【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕アイヌワカメからの溶媒抽出物の製造例
以下に、アイヌワカメを用いた溶媒抽出物の製造例を示す。
1.製造例1 アイヌワカメの熱水抽出物
アイヌワカメの乾燥物20gに精製水800mLを加え、95〜100℃で2時間抽出を行った。抽出後、抽出液を濾過に供し、得られた濾液を濃縮及び凍結乾燥に供することで、アイヌワカメの熱水抽出物を3.4g得た。
【0050】
2.製造例2 アイヌワカメのHCl抽出物
アイヌワカメの乾燥物20gに0.1N HCl 800mlを加え、4℃で7日間抽出を行った。抽出後、抽出液を濾過に供し、得られた濾液を濃縮及び凍結乾燥に供することで、アイヌワカメのHCl抽出物を3.1g得た。
【0051】
3.製造例3 アイヌワカメの50%エタノール抽出物
アイヌワカメの乾燥物20gに50(v/v)%エタノール400mLを加え、常温で7日間抽出を行った。抽出後、抽出液を濾過に供し、得られた濾液を濃縮乾固に供することで、アイヌワカメの50%エタノール抽出物を3.7g得た。
【0052】
4.製造例4 アイヌワカメのエタノール抽出物
アイヌワカメの乾燥物100gにエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出を行った。抽出後、抽出液を濾過に供し、得られた濾液を濃縮乾固に供することで、アイヌワカメのエタノール抽出物を6.7g得た。
【0053】
5.製造例5 アイヌワカメの50%1,3-ブチレングリコール抽出物
アイヌワカメの乾燥物20gに50%1,3-ブチレングリコール水溶液400mLを加え、常温で7日間抽出を行った。抽出後、抽出液を濾過に供することで、アイヌワカメの50%1,3-ブチレングリコール抽出物を370g得た。
【0054】
〔実施例2〕幹細胞からメラノサイトへのアイヌワカメ抽出物の分化誘導抑制効果の評価
以下に、実施例1において製造した製造例1〜5のアイヌワカメ抽出物を用いて、幹細胞からメラノサイトへの分化誘導抑制効果を評価し、該抽出物のメラノサイトへの分化誘導抑制剤としての効果について確認した。
【0055】
1.実験例1 アイヌワカメ抽出物のメラノサイトへの分化誘導抑制効果の評価(メラニン定量試験)
本実験例では、過去に山根らが開発したマウス胚性幹細胞(ES cell:embryonic stem cell)からのメラノサイト分化誘導系(Yamane T., Hayashi S., Mizoguchi M., Yamazaki H., Kunisada T., Developmental Dynamics, 1999年, Vol. 216, Issue 4-5, pp. 450-458)を用いて、アイヌワカメ抽出物の効果を検討した。本誘導系を用いることで、メラノサイトの発生から成熟までの全ての段階において素材の評価を行うことが可能となる。以下に詳細を説明する。
【0056】
35mmシャーレにMMC(mitomycin C)処理済みのMEF細胞(Mouse embryonic fibroblast)をコンフルエントの状態で培養し、その上にマウスES細胞を10×10
4〜20×10
4個播種し、37℃において5%CO
2インキュベーターで前培養した。使用した培地は、DMEMにchemicon社製のES細胞用添加因子(L-グルタミン液、2-メルカプトエタノール液、ヌクレオシド液、非必須アミノ酸液及びESGRO)を推奨濃度で添加した後、FBSを15%添加したものであった。
【0057】
次いで、ST2細胞を24wellプレート上でコンフルエントになるまで培養し、そこにMEF細胞から分離した上述の培養ES細胞を250〜500個播種した。当該培養物を、α-MEMに10%ウシ胎児血清、100nM デキサメタゾン、20pM 塩基性線維芽細胞増殖因子、10pM コレラトキシン及び100ng/mL エンドセリン3を添加した分化誘導培地で培養し、ES細胞をメラノサイトへ分化誘導した。顕微鏡観察により、誘導後6日目にはST2細胞上に形成されたES細胞のコロニーが広がり始め、18日目前後でコロニーの周りにメラノサイトが出現した。誘導後24日目までに、出現したメラノサイトがさらにメラニン合成を行う様子が観察された。以上より、本誘導系を用いることにより、メラノサイトの発生、分化及びメラニン合成の全てを再現できることを確認した。
【0058】
本誘導系において、上述の分化誘導培地に各濃度(12.5、25、50μg/mL)でアイヌワカメ抽出物を継続して添加し、24日間の分化誘導を実施した。その後、Cell Counting Kit-8を用いて相対細胞数を定量した。一方、細胞数定量後、細胞をPBS(-)で3回洗浄した後、2N NaOHを用いて60℃で2時間溶解し、溶解物について475nmの吸光度を測定した。その結果、細胞数当たりのメラニン合成量は濃度依存的に減少した。
これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、アイヌワカメ抽出物(製造例1〜5)の全てに、顕著なメラノサイト分化誘導抑制効果が認められた。以上より、アイヌワカメ抽出物が極めて優れた幹細胞からのメラノサイト分化誘導抑制効果を有することが明らかとなり、アイヌワカメ抽出物のメラノサイト分化誘導抑制剤としての効果を確認した。
【0061】
2.実験例2 アイヌワカメ抽出物のメラノサイトへの分化誘導抑制効果の評価(遺伝子発現解析)
試験例1と同様に、マウスES細胞からメラノサイトへの分化誘導を実施し、メラノサイトへの分化効率についてメラノサイトの特異的マーカー遺伝子(Mitf-M及びTyrp1)の発現を指標に評価した。
【0062】
具体的には、上述の分化誘導培地に50μg/mLの濃度で実施例1で製造したアイヌワカメ抽出物を継続して添加し、24日間の分化誘導を実施した。分化誘導24日目において、細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen)によって細胞からRNAを抽出した。次いで、2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems)により、得られたcDNAをテンプレートとして、下記の各プライマーセットを用いたリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
Mitf-M用のプライマーセット:
5'-TGCCTTGTTTATGGTGCCTTCT-3'(配列番号1)、及び
5'-TCCCTCTACTTTCTGTAATTCCAATTC-3'(配列番号2)
Tyrp1用のプライマーセット:
5'-CAACGCTATGCTGAGGACTATGA-3'(配列番号3)、及び
5'-GCGGCTATCAGACCATGGA-3'(配列番号4)
GAPDH用のプライマーセット:
5'-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3'(配列番号5)、及び
5'-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3'(配列番号6)
【0063】
各細胞のメラノサイトへの分化誘導効率については、抽出物を添加せずに分化誘導した細胞におけるメラノサイトマーカー遺伝子(Mitf-M及びTyrp1)の発現量を内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として算出したメラノサイト特異的マーカー遺伝子相対発現量の値を100とし、これに対し、アイヌワカメ抽出物を添加して分化誘導した各細胞におけるメラノサイト特異的マーカー遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。
その結果を下記の表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、アイヌワカメ抽出物(製造例1〜5)は顕著なメラノサイト分化誘導抑制効果を示した。一方で、従来の美白剤であるアルブチンは、メラノサイト分化誘導抑制効果を示さなかった。なお、製造例3の抽出物もまた製造例1の抽出物と同様の顕著なメラノサイト分化誘導抑制効果を示した。
【0066】
〔実施例3〕アイヌワカメ抽出物の処方例
実施例1で製造したアイヌワカメ抽出物について、処方例として下記の製剤化を行った。
【0067】
1.処方例1 ローション
【表3】
【0068】
[製造方法]
成分1〜6及び12と、成分7〜11をそれぞれ均一に溶解した後、双方を混合し、濾過することで製品とした。
【0069】
2.比較処方例1 従来のローション
処方例1において、アイヌワカメ抽出物を精製水に置き換えたものを従来のローションとした。
【0070】
3.処方例2 クリーム
【表4】
【0071】
[製造方法]
成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とした。また、成分1及び成分11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とした。次いで、油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却することで製品とした。
【0072】
4.比較処方例2 従来のクリーム
処方例2において、アイヌワカメ抽出物を精製水に置き換えたものを従来のクリームとした。
【0073】
5.処方例3 錠剤
【表5】
【0074】
[製造方法]
成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒に供した後、乾燥させた。成形した顆粒に成分6を加えて混合し、打錠した。1錠を0.52gとした。
【0075】
6.比較処方例3 従来の錠剤
処方例3において、アイヌワカメ抽出物を精製水に置き換えたものを従来の錠剤とした。
【0076】
7.処方例4 飲料
【表6】
【0077】
[製造方法]
成分1〜4を成分5の一部の水に撹拌溶解した。次いで、成分5の残りの水を加えて混合した。
【0078】
8.比較処方例4 従来の飲料
処方例4において、アイヌワカメ抽出物を水に置き換えたものを従来の飲料とした。
【0079】
〔実施例4〕アイヌワカメ抽出物を含有する製剤のシミ及びくすみの改善作用の評価
実施例3で製造した処方例1のローション及び処方例2のクリーム並びに比較処方例1のローション及び比較処方例2のクリームを用いて、シミ及びくすみに悩む女性30人(18才〜50才)を対象に2ヶ月間の使用試験を行った。
使用後、シミ及びくすみの改善作用をアンケートにより判定した。
結果を表7に示す。
【0080】
【表7】
【0081】
表7に示すように、処方例1のローション及び処方例2のクリームは、比較処方例1のローション及び比較処方例2のクリームと比較して、シミ及びくすみの予防改善効果に優れていた。なお、試験期間中、皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題がなかった。また、処方例1のローション及び処方例2のクリームの処方成分の劣化についても問題がなかった。
【0082】
また、同様に、処方例3の錠剤及び処方例4の飲料についても、経口摂取による使用試験を行ったところ、安全で優れたシミ及びくすみの予防改善作用を示した。なお、試験期間中、体調を崩した被験者は一人もなく、安全性においても問題がなかった。また、処方例3の錠剤及び処方例4の飲料の処方成分の劣化についても問題がなかった。