(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記操舵角及び前記操舵トルクの何れか一方と前記手応え量との予め定められた関係は、前記操舵角及び前記操舵トルクの何れか一方の増加に従って前記手応え量が増加するように定められた請求項1記載の車両制御装置。
前記目標設定手段は、前記操舵速度の各々における前記操舵角及び前記操舵トルクの何れか一方と前記手応え量との関係に基づいて予め定められる、前記操舵速度の各々における前記操舵角と前記操舵トルクとの対応関係に基づいて、前記検出された前記操舵角及び前記操舵速度に対応する前記操舵トルクを目標値として設定する請求項1又は2記載の車両制御装置。
前記手応え量を、前記操舵トルクの感覚量の増加に対して、前記操舵角の変化に対する前記操舵トルクの変化の割合の感覚量が加速度的に減少する関係であるときに一定となるものとした請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両制御装置。
前記操舵トルクの感覚量を、前記操舵トルクと共に増加し、前記操舵トルクの増加に応じた増加量が、徐々に小さくなる傾向から徐々に大きくなる傾向に変化するものとした請求項1〜請求項4の何れか1項記載の車両制御装置。
前記操舵トルクの増加に応じた増加量が、徐々に小さくなる傾向から徐々に大きくなる傾向に変化するときの操舵トルクを、2〜3Nmとした請求項5記載の車両制御装置。
前記操舵角の変化に対する前記操舵トルクの変化の割合の感覚量を、前記操舵角の変化に対する前記操舵トルクの変化の割合の対数に比例するものとした請求項1〜請求項6の何れか1項記載の車両制御装置。
前記制御手段は、前記目標設定手段によって設定された前記操舵トルクの目標値に応じたトルクアシスト量又は前記操舵トルクの目標値を発生させるように制御する請求項1〜請求項7の何れか1項記載の車両制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る車両制御装置10は、車両の操舵輪12、14を操舵するためにドライバにより操舵されるステアリング16と、ドライバのステアリング操舵により回転駆動されるステアリングシャフト18と、ステアリングシャフト18の回転運動を直線運動に変換して操舵輪12、14へ伝達するラックアンドピニオン機構20と、操舵輪12、14の切り角を変更するための操舵アシストトルクを減速機22を介してステアリングシャフト18へ伝達して操舵輪12、14へ出力する電動パワーステアリング装置用モータ(操舵アクチュエータ)24と、ステアリング16の角度(操舵角)を検出する操舵角センサ26と、ステアリング16のトルク(操舵トルク)を検出する操舵トルクセンサ28と、装置全体をコントロールするコンピュータ30と、を備える。
【0025】
コンピュータ30は、CPUと、RAMと、後述する特性算出処理ルーチン及びトルク制御処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。
図2に示すように、コンピュータ30は、操舵角センサ26から入力された操舵角信号に基づいて、中立状態(直進状態)であるか否か、及び何れの操舵方向に操舵する操舵状態であるかを判定する状態判定部40と、操舵角センサ26から入力された操舵角信号に基づいて、操舵角の時間変化量(操舵速度)を検出する操舵速度検出部41と、中立状態から操舵方向を切り替えずに操舵している時における操舵速度毎の操舵角と操舵トルクとの対応関係を表わす第1マップ、及び通常の操舵時における操舵角と操舵トルクとの対応関係を表わす第2マップを記憶した目標マップ記憶部42と、状態判定部40の判定結果に応じて第1マップ又は第2マップを用いて、操舵トルクの目標値を設定するトルク目標設定部44と、設定された操舵トルクの目標値、及び検出された操舵トルクに基づいて、電動パワーステアリング装置用モータ24の作動を制御するアシスト制御部46とを備えている。
【0026】
ここで、本実施の形態における原理について説明する。
【0027】
まず、一般的な車両の特性について説明する。ステアリング切り込み時の操舵反力特性(操舵トルクと操舵角の関係)は、
図3(A)に示すように、一般的に下に凸の変化となることが知られている。これは操舵トルクの増加とともに、操舵角の変化に対する操舵トルクの変化の比(以下、「剛性」とも称する。)が単調に低下することを表しているが、この低下度合いは車種や走行条件により様々である。
図3(B)に示すように、操舵トルクの増加とともに剛性は単調に低下するものの、低下速度(
図3(B)の曲線の勾配)がゆらぐことが一般的である。
【0028】
上記剛性の低下度合いがある特徴を持つとき、ドライバは操舵感が良いと感じる。これは操舵に伴う「手応え」(舵が元の位置に戻ろうとして抵抗を受ける感覚)が不自然に揺らぐことが無いからである。
【0029】
上記の操舵感が良いと感じられる特性は、人間の感覚の非線形性を考慮すると理解が容易となる。ここでは、操舵トルクと剛性の2つの物理量に対する感覚特性がポイントとなる。
【0030】
まず、物理量と感覚量との関係について説明する。ここでは、操舵トルクと剛性に関し、物理量と感覚量との関係について述べる。
【0031】
操舵トルクの物理量と感覚量との関係は、操舵トルクを様々に変化させ、その時々に感じる物理量の大きさを数値で回答するという「マグニチュード推定法」により、
図4のように得られることがわかっている。すなわち、物理量に対し感覚量は単調に増加するものの、ある領域を境に上に凸から下に凸に変化する特徴があり、この変曲点となる操舵トルクは2〜3Nm程度である。なお、被験者数は3名であり、いずれの被験者の結果も同じ傾向を示した。また、調査には、
図5に示すような、操舵反力特性(操舵角と操舵トルクとの関係)を自由に変更可能なステアリングシミュレータを用いた。
【0032】
剛性の物理量と感覚量の関係は、基準となる剛性から徐々に変化させていき、初めて変化を知覚できる変化量(閾値)を調べる「極限法」を用いることで、
図6(A)のように得られることがわかっている。この比例関係はWeberの法則としてよく知られている傾向であり、これが成り立つとき、感覚量は物理量の対数に比例することがWeder−Fechnerの法則として知られている。この関係を
図6(B)に示す。なお被験者数は5名であり、いずれかの被験者の結果も同じ傾向を示した。また、剛性の感覚量は、剛性の物理量の対数に比例するものと定義した。
【0033】
次に、手応えが不自然に揺らがない、操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量の関係について説明する。
【0034】
上述したステアリングシミュレータを用い、同じ手応えに感じる操舵トルクと剛性の関係を調べた結果、両者の感覚量同士で比較すると剛性が操舵トルクに対して単調に減少する関係にあり、かつ、操舵トルクの感覚量がある一定値で飽和するように漸近することがわかっている。
図7に示すように、基準となる組み合わせを変更しても上記傾向は同じであり、基準となる手応えが大きいときには、前記漸近線が右側にシフトする。操舵トルクと剛性がこのような関係を有する操舵反力特性(操舵トルクと操舵角の関係)のとき、ドライバは一様な手応えで操舵することが可能と考えられる。
【0035】
次に、操舵速度ごとの手応え等高線について説明する。
図7の操舵トルクと剛性の関係を有するような同じ手応えと感じる操舵反力特性は、操舵速度が速い場合に手応えが小さくなるように感じられることがわかった(
図8)。したがって、操舵角と手応えの目標特性を設定した場合、操舵速度が様々に変化しても目標を達成できる操舵トルクを求めるために、操舵速度も考慮した操舵トルクと剛性の関係を明らかにする必要がある。
【0036】
そこで、操舵速度に応じて操舵トルクを補正する方法により、操舵速度が異なっていても同じ手応えと感じる操舵トルクと剛性の関係を求めた(
図9(A)〜(C))。
図9(A)〜(C)について、番号が同じ手応え等高線は、操舵速度がx、y、z、(x<y<z)と変化しても同じ手応えに感じる特性である。この結果から、操舵速度が速くなると、同じ手応えに感じる等高線は右上方向にシフトする、すなわち操舵速度を考慮しない場合の操舵トルクと剛性の感覚量の関係において、手応えが大きくなる方向にシフトすることがわかる。
【0037】
上記の
図9(A)〜(C)の手応え等高線を利用することで、操舵速度が変わっても目標に設定した手応えと操舵トルクの関係を実現できるようになる。
【0038】
次に、本実施の形態において目標とする操舵トルクと手応え量との関係について説明する。
【0039】
目標とする操舵トルクと手応え量との関係については、操舵速度毎に、上述したステアリングシミュレータを用いて、ステアリングホイールの中立位置から舵を切り込む際の操舵反力特性に関し、各操舵トルクについて感覚特性に合致すると感じる手応え量を調べることにより、各操舵速度における目標とする操舵トルクと手応え量との関係を求める。
【0040】
例えば、ステアリングホイールの中立位置から舵を切り込む際の操舵反力特性に関し、
図10に示すように、操舵角変化に対する操舵トルクの変化割合(剛性)の感覚量と操舵トルクの感覚量から定義される手応え量が、操舵トルクが小さい領域では一定で、かつ、操舵トルクの大きい領域では、操舵トルクの増加に伴って単調に増加するように定めた、操舵速度毎の操舵トルクと手応え量との関係を用いて、操舵反力特性を定める。
【0041】
操舵トルクの増加に伴って徐々に手応え量を増加していくことは、
図11に示すように、操舵トルクの感覚量の増加に応じて徐々に手応え等高線の高い方で登っていくことで実現可能である。また、上記
図4に示すように、操舵トルクが大きい領域では、物理量の増加に対して感覚量が加速度的に増加するため、この非線形性を考慮しないと、過度に手応え量が増加しすぎることとなる。このため、物理量の増加に対して感覚量が加速度的に増加する領域において、この非線形性を考慮して手応え量を定義することがポイントとなり、上記
図10に示すように、操舵トルクの変化に対して急激な変化とならないよう手応え量を滑らかに増加させることが望ましい。
【0042】
なお、舵の中立位置では操舵角及び操舵トルクともに0であるため、操舵を開始した際には手応え量はE
0である。
【0043】
従って、本実施の形態では、中立状態から、操舵方向を切り替えずに操舵しているときに、操舵トルクの増加に伴って単調に増加するように操舵速度毎に定めた、操舵トルクと手応え量との関係に基づいて決定される、各操舵速度における操舵角と操舵トルクとの関係(操舵反力特性マップ)に基づいて、目標となる操舵トルクを実現する制御を行う。
【0044】
状態判定部40は、操舵角センサ26から入力された操舵角信号に基づいて、中立状態(直進状態)であるか操舵状態であるかを判定すると共に、メモリ(図示省略)に記録する。また、状態判定部40は、操舵状態である場合には、何れの操舵方向の操舵状態であるか否かを判定して、メモリに記録する。
【0045】
状態判定部40は、現在の状態までの判定結果の時系列データに基づいて、中立状態(直進状態)から、操舵方向を切り替えずに操舵している一方向操舵状態であるか否かを判定する。
【0046】
なお、ステアリング16の操舵方向については、操舵角センサ26により検出される操舵角に基づいて判定される。例えば、前回入力した操舵角と今回入力した操舵角との差の符号、すなわち正負により、ステアリング16の操舵方向が判定される。
【0047】
操舵速度検出部41は、操舵角センサ26から入力された操舵角信号に基づいて、操舵角の時間変化量(操舵速度)を算出する。なお、操舵速度を計測するセンサを取り付け、操舵角の時間変化量を得てもよい。
【0048】
目標マップ記憶部42は、操舵速度毎に、一方向操舵状態に対して、上記
図10に示すような、当該操舵速度における操舵トルクと手応え量との関係に基づいて後述する方法により予め定められた当該操舵速度における操舵トルクと操舵角との対応関係を表わす第1マップを予め記憶している。また、目標マップ記憶部42は、一方向操舵状態以外の状態に対して、上記の
図3に示すような操舵角が大きいほど操舵トルクが大きくなるように予め定められた操舵角と操舵トルクとの対応関係を表わす第2マップを予め記憶している。第2マップは、従来既知の操舵角に対する操舵トルクの対応関係を表わしている。
【0049】
トルク目標設定部44は、一方向操舵状態であると判定された場合に、操舵角センサ26から入力された操舵角信号、及び操舵速度検出部41により検出された操舵速度に対応する第1マップに基づいて、検出された操舵角及び操舵速度に対応する操舵トルクを、目標値として設定する。また、トルク目標設定部44は、一方向操舵状態以外であると判定された場合に、操舵角センサ26から入力された操舵角信号及び記憶された第2マップに基づいて、検出された操舵角に対応する操舵トルクを、目標値として設定する。
【0050】
アシスト制御部46は、設定された操舵トルクの目標値と、操舵トルクセンサ28によって検出された操舵トルクとを比較して、操舵トルクの目標値に合わせて操舵トルクの増加分または減少分を算出し、トルクアシスト量の指令値を演算する。また、アシスト制御部46は、演算したトルクアシスト量の指令値に基づいて、ステアリング16に作用する操舵トルクが操舵トルクの目標値となるように、電動パワーステアリング装置用モータ24を駆動制御する。ここでの電動パワーステアリング装置用モータ24の駆動制御については、例えば操舵トルクの目標値と検出される操舵トルクとの偏差に基づくPI(比例積分)制御を用いてもよい。
【0051】
次に、第1の実施の形態に係る車両制御装置10の作用について説明する。まず、オフラインにおいて、コンピュータ30において、
図12に示す特性算出処理ルーチンが実行される。なお、この特性算出処理ルーチンは、外部装置で実行してもよい。
【0052】
まず、ステップ100において、操舵速度v
sを0に設定する。次に、ステップ101において、操舵速度の刻み量dv
sを所定値に設定する。そして、ステップ102において、メモリ(図示省略)に記憶された、上記
図10に示すような、操舵速度v
sにおける操舵トルクと手応え量との関係を読み込み、ステップ103で、操舵角qと操舵トルクTとを0に設定する。次に、ステップ104において、操舵トルクの刻み量dTを所定値に設定する。
【0053】
そして、ステップ106において、読み込んだ操舵速度v
sにおける操舵トルクと手応え量との関係に基づいて、操舵トルクTに対応する手応え量の目標値E
Tを算出する。例えば、操舵トルクTが0である場合には、手応え量の目標値E
0が算出される。次のステップ108では、操舵トルクの物理量Tを、操舵トルクの感覚量に変換する。
【0054】
そして、ステップ110において、メモリに記憶された、
図13に示すような、操舵速度v
sにおける手応え量が一定値となる操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量の関係を示す手応え等高線マップを用いて、上記ステップ106で算出された手応え量の目標値E
T及び上記ステップ108で算出された操舵トルクの感覚量に対応する剛性の感覚量を、マップの逆引きにより算出する。
【0055】
そして、ステップ112において、上記ステップ110で算出した剛性の感覚量を、剛性の物理量k
Tに変換する。例えば、操舵トルクTが0である場合には、剛性の物理量k
0が得られる。
【0056】
次のステップ114では、上記ステップ112で算出した剛性の物理量k
Tから、以下の(1)式に従って、操舵角q
T+dTと操舵トルクT+dTとの組み合わせを算出して、操舵速度v
sに対する組み合わせとして、メモリに記録する。
【0057】
【数1】
例えば、操舵トルクTが0近傍である場合における剛性がk
0となるように、操舵トルクと操舵角との組み合わせが算出される。
【0058】
上記(1)式によって算出された操舵角q
T+dTに、操舵角qは更新される。
【0059】
そして、ステップ116において、操舵角及び操舵トルクが十分に大きいか否かを判定し、操舵角及び操舵トルクが十分に大きい場合には、操舵速度v
sに対して全領域における操舵トルクと操舵角の対応関係が得られたと判断して、ステップ120へ進む。一方、操舵角及び操舵トルクが十分に大きくない場合には、ステップ118において、操舵トルクTを、刻み量dTだけ増加させて、上記ステップ106へ戻る。
【0060】
ステップ120では、操舵速度v
sが十分に大きいか否かを判定し、操舵速度v
sが十分に大きい場合には、全領域の操舵速度v
sにおいて操舵トルクと操舵角の対応関係が得られたと判断して、特性算出処理ルーチンを終了する。一方、操舵速度v
sが十分に大きくない場合には、ステップ122において、操舵速度v
sを、刻み量dv
sだけ増加させて、上記ステップ102へ戻る。
【0061】
上記のように、特性算出処理ルーチンでは、操舵トルクを刻み量dT毎に徐々に増加させていくことで、操舵トルクと操舵角との組み合わせを各々算出し、算出された全領域における操舵トルクと操舵角の対応関係に基づいて、第1マップを作成する。例えば、
図14に示すように、操舵トルクの刻み幅dTごとに、対応する操舵角(
図14の○点参照)が求められるため、それらを線形補間して、第1マップを生成する。また、操舵速度dv
sを刻み量dv
s毎に徐々に増加させていくことで、操舵速度の刻み幅dv
sごとに、操舵速度v
sに対する第1マップを生成する。なお、補間方法として3次スプラインを用いてもよい。このように生成された操舵速度v
s毎の第1マップが、目標マップ記憶部42に記憶され、検出された操舵速度v
sに対する第1マップを用いて操舵反力特性を制御することにより、任意の操舵速度v
sにおいて所望の操舵トルクと手応えの関係を実現することができる。
【0062】
次に、車両制御装置10を搭載した車両の走行中に、コンピュータ30において、
図15に示すトルク制御処理ルーチンが実行される。
【0063】
まず、ステップ130において、操舵トルクセンサ28からの操舵トルク信号及び操舵角センサ26からの操舵角信号を取得する。次のステップ131において、上記ステップ130で取得した操舵角信号に基づいて、操舵速度を算出する。ステップ132において、上記ステップ130で取得した操舵角信号に基づいて、中立状態であるか操舵状態であるかを判定すると共に、何れの操舵方向の操舵状態であるかを判定し、メモリ(図示省略)に記録する。
【0064】
ステップ134において、上記ステップ132の判定結果の時系列データに基づいて、中立状態から、操舵方向を切り替えずに操舵している一方向操舵状態であるか否かを判定する。一方向操舵状態であると判定された場合には、ステップ136において、目標マップ記憶部42から、上記ステップ131で算出した操舵速度に対する第1マップを読み出し、上記ステップ130で取得した操舵角信号が示す操舵角に対応する操舵トルクを、目標値として設定し、ステップ140へ移行する。
【0065】
一方、上記ステップ134で、一方向操舵状態ではないと判定された場合には、ステップ138において、目標マップ記憶部42から第2マップを読み出し、上記ステップ130で取得した操舵角信号が示す操舵角に対応する操舵トルクを、目標値として設定し、ステップ140へ移行する。
【0066】
ステップ140では、上記ステップ130で取得した操舵トルク信号を示す操舵トルク、及び上記ステップ136又は138で設定された操舵トルクの目標値に基づいて、トルクアシスト量の指令値を算出する。そして、ステップ142において、上記ステップ140で算出されたトルクアシスト量の指令値に基づいて、ステアリング16に作用する操舵トルクが操舵トルクの目標値となるように、電動パワーステアリング装置用モータ24を駆動制御して、ステップ130へ戻る。
【0067】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車両制御装置によれば、ステアリングの中立状態から操舵方向が切り替わらずに操舵されているとき、操舵速度の各々におけるドライバの感覚特性に合致した操舵トルクと手応え量との関係を実現するように、操舵トルクの目標値を設定して制御することにより、任意の操舵速度に応じて、操舵トルク(反力)と剛性に関するドライバの感覚特性に合致した操舵反力特性(操舵中の反力・剛性の変化度合い)を与えることができ、車両の操安性及びドライバの操舵感が向上する。
【0068】
次に、第2の実施の形態に係る車両制御装置について説明する。なお、第2の実施の形態に係る車両制御装置は、第1の実施の形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
第2の実施の形態では、ドライバの感覚特性に応じて定められた操舵角と手応え量との関係に基づいて、第1マップを作成している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0070】
第2の実施の形態では、ステアリングホイールの中立位置から舵を切り込む際の操舵反力特性に関し、
図16に示すように、操舵角変化に対する操舵トルクの変化割合(すなわち、剛性)の感覚量と操舵トルクの感覚量から定義される手応え量が、操舵角が小さい領域では一定で、かつ、操舵角の大きい領域では、操舵角の増加に伴って単調に増加するように定めた、各操舵速度に対する操舵角と手応え量との関係を用いて、各操舵速度における操舵反力特性(操舵角と操舵トルクとの対応関係)を定める。
【0071】
従って、本実施の形態では、中立状態から、操舵方向を切り替えずに操舵しているときに、手応え量が、操舵角が所定値未満の領域では一定で、かつ、操舵角が所定値以上の領域では、操舵角の増加に伴って単調に増加するように定めた、各操舵速度に対する操舵角と手応え量との関係に基づいて決定される、各操舵速度における操舵角と操舵トルクとの関係(操舵反力特性マップ)に基づいて、目標となる操舵トルクを実現する制御を行う。
【0072】
目標マップ記憶部42は、一方向操舵状態に対して、操舵速度毎に、上記
図16に示すような、当該操舵速度における操舵角と手応え量との関係に基づいて予め定められた操舵トルクと操舵角との対応関係を表わす第1マップを予め記憶している。
【0073】
次に、第2の実施の形態に係る特性算出処理ルーチンについて、
図17を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
まず、ステップ100において、操舵速度v
sを0に設定する。次に、ステップ101において、操舵速度の刻み量dv
sを所定値に設定する。そして、ステップ200において、メモリ(図示省略)に記憶された、上記
図16に示すような操舵速度v
sに対する操舵角と手応え量との関係を読み込み、ステップ103で、操舵角qと操舵トルクTとを0に設定する。次に、ステップ202において、操舵角の刻み量dqを所定値に設定する。
【0075】
そして、ステップ204において、読み込んだ操舵速度v
sに対する操舵角と手応え量との関係に基づいて、操舵角qに対応する手応え量E
qを算出し、ステップ206で、操舵角q+dqに対応する手応え量の目標値E
q+dqを算出する。
【0076】
そして、ステップ208において、メモリに記憶された、
図18に示すような操舵速度v
sにおける手応え量が一定値となる操舵トルクの感覚量と剛性の感覚量の関係を示す手応え等高線マップを用いて、上記ステップ206で算出された手応え量の目標値E
q+dqを実現する剛性k
qの感覚量と操舵トルクT
q+dqの感覚量の組み合わせを、マップの逆引きにより求める。そして、操舵角がdq増える間に手応えをE
qからE
q+dqにちょうど変化させるための適切な剛性k
qを、ニュートン法などの収束演算手法を用いて探索し、探索された剛性k
qと組み合わせとなる操舵トルクT
q+dqを、上記求められた剛性k
qの感覚量と操舵トルクT
q+dqの感覚量の組み合わせの各々を参照して求める。このとき、操舵トルクの感覚量と操舵トルクの物理量T
q+dqとの変換、及び剛性の感覚量と剛性の物理量k
qとの変換は、上述した方法により行われる。
【0077】
次のステップ212では、上記ステップ208で探索した操舵トルクの物理量T
q+dq及び剛性k
qから、以下の(2)式に従って、操舵トルクT
q+dqを算出して、操舵角q+dqと算出された操舵トルクT
q+dqとの組み合わせを、操舵速度v
sに対する組み合わせとしてメモリに記録する。
【0078】
【数2】
上記(2)式によって算出された操舵トルクT
q+dqに、操舵トルクTは更新される。
【0079】
そして、ステップ116において、操舵角q及び操舵トルクTが十分に大きいか否かを判定し、操舵角q及び操舵トルクTが十分に大きい場合には、操舵速度v
sに対して全領域における操舵トルクと操舵角の対応関係が得られたと判断して、ステップ120へ進む。一方、操舵角q及び操舵トルクTが十分に大きくない場合には、ステップ214において、操舵角qを、刻み量dqだけ増加させて、上記ステップ204へ戻る。
【0080】
ステップ120では、操舵速度v
sが十分に大きいか否かを判定し、操舵速度v
sが十分に大きい場合には、全領域の操舵速度v
sにおける操舵トルクと操舵角の対応関係が得られたと判断して、特性算出処理ルーチンを終了する。一方、操舵速度v
sが十分に大きくない場合には、ステップ122において、操舵速度v
sを、刻み量dv
sだけ増加させて、上記ステップ200へ戻る。
【0081】
上記のように、特性算出処理ルーチンでは、操舵角を刻み量dq毎に徐々に増加させていくことで、操舵トルクと操舵角との組み合わせを各々算出し、算出された全領域における操舵トルクと操舵角の対応関係に基づいて、第1マップを作成する。例えば、操舵角の刻み幅dqごとに、対応する操舵トルクが求められるため、それらを線形補間して、第1マップを生成する。また、操舵速度v
sを刻み量dv
s毎に徐々に増加させていくことで、操舵速度の刻み幅dv
sごとに、操舵速度v
sに対する第1マップを生成する。このように生成された操舵速度v
s毎の第1マップが、目標マップ記憶部42に記憶される。
【0082】
なお、第2の実施の形態に係る車両制御装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0083】
このように、ステアリングの中立状態から操舵方向が切り替わらずに操舵されているとき、操舵速度の各々におけるドライバの感覚特性に合致した操舵角と手応え量との関係を実現するように、操舵トルクの目標値を設定して制御することにより、任意の操舵速度に応じて、操舵トルク(反力)と剛性に関するドライバの感覚特性に合致した操舵反力特性(操舵中の反力・剛性の変化度合い)を与えることができ、車両の操安性及びドライバの操舵感が向上する。
【0084】
なお、上記の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、一方向操舵状態以外の状態では、従来既知の操舵角と操舵トルクとの対応関係を示す第2マップを用いて、操舵トルクの目標値を設定している場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、一方向操舵状態以外の状態では、前回算出されたトルクアシスト量の指令値を保持するように制御してもよい。また、操舵方向が切り替わった場合には、操舵角の戻し量に応じて、トルクアシスト量の指令値を減らすように制御してもよい。
【0085】
次に、第3の実施の形態について説明する。ステアバイワイヤシステムの車両制御装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0086】
図19に示すように、第3の実施の形態に係る車両制御装置310は、ステアリング16とステアリングシャフト18とラックアンドピニオン機構20と操舵角センサ26と操舵トルクセンサ28とコンピュータ330とを備え、さらに、ドライバによるステアリング16の操作に応じてステアリング16にトルクを作用させることで操舵トルクを模擬する反力モータ326と、ステアリング16の操舵角に応じて操舵輪12、14の切り角を変更するための出力トルクを、減速機22を介してラックアンドピニオン機構20に伝達して操舵輪12、14へ出力する転舵モータ324と、を備える。
【0087】
コンピュータ330は、上記第1の実施の形態と同様に、操舵速度毎の第1マップ又は第2マップに基づいて設定された操舵トルクの目標値を実現するように、反力モータ326の駆動制御を行う。また、コンピュータ330は、操舵角センサ26によって検出されたステアリング16の操舵角に応じて、操舵輪12、14の切り角を変更するように転舵モータ324の駆動制御を行う。
【0088】
なお、第3の実施の形態に係る車両制御装置の他の構成及び作用は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0089】
上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態では、オフラインにおいて、各操舵速度における操舵角と目標操舵トルクとの対応関係を求めておく場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、オンラインで、検出された操舵速度及び操舵角に対する目標操舵トルクを求めるようにしてもよい。この場合には、
図20に示すように、メモリに記憶された、検出された操舵速度信号に対する操舵角と手応え量との対応関係から、検出された操舵角信号に対する手応え量の目標値を算出する。また、検出された操舵角信号及び操舵トルク信号から、剛性(操舵角の変化に対する操舵トルクの変化の比)を算出する。算出された手応え量の目標値、算出された剛性、及び検出された操舵速度に対する手応え等高線マップから、目標となる操舵トルク(現在の操舵速度における目標の手応えを実現可能な操舵トルク)を求める。
【0090】
また、電動パワーステアリング装置用モータや反力モータのトルクにより、ステアリングにトルクを作用させるものとしたが、電動パワーステアリング装置用モータや反力モータ以外にも、例えば可変操舵ギア比システム用アクチュエータ等、他のアクチュエータを用いて、ステアリングにトルクを作用させるようにしてもよい。
【0091】
また、車両に搭載した車両制御装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、車両の操舵を模擬する操舵模擬装置に本発明を適用してもよい。例えば、操作者が操舵模擬装置に設けられた車両用シート(図示省略)に着座した状態で、ステアリングを操舵するように操作すると共に、ドライバからの視界を表わす映像を表示装置の表示画面に表示させて、ドライブシミュレーションを行ってもよい。この場合には、操舵模擬装置を、上記第3の実施の形態におけるステアリング16、ステアリングシャフト18、操舵角センサ26、操舵トルクセンサ28、反力モータ326、及びコンピュータ330を含んで構成すればよい。コンピュータ330は、操舵トルクセンサ28及び操舵角センサ26からの出力に基づいて、反力モータ326の駆動制御を行うと共に、操作者に対してドライバからの視界を表わす映像を表示する表示装置の表示を制御すればよい。
【0092】
また、操舵トルク又は操舵角と手応え量との関係において、操舵トルク又は操舵角が所定値未満である範囲では、手応え量が一定となるように定められている場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、手応え量がほぼ一定となるように定められていればよい。
【0093】
また、剛性の感覚量が、剛性の物理量の対数に比例するものであると定義した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、剛性の感覚量を、剛性の物理量の対数にほぼ比例するものとして定義してもよい。
【0094】
また、操舵トルクと操舵角との対応関係を表わすマップを用いて、検出された操舵角に対応する目標の操舵トルクを求める場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、操舵トルクと操舵角との対応関係を表わす式に従って、検出された操舵角から操舵トルクの目標値を算出するようにしてもよい。
【0095】
本発明のプログラムを、記憶媒体に格納して提供することができる。