【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明によるひび割れ検出方法は、コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうひび割れ検出方法であって、ひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度を擬似的に設定し、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、該2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のそれぞれのウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、該入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する第1のステップ、ウェーブレット係数テーブル内において、前記コンクリート表面の濃度と仮定する局所領域内の近傍画素の平均濃度と、前記ひび割れの濃度と仮定する注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れと判定し、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも小さな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなって、同じウェーブレット関数を有する画素を連結して一つの塊を形成し、それぞれの塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像を作成する第2のステップ、前記塊の特徴量を特定し、塊の特徴量ごとにひび割れとひび割れ以外のノイズ種が予め規定されている特徴量テーブルを参照して、複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって特徴量が特定されている前記塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、前記塊ごとの特徴量の特定と各塊の判別分析を第2のステップにおける全ての塊に実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されてなるひび割れ画像を作成する第3のステップからなり、前記特徴量テーブルの作成は、任意のコンクリート表面に対して前記第1のステップ、第2のステップを実行して二値化画像を作成し、該二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算するとともに、それぞれの塊に対する観測結果(塊がひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれか一種)を割り当てるステップからなるものである。
【0015】
ウェーブレット(wavelet)とは、小さな波という意味であり、局在性を持つ波の基本単位を、ウェーブレット関数を用いた式で表現することができる。このウェーブレット関数を拡大または縮小することにより、時間情報や空間情報と周波数情報を同時に解析することが可能となる。このウェーブレット係数を、ひび割れを有するコンクリート表面に適用する場合のこの係数の特徴としては、コンクリート表面の濃度と、ひび割れの濃度と、ひび割れ幅に依存するということである。例えば、ひび割れ幅が大きくなるにつれてウェーブレット係数の値は大きくなる傾向があり、また、ひび割れの濃度が濃くなるにつれて(黒色に近づくにつれて)ウェーブレット係数の値は大きくなる傾向がある。
【0016】
ウェーブレット変換によって算定されるウェーブレット係数を用いて、ひび割れの検出をおこなうアルゴリズムは以下のようになる。まず、コンクリート表面の撮影画像とウェーブレット関数との内積よりウェーブレット係数を求める。このウェーブレット係数を256階調に変換することで、連続量を持ったウェーブレット画像が作成できる。
【0017】
ウェーブレット係数は、上記するようにひび割れ幅やひび割れの濃度、コンクリート表面の濃度によって変化することから、擬似的に作成されたデータを用いてひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度に関するウェーブレット係数を各階調ごとに算定しておき、ウェーブレット係数テーブルを作成しておく。このウェーブレット係数テーブルにある各階調ごとのウェーブレット係数が、ひび割れ検出の際の閾値となる。例えば、対比される2つの濃度(一方の濃度をコンクリート表面の濃度、他方の濃度をひび割れの濃度と仮定することができる)に対応するウェーブレット係数(閾値)がウェーブレット係数テーブルを参照すれば一義的に決定される。したがって、後述するように、撮影画像において対比される2つの濃度間のウェーブレット係数を算定した際に、このウェーブレット係数がウェーブレット係数テーブルの閾値よりも大きな場合は、ひび割れであると判断できるし、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断することができる。
【0018】
このウェーブレット係数テーブルを作成する際の擬似的なデータは特に限定するものではないが、例えば、ひび割れ幅が1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)までの中で、各画素幅のひび割れごとに、コンクリート表面の階調とひび割れの階調に対応するウェーブレット係数を算定する。閾値の設定に際しては、例えば、ひび割れ幅が1画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れに対応するウェーブレット係数を選定し、ひび割れ幅が5画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れ領域でない箇所のウェーブレット係数を選定し、これら2つのウェーブレット係数の平均値をもって任意の階調における閾値とすることができる。
【0019】
本発明のひび割れ検出方法においては、まず、第1のステップにおいて、上記するウェーブレット係数テーブルを作成しておくとともに、撮影画像に対してレンズ収差補正やあおり補正などの補正処理をおこない、これをコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する。このウェーブレット画像の作成は、コンピュータ内部において以下のように実施される。まず、適宜に設定された広域領域(例えば30×30画素の領域)に対してウェーブレット係数を算定する。次に、この広域領域から一画素移動した広域領域(同じように例えば30×30画素の領域であって、移動前の30×30画素の領域とほとんどの画素が共通している)で、同じようにウェーブレット係数を算定する。この操作を入力画像全体に繰り返すことにより、コンピュータ内部には、ウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像が作成される。
【0020】
次に第2のステップにおいて、このウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像において、ウェーブレット係数テーブル内の閾値(ウェーブレット係数)とウェーブレット画像を構成するウェーブレット係数とを比較し、画像を構成するウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はひび割れと判断し(画面上では例えば白色)、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断する(画面上では例えば黒色)。そして、この操作をウェーブレット画像全体でおこなうことにより、黒い背景色内に白いひび割れが描き出された途中段階の二値化画像が作成される。
【0021】
この途中段階の二値化画像においてひび割れと判定された画素に対して、ノイズの一部を除去する処理である輪郭線追跡処理をおこなって二値化画像を作成する。
【0022】
この輪郭線追跡処理においては、途中段階の二値化画像において、同じウェーブレット関数を有する画素を連結して一つの塊を形成し、それぞれの塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定することにより、ノイズの一部を除去することができる。
【0023】
このように第2のステップにて作成された二値化画像は、上記するように同じウェーブレット関数を有する画素が連結してなる多数の塊(オブジェクト)を内蔵している。
【0024】
この二値化画像の内蔵する多数の塊を利用して、二値化画像においてひび割れと判断されている塊から、実際にはひび割れでなくて、ひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などのノイズ種を除去してひび割れ画像を作成するのが第3のステップである。
【0025】
まず、塊の特徴量を特定する。ここで、塊の特徴量とは、塊の形状に影響を与える要因のことであり、その一例として、塊の面積、塊の外接四角形の高さや幅、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸、塊の面積とその外接四角形の面積の比率、塊の外接四角形の幅と高さの比率、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸の比率、塊の真円度((周囲長)
2÷(4π×面積)の一般式から算定される塊の真円度)、塊の外周の凹凸度(フラクタル次元)、塊の外周の長さなどを挙げることができる。
【0026】
これらの塊の特徴量に関しては、予め特徴量テーブルが作成されている。この特徴量テーブルの作成は、現在そのコンクリート表面のひび割れ検出対象となっているコンクリート表面であってもよいし、それ以外のコンクリート表面であってもよいが、ある任意のコンクリート表面に対して上記する第1のステップ、第2のステップを同様に実行して二値化画像を作成し、二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算してテーブル化しておく。
【0027】
そして、この特徴量テーブルにはさらに、この任意のコンクリート表面に関する観測結果、すなわち、それぞれの塊がひび割れである場合区分「3」、ノイズ種の中でも型枠や傷跡などの場合は区分「2」、ノイズ種の中でもしみ跡や汚れなどの雑音の場合は区分「1」、などといった具合に、観測結果であるそれぞれの塊が、ひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれの区分に属するかが割り当てられている。
【0028】
この特徴量テーブルに対し、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって、特徴量が特定されている塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、この判定された結果を予測値とするものである。
【0029】
たとえば、実際にひび割れである塊に対してその予測値がひび割れであれば予測値と観測結果が一致することになり、実際にひび割れではない塊(ノイズ種の一種)に対して予測値がひび割れであれば予測値と観測結果が一致していないことになる。
【0030】
ここで、「判別分析」とは、予め与えられているデータが異なるグループに分かれることが明らかな場合に、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準となる判別関数を得るための手法のことである。
【0031】
本発明では、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数としている。
【0032】
第2のステップで特定されている二値化画像に内蔵されている多数の塊のそれぞれに対して、その特徴量の特定と判別分析を実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されたひび割れ画像を作成することができる。
【0033】
ノイズの除去が終了してひび割れ画像が作成されたら、ひび割れ幅の推定をおこなう。ここで、ひび割れ幅の推定方法の実施の形態を説明する。このひび割れ幅の推定に際し、今回撮影対象となるコンクリート表面とは異なり、以前に撮影された撮影対象のコンクリート表面において貼付けされたクラックスケールの撮影画像であって、既に蓄積されている該クラックスケールの撮影画像をデータベースとして設定しておく。このクラックスケールの撮影画像のデータベースには、クラックスケールの最小幅から最大幅までの複数の実寸値qが含まれており、さらに、撮影距離やレンズ焦点距離、空間分解能が異なる複数の画像データから構成されるものである。
【0034】
一方、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対して第3のステップで作成されているひび割れ画像に対し、さらに細線化処理を実行してその中心線で構成される、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像を作成する。
【0035】
データベース中のクラックスケールの撮影画像をコンピュータに入力してクラックスケールの入力画像とし、クラックスケールの入力画像をウェーブレット変換することによってクラックスケールのウェーブレット画像を作成し、クラックスケールのウェーブレット画像に対して細線化処理を実行してその中心線で構成される、クラックスケールの細線化画像を作成し、クラックスケールの細線化画像において、ひび割れ幅の推定式の説明変数pを、p=(ウェーブレット係数の値)−(ウェーブレット係数の閾値)とし、クラックスケールの撮影画像から特定されるクラックスケールの実寸値qと説明変数pより回帰分析をおこなう。そして、説明変数pをパラメータとする以下のひび割れ幅の推定式:y=a+bp (a、bは回帰分析で特定された定数、pは説明変数)を求め、推定式のpに対し、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像におけるウェーブレット係数の値とウェーブレット係数の閾値から特定されるpを適用することにより、撮影対象ごとにそれぞれのコンクリート表面のひび割れ幅を特定する。
【0036】
ここで、回帰分析にて特定されるひび割れ幅の推定式は、蓄積されるクラックスケールのデータ量等によって変化する。また、説明変数pは、クラックスケールの細線化画像の全画素数に対応した値からなる。
【0037】
回帰分析の結果、クラックスケールにおけるひび割れ幅、ウェーブレット係数、注目画素の輝度、周辺画素の平均輝度、空間分解能や相関係数から構成されるデータベースを作成することができる。
【0038】
また、前記回帰分析の結果、相関係数が一定の高さ以上のクラックスケールの撮影画像のみを使用して前記ひび割れ幅の推定式を求めてもよい。推定式の精度は、回帰分析にて求められる相関係数に依存するところが大きく、より具体的には、一定の高い相関係数を有するクラックスケールの撮影画像のみを使用して回帰分析をおこない、ひび割れ幅の推定式を特定するのが望ましい。このことにより、クラックスケールを撮影した際のピントの不具合やクラックスケールの貼り方が浮いていることに依拠するぼけた画像を除去することができ、結果として推定式の精度向上に繋がる。
【0039】
【0040】
最後に、推定されたひび割れ幅に基づくひび割れデータ、すなわち、全ひび割れ長さの算定やひび割れ幅ごとのひび割れ長さの算定、ひび割れ幅ごとの分布図の作成、ひび割れ展開図の作成などをおこない、該ひび割れデータから所望の情報を抽出することが可能となる。
【0041】
本発明のひび割れ検出方法によれば、第2のステップにて輪郭線追跡処理をおこなってノイズの一部を除去した後で、さらに第3のステップにて判別分析をおこなってさらにノイズを除去してひび割れ画像を作成することから、この作成されたひび割れ画像から推定されるひび割れ幅は極めて高精度のものとなり、このひび割れ幅以外の各種のひび割れデータも高精度のものを得ることができる。
【0042】
また、本発明によるひび割れ検出方法の好ましい実施の形態は、前記特徴量テーブルに対し、それぞれの塊と、特徴量テーブルにおける前記グループの重心位置の間の距離をマハラノビスの汎距離で特定し、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、該確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正するものである。
【0043】
判別関数には、超平面・直線による線形判別関数と、超曲面・曲線によるマハラノビス汎距離よる非線形判別関数がある。本実施の形態では、それぞれの塊と特徴量テーブルにおけるグループの重心位置の間の距離をこのマハラノビス汎距離で特定することとし、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、この確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正するものである。
【0044】
このように確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正することにより、各塊に対する予測値を修正して修正予測値とし、この修正予測値に基づくひび割れ画像を作成することができ、ひび割れ検出精度はさらに向上する。
【0045】
そして、この確率値に関しては、確率値の閾値を予め規定しておき、特定された確率値がこの閾値を下回る場合にはどのグループにも属さないものとし、どのグループにも属さない塊に対しては人為的に該塊のグループを特定するようにしてもよい。
【0046】
すなわち、どのグループにも属さないものに関しては、これをさらに何等かのアルゴリズムを適用してコンピュータ処理するよりも、撮影画像と確率値に基づいて観測者(技術者)が判断した方が効率的であり、結果の精度も好ましいものとなるのが理由である。