【実施例】
【0028】
図1に示すように、Vベルト式無段変速機10は、変速機ケース11と、この変速機ケース11に収納される駆動側プーリ20及び従動側プーリ13と、変速機ケース11に収納され駆動側プーリ20と従動側プーリ13とに掛け渡されるVベルト14とからなる。
【0029】
変速機ケース11は、一面が開放されるケース本体15と、このケース本体15の開口を塞ぐカバー16と、ケース本体15にカバー16を締結するボルト17とからなる。
【0030】
駆動側プーリ20は、クランク軸21に固定される固定シーブ22と、クランク軸21に軸方向移動自在に取付けられ背面にカム面32を有する可動シーブ30と、この可動シーブ30の背後に配置され傾斜面31aを有するランププレート31と、このランププレート31と可動シーブ30との間に配置されクランク軸21が回されると遠心力によりカム面32とランププレート31の傾斜面31aに沿って径外方へ移動して可動シーブ30を固定シーブ22側へ押し出す遠心ウエイト33と、この遠心ウエイト33とは別に設けられ可動シーブ30の軸方向移動を制限するシフト機構40と、このシフト機構40と可動シーブ30との間に設けられ可動シーブ30の回転を許容する軸受41とからなる。
【0031】
シフト機構40は、例えば、軸受41を囲うアウタリング42と、一端がアウタリング42に係合し他端がアウタリング42の径外方へ延びる揺動レバーとしてのシフトフォーク43と、このシフトフォーク43の途中に貫通させた支点ピン44と、この支点ピン44をケース本体15に止める支点ブラケット45と、シフトフォーク43の他端に貫通させた連結ピン46と、この連結ピン46を介してシフトフォーク43の他端に連結される出力ロッド47と、この出力ロッド47を備えるソレノイド式アクチュエータ50と、このソレノイド式アクチュエータ50をケース本体15に止めるアクチュエータブラケット51とからなる。
【0032】
アウタリング42及びシフトフォーク43の詳細形状と、ソレノイド式アクチュエータ50の内部構造は、後述する。
支点ブラケット45は、ボルト52によりケース本体15に締結される。ボルト52を緩めることで支点ブラケット45は、任意にケース本体15から外すことができる。
【0033】
同様に、アクチュエータブラケット51は、ボルト53、53によりケース本体15に締結される。ボルト53、53を緩めることでアクチュエータブラケット51は、任意にケース本体15から外すことができる。
ソレノイド式アクチュエータ50は、底面がアクチュエータブラケット51に当てられボルト54、54により締結される。ボルト54、54を緩めることでソレノイド式アクチュエータ50は、任意にアクチュエータブラケット51から外すことができる。
【0034】
図2に示すように、支点ブラケット45及びアクチュエータブラケット51と共にソレノイド式アクチュエータ50が、駆動側プーリ20と従動側プーリ13の間で且つVベルト14の軌跡円内に収められる。すなわち、駆動側プーリ20と従動側プーリ13の間のスペースが有効利用される。
【0035】
結果、
図1に示すように、変速機ケース11を大きくすることなく、通常の大きさの変速機ケース11に、ソレノイド式アクチュエータ50他のシフト機構40が収納可能となる。
【0036】
図3に示すように、アウタリング42は、軸受41を囲う円環部55と、この円環部55から膨出させた一対の膨出部56、56とからなる。膨出部56にはピン穴57が設けられる。
シフトフォーク43は、いわゆる二股フォーク形状を呈し、先端にピン穴57、57に挿入するシフトピン58、58を備え、途中に支点ピン44が挿入されるピン穴59を有し、他端に連結ピン46が挿入されるピン穴61を有する。
【0037】
シフトフォーク43の他端(連結ピン46)が図面手前へ引かれると、支点ピン44を支点にして、シフトフォーク43が揺動し、アウタリング42が図面奧へ押される。
【0038】
図4に示すように、出力ロッド47を備えるソレノイド式アクチュエータ50は、有底筒形のケース62と、このケース62内に軸方向移動可能に収納される鉄心63と、この鉄心63に対応する位置にてケース62内に設けられる電磁コイル64と、ケース62の開口を閉じる蓋65とからなる。鉄心63から出力ロッド47が延びる。
電磁コイル64に給電すると、電磁力が発生し、鉄心63を吸引する。結果、シフトフォーク43の基部は、引かれる。
【0039】
ソレノイド式アクチュエータ50は、鉄心63と電磁コイル64を備えているものであればよく、適宜構成を変更することは差し支えない。
すなわち、ソレノイド式アクチュエータ50は、鉄心63と電磁コイル64を主要素として、構造が単純であるため、安価である。一方、サーボモータと呼ばれる制御モータは、連続的に出力ロッドの位置を制御することができるため、高価である。サーボモータを制御する制御部もパルス信号をサーボモータへ与え、出力ロッドの位置をフィードバック制御するため、高価である。このような高価な制御部をソレノイド式アクチュエータ50は必要としない。
【0040】
ところで、
図1において、従動側プーリ13から受ける力に起因してVベルト14から可動シーブ30に加わる力の水平成分により、可動シーブ30が図面右へ押され、シフトフォーク43の基部(下端)が図面左へ押される。また、遠心ウエイト33が遠心力により径外方へ移動することにより、可動シーブ30は図面左へ押され、シフトフォーク43の基部(下端)が図面右へ押される。
【0041】
すなわち、
図5(a)に示すように、電磁コイル64に通電したときには、可動シーブ30に、Vベルト14による力Fvと、遠心ウエイト33による力Fwと、電磁コイル64による力Fsとが加わり、力Fwと力(Fv+Fs)は互いに逆向きに作用する。
【0042】
電磁コイル64への通電を行わないときは、Fsは「0」になる。
図5(b)に示すように、可動シーブ30に、Vベルト14による力Fvと、遠心ウエイト33による力Fwのみが加わる。
すなわち、電磁コイル64に通電を行わない場合は、ソレノイド式アクチュエータ50は、何ら作用を発揮しない。
【0043】
図1において、ソレノイド式アクチュエータ50が作用しないときには、専ら、遠心ウエイト33により、可動シーブ30は推力(クランク軸21の軸方向の力)を受けて移動する。
遠心ウエイト33により可動シーブ30に加わる推力は、クランク軸21の回転数が増加するほど、増大する。
従って、
図6(a)に示すように、エンジンの回転数が高くなると可動シーブ30の推力は「曲線A」のように増加する。
【0044】
一方、
図1において、ソレノイド式アクチュエータ50が作用するときには、遠心ウエイト33が可動シーブ30を図左へ押すが、ソレノイド式アクチュエータ50が可動シーブ30の移動を抑制するため、遠心ウエイト33の作用が減らされる。
図6(a)において、エンジンの回転数が「n」であるときに、曲線A上の点aにあった可動シーブ30の推力は、
図6(b)に示すように、ソレノイド式アクチュエータ50で推力が減らされて、点bになる。
従って、可動シーブ30の推力は「曲線A」から一定の推力を減した「曲線B」のようになる。
すなわち、ソレノイド式アクチュエータ50が作用しないときは曲線Aの特性となり、ソレノイド式アクチュエータ50が作用するときは曲線Bの特性となる。
【0045】
図6(a)、(b)を、巧みに利用した形態の例を次に説明する。
図7に示すように、定格が例えば12V(ボルト)の車載バッテリ67で電磁コイル64に給電する。この給電系、すなわち回路68に、第1スイッチ69、第2スイッチ71及び抵抗72を直列に配置する。直列であれば、第1スイッチ69、第2スイッチ71及び抵抗72の並びは変更可能である。
また、回路68に第2スイッチ71及び抵抗72をバイパスするバイパス回路73を設け、このバイパス回路73に第3スイッチ74を配置する。
【0046】
一方、アクセルグリップ75の近傍にてハンドルに、経済的走行モードボタンであるEcボタン76と、通常走行モードボタンであるNorボタン77と、スポーツ走行モードボタンであるSpボタン78を設ける。そして、Ecボタン76をオンにしたときに第1スイッチ69が断になり、Norボタン77をオンにしたときに第2スイッチ71が入り、Spボタン78をオンにしたときに第3スイッチ74が入るようにする。
【0047】
Ecボタン76が選択されると、第1スイッチ69が断になるため、電磁コイル64に給電されない。このときには、可動シーブ30の推力は、
図6(a)に示す曲線Aとなる。
Spボタン78が選択されると、第1スイッチ69が入ったままで、第2スイッチ71が断の状態で、第3スイッチ74が入になる。すると、電磁コイル64に12Vが給電される。このときには、可動シーブ30の推力は、
図6(b)に示す曲線Bとなる。
Norボタン77が選択されると、第1スイッチ69が入ったままで、第3スイッチ74が断の状態で、第2スイッチ71が入になる。すると、抵抗72で降圧され、電磁コイル64に例えば6Vが給電される。このときには、可動シーブ30の推力は、
図6(b)に示す曲線Aと曲線Bとの中間の曲線となる。
【0048】
中間の曲線を曲線Mとすれば、
図8に示すグラフとなる。
図8において、Spボタン78を押すことで曲線Bが選択された場合、
図1において、変速に必要な推力を可動シーブ30に与えて図左に移動させるためには、曲線Aよりもエンジンの回転数を上げる必要がある。結果、加速性能が高まり、スポーツ走行が行える。
【0049】
また、Ecボタン76を押すことで曲線Aが選択された場合、
図1において、変速に必要な推力を可動シーブ30に与えて図左に移動させるためには、曲線Bよりもエンジンの回転数を低く抑えることができる。結果、スポーツ走行モードよりも燃費性能が高まり、経済的走行が行える。
Norボタン77を押したときには曲線Mが選択され、経済的走行とスポーツ走行の中間的な走行が可能となる。
【0050】
図7に示すボタン76〜78は、小型二輪車のメータパネルや燃料タンク近傍に置くことは差し支えない。しかし、
図7に示すように、運転者が右手又は左手の指で操作する領域にボタン76〜78が配置されていれば、非マニアル車であるスクータ型車両において、走行中にボタン76〜78を切り換えることで、疑似マニアル車の走行感覚を与えることができる。
【0051】
ところで、
図1において、アウタリング42は、揺動レバーであるシフトフォーク43を介してソレノイド式アクチュエータ50に連結される。しかし、アウタリング42は、揺動レバーを介さないで、直接的にソレノイド式アクチュエータ50に連結することは差し支えない。しかし、揺動レバー(シフトフォーク43)を介することで、特有の作用が発揮される。以下、特有の作用を説明する。
【0052】
図9(a)に示すように、シフトピン58と支点ピン44との距離をLaとし、支点ピン44と連結ピン46との距離をLbとする。Lb<Laに設定することができる。いわゆる、レバーの増幅作用により、連結ピン46の移動量に対して、(La/Lb)倍だけ、アウタリング42を大きく移動させることができる。この場合は出力ロッド47の必要ストロークを小さくすることができ、ソレノイド式アクチュエータ50のケース62の胴長さLを小さくすることができる。ケース62の胴長さLが小さいほど、変速機ケース(
図1、符号11)に収納しやすくなる。
【0053】
または、
図9(b)に示すように、シフトピン58と支点ピン44との距離をLcとし、支点ピン44と連結ピン46との距離をLdとする。Lc<Ldに設定することができる。いわゆる、てこの原理により、連結ピン46の力を、(Ld/Lc)倍だけ増大した力でシフトピン58が押される。ソレノイド式アクチュエータ50が発生する力を小さくすることができるため、ソレノイド式アクチュエータ50を小径化することができる。
このように、シフトフォーク43を介在させることで、ソレノイド式アクチュエータ50の設計の自由度が高まる。
【0054】
次に、可動シーブ30の構成を詳細に説明する。
図10に示すように、可動シーブ30は、第1シーブ半体81と、ベルト受け面82を有する第2シーブ半体83とに分割可能とされる。
この例では、第2シーブ半体83に、クランク軸(
図1、符号21)より大径で第1シーブ半体81より小径のボス85が設けられる。
【0055】
第1シーブ半体81は、中央筒部86とこの中央筒部86から径外方へ張り出すカップ部87とからなり、このカップ部87の背面にカム面32が形成される。カム面32に遠心ウエイト(
図1、符号33)が摺接する。
第2シーブ半体83のボス85には、外周部に軸受41へ挿入する段部88が設けられ、内周部に中央筒部86の一端を挿入することがきる嵌合凹部89が形成される。
【0056】
軸受41は、内輪91と外輪92と転動体93とからなり、アウタリング42に嵌めた後に、C止め輪94で抜け止めが図られる。
内輪91へ段部88を挿入する、又は段部88へ内輪91を嵌める。次に、嵌合凹部89へ中央筒部86の一端を嵌合し、最後に、ボルト95をねじ込む。
【0057】
結果、
図11に示す可動シーブ30ができあがる。軸受41は、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83とで挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
スナップリングなどの止め具で軸受41を固定する場合に比べ、止め具挿入用の溝が不要であり、溝が不要であれば第1シーブ半体81又は第2シーブ半体83の大型化が回避できる。したがって、可動シーブ30の小型軽量化が図れる。
【0058】
可動シーブ30の変形例を次に説明する。
図12は、中央筒部86に圧入おす部96を設け、ボス85に圧入めす部97を設ける。
圧入めす部97に圧入おす部96を圧入することで、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83とを一体化した。軸受41は、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83とで挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
【0059】
図11のボルト95を省くことができるため、穴開けやタップ加工工数及び部品点数の削減が図れる。すなわち、圧入結合であるから、締結ボルトなどが不要となり、軽量化及びコンパクト化が容易に図れる。
加えて、圧入結合では、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83との心出しが容易である。心出し精度が良好であれば、可動シーブ30の回転バランス性能が高まり、Vベルト式無段変速機10の品質が高まる。
【0060】
図13は、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83とが、圧入とスプライン98とにより結合される。軸受41は、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83とで挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
図11のボルト95を省くことができるため、穴開けやタップ加工工数及び部品点数の削減が図れる。
図12では、トルク(回転力)の全てを圧入結合に委ねたが、
図13によれば、圧入結合のみでトルク伝達と位置決めを行わせる場合に比較して、伝達トルク値を容易に高めることができる。
【0061】
また、圧入結合のみでトルク伝達と位置決めを行わせる場合に比較して、圧入結合に求められる役割が軽減されるため、いわゆる軽圧入で済ませることができる。軽圧入であれば、結合作業が容易となり、組立費用の節減が図れる。
なお、図示は省略するが、スプライン98に代えてキー結合を採用しても差し支えない。
【0062】
又は、
図14に示すように、第1シーブ半体81にボス85を設ける。このボス85に軸受41を嵌めると共にボス85の先端を第2シーブ半体83に圧入する。軸受41を更に小径にすることができる。
図12〜
図14では、第1シーブ半体81に圧入おす部96を設け、第2シーブ半体83に圧入めす部97を設けたが、めすとおすを逆にすることができる。
【0063】
すなわち、
図15に示すように、第1シーブ半体81に圧入めす部97を設け、第2シーブ半体83に圧入おす部96を設けてもよい。
ただし、第1シーブ半体81に圧入めす部97を設けると、この圧入めす部97より径外方にカム面32を設けることになる。すると、第1シーブ半体81の外径が増大し、可動シーブ30が大型になる。この点、
図12〜
図14では、第1シーブ半体81に圧入おす部96を設けたので、第1シーブ半体81の外径が増大することはなく、可動シーブ30が大型になる心配はない。
【0064】
また、
図11〜
図14では、第1シーブ半体81と第2シーブ半体83とで軸受41を挟んで、軸受41の軸方向位置決めを行った。
しかし、
図15に示すように、ボス85にC止め輪99を設け、このC止め輪99と第1シーブ半体81とで軸受41の位置決めを実施しても良い。
【0065】
また、
図16に示すように、ボス85にC止め輪101を設け、このC止め輪101と第2シーブ半体83とで軸受41の位置決めを実施しても良い。
【0066】
C止め輪94、99、101は、スナップリングと呼ばれる止め具であればよく、形状はC形に限定するものではない。なお、C止め輪94を廃止して、軸受41の外輪92をアウタリング42に圧入固定しても差し支えない。
【0067】
次に、揺動レバーとしてのシフトフォーク43を省くことができるVベルト式無段変速機10の変形例を説明する。
図17(a)に示すように、アウタリング42から、1個の膨出部56を延ばし、この膨出部56を、ナット102、102で挟むようにして出力ロッド47に固定する。
アウタリング42をダイレクトに出力ロッド47に連結することにより、揺動レバーを省くことができる。
すなわち、ソレノイド式アクチュエータ50は、揺動レバーとしてのシフトフォーク43を介してアウタリング42に連結することも、直接アウタリング42に連結することも可能である。
【0068】
また、ソレノイド式アクチュエータ50は、他の形式のアクチュエータに変更することができる。
例えば、
図17(b)に示すように、電動モータ111に減速機112を付属した減速機付きモータ110を準備し、このモータ110のモータ軸113をボールねじ軸114として、このボールねじ軸114にナット115をねじ込み、このナット115を膨出部56に固定する。ボールねじ軸114の回転により、ナット115を介してアウタリング42を押し引きすることができる。なお、モータ軸113とボールねじ軸114とを分離し、カップリングで繋ぐことは差し支えない。また、ボールねじに代えて台形ねじを採用したり、図示は省略するが、ボールねじ軸114を減速機付きモータ110内に組み込んでボールねじ軸114を進退させる機構とし、ボールねじ軸114の進退によりアウタリング42を押し引きしても差し支えない。
【0069】
尚、本発明のVベルト式無段変速機10は、スクータ型車両に好適であるが、その他の自動二輪車や三輪車や四輪車に適用することは差し支えない。