(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。はじめに、
図1及び
図2を参照しながら、本実施形態の超音波探触子の全体構成を説明する。その後、
図3及び
図4を参照しながら、本実施形態の超音波探触子に適用されるcMUT素子の構成について説明する。
【0017】
<本実施形態の超音波探触子の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の超音波探触子1は、cMUT素子2と、バッキング3と、フレキ基板4と、コネクタ91と、配線92と、回路基板97と、接続端子98とを備える。超音波探触子1は、例えば医療機関における人体検査(心臓、血管等の循環器検査、腹部検査等)に用いられる。
【0018】
超音波探触子1は、バッキング3の先端にcMUT素子2を備えている。cMUT素子2は、後記する音響レンズ94を介して被検体95に超音波を照射するとともに、被検体95から反射された超音波を受信するものである。この点についての詳細は後記する。cMUT素子2は、コネクタ91に接続される配線92を有するフレキ基板4に対して、ワイヤボンディングで接続されている。コネクタ91は、回路基板97(具体的な回路は図示していない)と接続している。そして、回路基板97上の接続端子98は、超音波診断装置201(
図7参照)と接続する。
【0019】
超音波診断装置201(詳細は後記する)は、cMUT素子2に電気信号を与えて駆動させるとともに、被検体95からの受波による信号を画像化させるものである。cMUT素子2の表面には、cMUT素子2から発生した超音波を被検体方向にフォーカスするためのシリコーン樹脂の音響レンズ94を備えている。cMUT素子2は、音響レンズ94を経て、人体等の被検体95に超音波を送受信する。
【0020】
次に、
図2を参照しながら、超音波探触子1のcMUT素子2近傍の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、バッキング3の上には、樹脂45を介してcMUT素子2が接着固定されている。また、超音波送受信信号を基板(図示せず)に伝達するフレキ基板4も、樹脂46を介してバッキング3に固定されている。
【0021】
cMUT素子2とフレキ基板4とは、ワイヤボンディング法により、ワイヤ42で接続されている。ワイヤ42及びその接続部周辺は、封止樹脂47により封止されている。これにより、ワイヤ42の固定と、駆動電圧の印加によるエレクトロマイグレーションの防止とをすることができる。そして、これらの構造体の上に、音響レンズ94が樹脂41で接着固定されている。また、これらの構造体は、ケース43に収納されている。ケース43と音響レンズ2との隙間は、樹脂44で充填されている。
【0022】
<cMUT素子2の構成>
超音波探触子1に適用されるcMUT素子2の表面(音響レンズ94に対応する面)を拡大した様子が
図3である。なお、cMUT素子2は通常複数のセルにより構成されている。そのため、
図3には、当該複数のセルのうちの一つのセルを拡大して示している。
【0023】
cMUT素子2は、シリコン基板5と、下電極7と、上電極11と、絶縁膜6,8,9,10,12,13a,13b,14a,14b,15a,15b,16,18a,18bと、を備える。また、絶縁膜8と絶縁膜10との間には、空洞17が形成されている。
【0024】
シリコン基板5表面には絶縁膜及び電極が積層されている。具体的には、シリコン基板5上には、絶縁膜6、下電極7、絶縁膜8、絶縁膜9、絶縁膜10、上電極11、絶縁膜18a,18b及び絶縁膜12が、この順で積層されている。また、空洞17は、絶縁膜8と絶縁膜10との間に設けられている。そして、絶縁膜12表面には、梁部100と2つのリム部101とが設けられている。
【0025】
メンブレン102は、シリコン基板上に設けられる絶縁膜、電極及び空洞17の集合体である。交流電圧印加時にメンブレン102が振動することで、超音波が発生する。メンブレン102は梁部100及びリム部101を含む。
【0026】
梁部100は、上電極11の中央付近、絶縁膜18aの上表面に設けられている。梁部100は、絶縁膜12,13a,14a,15aがシリコン基板5側からこの順で積層されている。即ち、
図3に示すように、cMUT素子(超音波送受信素子)2の外表面には絶縁膜16(引張応力を与える膜)が形成され、梁部100は、シリコン基板(基板)5に近い方から、絶縁膜12(引張応力を与える膜)、絶縁膜13a(圧縮応力を与える膜)、絶縁膜14a(引張応力を与える膜)、及び絶縁膜15a(圧縮応力を与える膜)がこの順で積層されてなる。そして、梁部100の上面及び側面は、絶縁膜16によって被覆されている。梁部100に含まれる層数(積層される膜の数)は、梁部100とリム部101との間(即ち、梁部100とリム部101との間に形成される凹部における底部)におけるメンブレン102の層数よりも多くなっている。
【0027】
リム部101は、上電極11の両端に一部重複して、絶縁膜18bの上表面に設けられている。即ち、
図3に示すように、梁部100に離間してリム部101が設けられ、リム部101は、絶縁膜12,13b,14b,15b(応力の異なる材料からなる膜)が積層されてなる多層構造であり、リム部101が、空洞端21(空洞17の端部)よりも空洞17側に張り出している。リム部101が設けられることにより、cMUT素子2の強度を向上させることができる。また、リム部101は剛性が高いため、メンブレン102をより良好に振動させることができる。
【0028】
図3に示すリム部101,101の下側には、上電極11の両端(紙面左右方向端部)が形成されるように、リム部101,101が設けられている。リム部101は、絶縁膜12,13b,14b,15bを構成要素として、これらがシリコン基板5側からこの順で積層されている。そして、リム部101の上面及び梁部100に対向する面は、絶縁膜16によって被覆されている。リム部101に含まれる層数は、梁部100と同様に、梁部100とリム部101との間(即ち、梁部100とリム部101との間に形成される凹部における底部)におけるメンブレン102の層数よりも多くなっている。
【0029】
リム部101の端部であるリム端20は、空洞17の端部である空洞端21よりも張り出している。これにより、メンブレン102の空洞端21近傍の変形し易い部分の剛性を高めることができる。このため、各膜の応力変動によるメンブレン102の反りや空洞17のギャップ変動を小さくすることができる。
【0030】
リム部101と絶縁膜8との間は、各絶縁膜が複雑に積層されて構成されている。このような積層構造を有することで、リーク電流による絶縁破壊を防止することができる。
【0031】
下電極7及び上電極11は、いずれも平行平板電極である。そして、これらの電極に対して図示しない電源を接続して、直流電圧若しくは交流電圧を印加することにより、メンブレン102が反ることになる。即ち、上電極11が、下電極7側に引っ張られて近づくことになる。なお、メンブレン102は、下電極7及び上電極11への直流電圧の印加により反りが生じる部位である。また、交流電圧印加時には、メンブレン102は振動が生じる部位である。
【0032】
ここで、cMUT素子2に備えられる絶縁膜について説明する。cMUT素子2に備えられる絶縁膜は、二酸化ケイ素(二酸化シリコン;SiO
2)及び窒化ケイ素(窒化シリコン;Si
3N
4)により構成される。即ち、絶縁膜6,8,9,10,13a,13b,15a,15b,18a,18b(第1の絶縁膜)は、二酸化ケイ素により構成される。また、絶縁膜12,14a,14b,16(第2の絶縁膜)は、窒化ケイ素により構成される。このように、cMUT素子2に適用される絶縁膜は、2種の異なる絶縁材料により構成されている。これらの絶縁膜は、例えば化学気相成長法やスパッタ法により形成することができる。
【0033】
二酸化ケイ素からなる膜(第1の絶縁膜)は、圧縮応力を与える膜(圧縮応力の膜)である。一方、窒化ケイ素からなる膜(第2の絶縁膜)は、引張応力を与える膜(引張応力の膜)である。換言すれば、引張応力を与える膜は窒化ケイ素であり、圧縮応力を与える膜は二酸化ケイ素である。即ち、梁部100においては、表面が窒化ケイ素からなる膜で覆われ、その内側には、表面側から、圧縮応力の二酸化ケイ素からなる膜(絶縁膜15a)、引張応力の窒化ケイ素からなる膜(絶縁膜14a)、圧縮応力の二酸化ケイ素からなる膜(絶縁膜13a)、並びに引張応力の窒化ケイ素からなる膜(絶縁膜12)がこの順で積層されていることになる。リム部101においても、略同様に積層されている。
【0034】
即ち、超音波探触子1は、シリコン基板(基板)5と、シリコン基板5上に形成される絶縁膜6,8,9,10,12,18a,18bと、シリコン基板5と絶縁膜6,8,9,10,12,18a,18bとの間に形成される空洞17と、シリコン基板5に対して平行に空洞17を挟んで設けられる上電極11及び下電極7(一対の電極)と、を備えるcMUT(超音波送受信素子)2を有するものである(
図1及び
図3参照)。そして、超音波探触子1においては、超音波送受信素子2は、
図3に示すように、上電極11及び下電極7のうちのシリコン基板5から離れた上電極11(電極)の上に、応力の異なる材料からなる膜12,13a,14a,15aが積層されてなる多層構造の梁部100が設けられ、梁部100は、絶縁膜12,14a(引張応力を与える膜)と絶縁膜13a,15a(圧縮応力を与える膜)とが積層されてなる。
【0035】
もし、圧縮応力の膜と引張応力の膜とが積層されずに1種の層のみからなる場合、反りばらつきが生じ易い。特に、ロット間で製造ばらつきが生じ、製造ロット間で応力が異なるものになった場合、梁部が設けられていると応力の作用が複雑になる。そのため、メンブレン駆動のばらつきを抑えることは難しい。しかしながら、積層される層の数(層数)が2層の場合、例えばバイメタルのように応力ばらつきが反り量に反映されることがあるものの、前記のばらつきを抑えることができる。これにより、良好な特性安定性を得ることができる。さらに、前記層数が3層以上である場合、このようなばらつきをより確実に抑えることができる。
【0036】
従って、超音波探触子1において、
図3に示すように、梁部100に含まれる絶縁膜12,13a,14a,15a(膜)の層数は、梁部100以外の部位を構成する絶縁膜12,16の層数よりも多くなっている。具体的には、超音波探触子1においては、梁部100は4層からなり、梁部100以外の部位を構成する絶縁膜は2層である。このように、梁部100の層数は、梁部100以外の部位を構成する絶縁膜の層数よりも多くなっている。また、超音波探触子1において、引張応力を与える膜(絶縁膜12,14a)、並びに、圧縮応力を与える膜(絶縁膜13a,15a)は、絶縁膜である。
【0037】
梁部100においては、圧縮応力を与える膜と引張応力を与える膜とが積層されている。そのため、もし各絶縁膜の応力がばらつきにより変動した場合でも、梁部100がこのような積層構造を有することで、引張応力の膜と圧縮応力の膜とがバランスする。その結果、製造ロット間でのメンブレン102の反りの変動が小さく、空洞17のギャップ間隔のばらつきを小さくすることができる。
【0038】
また、メンブレン102を構成する各絶縁膜の応力の総和が圧縮応力となる場合は、座屈が発生する。これにより、メンブレン102が正常に振動しなくなるか、場合によっては座屈による割れが発生することがある。そのため、各絶縁膜の応力の総和は引張応力になることが好ましい。即ち、シリコン基板(基板)5上に形成される絶縁膜(膜)6,8,9,10,12,18a,18bの応力の総和が引張応力である。また、各絶縁膜の応力の平均値も同様に引張応力になることが好ましい。従って、cMUT素子2においては、各絶縁膜の応力の総和は引張応力になるように、層数を決定している。
【0039】
なお、梁部100及びリム部101を覆う絶縁膜16は、前記のように引張応力を与える膜であるが、cMUT素子2の表面を保護(例えば異物の混入、防湿等)する機能も有する。
【0040】
次に、
図4を参照しながら、メンブレン102の厚さと梁部100の高さとの関係について説明する。cMUT素子2においては、
図4に示すように、メンブレン102の応力中立面103が、梁部100の梁中立面104よりも低い位置になっている。即ち、応力中立面103と梁中立面104とを比較した際に、応力中立面103が上電極11により近くなるようになっている。従って、応力中立面103及び梁中立面104がこのような関係を満たすように、メンブレン102及び梁部100の高さが設定される。
【0041】
即ち、超音波探触子1において、
図4に示すように、シリコン基板(基板)5上に形成されている絶縁膜6,8,9,10,12,18a,18bのシリコン基板5に垂直な方向の応力中立面103が、梁部100のシリコン基板5に垂直な方向の梁中立面104よりも、シリコン基板5
に近い位置に存在する。
【0042】
なお、前記の「中立面」に関して、本実施例では以下のように定義する。即ち、各膜の応力によりメンブレン102に曲げ変形(反り)が発生した場合、凹側は縮み、凸側は伸びている状態であるが、この境界の縮みや伸びがない、即ち歪がゼロとなる面を「中立面」と呼称するものである。
【0043】
メンブレン102が駆動(反り及び振動)するときの支点は、空洞17の上面端部105である。また、メンブレン102が駆動するときの振動中心は、空洞17の上面106近傍である。従って、応力中立面103が上面106から離れるに従ってメンブレン102に発生する曲げモーメントが大きくなる。その結果、メンブレン102の反りが大きくなるとともに、各絶縁膜の応力ばらつきの影響度も大きくなる。
【0044】
このことを考慮すると、応力中立面103は、上面106にできるだけ近くなるように設定することが好ましい。即ち、cMUT素子2においては、上面106と応力中立面103との距離と、上面106と梁中立面104との距離とを比較した場合、前者の距離の方が短くなるように設定される。
【0045】
<cMUT素子2についての変形例>
図5は、
図3に示すcMUT素子2の変更例である。なお、
図5に示すcMUT素子2aにおいて、
図3に示すcMUT素子2と同じ部材については同じ符号を付すものとし、その詳細な説明は省略する。
【0046】
cMUT素子2aは、梁部100において、絶縁膜15aと絶縁膜16との間に高剛性膜22aが設けられている。また、リム部101において、絶縁膜15bと絶縁膜16との間に高剛性膜22bが設けられている。このような高剛性膜22a,22bが設けられることにより、メンブレン102の剛性を高めることができる。その結果、各絶縁膜の応力ばらつきに対して、反り変動やギャップ間隔の変動を小さく抑えることができる。
【0047】
高剛性膜22a,22bを構成する具体的材料は特に制限されないが、タングステン(W)、炭化タングステン(WC)、ほう化タングステン(W
2B
5)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、モリブデン(Mo)、ほう化モリブデン(Mo
2B
5)、炭化モリブデン(Mo
2C)、ほう化チタン(TiB
2)及び炭化ケイ素(SiC)が好適である。また、これらの中でも、タングステンが特に好適である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
即ち、
図5に示すように、cMUT素子(超音波送受信素子)2の外表面には絶縁膜16(引張応力を与える膜)が形成され、高剛性膜22a(梁部100の最上膜)として、絶縁膜16(外表面の引張応力を与える膜)に接して、タングステン、炭化タングステン、ほう化タングステン、窒化チタン、炭化チタン、モリブデン、ほう化モリブデン、炭化モリブデン、ほう化チタン及び炭化ケイ素からなる群より選ばれる1種以上の膜が形成されている。
【0049】
これらの材料についてのヤング率を下記表1にまとめた。また、表1には、二酸化ケイ素(第1の絶縁膜)及び窒化ケイ素(第2の絶縁膜)のヤング率も併せて示している。
【0051】
表1に示すように、高剛性膜22a,22bに適用可能な材料は、二酸化ケイ素及び窒化ケイ素のそれぞれのヤング率よりも大きなヤング率を有する材料である。即ち、高剛性膜22a,22bに適用可能な材料が有するヤング率としては、300GPa以上であることが好ましい。そして、このような高剛性膜22a,22bを備えることで、ギャップ間隔の変動を抑制する効果をよりいっそう引き出すことができる。
【0052】
<メンブレン102の間隔変動量の評価>
図3に示すcMUT素子2、
図5に示すcMUT素子2a、並びに比較例のcMUT素子(図示せず)のそれぞれについて、メンブレンの間隔変動量について検討した。なお、比較例のcMUT素子においては、梁部が設けられるとともに、梁部の最上層膜より下の絶縁膜が二酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の2層構造のものである。即ち、
図3に示すcMUT素子2において、絶縁膜12,13a,13bが省かれた梁部100及びリム部101を備えるcMUT素子である。
【0053】
間隔変動量について、
図6を参照しながら説明する。なお、
図6において、図示の簡略化のために空洞17近傍の部材のみを示し、cMUT素子2を構成する部材の一部を省略して記載している。
【0054】
メンブレンは、通常は、メンブレンを構成する各絶縁膜や上電極膜の応力バランスにより、初期の反り変形量が決まる。各絶縁膜や上電極の応力が製造ロット間や、ウエハ面内のばらつきにより変動した場合は、応力バランスが変化するため、初期の反り変形量も
図6(b)の(i)(ii)(iii)のように変わることになる。
【0055】
初期の反りの場合の、空洞17の高さ方向の幅はL0とすると、製造ロットばらつきや、ウエハ面内のばらつきにより、空洞17の高さ方向の幅が
図6(b)に示すようにばらつくことがある。例えば、(i)では標準的な幅L1となったにも関らず、(ii)ではメンブレン102があまり反らず、幅がL2(L1<L2)と長くなっている。また、(iii)では、メンブレン102が極端に反ってしまい、幅がL3(L1>L3)と短くなっている。これらの反りのばらつき(空洞17の高さ方向の幅のばらつき)は、例えば製造ロット間のばらつきに起因するものである。
【0056】
そして、このような幅のばらつき(即ち、標準的な幅L1に対する差分)が過度に大きい場合、前記のような課題が生じることになる。そこで、このような幅のばらつきは、製造ロット間でできるだけ小さいことが好ましい。幅のばらつきを小さくすることで、同じ電圧(直流電圧及び交流電圧)を印加したときのメンブレンの挙動を全ての製造ロット間で同様にすることができる。
【0057】
以上の点を踏まえ、cMUT素子2、cMUT素子2a、並びに従来のcMUT素子のそれぞれについて、メンブレンの間隔変動量(即ち、製造ロット間での幅の変動量)を評価した。評価は、有限要素法によるシミュレーションにより行った。その結果を
図7に示す。
【0058】
図7に示すグラフにおいては、所定の直流電圧を印加した際のcMUT素子における幅のばらつきを所定回数評価し、それらのうちの最大幅と最小幅との差を規格化して示している。
図7に示すように、比較例のcMUT素子の間隔変動量を1とした場合、本実施形態のcMUT素子2の間隔変動量は0.5であった。また、本実施形態のcMUT素子2aの間隔変動量は0.3であった。
【0059】
このように、本実施形態のcMUT素子2,2aを用いることで、間隔変動量を小さくすることができる。即ち、本実施形態のcMUT素子2,2aによれば、メンブレンの駆動のばらつきを小さくすることができる。換言すれば、製造ロット間での幅のばらつきを小さくすることができる。これにより、音響特性のばらつきを小さくすることができ、特性安定性に優れた超音波探触子を提供することができる。
【0060】
<本実施形態の超音波探触子を用いた超音波診断装置>
次に、本実施形態の超音波探触子を備える超音波診断装置(本実施形態の超音波診断装置)について、
図8を参照しながら説明する。即ち、
図8は、前記の超音波探触子1を備える超音波診断装置201を示す図である。
【0061】
超音波診断装置201は、被検体内に超音波を送信し受信して得られたエコー信号を用いて診断部位の2次元超音波画像、3次元超音波画像あるいは各種ドプラ画像を構成して表示するものである。具体的には、超音波診断装置201は、
図8(a)に示すように、超音波探触子1と、超音波探触子1が電気的に接続されている超音波送受信部204と、超音波画像形成部205と、表示部206と、制御部207と、コントロールパネル208とを備えて構成される。
【0062】
超音波探触子1は、被検体95に超音波を送信して反射したエコーを受信するものである。超音波探触子に搭載されるcMUT素子としては、
図3に示すcMUT素子2や
図5に示すcMUT素子2aが適用される。超音波探触子1の具体的な構成は
図1等を参照しながら前記したため、その説明を省略する。
【0063】
超音波送受信部204は、被検体95に送信する超音波信号を発生するためのパルス状の電気信号を発生するものである。超音波送受信部204は、発生させた電気信号を超音波探触子1に送信する送信パルス発生部と、超音波探触子1で受信したエコー信号を電気信号に変換する変換部とを備える。超音波送受信部204は、例えば市販されている任意の超音波送受信機等により構成される。
【0064】
超音波画像形成部205は、受信信号から2次元超音波画像、3次元超音波画像あるいは各種ドプラ画像を形成するものである。超音波画像形成部205は、具体的には例えばCPU(Central Processing Unit)等により構成される。
【0065】
表示部206は、超音波画像形成部205で形成された超音波画像を表示するものである。また、表示部206には、後記するコントロールパネル208によって入力された情報や、その他診断に必要な情報等も併せて表示される。表示部206は、具体的には例えばLCD(Liquid Crystal Display)やモニタ装置等により構成される。
【0066】
制御部207は、後記するコントロールパネル208で入力される制御情報に基づいて各手段を制御するものである。制御部207は、具体的には例えばCPU等により構成される。
【0067】
コントロールパネル208は、作業者が被検体95に対して所望の診断を行えるように、任意の情報が作業者によって入力されるものである。そして、この入力された情報に基づいて、制御部207が各手段を制御する。コントロールパネル208は、具体的には例えば押しボタン、タッチパネル等により構成される。
【0068】
そして、超音波診断装置201を被検体95に具体的に適用した様子が、
図8(b)である。
【0069】
超音波探触子1を用いた前記超音波診断装置201は、cMUT素子2,2aを構成する絶縁膜の応力ばらつきがあっても、各素子において、メンブレン102の反りのばらつきが小さい。そのため、空洞17の幅(ギャップ間隔)のばらつきが小さくなり、cMUT素子2,2aを駆動(初期位置にメンブレンを移動)するための直流電圧のばらつきが小さい。
【0070】
この直流電圧の大きさは、送信音圧及び受信感度の特性を決定する因子である。そのため、直流電圧のばらつきが小さくなると、送信受信の感度ばらつきや信号のばらつきが小さくなる。従って、超音波診断装置201で表示する前記超音波画像の表示むらや粒子状に荒れたような部分がなく、高精細な画像を提供することができる。
【0071】
<変更例>
以上、具体的な実施形態を挙げて本実施形態を説明したが、本実施形態は前記の内容に何ら制限されるものではない。例えば、各絶縁膜を構成する材料としては、前記の実施形態においては二酸化ケイ素及び窒化ケイ素を用いているが、引張応力を与える材料と圧縮応力を与える材料とを適宜組み合わせて用いればよい。
【0072】
また、梁部100内部に含まれる絶縁膜の層数は図示の層数(絶縁膜12,13a,14a,15aの4層)に限定されず、単数層又は複数層等の任意の層数に設定すればよい。さらに、リム部101内部に含まれる絶縁膜の層数も図示の層数(絶縁膜12,13b,14b,15bの4層)に限定されず、単数層又は複数層等の任意の層数に設定すればよい。これらの層数は、梁部100及びリム部101内部で、異なる層数にしてもよい。さらに図示の例では、梁部100に含まれる層数は、梁部100とリム部101との間におけるメンブレン102の層数よりも多くなっているが、このような層数の関係に限定されるものではない。また、梁部100及びリム部101の高さは異なっていてもよい。
【0073】
また、メンブレン102を構成する電極や絶縁膜の厚さも特に限定されず、適宜設定すればよい。ただし、
図4を参照しながら説明した関係を満たすように、電極や絶縁膜の厚さ(即ちメンブレン102および梁部100の高さ)を設定することが好ましい。
【0074】
また、図示の例では、引張応力を与える層と圧縮応力を与える層とが交互に積層されているが、積層の形態としてはこの図示の例に限定されるものではない。