(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする温度感応性ポリマー材料と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩とを含み、
前記温度応答性ポリマー材料は、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする分岐鎖を複数本有する分岐型重合体であり、
前記分岐鎖1本当りの2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体単位の分子量が、該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上であることを特徴とする温度感応性材料。
請求項1において、前記温度感応性ポリマー材料に対する2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の含有量がポリ[2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート]の式量(モノマー単位のモル量)の1/1000モル量〜1000倍モル量であることを特徴とする温度感応性材料。
請求項1又は2において、前記温度感応性ポリマー材料の水溶液に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の水溶液を添加してなることを特徴とする温度感応性材料。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を用いて細胞を培養皿に付着させ、約37℃の温度下で増殖させて細胞シートとした後、この細胞シートを培養皿から剥離させるには、培養皿及びその内容物を10〜25℃に降温させ、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を親水化させる。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が親水性になると、細胞シートを培養皿から剥離させることができる。
【0007】
この剥離方法では、37℃で培養している細胞を10〜25℃の環境に数分から数十分置くことになるので、細胞にダメージを与えるおそれがある。
【0008】
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートを重合させたスター型ポリマーは、水中で加水分解して経時的に曇点が上昇する。従って、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)の代わりにこのスター型ポリマーを用いて細胞を培養皿に付着させて細胞を増殖させ、その後、このスター型ポリマーを加水分解してその曇点を上昇させ、約37℃の温度下のままで細胞シートを培養皿から剥離させることができると推察される。しかしながら、この加水分解の際に2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノールが生成し、細胞が被毒するおそれがある。また、加水分解反応により曇点を上昇させるのに長時間を要する。
【0009】
本発明は、温度感応性ポリマーとして2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とするポリマー材料を含む温度感応性材料であって、細胞被毒の問題を引き起こすことなく、しかも、曇点を容易にかつ短時間で上昇させることができる温度感応性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の温度感応性材料は、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする温度感応性ポリマー材料と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩とを含
み、前記温度応答性ポリマー材料は、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする分岐鎖を複数本有する分岐型重合体であり、前記分岐鎖1本当りの2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体単位の分子量が、該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の温度感応性材料は、請求項1において、前記温度感応性ポリマー材料に対する2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の含有量がポリ[2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート]の式量(モノマー単位のモル量)の1/1000モル量〜1000倍モル量であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の温度感応性材料は、請求項1又は2において、前記温度感応性ポリマー材料の水溶液に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の水溶液を添加してなることを特徴とするものである。
【0013】
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートの前記誘導体が、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートの主鎖骨格のメチル基の水素原子を、フッ素原子、ヒドロキシメチル基に置換したものであることが好ましい。
【0015】
請求項6の温度感応性材料は、請求項4又は5において、前記分岐鎖は、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体単位のみからなることを特徴とするものである。
【0016】
前記ポリマー材料は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくとも2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を光照射リビング重合させた分岐型重合体であってもよい。
【0017】
この場合、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記ポリマー材料の分子量は、好ましくは5,000〜500,000である。
【発明の効果】
【0019】
温度感応性ポリマーである、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とするポリマー材料に、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩を加えることにより、この温度感応性ポリマーの曇点が速やかに上昇する。2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の添加量が多くなるほど曇点の上昇量が多くなるので、この添加量を調整することにより、曇点を任意に調整することができる。
【0020】
また、このポリマー材料に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩を添加して曇点を上昇させても、加水分解反応は生じず、細胞に対して毒性を有した加水分解生成物は生成しない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明では、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とするポリマー材料に対し、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩を添加して該ポリマー材料本来の曇点よりも曇点が上昇した温度感応性材料を得る。なお、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートの誘導体としては、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートの主鎖骨格のメチル基の水素原子を低い分子量の分子団(例えばフッ素原子、ヒドロキシメチル基など)に置換したものなどが例示される。
【0023】
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする温度感応性ポリマー材料は、線形ポリマーであってもよく、前述のスター型ポリマーのような非線形ポリマーであってもよく、これらの混合物であってもよい。スター型ポリマーとしては、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに少なくとも2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体(以下、これらを「DMAEM」と称す場合がある。)を光照射リビング重合させたものが好ましい。
【0024】
このイニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子である。
【0025】
イニファターとなるN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0026】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
【0027】
イニファターと上記DMAEMとを反応させるには、イニファター、及びDMAEMを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DMAEMが結合した反応生成物を生成させる。
【0028】
該原料溶液中のDMAEMの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適であり、イニファターの濃度は1〜20mM程度が好適である。
【0029】
照射する光の波長は250〜400nmが好適であり、例えば蛍光灯、ショートアークキセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜90分程度が好適であり、1μW/cm
2〜10mW/cm
2程度の低い照射強度で1〜60分程度が特に好適である。市販の蛍光灯を用いて光照射を行う場合には、1〜100時間程度光照射を行うことが好ましい。
【0030】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製することにより、分岐鎖部分にDMAEM単位よりなるポリマー鎖が導入され、分岐鎖の末端がN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であるホモポリマーを得る。
【0031】
このスター型ポリマーの分岐鎖の1本当たりの分子量としては、100〜60,000程度、特に200〜30,000程度が好ましい。この分子量は、光照射の時間を制御することにより調整することができる。即ち、反応時間を長くすることにより、重合反応を進行させて分子量の大きい分岐型重合体を得ることができる。
【0032】
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0033】
ポリマー材料の分岐鎖は、前述のDMAEMをモノマーとする1種のモノマーのみからなるホモポリマーであることが好ましいが、DMAEMとDMAEMとは異なる1種以上のモノマーを導入したブロックコポリマー又はランダムコポリマーであってもよい。
【0034】
この場合の他のモノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH
2=CHCONHC
3H
6N(CH
3)
2、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマーが挙げられ、特に、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH
2=CHCONHC
3H
6N(CH
3)
2等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
イニファターとDMAMEとDMAEMとは異なるモノマーとを反応させるには、前述のイニファターとDMAEMとを反応させる場合と同様に、イニファター、DMAEM、及びDMAEM以外のモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、DMAEM及びDMAEM以外のモノマーが結合したランダムコポリマーを得る。
【0036】
また、上記イニファターに対し、まず、DMAEMをブロック重合させて、ホモポリマーを形成し、その後、このホモポリマーに3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをブロック重合させ、分岐鎖の基端側をDMAEMのブロックポリマー、分岐鎖の先端側を3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドブロックポリマーで構成した分岐鎖としてもよい。このように、分岐鎖を2種類以上のモノマーのブロックコポリマーとする場合、イニファターに対する重合の順序は任意である。
【0037】
いずれの場合も分岐鎖の末端は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基となる。
【0038】
前記のように、DMAEMとDMAEM以外のモノマーとを反応させた場合には、分岐鎖1本当りのDMAEM単位の分子量が、当該分岐鎖1本当りの分子量の90%以上、特に95〜100%となるようにするのが好ましい。DMAEM単位はカチオン性であるため、分岐鎖に含まれるDMAEM単位が多いほど、ポリマー材料とアニオン性である核酸との親和性が高くなり、核酸担持量を高めることができ、遺伝子導入材料の遺伝子導入活性が向上する。
【0039】
また、本発明において、ポリマー材料は核酸の担体として機能すると共に、培養容器等への付着のためのアンカーとして機能することから、ポリマー材料の分岐型重合体の分岐鎖は多い方が好ましく、分岐鎖は4本以上、特に6本であることが好ましい。
【0040】
また、ポリマー材料の分子量としては、上記機能を有効に得る上で5,000〜500,000程度、特に25,000〜150,000程度が好ましい。
【0041】
線形ポリマーよりなる温度感応性ポリマー材料は、モノマーとして少なくともDMAEMを用い、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等の重合開始剤の存在下に常法に従って重合を行うことにより製造することができる。また、上記のスター型ポリマーの製造において、イニファターを用いないこと以外は同様にして光照射を行って製造することもできる。この線形ポリマーについても、上述のスター型ポリマーを製造する際に用いられると同様の他のモノマーを用いてもよいが、DMAEMによる温度感応性を十分に得るために、線形ポリマーの分子量の90%以上、特に95以上とりわけ100%がDMAEM単位よりなることが好ましい。
【0042】
また、この線形ポリマーの分子量についても、スター型ポリマーにおけると同様な理由から、5,000〜500,000程度、特に25,000〜150,000程度が好ましい。
【0043】
本発明の温度感応性材料を調製するには、上記の温度感応性ポリマー材料の水溶液に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩を添加することにより、曇点が上昇した温度感応性ポリマー材料とすることが好ましい。この2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の添加量が少ない程、温度感応性材料ポリマーの曇点上昇量が少なく、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の添加量が多くなるほど温度感応性ポリマー材料の曇点は高いものとなる。
【0044】
本発明において、温度感応性ポリマー材料に対する2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の添加量は、必要とされる温度感応性材料の曇点の上昇量に応じて適宜決定されるが、ポリ[2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート]の式量(モノマー単位のモル量)の1/1000モル量〜1000倍モル量であることが好ましい。即ち、本発明の温度感応性材料は、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩をポリ[2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート]の式量(モノマー単位のモル量)の1/1000モル量〜1000倍モル量含有するものであることが好ましい。
このような温度感応性材料であれば、通常、32℃程度の温度感応性ポリマー材料の曇点を38℃程度にまで、その2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩添加量に応じて任意の曇点に高めることができる。
【0045】
このような本発明の温度感応性材料は、培養皿から細胞シートを剥離させるための温度感応性材料として利用することができる。例えば、上記の温度感応性ポリマー材料の水溶液を曇点以下の温度とし、培養皿中に流延した後、曇点以上の温度とし、温度感応性ポリマー材料水溶液をゲル状の層とする。この温度感応性ポリマー材料層上に細胞を置き、培養液を注ぎ、約37℃で細胞を増殖させ温度感応性ポリマー材料層上に細胞シートを形成する。なお、この際、温度感応性ポリマー材料層中にDNAを存在させておき、細胞にDNAを取り込ませるようにしてもよい。その後、培養液に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩水溶液を注いで温度感応性ポリマー材料の曇点を例えば50℃又はそれ以上にまで上昇させる。そうすると、温度感応性ポリマー材料層が親水性となって溶解し、細胞シートが培養皿底面から離反するので、この細胞シートを培養皿から取り出す。
【0046】
なお、この温度感応性ポリマー材料の水溶液を培養皿に流延させる代りに温度感応性ポリマー材料のモノマーを気相重合反応器内に供給し、培養皿内面に気相重合法によって温度感応性ポリマー材料を生成・付着させてもよい。培養皿内面に予め低温プラズマ照射又はβ線照射を行っておいてもよい。
【0047】
また、本発明の温度感応性材料は、温度感応性ポリマー材料の曇点よりも低い温度の温度感応性ポリマー材料水溶液を被着物に付着させ、被着物同士を当接させた後、曇点よりも高い温度とすることにより、被着物同士を接着する用途にも利用することができる。
【0048】
温度感応性ポリマー材料による接着部分に対して2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩水溶液を供給し、温度感応性ポリマー材料の曇点を環境温度よりも高くすることにより、温度感応性ポリマー材料の接着力が消失し、被着物同士を離反させることができる。このような温度感応性ポリマー材料による接着剤は、生体用接着剤として好適である。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
i) イニファターの合成(4分岐型)
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0051】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gとをエタノール100mL中へ加え、遮光下、室温で4日間撹拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間撹拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLに溶解させた後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。この結晶を高速液体クロマトグラフィーで分析し、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0052】
1H−NMR(in CDCl
3)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CH
2CH
3),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CH
2CH
3)
2),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CH
2CH
3)
2),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH
2),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)であった。
【0053】
【化1】
【0054】
ii) 4分岐型スター型重合体よりなる感温性カチオン性ホモポリマーの光重合による合成
2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAEMAAと記載することがある。)よりなる感温性カチオン性ホモポリマーの合成を行った。
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート8.5gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm−400nmの混合紫外線を60分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cm
2に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、n−ヘキサンで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/n−ヘキサン系で3回再沈殿を繰り返して精製し、n−ヘキサンを蒸散させた後に少量のベンゼンへ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマーpDMAEMAAよりなる弱塩基性カチオン性ホモポリマーを得た。
【0055】
ポリエチレングリコールを標準物質とした数平均分子量は、GPCにより、11,000(Mw/Mn=1.4)と測定された。
【0056】
1H−NMR(in CD
3OD)の測定結果は、δ0.8−1.2ppm(br,3H,−CH
2−CH
3−),δ1.6−2.0ppm(br,2H,−CH
2−CH
3−),δ2.2−2.4ppm(br,6H,N−CH
3),δ2.5−2.7ppm(br,2H,CH
2−N),δ4.0−4.2ppm(br,2H,O−CH
2)であった。
【0057】
【化2】
【0058】
iii)曇点の測定
ii)で合成した感温性カチオンホモポリマーの3重量%水溶液を調製し、660nmでの吸光度の温度依存性を20℃〜40℃の間で測定した。その結果、32℃付近に曇点を有し、曇点以上の温度では疎水性の無電荷のポリマーとなって水中で懸濁する感温性のポリマーであることが分かった。
【0059】
iv) 曇点を上昇させる処理
2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の水溶液を1mM〜1000mMの範囲で調製した。
【0060】
上記のプロセスii)で調製した感温性カチオンホモポリマーの3重量%水溶液900μLへ各2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の水溶液を100μL加えて混合し、1分間放置した後にiii)と同様の方法で曇点を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の通り、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩(Tris)を添加することにより曇点が上昇する。また、その添加量が多くなるほど曇点が高くなる。
【0063】
<感温性カチオンホモポリマーの水溶液の安定性試験>
ii)で調製した感温性カチオンホモポリマーの水溶液を室温で放置し、曇点の経時変化を観察した。曇点が37℃を超えるまでには48時間〜72時間の時間を要し、60日後でも曇点は50℃以上までは到達しなかった。また、水溶液中の2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール濃度は経時的に増加した。
【0064】
<比較例1>
Wetering et al, J Control Release(1997), 49, 59-69に記載されている方法に従って、開始剤にAIBN、溶媒にトルエンを使用して2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレートの線形ポリマーを合成した。この線形ポリマーについて、iii)と同様に曇点を測定すると、このポリマーは、感温性を有し、曇点は約32℃であることが認められた。
【0065】
このポリマーの3重量%水溶液を室温で放置しても曇点にはほとんど変化が認められなかった。この理由は、このポリマーは線形構造であり、上記ii)で合成したスター構造のポリマーのように側鎖の加水分解が容易には起こらないためと考えられる。
このポリマーの3重量%水溶液に実施例1のiv)曇点を上昇させる処理と同様に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩の水溶液を表1の添加割合にて添加したが、曇点にはほとんど変化が認められなかった。
【0066】
<考察>
本発明によれば、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び/又はその誘導体を重合主成分とする温度感応性ポリマー材料に対し、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩を添加することにより、このポリマー材料の曇点を瞬時に上昇させることができる。なお、実施例では2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩を添加した後1分間の放置を行なっているが、これは実験操作の均一性及び再現性を担保するために設定した待ち時間であり、曇点上昇に1分間を要するためではない。