(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超吸収性の材料が分布されて収容されている繊維不織布を基礎とする吸収/洗浄体(4)及び創傷被覆材の外側の可視面を形成するカバー(6)を含む創傷被覆材であって、前記吸収/洗浄体(4)には、製造元において、塩含有の水溶液が加えられており、前記吸収/洗浄体(4)の創傷に面する側とは反対側に蒸発を防止するシート層(14)が備えられている湿潤又は濡れた環境での創傷治療用の創傷被覆材(2)において、前記水溶液が4〜7.5のpH値で典型的に湿潤又は濡れた創傷環境で、抗菌作用を有するカチオン性の物質を含み、前記物質は、アニオン性の前記超吸収性の材料の陰性基により引き寄せられて、前記吸収/洗浄体(4)の内部で抗菌性に作用し、前記物質は、前記吸収/洗浄体(4)内に残留し、実質的に創傷に到達せず、かつ前記カバー(6)の創傷に面する側で、外側に部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性の、70%以下の被覆率を有するコーティング(16)を含むことを特徴とする、創傷被覆材。
前記カバー(6)は創傷に面する側とは反対側に、外側防水性シート層(14)を備えた不織布材料(12)を有し、前記シート層(14)は蒸発を防止するシート層を形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の創傷被覆材。
【発明を実施するための形態】
【0008】
今まで、抗菌作用を有する物質は、創傷被覆材の吸収/洗浄体中には使用されていなかった、それというのも、この創傷は本質的にこの種の物質なしで保持するのが望ましいか、又は創傷中に防腐剤を添加すると意識されていたためであった。しかしながら、本発明によって、作動状態において、抗菌作用を有するカチオン性の物質は、典型的な超吸収性の材料の陰性基によって結合及び保持され、この抗菌作用を有するカチオン性物質は、湿った又は濡れた創傷環境で本発明による創傷被覆材の吸収/洗浄体の液体交換動作においても吸収/洗浄体内に十分に残留し、創傷に到達しないか又はわずかに到達するだけであることが判明した。従って、適用のために24時間を越える吸収/洗浄体の傑出したコンディショニングを実現することもでき、このことがまた創傷環境のコンディショニングに好ましい影響を及ぼす、それというのも、吸収/洗浄体の動作時の液体交換において液体は抗菌性に最適にコンディショニングされた吸収/洗浄体から創傷に達するが、本質的にこの場合に敗血症に作用する物質又は病原菌は創傷には戻らないためである。つまり、再汚染は十分に抑制される。
【0009】
この創傷に面する側に部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性のコーティングによって、意外にもコーティングされていない領域を介して良好な液体交換が達成される、それというのも、非外傷性のコーティング領域におけるスペーサ機能に基づいて、接する非外傷性のコーティング領域によって創傷被覆材のカバーと創傷組織との間での平面的で連続的な付着が抑制されるためである。このことは、全体としてより良好な液体交換を導き、この液体交換は、また、吸収/洗浄体の内部で抗菌作用を有するカチオン性の物質との相互作用で創傷治癒を促進する、それというのも、創傷分泌/浸出物は病原菌と共に、大部分吸収/洗浄体中に達することができ、そこで抗菌性に処理されるためである。部分的にかつ構造化されて設けられたコーティングの概念は、平面状に連続するコーティングを意味するものではなく、多孔性のコーティング、例えば点、島、線、ストライプ又はその他のまとまった又はまとまっていない構造により実現することができる多孔性のコーティングを意味する。
【0010】
好ましくは、上記のアニオン性の超吸収性の材料は、ポリマー、特に少なくとも部分的に架橋したポリマー、特にポリアクリレート系のポリマーである。他の実施態様によると、アニオン性の超吸収性の材料は、多糖類、例えばデンプン、又は多糖類誘導体、例えば国際公開第2008/037082号に記載されたようなカルボキシアルキル化された多糖類である。
【0011】
抗菌作用を有するカチオン性の物質は、例えば4〜7.5のpH値を有する溶液中でカチオン性に荷電して存在するアミノ基又はイミノ基を有する物質であり得る。更に、このカチオン性の物質は抗菌性に作用する金属カチオンであり得、特に、銀カチオン、例えば1−ビニル−2−ピロリドンと銀カチオンとの錯体であり得る。特に適した抗菌作用を有するカチオン性の物質は、ビグアニド誘導体、例えばクロロヘキシジン又はポリビグアニド、例えばポリエチレンビグアニド、(PEB)、ポリテトラメチレンビグアニド(PTMB)又はポリエチレンヘキサメチレンビグアニド(PEHMB)である。特に好ましいポリビグアニドは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB又はポリヘキサニド)である。更に適した抗菌作用を有するカチオン性の物質は、例えばポリグアニジン、例えばポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)、N−オクチル−1−[10−(4−オクチルイミノピリジン−1−イル)デシル]ピリジン−4−イミン(オクテネジン)、第4級アンモニウム化合物、例えば塩化ベンザルコニウム又は塩化セチルピリジニウム、トリアジン、例えば1−(3−クロロアリル)−3,5,7−トリアザ−1−アゾニアアダマンタン−クロリド又はアンモニウム化合物のタウロリジンである。
【0012】
乾燥した吸収/洗浄体の活性化のために使用される、この殺菌性に作用する添加剤の水溶液中での濃度は、好ましくは、0.06〜0.20重量%、特に0.08〜0.15重量%、特に0.10〜0.15重量%(吸収/洗浄体の活性化前の水溶液に対する)。
【0013】
すでに上述したように、抗菌作用を有する物質の選択により、この物質が超吸収性の材料との相互作用で、創傷被覆材の適用時に充分に又は更に充分に吸収/洗浄体内に留まることが達成される。この相互作用は、阻止領域試験(英語では:zone of Inhibition test)を用いて視覚的に試験又は検証することができる。後記する詳細に記載された阻止領域試験の実施の際に、試験体から殺菌力のある物質がかなりの量で浸出するか又はしないかを視覚的に試験することができる。上記殺菌力のある物質が浸出した場合、この物質はいわゆるコロニーの成長を、試験体の周辺部で阻害又は抑制し、試験体及びその周囲を検証して視覚的に確認することができる。このような周辺部、つまり阻止領域(又は英語で:zone of Inhibition)が確認されない場合、試験体からコロニー成長を著しい程度で阻害する物質が浸出されないことを意味する。本発明の主題の更なる充分な特性決定のために、この創傷被覆材は、更に、阻止領域試験の実施の際に、前記創傷被覆材からの抗菌作用を有するカチオン性の物質の浸出を視覚的に確認できないことを特徴とする。このことは、後記する試験の実施の際に阻止領域が視覚的に確認できないことを意味する。
【0015】
この阻止領域試験の実施のために、ここに述べられている種類の創傷被覆材を試験体として予め準備した寒天プレートの上に載置する。このために8.5cmの直径を有する、カゼインペプトン−大豆ペプトン寒天をそれぞれ15ml含有する寒天プレートを使用する(カゼインペプトン−大豆ペプトンの濃度:40g/l)。この寒天プレート上に黄色ブドウ球菌(ATCC 6538)の病原菌懸濁液100μl(約5×10
6個のコロニー形成する単位/ml)を綿棒で塗りつけ、10〜15分間乾燥させた。密閉されたカバーの下でこの病原菌懸濁液が乾燥した後に、滅菌され、室温に冷却された試験体を、試験されるべき創傷被覆材の形で、創傷に面する側を上記寒天プレートに載置した(
図1中の符号8)。このプレートを、次に35℃で18時間保持してインキュベーションした。その後で、この寒天プレートにおいて、阻止領域の形成を視覚的に調査した。この阻止領域は、一般に、ミリメートル単位で式H=(D−d):2により計算され、この場合、Dは試験体及び阻止領域のミリメートルで表す全体の直径であり、dは試験体のミリメートルで表す直径である。阻止領域が試験体の周囲を取り囲むように視覚的に確認されない限り(D=d及びH=0)、試験体からの場合による物質の浸出及び阻止領域試験によるそのコロニー成長に関する作用は確認できない。
【0016】
吸収/洗浄体の組成は、好ましくは次のものを有することができる:120〜170g/m
2の量の上記の種類の超吸収性の材料、120〜170g/m
2の量のセルロース繊維及び5〜18g/m
2の量の特別な熱可塑性繊維。更に、片側又は両側に組織層が設けられていてもよい。この吸収/洗浄体は、前記組成(及び更に塩含有の水溶液)からなってもよい。
【0017】
できる限り長期間の交換期間に関して、吸収/洗浄体中に十分に液体は、この全体の使用期間にわたって、つまり次の被覆材交換まで提供され、それによりこの吸収/洗浄体の導入部に記載した二重の機能が実際に有効となることが重要であることが判明した。このために、創傷被覆材の使用の間の液体の蒸発は許容できる範囲に保たなければならない。この点に関して、このカバーが、創傷に面する側とは反対側に、蒸発を抑制する作用を有する、外側に貼り合わせたシート層を備えた不織布材料を有する場合が好ましいことが判明した。それにより、カバーにおいて吸収/洗浄体の創傷に面する側とは反対側に配置又は挿入された洗浄保護シートを有する公知の創傷被覆材と比較して、蒸発が著しく低減可能であることが判明した。
【0018】
上記不織布材料は、好ましくは、ポリオレフィン不織布、特にポリプロピレン不織布である。
【0019】
しかしながら、創傷被覆材の創傷に面する側のカバー、基本的に創傷被覆材の創傷に面する側とは反対側のカバーも、好ましくは、特にポリオレフィン、特にポリプロピレンからなる平面状の繊維材料、例えばかぎ針編物、編物又は布であり得る。何れの場合にも、創傷に面する側での、平面状の繊維材料の形で、特にかぎ針編物、編物又は布の形でのカバーの使用は、上記液体交換の点で、つまり吸収/洗浄体の二重の機能の点で好ましい。
【0020】
部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性のコーティングの上述の好ましい観点、つまり創傷組織との接着を抑えること及び所定のスペーサ機能を生じさせることは、特にシリコーンコーティングによって良好に達成される。無傷性のコーティングがシリコーンの形で、上述されたような平面状の繊維材料に設けられる場合に、柔軟性、しなやかさ及び有効性に関して特に好ましい被覆材となる。
【0021】
更に、この部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性のコーティングの被覆率が、創傷に面する側のカバーの面積の40〜70%、特に40〜60%、更に特に40〜55%、特に40〜50%であるのが有利であることが判明した。
【0022】
上記カバーの外側平面からZ軸方向への前記コーティングの突出は、有利には0.03〜0.5mm、特に0.1〜0.4mm、0.1〜0.3mm、特に0.1〜0.2mmである。
【0023】
この部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性のコーティングは、好ましくは、少なくとも1つの平面方向に4mm以下、特に3mm以下、更に特に1〜3mm、特に2〜3mmの寸法を有する。
【0024】
相互に隣り合ってコーティングされた表面領域の間隔は、好ましくは少なくとも1mm及び5mm以下である。
【0025】
繊維不織布を基礎とする吸収/洗浄体の形成の点で、セルロース繊維、好ましくはエアレイドされたセルロース繊維、又は好ましくはセルロース繊維と熱可塑性繊維、特にポリオレフィン繊維、特にポリプロピレン繊維又はポリプロピレン/ポリエチレン繊維からなるエアレイドされた混合物を使用し、上記繊維が好ましくは吸収/洗浄体の全体の繊維ベースを形成する場合が好ましいことが判明した。このような繊維混合物の熱可塑性繊維の割合は、セルロース繊維の割合の約5〜10%であるのが好ましい。
【0026】
蒸発速度は、この被覆材の模擬適用後24時間〜72時間の間における単位面積、<0.020g/24h・cm
2、特に<0.017g/24h・cm
2、特に<0.015g/24h・cm
2、特に<0.012g/24h・cm
2であることが特に好ましいことが判明した。このために、次の試験法を用いた。
【0028】
この蒸発速度を測定するために、まず水蒸気を通さないように包装された創傷被覆材20(
図2)をその外部包装から取り出す。この創傷被覆材は、超吸収性の材料を有する繊維不織布、特にEvonik Stockhausen GmbH社のFavor pac 300及び典型的なセルロース繊維及び場合により更に熱可塑性繊維を基礎とする吸収/洗浄体を有する。水蒸気を通さない包装の前に、この創傷被覆材20を、塩含有の水溶液、特にリンガー液で活性化した。次いで、この創傷被覆材20の創傷に面する側(
図1中の符号8)を、水蒸気透過性の包装シート22上に載せ(
図2参照)、取り囲む周辺領域24をシート26で包み、上記基材に固定した(創傷被覆材の模擬適用)。このために、シート26(例えば市販品のOpsite flexifix)をこの創傷被覆材20を覆うように広げ、
図2に示されているように、この包み込み用シート26の中央に開口28を切り開け、この創傷被覆材20の表面30の大部分を周囲環境に露出させ、取り囲む周辺領域24はこのカバーシート26により5mmの幅だけで覆われている。従って、この創傷被覆材20の本体とは反対側の大部分は周囲環境に対して開放されているため、この吸収/洗浄体中に吸収された液体はこの面積を介して蒸発することができる。この該当する試料は、23℃で50%の相対湿度で貯蔵され、規定された時点、つまりt=0h、t=24h、t=48h及びt=72hで計量した。重量差を観察することにより、次いでg/24h又はg/24h・cm
2で蒸発速度を表すことができる。後者の蒸発速度の大きさは、蒸発される面積の単位面積に関する単位面積の蒸発速度である。
【0029】
更に、前記創傷被覆材の模擬適用後最初の24時間における単位面積の蒸発が、液体<0.050g/24h・cm
2、特に液体<0.037g/24h・cm
2、特に液体<0.025g/24h・cm
2である場合が好ましいことが判明した。
【0030】
本発明の更なる特徴、詳細及び利点は、特許請求の範囲及び描写された図面及び本発明の好ましい実施態様の次の記載から明らかにされる。
【0031】
図1は、創傷被覆材2の断面図を示す。上記創傷被覆材2は、繊維不織布を基礎とした吸収/洗浄体4を有する。この繊維基体は、エアレイドされたセルロース繊維(パルプ)とポリプロピレン繊維又はポリプロピレン/ポリエチレン繊維との好ましい混合物である。この繊維混合物では、超吸収性のポリマー材料(SAP)を粒子状で、又は繊維状で、できる限り均質に混合しており、この吸収/洗浄体の全質量に対するSAP割合は、好ましくは40〜50重量%である。SAP粒子の平均粒径は、例えば150〜850μmである(例えばエボニックストックハウゼン社(Evonik Stockhausen GmbH)の商品Favor pac 300のポリアクリレート)。
【0032】
吸収/洗浄体4は創傷被覆材の外側を形成するカバー6に囲まれ、このカバー6は創傷に面する側の被覆層8及び創傷とは反対側の被覆層10から形成されていて、これらの被覆層8,10は縁部で相互に接合されている。創傷に面する側の被覆層8は、好ましくは、かぎ針編物、好ましくはポリプロピレンからなるかぎ針編物であるが、布又は編物も好ましくは考慮され、繊維結合を有する糸又はフィラメントからなる被覆層も考慮され、これらの被覆層は吸収/洗浄体4と創傷環境との間で良好な液体交換を行う。
【0033】
創傷とは反対側の被覆層10は、平面状複合材又はラミネートから、詳細には不織布12と、好ましくはポリプロピレンからなる不織布12及びその上を覆う病原菌を通さずかつ防水であるシート14とから形成され、前記シート14は前記不織布12の全平面を覆うように延在し、かつ創傷とは反対側に、実質的に改善された蒸発保護を形成する。
【0034】
創傷に面する側の被覆層8の創傷に面する外側には、部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性のコーティング16が備えられている。前記コーティングは、好ましくはシリコーンコーティングであり、このコーティングは多孔性でかつ、例示のケースでは、多数の比較的薄いストライプ又はライン又は島状の領域により形成されていて、これらの領域はコーティングされていない領域によって相互に隔てられている。このコーティングされていない領域において、上記創傷に面する側の被覆層8は、創傷に向かって露出している。これに関して、無傷性のコーティング16は、この明細書の導入部に記載された寸法サイズの突出部を形成し、それにより一方では被覆層8が創傷組織に貼り付くことを防ぐことができ、他方では創傷に面する側の被覆層と創傷組織との間の所定のわずかな間隔を保持することができ、それによりこの多孔性の被覆層材料は、三次元的に開放されたままであり、この創傷被覆材の使用期間にわたって双方向の液体通過のための低い抵抗を提供又は維持する。
【0035】
この創傷被覆材2は周囲方向に延在する縁部をさらに含み、この縁部は、この縁部において相互に接合された両方の被覆層8,10により形成されている。この創傷被覆材は、しかしながら、その縁部が十分に無視できる程度に型抜きよって除かれている。
【0036】
上述の無傷性のコーティング16は、被覆層の無端平面状材料の形ではなく、最終的な接合工程の後に初めて、特に創傷被覆材製品の個別化の後に初めて設けられる、つまり吸収/洗浄体4が創傷に面する側の被覆層8及び創傷とは反対側の被覆層10の間にこれらの被覆層8,10の接合によって相互に固定された後に、設けられる。こうして製造された製品構造又はすでに個別化された製品型抜き加工物に、次いでコーティング材料、好ましくは1成分シリコーンを、ディスペンサー装置から上述のように部分的にかつ構造化して適用する。このために精密に開口する針状の供給ノズルを備えた供給装置が使用され、前記供給ノズルは制御された開放及び閉鎖する弁を有している。この供給装置は、X方向及びY方向に、好ましくはZ軸方向にも、プログラミングにより制御されて走行可能である。このように、部分的にかつ構造化された塗布、特にコーティングされた表面領域の寸法及び突出部について導入部に記載されたパラメータを有する部分的にかつ構造化された塗布を達成することができる。
【0037】
その後に初めて、本発明による創傷被覆材の吸収/洗浄体4に、塩含有の水溶液、特にリンガー溶液が、好ましくは飽和するまで加えられる。この塩含有の溶液に抗菌作用を有する物質が添加されていて、この物質は湿った又は濡れた創傷環境において、pH4〜7.5の弱酸性〜中性の範囲内で、カチオン性で存在する。この抗菌作用を有するカチオン性の物質は、アニオン性の超吸収性の材料の陰性基によって、上記物質が吸収/洗浄体4の液体交換の動作時でも超吸収性の材料に結合したままである、つまり創傷環境中へ更に放出されることはない。これにより、創傷分泌物によって吸収/洗浄体4内へ導入された病原菌は増殖が抑制され、それにより、創傷方向への逆混入も十分に抑制される。微生物による逆混入は72時間にわたって十分に抑制できることが確認され、これは抗菌性に作用する物質が、そのカチオン性の状態に基づいて超吸収性の材料と結合して上記吸収/洗浄体4の内部に均質に分布されたままであることに起因する。
【0038】
創傷被覆材2の例示された好ましい構成において、吸収/洗浄体4の繊維不織布基体は、セルロース繊維(パルプ)127g/m
2、結合剤繊維としてポリプロピレン/ポリエチレン繊維(特にシュバルツバルダー(Schwartswalder)社のE−505/FV)8g/m
2からなる。この繊維混合物には、上述の超吸収性ポリマー材料(SAP)127g/m
2が均質に混入されている。
吸収/洗浄体4を形成する、こうして得られた混合物(繊維不織布基体+SAP)は、セルロース性の組織層、特に例えば18g/m
2の単位面積重量のセルロース性の組織層によって両側を取り囲むことができる(Swedish Tissue AB社のDiaper Tissue 1800)(図中に示されていない)が、これは必ず必要であるわけではない。この創傷被覆材は、例えば例示的には直径5.5cmの吸収/洗浄体4の例示的寸法(この寸法は創傷被覆材2の寸法にほぼ一致する)を有する円形に構成することができる。この創傷被覆材2は最終的にリンガー溶液13.6mlで活性化され、これは今回の場合、液体による吸収/洗浄体の飽和に実質的に一致した。上記のカバー6は上述されたように形成される。− この種の創傷被覆材は、模擬適用後最初の24時間における蒸発速度は、0.19g/24hであった。ここで、好ましい上限は0.8g/24h、特に0.6g/24h、特に0.4g/24hである。− 続く24時間〜72時間の間における、蒸発速度は0.16g/24hであった。ここで、好ましい上限は0.3g/24h、特に0.2g/24hである。
【0040】
創傷面との強すぎる付着又は接着は引き剥がしの際に痛みを生じ、更には創傷面の新たな損傷を引き起こすため、被覆材交換の際の創傷からの創傷被覆材の引き剥がし又は取り除きは、極めて重要な特性であることがすでに指摘されている。後記する分離力測定は、創傷面と接着する傾向を測定するために用いられ、従って創傷から創傷被覆材の引き剥がし特性又は取り除き特性についての評価が可能となる。
【0041】
引き剥がし特性及び取り除き特性についての尺度として、繊維基材とゼラチンとの間の分離力の測定が用いられる。この繊維基材は、創傷に接する創傷被覆材の繊維表面層であり、このゼラチンは創傷媒体又は皮膚表面を模擬している。
【0042】
20%のゼラチン水溶液を製造し(ゼラチンを溶解させるために60℃で約1.5時間保持する);それから約100mlをペトリ皿(12cm×12cmの寸法を有する)に注ぎ込む。30分間冷却した後に、試験されるべき試料(2.5cm×10cmのサイズ)を上記ペトリ皿中のゼラチン上にそれぞれ載置し、重し(20mm×90mm、4.2g)を載せる。引き続き、このゼラチンプレートを36℃及び50%の相対湿度で3時間の保温を行う。力を測定する前に、このゼラチンプレートを23℃で50%の相対湿度で1時間温度調節する。
【0043】
分離力の測定のために、ゼラチン床からそれぞれの試料端部を軽く引き剥がし接着テープで延長する。ペトリ皿及び接着テープの端部を、引張試験機のホルダー中に取り付け、次いで分離力を測定する。それぞれのゼラチンプレート/ペトリ皿を水平に配置しながら、引張試験機の引っ張りをほぼ垂直方向に行う。この測定手順を介して平均分離力を評価する。
【0044】
図3は、次の試料に関する測定結果を示す。この分離力は、一方で、表面の40%までシリコーンで被覆されたポリプロピレンかぎ針編物について測定した。このシリコーンは点状に塗布した。
【0045】
コーティングされていないポリプロピレンかぎ針編物及び包帯ガーゼを比較試料として使用した。
【0046】
従って、シリコーンでコーティングされたポリプロピレンかぎ針編物は、包帯ガーゼ又はコーティングされていないポリプロピレン編物よりも、創傷に面する側の吸収/洗浄体のカバーとして適していることが認識される。
【0048】
出願人は、本発明による創傷被覆材について臨床的な適用観察(AWB)を実施した。この創傷被覆材は、被覆層8の創傷に面する側の40%の被覆率を有する点状に構造化して塗布されたシリコーンの形の、無傷性のコーティングを備えた、上述の構成を有していた。吸収/洗浄体4の塩含有の水溶液は、除菌作用を有するカチオン性物質としてPHMBを0.1重量%有するリンガー液であった。
【0049】
この適用観察は、この創傷被覆材の最初の適用を伴う導入試験Eから、この創傷被覆材の交換を伴う終了試験までの期間を含んでいた。この間の期間において、2回の更なる被覆材の交換が実施された。
【0050】
この導入試験は66人の患者で実施した。患者1人あたり、互いに連続する3回の被覆材の交換の計画がなされた。3人の患者は最初の被覆材交換の時点でもはやこの適用観察を行わなかった。4人の患者は2回目の被覆材交換の時点でもはやこの適用観察を行わなかった。終了試験は59人の患者について行った。しかしながら、可能であれば、製品評価を得て、これを評価に含めることを試みた。よって、最終的な製品評価のために、63人の患者のデータが提供された。
【0051】
患者の50%(33人)が、それぞれ男又は女であった。
【0052】
患者の平均年齢は約75才であった。これらの患者の平均体重は約77kg、最低体重は43.5kg、最大体重は122.0kg、中央値は78kgであった。平均身長は1.69m、最小身長は1.48m、最大身長は1.92m、中央値は1.68mであった。
【0053】
創傷の原因は次のような分布であった:
【0054】
【表1】
これらの創傷は、治療開始時に、平均して5.26±3.08cmの長さ(最小0.5cm、最大16.0cm、中央値5.0cm)及び3.94±2.08cmの幅(最小0.3cm、最大10.0cm、中央値4.0cm)であった。1つの事例において創傷の大きさの記載はなかった。
【0055】
58の創傷において、更に創傷の深さについての記載があった。平均した創傷深さは、0.93±0.1cm(最小深さ0.1cm、最大深さ5.5cm、中央値0.5cm)であった。
【0056】
残りの創傷は、表面的な創傷であった。
【0057】
このAWBの開始時に、この創傷は平均して1.3±3.5年(最小0日、最大20.0年、中央値4.0ヶ月)であった。7人の患者は、創傷の年数の記載がなかった。
【0058】
6つの創傷(9.1%)は浸出がなく、19の創傷(28.8%)は浸出が少なく、28の創傷(42.4%)は中程度の浸出があり、12の創傷(18.2%)は著しい浸出があり、1つの創傷(1.5%)は極めて著しい浸出があった。
【0059】
12の創傷(18.2%)は、適用観察の開始時に感染の兆候を示している。
【0060】
被覆材交換までの期間:次の表中に、被覆材交換の間の期間並びに適用観察の全時間を日数で列挙した。この場合、記録された被覆材交換の間の期間に基づいて、連続して被覆材交換が行われていないことがかなりの確かさでわかる患者は考慮しなかった。
【0062】
E=導入試験、VW=被覆材交換、A=終了試験
【0063】
*E〜A全体:ここでは、AWBを最初の又は2回目の被覆材交換の後にすでに早期に完了した患者も含めた。
**E〜A 3VW:ここでは、AWBを3回目の被覆材交換後に計画通りに完了した患者だけを考慮した。
【0065】
次の表中に、被覆材交換時に痛みを伴う患者の数が示されている。
【0067】
導入試験の時点と終了試験の時点との間の被覆材交換において痛みの感覚の明らかな改善が見られ、この改善は使用した創傷被覆材の創傷からの本発明により改善された引き剥がし特性/取り除き特性に起因し、それ自体創傷被覆材の成分の相互作用に起因し、全体として創傷治癒に有利に支援する。
【0069】
この創傷被覆材は、この場合の95.3%において、創傷から「極めて良好」(48.4%)又は「良好」(46.9%)に除去される。この取り除き特性の課題は極めて重要であり、かつこれは場合により創傷クッションの装着期間にも影響を及ぼすため、この取り除き特性をその全ての個々の被覆材交換の後でも調査した。この場合、この創傷クッションの取り除きの際に問題は全く生じなかった。しかしながら、この創傷クッションは長期の装着時間(1、2又は3日)の場合にしばしば創傷に軽度に付着(3.8%−9.1%−17.5%)することが観察された。それでも、この創傷クッションは常に問題なく取り除くことができた。3日の装着時間の後でも、この場合の82.5%は付着が観察されなかった。
【0070】
この結果から、この創傷被覆材が3日間の装着時間の後でも創傷に接着しないと結論づけられる。
【0072】
63の事例のうちの54(85.7%)において、この創傷クッションは被覆材交換の際でもなお最適な湿り気を有していた。6つの事例(9.5%)において、この創傷クッションは、使用者が期待していた程度に十分に湿り気を有していた。3つの事例(4.8%)では、使用者がもはや最適であるとは思わない湿潤性を有するが、明らかに乾燥しすぎの創傷クッションは観察されなかった。
【0074】
この点について情報が存在する63の創傷の内の7の事例(11.1%)が、終了評価の時点で創傷感染の兆候を示す。
【0076】
ドレープ適性とは、創傷被覆材と創傷面との適合性であると解釈され、特に創傷被覆材の剥がれが特に抑制される。使用した創傷被覆材のドレープ適性は、AWBの開始時に、14の事例が極めて良好(21.2%)、44の事例が良好(66.7%)、7の事例が満足できる(10.1%)、1の事例が十分(1.5%)と評価され、不十分と評価されたものはなかった。
【0078】
62人の患者において、調査開始と比較した創傷の評価があった。これは次の事実を導いた。
【0081】
AWBにおいて、この創傷被覆材の総合的印象は、全ての事例の87.3%において「極めて良好」又は「良好」の評価であった。この好ましい印象は、新たな製品に関してなされた期待が、この場合の87.5%で「期待以上」、「満たされた」又は「十分に満たされた」であったことからも確認された。
<付記>
<項1> 超吸収性の材料が分布されて収容されている繊維不織布を基礎とする吸収/洗浄体(4)及び創傷被覆材の外側の可視面を形成するカバー(6)を含む創傷被覆材であって、前記吸収/洗浄体(4)には、製造元において、塩含有の水溶液、特にリンガー液が、好ましくは飽和するまで加えられており、前記吸収/洗浄体(4)の創傷に面する側とは反対側に蒸発を防止するシート層(14)が備えられている湿潤又は濡れた環境での創傷治療用の創傷被覆材(2)において、前記水溶液が4〜7.5のpH値で典型的に湿潤又は濡れた創傷環境で、抗菌作用を有するカチオン性の物質を含み、前記物質は、前記アニオン性の超吸収性の材料の陰性基により引き寄せられて、前記吸収/洗浄体(4)の内部で抗菌性に作用し、かつ前記カバー(6)の創傷に面する側で、外側に部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性の、70%以下の被覆率を有するコーティング(16)を含むことを特徴とする、創傷被覆材。
<項2> 前記抗菌作用を有するカチオン性の物質が、ビグアニド、特にポリヘキサメチレンビグアニド及びその誘導体を含むことを特徴とする、<項1>に記載の創傷被覆材。
<項3> 前記抗菌作用を有するカチオン性の物質の前記水溶液中の濃度が、0.06〜0.20重量%、特に0.08〜0.15重量%、特に0.10〜0.15重量%であることを特徴とする、<項1>又は<項2>に記載の創傷被覆材。
<項4> 阻止円試験の実施の際に、前記創傷被覆材からの前記抗菌作用を有するカチオン性物質の浸出が視覚的に確認できないことを特徴とする、<項1>、<項2>又は<項3>に記載の創傷被覆材。
<項5> 前記カバー(6)は創傷に面する側とは反対側に、外側防水性シート層(14)を備えた不織布材料(12)を有し、前記シート層(14)は蒸発を防止するシート層を形成することを特徴とする、前記項の1項以上に記載の創傷被覆材。
<項6> 前記不織布材料(12)は、ポリオレフィン不織布、特にポリプロピレン不織布であることを特徴とする、<項5>記載の創傷被覆材。
<項7> 前記創傷被覆材の創傷に面する側及び/又は創傷に面する側とは反対側の前記カバー(6)が、特にポリオレフィン、特にポリプロピレンからなる平面状の繊維材料、特にかぎ針編物、編物又は布から形成されていることを特徴とする、前記項の一つ以上に記載の創傷被覆材。
<項8> 部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性の前記コーティング(16)がシリコーンコーティングであることを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項9> 部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性の前記コーティング(16)の被覆率は、40〜70%、特に40〜60%、特に40〜55重量%、特に40〜50%であることを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項10> 部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性の前記コーティング(16)は、前記カバー(6)の外側の平面上に、0.03〜0.5mm、特に0.1〜0.4mm、特に0.1〜0.3mm、特に0.1〜0.2mmの突出部(z方向)を形成することを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項11> 部分的にかつ構造化されて設けられた無傷性の前記コーティング(16)は、少なくとも1つの平面方向で、4mm以下、特に3mm以下、更に特に1〜3mm、特に2〜3mmの寸法を有することを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項12> 互いに隣り合うコーティングされた表面領域の間隔は、1mm以上、5mm以下であることを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項13> 繊維不織布を基礎とする吸収/洗浄体(4)はセルロース繊維、特にセルロース繊維と熱可塑性繊維、特にポリオレフィン繊維、特にポリプロピレン繊維又はポリプロピレン/ポリエチレン繊維、からなる混合物を含むことを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項14> 蒸発速度は、前記創傷被覆材の模擬適用後24時間〜72時間の間における単位面積、<0.020g/24h・cm2、特に<0.017g/24h・cm2、特に<0.015g/24h・cm2、特に<0.012g/24h・cm2であることを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項15> 前記創傷被覆材の模擬適用後最初の24時間における単位面積の蒸発は、液体<0.050g/24h・cm2、特に液体<0.037g/24h・cm2、特に液体<0.025g/24h・cm2であることを特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。
<項16> 前記創傷被覆材が、少なくとも1つの平面方向で2〜30cm、特に3〜20cm、特に3〜15cmの寸法を特徴とする、前記項の1つ以上に記載の創傷被覆材。