【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明による材料の耐衝撃曲げ・せん断特性の評価方法の好適な実施の形態について説明する。
尚、
図13の従来例と同一又は同等部分については同一符号を用いて説明する。
図1は、本発明での材料選定フローを示し、基礎試験(第1ステップ:101)によって候補材料1の中から基礎試験でN種の候補材料2に絞り込み(第2ステップ:102)その中の1種を基準材料3に決め、基準材料3のみを用いて実機試験を行う(第3Aステップ:103A)ことにより、実機試験回数を従来(
図13)よりも少なくして最小化し、前記N種の候補材料2全てについて小型試験片4として衝撃曲げ・せん断試験(第3Bステップ:103B)を行い、相対評価5(第3Cステップ:103C)をした後に材料選定(第4ステップ:104)を行う。
【0011】
前述の
図1の材料選定フローについて
図2を用いてより詳しく説明する。尚、
図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略している。
すなわち、
図2のフロー図で示したように、まずは、基礎試験(第1ステップ:101)によって候補材料1の中からN種の候補材料2に絞り込み(第2ステップ:102)、その中の1種を基準材料3に決め、基準材料3に対して実機試験(第3A−1aステップ:103A−1a)やその実機試験を解析対象とする周知の動的FEM解析(第3A−1bステップ:103A−1b)を実施して調査する。なお、実際の破壊現象では曲げとせん断の双方が発生するため、両応力成分を調査する。
次に、その応力と同レベルの応力を、小型の衝撃曲げ・せん断試験片に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める(第3A−2ステップ:3A−2)。ここで、入力エネルギー10を低く抑えるため、試験片寸法(直径、スパン)の調整も可である。
【0012】
次に、前述のように算出した前記入力エネルギー10での試験をN種の候補材料2全て(基準材料3およびN−1種の他材料)について実施(第3B−1ステップ:3B−1)し、応力と靱性(試験片4の変形量やき裂深さ
及びき裂(すなわち、き裂深さ・数量のことである)数
量)の関係データを計測する。
図2に示されているように、基準材料3の実機試験結果(第3A−1cステップ:103A−1c)と衝撃曲げ・せん断試験結果(第3B−2bステップ:103B−2b)を比較し、発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析(第3C−1ステップ:3C−1)を行い、N−1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する(第3C−2ステップ:3C−2)。
前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に
前記基礎試験データも考慮して、各材料の実機での寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行い(第3C−3ステップ:3C−3及び第3C−4ステップ:3C−4)、より安全性の高い材料を選定する(第4ステップ:104)。なお、自動車の衝突のように1回の衝撃による破壊が問題になる場合は、き裂進展計算
の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対す
る寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対す
る寿命の相対評価を行う。
以上の方法を実施することで、コストと期間がかかる実機試験を節約することができる。
【0013】
前述の
図2の材料選定フローにおいて用いられる
図3及び
図4の衝撃曲げ・せん断試験を行うための試験装置20においては、衝撃荷重の入力は例えば落錘21を用い、入力エネルギーは落錘質量と落錘速度(落下高さにより、必要であればばね・圧縮ガス・リニアモーター等で増速)で調整する。小型の丸棒試験片の片側を固定し、他方に衝撃荷重を負荷して、固体端付近に衝撃曲げ・せん断応力を発生させる。発生する衝撃曲げ応力の取得は、試験片固定端にひずみゲージ40を貼付し、得られたひずみの時系列データから、動的応力−ひずみ関係を用いて算出する。衝撃せん断応力は、例えば周知の初等はり理論(Bernoulli−Euler はり理論)による式(1)などにより曲げ応力から算出する。
【0014】
尚、前記試験装置20は、
図3、
図4、
図5及び
図6に示される通りであり、基盤23上には複数の支柱24,25が植立して設けられ、その中、中央に位置する一組の支柱25はガイドとして用いられると共に、前記落錘21又は図示しないばね・圧縮ガス・リニアモーター等で加速した衝突体からなる質量体22が落差28を利用して前記基盤23上の前記試験片4上に落下するように構成されている。
【0015】
前記小型試験片4は、前記基盤23上に設けられた試験片ホルダ30上の位置決め兼被衝突金具33により位置決めされた荷重伝播金具31の凹部32内に配設されており、前記位置決め兼被衝突金具33上に前記質量体22が上方から落下して衝突するように構成されている。
前記試験片4の固定端側端部または前記試験片ホルダ30には加速度センサ41が設けられ、前記試験片ホルダ30に隣接する位置には、変位センサ42が設けられ、前記質量体22が前記位置決め兼被衝突金具33に衝突する際の変位の時間変化(=速度)、および試験片4の固定端側端部または試験片ホルダ30に発生する応力波による加速度を検出することができるように構成されている。
【0016】
次に、本発明による衝撃曲げ・せん断試験装置20の一実施例について説明する。
図3に示すように、簡単に衝撃荷重を発生させるため落錘21を用いる。また落錘21の跳ね返り方向を鉛直上方向として試験装置20のバランスを保つため、小型試験片4は
図5のように軸4Aで対称な2本1組の1対の丸棒の小型試験片4(片持ちはり)とし、落錘21により両試験片4に伝播する衝撃荷重も軸4Aで対称とするため、荷重伝播金具31および位置決め兼被衝突金具33を用いる。
曲げ応力の計測は、小型試験片4の固定端に貼付したひずみゲージ40のひずみデータと、動的応力−ひずみ関係より算出することができる。実際に試験で得られた衝撃曲げ応力43の例を
図7に示す。この曲げ応力43と式(1)などにより衝撃せん断応力44も算出することができる。
【0017】
【数1】
【0018】
すなわち、
図7に示されるように、一対の前記小型試験片4に対して落錘21を落下・衝突させた時の各試験片4の下面における圧縮側の応力である衝撃曲げ応力43のピーク値が1000〜2000μsec後に2000〜3000MPaとなり、衝撃せん断応力44は塑性変形の影響も考慮して100MPa程度である。
【0019】
また、
図8から
図10で示されるように、荷重伝播金具31を入替て荷重作用距離(スパン)Lを変えて試験を実施することで、せん断応力44と曲げ応力43のデータを分離することができる。すなわち
図11のように、横軸をスパンL、縦軸を靱性データとしてある材料の初期き裂深さaをグラフで描くと、グラフが縦軸(スパン=ゼロ)と交差する点がせん断応力のみによる靱性データとなる。
【0020】
前述の試験装置20を用いて試験を行う場合、前記落錘ガイドとしての各支柱25の摩擦や空気抵抗等により必ず速度ロスが発生するため、変位センサ42により落錘変位の時系列データを取得しその時間勾配より衝突速度を算出し、正確な入力エネルギーを把握すると共に、
図2のフローの差異分析(第3C−1ステップ:3C−1)の参考とする。試験片4の固定端側端部または試験片ホルダ30に加速度センサ41を貼付し得られた加速度の時系列波形をFFT(高速フーリエ変換)分析することで、計測した曲げ応力の応力波の影響を把握することができる。また、表1に実際に試験で取得した鋼種1〜5の靱性データの一例として各材料の初期き裂深さを示し、
図12に寿命予測の一例として表1の初期き裂深さデータと基礎試験の疲労き裂進展データより算出したき裂進展計算結果を示した。
【0021】
【表1】
【0022】
すなわち、表1に示す初期き裂深さを有する鋼種1〜5に対して、実機に相当する繰返し衝撃荷重を作用させた場合における、繰返し数とき裂深さとの関係(計算結果)を示すと、
図12の通りであり、鋼種によって寿命が異なることを容易に予測できることが明らかである。
【0023】
尚、本発明の要旨をまとめると次の通りである。
衝撃曲げ・せん断試験で模擬すべき実機の発生応力を把握するため、候補材料1の中から
引張、硬さ、シャルピー衝撃、破壊靱性、疲労き裂進展の各試験による基礎試験データを得るため実機試験の前に行う基礎試験でN種の候補材料2に絞込み、その中の1種を基準材料3に決め、その基準材料3に対して実機試験を実施する第1工程と、前記応力と同レベルの応力を、
前記実機より小型の衝撃曲げ・せん断の
棒状の小型試験片4に発生させるために必要なエネルギー(衝突体の質量・速度)を計算で求める第2工程と、算出した入力エネルギーでの試験をN種の候補材料2全て(基準材料3およびN−1種の他材料)について実施し、応力と靱性(
前記試験片の変形量やき裂深さ・数
量)の関係データを計測する第3工程と、前記基準材料3の実機試験結果と衝撃曲げ・せん断試験結果を比較し発生応力と靱性の関係データに差異が生じた場合は差異分析を行い、N-1種の他材料の実機相当の発生応力と靱性の関係データを推定(補正)する第4工程と、前述の実機相当の発生応力と靱性の関係データの他に
前記基礎試験データも
用いて、各材料(N種の候補材料2)の寿命予測計算を実施し、繰返し衝撃荷重に対する寿命の相対評価を行う、又は、1回の衝撃による破壊の場合は、き裂進展計算
の寿命計算ではなく、繰返し衝撃回数1回に対す
る寿命に関する計算を行い、1回の衝撃に対す
る寿命の相対評価を行う第5工程と、よりなり、前述の相対評価から材料選定を行うことであり、また前記衝撃曲げ・せん断試験は、落錘21又はばね・圧縮ガス・リニアモーター等で加速した衝突体からなる質量体22を用いる試験装置20で行われることであり、また、前記試験装置20は、前記質量体22を上方から下方へ移動させるため前記質量体22を支持するための複数の支柱24、25と、前記各支柱24、25を保持するための基盤23と、前記基盤23に設けられ前記試験片4を保持すると共に荷重伝播金具31および位置決め兼被衝突金具33を有する試験片ホルダ30とからなり、前記質量体22が前記位置決め兼被衝突金具33に衝突することにより前記試験片4に衝撃が加わるようにすることである。