特許第5852634号(P5852634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5852634
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20160114BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20160114BHJP
【FI】
   B60C11/03 100B
   B60C11/03 C
   B60C11/13 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-264233(P2013-264233)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-120379(P2015-120379A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸志
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133559(WO,A1)
【文献】 特開平10−035225(JP,A)
【文献】 特開2013−163446(JP,A)
【文献】 特開平05−169922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転方向が指定されたトレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ赤道の近傍をタイヤ周方向に連続してのびる1本又は2本のクラウン主溝と、
最もトレッド端側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、
前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間を複数のミドルブロックに区分する複数本のミドル横溝と、
前記各ミドル横溝から前記回転方向の先着側へのびかつ前記ミドルブロック内部で終端する内端を有するミドルスロットとが設けられ、
前記ミドルスロットと前記ミドル横溝との交差部を含む位置に、溝底を隆起させたタイバーが設けられており、
前記タイバーは、前記ミドル横溝に沿ってのびる横部分と、前記ミドルスロットに沿ってのびる縦部分とが繋がった平面視略T字状であり、
前記横部分のタイヤ軸方向の両端部は、前記クラウン主溝及び前記ショルダー主溝に達することなく終端し、
前記縦部分の前記回転方向の先着側の端部は、前記ミドルスロットの前記内端に達することなく終端し、
前記ミドル横溝は、タイヤ軸方向に対して傾斜しており、
前記ミドル横溝は、タイヤ軸方向の内側部と、前記内側部よりもタイヤ軸方向に対する角度が小さい外側部とを含み、
前記タイバーの前記横部分は、前記内側部のみに設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記横部分のタイヤ軸方向の外側の端部は、前記ミドル横溝の前記内側部のタイヤ軸方向の端部に一致している請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記横部分のタイヤ軸方向の長さは、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の最大幅の30%〜40%である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記縦部分のタイヤ周方向の長さは、前記ミドル横溝の1ピッチの25%〜35%である請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記タイバーでの溝深さは、前記クラウン主溝の溝深さの65%〜75%である請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪上性能、氷上性能及び操縦安定性能をバランス良く向上しうる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
冬用の空気入りタイヤは、雪路、氷路及び乾燥路を走行する機会がある。従って、このような冬用の空気入りタイヤは、雪上性能や氷上性能だけでなく、乾燥路での操縦安定性能についても、高い性能が求められている。例えば、大きな雪柱せん断力を発揮して、雪上性能を向上させるために、トレッド部に大きな溝容積を具えた横溝が設けられた空気入りタイヤが提案されている。
【0003】
しかしながら、上述のような空気入りタイヤは、トレッド部の横溝で区分されたブロックの剛性が小さく、路面からの力を受けてブロックが倒れ込みやすい。このため、上記空気入りタイヤは、低い操縦安定性能や氷上性能を持つ傾向があった。関連する技術として次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−146020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ミドルスロットとミドル横溝との交差部を含む位置にタイバーを設けることを基本として雪上性能、氷上性能、及び操縦安定性能をバランス良く向上しうる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転方向が指定されたトレッド部を有する空気入りタイヤであって、前記トレッド部には、タイヤ赤道の近傍をタイヤ周方向に連続してのびる1本又は2本のクラウン主溝と、最もトレッド端側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間を複数のミドルブロックに区分する複数本のミドル横溝と、前記各ミドル横溝から前記回転方向の先着側へのびかつ前記ミドルブロック内部で終端する内端を有するミドルスロットとが設けられ、前記ミドルスロットと前記ミドル横溝との交差部を含む位置に、溝底を隆起させたタイバーが設けられており、前記タイバーは、前記ミドル横溝に沿ってのびる横部分と、前記ミドルスロットに沿ってのびる縦部分とが繋がった平面視略T字状であり、前記横部分のタイヤ軸方向の両端部は、前記クラウン主溝及び前記ショルダー主溝に達することなく終端し、前記縦部分の前記回転方向の先着側の端部は、前記ミドルスロットの前記内端に達することなく終端していることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記空気入りタイヤは、前記ミドル横溝が、タイヤ軸方向に対して傾斜しており、前記ミドル横溝は、タイヤ軸方向の内側部と、前記内側部よりもタイヤ軸方向に対する角度が小さい外側部とを含み、前記タイバーの前記横部分は、前記内側部のみに設けられているのが望ましい。
【0008】
本発明に係る前記空気入りタイヤは、前記横部分のタイヤ軸方向の外側の端部が、前記ミドル横溝の前記内側部のタイヤ軸方向の端部に一致しているのが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤは、前記横部分のタイヤ軸方向の長さが、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の最大幅の30%〜40%であるのが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤは、前記縦部分のタイヤ周方向の長さが、前記ミドル横溝の1ピッチの25%〜35%であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤは、前記タイバーでの溝深さが、前記クラウン主溝の溝深さの65%〜75%であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空気入りタイヤのトレッド部には、クラウン主溝、ショルダー主溝、クラウン主溝とショルダー主溝との間をミドルブロックに区分するミドル横溝、及び、ミドル横溝から回転方向の先着側へのびかつミドルブロック内部で終端する内端を有するミドルスロットが設けられている。
【0013】
ミドルスロットとミドル横溝との交差部を含む位置に、溝底を隆起させたタイバーが設けられている。タイバーは、ミドル横溝に沿ってのびる横部分と、ミドルスロットに沿ってのびる縦部分とが繋がった平面視略T字状である。このようなタイバーは、タイヤ転動時の路面からの力によるミドルブロックの倒れ込みを抑制する。これにより、ミドル横溝及びミドルスロットのエッジ効果が高く維持されるため、氷上性能や操縦安定性能が向上する。
【0014】
とりわけ、ミドルスロットが、回転方向の先着側へのびかつミドルブロック内部で終端する内端を有しているため、回転方向の後着側へ作用する制動力及び駆動力を、ミドルスロットの設けられていない回転方向の先着側のブロック縁で受け止めることができる。従って、ミドルブロックの倒れ込みが、さらに効果的に抑制されるため、氷上性能や操縦安定性能が、一層向上する。
【0015】
タイバーの横部分のタイヤ軸方向の両端部は、クラウン主溝及びショルダー主溝に達することなく終端する。即ち、ミドル横溝は、横部分のタイヤ軸方向の両外側では、横部分よりも溝深さが大きい。これにより、ミドル横溝は、大きな雪柱せん断力を発揮できるため、雪上性能を維持する。従って、本発明の空気入りタイヤは、雪上性能、氷上性能、及び操縦安定性能をバランス良く向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態を示すトレッド部の展開図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図1のミドル陸部の拡大図である。
図4】ミドル横溝及びミドルスロットの斜視断面図である。
図5】比較例の実施形態を示すトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)は、タイヤの回転方向Rが指定された、例えば、乗用車用の冬用タイヤである。回転方向Rは、例えばサイドウォール部(図示せず)に、文字等で表示される。本発明のタイヤは、乗用車用に限定されるものではなく、例えば、トラックやバス等の重荷重用や自動二輪用のタイヤにも好適に利用される。
【0018】
本実施形態のタイヤのトレッド部2には、タイヤ赤道Cの両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝3と、最もトレッド端Te側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝4とが設けられる。
【0019】
前記「トレッド端」Teは、外観上、明瞭なエッジによって識別できるときには当該エッジとする。トレッド端Teが識別不能の場合には、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷である正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。このトレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離がトレッド接地幅TWとして定められる。タイヤの各部の寸法等は、特に断りがない場合、正規状態での値である。
【0020】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0021】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。タイヤが乗用車用である場合、正規内圧は、180kPaである。
【0022】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。タイヤが乗用車用の場合、正規荷重は、前記荷重の88%に相当する荷重である。
【0023】
本実施形態のクラウン主溝3は、ジグザグ状にのびている。このようなクラウン主溝3は、直線状の主溝に比してエッジ成分が大きいため、氷上性能を向上する。また、クラウン主溝3は、タイヤ軸方向成分を有しているため、雪柱せん断力を発揮して、雪上性能を向上する。なお、クラウン主溝3は、例えば、タイヤ赤道C上をのびる1本でもよい。
【0024】
クラウン主溝3は、本実施形態では、回転方向Rに向かってタイヤ赤道C側に傾斜する傾斜部8と、傾斜部8とは逆方向に傾斜する継ぎ部9とを交互に含んでいる。本明細書では、傾斜部8及び継ぎ部9の傾斜の向きは、クラウン主溝3の溝中心線3cで特定される。図1には、傾斜部8と継ぎ部9とが仮想線で示される。
【0025】
雪上性能と操縦安定性能とをバランスよく高めるため、傾斜部8のタイヤ周方向に対する角度θ1は、好ましくは、1〜10度である。同様に、継ぎ部9のタイヤ周方向に対する角度θ2は、好ましくは、40〜60度である。
【0026】
ショルダー主溝4は、本実施形態では、タイヤ周方向に沿った直線状である。このようなショルダー主溝4は、ショルダー主溝4の両側の陸部のタイヤ周方向の剛性を高く確保して、耐摩耗性能や操縦安定性能を向上させる。
【0027】
各主溝3、4の溝幅(溝面積を溝中心線の長さで除した平均の溝幅)W1及び溝深さD1(図2に示す)については、慣例に従って種々定めることができる。各主溝3、4の溝幅W1は、例えば、トレッド接地幅TWの2〜7%程度である。各主溝3、4の溝深さは、例えば、トレッド接地幅TWの5〜10%程度である。
【0028】
トレッド部2は、各主溝3、4によって、クラウン陸部5と、ミドル陸部6と、ショルダー陸部7とが形成される。
【0029】
図3には、ミドル陸部6の拡大図が示される。図3に示されるように、ミドル陸部6は、クラウン主溝3とショルダー主溝4との間に設けられる。
【0030】
ミドル陸部6には、複数本のミドル横溝10と複数本のミドルスロット11とが設けられている。
【0031】
ミドル横溝10は、クラウン主溝3とショルダー主溝4との間を継いでいる。これにより、ミドル陸部6は、ミドル横溝10で区分されたミドルブロック6Aがタイヤ周方向に並んだブロック列として形成されている。
【0032】
ミドル横溝10は、タイヤ軸方向に対して傾斜している。このようなミドル横溝10は、タイヤ軸方向成分を有するため、雪上性能を向上する。また、ミドル横溝10は、タイヤ周方向のエッジ成分を有しているため、氷路での旋回性能を向上する。本実施形態のミドル横溝10は、回転方向Rの後着側に向かってタイヤ軸方向外側に傾斜している。従って、溝内の雪や水が、例えば、回転方向Rに沿ってタイヤ軸方向の外側へ円滑に排出される。
【0033】
ミドル横溝10は、タイヤ軸方向の内側部12と、内側部12よりもタイヤ軸方向に対する角度が小さい外側部13とを含んでいる。内側部12は、タイヤ周方向のエッジ成分を効果的に高める。また、外側部13は、旋回走行時、大きな横力の作用するミドル陸部6のタイヤ軸方向外側の領域のタイヤ軸方向の剛性を高める。このため、操縦安定性能が向上する。本実施形態の内側部12及び外側部13は、直線状にのびている。これにより、ミドルブロック6Aの剛性が、さらに高く確保される。
【0034】
上述の作用を効果的に発揮させる観点より、内側部12のタイヤ周方向に対する角度θ3は、好ましくは、20〜30度である。外側部13のタイヤ周方向に対する角度θ4は、好ましくは、5〜10度である。
【0035】
内側部12のタイヤ軸方向の長さL1は、例えば、外側部13のタイヤ軸方向の長さL2よりも大きいのが望ましい。これにより、内側部12のタイヤ周方向のエッジ成分が大きく確保される。内側部12のタイヤ軸方向の長さL1は、好ましくは、外側部13のタイヤ軸方向の長さL2の2〜4倍である。
【0036】
ミドル横溝10は、例えば、溝幅W2が一定で形成されている。このようなミドル横溝10は、ミドルブロック6Aのタイヤ周方向両側の剛性を高く確保しうる。ミドル横溝10の溝幅W2は、好ましくは、ミドル横溝10の1ピッチPの5%〜15%である。
【0037】
ミドルスロット11は、ミドル横溝10から回転方向Rの先着側へのびかつミドルブロック6A内部で終端する内端11eを有している。本実施形態では、ミドルブロック6Aの回転方向Rの先着側のブロック縁6eには、溝が設けられていない。このため、回転方向Rの後着側へ作用する制動力及び駆動力を、回転方向Rの先着側のブロック縁6eで受け止めることができる。従って、ミドルブロック6Aの倒れ込みが効果的に抑制されるため、氷上性能や操縦安定性能が向上する。
【0038】
ミドルスロット11は、ミドルブロック6Aを、ミドルスロット11よりもタイヤ赤道C側の内側小片14Aと、ミドルスロット11よりもタイヤ軸方向外側の外側小片14Bとに区分する。
【0039】
本実施形態のミドルスロット11は、回転方向Rの先着側に向かってタイヤ赤道C側へ傾斜している。このようなミドルスロット11は、タイヤ軸方向のエッジ成分を有するため、制動力や駆動力を高めうる。また、ミドルスロット11は、タイヤ軸方向成分を有するため、雪上性能を向上する。ミドルスロット11のタイヤ周方向に対する角度θ5が大きい場合、ミドルブロック6Aの剛性が小さくなるおそれがある。このため、ミドルスロット11の前記角度θ5は、好ましくは、5〜10度である。
【0040】
ミドルスロット11は、例えば、溝幅が一定で形成されている。これにより、ミドルブロック6Aのミドルスロット11の両側の剛性が高く維持される。ミドルスロット11の溝幅W3は、好ましくは、トレッド接地幅TWの1.2%〜2.0%である。
【0041】
操縦安定性能と氷上性能とをバランス良く高めるため、ミドルスロット11のタイヤ周方向の長さL3は、好ましくは、ミドル横溝10の1ピッチPの75%〜85%である。
【0042】
図4は、ミドルブロック6Aの斜視断面図である。図4には、後述のミドルサイピングが、便宜上捨象されている。図3及び図4に示されるように、本発明では、このようなミドル横溝10とミドルスロット11との交差部Kを含む位置に溝底を隆起させたタイバー15が設けられている。
【0043】
本実施形態のタイバー15は、ミドル横溝10に沿ってのびる横部分16と、ミドルスロット11に沿ってのびる縦部分17とが繋がった平面視略T字状である。このようなタイバー15は、タイヤ転動時の路面からの力によるミドルブロック6Aの倒れ込みを抑制する。これにより、ミドル横溝10及びミドルスロット11のエッジ成分が確保されるため、氷上性能や操縦安定性能が向上する。
【0044】
横部分16は、そのタイヤ軸方向の外側の端部16e、及び、内側の端部16iが、クラウン主溝3及びショルダー主溝4に達することなく終端している。即ち、ミドル横溝10は、横部分16と、横部分16よりもタイヤ軸方向内側の内側横部18aと、横部分16よりもタイヤ軸方向外側の外側横部18bとを有している。内側横部18a及び外側横部18bは、横部分16よりも溝深さが大きいので、ミドル横溝10は、これらの部分を利用して、大きな雪柱せん断力を発揮する。よって、本実施形態のタイヤは、雪上性能を維持する。
【0045】
内側部12は、外側部13に比して、タイヤ軸方向に対する角度が大きいため、タイヤ周方向の力によって生じるミドルブロック6Aの倒れ込みを抑制する。このため、内側部12のみに横部分16を設けることによって、ミドルブロック6Aの倒れ込み抑制効果を発揮しつつ、横部分16のタイヤ軸方向の長さを小さくできる。従って、ミドル横溝10の溝容積が大きく確保され、雪上性能と氷上性能及び操縦安定性能とがバランスよく高められる。
【0046】
横部分16のタイヤ軸方向の外側の端部16eは、ミドル横溝10の内側部12のタイヤ軸方向の外側の端部12eに一致している。即ち、内側部12は、横部分16と、内側横部18aとで形成されている。これにより、剛性が小さくなりやすい内側部12と外側部13との接続領域の剛性を高め、ミドルブロック6Aの倒れ込みを一層抑制している。
【0047】
上述のような位置に配された横部分16のタイヤ軸方向の長さL4は、好ましくは、ミドルブロック6Aの最大幅Wa(図1に示す)の30%〜40%である。横部分16の前記長さL4がミドルブロック6Aの最大幅Waの30%未満の場合、ミドルブロック6Aの倒れ込みを効果的に抑制できないおそれがある。横部分16の前記長さL4がミドルブロック6Aの最大幅Waの40%を超える場合、ミドル横溝10の溝容積が小さくなり、雪上性能が悪化するおそれがある。
【0048】
縦部分17は、回転方向Rの先着側の端部17eが、ミドルスロット11の内端11eに達することなく終端している。即ち、ミドルスロット11は、縦部分17と、縦部分17の先着側に設けられる先着部18cとで形成される。先着部18cは、縦部分17よりも溝深さが大きいので、ミドルスロット11の溝容積が確保され、さらに雪上性能が向上する。
【0049】
縦部分17は、横部分16のタイヤ軸方向の中間位置に繋がっている。これにより、効果的にミドルブロック6Aの倒れ込みを抑制することができる。「縦部分17が横部分16の中間位置に繋がる」とは、縦部分17の溝底中心線17cが、横部分16の先着側の溝縁16aの中点からタイヤ軸方向両側に溝縁16aのタイヤ軸方向長さの20%離間した位置に設けられる態様を含む。
【0050】
縦部分17は、タイヤ周方向の長さL5が、好ましくは、ミドル横溝10の1ピッチPの25%〜35%である。縦部分17のタイヤ周方向の長さL5が、ミドル横溝10の1ピッチPの25%未満の場合、回転方向Rの後着側へのミドルブロック6Aの倒れ込みや、旋回走行時の横力による内側小片14A及び外側小片14Bのタイヤ軸方向への倒れ込みを抑制できないおそれがある。縦部分17のタイヤ周方向の長さL5が、ミドル横溝10の1ピッチPの35%を超える場合、ミドルスロット11の溝容積が減少するため、雪上性能が低下するおそれがある。
【0051】
特に限定されるものではないが、縦部分17の前記長さL5は、好ましくは、横部分16の前記長さL4の50%〜70%である。
【0052】
本実施形態のタイバー15は、ミドル横溝10及びミドルスロット11の全幅に亘って溝底が隆起している。より具体的には、ミドル横溝10及びミドルスロット11のタイバー15での溝底と、ミドル横溝10及びミドルスロット11の溝壁面とが滑からな円弧状で交差している。これにより、タイバー15の剛性が効果的に高められ、ミドルブロック6Aの倒れ込みが、一層、抑制される。
【0053】
上述の作用を効果的に発揮させるため、タイバー15での溝深さDtは、好ましくは、クラウン主溝3の溝深さD1の65%〜75%である。
【0054】
内側横部18a、外側横部18bの溝深さD2及び先着部18cの溝深さD3は、クラウン主溝3の溝深さD1の85%〜100%が望ましい。
【0055】
図3に示されるように、ミドルブロック6Aは、ジグザグ状にのびるフルオープンタイプのミドルサイピング19が設けられる。このようなミドルサイピング19は、大きなエッジ成分を有し、氷上性能を高く向上する。なお、ミドルサイピング19の形状は、ジグザグ状のもので限定されるものではなく、例えば、直線状や、波状でも良い。
【0056】
ミドルサイピング19は、内側小片14Aに配される複数本の内側サイピング19Aと、外側小片14Bに配される複数本の外側サイピング19Bとを含んでいる。
【0057】
内側サイピング19Aと外側サイピング19Bとは、タイヤ周方向に対して異なる向きに傾斜している。これにより、両サイピング19A、19Bのエッジに生じる互いに逆向きの横方向の力が相殺されるため、氷路での直進安定性能が向上する。
【0058】
本実施形態の内側サイピング19Aは、回転方向Rの先着側に向かってタイヤ軸方向の外側に傾斜している。外側サイピング19Bは、回転方向Rの先着側に向かってタイヤ軸方向の内側に傾斜している。このように傾斜された各ミドルサイピング19A、19Bは、内側小片14A及び外側小片14Bを、交差部Kに向かって倒れ込み易くする。しかしながら、本実施形態では、交差部Kにタイバー15が設けられているため、内側小片14A及び外側小片14Bの倒れ込みが抑制される。従って、氷上性能と操縦安定性能とが、より一層バランス良く向上する。
【0059】
上述のような作用を効果的に発揮させるため、各ミドルサイピング19A、19Bのタイヤ軸方向に対する角度α1、α2は、好ましくは、10〜20度である。
【0060】
タイヤ周方向に隣り合うミドルサイピング19、19間の最短距離Laは、4〜5.5mmである。最短距離Laが4mm未満の場合、ミドルブロック6Aの剛性が低下する他、サイピングを製造するための金型の耐久性が悪化するおそれがある。最短距離Laが5.5mmを超える場合、氷路性能を向上できないおそれがある。
【0061】
ミドルブロック6Aの最大幅Waは、好ましくは、トレッド接地幅TWの16%〜22%である。これにより、ミドルブロック6A、クラウン陸部5及びショルダー陸部7の剛性をバランス良く確保して、操縦安定性能を効果的に高められる。
【0062】
図1に示されるように、クラウン陸部5には、クラウン副溝20とクラウン横溝21とクラウンラグ溝22とが設けられる。
【0063】
本実施形態のクラウン副溝20は、タイヤ赤道C上をタイヤ周方向にジグザグ状にのびている。クラウン副溝20は、回転方向Rに向かってタイヤ軸方向の一方側に傾斜する第1傾斜部20aと、タイヤ周方向で隣り合う第1傾斜部20a、20aを継ぎ、かつ第1傾斜部20aとは逆向きに傾斜する第2傾斜部20bとを含んだジグザグ状である。このようなクラウン副溝20は、タイヤ軸方向成分を有するため、雪上性能を向上する。
【0064】
本実施形態のクラウン横溝21は、クラウン主溝3とクラウン副溝20との間を継いでいる。具体的には、クラウン横溝21は、クラウン主溝3の継ぎ部9とクラウン副溝20のジグザグの頂部とを継いでいる。このようなクラウン横溝21は、クラウン陸部5の剛性を大きく確保する。また、クラウン横溝21は、タイヤ軸方向成分を有する。このため、操縦安定性能と氷上性能とをバランスよく向上する。クラウン横溝21の溝深さD4は、タイヤ軸方向外側に向かって漸増している。このようなクラウン横溝21は、最も大きな接地圧が作用するタイヤ赤道C上のクラウン陸部5の剛性と、クラウン横溝21の溝容積とを有効に確保して、雪上性能と操縦安定性能とをバランス良く向上する。
【0065】
本実施形態のクラウンラグ溝22は、クラウン副溝20からタイヤ軸方向外側に向かってのびクラウン陸部5内で終端している。クラウンラグ溝22は、クラウン副溝20のジグザグの頂部に連通している。これにより、操縦安定性能と氷上性能とが、さらにバランスよく向上する。
【0066】
クラウン陸部5には、クラウン副溝20とクラウン主溝3との間を継ぐフルオープンタイプのクラウンサイピング23が設けられる。クラウンサイピング23は、クラウン横溝21及びクラウンラグ溝22と同じ向きに傾斜している。これにより、操縦安定性能と氷上性能とが向上する。
【0067】
ショルダー陸部7には、ショルダー主溝4とトレッド端Teとの間を継ぐショルダー横溝25、及び、一端がショルダー主溝4で開口し、他端がショルダー陸部7内で終端するセミオープンタイプのショルダーサイピング26が設けられる。
【0068】
本実施形態のショルダー横溝25及びショルダーサイピング26は、ジグザグ状にのびている。このようなショルダー横溝25及びショルダーサイピング26は、さらに氷上性能を向上する。
【0069】
上述のように形成されたトレッド部2のランド比は、好ましくは、65〜70%である。ランド比が65%未満の場合、各陸部5乃至7の剛性が低下し、操縦安定性能が悪化するおそれがある。ランド比が70%を超える場合、溝容積が小さくなり、雪上性能が悪化するおそれがある。ランド比は、トレッド部2の踏面の全表面積Mbと、全ての溝及びサイピングを埋めて得られる仮想踏面の仮想表面積Maとの比(Mb/Ma)である。
【0070】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されるものでなく、種々の態様に変更して実施される。
【実施例】
【0071】
図1の基本パターンを有するサイズ225/65R17の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、各試供タイヤの雪上性能、氷上性能及び操縦安定性能がテストされた。各タイヤの主な共通仕様やテスト方法は以下の通りである。なお、比較例2として、図5のパターンを有するタイヤがテストされた。
トレッド接地幅TW:180mm
各主溝の溝深さ:11.2mm
内側横部、及び、外側横部の溝深さ:11.2mm
先着部の溝深さ:9.1mm
内側部の長さL1と外側部の長さL2との比(L1/L2):3.1
外側部の角度θ4:7度
横部分の長さL4/Wa:35%
縦部分の長さL5/P:25%
外側サイピングの角度θ2:15度
【0072】
<雪上性能、氷上性能及び操縦安定性能>
各テストタイヤが、下記の条件で、排気量2400ccの4WD乗用車の全輪に装着された。そして、テストドライバーが、車両を雪路(圧雪路)、氷路(アイスバーン)及び乾燥アスファルト路面のテストコースを走行させ、このときのハンドル応答性、剛性感及びグリップ等に関する走行特性がテストドライバーの官能により評価された。結果は、実施例1の値を100とする評点で表示されている。数値が大きいほど良好である。
リム(全輪):17×6.5J
内圧(全輪):210kPa
テストの結果が表1に示される。
【0073】
【表1】
【0074】
テストの結果、いずれの実施例のタイヤも、比較例に比べて各性能の結果の合計が大きく、また、実施例の結果は、いずれも100付近であった。このため、雪上性能、氷上性能、及び、操縦安定性能がバランス良く向上していることが確認できた。また、各溝の溝深さ・溝幅、サイピングの深さ・幅等、及び、ランド比を変化させてテストを行ったが、表1と同様の結果であった。
【符号の説明】
【0075】
2 トレッド部
3 クラウン主溝
4 ショルダー主溝
10 ミドル横溝
11 ミドルスロット
11e ミドルスロットの内端
15 タイバー
16 横部分
17 縦部分
図1
図2
図3
図4
図5