(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  しかるに、このようなドア固定治具でドアを固定するには、ドア側治具と車体側治具とを係合させる工程が必要であるため、工数および手間がかかる。
【0007】
  また、自動車の塗装では、例えば、塗装工程、乾燥工程および研磨工程を複数回繰り返す場合があり、このような場合には、塗装工程の後、一旦、ドア側治具と車体側治具との係合を解消させ、塗料を乾燥させる必要がある。しかしながら、ドア側治具と車体側治具との係合を解消させるため、例えば、第1係止部材を回動させると、ドア側治具から塗料が剥離し、車体などに付着して、塗装不良(例えば、ブツなど)を生じるという不具合がある。
【0008】
  さらに、同一のドア固定治具を別種の塗料による塗装工程で用いる場合には、ドア固定治具を洗浄する必要があるが、特許文献1に記載のドア固定治具は形状が複雑であるため、メンテナンスが困難であるという不具合がある。
【0009】
  本発明の目的は、工数の低減を図ることができるとともに、塗装不良を抑制することができ、さらには、メンテナンス性にも優れる治具および挟持部材を提供することにある。
 
【課題を解決するための手段】
【0010】
  上記目的を達成するために、本発明の治具は、ドア開口部を備えるボデーと、前記ドア開口部に開閉自在に装着されるドアとを備える車体において、前記ボデーと前記ドアとを所定開度に保つための治具であって、一端部が前記ドアに接触するとともに、他端部が前記ドア開口部に接触し、前記一端部および前記他端部が近接する方向に付勢されることにより、前記ボデーおよび前記ドアを挟持する挟持部材と、前記ドア開口部および前記ドアに接触され、前記ボデーと前記ドアとが所定開度を保つように、前記挟持部材の付勢力に抗して、前記ボデーに対して前記ドアが近接することを規制する規制部材とを備えることを特徴としている。
【0011】
  また、本発明の治具では、前記挟持部材が、円環部を有する線条部材からなることが好適である。
【0012】
  また、本発明の挟持部材は、ドア開口部を備えるボデーと、前記ドア開口部に開閉自在に装着されるドアとを備える車体において、前記ボデーおよび前記ドアを挟持する挟持部材であって、円環部を有する線条部材からなり、一端部が前記ドアに接触するとともに、他端部が前記ドア開口部に接触し、前記一端部および前記他端部が近接する方向に付勢されることにより、前記ボデーおよび前記ドアを挟持することを特徴としている。
 
【発明の効果】
【0013】
  本発明の治具および挟持部材によれば、挟持部材と規制部材とを係合させる必要がないため、工数の低減を図ることができるとともに、係合の解消時などに生じる塗装不良を抑制することができる。
【0014】
  また、本発明の治具および挟持部材は、単純な構成とすることができるため、メンテナンス性の向上を図ることができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.挟持部材
  
図1は、本発明の治具の一実施形態における挟持部材により車体を挟持している状態を示す斜視図、
図2は、
図1に示す挟持部材を取り出して示す斜視図、
図3は、
図1に示す挟持部材を車体外側から示す拡大図、
図4は、
図1に示す挟持部材を車体内側から示す拡大図である。
 
【0017】
  図1において、挟持部材1は、ドア開口部2を備えるボデー3と、ドア開口部2に開閉自在に装着されるドア4とを備える自動車の車体5において、ボデー3およびドア4を挟持するために用いられている。
 
【0018】
  なお、ドア4は、その前端部がヒンジなどを介してドア開口部2の前端部に回動可能に支持されており、ボデー3に対して開閉される。これによって、ドア4は、ボデー3に対して所定の開度(
図6におけるA−A線断面図の隙間S参照)を有することができる。
 
【0019】
  挟持部材1は、金属材料(鋼材)などからなる一本の線条部材(線材)から形成されており、
図2に示すように、付勢部11と、線条部材の一方側(ドア側)先端部に形成されるドア側係止部12と、線条部材の他方側(ボデー側)先端部に形成されるボデー側係止部13とを、一体的に備えている。
 
【0020】
  付勢部11は、線条部材の一方側(ドア側)を折り曲げ、略鋭角のドア側屈曲部14を形成するとともに、他方側(ボデー側)を折り曲げ、略鋭角のボデー側屈曲部15を形成することにより、一方側(ドア側)が短く、また、内側に窄まる略コ字状(略ム字状)に形成されている。
 
【0021】
  ドア側屈曲部14およびボデー側屈曲部15を略鋭角とすれば、ドア側屈曲部14およびボデー側屈曲部15が略直角または鈍角となるように、挟持部材1を弾性変形させることにより、挟持部材1の一端部と他端部とが近接する方向に付勢力を生じさせることができる。
 
【0022】
  また、付勢部11は、円環部としての第1円環部16および第2円環部17を備えている。
 
【0023】
  第1円環部16は、ドア側屈曲部14の近傍、具体的には、ドア側屈曲部14よりも他方側(ボデー側)において、ドア側屈曲部14の内側で、線条部材が環を描くように曲げられることによって、形成されている。
 
【0024】
  また、第2円環部17は、ボデー側屈曲部15の近傍、具体的には、ボデー側屈曲部15よりも一方側(ドア側)において、ボデー側屈曲部15の外側で、線条部材が環を描くように曲げられることによって、形成されている。
 
【0025】
  これら第1円環部16および第2円環部17によって、ドア側屈曲部14およびボデー側屈曲部15における曲げ応力を緩和することができ、挟持部材1の破損を抑制することができる。
 
【0026】
  ドア側係止部12は、
図3に示すように、付勢部11が略コ字状に配置される平面と同一平面上において、線条部材の一方側(ドア側)の先部が、付勢部11と鈍角を成すように屈曲されることにより、形成されている。
 
【0027】
  ドア側係止部12は、その一方側端部において、挟持部材1をドア4に固定するためのドア側挿入部18を備えている。
 
【0028】
  ドア側挿入部18は、付勢部11が略コ字状に配置される平面に対して交差する方向において、ドア側係止部12の一方側端部が鉤状に屈曲されることにより、形成されている。
 
【0029】
  このようなドア側挿入部18は、ドア4のサッシュ6、具体的には、サッシュ6の車体5外側に形成されたウェザストリップ用溝7(図示しないウェザストリップを設けるための溝部)の隙間に挿入可能に形成されており、これにより、挟持部材1をドア4に固定可能としている。
 
【0030】
  また、ドア側係止部12は、その中部において、円環部としての第3円環部19を備えている。
 
【0031】
  第3円環部19は、ドア側挿入部18よりも付勢部11側において、ドア側係止部12の外側で、線条部材が環を描くように曲げられることによって、形成されている。
 
【0032】
  第3円環部19は、例えば、第1円環部16および第2円環部17よりも大径に形成されており、人の指などを挿通可能としている。
 
【0033】
  詳しくは後述するが、このような第3円環部19によって、操作性よく、挟持部材1を弾性変形させることができる。
 
【0034】
  ボデー側係止部13は、
図4に示すように、付勢部11が略コ字状に配置される平面と同一平面上において、線条部材の他方側(ボデー側)先端部が、付勢部11と略直角を成すように屈曲されることにより、形成されている。
 
【0035】
  このようなボデー側係止部13は、その先端部がさらに略直角に折り返されることにより、ボデー側挿入部20(破線参照)が形成されている。
 
【0036】
  ボデー側挿入部20が、ボデー3の車体5内側、具体的には、ドア開口部2の内側に形成された凹部8(例えば、アシストグリップを設置するための固定穴など)に挿入されることにより、挟持部材1をボデー3に固定可能としている。
 
【0037】
  このような挟持部材1を形成するための線条部材の断面形状は、例えば、円形、矩形、三角形などが挙げられ、好ましくは、円形が挙げられる。
 
【0038】
  なお、詳しくは後述するが、挟持部材1は、一端部(ドア側挿入部18)がドア4のウェザストリップ用溝7に差し込まれ、ドア4に接触するとともに(
図3参照)、他端部(ボデー側挿入部20)がドア開口部2の凹部8に差し込まれ、ボデー3(ボデー3の車体5内側)に接触する(
図4参照)。そして、挟持部材1の一端部および他端部が近接する方向に付勢されることにより、ボデー3およびドア4を挟持する(
図1参照)。
2.規制部材
  
図5は、本発明の治具の一実施形態における規制部材により車体を規制している状態を示す斜視図、
図6は、
図5に示す規制部材を示す拡大図である。
 
【0039】
  規制部材21は、金属材料などからなり、
図5および
図6に示すように、支持板22、固定部23、ボデー当接部24およびドア当接部25を備えている。
 
【0040】
  支持板22は、略矩形板状に形成されている。支持板22は、規制部材21がドア開口部2に固定された状態において、車体5の車高方向に沿って延びるように配置されている。
 
【0041】
  固定部23は、支持板22の一方側(ドア側)表面に設けられており、詳しくは図示しないが、ドア開口部2の嵌合穴28(例えば、スカッフプレートを取り付けるための取付穴など)に、嵌合可能な形状に形成されている。固定部23は、嵌合穴28に埋設され、嵌合されることにより、規制部材21をドア開口部2に固定可能としている。
 
【0042】
  ボデー当接部24は、円柱状に形成されており、規制部材21がドア開口部2に固定された状態において、ボデー3(ボデー3の車体5外側)と線接触するように、支持板22の他方側(ボデー側)表面に、車体5の前後方向に沿って、溶接または接着されている。
 
【0043】
  ドア当接部25は、2つの円柱が組み合わされた略T字状に形成されている。
 
【0044】
  具体的には、ドア当接部25は、規制部材21がドア開口部2に固定された状態において、支持板22の車高方向上端縁から一方側(ドア側)に向かって突出する円柱状の第1円柱部材26と、第1円柱部材26の一方側先端部において、車体5の前後方向両側に向かって延びる、第1円柱部材26よりも短い円柱状の第2円柱部材27とを備えている。
 
【0045】
  このようなドア当接部25は、第1円柱部材26の一方側先部において、第2円柱部材27がドア4(ドア4の車体5内側)と線接触するように、支持板22の車高方向上端縁に設けられている。
 
【0046】
  なお、詳しくは後述するが、規制部材21は、ドア開口部2およびドア4に接触され、ボデー3とドア4とが所定開度を保つように、挟持部材1の付勢力に抗して、ボデー3に対してドア4が近接することを規制する(
図6におけるA−A線断面図の隙間S参照)。
3.治具
  治具は、
図1〜
図6が参照されるように、ボデー3とドア4とを備える車体5において、ボデー3とドア4とを所定開度に保つために、用いられる。
 
【0047】
  このような治具は、上記した挟持部材1(
図1〜
図4参照)と、上記した規制部材21(
図5〜
図6参照)とを備えており、例えば、車体5の塗装工程時に用いられる。
 
【0048】
  詳しくは、例えば、車体5の塗装では、例えば、電着塗装された車体5に対して、複数回の塗装工程(下塗塗装工程、中塗塗装工程、上塗塗装工程など)が順次実施され、また、各塗装工程の間で、乾燥工程や研磨工程などが実施される。
 
【0049】
  そして、このような塗装においては、例えば、塗装工程では、ボデー3とドア4とを所定開度で固定しておき、その他の工程(乾燥工程、研磨工程など)ではそれらの固定を解消するなど、ボデー3とドア4との固定および解消を繰り返すことを要求される場合がある。
 
【0050】
  このような塗装において、ボデー3とドア4とを所定開度で固定するため、治具を用いることができる。
 
【0051】
  以下において、治具の使用形態について、詳述する。
 
【0052】
  この使用形態では、例えば、まず、規制部材21のボデー当接部24をボデー3に当接させ、また、ドア当接部25をドア4に当接させるように、規制部材21の固定部23を、ドア開口部2の嵌合穴28に嵌合させる(
図5および
図6参照)。
 
【0053】
  一方、挟持部材1のボデー側挿入部20を、ボデー3の車体5内側に形成された凹部8に挿入する(
図4参照)。
 
【0054】
  次いで、第3円環部19に指をかけるなどして、ドア側屈曲部14およびボデー側屈曲部15が鈍角となるように、ドア側係止部12を引っ張り、付勢部11が開くように弾性変形させた後、付勢部11の弾性変形を解消させながら、ドア側挿入部18をサッシュ6の車体5外側に形成されたウェザストリップ用溝7の隙間に挿入する(
図3参照)。
 
【0055】
  このとき、挟持部材1は、ドア側屈曲部14およびボデー側屈曲部15が略直角となるように保持されるので、挟持部材1の一端部と他端部とが近接する方向に付勢力が生じる。
 
【0056】
  すなわち、挟持部材1は、一端部(ドア側挿入部18)がドア4のウェザストリップ用溝7に差し込まれ、ドア4(ドア4の車体5外側)に接触するとともに、他端部(ボデー側挿入部20)がドア開口部2の凹部8に差し込まれ、ボデー3(ボデー3の車体5内側)に接触する。そして、挟持部材1の一端部および他端部が近接する方向に付勢されることにより、挟持部材1が、ボデー3およびドア4を挟持する(
図1参照)。
 
【0057】
  このとき、規制部材21は、ドア開口部2およびドア4に接触されており、ボデー3とドア4とが所定開度を保つように、挟持部材1の付勢力に抗して、ボデー3に対してドア4が近接することを規制している(
図6におけるA−A線断面図の隙間S参照)。
 
【0058】
  そのため、これら挟持部材1および規制部材21によって、ボデー3とドア4とを、所定開度(例えば、ヒンジの開度(ドア開口部2に対してドア4のなす角度)を5〜9°)に維持することができる。
4.作用効果
  上記のような治具および挟持部材1によれば、挟持部材1と規制部材21とを係合させる必要がないため、工数の低減を図ることができるとともに、係合の解消時などに生じる塗装不良を抑制することができる。
 
【0059】
  また、上記したように、車体5の塗装においては、例えば、塗装工程では、ボデー3とドア4とを所定開度で固定しておき、その他の工程(乾燥工程、研磨工程など)ではそれらの固定を解消するなど、ボデー3とドア4との固定および解消を繰り返すことを要求される場合がある。
 
【0060】
  このような場合において、上記のような治具および挟持部材1によれば、例えば、第3円環部19の操作により、ドア側挿入部18をウェザストリップ用溝7から引き抜けば、容易に、ボデー3およびドア4の固定を解消することができる。
 
【0061】
  さらには、ボデー側挿入部20を、ボデー3の凹部8に挿入状態で維持すれば、ドア側挿入部18をウェザストリップ用溝7に挿入するのみで、容易に、ボデー3とドア4とを所定開度に再度保つことができる。
 
【0062】
  それに加えて、上記のような治具および挟持部材1は、単純な構成とすることができるため、メンテナンス性の向上を図ることができる。