特許第5852981号(P5852981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5852981材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5852981
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年2月3日
(54)【発明の名称】材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/303 20060101AFI20160114BHJP
【FI】
   G01N3/303 D
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-80178(P2013-80178)
(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公開番号】特開2014-202652(P2014-202652A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2014年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】青木 寿文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 宏之
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−258588(JP,A)
【文献】 実開平07−038948(JP,U)
【文献】 特開平04−065652(JP,A)
【文献】 特開2002−350327(JP,A)
【文献】 特開平03−108663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/303
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃曲げ・せん断試験で模擬すべき実機の発生応力を把握するため、候補材料(1)の中から引張、硬さ、シャルピー衝撃、破壊靱性、疲労き裂進展の各試験による基礎試験データを得るため実機試験の前に行う基礎試験の前記基礎試験データでN種の候補材料(2)に絞り込み、その中の1種を基準材料(3)に決め、その基準材料(3)に対して実機試験を実施する第1工程と、
前記応力と同レベルの応力を、前記実機より小型の衝撃曲げ・せん断の棒状の小型試験片(4)に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める第2工程と、
算出した入力エネルギーでの試験をN種の候補材料(2)全て(基準材料(3)およびN−1種の他材料)について実施し、応力と靱性(前記小型試験片の変形量やき裂深さ・数量)の関係データを計測する第3工程と、
前記基準材料(3)の実機試験結果と衝撃曲げ・せん断試験結果を比較し発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析を行い、N−1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する第4工程と、
前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に前記基礎試験データを用いて、各材料(N種の候補材料(2))の寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行う、又は、1回の衝撃による破壊の場合は、き裂進展計算の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対する寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対する寿命の相対評価を行う第5工程と、よりなり、
得られた前記相対評価データを基に材料選定を行なうことを特徴とする材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法。
【請求項2】
前記衝撃曲げ・せん断試験は、落錘(21)又はばね・圧縮ガス・リニアモーターで加速した衝突体からなる質量体(22)を用いる試験装置(20)で行われることを特徴とする請求項1記載の材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法。
【請求項3】
前記試験装置(20)は、前記質量体(22)を上方から下方へ移動させるため前記質量体(22)を支持するための複数の支柱(24,25)と、前記各支柱(24,25)を保持するための基盤(23)と、前記基盤(23)に設けられ前記試験片(4)を保持すると共に荷重伝播金具(31) および位置決め兼被衝突金具(33)を有する試験片ホルダ(30)とからなり、前記質量体(22)が前記位置決め兼被衝突金具(33)に衝突することにより前記試験片(4)に衝撃が加わるようにすることを特徴とする請求項2記載の材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法に関し、特に、機械/構造体の設計に資する材料の耐衝撃データを取得するため、実機と同レベルの衝撃曲げ・せん断条件下における耐衝撃特性を、小型試験片を用いて評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高い耐衝撃曲げ・せん断特性を要求される機械・構造体製品の材料選定のためには、例えば、非特許文献1〜5に示されている引張試験、硬さ試験、シャルピー衝撃試験、破壊靱性試験、疲労き裂進展試験などの各試験による基礎試験データを取得して、試作設計し実機試験で候補材料の安全性確認を行なうことが必要となる。衝撃荷重を負荷する実機試験の例として、自動車では実機の衝突試験、火砲では実機での実射撃による実負荷試験などが挙げられる。実機試験はコストと期間が掛るため、図13の例のように全ての候補材料の試験のためのコストと期間は膨大となる。
すなわち、図13に示すフローのように、基礎試験(第1ステップ:101)によって候補材料1の中からN種の候補材料2に絞込み(第2ステップ:102)を行い、材料1〜Nを用いて実機試験1〜実機試験Nを行い(第3ステップ:103)、目的とする材料選定(第4ステップ:104)を行っていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JIS Z 2241:2011 金属材料引張試験方法
【非特許文献2】JIS Z 2244:2009 ビッカース硬さ試験
【非特許文献3】JIS Z 2242:2005 金属材料のシャルピー衝撃試験方法
【非特許文献4】JIS G 0564:1999 金属材料−平面ひずみ破壊靱性試験方法
【非特許文献5】ASTM E647-13 Standard Test Method for Measurement of Fatigue Crack Growth Rates
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、高い耐衝撃曲げ・せん断特性を要求される機械/構造体の材料を選定するには、以上のように実機試験で実際の衝撃曲げ・せん断負荷に耐え得るかを調査していたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、実機の衝撃試験は実機の製作以上のコストと期間を要し、それを候補材料全てに対して実施するには膨大なコストと期間が掛るという問題があり、実機開発の大きな障害となっていた。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決し、耐衝撃特性に優れた材料を選定するため、新たに小型試験片による衝撃曲げ・せん断試験により模擬的に実機試験と同等の耐衝撃性を評価する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法は、衝撃曲げ・せん断試験で模擬すべき実機の発生応力を把握するため、候補材料の中から引張、硬さ、シャルピー衝撃、破壊靱性、疲労き裂進展の各試験による基礎試験データを得るため実機試験の前に行う基礎試験でN種の候補材料に絞り込んでその中の1種を基準材料に決め、その基準材料に対して実機試験を実施する第1工程と、前記応力と同レベルの応力を、前記実機より小型の衝撃曲げ・せん断の棒状の小型試験片に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める第2工程と、算出した入力エネルギーでの試験をN種の候補材料全て(基準材料およびN-1種の他材料)について実施し、応力と靱性(前記小型試験片の変形量やき裂深さ・数量)の関係データを計測する第3工程と、前記基準材料の実機試験結果と衝撃曲げ・せん断試験結果を比較し発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析を行い、N-1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する第4工程と、前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に前記基礎試験データを用いて、各材料(N種の候補材料)の寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行う、又は、1回の衝撃による破壊の場合は、き裂進展計算の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対する寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対する寿命の相対評価を行う第5工程と、よりなり、得られた記相対評価データを基に材料選定を行なう方法であり、また、前記衝撃曲げ・せん断試験は、落錘又はばね・圧縮ガス・リニアモーター等で加速した衝突体からなる質量体を用いる試験装置で行われる方法であり、また、前記試験装置は、前記質量体を上方から下方へ移動させるため前記質量体を支持するための複数の支柱と、前記各支柱を保持するための基盤と、前記基盤に設けられ前記試験片を保持すると共に荷重伝播金具および位置決め兼被衝突金具を有する試験片ホルダとからなり、前記質量体が前記位置決め兼被衝突金具に衝突することにより前記試験片に衝撃が加わるようにする方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明による材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、衝撃曲げ・せん断試験で模擬すべき実機の発生応力を把握するため、候補材料の中から引張、硬さ、シャルピー衝撃、破壊靱性、疲労き裂進展の各試験による基礎試験データを得るため実機試験の前に行う基礎試験でN種の候補材料に絞り込んでその中の1種を基準材料に決め、その基準材料に対して実機試験を実施する第1工程と、前記応力と同レベルの応力を、前記実機より小型の衝撃曲げ・せん断の棒状の小型試験片に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める第2工程と、算出した入力エネルギーでの試験をN-1種の候補材料全て(基準材料およびN-1種の他材料)について実施し、応力と靱性(試験片の変形量やき裂深さ・数量)の関係データを計測する第3工程と、前記基準材料の実機試験結果と衝撃曲げ・せん断試験結果を比較し発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析を行い、N-1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する第4工程と、前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に前記基礎試験データも考慮して、各材料(N種の候補材料2)の寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行う、又は、1回の衝撃による破壊の場合は、き裂進展計算の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対する寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対する寿命の相対評価を行う第5工程と、よりなり、前述の相対評価から、より安全性の高い材料の選定を行うことで、小規模な試験片に実機と同レベルの衝撃曲げ・せん断応力を発生させて模擬的に実機と同等の条件の耐衝撃曲げ・せん断特性データを取得することができるため、実機試験数を節約することができる。本衝撃曲げ・せん断試験は比較的に簡単に実施可能であり、コストも抑えることができる。
また、試験片寸法や衝突体(落錘)のエネルギーを調整することで、任意の衝撃曲げ・せん断応力相当の試験条件を再現できるため、汎用性に優れている。
前記衝撃曲げ・せん断試験は、落錘又はばね・圧縮ガス・リニアモーター等で加速した衝突体からなる質量体を用いる試験装置で行われることにより、試験装置が簡単でかつ安価であり、何れの工場及び事務所においても容易に取付け及び稼動ができる。
また、前記試験装置は、前記質量体を上方から下方へ移動させるため前記質量体を支持するための複数の支柱と、前記各支柱を保持するための基盤と、前記基盤に設けられ前記試験片を保持すると共に荷重伝播金具および位置決め兼被衝突金具を有する試験片ホルダとからなり、前記質量体が前記位置決め兼被衝突金具に衝突することにより前記試験片に衝撃が加わるようにしたことにより、構成が簡単で、かつ、安価にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法による材料選定フロー図である。
図2図1の詳細フロー図である。
図3図1の要部の衝撃曲げ・せん断試験装置の構成図の一例を示す正面図である。
図4図3の上面図である。
図5図3の試験片ホルダ30の拡大図である。
図6図5のA−A矢視図である。
図7図3における実際に取得した衝撃曲げ応力の一例を示す説明図である。
図8図5の荷重伝播金具の場合での荷重作用距離(スパン)Lを示す図である。
図9図8の他の形態の荷重伝播金具の場合でのスパンLを示す図である。
図10図8の他の形態の荷重伝播金具の場合でのスパンLを示す図である。
図11】本発明のせん断応力のみによる靱性データを示す特性図である。
図12】本発明の寿命予測の特性図の一例である。
図13】高い耐衝撃曲げ・せん断特性を要求される機械/構造体製品の、従来の材料選定方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、機械/構造体の設計に資する材料の耐衝撃データを取得するため、実機と同レベルの衝撃曲げ・せん断条件下における耐衝撃特性を小型試験片で評価するようにした材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法を提供することを目的とする。
【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明による材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法の好適な実施の形態について説明する。
尚、図13の従来例と同一又は同等部分については同一符号を用いて説明する。
図1は、本発明での材料選定フローを示し、基礎試験(第1ステップ:101)によって候補材料1の中から基礎試験でN種の候補材料2に絞り込み(第2ステップ:102)その中の1種を基準材料3に決め、基準材料3のみを用いて実機試験を行う(第3Aステップ:103A)ことにより、実機試験回数を従来(図13)よりも少なくして最小化し、前記N種の候補材料2全てについて小型試験片4として衝撃曲げ・せん断試験(第3Bステップ:103B)を行い、相対評価5(第3Cステップ:103C)をした後に材料選定(第4ステップ:104)を行う。
【0011】
前述の図1の材料選定フローについて図2を用いてより詳しく説明する。尚、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略している。
すなわち、図2のフロー図で示したように、まずは、基礎試験(第1ステップ:101)によって候補材料1の中からN種の候補材料2に絞り込み(第2ステップ:102)、その中の1種を基準材料3に決め、基準材料3に対して実機試験(第3A−1aステップ:103A−1a)やその実機試験を解析対象とする周知の動的FEM解析(第3A−1bステップ:103A−1b)を実施して調査する。なお、実際の破壊現象では曲げとせん断の双方が発生するため、両応力成分を調査する。
次に、その応力と同レベルの応力を、小型の衝撃曲げ・せん断試験片に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める(第3A−2ステップ:3A−2)。ここで、入力エネルギー10を低く抑えるため、試験片寸法(直径、スパン)の調整も可である。
【0012】
次に、前述のように算出した前記入力エネルギー10での試験をN種の候補材料2全て(基準材料3およびN−1種の他材料)について実施(第3B−1ステップ:3B−1)し、応力と靱性(試験片4の変形量やき裂深さ及びき裂(すなわち、き裂深さ・数量のことである)量)の関係データを計測する。図2に示されているように、基準材料3の実機試験結果(第3A−1cステップ:103A−1c)と衝撃曲げ・せん断試験結果(第3B−2bステップ:103B−2b)を比較し、発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析(第3C−1ステップ:3C−1)を行い、N−1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する(第3C−2ステップ:3C−2)。
前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に前記基礎試験データも考慮して、各材料の実機での寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行い(第3C−3ステップ:3C−3及び第3C−4ステップ:3C−4)、より安全性の高い材料を選定する(第4ステップ:104)。なお、自動車の衝突のように1回の衝撃による破壊が問題になる場合は、き裂進展計算の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対する寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対する寿命の相対評価を行う。
以上の方法を実施することで、コストと期間がかかる実機試験を節約することができる。
【0013】
前述の図2の材料選定フローにおいて用いられる図3及び図4の衝撃曲げ・せん断試験を行うための試験装置20においては、衝撃荷重の入力は例えば落錘21を用い、入力エネルギーは落錘質量と落錘速度(落下高さにより、必要であればばね・圧縮ガス・リニアモーター等で増速)で調整する。小型の丸棒試験片の片側を固定し、他方に衝撃荷重を負荷して、固体端付近に衝撃曲げ・せん断応力を発生させる。発生する衝撃曲げ応力の取得は、試験片固定端にひずみゲージ40を貼付し、得られたひずみの時系列データから、動的応力−ひずみ関係を用いて算出する。衝撃せん断応力は、例えば周知の初等はり理論(Bernoulli−Euler はり理論)による式(1)などにより曲げ応力から算出する。
【0014】
尚、前記試験装置20は、図3図4図5及び図6に示される通りであり、基盤23上には複数の支柱24,25が植立して設けられ、その中、中央に位置する一組の支柱25はガイドとして用いられると共に、前記落錘21又は図示しないばね・圧縮ガス・リニアモーター等で加速した衝突体からなる質量体22が落差28を利用して前記基盤23上の前記試験片4上に落下するように構成されている。
【0015】
前記小型試験片4は、前記基盤23上に設けられた試験片ホルダ30上の位置決め兼被衝突金具33により位置決めされた荷重伝播金具31の凹部32内に配設されており、前記位置決め兼被衝突金具33上に前記質量体22が上方から落下して衝突するように構成されている。
前記試験片4の固定端側端部または前記試験片ホルダ30には加速度センサ41が設けられ、前記試験片ホルダ30に隣接する位置には、変位センサ42が設けられ、前記質量体22が前記位置決め兼被衝突金具33に衝突する際の変位の時間変化(=速度)、および試験片4の固定端側端部または試験片ホルダ30に発生する応力波による加速度を検出することができるように構成されている。
【0016】
次に、本発明による衝撃曲げ・せん断試験装置20の一実施例について説明する。
図3に示すように、簡単に衝撃荷重を発生させるため落錘21を用いる。また落錘21の跳ね返り方向を鉛直上方向として試験装置20のバランスを保つため、小型試験片4は図5のように軸4Aで対称な2本1組の1対の丸棒の小型試験片4(片持ちはり)とし、落錘21により両試験片4に伝播する衝撃荷重も軸4Aで対称とするため、荷重伝播金具31および位置決め兼被衝突金具33を用いる。
曲げ応力の計測は、小型試験片4の固定端に貼付したひずみゲージ40のひずみデータと、動的応力−ひずみ関係より算出することができる。実際に試験で得られた衝撃曲げ応力43の例を図7に示す。この曲げ応力43と式(1)などにより衝撃せん断応力44も算出することができる。
【0017】
【数1】
【0018】
すなわち、図7に示されるように、一対の前記小型試験片4に対して落錘21を落下・衝突させた時の各試験片4の下面における圧縮側の応力である衝撃曲げ応力43のピーク値が1000〜2000μsec後に2000〜3000MPaとなり、衝撃せん断応力44は塑性変形の影響も考慮して100MPa程度である。
【0019】
また、図8から図10で示されるように、荷重伝播金具31を入替て荷重作用距離(スパン)Lを変えて試験を実施することで、せん断応力44と曲げ応力43のデータを分離することができる。すなわち図11のように、横軸をスパンL、縦軸を靱性データとしてある材料の初期き裂深さaをグラフで描くと、グラフが縦軸(スパン=ゼロ)と交差する点がせん断応力のみによる靱性データとなる。
【0020】
前述の試験装置20を用いて試験を行う場合、前記落錘ガイドとしての各支柱25の摩擦や空気抵抗等により必ず速度ロスが発生するため、変位センサ42により落錘変位の時系列データを取得しその時間勾配より衝突速度を算出し、正確な入力エネルギーを把握すると共に、図2のフローの差異分析(第3C−1ステップ:3C−1)の参考とする。試験片4の固定端側端部または試験片ホルダ30に加速度センサ41を貼付し得られた加速度の時系列波形をFFT(高速フーリエ変換)分析することで、計測した曲げ応力の応力波の影響を把握することができる。また、表1に実際に試験で取得した鋼種1〜5の靱性データの一例として各材料の初期き裂深さを示し、図12に寿命予測の一例として表1の初期き裂深さデータと基礎試験の疲労き裂進展データより算出したき裂進展計算結果を示した。
【0021】
【表1】
【0022】
すなわち、表1に示す初期き裂深さを有する鋼種1〜5に対して、実機に相当する繰返し衝撃荷重を作用させた場合における、繰返し数とき裂深さとの関係(計算結果)を示すと、図12の通りであり、鋼種によって寿命が異なることを容易に予測できることが明らかである。
【0023】
尚、本発明の要旨をまとめると次の通りである。
衝撃曲げ・せん断試験で模擬すべき実機の発生応力を把握するため、候補材料1の中から引張、硬さ、シャルピー衝撃、破壊靱性、疲労き裂進展の各試験による基礎試験データを得るため実機試験の前に行う基礎試験でN種の候補材料2に絞込み、その中の1種を基準材料3に決め、その基準材料3に対して実機試験を実施する第1工程と、前記応力と同レベルの応力を、前記実機より小型の衝撃曲げ・せん断の棒状の小型試験片4に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める第2工程と、算出した入力エネルギーでの試験をN種の候補材料2全て(基準材料3およびN−1種の他材料)について実施し、応力と靱性(前記試験片の変形量やき裂深さ・数量)の関係データを計測する第3工程と、前記基準材料3の実機試験結果と衝撃曲げ・せん断試験結果を比較し発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析を行い、N-1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する第4工程と、前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に前記基礎試験データも用いて、各材料(N種の候補材料2)の寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行う、又は、1回の衝撃による破壊の場合は、き裂進展計算の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対する寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対する寿命の相対評価を行う第5工程と、よりなり、前述の相対評価から材料選定を行うことであり、また前記衝撃曲げ・せん断試験は、落錘21又はばね・圧縮ガス・リニアモーター等で加速した衝突体からなる質量体22を用いる試験装置20で行われることであり、また、前記試験装置20は、前記質量体22を上方から下方へ移動させるため前記質量体22を支持するための複数の支柱24、25と、前記各支柱24、25を保持するための基盤23と、前記基盤23に設けられ前記試験片4を保持すると共に荷重伝播金具31および位置決め兼被衝突金具33を有する試験片ホルダ30とからなり、前記質量体22が前記位置決め兼被衝突金具33に衝突することにより前記試験片4に衝撃が加わるようにすることである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明による材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法は、実機と同レベルの衝撃曲げ・せん断条件下における耐衝撃特性を小型試験片で評価することにより、高い耐衝撃曲げ・せん断特性を要求される機械・構造体の材料を安価で短期間に決定することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 候補材料
2 N種の候補材料 (候補材料1より基礎試験で絞込んだN種)
3 基準材料 (N種の候補材料の中から1種決定する)
4 小型試験片
101 第1ステップ
102 第2ステップ
103 第3ステップ
103A 第3Aステップ
103B 第3Bステップ
103C 第3Cステップ
103A-1a 第3A-1aステップ
103A-1b 第3A-1bステップ
103A-1c 第3A-1cステップ
103A-2 第3A-2ステップ
103B-1 第3B-1ステップ
103C-1 第3C-1ステップ
103C-2 第3C-2ステップ
103C-3 第3C-3ステップ
103C-4 第3C-4ステップ
104 第4ステップ
5 相対評価
10 入力エネルギー
20 試験装置
21 落錘
22 質量体
23 基盤
24,25 支柱
30 試験片ホルダ
31 荷重伝播金具
32 凹部
33 位置決め兼被衝突金具
40 ひずみゲージ
41 加速度センサ
42 変位センサ
43 衝撃曲げ応力
44 衝撃せん断応力
L 荷重作用距離(スパン)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13