(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可変ファラデー回転子の前方に偏光子が配置され、前記直線位相子の光学軸は、当該偏光子の光透過軸方向と平行であることを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
前記可変ファラデー回転子に直線偏光を入射して、当該可変ファラデー回転子からの出射光の消光比を回転検光子法により測定したとき、当該消光比の最小値kmin(dB)が15≦kmin≦25であるとき、前記直線位相子のリタデーションδ(degree)は、δ=δ+180n(但し、n=0,1,2,・・・)として、
0.0408×kmin2−2.6926×kmin+47.344≦δ
≦0.0353×kmin2−1.2922×kmin+30.071
で表される範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【背景技術】
【0002】
物質に磁場をかけることで、その物質を透過してきた光の偏光面が時計回りあるいは反時計回りに回転する現象がファラデー効果である。そして、そのファラデー効果を利用して光の偏光面を回転さる光学部品がファラデー回転子である。ファラデー回転子は、ファラデー効果を発現するための物質(磁気光学材料)を含んで構成される光学部品(以下、ファラデー素子)と、永久磁石や電磁石など、そのファラデー素子に磁界を印加するための手段とから構成されている。そして、磁界を印加する手段として電磁石を用い、その電磁石を構成するコイルに印加する電流の方向や大きさに応じてファラデー素子に印加する磁界の方向や大きさを可変制御することで、ファラデー素子を透過する光について、偏光面の回転方向や回転角度を任意に設定できるファラデー回転子が可変ファラデー回転子である。
【0003】
可変ファラデー回転子を用いた光学機器としては、透過光の強度や偏波状態を制御する光変調器がある。以下の特許文献1には、光路に沿って偏光子と可変ファラデー回転子と検光子とがこの順に配置された光変調器が開示されている。また、以下の非特許文献1には、可変ファラデー回転子を用いた光変調器の一利用方法として、ファラデーセル法について記載されている。
【0004】
ところで、ファラデー素子は、磁気光学材料の磁気円二色性により、特定波長の光を吸収する。そのため、可変ファラデー回転子を用いた光変調器(以下、光変調器)は、使用する光の波長によっては、リタデーション(位相差)による影響が無視できなくなる。周知のごとく、リタデーションは、角度を単位とした数値であり、偏光子を透過した直線偏光がファラデー回転子に入射した場合、その直線偏光がファラデー素子を通過するのに従って偏波面が徐々に回転するととともに、その直線偏光に対し、徐々に位相がずれた光が生じる。その結果、可変ファラデー回転子を透過した光が直線偏光にならず、互いに位相がずれた光同士が合成された楕円偏光となる。光変調器におけるリタデーションの影響としては、例えば、光変調器をファラデー回転角に応じて透過光強度を制御する表示デバイスとして利用する際には、暗状態での消光比が劣化し、明暗2状態のコントラスト比を大きくすることができなくなる。
【0005】
そこで、本発明者は、可変ファラデー回転子におけるリタデーションを考慮し、暗状態における消光比を改善してコントラスト比を向上させた表示デバイス用途に適した光変調器(以下、先発明)を開発し、これを特許出願した(特願2008−145913:特許文献2参照)。この先発明に係る光変調器は、可変ファラデー回転子と検光子との間に直線位相子を挿入している。それによって、ファラデー回転子から出射した楕円偏光を、直線位相子によって直線偏光に戻してから検光子に入射させることで暗状態における消光比を改善し、明暗2状態のコントラスト比を向上させることに成功している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先発明に係る光変調器は、表示デバイスとしての利用を想定し、リタデーションに伴う明暗の2状態のコントラスト比の劣化を改善することに成功している。そして、この先発明に係る光変調器では、暗状態となる状態のときにファラデー回転子から出射するときの変更方向と直線位相子の光学軸方向とを一致させつつ、この直線位相子の光学軸方向と、検光子における光の透過軸方向とを直交させていた。このような構成の光変調器では、可変ファラデー回転子に入射した直線偏光が楕円偏光として出射されると、直線位相子が、その楕円偏光を当該楕円の長軸方向に一致する直線偏光に変換する。検光子がその直線偏光の偏波面に一致する方向の光を吸収すれば、消光比が大きな暗状態が実現される。
【0009】
しかしながら、光変調器を、例えば、非特許文献1に記載のファラデーセル法に関わる用途に供する場合では、明暗2状態のコントラスト比ではなく、暗状態での消光比の変動を極力抑えることが必要となる。
【0010】
具体的には、ファラデーセル法は、物質における旋光性を検出するために利用される測定手段であり、検光子は偏光子と直交するように固定しておき、つまり、測定対象のない状態で検光子を通過する光が最小になるように検光子が固定され、測定対象による旋光を打ち消すようにファラデー回転角を設定することで物質の旋光角を特定している。その場合、ファラデー回転角の設定方法は、検光子を通過する光が最小になるように、磁気印加手段によってファラデー素子に印加する磁界を制御するものである。よって、検光子を通過する光量は、ファラデー回転子によるファラデー回転角にのみ依存するものでなければならない。ところが、ファラデー回転角の変化と共に消光比が変動すると、検光子を通過する光量は、消光比変動量にも依存する。そのため、検光子通過光量が最小になったときのファラデー回転角の特定が複雑になり、よって測定対象の旋光角の特定が困難になる。したがって、このような用途に供される光変調器では、ファラデー回転子によるファラデー回転角がどのような角度であっても、高い消光比が得られる、ということが必要である。すなわち、光変調器に入射した光が、その光路上にあるファラデー回転子を含む光部品を透過し、最終的に検光子に入射される際、この検光子に入射する光には、ファラデー回転子によるファラデー回転角がどのような角度であっても、極めて高い直線偏光性が求められる。
【0011】
そこで本発明は、可変ファラデー回転子におけるリタデーションに起因して発生する消光比の劣化をファラデー回転角の全域で防止できる光変調器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、光の進行方向を前方から後方として、前方から光路上に、可変ファラデー回転子、直線位相子がこの順に配置されてなり、
前記可変ファラデー回転子は、磁気光学材料を含んで構成されるファラデー素子と磁気印加手段とを含んで構成され、当該磁気印加手段は、前記ファラデー素子に印加する磁界の方向と大きさを可変制御することが可能であり、
前記直線位相子の光学軸は、前記可変ファラデー回転子に入射する偏光の長軸方向と平行である、
ことを特徴とする光変調器としている。
【0013】
また、前記可変ファラデー回転子の前方に偏光子が配置され、前記直線位相子の光学軸は、当該偏光子の光透過軸方向と平行である光変調器とすることもできる。
【0014】
そして、前記可変ファラデー回転子に直線偏光を入射して、当該可変ファラデー回転子からの出射光の消光比を回転検光子法により測定したとき、当該消光比の最小値k
min(dB)が15≦k
min≦25であるとき、前記直線位相子のリタデーションδ(degree)は、δ=δ+180n(但し、n=0,1,2,・・・)として、
0.0408×k
min2−2.6926×k
min+47.344≦δ
≦0.0353×k
min2−1.2922×k
min+30.071
で表される範囲にある光変調器としてもよい。
【0015】
前記最小値k
min(dB)が20≦k
min≦35であるときでは、前記直線位相子のリタデーションδ(degree)が、
−0.0063×k
min2−0.1281k
min×+17.591≦δ
≦ 0.0331×k
min2−1.5858×k
min+33.848
で表される範囲にあることを特徴とする光変調器とすることもできる。
【0016】
好ましくは、前記最小値k
min(dB)が15≦k
min≦35であるとき、前記直線位相子のリタデーションδ(degree)が、
δ=0.022×k
min2−1.364×k
min+32.26
であることである。なお、上記いずれかの光変調器において、前記磁気光学材料を希土類鉄ガーネット単結晶とすれば、より好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光変調器によれば、可変ファラデー回転子におけるリタデーションに起因して発生する消光比の劣化をファラデー回転角の全域で防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
===本発明に想到するまでの過程===
本発明者は、光路上に可変ファラデー回転子が配置された光変調器において、ファラデー回転角の全域で高い消光比を得る、という目的を達成するための手法について検討し、まず、可変ファラデー回転子にて発生したリタデーションを直線位相子によって補償することを考えた。確かに、この考え方自体は先発明と同様であるが、上記目的を達成するためには、光変調器を構成する直線位相子の光学軸方向と、入射する光、および出射する光の偏光軸方向(例えば、偏光子や検光子の光透過軸方向)との間に潜在する関係を新たに見出す必要があった。
【0020】
そこで、まず、
図1に示したように、偏光子2と検光子3の間に可変ファラデー回転子4を配置するとともに、リタデーションが所定の値となる直線位相子5を可変ファラデー回転子4と検光子3との間に挿入して光変調器1を構成した。そして、直線位相子5の光学軸51と偏光子2の光透過軸21の方向22との交差角度αを任意に設定しつつ、ファラデー素子41に印加する磁界の方向と大きさを変えたときの消光比を測定した。なお、ここでは、前後方向を光路とし、前方からの光Linを光変調器1に入射して後方から出射させることとしている。そして、前方から偏光子2、可変ファラデー回転子4、直線位相子5、検光子3の順で配置されているものとする。
【0021】
図示した例において、可変ファラデー回転子4は、ファラデー素子41と鉄心とコイルから形成される電磁石42とから構成され、電磁石42は、前後方向の磁界をファラデー素子41に印加する。もちろん、電磁石42など、ファラデー素子41に磁界を印加するための手段の構成は、この図に示した構成に限るものではない。ファラデー素子41に対し、光路方向の磁界を印加できれば、どのような構成であってもよい。
【0022】
また、
図1に示した光変調器1では、ファラデー素子41を構成する磁気光学材料として、希土類鉄ガーネット単結晶を用いている。希土類鉄ガーネット単結晶としては、例えば、Rを希土類元素から1種以上の元素とし、MをGa、Al、Inから1種以上の元素としたときに、(RBi)
3(FeM)
5O
12の組成で表されるものがよく知られている。ここでは、組成が(GdYBi)
3(FeGa)
5O
12の希土類鉄ガーネット単結晶を用いた。より具体的には、(CaGd)
3(MgZrGa)
5O
12で表される組成を有する基板上に、組成が上記の(GdYBi)
3(FeGa)
5O
12の希土類鉄ガーネット単結晶を液相エピタキシャル法により3μmの膜厚まで育成させた後、1000℃で3時間熱処理する、という条件で作製されたファラデー素子41を採用した。また、直線位相子5のリタデーションδを12.5°とした。
【0023】
次に、電磁石42によりファラデー素子41に、強度が、それぞれ+20KA/m、0KA/m、−20KA/mの磁界を印加し、それぞれの磁界強度のときに上記角度αを変えて周知の回転検光子法により消光比を求めた。すなわち、前後方向を軸として検光子3を回転させ、偏光子2の光透過軸21の方向22と検光子3の光透過軸31との公差角度θを変化させていき、出射光Loutの強度の最大値と最小値の比に基づいてdBを単位とする消光比を求めた。ここで、最大値が得られたときの公差角度θを回転角とした。また、入射光Linは、波長532nmで1mWの光とした。
【0024】
図2に、直線位相子5の光学軸51と偏光子2の光透過軸21との交差角度αと、消光比との関係を示した。この
図2に示したように、α=0°とすると、各磁界(−20kA/m,0kA/m,+20kA/m)の全てにおいて高い消光比が得られることが分かった。また、
図3に磁界強度(kA/m)とファラデー回転角(degree)との関係を示した。なお、
図3(A)と(B)は、それぞれ、
図1に示した光変調器1から直線位相子5を除いた構成の光変調器におけるファラデー回転角の磁界依存特性と、
図1に示した光変調器1においてα=0°としたときのファラデー回転角の磁界依存特性を示している。さらに、
図4に消光比の磁界依存性を示した。この
図4においても、(A)と(B)は、それぞれ、
図1に示した光変調器1から直線位相子5を除いた構成の光変調器と、
図1に示した光変調器1においてα=0°としたときとに対応している。そして、これら
図3、
図4も回転検光子法による測定結果を示している。
【0025】
まず、
図4に示したように、ファラデー回転角は、当然のことながら、直線位相子5の有無に拘わらずその特性に差がなく、この例では、±20KA/mの磁界に対して、±14.9°のファラデー回転角が得られた。そして、±20KA/mの磁界強度範囲では、磁界強度とファラデー回転角とがほぼ比例している。しかし、消光比については、
図5(A)に示したように、直線位相子5が無いとファラデー回転角が0°付近で50dBを超えているものの、ファラデー回転角が15°付近では30dBを下回っている。一方、
図5(B)に示したように、直線位相子5を用い、その直線位相子5の光学軸51と偏光子2の光透過軸21との公差角度αが0°、すなわち、直線位相子5の光学軸51と偏光子2の光透過軸21とが平行であるとき、±20KA/mの磁界強度範囲で消光比が50dB以上を維持し、消光比の劣化(変動)が抑制されることが分かった。これは、ファラデー回転角に依らず、高い消光比が得られる、ということを示している。
【0026】
===実施例に係る光変調器の構成と動作===
上述したように、本発明に想到するまでの過程で、
図1に示した光変調器1を用い、
図2〜
図4に示した特性が知見された。本発明の実施例に係る光変調器では、この知見に基づいた構成を採用している。
図5に本実施例に係る光変調器1aの構成を示した。ここでも光の進行方向を前方から後方として、本実施例に係る光変調器1aは、前方から光路L上に、偏光子2、可変ファラデー回転子4、直線位相子5、および検光子3がこの順に配置された構成となっている。また、可変ファラデー回転子4は、ファラデー素子41と当該素子41に磁界を印可するための電磁石42から構成されて、ファラデー素子41は、電磁石42により前後方向の磁界が印可される。そして、直線位相子5は、その光学軸51が偏光子2における光透過軸21の方向22と平行(α=0°)となっている。
【0027】
直線位相子5のリタデーションδについては、可変ファラデー回転子4の前後で発生するリタデーションを補償するように適宜な値に設定されている。したがって、本実施例に係る光変調器1aは、直線位相子5を含めた各光学部品(2〜4)を
図1に示した光変調器1と同じものを用いた場合、
図3(B)および
図4(B)に示した特性を有するものとなる。すなわち、本実施例に係る光変調器1aは、直線位相子5のリタデーションをδ=12.5°とし、波長532nmで強度1mWの入射光Linと、検光子回転法とを用いて消光比を測定した場合、可変ファラデー回転子4におけるファラデー回転角に依存することなく、極めて高い消光比(約50dB)が得られるものである。
【0028】
ここで、本実施例に係る光変調器1aの動作を
図5に基づいて説明する。
図5には、光変調器1aを透過する光について、入射光Lin、および各光部品(2,4,5)を透過した後の光(L1〜L3)についての偏光状態が示されている。本実施例に係る光変調器1aでは、前方から無偏光状態の入射光Linが入射されると、まず、偏光子2が自身の光透過軸21方向に振動する直線偏光L1を出射する。可変ファラデー回転子4は、その直線偏光L1の偏波面を電磁石42が発生する磁界の向きと強度に応じて回転させて後方に出射する。このとき、その出射光L2はリタデーションにより、入射した直線偏光L1をファラデー回転角に相当する角度だけ回転させた方向を長軸とした楕円偏光L2となる。直線位相子5は、ファラデー素子41にて発生したリタデーションに相当する位相角度から、所定の位相角度分だけ位相を戻す。それによって、入射した楕円偏光L2は、直線偏光に近い楕円偏光L3までに整形され、前後方向を軸として検光子3を回転させれば、検光子3の後方に出射する光Loutの強度の最大値と最小値の比が十分高くなるような消光比が得られる。
【0029】
このように、本実施例の光変調器1aでは、可変ファラデー回転子4にて発生したリタデーションを直線位相子5で「相殺」する、という従来の発想からでは想定し得なかった方法、すなわち、可変ファラデー回転子4にて発生したリタデーションの大きさや回転方向がどのようなものであっても、そのリタデーションに相当する位相角の大きさを減少させるように位相を戻すことができる普遍的な条件を探す、という方法によって可変ファラデー回転子4でのリタデーションに起因する消光比の劣化を極めて効果的に防止している。すなわち、本発明の最小構成は可変ファラデー回転子4と直線位相子5からなり、直線位相子5の光学軸51と可変ファラデー回転子4に入射する偏光の長軸を平行にすることで達成される。そして、本実施例では、可変ファラデー回転子4に入射する偏光の偏光状態を特定する手段として、偏光子2が可変ファラデー回転子4の前方に配置され、その光透過軸21と直線位相子5の光学軸51との公差角度αが0°に規定される。さらに、最後方に検光子3を配置することで、検光子3を透過する光量を制御できる光変調器1aとして機能する。
【0030】
===磁気光学材料について===
ところで、本実施例の光変調器1aでは、ファラデー素子41を構成する磁気光学材料として、種々の物質を採用することが可能であったが、上述したように、希土類鉄ガーネット単結晶を磁気光学材料としたファラデー素子41を採用し,その上で光変調器1aの性能を評価した。希土類鉄ガーネット単結晶を磁気光学材料として採用した理由としては、ヴェルデ常数が大きい、ということがまず挙げられる。例えば、ファラデーセル法で大きな旋光角を測定する場合などでは、その大きな旋光角を補償するためにファラデー回転角を大きくする必要があるが、そのためには、電磁石42のコイルに流す電流を大きくしてファラデー素子41に印加する磁界強度を大きくする必要がある。しかし、コイルに大電流を流すと、コイルが発熱し、それに伴ってファラデー素子41も昇温する。その結果、ファラデー素子41のヴェルデ常数が変化し、測定誤差が生じる。そこで、本実施例では、可能な限りコイルの発熱に起因する測定誤差を抑制するために、ヴェルデ常数が大きな希土類鉄ガーネット単結晶を磁気光学材料として採用した。
【0031】
また、別の理由としては、本実施例に係る光変調器1aの構成により、リタデーションに起因する消光比の劣化を極めて効果的に防止できる、ということを確認することが挙げられる。具体的には、希土類鉄ガーネット単結晶は、周知のごとく、光通信に関わる光学部品に多用されているが、ファラデーセル法などで用いる光の波長域は、光通信に用いる赤外線波長域(例えば、1260nm〜1625nm)とは異なり、UV〜可視〜近赤外光領域(例えば250nm〜1200nm)である。そして、希土類鉄ガーネット単結晶は、可視光域内の532nmの光を1〜2dB/μm程度吸収する。そのため、直線位相子5が無い光変調器や、偏光子2の光透過軸21と直線位相子5の光学軸51とが適切に設定されていない光変調器では、リタデーションによる影響が無視できないほど大きくなる。
【0032】
そこで、本実施例に係る光変調器1aの性能を評価する際、希土類鉄ガーネット単結晶を磁気光学材料としたファラデー素子41と、そのファラデー素子41が吸収する532nmの波長の光Linとを用いた。そして、リタデーションに関しては不利な条件であったのにも拘わらず、本実施例に係る光変調器1aは、消光比の劣化を抑制することができた。それにより、ファラデーセル法などにも対応して、消光比変動の影響がなく、ファラデー回転角を極めて高い分解能で設定することができるものであった。結果として、極めて高い分解能を広いファラデー回転角範囲で設定可能な光変調器1aを達成することができた。
【0033】
===直線位相子のリタデーションδについて===
上記実施例に係る光変調器1aの性能を評価する際、直線位相子5のリタデーションδは12.5°に設定されていた。しかし、直線偏光が可変ファラデー回転子4を透過する前後でのリタデーションは、ファラデー素子41の光路方向の厚さ、ファラデー素子41を構成する磁気光学材料の種類、入射光Linの波長など、種々の条件によって異なってくる。そこで、本発明者は、直線位相子5の配置に関わる最適条件(α=0°)に加え、可変ファラデー回転子4にて発生するリタデーションをより効果的に補償するための直線位相子5のリタデーションδに関わる条件を求めるべく鋭意研究を重ねた。その結果、直線位相子5を用いない光変調器(以下、従来例の光変調器)における消光比の最小値と本実施例の光変調器1aにおける直線位相子5のリタデーションδとの間に特殊な相関性があることを知見した。
【0034】
図6に、従来例の光変調器における消光比の最小値K
min(dB)と本実施例の光変調器における直線位相子のリタデーションδ(degree)との関係を示した。当該
図6は、
図4(A)に示した従来の光変調器の消光比特性において、消光比が最小となるときの値K
minを横軸とし、本実施例の光変調器1aにおける直線位相子5のリタデーションδを縦軸としたグラフであり、当該グラフにおける各曲線101〜105は、実測値に基づいて外挿したものである。そして、これらの曲線101〜105のうち、リタデーションδの最適条件に対応する曲線101は、15≦k
min≦35であるとき、以下の式(1)によって表現される曲線とほぼ一致することが分かった。
δ=0.022×k
min2−1.364×k
min+32.26…(1)
【0035】
この条件下では、例えば
図4(B)に示したように、全ファラデー回転角において50dB以上の消光比が得られる場合もある。なお、リタデーションδは、角度を単位としており、さらに、その角度は、実質的に180度ごとに同じ角度となるので、nを0以上の整数(n=0,1,2,・・・)として、δ=δ+180nとなる。
【0036】
ところで、50dB以上の消光比とは、直線位相子5通過後の偏光の長軸成分と短軸成分との強度比が10
5以上ということであり、検光子3の光透過軸31をその長軸方向と直交させれば、入射光Linがほぼ完全に遮断される、ということを示している。
【0037】
そこで、次に、本実施例の光変調器1aを実際の工業用途として利用する場合などを想定し、現実的に実用上問題のない消光比として30dB、および40dBとなる範囲を求めた。その結果、
図6における二つの曲線(102,103)に挟まれた範囲であれば、30dBの消光比が確保できることがわかった。そして、この範囲の上限を示す曲線102は、15≦k
min≦25であるとき、以下の式(2)によって表現される曲線とほぼ一致する。
δ=0.0353×k
min2−1.2922×k
min+30.071…(2)
【0038】
また、上記範囲の下限を示す曲線103については、15≦k
min≦25であるとき、以下の式(3)によって表現される曲線とほぼ一致する。
δ=0.0408×k
min2−2.6926×k
min+47.344…(3)
以上により、20≦k
min≦35であるとき、以下の式(4)満たせば、30dBの消光比を確保できることが分かった。
0.0408×k
min2−2.6926×k
min+47.344≦δ
≦0.0353×k
min2−1.2922×k
min+30.071…(4)
【0039】
さらに、
図6における二つの曲線(104,105)に挟まれた範囲であれば、40dBの消光比が確保できることがわかった。そして、この範囲の上限を示す曲線104は、20≦k
min≦35であるとき、以下の式(5)によって表現される曲線とほぼ一致し、下限を示す曲線105については、同じk
minの範囲において以下の式(6)によって表現される曲線とほぼ一致する。
δ=0.0331×k
min2−1.5858×k
min+33.848…(5)
δ=−0.0063×k
min2−0.1281k
min×+17.591…(6)
以上により、20≦k
min≦35であるとき、以下の式(7)を満たせば40dBの消光比を確保できることが分かった。
−0.0063×k
min2−0.1281k
min×+17.591≦δ
≦ 0.0331×k
min2−1.5858×k
min+33.848…(7)
【0040】
そして、上記式(1)(4)(7)は、本実施例の光変調器1aにおいて最も重要な要素である直線位相子5のリタデーションδの値が、従来例の光変調器における消光比の最小値k
minからのみ求められる、ということを示している。この値k
minは、ファラデー素子41の光路方向の厚さ、ファラデー素子41を構成する磁気光学材料の種類、入射光Linの波長など、種々の条件がどのようなものであっても、それらの条件の差異を全て含んだ結果として測定可能な値である。したがって、本実施例の光変調器1aから直線位相子5を除いた構成の従来例の光変調器について、ファラデー素子41に印加する磁界の強度と向き(ファラデー回転角)と消光比との関係をあらかじめ測定しておきさえすれば、本実施例の光変調器1aに採用すべき直線位相子5のリタデーションδの値を決定することができる。なお、採用する直線位相子5のリタデーションδは、光変調器1aの用途や、要求される精度などに応じて適宜に設定すればよく、その設定に際して、上記式(1)(4)(7)を参考にすることができる。
【0041】
===その他の実施例について===
当然のことながら、本発明の光変調器の構成は、上記実施例に係る光変調器1aの構成に限らず、各種変更例が考えられる。例えば、ファラデーセル法を用いて物質の旋光度を測定する用途では、偏光子2から検光子3に至る光路途上に測定対象となる物質を試料として配置するための構成が付加されることになる。回転検光子法を用いた各種光学特性の測定用途に供する場合では、検光子3が光路方向を軸として回転可能に構成されていることになる。偏光子2を用いず、入射光Lin自体が偏光していもよい。いずれにしても、光路上に可変ファラデー回転子4、直線位相子5がこの順に配置されているとともに、可変ファラデー回転子4に入射させた直線偏光の長軸方向と直線位相子5の光学軸51とが平行となるように構成されていればよい。