(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、ガラスに比べて軽量であり、加工性に優れ、割れにくく安全性が高いなどの利点から、眼鏡などの各種レンズに使用されている。
例えば、エピチオ基を有する化合物とポリイソシアネート化合物やポリチオール化合物などを原料とし、これらを重合反応させることにより高屈折率、高アッベ数で、透明性に優れた眼鏡用プラスチックレンズが得られることが知られている(例えば、特許文献1)。しかし、芳香族ポリイソシアナート化合物を原料として使用した場合、得られたレンズ全体に微粒子状の不純物が析出し、レンズにクモリや濁りが生じることがあり、上記特許文献1においてもポリイソシアネート化合物として、芳香族ポリイソシアナート化合物を使用した例は開示されていない。
【0003】
一方、芳香族ポリイソシアナート化合物である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートは、工業的にも入手しやすいため光学部材の原料として使用が望まれているが、上記のような微粒子状の不純物の析出が特に多いため、光学部材の原料としては適切ではなく、その使用は限られている。
例えば、特定構造を有するチオール化合物と共にポリイソシアネート化合物を原料とした樹脂が開示されており(例えば、特許文献2)、実施例及び比較例において4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが用いられている。また、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びポリチオールを含む光学材料用重合組成物が開示されており(例えば、特許文献3)、比較例においてトリレンジイソシアネートの代わりに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが用いられている。しかし、特許文献2及び3のいずれにおいても、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを使用することにより樹脂中に不純物が析出することについて何の記載もされていない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のウレタン系光学部材は、光学部材を形成する構造中に下記の式で表される構造を有し、さらに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートオリゴマーの含有量が0.5質量%未満であることを特徴とする。
【0012】
本発明のウレタン系光学部材は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと称すことがある。)を必須の原料としてするものであり、該光学部材を形成する構造中には上記の式で表される構造単位が含まれる。
MDIは、市販されており工業的に入手が容易であるが、反応性に富んでおり、原料メーカーで製造された直後からMDIのオリゴマーが形成され、ほとんどの場合ユーザーの手に届く頃には一定量のオリゴマーが存在することになる。このような一定量のオリゴマーが混在したMDIを原料として用いた場合、通常オリゴマー自体は他の原料と反応しないため、得られる光学部材中に該オリゴマーが析出して濁りやクモリの原因となり光学部材の透明性が損なわれる。
【0013】
本発明のウレタン系光学部材は、透明性の観点から、オリゴマーの含有量が0.5質量%未満であり、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下である。含有量が0.5質量%以上であると、例えばメガネレンズとした場合、室内においても目視で確認できるほどの濁りやクモリが生じてしまう。
なお、光学部材中にオリゴマーが存在しないことが最も望ましいが、上記MDIの性質からMDIを原料として用いて量産するうえでは現実的ではない。
【0014】
オリゴマー含有量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィによって測定することができる。また、ウレタン系光学部材中のオリゴマーは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート中のオリゴマーが析出したものであり、本発明において、全モノマー組成物中のオリゴマー含有量を、ウレタン系光学部材中のオリゴマー含有量とする。
【0015】
ウレタン系光学部材中のオリゴマー含有量を所定の量にするには、原料である4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート中のオリゴマーを除去すればよい。除去の方法としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、例えば、蒸留、再結晶、再沈殿、濾過などする方法で行えばよいが、なかでも濾過が最も生産的で効率がよく好ましい。
また、上述したとおりオリゴマーは経時と共に形成されるため、オリゴマーの除去は、製造に使用する直前に行うことが好ましい。
【0016】
本発明のウレタン系光学部材の製造に使用することができる4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート以外の原料としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート以外のポリイソシアネート化合物(以下、単にポリイソシアネート化合物と称す。)及びポリチオール化合物などの一般的に光学部材の原料モノマーとして使用される重合性モノマー、また必要に応じて各種添加剤などが挙げられる。
【0017】
本発明において使用することができるポリイソシアネート化合物としては、特に制限はなく、例えば、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び脂環式ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、エチルフェニレンジイソシアネート、イソプロピルフェニレンジイソシアネート、ジエチルフェニレンジイソシアネート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアネート、トリメチルベンゼントリイソシアネート、ベンゼントリイソシアネートなどを用いることができる。これらの芳香族ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0018】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、メシチレントリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネートなどを用いることができ、脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3,5−トリス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどを用いることができる。これらの脂肪族及び脂環式ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0019】
本発明において使用することができるポリチオール化合物としては、例えば、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジクロロネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジブロモネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトアセテート)、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4,5−ビスメルカプトメチル−1,3−ジチアン、ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオールなどが挙げられる。これらのポリチオール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0020】
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを含むポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物の配合割合は、NCO基/SH基のモル比が通常0.5〜2.0となる割合であればよく、好ましくは0.95〜1.05である。NCO基/SH基のモル比が0.95以上であれば未反応のNCO基がほぼ残らず、1.05以下であれば未反応のSH基がほぼ残らず反応する。この範囲であれば未反応基の少ない理想的なポリマーを得ることができる。
【0021】
本発明において、使用することができる添加剤としては、特に制限はなく公知の添加剤を使用することができるが、例えば重合触媒、紫外線吸収剤、離型剤などが挙げられる。
重合触媒としては、有機錫化合物が好ましく、例えば、ジブチル錫ジアセテ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド、モノメチル錫トリクロライド、トリメチル錫クロライド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫フロライド、ジメチル錫ジブロマイドなどを用いることができる。これらの重合触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
重合触媒の配合割合は、モノマー組成物全量100質量部に対し、通常0.001〜1.00質量部の範囲内である。上記範囲内であれば、重合速度の調整が容易である。
【0022】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホニックアシッド、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン及び2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどの各種ベンゾフェノン系化合物;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどの各種ベンゾトリアゾール化合物;ジベンゾイルメタン、4−tert−ブチル−4’−メトキシベンゾイルメタンなどを用いることができる。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
紫外線吸収剤の配合割合は、モノマー組成物全量100質量部に対し、通常0.01〜
10.00質量部の範囲内である。より好ましい範囲は0.05〜1.00であり、配合割合が0.05以上であれば十分な紫外線吸収効果が得られ、1.00以下であれば樹脂が著しく着色することがない。
【0023】
離型剤としては、例えば、イソプロピルアシッドフォスフェート、ブチルアシッドフォスフェート、オクチルアシッドフォスフェート、ノニルアシッドフォスフェート、デシルアシッドフォスフェート、イソデシルアシッドフォスフェート、トリデシルアシッドフォスフェート、ステアリルアシッドフォスフェート、プロピルフェニルアシッドフォスフェート及びブチルフェニルアシッドフォスフェートなどのリン酸モノエステル化合物;ジイソプロピルアシッドフォスフェート、ジブチルアシッドフォスフェート、ジオクチルアシッドフォスフェート、ジイソデシルアシッドフォスフェート、ビス(トリデシルアシッドフォスフェート)、ジステアリルアシッドフォスフェート、ジプロピルフェニルアシッドフォスフェート、ジブチルフェニルアシッドフォスフェート及びブトキシエチルアシッドフォスフェートなどのリン酸ジエステル化合物などを用いることができる。これらの離型剤は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
離型剤の配合割合は、モノマー組成物全量100質量部に対し、通常0.01〜1.00質量部の範囲である。上記範囲内であれば離型促進を効果的に発揮することができ、作業に無理が生じない。
【0024】
本発明のウレタン系光学部材は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを含む各種モノマー及び必要に応じた添加剤を混合して混合物とし、これを公知の重合法により反応させることにより製造することができる。混合順序や混合方法は原料を均一に混合することができれば特に限定されず、重合法についても従来採用されている方法で行えばよい。
【0025】
また、本発明はプラスチックレンズを提供するものであり、ウレタン系光学部材がプラスチックレンズである場合の上記重合法としては、注型重合法が好ましい。
この注型重合は、例えば、各種モノマー及び添加剤を混合した混合物を、ガラス又は金属製のモールドと樹脂製のガスケットとを組み合わせたモールド型に注入して重合を行う。重合温度及び重合時間は使用する原料の種類にもよるが、一般に0〜150℃で0.5〜72時間程度である。
【0026】
上述のように製造することができる本発明のウレタン系光学部材としては、例えば、眼鏡やカメラなどのレンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク及び磁気ディスクなどに用いられる記録媒体用基板、ワードプロセッサーなどのディスプレイに付設する光学フィルターが挙げられる。
特に好適な光学部材としては、濁りやクモリのない透明性に優れたものであることから、プラスチックレンズ、とりわけ眼鏡用プラスチックレンズである。
【実施例】
【0027】
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例において、下記の方法により物性評価を行った。
(1)外観
原料を混合した混合物の重合直前外観を目視により観察し、また重合後の得られたレンズを暗室内、蛍光灯下で目視により観察し、重合前外観及び重合後外観の色及び透明性を評価した。
(2)濁度
得られたレンズの濁度をJIS規格(JIS K0101 工業用水試験法の規格)に基づき目視により測定した。
【0028】
[実施例1]
温浴で融解させた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート〔MDI〕を、濾過法(材質:PTFE、0.2μm)により精製し、その直後にゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定して、オリゴマー成分を定量したところ0.05質量%であった。
300mlナス型フラスコに、上記の精製したMDI53.95gを仕込み、離型剤としてJP−513(商品名、城北化学工業株式会社製)0.05g、ジメチル錫ジクロライド0.03gを添加し、50℃窒素パージ下で10分間撹拌を続けた。これらが完全に溶解したところで2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕29.74g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕16.31gを配合し、0.13kPa(1.0Torr)で20分減圧撹拌を行い混合物とした。
この混合物を中心肉厚が2mmのレンズ型に1.0μmのポリテトラフルオロエチレンメンブランフィルターを通して注型し、24時間かけて初期温度30℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合を行い、レンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0029】
[実施例2]
実施例1と同様の濾過法により精製したMDIを50℃にて保管し、24時間後に取り出してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定し、オリゴマー成分を定量したところ0.20質量%であった。
上記のMDIを用い、実施例1と同様に行いレンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0030】
[実施例3]
実施例1と同様の濾過法により精製したMDIを50℃にて保管し、72時間後に取り出してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定し、オリゴマー成分を定量したところ0.50質量%であった。
上記のMDIを用い、実施例1と同様に行いレンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0031】
[実施例4]
実施例1と同様の濾過法により精製したMDIを50℃にて保管し、96時間後に取り出してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定し、オリゴマー成分を定量したところ0.70質量%であった。
上記のMDIを用い、実施例1と同様に行いレンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0032】
[実施例5]
実施例1と同様の濾過法により精製したMDIを50℃にて保管し、120時間後に取り出してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定し、オリゴマー成分を定量したところ0.90質量%であった。
上記のMDIを用い、実施例1と同様に行いレンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
実施例1と同様の濾過法により精製したMDIを50℃にて保管し、1週間後に取り出してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定し、オリゴマー成分を定量したところ1.00質量%であった。
上記のMDIを用い、実施例1と同様に行いレンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0034】
[比較例2]
実施例1と同様の濾過法により精製したMDIを50℃にて保管し、2週間後に取り出してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工株式会社製)にて測定し、オリゴマー成分を定量したところ1.60質量%であった。
上記のMDIを用い、実施例1と同様に行いレンズを得た。得られたレンズの上記物性評価の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】