の水酸化ナトリウム溶液以外の溶液が用いられるものとしても良い。また、電解処理装置200の2つの電極202a,202bのうち少なくとも一方は省略されるものとしても良い。
【0028】
図4(B)は、PR電解脱脂処理を実行する電解処理装置220の構成を示す概略図である。
図4(B)は、直流電源ラインDCLに2つの切替スイッチ221a,221bが設けられている点と、スイッチ駆動部223が追加されている点以外は、
図4(A)とほぼ同じである。第1の切替スイッチ221aは、整流器204の陰極に接続されており、整流器204の陰極の接続先を、2つの電極202a,202bまたは基材容器203の中心部203cのいずれかに切り替えることができる。第2の切替スイッチ221bは、整流器204の陽極に接続されており、第1の切替スイッチ221aと同様に、整流器204の陽極の接続先を切り替えることができる。
【0029】
2つの切替スイッチ221a,221bの接続先は、スイッチ駆動部223の指令により、同時並行的に切り替えられる。電解処理装置220では、この2つの切替スイッチ221a,221bの切り替え動作によって、基材1aに印加される電流の極性を周期的に切り替えつつ、電解脱脂処理を実行する。なお、PR電解脱脂処理の具体的な好ましい処理条件の例は、下記の通りである。
【0030】
<PR電解脱脂処理の処理条件の例>
・アルカリ性溶液: 水酸化ナトリウム溶液(NaOH溶液)
濃度2〜6%程度
pH7以上、15以下
・処理温度(溶液温度): 40〜65℃
・印加電流密度: 0.1〜0.6A/dm
2
・処理時間: 5〜15分
・電流極性の反転周期: 以下の通電時間の繰り返し
基材側を陽極として通電する時間 5〜15秒
基材側を陰極として通電する時間 基材側を陽極とする通電時間の半分程度の時間
【0031】
図4(C)は、参考例として、陰極電解脱脂処理を行うための電解処理装置240の構成を示す模式図である。
図4(C)は、整流器204と、2つの電極202a,202bおよび基材容器203の中心部203cとの電気的接続が異なる点以外は、
図4(A)とほぼ同じである。この電解処理装置240では、整流器204の陰極は、基材容器203の中心部203cと接続されており、陽極は、2つの電極202a,202bのそれぞれと並列に接続されている。即ち、この陰極電解脱脂処理では、基材1a側を陰極として通電されることにより、電解洗浄が行われる。ここで、3種類の電解脱脂処理の特性について以下に説明する。
【0032】
図5は、陰極電解脱脂処理と陽極電解脱脂処理のそれぞれの特性をまとめた説明図である。陰極電解脱脂処理では、前記したとおり、基材1a側を陰極として通電する。そのため、基材1aの表面に水素が発生し、その水素によって基材1aの表面に付着した汚れを効果的に脱落させることができる。しかし、陰極電解脱脂処理は、長時間継続して実行されると、発生水素により、処理対象である基材1aに水素脆化が生じる可能性がある。そのため、陰極電解脱脂処理は、含有炭素量の大きい、いわゆる高C材料で構成された基材1aの洗浄には不向きである。
【0033】
一方、陽極電解脱脂処理では、基材1a側を陽極として通電するため、基材1aの表面には酸素が発生する。陽極電解脱脂処理では、その酸素の発生により、基材1aの表面に付着した汚れを、電解酸化により分解することができる。このように、陽極電解脱脂処理では、陰極電解脱脂処理のような水素脆化の畏れはなく、基材1a表面に発生したスマット(微粉末状の黒色物質)の除去に適している。なお、陽極電解脱脂処理では、基材1aの表面に不動態被膜や酸化被膜が生成される可能性があるため、陽極電解処理の実行後に、基材1aを酸洗することにより、基材1aの表面を活性化することが好ましい。
【0034】
PR電解脱脂処理では、上述したように、基材1a側の極性が周期的に切り替えられる。即ち、PR電解脱脂処理は、陰極電解脱脂処理と陽極電解脱脂処理とを交互に短周期で切り替えて実行する洗浄処理であると解釈できる。従って、PR電解脱脂処理では、上述した陰極電解脱脂処理や陽極電解脱脂処理のそれぞれの短所を補完しつつ、洗浄効果を得ることが可能である。ただし、PR電解脱脂処理では、同一極性での連続した通電時間が、通常の陰極電解脱脂処理や陽極電解脱脂処理より短いため、洗浄効率が低くなる可能性がある。また、上述したように、PR電解脱脂処理では、溶液槽において複数の基材1aを攪拌しつつ、電流の極性を反転させる。そのため、各基材1aの中には、電解脱脂のための通電極性や通電時間が不均一となってしまうものが生じてしまう可能性がある。即ち、PR電解脱脂処理では、基材1aに対する洗浄効果にムラが生じてしまう可能性がある。
【0035】
ここで、電解脱脂処理は、処理回数が1回では洗浄効果が十分得られない可能性が高いため、複数回繰り返し行われるのが一般的である。しかし、同じ種類の電解脱脂処理が連続して行われた場合には、各電解脱脂処理の短所が以下のように強調されてしまう可能性があることを本発明の発明者は見出した。即ち、陰極電解脱脂処理が連続して実行された場合には、基材1aの水素脆化が促進されるとともに、基材1aの表面に鉄分などの不純金属イオンが析出する可能性が高くなる。また、陽極電解脱脂処理が連続して実行された場合には、基材1aの表面酸化が顕著となる可能性がある。PR電解脱脂処理が連続して実行された場合には、処理回数に比した洗浄効果が得られない可能性や、基材1aごとの洗浄効果のムラが促進される可能性がある。
【0036】
そこで、本実施形態では、基材1aの水素脆化の可能性のない陽極電解脱脂処理と、陽極電解脱脂処理と陰極電解脱脂処理の短所を補完できるPR電解脱脂処理とを組み合わせた2回の電解脱脂処理を実行することにより、基材1aの脱脂性を向上させる。ここで、陽極電解脱脂処理を2回目の電解脱脂処理として実行した場合には、後続するめっき処理において、基材1aの表面の酸化による影響が顕著に現れる可能性が高い。そのため、本実施形態では、1回目の電解脱脂処理として陽極電解脱脂処理を実行し、2回目の電解脱脂処理としてPR電解脱脂処理を実行する。
【0037】
ところで、電解脱脂処理としては、さらに複数の回数を行うことも可能である。しかし、電解脱脂処理を3回以上行うと、得られる洗浄効果に対して工程数が増大することとなり好ましくない。また、5回以上の電解脱脂処理が行われた場合には、基材1aの表面に荒れが生じ、めっき層の密着性が低下するばかりでなく、基材1aの外観上の不良が発生してしまう可能性がある。
【0038】
なお、それぞれの電解脱脂処理は、異なる電解浴槽201において実行されることが好ましい。これによって、アルカリ性溶液の劣化による電解脱脂処理の効果低減を抑制できる。また、電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液には、界面活性剤が含有されていることが好ましく、特に1回目の電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液に含有されていることが、より好ましい。界面活性剤によって、基材1aの表面の濡れ性を高くすることができ、洗浄効果をより向上させることができるためである。界面活性剤としては、以下のものを使用することができる。
【0039】
<界面活性剤の例>
高級脂肪酸ナトリウム、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステルナトリウム、アルキルベンゼン硫酸ナトリウム、高級アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、α−オレフィン硫酸ナトリウム、アルキルポリオキシエチレンエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物(ブルロニック)等
【0040】
さらに、最後(2回目)の電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液には、錯化剤として、例えば、シアン化ナトリウムを添加し、シアン化物イオン(CN
-)を含有させることが好ましい。このシアン化物イオンによって、基材1aの表面への不純金属イオンの析出を抑制したり、基材1aの表面の酸化物の除去を促進させることが可能である。なお、2回目の電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液には、シアン化ナトリウムに換えて、下記の錯化剤を含有させるものとしても良い。
<錯化剤の例>
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グルコン酸ナトリウム、アミノ基を持つ化合物等
【0041】
ステップS110(
図3)では、基材1aを酸性溶液によって洗浄する。具体的には、酸性溶液中に各基材1aを所定の時間だけ浸漬する。この洗浄工程によって、基材1aの表面に付着したスマットや酸化物等の不純物を除去し、基材1aの表面とめっき層との密着性を向上させる。なお、酸性溶液による洗浄処理の具体的な好まし処理条件の例は、下記の通りである。
<酸性溶液による洗浄処理の処理条件の例>
・酸性溶液: 塩酸、硫酸、硝酸のうちのいずれかを含有する溶液
濃度: 2〜20%、より好ましくは4〜15%
・処理時間: 1〜3分
・溶液温度: 20〜40℃
【0042】
ステップS120では、基材1aに対してニッケルめっき処理が実行される。具体的には、回転バレルを使用したバレル式電解ニッケルめっき処理が実行されるものとしても良いし、静止めっき法などの他のめっき処理方法が実行されるものとしても良い。ここで、電解ニッケルめっきの処理条件としては、以下のような、通常利用される処理条件を利用することができる。
【0043】
<電解ニッケルめっきの処理条件の例>
・めっき浴組成:
硫酸ニッケル: 100〜400g/L
塩化ニッケル: 20〜60g/L
ホウ酸: 20〜60g/L
溶媒: 脱イオン水
・浴pH: 2.0〜4.8
・処理温度(浴温度): 25〜60℃
・印加電流密度: 0.2〜0.4A/dm
2
・処理時間: 30〜90分
【0044】
なお、めっき処理としては、例えば、亜鉛めっき処理を行うことも可能である。ただし、本実施形態における電解脱脂処理によるめっき層の剥離抑制効果は、硬度が高いニッケルめっき層において顕著に表れる。従って、この点において、本実施形態の電解脱脂処理には、ニッケルめっき処理を組み合わせることが好ましい。
【0045】
ステップS130では、めっき層の防食のために、めっき層に重ねてクロメート層を形成するための電解クロメート処理が実行される。電解クロメート処理は、回転バレルを利用するものとしても良く、静止めっき法などの他のめっき処理方法を利用するものとしても良い。電解クロメート処理の好ましい処理条件の例は以下の通りである。
【0046】
<電解クロメート処理の処理条件の例>
・処理浴(クロメート処理液)組成:
重クロム酸ナトリウム: 20〜70g/L
溶媒:脱イオン水
・浴pH: 2〜6
・処理温度(浴温度): 20〜60℃
・陰極電流密度: 0.02〜0.45A/dm
2
・処理時間: 1〜10分
【0047】
なお、重クロム酸塩としては、重クロム酸ナトリウムの他に重クロム酸カリウムも利用可能である。ステップS120,S130のめっき処理によって、ニッケルめっき層とクロメート層との2層構造の皮膜が基材1aの外側及び内側の面を含む外表面に形成される。基材1aの外表面には、さらに他の保護皮膜が重ねて形成されるものとしても良い。こうして多層構造の保護皮膜が形成された基材1aを用いて、
図2で説明した工程により、スパークプラグが製造される。なお、加締め工程としては、冷間加締めの他に、熱加締めも利用することができる。
【実施例】
【0048】
以下の実験では、主体金具1の基材1aに対して、電解脱脂処理の処理内容を変えた複数通りのめっき処理を行い、そのめっき層の密着性の評価を行った。なお、主体金具1の基材1aは、JISG3539に規定された冷間圧造用炭素鋼線SWCH17Kを素材として用いて冷間鍛造により製造した。接地電極4は、ニッケル(Ni)を主成分としてアルミニウムを含有させた材料によって形成し、基材1aの先端側に溶接接合して設けた。めっき処理は
図3のフローチャートに従って、以下の処理条件の下で行った。
【0049】
<陽極電気亜脱脂処理/PR電解脱脂処理の共通の処理条件>
・アルカリ性溶液: 水酸化ナトリウム溶液(NaOH溶液)
濃度3% (最後の電解処理のみ濃度5%)
pH12以上,15以下
・処理温度(溶液温度): 55±5℃
・印加電流密度: 0.3A/dm
2
・処理時間: 10分
<PR電解脱脂処理の処理条件>
・電流極性の反転周期: 以下の通電時間を交互に繰り返し
基材側を陽極としたときの通電時間 10秒
基材側を陰極としたときの通電時間 5秒
【0050】
各電解脱脂処理の間には、室温で約2分間、基材1aを水洗した。そして、最後の電解脱脂処理が完了した後には、室温で1分間、基材1aを水洗した。なお、いずれの電解脱脂処理においても、1回目の電解脱脂処理に用いたアルカリ性溶液には、界面活性剤として、アルキルポリオキシエチレンエーテルを含有させた。また、最後の電解脱脂処理に用いたアルカリ性溶液には、錯化剤としてシアン化ナトリウムを含有させた。
【0051】
電解脱脂処理の後には、酸性溶液による洗浄処理を、以下の処理条件の下で実施した。なお、この洗浄処理が完了した後、基材1aを、室温で約30秒間、水洗した。
<酸性溶液による洗浄処理の処理条件>
・酸性溶液: 塩酸溶液
水と塩酸とを4:1の割合で混合
(塩酸の比重 1.040±0.005)
・処理時間: 2分
・溶液温度: 30±5℃
【0052】
次に、電解ニッケルめっき処理を、回転バレルを用いて下記の処理条件で行うことによって、ニッケルめっき層を形成した。
<電解ニッケルめっきの処理条件>
・めっき浴組成:
硫酸ニッケル: 250g/L
塩化ニッケル: 50g/L
ホウ酸: 40g/L
・浴pH: 4.0
・処理温度(浴温度): 55±5℃
・陰極電流密度: 0.3A/dm
2
・処理時間: 60分
【0053】
なお、電解ニッケル処理の後には、基材1aを水洗し、下記の処理条件の下で、中和処理を実施した。そして、中和処理の後、再び基材1aを水洗した。なお、中和処理の前後における基材1aの水洗時間はいずれも1分とした。
<中和処理の処理条件>
・浸漬溶液: 水酸化ナトリウム
・溶液濃度: 5%
pH12以上、15以下
・処理温度(浴温度): 30±5℃
・処理時間: 2分
【0054】
次に、電解クロメート処理を、回転バレルを用いて下記の処理条件で行うことによって、ニッケルめっき層の上にクロメート層を形成した。
<電解クロメート処理の処理条件>
・処理浴(クロメート処理液)組成:
重クロム酸ナトリウム: 40g/L
溶媒:脱イオン水
・処理温度(浴温度): 35±5℃
・陰極電流密度: 0.2A/dm
2
・処理時間: 5分
【0055】
図6は、上記の処理条件の下で作成された基材1aのサンプルのめっき層についての評価結果をまとめた表を示す説明図である。基材1aのサンプルは、電解脱脂処理の処理内容を変えたサンプルグループごとに、100個ずつ作成した。そして、各サンプルグループにおいて、各サンプルの接地電極4を以下に説明するように屈曲させ、その屈曲部位におけるめっき層の剥離の発生を観察した。
【0056】
図7(A),(B)は、各サンプルにおけるめっき層の密着性についての評価部位を説明するための模式図である。本実施例におけるめっき層の密着性の評価では、各サンプルの接地電極4を
図7(A),(B)に示すように2段階で屈曲させた。具体的には、以下の通りである。即ち、第1段階では、直棒状の接地電極4を基材1aの仮想的中心軸1cxに向かってほぼ90°に屈曲させた(
図7(A))。そして、第2段階では、第1段階において屈曲させたのと同じ部位Rtを、第1段階のときとは反対の方向(外側)へと180°屈曲させた(
図7(A))。以後、第1段階および第2段階で屈曲加工が施された部位Rtを「評価屈曲部Rt」と呼ぶ。
【0057】
各サンプルグループにおけるめっき密着性の評価は、各サンプルの評価屈曲部Rtにおけるめっき層の剥離を観察して、以下の基準により評価した。即ち、各サンプルグループについて、100個のサンプル中に、評価屈曲部Rtにめっき層の剥離部位が生じたものが1つもなかった場合は、評価を「◎」とした。また、直径1mm未満のめっき層の剥離部位を生じたサンプルが1個であった場合には、評価を「○」とした。直径1mm以上のめっき層の剥離部位が生じたサンプルが1個以上あった、または、直径1mm未満のめっき層の剥離部位が生じたサンプルが2個以上あった場合には、評価を「×」とした。
【0058】
なお、
図6の各表には、電解脱脂処理の種類を略して表記してある。具体的には、陽極電解脱脂処理を「陽」とし、PR電解脱脂処理を「PR」として表示してある。また、各サンプルグループにおいて、同じ種類の電解脱脂処理が連続して行われた回数、即ち、陽極電解脱脂処理またはPR電解脱脂処理が連続して行われた回数を「同種処理連続回数」として表示してある。さらに、各サンプルグループにおいて、陽極電解脱脂処理からPR電解脱脂処理へと切り替えられた、または、PR電解脱脂処理から陽極電解脱脂処理へと切り替えられた回数を「陽/PR切替回数」として表示してある。
【0059】
図6(A)には、陽極電解脱脂処理またはPR電解脱脂処理がそれぞれ1回のみ行われたサンプルグループSG01,SG02についての評価がまとめられている。陽極電解脱脂処理であっても、PR電解脱脂処理であっても、1回のみ単独で行われた場合には、十分な脱脂効果(洗浄効果)を得ることができず、好ましい評価を得ることはできなかった。
【0060】
図6(B)には、電解脱脂処理を2回実行することにより作成されたサンプルグループSG03〜SG06についての評価がまとめられている。サンプルグループSG04,SG06ではそれぞれ、同じ種類の電解脱脂処理を連続して2回行った。これらのサンプルグループSG04〜SG06では、それぞれの種類の電解脱脂処理の短所が補われないため、好ましい結果を得ることはできなかった。
【0061】
サンプルグループSG05では、1回目の電解脱脂処理としてPR電解脱脂処理を実行し、2回目の電解脱脂処理として陽極電解脱脂処理を実行してサンプルを作成した。このサンプルグループSG05では、上述したように、2回目の陽極電解脱脂処理によるサンプル表面の酸化の影響により、好ましい評価結果を得ることはできなかった。
【0062】
サンプルグループSG03では、1回目の電解脱脂処理として陽極電解脱脂処理を実行し、2回目の電解脱脂処理としてPR電解脱脂処理を実行してサンプルを作成した。このサンプルグループSG03では、最も好ましい評価結果を得ることができた。これらの評価結果から、電解脱脂処理としては、1回目に陽極電解脱脂処理を実行し、2回目にPR電解脱脂処理を実行することにより、最も高い洗浄効果を得ることができることがわかる。
【0063】
図8は、電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液のpHの好適な条件を調べるための実験の結果を表した説明図である。この実験では、pHの値の異なるアルカリ性溶液を用いた点以外は、上記のサンプルグループSG03(
図6(B))と同様な条件で、電解脱脂処理と、ニッケルめっき処理と、電解クロメート処理とを実施し、アルカリ性溶液のpHの値ごとに、100個のサンプルを作成した。そして、各サンプルにおいて、
図7で説明したように、接地電極4に評価屈曲部Rtを形成し、
図6で説明したのと同様な基準で評価を行った。
【0064】
この実験結果からもわかるとおり、電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液のpHは、8以上が好ましく、11以上がより好ましい。また、アルカリ性溶液のpHは12以上であることが特に好ましい。ただし、アルカリ性溶液は、pHが15より大きくなると、基材1aの表面に荒れが生じる可能性が高くなる。そのため、電解脱脂処理に用いられるアルカリ性溶液のpHの値の範囲としては、8以上、かつ、15以下が好ましく、11以上、かつ、14以下がより好ましいと言える。さらに、pHの値は、12以上、かつ、14以下が特に好ましい。
【0065】
図9は、電解脱脂処理が実行された後に実行される酸性溶液による洗浄処理の好ましい処理条件を調べるための実験の結果をまとめた説明図である。この実験では、濃度の異なる酸性溶液を用いた点以外は、上記のサンプルグループSG03(
図6(B))と同様な条件で、電解脱脂処理と、ニッケルめっき処理と、電解クロメート処理とを実施し、酸性溶液の濃度ごとに、100個のサンプルを作成した。
【0066】
そして、溶液の濃度ごとのサンプルグループについて、めっきの密着性と、絶縁体2(
図1)との間の気密性の評価を行った。具体的には、各サンプルにおいて、
図7で説明したように、接地電極4に評価屈曲部Rtを形成し、その評価屈曲部Rtを観察することにより、めっき層と下地との密着性の評価を行った。めっき層と下地との密着性の評価は、
図6で説明したのと同様な基準で行った。
【0067】
また、各サンプルを絶縁体2に加締めて取りつけ(
図2(C),(D))、その加締め工程により湾曲した溝部1hを観察することにより、絶縁体2との間の気密性の評価を行った。溝部1hに、幅1mm以上の裂傷が生じたものが1個以上、または、幅1mm未満の裂傷が生じているものが2個以上あった場合には「×」とした。溝部1hに幅1mm未満の裂傷が生じたものが1個だけ生じている場合には「○」とし、溝部1hに裂傷を生じたものがなかった場合には「◎」とした。
【0068】
この実験結果からもわかるとおり、酸性溶液による洗浄処理に用いられる酸性溶液としては、めっき層の密着性および気密性のいずれの評価も「○」以上の評価が得られた濃度が4%以上、15%以下の酸性溶液が好ましい。また、めっき層の密着性および気密性のいずれの評価も「◎」の評価が得られた、濃度が6%以上、14%以下の酸性溶液が特に好ましい。
【0069】
このように、上記の実施形態で説明した電解脱脂処理を実行することにより、より下地とめっき層との密着性が高いスパークプラグ用の主体金具を製造することが可能である。従って、この主体金具を用いたスパークプラグであれば、主体金具本体や接地電極におけるめっきの剥離が抑制され、より耐久性や着火性に優れたスパークプラグを得ることが可能である。