特許第5852743号(P5852743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5852743選択的発酵方法による砂糖及びエタノールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5852743
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】選択的発酵方法による砂糖及びエタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/06 20060101AFI20160114BHJP
   C12P 7/10 20060101ALI20160114BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20160114BHJP
   C13B 10/02 20110101ALN20160114BHJP
   C13B 5/00 20110101ALN20160114BHJP
【FI】
   C12P7/06
   C12P7/10
   C12P19/12
   !C13B10/02
   !C13B5/00
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-535570(P2014-535570)
(86)(22)【出願日】2013年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2013074519
(87)【国際公開番号】WO2014042184
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2015年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-203266(P2012-203266)
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】小原 聡
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4883511(JP,B2)
【文献】 特開2004−321174(JP,A)
【文献】 特許第4335207(JP,B2)
【文献】 国際公開第2010/32724(WO,A1)
【文献】 特開平6−000089(JP,A)
【文献】 特開昭56−131391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
C12P
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来の糖液を加熱及び清浄化する工程、
適温に調節された清浄液を発酵させることにより、清浄液中の蔗糖以外の糖分を選択的にエタノールに変換する工程、及び
得られた発酵液を濃縮する工程、
を包含する砂糖及びエタノールの製造方法であって、
該発酵は、蔗糖分解酵素を有さない酵母を使用して行われるか、
該発酵は、蔗糖分解酵素遺伝子を破壊した酵母を使用して行われるか、又は
該発酵は、蔗糖分解酵素阻害剤の存在下で行われる、砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項2】
前記砂糖の原料作物は、サトウキビ、テンサイ、サトウヤシ、サトウカエデ、ソルガムからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項3】
前記清浄液は9重量%以上の蔗糖濃度を有する請求項1又は2に記載の砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項4】
前記発酵液は50%以上の純糖率を有する請求項1〜のいずれか一項に記載の砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項5】
前記濃縮は、発酵液を減圧下で蒸留することにより行われ、その際に発酵液からエタノールが分離され、回収される請求項1〜のいずれか一項に記載の砂糖及びエタノールの製造方法。
【請求項6】
発酵液を濃縮して得られる濃縮糖液から砂糖を結晶化させる工程を更に包含する請求項1〜のいずれか一項に記載の砂糖及びエタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂糖及びエタノールの製造方法に関し、さらに詳しくは、植物由来の糖液を発酵させる砂糖及びエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来の燃料用エタノールは炭酸ガス増加を防ぐガソリン代替液体燃料として期待されており、植物由来の糖液を微生物で発酵させてエタノールを製造する方法が従来から検討されている。しかし、エタノールの製造原料として植物由来の糖液を消費すると食料である砂糖の生産が圧迫される問題がある。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1には、砂糖の減量を招くことなく、サトウキビからの搾り粕を燃焼して得られるエネルギーにより砂糖及びエタノールの製造工程等で消費されるエネルギーのほぼすべてを賄うことができる砂糖及びエタノールの製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、砂糖及びエタノールの製造効率をより向上させるために、植物由来の糖液を最初に、蔗糖分解酵素を有さない酵母で発酵させ、加熱及びフィルターろ過を行って発酵液を清浄化し、清浄化された糖液を濃縮することにより発酵後糖液に含まれるエタノールを分離し、蔗糖を結晶化させて、砂糖及びエタノールを製造する方法が記載されている。この方法は、従来の砂糖製造工程を活用して、糖液中の水分の蒸発のために利用されてきた濃縮工程を利用して、同時にエタノールを蒸発させることを特徴とする方法である。
【0005】
植物由来の糖液は、たとえばサトウキビ搾汁液などは、酵母によるエタノール発酵に適した糖濃度、温度を有する。一般的に植物由来の糖液、たとえばサトウキビ搾汁液などは、最初に加熱され、原料由来の微生物の殺菌、糖液中のタンパクの析出がなされた後、石灰や凝集沈殿剤などの添加物を入れて夾雑物を沈降分離する清浄化工程を経て、砂糖やエタノール製造に利用される。それゆえ、清浄化工程後の糖液の温度がエタノール発酵に適さない高温となるため、特許文献2の方法では、発酵工程は清浄化工程の前の糖液に対して行うことを特徴としている。
【0006】
しかし、特許文献2の方法では、加熱前の未殺菌の植物由来の糖液を発酵させるため、たとえば転化糖が多い糖液において発酵時間が延びた場合、糖液の発酵中に酵母以外の微生物の混入によって分解されてしまう蔗糖の量が多く、砂糖の収量を増大させることが困難となる。また、そのような微生物は分解された糖分も乳酸や酢酸など他の物質に変換するため、エタノールの収量を増大させることにも限界がある。また、植物由来の糖液には一般的に多くの夾雑物、微生物などが含まれるため、酵母の繰り返し利用が困難であり、特に凝集性酵母を発酵槽に常に存在させて酵母分離無しで連続的に発酵するような効率の良い発酵方法が困難である。加えて、発酵後の清浄化工程において加熱された発酵液を沈殿槽で静置している際、一般的な沈殿槽は大気開放系のタンクであるため、加熱されたアルコールの一部が蒸発し、最終的なエタノール回収量が減少する問題がある。
【0007】
特許文献3には、蔗糖及びフルクトースポリマーを含む基質の水溶液を、グルコースをアルコールに発酵することができるが、フルクトースポリマーまたは蔗糖を加水分解することができない酵母を用いて、グルコースを選択的にエタノール発酵させることが記載されている。蔗糖及びフルクトースポリマーを含む基質は、蔗糖含有基質にフルクトシルトランスフェラーゼ及びグルコースイソメラーゼを同時に作用させることにより調製される。蔗糖含有基質としては、糖蜜(molasses)等が例示されている。
【0008】
特許文献3の発明は、糖蜜等を原料にして、フルクトースの含有量が高い甘いシロップを提供することを目的とする。糖蜜は糖液から砂糖を結晶化して回収した後の残渣、つまり従来の砂糖製造方法から得られる残渣であるが、特許文献3の発明は、特許文献2のように従来の砂糖製造工程を活用する方法ではなく、目的生成物も異なる。フルクトースを多く含むシロップは蔗糖の含有量が低く、グルコースだけでなく、蔗糖も消費させている。
【0009】
本願発明は、蔗糖結晶である砂糖の収率向上を目的とし、グルコースとフルクトースの選択的発酵によって糖液の純糖率、つまり全可溶性固形分に占める蔗糖含有比率を向上させて砂糖の結晶回収効率を向上させる技術に関するから、特許文献3の発明は本願発明とは解決課題が相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−321174号公報
【特許文献2】特許第4883511号公報
【特許文献3】米国特許第4335207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、従来の砂糖製造工程を活用して、糖液の発酵中に蔗糖を分解させずに、砂糖の回収量を増加させ、同時にエタノールの回収量も増加させる砂糖及びエタノールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、植物由来の糖液を加熱及び清浄化する工程、
適温に調節された清浄液を発酵させることにより、清浄液中の蔗糖以外の糖分を選択的にエタノールに変換する工程、及び
得られた発酵液を濃縮する工程、
を包含する砂糖及びエタノールの製造方法を提供する。
【0013】
ある一形態においては、前記発酵は、蔗糖分解酵素を有さない酵母を使用して行われる。
【0014】
ある一形態においては、前記発酵は、蔗糖分解酵素遺伝子を破壊した酵母を使用して行われる。
【0015】
ある一形態においては、前記発酵は、蔗糖分解酵素阻害剤の存在下で行われる。
【0016】
ある一形態においては、前記砂糖の原料作物は、サトウキビ、テンサイ、サトウヤシ、サトウカエデ、ソルガムからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0017】
ある一形態においては、前記清浄液は9重量%以上の蔗糖濃度を有する。
【0018】
ある一形態においては、前記発酵液は50%以上の純糖率を有する。
【0019】
ある一形態においては、前記濃縮は、発酵液を減圧下で蒸留することにより行われ、その際に発酵液からエタノールが分離され、回収される。
【0020】
ある一形態においては、前記砂糖及びエタノールの製造方法は、発酵液を濃縮して得られる濃縮糖液から砂糖を結晶化させる工程を更に包含する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、加熱及び清浄化された糖液を用いて発酵を行うため、転化糖が高含有の糖液において発酵時間が延長された場合でも、糖液の発酵中に蔗糖が分解し難く、砂糖の収量が多く、同時にエタノールの収量も多くなる。また、発酵に供される糖液は加熱による微生物の不活化及び夾雑物除去による清浄化がなされているため、混入した微生物や夾雑物によって酵母が汚染されることが生じ難く、酵母の回収及び再利用を容易に行うことができる。さらに清浄液を利用する場合は発酵槽に微生物や夾雑物が蓄積されることが無く、凝集性を有する酵母が利用可能になるため、酵母分離機が不要になり、工程時間の短縮が可能になる。加えて、発酵後に沈殿槽を経ずに直接濃縮されるため、沈殿槽での蒸発によるエタノールロスも無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1で用いたプロセスのフロー図である。
図2】実施例1のプロセスの物質収支を示す図である。
図3】比較例1のプロセスの物質収支を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法において、植物由来の糖液の原料になる植物は糖分を蓄積することができる植物である。中でも、いわゆる砂糖の原料作物が好ましい。砂糖の原料作物として、具体的には、サトウキビ、テンサイ、サトウヤシ、サトウカエデ、ソルガムなどが挙げられる。特に好ましい植物は、サトウキビ及びテンサイである。これらは糖分の蓄積量が多く、これらを原料とした製糖工場が存在するため、本発明を容易に導入できる。
【0024】
植物由来の糖液は、植物中の糖分を含む成分を取り出して得られる液体をいう。植物由来の糖液には、一般に、植物の糖分が蓄積された部位を圧搾して得た搾汁及び植物糖分が蓄積された部位を煮出した煮汁等が含まれる。
【0025】
通常、植物は、圧搾又は煮出される前に、適当な寸法に裁断又は粉砕される。植物の圧搾には、ロールミル等の搾汁手段を使用してよい。また、植物を煮出す際には、ディフューザー等の煮出手段を使用してよい。圧搾の際の注加水の温度及び煮出し温度は、糖分の抽出効率等を考慮して適宜決定されるが、30℃〜40℃が一般的である。
【0026】
蔗糖分解酵素を失活させ、糖液中のタンパク等を変性させ析出、沈殿させるために糖液の加熱を行う。加熱温度は65〜105℃、好ましくは80〜105℃である。加熱温度が65℃未満であると糖液の発酵中に蔗糖分解酵素を失活できなくなる。尚、加熱時間は蔗糖分解酵素を失活させるためには数秒〜10分間で足りる。また、加熱温度が65℃未満であると糖液の殺菌が不十分になる。糖液の殺菌を十分に行うためには、加熱温度は100℃以上に調節することが好ましい。
【0027】
清浄化工程における加熱は実施規模などに依存して最適な条件が変化する。実製造プロセスでは、糖液中の不純物を沈殿させるために数時間加熱を行うことが好ましい。糖液中の不純物を沈殿させるための加熱時間は、2時間〜4時間、好ましくは3時間程度である。加熱時間が2時間未満であると糖液中の不純物を沈殿させることが困難になる。
【0028】
糖液の清浄化は糖液に含まれている蔗糖以外の固形分を除去することをいう。蔗糖以外の固形分には、セルロース、ヘミセルロース等の不溶性固形分、及びタンパク、ペクチン、アミノ酸、有機酸、転化糖、灰分等の可溶性固形分が含まれる。
【0029】
糖液中の蔗糖以外の固形分の除去は、例えば、次のようにして行う。まず、加熱した糖液に石灰を添加し、タンパク、ペクチン等を凝集させる。必要に応じて、ここに水酸化カルシウムもしくは酸化カルシウムを添加するか、炭酸ガスを吹き込んで炭酸カルシウムを生成させ、非糖分凝集物を炭酸カルシウムに吸着させ、沈降させる。次いで、凝集物及び沈降物を含む不溶物をろ別して、清浄液を得る。清浄液には、主にスクロース、グルコース、フルクトースなどが含まれる。
【0030】
清浄液は清浄化された糖液であり、9重量%以上、好ましくは9〜18重量%、より好ましくは12〜15重量%の蔗糖濃度を有する水溶液である。蔗糖濃度が9重量%未満であると従来の製糖工程における濃縮装置、たとえば5重効用缶において、濃縮液の蔗糖濃度が50重量%を下回り、結晶化工程において砂糖結晶の融解を招き、砂糖の回収量が低下する可能性がある。清浄液は、50%以上の純糖率を有する。
【0031】
次いで、清浄液を冷却、放置、又は、要すれば、加熱等することにより、発酵に適する温度に調節する。発酵に適する温度は10〜50℃、好ましくは20〜40℃、より好ましくは25〜35℃である。適温に調節された清浄液は、発酵させて、清浄液中の蔗糖以外の糖分を選択的にエタノールに変換する。このような選択的発酵方法の概念は日本国特許第4883511号に開示されている。
【0032】
選択的発酵の結果、清浄液中の蔗糖以外の糖分の含有量は非常に少なくなる。選択的発酵の条件によっては、清浄液中の転化糖の含有量は実質的にゼロになることがある。選択的発酵により清浄液中の転化糖の濃度が低下し、可溶性固形分の濃度が低下する一方で、蔗糖量は変化しないため、純糖率が向上する。選択的発酵終了後の清浄液は70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の純糖率を有する。
【0033】
尚、純糖率とは、液中の可溶性固形分(Brix)中に含まれる蔗糖の重量%をいう。
【0034】
選択的発酵の一手段は、蔗糖分解酵素を有さない酵母を使用して行う発酵である。
【0035】
蔗糖分解酵素を有さない酵母としては、サッカロマイセス セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)ATCC56805、STX347-1D株、サッカロマイセス アセチ(Saccharomyces aceti)NBRC10055、サッカロマイセス ヒエニピエンシス(Saccharomyces hienipiensis)NBRC1994、サッカロマイセス イタリカス(Saccharomyces italicus)ATCC13057、サッカロマイセス ダイレネンシス(Saccharomyces dairenensis)NBRC 0211、サッカロマイセス トランスバーレンシス(Saccharomyces transvaalensis)NBRC 1625、サッカロマイセス ロシニー(Saccharomyces rosinii)NBRC 10008、チゴサッカロマイセス ビスポラス(Zygosaccharomyces bisporus)NBRC 1131などが挙げられる。また、蔗糖分解酵素を有する微生物においても、微生物の持つ6種類の蔗糖分解酵素遺伝子(SUC1、SUC2、SUC3、SUC4、SUC6、SUC7)のすべて、もしくは一部を遺伝子操作によって破壊した菌株を用いることもできる。
【0036】
選択的発酵の他の手段は、蔗糖分解酵素阻害剤を使用して行う発酵である。
【0037】
蔗糖分解酵素阻害剤としては、銀イオン、銅イオン、水銀イオン、鉛イオン、メチル-α-D-グルコピラノシド、PCMB(p-chloromercuribenzoate)、グルコシル-D-プシコースなどが挙げられる。
【0038】
清浄液を発酵させる操作及び条件は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば発酵微生物と糖液を所定の割合で添加し発酵させる回分式、発酵微生物を固定化後、糖液を連続供給して発酵させる連続式などが挙げられる。
【0039】
但し、本発明の方法においては、上述の清浄化工程により微生物の不活化、夾雑物の除去がなされているために、発酵の際に、野生酵母や乳酸菌や酢酸菌などの微生物による蔗糖分解が起こらず、また転化糖からエタノール以外の生産物(たとえば乳酸や酢酸など)が生産されることが防げられるため、高い効率でエタノール発酵させることができる。また、清浄化工程における微生物の不活化、夾雑物の除去により、清浄液を発酵させた後の酵母には微生物や夾雑物が含まれないため、発酵後の酵母を繰り返し利用できる。清浄液は糖蜜とは異なり、希釈せずに発酵原料として利用できるため、発酵の際に必要な水の量を低減することができる。
【0040】
清浄液を発酵させる際に添加する酵母の量は、湿重量で5g/L以上、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは15〜60g/Lである。酵母の添加量が5g/L未満であると発酵が進まず、多量過ぎると酵母回収の際に液と酵母の分離が非効率となる。
【0041】
発酵の結果得られる発酵液には、酵母、エタノール、水、蔗糖、ミネラル、アミノ酸等が含まれる。発酵終了後、酵母を分離する。
【0042】
次いで、酵母を分離した発酵液を濃縮して濃縮糖液を得る。濃縮は、発酵液からエタノールを回収し、さらに引き続き水を蒸発させて発酵液を濃縮して、砂糖を製造するために行う。
【0043】
濃縮糖液は85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の純糖率を有する。濃縮糖液の純糖率が高いほど含まれている蔗糖が結晶化し易くなり、砂糖の収率が向上する。
【0044】
酵母を分離した発酵液からのエタノールの回収は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば蒸留によりエタノールを分離することが挙げられる。特に製糖工場の多重効用缶を利用した蒸留を行えば、第一効用缶でエタノールを分離でき、第二効用缶以降で水分を蒸発させることにより、同時に発酵液が濃縮糖液となるため、砂糖製造において、改めて加熱濃縮を行う必要が無く、時間及びエネルギーともに節約することができる。
【0045】
濃縮糖液からの砂糖の製造は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば砂糖を結晶化することなどが挙げられる。具体的には、濃縮糖液の一部を吸引減圧下で加熱し、過飽和度1.1〜1.2を保持するように残りの濃縮糖液を少量ずつ添加しながら砂糖結晶を大きく成長させる。一定の大きさ以上の砂糖結晶に成長させた後、次いで遠心分離機で砂糖結晶と糖液とに分離する。
【0046】
砂糖結晶から分離された糖液は一般に糖蜜と呼ばれる。糖蜜は清浄液に適量混合して再度発酵原料として使用してよい。そうすることで、糖液に含まれる糖分の利用効率が更に向上する。
【実施例】
【0047】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
実施例1
(サトウキビを原料とし、蔗糖分解酵素を有さない酵母を使った場合に清浄液を発酵させるプロセスの実証)
(1)圧搾工程
収穫後のサトウキビ(NiF8)の蔗茎部3000gをシュレッダーで裁断後、4重ロールミルで圧搾し、搾汁2843mL(搾汁重量=2985g、蔗糖含有量=351g、転化糖含有量=112g、純糖率=63.9%)を得た。
【0049】
(2−1)加熱及び清浄化工程
搾汁を5Lビーカーに移し、100℃で10分間加熱した。次いで、搾汁重量に対して0.085重量%の消石灰Ca(OH)2を添加し、pH調整と不純物の凝集をさせた。凝集した不純物をフィルターろ過し、清浄液2684mL(清浄液重量=2818g、蔗糖含有量=346g、転化糖含有量=111g、純糖率=71.7%)を分離した。搾汁では102g含まれていた不純物が、清浄液では26gまで減少している。しかも清浄液では、加熱により搾汁に含まれていた微生物が殺菌されている。
【0050】
(2−2)発酵工程
得られた清浄液を5Lジャーファーメンターに移し、30℃まで冷却後、蔗糖分解酵素を有さない凝集性酵母Saccharomyces cerevisiae(STX347-1D)を湿重量で134g植菌し、嫌気条件下、30℃で24時間、エタノール発酵させた。酵母は予めYM培地で前培養しておいたものを用いた。発酵終了後、酵母及び凝集した不純物、計145gを沈降分離によって回収し、発酵液2748g(エタノール濃度1.75wt%、蔗糖含有量=346g、転化糖含有量=11g)を分離した。
【0051】
(3)エタノール蒸留及び糖液濃縮工程
発酵液を減圧下で加熱し、蒸発したエタノール46gを冷却回収した後、引き続き水2073mLを蒸発させ、濃縮糖液630g(蔗糖含有量=346g、転化糖含有量=11g、純糖率=91.6%)を得た。
【0052】
(4)結晶化工程
糖液の1/2を引き抜き、更に減圧下で加熱し、蔗糖の過飽和度1.2まで濃縮した後、砂糖の種結晶(粒径250μm)32gを添加し、残りの濃縮糖液を少量ずつ添加しながら、約3時間結晶化させた。
【0053】
(5)粗糖・糖蜜分離工程
結晶化させた砂糖及び糖蜜の混合物を、50〜100μmメッシュの濾布を用いた有孔壁型遠心分離機にて3000rpm20分間遠心分離し、砂糖253g(蔗糖回収率=71%:種結晶添加分抜き)と糖蜜137g(蔗糖含有量=100g、転化糖含有量=8g、純糖率=80.6%)に分離した。
【0054】
生産プロセスのフロー図を図1に、物質収支の結果を図2に示す。
【0055】
比較例1
(サトウキビを原料とし、蔗糖分解酵素を有さない酵母を使った場合清浄化工程前の搾汁を発酵させるプロセス実証)
(1)圧搾工程
収穫後のサトウキビ(NiF8)の蔗茎部3000gをシュレッダーで裁断後、4重ロールミルで圧搾し、搾汁2843mL(搾汁重量=2985g、蔗糖含有量=351g、転化糖含有量=112g、純糖率=63.9%)を得た。
【0056】
(2−1)発酵工程
得られた搾汁を5Lジャーファーメンターに移し、蔗糖分解酵素を有さない凝集性酵母Saccharomyces cerevisiae(STX347-1D)を湿重量で142g植菌し、嫌気条件下、30℃で24時間、エタノール発酵させた。酵母は予めYM培地で前培養しておいたものを用いた。発酵終了後、酵母及び凝集した不純物、計245gを沈降分離によって回収し、発酵液2822g(エタノール濃度2.16wt%、蔗糖含有量=281g、転化糖含有量=15g)を分離した。
【0057】
(2−2)加熱及び清浄化工程
発酵液を5Lビーカーに移し、100℃で10分間加熱した。次いで、搾汁重量に対して0.085重量%の消石灰Ca(OH)2を添加し、pH調整と不純物の凝集をさせた。凝集した不純物をフィルターろ過し、清浄液2719g(エタノール濃度1.53wt%、蔗糖含有量=277g、転化糖含有量=15g、純糖率=68.6%)を分離した。実施例1と異なり、加熱工程において、エタノール19gが蒸発した。
【0058】
(3)エタノール蒸留及び糖液濃縮工程
清浄液を5Lエバポレーターに移し、減圧下で加熱し、蒸発したエタノール42gを冷却回収した後、引き続き水2104mLを蒸発させ、濃縮糖液573g(蔗糖含有量=277g、転化糖含有量=15g、純糖率=80.6%)を得た。
【0059】
(4)結晶化工程
糖液の1/2を引き抜き、更に減圧下で加熱し、蔗糖の過飽和度1.2まで濃縮した後、砂糖の種結晶(粒径250μm)29gを添加し、残りの濃縮糖液を少量ずつ添加しながら、約3時間結晶化させた。
【0060】
(5)粗糖・糖蜜分離工程
結晶化させた砂糖及び糖蜜の混合物を、50〜100μmメッシュの濾布を用いた有孔壁型遠心分離機にて3000rpm20分間遠心分離し、砂糖186g(蔗糖回収率=65%:種結晶添加分抜き)と糖蜜172g(蔗糖含有量=97g、転化糖含有量=12g、純糖率=61.3%)に分離した。
【0061】
比較例1の物質収支の結果を図3に示す。
図1
図2
図3