特許第5852435号(P5852435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5852435
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】電着樹脂用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 157/10 20060101AFI20160114BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160114BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   C09D157/10
   C09D7/12
   C09D5/44 A
   C09D5/44 B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-282796(P2011-282796)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-133352(P2013-133352A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111591
【氏名又は名称】ハニー化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151965
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 佳章
(74)【代理人】
【識別番号】100103436
【弁理士】
【氏名又は名称】武井 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108693
【弁理士】
【氏名又は名称】鳴井 義夫
(72)【発明者】
【氏名】高曲 賢治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 公一
(72)【発明者】
【氏名】神門 登
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−131494(JP,A)
【文献】 特開2000−043054(JP,A)
【文献】 特開2005−078049(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0057688(US,A1)
【文献】 特開2002−120230(JP,A)
【文献】 特開平10−204337(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00255727(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 157/10
C09D 5/44
C09D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)以下の(a)〜(c)成分を共重合することにより得られるカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体であって、そのガラス転位温度Tgが0〜20℃の範囲であり、溶解性パラメーターSP値が9.0〜9.5の範囲である共重合体 60〜95重量部、
(a)カルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体 2〜15重量部、
(b)水酸基を有する共重合性ビニル系単量体 2〜15重量部、
(c)(a)(b)以外の共重合性ビニル系単量体 70〜96重量部、
(B)硬化剤 5〜40重量部、
から成ることを特徴とするマイクロ構造体の製造に用いる電着用樹脂組成物。
【請求項2】
前記共重合体(A)の溶解性パラメーターSP値が9.3〜9.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ構造体の製造に用いる電着用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ構造体製造に係る電着樹脂用組成物に関するものである。
マイクロ構造体とは、マイクロレンズ、LED用レンズ、太陽電池パネルの集光用マイクロレンズ、CCDやCMOSイメージセンサー用マイクロレンズ、オンチップ型マイクロレンズ、紙幣の偽造防止用マイクロレンズ、再帰反射用マイクロレンズがあり、一つの大きさは、縦、横、高さは1mm以下のものであり、これらを並べてアレイ状に使用しても構わない。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、携帯電話、デジタルカメラ等に使用するCCD、CMOSイメージセンサーは、シリコンウエハ上にフォトダイオードによる受光素子を作製し、その上にカラーフィルタとマイクロレンズを貼り合わせ形成する。受光素子は、光の明暗に反応し電気信号を発生するものであるがこれだけではカラー画像にはならないためカラーフィルタが必要になる。また、受光素子に効率良く集光させるためにはマイクロレンズが必要となる。受光素子とカラーフィルタ間には、電気配線層が存在し集光効率を下げる要因の1つになっているが、この課題はマイクロレンズを着色することでカラーフィルタと一体化し、電気配線層を受光素子の反対側に形成することにより解決可能である。
【0003】
マイクロ構造体を形成する方法には、レジストに電子線を照射して直接形成する方法、インクジェットを用いる方法あるいは電着を用いる方法等がある(特許文献1)。
電着法でマイクロ構造体を形成する方法は、ITO基板、シリコンウエハ等の導電性基板上にドライフィルムレジスト、電着レジスト、液状レジスト等の感光性樹脂を塗布してフォトリソグラフィ法により所定のパターンを形成し、次いで電着樹脂を塗布することで形成される。しかし、どのような電着樹脂でも電着塗布して焼付乾燥するだけでマイクロ構造体を形成できる訳では無く、一般的な電着樹脂では半球状のマイクロレンズ形状を得るには電着・焼付乾燥後に樹脂が流動したり、レベリング不足により塗膜表面が凹凸になるなど均一な形状にできない場合が多く発生し、更に、シリコンウエハ上への電着では、シリコンウエハの表面張力により電着樹脂のハジキが発生し均一に塗布できないため、シリコンウエハ上でのマイクロ構造体作製が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−262707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記したような従来技術における問題点を解決し、複雑な製造工程を用いず、電着塗布後に焼付乾燥加熱するのみでマイクロ構造体の形成が可能であり、更に着色することでカラーフィルタの機能を備えたマイクロレンズ作製が可能で、かつシリコンウエハ上に良好な形状のマイクロ構造体を形成できる電着樹脂用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点に対して鋭意研究の結果、本願発明者らは、電着用樹脂組成物における樹脂成分として、特定のガラス転位温度Tgと溶解性パラメータSP値とを有し、置換基としてカルボキシル基又は3級アミノアルキル基を有する単量体成分及び置換基として水酸基を有する単量体成分を含む共重合体(A)と硬化剤(B)とを含有する電着樹脂用組成物
を用いて電着塗装を行なうことにより、上記課題を克服できることを見出し、本願発明にいたった。
すなわち本発明は、(A)以下の(a)〜(c)成分を共重合することにより得られるカルボキシル基又は3級アミノアルキル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体であって、そのガラス転位温度Tgが0〜20℃の範囲であり、溶解性パラメーターSP値が9.0〜9.5の範囲である共重合体 60〜95重量部、
(a)カルボキシル基又は3級アミノアルキル基を有する共重合性ビニル系単量体 2〜15重量部、
(b)水酸基を有する共重合性ビニル系単量体 2〜15重量部、
(c)(a)(b)以外の共重合性ビニル系単量体 70〜96重量部、
(B)硬化剤 5〜40重量部、
から成ることを特徴とするマイクロ構造体の製造に用いる電着用樹脂組成物である。
【0007】
ここで、ビニル系共重合体のガラス転位温度Tgは、使用する単量体のTg値より求めることが出来る。例えば、成書では北岡協三著、新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門(高分子刊行会)に記載されている値を用いて、以下の式より算出した。
ビニル系共重合体の1/Tg値=1/Tg1×Wt1+1/Tg2×Wt2+・・・+1/Tgn×Wtn
上式中のTg1、Tg2、・・・Tgnは成書に記載の各単量体のTg値、Wt1、Wt2、
・・・
Wtnは各単量体の総量に対する質量分率である。
【0008】
また、溶解性パラメーターSP値(σ)は、使用する単量体についてFedorsの溶解性パラメーター算出式(R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14[2]147(1974) 具体的数値は、材料技術研究協会編「実用版プラスチックのコーティング技術総覧」97〜138頁に記載されている。)を用いて計算した。
δ=(ΔE/V)1/2=(ΣΔe1/ΣΔv11/2
ΔE:凝集エネルギー
V:モル体積
Δe1:原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δv1:原子又は原子団のモル体積
次に、次式によりビニル系共重合体のSP値を算出した。
ビニル系共重合体のSP値=δ1×Wt1+δ2×Wt2+…+δn×Wtn
上式中のδ1、δ2、…δnは算出された各単量体のδ値、Wt1、Wt2、・・・Wtnは各単量体の総量に対する質量分率である。
以上のとおり、本発明で使用する特定のガラス転位温度Tg範囲及び溶解性パラメーターSP値(σ)範囲を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体は、単量体のTg及びSP値(σ)を参考に使用する単量体を適宜組合わせることにより合成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電着樹脂用組成物は上記したような構成であり、本発明の特定のガラス転位温度Tg範囲及び溶解性パラメーターSP値(σ)範囲を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を含む電着樹脂用組成物を使用することで、再現性良くマイクロ構造体の作製ができ、シリコンウエハ上にも良好な電着塗膜を得ることができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の構成と作用を説明する。本発明においては、置換基としてカルボキシル基又は3級アミノアルキル基を有する単量体成分及び置換基として水酸基を有する単量体成分を
含む水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)、硬化剤(B)の各成分は、電着樹脂用組成物を得るための必須構成成分である。
(A)成分の水溶性又は水分散性のビニル系共重合体を構成する、置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体(a)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ダイマー、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸等のアクリル系アニオン電着塗料に一般的に使用されるものを用いることができるがこれらに限定されない。これらの中では、アクリル酸、メタクリル酸を用いるのが望ましい。
置換基として3級アミノアルキル基を有する共重合性ビニル系単量体(a)としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアクリル系カチオン電着塗料に一般的に使用されるものを用いることができるがこれらに限定されない。
【0011】
(A)成分の水溶性又は水分散性のビニル系共重合体を構成する、置換基として水酸基を含有する単量体(b)としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレート等が挙げられる。
【0012】
(A)成分の水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を構成する、その他のビニル系単量体(c)としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ノルマルブチルアクリレート、ノルマルブチルメタクリレート、ノルマルヘキシルアクリレート、ノルマルヘキシルメタクリレート、ノルマルヘプチルアクリレート、ノルマルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノルマルラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート等の炭素数約20までのアルキル基を有する同様な共重合性ビニルエステルやシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレートなどの側鎖に脂環式炭化水素基を有する共重合性ビニルエステル系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族基を有するビニル系単量体が使用できる。さらにアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルメタクリルアミド、N−イソブトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類やアクリロニトリル、酢酸ビニル等を使用することもできる。
【0013】
(A)成分の水溶性又は水分散性ビニル系共重合体は、ガラス転位温度Tgが20℃を越えると電着後の加熱乾燥時の塗膜の流動性が劣り球面状の形状は得られない。また、0℃未満であると流動性が良すぎるために平滑な塗膜となり、やはり、球面状の形状は得られない。
溶解性パラメーターSP値が9.5を越えると、シリコンウエハへ電着塗布した時に電着樹脂が基材表面ではじかれて成膜できない。一方、9.0未満であるとビニル系共重合体の水溶性又は水分散性が悪くなり、電着樹脂液の沈降分離が発生する。よって、SP値は9.0〜9.5の範囲であることが好ましく、9.3〜9.5の範囲がより好ましい。
水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)成分中の、置換基としてカルボキシル基又
は3級アミノアルキル基を有する共重合性ビニル系単量体(a)の割合が2重量部未満であると液安定性が悪く、15重量部を超えると耐水性が悪くなり、塗布後水洗水で再溶解が起こり、5重量部から10重量部の範囲であることが好ましい。また、置換基として水酸基を有する共重合性ビニル系単量体(b)の割合が2重量部未満であると硬化剤(B)との架橋反応が進行し難く十分な塗膜性能が得られず、15重量部を超えると耐水性が悪くなり4重量部から12重量部の範囲であることがより好ましい。
【0014】
(A)成分の水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を重合する際に使用される溶剤は、一般的なものが使用できるが、水溶性又は水分散性という点からイソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、イソブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類が望ましい。 なお、アセテート系溶剤は、水により加水分解を受けるため本発明で使用する溶剤には適さない。
(A)成分の水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を重合する際に使用される重合開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等の過酸化物等が使用できる。
【0015】
(B)成分の硬化剤としては、置換基としてカルボキシル基を有するビニル系共重合性(A)の場合は、アミノ樹脂が最適であり、置換基として3級アミノアルキル基を有するビニル系共重合性(A)の場合は、ブロックイソシアネート化合物が適している。また、多官能アクリレートやエポキシド化合物、オキセタン化合物等と光重合開始剤を混合した光硬化性樹脂を使用することも可能である。
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等が使用できる。特にメラミン樹脂では、メチロール基の少なくとも一部を低級アルコールでアルコキシ化したアルコキシ化メラミンが好ましく、その際、低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の一種または二種以上を使用できる。
【0016】
ブロックイソシアネート化合物としては、一般的なヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、これらのビウレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパンのアダクト体等をブロック化したものが使用できる。ブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム、ジメチルピラゾール、ε−カプロラクタム等が使用できる。
光硬化性樹脂としては、光ラジカル重合を利用するものとして多官能アクリレートにジペンタエリスリトールヘキサ及びペンタアクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレートなどが使用でき、光重合開始剤としては2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンや2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどが使用できる。
光カチオン重合を利用するものとしては、エポキシド化合物やオキセタン化合物が使用でき光重合開始剤としてモノスルホニウム塩等が使用できる。
水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)成分は、60〜95重量部、好ましくは65〜80重量部、硬化剤(B)は、5〜40重量部、好ましくは20〜35重量部である。水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)の割合が、60重量部未満では、電着樹脂液の分離沈降が発生し、95重量部を超えると十分な塗膜性能が得られない。硬化剤(B)の割合が、5重量部未満では、十分な塗膜性能が得られず、40重量部を超えると電着樹脂液の分離沈降が発生する。
【0017】
本発明における水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)のカルボキシル基を中和するのに用いることができる有機アミンとしては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、トリ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、などのアルカノールアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン類、ピペラジン、モルホリン、ピラジン、ピリジン等が挙げられる。
中和するための有機アミンは、本発明の水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)のカルボキシル基1モルに対し、有機アミンは、0.2〜0.9モル、好ましくは、0.3〜0.5モルで用いる。有機アミンが、0.2モル未満では、十分な水分散性が得られず液安定性が悪く沈降を生じやすく、0.9モル以上では、塩基性が増加するため電着時に水の電気分解によるガスが起こり塗膜中にピンホールが発生し易くなる。
【0018】
本発明における水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)の3級アミノアルキル基を中和するのに用いることができる酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、2−エチルブタン酸、オクチル酸などの有機酸が挙げられ、3級アミノアルキル基1モルに対し、有機酸は、0.2から0.9モル、好ましくは、0.3〜0.5モルで用いる。
有機酸が、0.2モル未満では、十分な水分散性が得られず液安定性が悪く沈降を生じやすく、0.9モル以上では、酸性が増加するため電着時に水の電気分解によるガスが起こり塗膜中にピンホールが発生し易くなる。
本発明により構成される電着樹脂用組成物は基板上に電着塗装されるが、基板としてはITO膜の透明性電極、シリコンウエハなどの導電性の被膜層を有する基板や銅、アルミニウムなどの金属板が使用できる。
また、基板は、予めフォトレジストを塗布して所定のパターンを描画したフォトマスク越しに露光し更に現像して、本発明の電着樹脂を塗布する部分を限定しマイクロ構造体を形成出来るようにする。
【0019】
また、電着塗布条件としては、通電工程において印加される電圧は10〜200V、好ましくは20〜100Vであり、通電時間は0.1分〜10分、好ましくは0.5〜5分である。電圧が高いほど通電時間は短く、電圧が低ければ通電時間を長くする。印加電圧は通電と同時に設定電圧をかけるハードスタート、あるいは徐々に設定電圧まで電圧を上げていくソフトスタートのいずれでもかまわない。
電着塗装された被塗装物は、水洗され、次いで90℃で30分間程度加熱し、塗装膜中の水分を乾燥すると同時に電着樹脂は流動し半球状のマイクロ構造体を形成する。加熱温度は、50℃から120℃、好ましくは60℃から100℃である。50℃未満では電着樹脂の流動が起こらず、120℃以上では流動し過ぎてマイクロ構造体を形成しない。加熱時間は、20分から120分、好ましくは30分から60分である。20分未満であると水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)と硬化剤(B)の反応が進行せず、120分以上ではマイクロ構造体を形成する工程時間が長くなり実用性が低下する。
また、本電着樹脂液に水性顔料を添加してマイクロ構造体を着色することも可能である。
アニオン性電着液とカチオン性電着液では、適する水性顔料がそれぞれで異なるため選定に注意が必要である。
多色化する場合は、予め基板に塗布するフォトレジストをポジ型のものを使用する。一度形成したマイクロ構造体の基板を再度所定のパターンで露光現像し異なる色に着色した電着樹脂液を塗布することを繰り返すことで可能となる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部は、特に断りのない限り重量部である。
製造例1
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール17.25部、ブチルセロソルブ8.75部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール12.5部、アクリル酸5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部、スチレン10部、エチルアクリレート55部、メチルメタクリレート20部、アゾビスイソブチロニトリル1.25部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール0.5部、アゾビスイソブチロニトリル0.25部を、30分毎に2回添加したのちに、さらに90℃で120分反応を続けた。得られた共重合体は、Tg19.0℃、SP値9.36であった。
【0021】
製造例2
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール17.5部、ブチルセロソルブ8.75部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール12.5部、アクリル酸4.5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部、スチレン10部、エチルアクリレート45部、メチルメタクリレート30.5部、アゾビスイソブチロニトリル1.25部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール0.5部、アゾビスイソブチロニトリル0.25部を、30分毎に2回添加したのちに、さらに90℃で120分反応を続けた。得られた共重合体は、Tg30.8℃、SP値9.35であった。
【0022】
製造例3
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール8部、ブチルセロソルブ9.6部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール18.4部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート5部、エチルアクリレート39部、メチルメタクリレート40部、アゾビスイソブチロニトリル1部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール3部、アゾビスイソブチロニトリル0.25部を、30分毎に2回添加したのちに、さらに90℃で120分反応を続けた。得られた共重合体は、Tg29.1℃、SP値9.55であった。
【0023】
製造例4
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.5部、ブチルセロソルブ7部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール18.4部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15部、n−ブチルアクリレート33部、メチルメタクリレート46部、アゾビスイソブチロニトリル1部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール0.3部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で120分反応を続けた。得られた共重合体は、Tg15.7℃、SP値9.55であった。
【0024】
製造例5
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.5部、ブチルセロソルブ7部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール18.4部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート50部、メチルメタクリレート34部、アゾビスイソブチロニトリ
ル1部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール0.3部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で120分反応を続けた。得られた共重合体は、Tg−4.8℃、SP値9.36であった。
【0025】
実施例1
製造例1で得られたビニル系共重合体141部とメラミン樹脂(日本サイテックインダストリー株式会社製 サイメル285)を42.9部、ジメチルアミノエタノール1.9部、イソプロパノール24部、ブチルセロソルブ2部を加え攪拌を続けながら脱イオン水25.3部添加して攪拌を行い電着用原液を得た。別の容器にこの電着用原液を133.3部仕込み攪拌しながら脱イオン水を866部とジメチルアミノエタノール1.7部を投入し電着樹脂液を得た。
【0026】
比較例1
製造例2で得られたビニル系共重合体141.5部とメラミン樹脂(日本サイテックインダストリー株式会社製 サイメル285)を42.9部、ジメチルアミノエタノール1.7部、イソプロパノール24部、ブチルセロソルブ1.2部を加え攪拌を続けながら脱イオン水26部添加して攪拌を行い電着用原液を得た。別の容器にこの電着用原液を133.3部仕込み攪拌しながら脱イオン水を866部とジメチルアミノエタノール1.6部を投入し電着樹脂液を得た。
【0027】
比較例2
製造例3で得られたビニル系共重合体143.5部とメラミン樹脂(日本サイテックインダストリー株式会社製 サイメル285)を42.9部、ジメチルアミノエタノール2.2部、イソプロパノール35部、ブチルセロソルブ9部を加え攪拌を続けながら脱イオン水27部添加して攪拌を行い電着用原液を得た。別の容器にこの電着用原液を145.3部仕込み攪拌しながら脱イオン水を852.6部とジメチルアミノエタノール2.1部を投入し電着樹脂液を得た。
【0028】
比較例3
製造例4で得られたビニル系共重合体138.4部とメラミン樹脂(日本サイテックインダストリー株式会社製 サイメル285)を47部、ジメチルアミノエタノール3.7部、イソプロパノール26部、ブチルセロソルブ5部を加え攪拌を続けながら脱イオン水25.4部添加して攪拌を行い電着用原液を得た。別の容器にこの電着用原液を133.6部仕込み攪拌しながら脱イオン水を865.2部とジメチルアミノエタノール1.2部を投入し電着樹脂液を得た。
【0029】
比較例4
製造例5で得られたビニル系共重合体138.4部とメラミン樹脂(日本サイテックインダストリー株式会社製 サイメル285)を47部、ジメチルアミノエタノール3.7部、イソプロパノール26部、ブチルセロソルブ5部を加え攪拌を続けながら脱イオン水25.4部添加して攪拌を行い電着用原液を得た。別の容器にこの電着用原液を133.6部仕込み攪拌しながら脱イオン水を865.2部とジメチルアミノエタノール1.2部を投入し電着樹脂液を得た。
【0030】
(1)電着用基板の製造
電着用基板は、シリコンウエハ導電性基板にポジ型フォトレジストを塗布して、複数の直径100μmの円を間隔300μmで配置したパターンのフォトマスクを用い露光現像して作製した。
(2)電着樹脂用組成物の評価
実施例1、比較例1〜4で調整した電着樹脂液を使用し、常法に従って陽極に前記導電性基板を、陰極にSUS304板を用いて、10μmの塗膜厚が得られる条件で電着塗装を実施した。次いで電着塗装された基板を取り出して充分に水洗したのち、90℃の温度で30分間乾燥した。
電着塗膜が直径約100μmの半球状のマイクロレンズ形状が得られるものを○とし、半球状のマイクロレンズ形状が得られないものは×としその時の形状を評価した。
評価結果は、表1に示すとおりであった。ガラス転位温度Tgの範囲又は溶解性パラメーターSP値の範囲のいずれかが本発明の範囲を外れる電着樹脂用組成物は、実用可能なマイクロレンズ形状を得ることができなかった。
【0031】
【表1】
【0032】
他の実施例
実施例1の電着液に水性顔料(山陽色素株式会社製、赤顔料:EMACOL SF RED GA4012、青顔料:EMACOL SF BLUE GA4011、緑顔料:EMACOL SF GREEN GA4013)を体積濃度で3%添加し3色の電着液を作製した後、緑、青、赤の順で上記方法にて電着塗布を繰り返すことにより3原色のカラーフィルターに使用可能なマイクロレンズを作製した。これらのマイクロレンズは、いずれも半球状のマイクロレンズ形状を有し、カラーフィルターとして使用可能なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の電着樹脂用組成物を使用することでマイクロ構造体の作製は容易となり、顔料で着色することでカラー化も可能となり産業上極めて有用である。