特許第5852734号(P5852734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5852734
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】スクロースポリエステル
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/10 20160101AFI20160114BHJP
   C07H 13/06 20060101ALI20160114BHJP
   A61K 31/7024 20060101ALN20160114BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20160114BHJP
【FI】
   A23L1/035
   C07H13/06
   !A61K31/7024
   !A61P3/00
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-516979(P2014-516979)
(86)(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公表番号】特表2014-519844(P2014-519844A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】US2012039229
(87)【国際公開番号】WO2012177354
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2013年12月24日
(31)【優先権主張番号】61/500,472
(32)【優先日】2011年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ヤウ−タク リン
(72)【発明者】
【氏名】デボラ ジーン バック
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド ベンジャミン アップルビー
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ エム.ロバートソン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ロバート ベイカー
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/068817(WO,A1)
【文献】 特開昭63−240746(JP,A)
【文献】 特開平03−007539(JP,A)
【文献】 特表平05−506992(JP,A)
【文献】 特表2003−517051(JP,A)
【文献】 特開昭63−245651(JP,A)
【文献】 特開平01−157335(JP,A)
【文献】 特表平05−506579(JP,A)
【文献】 特開平02−109956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/00−1/48
C07H 13/00−13/12
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロースポリエステルのブレンドを含む組成物であって、それぞれのスクロースポリエステルは、1つのスクロース部分と複数の脂肪酸エステル部分とを含み、
a.前記ブレンド中のスクロースポリエステルの90重量%〜100重量%は、オクタ−、ヘプタ−及びヘキサ−スクロースポリエステルからなる群から選択され、
b.前記ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の50重量%〜75重量%は、パルミチン脂肪酸エステル部分であり、および
c.前記ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の50重量%〜90重量%はC16炭素鎖を含み、残りはC12〜C14又はC18〜C22炭素鎖から独立して選択される炭素鎖を含む、組成物。
【請求項2】
前記ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の10重量%〜50重量%が、不飽和炭素鎖を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の25重量%〜50重量%が、不飽和炭素鎖を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、25℃にて15%〜40%の結晶化度を有し、5℃にて70%〜95%の結晶化度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、25℃にて22%〜30%の結晶化度を有し、5℃にて80%〜90%の結晶化度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸エステル部分が、少なくとも1つのパルミチン脂肪酸を含む食用油から誘導される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸エステル部分が、ココナッツ油、ババス油、綿実油、綿実ステアリン、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油及びこれらの組み合わせからなる群から選択される油から誘導される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
a.前記スクロースポリエステルブレンドの総重量に基づいて、60重量%〜99重量%の、40℃にて1重量%〜10重量%の固形分含量を有するスクロースポリエステルと、
b.前記スクロースポリエステルブレンドの総重量に基づいて、1重量%〜40重量%の、40℃〜100℃の完全融点を有するスクロースポリエステルと、
を含み、前記組成物が、33.3℃にて50,000〜300,000パスカル/秒のチキソトロピック性領域を呈する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記スクロースポリエステルブレンド中の総重量に基づいて、0重量%〜0.5重量%のペンタ−スクロースポリエステルを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記スクロースポリエステルブレンドが、前記スクロースポリエステルブレンドの総重量に基づいて、
a.10℃にて45重量%〜85重量%の固形分、
b.30℃にて10重量%〜50重量%の固形分、及び
c.40℃にて1重量%〜10重量%の固形分、の固体脂肪指数を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
スクロース分子をエステルでエステル交換する工程を含み、前記エステルが、50%〜90%のパルミチン脂肪酸エステル含量を有する精留油を低級アルコールでエステル化することを経て製造される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物の製造方法
【請求項12】
50%〜90%のパルミチン脂肪酸エステル含量を有する精留油でスクロース分子をエステル交換する工程を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物の製造方法
【請求項13】
a.油又は油から誘導されるメチルエステルを精留して、50%〜90%のパルミチン脂肪酸エステル含量を有する油又はメチルエステルを製造する工程と、
b.50%〜90%の前記パルミチン脂肪酸エステル含量を有する油又はメチルエステルでスクロース分子をエステル交換して、50%〜90%のパルミチン脂肪酸含量を有するエステル化スクロース分子を製造する工程と、を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高パルミチンスクロースポリエステル組成物、並びに、この組成物の製造及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、人々の間で最も一般的な健康問題の一つは、肥満である。この症状は、消費されるカロリーよりも多くのカロリーを摂取することに関連する。脂肪は人間の食事においてカロリーの集中的供給源を含むので、食品中の脂肪を減らす及び/又は置き換えることに対する必要は継続して存在したままである。食品中の脂肪含量を減らす及び/又は置き換える1つの方法は、非消化性脂肪(例えば、スクロースポリエステル)を用いることによる。高いパーセントの脂肪をスクロースポリエステル(「SPE」)で置き換えることはそれに応じて食品中のカロリー数を下げるので、スクロースポリエステル含有組成物に対する必要は継続して存在する。
【0003】
スクロースポリエステルは、それらの嵩及び形状のために、特定の天然油脂とは全く異質である融解プロファイルを有する異なる結晶構造を形成する。典型的には、米国食品医薬局によって認可されたようなOlestra(登録商標)の組成上の制限を満たしているスクロースポリエステルは、広い温度範囲にわたって、非常に均一の融解プロファイルを有する。スクロースポリエステルを完全水素添加することによって、不飽和炭素鎖を有するスクロースポリエステルを、飽和炭素鎖を有するスクロースポリエステルへと転化することにより、融点を上昇させることが可能であるが、そのようなスクロースポリエステルの融解プロファイルは均一の状態にとどまり、結果的に体温(約37℃)にて高い固形分含量を生じる。これらの完全水素添加スクロースポリエステルが食品に組み込まれる場合、そのような高い固形分含量は、食品を摂取する消費者に不快な蝋のような口内触感を引き起こす。このことは、スクロースポリエステルがチーズ、チョコレート又は他の糖菓に組み込まれる場合には、消費者が幾分か、これらのタイプの製品に関連する特有の口内触感のためにこのような製品を好むので、特に不都合である。言い換えれば、製品が消費者の口内で融解できるからこそ、特定の食品(例えば、チーズ、チョコレート、フロスティング、アイシング、アイスクリームなど)は、特に好まれ得る。
【0004】
スクロースポリエステルの均一な融解プロファイルに対抗する別の方法は、二重結合の一部分のみを飽和脂肪酸に転化(covert)し、この二重結合の別の部分をトランス脂肪酸に転化(covert)し、残りの二重結合をそのまま(シス構成のまま)変化させずにおく水素添加プロセスによる。生じるスクロースポリエステル組成物は広い融点範囲を有し、この材料は中融点画分(「IMF」)と典型的に呼ばれるものの一種である。完全水素添加スクロースポリエステルと同様に、IMFスクロースポリエステル組成物も体温にて著しい量の固形分を有する(すなわち、10%超)。食品を製造するために100%の濃度でIMFスクロースポリエステル組成物を使用すると、完成品は、蝋のような口内触感を有し、悪く受け取られることが分かっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、食品に組み込まれ得る脂肪代替物への継続的なニーズがあるが、このような脂肪代替物は、食品を摂取する際に、好ましい口内触感を消費者に提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
高パルミチンスクロースポリエステル組成物、並びに、この組成物の製造及び使用方法が、本明細書に開示される。
【0007】
一実施形態では、本開示は、スクロースポリエステルのブレンドを含む組成物を開示し、各スクロースポリエステルがスクロース部分と複数の脂肪酸エステル部分とを含み、ブレンド中のスクロースポリエステルの約90%〜約100%が、オクタ−、ヘプタ−、及びヘキサ−スクロースポリエステルからなる群から選択され、ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の約50%〜約75%がパルミチン脂肪酸エステル部分であり、ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の約50%〜90%がC16炭素鎖を含み、ブレンド中のスクロースポリエステルの脂肪酸エステル部分の残りが、C12〜C14又はC18〜C22炭素鎖から独立して選択される炭素鎖を含む。
【0008】
別の実施形態では、本開示は、スクロース分子をエステルでエステル交換する工程を含む上記スクロースポリエステルの製造プロセスを提供し、エステルは、約50%〜約90%のパルミチン脂肪酸含量を有する精留油を低級アルコールでエステル化することにより生じる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用するとき、「a」及び「an」のような冠詞は、特許請求の範囲で使用されるときには、1つ以上の請求又は記載されるものを意味するものと理解される。
【0010】
本明細書で使用するとき、用語「包含する(include)」、「包含する(includes)」及び「包含している(including)」は、非限定的であるように意味される。
【0011】
本明細書で使用するとき、「含む(comprising)」との用語は、本開示の組成物の調製において共に使用される種々の構成成分を意味する。それ故に、用語「から本質的になる」及び「からなる」は、「含む」という用語に包含される。
【0012】
本明細書で使用するとき、「完全融点」とは、固体の最後の目に見える痕跡が消失する温度を意味する。所与の組成物又は成分の完全融点は、AOCS方法Cc 1−25(米国油脂化学協会)に従って測定される。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「低級アルコール」は、C1、C2、C3、又はC4アルコール、及びこれらの組み合わせを意味する。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「融点」は、成分が固体相から液体相に変化し始める温度を意味する。
【0015】
本明細書で使用するとき、「オクタ−スクロースポリエステル」は、スクロース分子上の8つの利用可能なヒドロキシル部分が脂肪酸でエステル化されていることを意味し、用語「ヘプタ−スクロースポリエステル」は、スクロース分子上の7つの利用可能なヒドロキシル部分が脂肪酸でエステル化されていることを意味し、用語「ヘキサ−スクロースポリエステル」は、スクロース分子上の6つの利用可能なヒドロキシル部分が脂肪酸でエステル化されていることを意味し、用語「ペンタ−スクロースポリエステル」は、スクロース分子上の5つの利用可能なヒドロキシル部分が脂肪酸でエステル化されていることを意味する。
【0016】
本明細書で使用するとき、「固体脂肪含量」又は「SFC」は、所与の温度にて結晶形状で存在する脂肪又は油の百分率を意味する。
【0017】
本明細書で使用されるとき、「固体脂肪指数」又は「SFI」は、標準温度チェック点にての固体脂肪含量(SFC)の経験的測定値である。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「スクロースポリエステル」は、1つのスクロース部分と、複数の脂肪酸部分と、を含む分子を意味し、スクロース分子上で利用可能なヒドロキシル基のうちの少なくとも5個が脂肪酸でエステル化されている。
【0019】
本明細書で使用するとき「パルミチン脂肪酸エステル」は、16個の炭素鎖長である完全飽和脂肪酸エステルを意味する(すなわち、パルミチン脂肪酸メチルエステルは、CH3(CH214COOCH3である)。
【0020】
本明細書で使用するとき、「パルミチン脂肪酸含量」は、所与の組成物において脂肪酸エステルの総数と比較したときのパルミチン脂肪酸エステルの百分率を意味する。
【0021】
本明細書で使用するとき、「高パルミチンスクロースポリエステル」は、少なくとも50%のパルミチン脂肪酸含量を有するスクロースポリエステルを意味する。
【0022】
本明細書で使用するとき、全ての試験及び測定は、特に指示がない限り、25℃で行われる。
【0023】
本出願人らの発明のパラメータの各値を求めるためには、本出願の試験方法の項で開示する試験方法を用いるべきである。
【0024】
特記のない限り、成分又は組成物の濃度は全て、当該成分又は組成物の活性部分に関するものであり、このような成分又は組成物の市販の供給源に存在し得る不純物、例えば残留溶媒又は副生成物は除外される。
【0025】
百分率及び比率は全て、特記のない限り重量で計算される。百分率及び比率は全て、別途記載のない限り組成物全体を基準にして計算される。
【0026】
本明細書の全体を通じて与えられる全ての最大の数値限定は、それよりも小さい全ての数値限定を、そうしたより小さい数値限定が恰も本明細書に明確に記載されているものと同様にして包含するものと理解すべきである。本明細書の全体を通じて与えられる全ての最小数値限定は、それよりも大きい全ての数値限定を、あたかもそれらの大きい数値限定が本明細書に明確に記載されているものと同様にして含むものである。本明細書の全体を通じて与えられる全ての数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に含まれるそれよりも狭い全ての数値範囲を、あたかもそれらのより狭い数値範囲が全て本明細書に明確に記載されているものと同様にして含むものである。
【0027】
引用される全ての文献は、その関連部分において参照により本明細書に組み込まれるが、いずれの文献の引用もそれが本発明に関連する先行技術であることの容認として解釈されるべきではない。
【0028】
チーズ、チョコレート及び他の糖菓(例えば、コーティング、フロスティング、フィリング、アイシング、焼き菓子、キャンディー、アイスクリーム及び他の食品)で有用となるためには、ノンカロリーの脂肪代替物は、理想的には室温で固体であるが、体温で又はその付近で融点を有する。チーズ、チョコレート及び他の糖菓で用いられるノンカロリー脂肪代替物の融点及び融解プロファイルは、これらのタイプの食品に関連した好ましい口内触感に寄与する。理想的には、ノンカロリー脂肪代替物は、体温(約37℃)にて、固体をほとんど又は全く含まない。上記のように、このような食品のスクロースポリエステルを使用することに関する技術における問題は、消費者に好ましい口内触感を供給する食品を提供する能力である。
【0029】
スクロースポリエステルを含有する製品において所望の口内触感を作り出すことは、スクロースポリエステル組成物のSFC曲線(温度に対して固形分パーセントをチャート分析することにより作成される曲線)の傾斜を増大させることにより達成され得る。スクロースポリエステル組成物のSFC曲線の傾斜を増大させる一つの方法は、特定の量のトランス内容物を組成物中に組み込むことによる。例えば、米国特許仮出願第12/957,759号は、従来のスクロースポリエステルと比較したときに、室温にて高濃度の固形分を有する一方で体温にて比較的低濃度の固形分を有する高トランススクロースポリエステル組成物を開示している。ここで驚くべきことに、高パルミチン含量を有するスクロースポリエステル組成物もまた(本明細書で更に詳述するように)従来のスクロースポリエステルと比較したときに、室温にて高濃度の固形分を有する一方で口内温度にて比較的低濃度の固形分を有することが発見された。したがって、このような高パルミチンスクロースポリエステルは食品に組み込まれると、得られる食品は、消費者にとって蝋のような口内触感がより少なくなる。
【0030】
別の態様では、米国特許仮出願第12/957,759号の高トランススクロースポリエステル組成物と比較したときに、本明細書に開示されている高パルミチンスクロースポリエステル組成物は、より速い結晶化速度を有する。組成物の結晶化の速度は、所与の組成物を商業化できるかどうかに非常に重要である。スクロースポリエステル組成物が包装及び輸送される前に、組成物は十分に結晶化されなければならない。したがって、異なる結晶化速度を有する2種の同様なスクロースポリエステル組成物は、製造コストが著しく異なる。より速い結晶化速度を有する組成物は、より遅い結晶化速度を有する組成物よりも製造コストが低い。これは、より遅い結晶化速度を有する組成物は、より長い製造時間に対応するために、追加の搬送時間、冷却トンネル時間及び/又は製造空間を必要とするからである。更に、より遅い結晶化速度を有するスクロースポリエステル組成物を組み込むショートニング組成物は、ショートニングの質感が時間と共により堅くなり続けるので、あまり望ましくない。ショートニングは、堅さが取引先に出荷された時点では所望のレベルであっても、長期保存されているうちに過度に堅くなってしまう。あるいは、ショートニングは堅さが所望のレベルまで増大する前に取引先に出荷された場合、取引先は所望の堅さレベルが得られるまで数週間又は数ヶ月も待たなくてはならない。したがって、本明細書に詳述されている高パルミチンスクロースポリエステル組成物は、高トランススクロースポリエステル組成物と比較したときに、結晶化速度がより速いという更に加わった驚くべき利点を有する。
【0031】
結晶化速度を評価する一つの方法は、(所定のパラメータの組−下記の「方法」を参照されたい−において)示差走査熱量測定装置を用いて異なる温度にて形成された固体の量(結晶化度)を測定することによる。スクロースポリエステル組成物について形成された固体の量を観察及び比較すると、所定の温度にてより多量の固体を有する組成物は、より大きな結晶化速度を有する。この方法の選択温度は、ショートニング及びチョコレートの製造プロセスの重要な温度と関係していた。25℃は、ショートニングがボテーターを出るときのショートニングの温度に近く、またチョコレート焼き戻し温度にも近い。5℃は、ショートニングプロセスのためのかき取り壁熱交換器の温度に近い。実施例3において下記に更に詳述する高パルミチンスクロースポリエステル組成物の結晶化度は、25℃にて26.7%、及び、5℃にて87.6%である。米国特許仮出願第12/957,759号の実施例3に詳述されている高トランススクロースポリエステル組成物の結晶化度は、25℃にて13.6%、及び、5℃にて63.9%である。これは、高パルミチンスクロースポリエステル結晶化速度が高トランススクロースポリエステル結晶化速度よりも大きいことを示す。
【0032】
更に、典型的なスクロースポリエステル組成物(実施例4において下記に更に詳述する−水素添加後のOlestra(登録商標))の結晶化度は、25℃にて39.4%、5℃にて83.8%である。この物質の結晶化度は実施例3に詳述されている高パルミチンスクロースポリエステル組成物の結晶化度よりも25℃では高く、5℃では低いが、この典型的なスクロースポリエステル組成物もまた、40℃にてはるかに高い濃度の固形分を有する(これはまた実施例4において下記に報告される)。この典型的なスクロースポリエステル組成物が高濃度で使用された場合、40℃において高濃度の固形分が存在すると、このような組成物で製造した完成品において蝋のような性質が顕著になる。
【0033】
したがって、このようなスクロースポリエステルを含有する組成物がチーズ、チョコレート、糖菓又は他の類似の食品に適した所望の口内触感を消費者にもたらすような溶融プロファイルを有する高パルミチンスクロースポリエステルが本明細書に開示される。このような高パルミチンスクロースポリエステルはまた、高トランススクロースポリエステル組成物と比較したときに、結晶化速度が増大している。このようなスクロースポリエステル、及び、このようなスクロースポリエステルを含むショートニング組成物の製造プロセスもまた本明細書に開示される。
【0034】
スクロースポリエステル:
スクロースポリエステルのブレンドを含む組成物が開示されていて、それぞれのスクロースポリエステルは、1つのスクロース部分と複数の脂肪酸エステル部分とを含み、
a.ブレンド中のスクロースポリエステルの約90重量%〜約100重量%、又は約95重量%〜約100重量%が、オクタ−、ヘプタ−、及びヘキサ−スクロースポリエステルからなる群から選択され、
b.ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の約50重量%〜約75重量%、又は約55重量%〜約70重量%、又は約60重量%〜約65重量%が、パルミチン脂肪酸エステル部分であり、
c.ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の約50重量%〜約90重量%、又は約55重量%〜約75重量%、又は約55重量%〜約65重量%が、C16炭素鎖を含み、ブレンド中のスクロースポリエステルの脂肪酸エステル部分の残りが、C12〜C14又はC18〜C22炭素鎖から独立して選択される炭素鎖を含む。
【0035】
一態様では、ブレンド中のスクロースポリエステルの組み合わされた脂肪酸エステル部分の約10重量%〜約50重量%、又は約25重量%〜約50重量%が、不飽和炭素鎖を含み得る。
【0036】
一態様では、これらの組成物は、25℃にて約15%〜約40%、又は約20%〜約35%、又は約22%〜約30%、又は約24%〜約28%の結晶化度を有し得る。更に、これらの組成物は、5℃にて約70%〜約95%、又は約75%〜約92%、又は約80%〜約90%、又は約84%〜約89%の結晶化度を有し得る。
【0037】
一態様では、これらの組成物は、少なくとも1つのパルミチン脂肪酸を含む食用油から誘導された脂肪酸エステルを含み得る。一態様では、パルミチン脂肪酸を含む食用油は、菜種油、タロー油、ココナッツ油、ババス油、トウモロコシ油、ラード、オリーブ油、ピーナッツ油、ごま油、大豆油、キャノーラ油、パーム油、パームステアリン、パーム核、ヒマワリ油、ベニバナ油、綿実油、綿実ステアリン及びこれらの組み合わせから選択することができ、場合により、油又は油の組み合わせは精留されてパルミチン酸含量を増加させてもよい。
【0038】
一態様では、これらの組成物は、本明細書に記載された試験方法を用いて測定されると、33.3℃にて約50,000〜約300,000、又は約100,000〜約200,000パスカル/秒のチキソトロピック性領域を呈し得る。一態様では、この組成物は、本明細書に記載された試験方法を用いて測定されると、33.3℃にて約50,000〜約100,000パスカル/秒のチキソトロピック性領域を呈し得る。
【0039】
一態様では、これらの組成物は、
a)スクロースポリエステルブレンドの総重量に基づいて、約40℃にて約1重量%〜約10重量%の固形分含量を有する約60重量%〜約99重量%のスクロースポリエステルと、
b)スクロースポリエステルブレンド中の総重量に基づいて、約1重量%〜約40重量%、又は約2重量%〜約20重量%、又は約5重量%〜約8重量%の、約40℃〜約100℃、又は約60℃〜約75℃の完全融点を有するスクロースポリエステルと、を含んでもよく、
この組成物は、33.3℃にて約50,000〜約300,000パスカル/秒のチキソトロピック性領域を呈する。
【0040】
一態様では、これらの組成物は、スクロースポリエステルブレンドの総重量に基づいて約0重量%〜約0.5重量%のペンタ−スクロースポリエステルを含んでもよい。
【0041】
一態様では、これらの組成物は、組成物がスクロースポリエステルブレンドの総重量に基づいて、
a)10℃にて約45重量%〜約85重量%、又は約65重量%〜約75重量%の固形分、
b)30℃にて約10重量%〜約50重量%、又は約30重量%〜約40重量%の固形分、及び
c)40℃にて約1重量%〜約10重量%、又は約7重量%〜約10重量%の固形分、を含むような固体脂肪指数を有し得る。
【0042】
一態様では、本明細書に記載の組成物の製造プロセスが開示される。一態様では、これらのプロセスは、スクロース分子をエステルでエステル交換する工程を含んでもよく、エステルは、約50%〜約90%のパルミチン脂肪酸含量を有する精留油を低級アルコールでエステル化することを経て製造される。
【0043】
一態様では、これらのプロセスは、
a.)約20%〜約50%のパルミチン酸含量を有する油供給源を用いて、油又は油から誘導されたメチルエステルを精留して、約50%〜約90%、又は約55%〜約75%、又は約55%〜約65%のパルミチン脂肪酸含量を有する油又はメチルエステルを製造する工程と、
b.)約50%〜約90%、又は約55%〜約75%、又は約55%〜約65%のパルミチン脂肪酸含量を有する上記油又はメチルエステルでスクロース分子をエステル交換して、約50%〜約90%、又は約55%〜約75%、又は約55%〜約65%のパルミチン脂肪酸含量を有するエステル化スクロース分子を製造する工程と、を含み得る。
【0044】
上記に詳述されたプロセスの一態様では、この油は、食用油を含んでもよい。一態様では、この油は、ココナッツ油、ババス油、綿実油、綿実ステアリン、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核及びこれらの組み合わせから選択される油を含んでもよい。
【0045】
上記詳説された工程によって生成されたスクロースポリエステルを含むスクロースポリエステルブレンドは、水素添加スクロースポリエステルと比較したとき、消費者に摂取された際に、好ましい口内触感を有してもよい。
【0046】
一態様では、本明細書に記載のスクロースポリエステル組成物を含むショートニング組成物が開示される。
【0047】
試験方法
本出願の目的のために、固体脂肪含量、パルミチン含量、チキソトロピック性領域並びに脂肪酸組成が次のように決定される。
固体脂肪含量(「SFC」)−試験組成物のサンプルを60℃(140°F)の温度に少なくとも30分にわたって、又は、サンプルが完全に融解するまで、加熱する。次いで、融解したサンプルが、次のように焼き戻しされる。26.7℃(80°F)にて15分間、0℃(32°F)にて15分間、26.7℃(80°F)にて30分間、並びに0℃(32°F)にて15分間。焼き戻し後に、10℃(50°F)、21.1℃(70°F)、26.7℃(80°F)、33.3℃(92°F)、並びに37℃(98.6°F)の温度でサンプルのSFC値が、それぞれの温度で30分間の平衡化の後に、パルス核磁気共鳴(PNMR)によって測定される。PNMRによるSFC値測定方法は、Madison and Hill,J.Amer.Oil Chem.Soc.,Vol.55(1978),pp.328〜31に記載されている。PNMRによるSFC測定はまた、A.O.C.S.Official Method Cd.16〜81,Official Methods and Recommended Practices of The American Oil Chemists Society.3rd.Ed.,1987にも記載されている。
【0048】
チキソトロピック性領域の決定−約8.0グラムのサンプルを57mmのアルミニウムパンに移動させることによって、サンプルが調製される。サンプルは、完全に液体になるまで113℃以上で加熱されて、次いで撹拌しながら29℃に冷却することによって焼き戻しされる。その後、サンプルは7日間21℃で維持される。37.8℃で維持されて、0〜800s−1にプログラムされた昇順又は降順せん断速度に関する非ニュートン流量曲線ヒステリシスを測定可能である適切な円錐及び平板レオメータ(Contraves Rheomat 115A、円錐CP−6など)を用いて、レオメータを0s−1にて120秒間維持し、次いで7.5分間で800s−1に上昇させ、そこで1秒間維持し、それから7.5分間で0s−1に下げ、チキソトロピック性領域を測定する。レオメータ精度が、Cannon ASTM Certified Viscosity Standards、S−2000及びN−350又はその等価物のような粘度標準によって確認される。平板と円錐との間のギャップを充填するために、試験サンプルの適当量がレオメータ平板上に配置される。その後、チキソトロピック性領域が測定される。
【0049】
脂肪酸組成及びパルミチン含量の決定−開示されたスクロースポリエステルの脂肪酸組成は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。先ず初めに、スクロースポリエステルの脂肪酸メチルエステルを、当該技術分野で既知の任意の標準方法を経て(例えば、ナトリウムメトキシドを用いるエステル交換を経て)調製し、次いで水素炎イオン化検出器及びHewlett−Packard自動サンプラー7683モデルを装備したHewlett−Packard モデル6890ガスクロマトグラフを用いて、毛細管カラム(Supelco SP2340、60×0.32mm×0.2μm)上で分離する。脂肪酸メチルエステルが、鎖長、不飽和度、並びにシス、パルミチン及び共役を含む異性体変動によって分離される。方法がプログラムされ、250℃の注入温度及び325℃の検出温度で、140〜195℃の温度に昇温させて約50分間運転する。較正のために、メチルエステル参照標準Nuchek Prep(#446)が用いられる。
【0050】
結晶化度の測定−結晶化度は、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定される。TA InstrumentのDSCQ1000を使用して、気密密閉されたパンの中にサンプル(約5mg)を配置する。室温から80℃に10℃/分の速度で加熱し、80℃で1分間維持してサンプルを完全に融解させ、その後、10℃/分の速度にて−40℃に冷却してサンプルを結晶化するように、DSCをプログラムする。データ分析は、−20℃〜50℃の曲線下の面積を積分し、その後、25℃及び5℃における面積パーセントとして結晶化パーセントを報告する。
【実施例】
【0051】
実施例1.20キログラムのパームステアリン(Felda IFFCO(Cincinnati,Ohio)から入手可能)を、撹拌器及び還流冷却器が装備された30リットルの反応槽内に配置し、226.6グラムのナトリウムメトキシドを触媒として用いて、5375グラムのメタノールと反応させる。混合物が、65℃で6時間撹拌されて、メタノールが還流される。次いで、グリセリン副生産物が反応槽の底に沈殿するまで、反応混合物が撹拌することなく静置される。次にグリセリン層が除去され、メチルエステル層が、メチルエステルの10重量%の水で30℃にて洗浄されて、残留するメタノール、触媒、石鹸及び残存するグリセリンの全てを除去する。洗浄工程が、更に2回繰り返される。その後、メチルエステルを95℃にて真空(25mm Hg)下で乾燥させる。続いて、メチルエステルが195℃及び約1mm Hg絶対圧で、塗り付けフィルム蒸発器内で蒸留されて、あらゆる未反応グリセリドからメチルエステルを分離する。メチルエステルは、次の脂肪酸組成を有する。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例2.スクロースポリエステルサンプルが、実施例1で調製されたメチルエステルを用いて調製される。実施例1のメチルエステル1073グラム、スクロースとパルミチン酸カリウムの粉砕した混合物212グラム、及び炭酸カリウム4.5グラムが、頭上式機械撹拌器と、加熱マントルと、窒素導入管と、を備えた5リットルの反応槽に添加される。反応フラスコの内容物を、激しく撹拌し、窒素導入を約3時間行いながら135℃に加熱する。実施例1のメチルエステルの別の1073グラムが、K2CO3の4.5グラムと共に次いで添加される。スクロースポリエステルの総変換が>75%のオクタ−エステルを測定するまで、反応を135℃にて続ける。
【0054】
上述の粗反応混合物を、約230mLの水で更に水和処理し、フラスコの内容物を、撹拌することなく静置する。最上層(油層)が、水和された石鹸層からデカントされる。次いで、残留する水がなくなるまで、油層を95℃(25mm Hg)にて乾燥させる。次いで、油層を1%のトリシル(W.R.Graceから入手可能)で漂白処理し、漂白土を除去するために加圧濾過する。次いで、処理された油層を、塗り付けフィルム蒸発器を通過させて、残留するメチルエステルを除去する。生成したスクロースポリエステルは、次のような特性を有する。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例3.実施例2からのスクロースポリエステル93グラムが、65℃の融点を有する固体スクロースポリエステル成分7グラムと混合され、スクロースポリエステルブレンドが得られる。固体スクロースポリエステル成分は、以下の特性を有する。
【0057】
【表3】
【0058】
得られたスクロースポリエステルブレンド(実施例2からのスクロースポリエステルと上記で詳述した固体スクロースポリエステル成分とを含む)は、次の特性を有する。
【0059】
【表4】
【0060】
実施例4.実施例3のスクロースポリエステルブレンドの特性を、ブランド名Olean(登録商標)でThe Procter & Gamble Companyにより流通している市販のスクロースポリエステルブレンド(下記では水素添加後のOlestra(登録商標)と表す)の特性と比較した。本実施例で使用された特定のOlean(登録商標)製品は、その水素添加条件がトランス脂肪酸異性体の生成を最小にとどめるように選択される、部分的に水素添加された大豆油から生成される。両サンプルの脂肪酸組成及び固体脂肪含量が以下のように比較される。
【0061】
【表5】
【0062】
実施例5−汎用ショートニング組成物:
実施例3に詳述したスクロースポリエステルブレンド2.0kgと、市販の液体精留Soybean Olean(登録商標)5.5kgと、Trancendim(登録商標)130(Caravan Ingredients(Lenexa,Kansas)から入手可能)0.8kgと、大豆油1.7kgと、をボテーターSM3\41Aの中で完全に融解させ、混合して、ショートニング組成物を生じさせる。
【0063】
このショートニング組成物で使用されるSoybean Olean(登録商標)は、以下の特性を有する。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
生じるショートニング組成物は、以下の特性を有する。
【0067】
【表8】
【0068】
100g当たりのカロリー:225cal
堅さ:119,000Pa
降伏値:2750Pa
脂肪結晶粒径:1〜3um
スクロースポリエステルであるショートニングの重量パーセント:75%
【0069】
本明細書に開示した寸法及び値は、記載された正確な数値に厳密に限定されるものと理解されるべきではない。むしろ、特に断らない限り、そのような寸法のそれぞれは、記載された値及びその値の周辺の機能的に同等の範囲の両方を意味するものとする。例えば、「40mm」として開示される寸法は、「約40mm」を意味するものである。
【0070】
相互参照されるか又は関連する全ての特許又は特許出願を含む、本願に引用される全ての文書を、特に除外すること又は限定することを明言しない限りにおいて、その全容にわたって本願に援用するものである。いずれの文献の引用も、こうした文献が本願で開示又は特許請求される全ての発明に対する先行技術であることを容認するものではなく、また、こうした文献が、単独で、あるいは他の全ての参照文献とのあらゆる組み合わせにおいて、こうした発明のいずれかを参照、教示、示唆又は開示していることを容認するものでもない。更に、本文書において、用語の任意の意味又は定義の範囲が、参考として組み込まれた文書中の同様の用語の任意の意味又は定義と矛盾する場合には、本文書中で用語に割り当てられる意味又は定義に準拠するものとする。
【0071】
本発明の特定の実施形態が例示され記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。