(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シャフトの長手方向に平行に連続ガラス繊維束が埋設された繊維強化樹脂製のシャフトであって、そのマトリックス樹脂が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)〜(D)成分を含有する樹脂組成物からなり、上記(B)成分が、粒子状でかつ連続ガラス繊維束を構成する連続ガラス繊維に沿って分布していることを特徴とする導電性シャフト。
(A)熱硬化性樹脂。
(B)カーボンブラック。
(C)塩基性官能基を有する分散剤。
(D)(A)成分の硬化剤。
上記熱硬化性樹脂(A)が、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の導電性シャフト。
上記樹脂組成物におけるカーボンブラック(B)の割合が、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し5〜15重量部の範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性シャフト。
上記樹脂組成物における分散剤(C)の割合が、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し5〜15重量部の範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性シャフト。
上記樹脂組成物が、さらに、熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有するが塩基性官能基を有しない分散剤を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性シャフト。
上記樹脂組成物が、さらに、熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有するが塩基性官能基を有しない分散剤を含有し、かつ、上記樹脂組成物における分散剤(C)の割合が、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し1.45〜3.78重量部の範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性シャフト。
上記導電性シャフトの表面に、さらに、金属めっき、金属粉またはグラファイトからなる導電コーティング層が形成されてなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性シャフト。
請求項1〜10のいずれか一項に記載の導電性シャフトの製法であって、連続ガラス繊維を束ねた状態で、下記の(A)を主成分とし下記の(B)〜(D)成分を含有する樹脂組成物の入った槽に引き込み、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を、所定の長さに切断することを特徴とする導電性シャフトの製法。
(A)熱硬化性樹脂。
(B)カーボンブラック。
(C)塩基性官能基を有する分散剤。
(D)(A)成分の硬化剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂製シャフトは、強度や剛性の点で問題があり、しかも金属性シャフトと比較して導電性が低く、電気ロスが大きいことから、導電性ロールの軸体としての実用に耐えないといった問題がある。また、樹脂製シャフトに導電性を付与する場合、通常、その材料である樹脂組成物にカーボンブラック等の導電性フィラーを添加して導電性を高くする手法が用いられるが、導電性を高めるためにその添加量を多くすると、樹脂組成物の粘度が増加して成形困難となるといった問題が生じる。特に、特許文献1に開示のシャフトのように射出成形によって製造する場合、カーボンブラックを多量に添加すると、射出成形が困難なほど樹脂組成物の粘度が極端に上昇することから、カーボンブラックの多量添加による導電性の発現は困難である。また、カーボンブラックは、導電性フィラーのなかでも安価なため、コストメリットが高いが、他の導電性フィラーと比較して粒子が小さく表面積が大きいことから凝集・再凝集が生じやすく、結果、導電性が発現しにくいといった問題もある。
【0008】
そこで、本発明者らは、補強材として、導電性を有する炭素繊維(CF)のみを用いた、繊維強化樹脂(FRP)製のシャフトを検討してみた。しかしながら、炭素繊維(CF)は非常にコストが高く、そのため、製品単価に大きく影響するといった問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、軽量で、強度が高く、導電性に優れ、しかも安価である、導電性シャフトおよびそれを用いたOA機器用導電性ロール、並びに導電性シャフトの製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、シャフトの長手方向に平行に連続ガラス繊維束が埋設された繊維強化樹脂製のシャフトであって、そのマトリックス樹脂が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)〜(D)成分を含有する樹脂組成物からなり、上記(B)成分が、粒子状でかつ連続ガラス繊維束を構成する連続ガラス繊維に沿って分布している導電性シャフトを第一の要旨とし、上記導電性シャフトを軸体とするOA機器用導電性ロールを第二の要旨とする。
(A)熱硬化性樹脂。
(B)カーボンブラック。
(C)塩基性官能基を有する分散剤。
(D)(A)成分の硬化剤。
【0011】
また、本発明は、上記導電性シャフトの製法であって、連続ガラス繊維を束ねた状態で、下記の(A)を主成分とし下記の(B)〜(D)成分を含有する樹脂組成物の入った
槽に引き込み、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を、所定の長さに切断する導電性シャフトの製法を第三の要旨とする。
(A)熱硬化性樹脂。
(B)カーボンブラック。
(C)塩基性官能基を有する分散剤。
(D)(A)成分の硬化剤。
【0012】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、シャフトを繊維強化樹脂製にし、その補強材となる繊維に、炭素繊維(CF)よりもコストメリットの高いガラス繊維(GF)からなる連続繊維束を用い、シャフトの長手方向に平行に連続ガラス繊維束が埋設されるようにし、かつ、導電性付与のため、そのマトリックス樹脂中にカーボンブラックを含有させることを検討した。しかしながら、カーボンブラックを用いた場合、先に述べたような成形性や導電性付与に関する問題を解決する必要がある。そこで、本発明者らが、さらに研究を重ね、マトリックス樹脂組成物を、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、塩基性官能基を有する分散剤(C)を含有するものとしたところ、上記分散剤(C)の塩基性官能基がカーボンブラック(B)の酸性官能基と相互作用し、カーボンブラック(B)の分散性が改善されて、カーボンブラック(B)が連続ガラス繊維束の間に入り込んで配列するようになることを突き止めた。これにより、カーボンブラック(B)が、粒子状でかつ連続ガラス繊維束を構成する連続ガラス繊維に沿って分布するようになり、少ないカーボンブラック量で組成物の粘度を上げずに電気パスルートをつくることができ、その結果、所期の目的が達成できる導電性シャフトが得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0013】
なお、上記のように少ないカーボンブラック量で電気パスルートをつくるには、従来のような射出成形では困難である。そこで、連続ガラス繊維を束ねた状態で、前記マトリックス樹脂組成物の入った
槽に引き込み、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を、所定の長さに切断するといった特殊な製法を適用したところ、上記の問題は解消され、先に述べたような特殊な導電性シャフトを良好に製造することができるようになることを、本発明者らは突き止めた。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の導電性シャフトは、シャフトの長手方向に平行に連続ガラス繊維束が埋設された繊維強化樹脂製のシャフトであって、そのマトリックス樹脂が、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、カーボンブラック(B)、特定の分散剤(C)および硬化剤(D)を含有する樹脂組成物からなり、上記カーボンブラック(B)が、粒子状でかつ連続ガラス繊維束を構成する連続ガラス繊維に沿って分布している。そのため、軽量で、強度が高く、導電性に優れ、しかも安価な導電性シャフトとすることができる。また、上記導電性シャフトを用いたOA機器用導電性ロールは、従来の金属製シャフトを用いたものと同様、優れたロール性能を発現するとともに、軽量化等の、上記導電性シャフトを用いたことによる作用効果を得ることができる。
【0015】
また、連続ガラス繊維を束ねた状態で、上記樹脂組成物の入った
槽に引き込み、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を、所定の長さに切断するといった特殊な製法により、少ないカーボンブラック量で電気パスルートをつくることができ、本発明の導電性シャフトを良好に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0018】
本発明の導電性シャフトは、先に述べたように、シャフトの長手方向に平行に連続ガラス繊維束が埋設された繊維強化樹脂製のシャフトであって、そのマトリックス樹脂が、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、カーボンブラック(B)、特定の分散剤(C)および硬化剤(D)を含有する樹脂組成物からなり、上記カーボンブラック(B)が、粒子状でかつ連続ガラス繊維束を構成する連続ガラス繊維に沿って分布している。ここで、上記樹脂組成物の「主成分」とは、その組成物全体の特性に大きな影響を与えるもののことであり、本発明においては、全体の50重量%以上を意味する。また、「上記カーボンブラック(B)が、粒子状でかつ連続ガラス繊維束を構成する連続ガラス繊維に沿って分布している。」とは、カーボンブラックの凝集がみられず、連続ガラス繊維に沿ってカーボンブラックによる電気パスルートができており、それによりシャフトの導電性が確保された状態を意味する。これを模式的に示すと、
図1に示すようになる。図において、1はシャフト、2はガラス繊維束、2aはそれを構成するガラス繊維、3はカーボンブラック、4はマトリックス樹脂である。このカーボンブラックの分布状態は、導電性シャフトの断面を電子顕微鏡観察することにより確認することが可能であるが、通常、上記マトリックス樹脂の材料である樹脂組成物中のカーボンブラックの配合割合が後記に示す範囲内で、かつその導電性シャフトの電気抵抗値が後記のように低い値を示すものであれば、カーボンブラックが上記のような分布状態となっているとみなすことができる。なお、
図2は、比較用の図であり、カーボンブラックが上記のような分布状態となっておらず凝集している様子を示すものである。
【0019】
本発明の導電性シャフトにおいて、ガラス繊維は、上記のように、強度や剛性の観点から連続繊維である必要があり、それが、上記のように束になっている。なお、以下の計算式(1)で求められる、本発明の導電性シャフトにおけるガラス繊維含有率(Vf値)は、好ましくは40〜70%であり、より好ましくは55〜65%である。すなわち、Vf値が少な過ぎると、成形収縮がひどく、表面平滑性のない製品となるおそれがあり、逆にVf値が多過ぎると、樹脂量が少なくなり、導電性が確保できなくなるおそれがあるからである。
【0021】
また、本発明の導電性シャフトにおいて、前記マトリックス樹脂の材料である樹脂組成物を構成する熱硬化性樹脂(A)としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、ガラス繊維との密着性の観点から、不飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
【0022】
上記熱硬化性樹脂(A)の硬化剤(D)としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂には、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエート、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物が用いられ、エポキシ樹脂には、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,3,3−トリメチル−1−m−ヒドロキシフェニルインダン−5−オール、1,3,3−トリメチル−1−m−ヒドロキシフェニルインダン−7−オール、1,3,3−トリメチル−1−p−ヒドロキシフェニルインダン−6−オール、レゾルシン、ハイドロキノン、カテコール、ナジク酸,マレイン酸,フタル酸,メチル−テトラヒドロフタル酸,メチルナジク酸等のポリカルボン酸とその無水物、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、フェニレンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ジアミノジシクロシクロヘキサン、ジクロロ−ジアミノジフェニルメタン(異性体を含む)、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のポリアミン化合物、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、エポキシ基と反応可能な活性水素含有化合物等が用いられ、フェノール樹脂には、ヘキサメチレンテトラミン、メチロールメラミンおよびメチロール尿素等が用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。上記樹脂組成物における硬化剤(D)の割合は、その硬化性の観点から、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは0.5〜15重量部の範囲であり、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。
【0023】
上記熱硬化性樹脂(A)とともに用いられるカーボンブラック(B)としては、樹脂の濡れ性の観点から、その平均粒径(一次粒子径)が、好ましくは18〜122nm、より好ましくは27〜43nmのものが用いられる。また、上記カーボンブラック(B)は、導電性(電気パスルート形成)の観点から、そのDBP吸油量が、好ましくは42〜495m
2/g、より好ましくは160〜360m
2/gのものが用いられる。なお、上記DBP吸油量は、JIS K 6217に規定されており、上記のようなカーボンブラックは、具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、樹脂の濡れ性および導電性(電気パスルート形成)の観点からアセチレンブラックが好ましい。
【0024】
上記樹脂組成物におけるカーボンブラック(B)の割合は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは5〜15重量部の範囲である。すなわち、上記カーボンブラック(B)の配合量が少なすぎると、充分な導電性が得られず、逆に上記カーボンブラック(B)の配合量が多すぎると、樹脂組成物の粘度が高くなり、繊維束中に樹脂組成物が含浸しきらず、成形性の低下や導電性への悪影響がみられるからである。
【0025】
上記熱硬化性樹脂(A)、カーボンブラック(B)とともに用いられる、特定の分散剤(C)としては、塩基性官能基を有する分散剤が用いられる。ここで、本発明における「分散剤」とは、カーボンブラック(B)の表面に吸着することで熱硬化性樹脂(A)への分散性を向上させると共に、経時によるカーボンブラック(B)の再凝集を抑制するものが用いられる。上記分散剤における塩基性官能基としては、カーボンブラック(B)に作用しやすいことから、例えば、アミノ基、アミン基等があげられる。
【0026】
また、上記分散剤(C)が、さらに熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有することが、カーボンブラック(B)の分散安定性をより高める観点から好ましい。なお、上記「熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造」とは、熱硬化性樹脂(A)の種類によって異なるものであり、例えば、熱硬化性樹脂(A)として不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂を用いるときは、上記分散剤(C)として、ホウ酸エステル、ポリカルボン酸のアルキルアンモニウム塩、不飽和ポリカルボン酸ポリマー、不飽和脂肪酸ポリアミンアミドと酸性エステル等の高分子ポリマー成分を有するものを用いる。また、熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂およびフェノール樹脂を用いるときは、上記分散剤(C)として、ポリカルボン酸のアルキルアンモニウム塩、不飽和ポリカルボン酸ポリマー、不飽和脂肪酸ポリアミンアミドと酸性エステル等の高分子ポリマー成分を有するものを用いる。
【0027】
なお、上記分散剤(C)が、熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有さない場合であっても、別途、熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有する分散剤((C)に該当しない分散剤)を、上記分散剤(C)と併用することで、上記と同様の効果(カーボンブラック(B)の分散安定効果)を得ることができる。なお、この分散剤を用いる場合、その割合は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し1.45〜3.78重量部の範囲であることが好ましい。
【0028】
そして、上記分散剤(C)は、市販品では、例えば、BYK社製のBYK−9076(アルキルアンモニウム塩)、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE5000(銅フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩)等があげられる。
【0029】
また、熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有するが塩基性官能基を有しない分散剤は、市販品では、例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE88000等があげられる。
【0030】
前記樹脂組成物における上記分散剤(C)の割合は、単独で用いる場合は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し5〜15重量部の範囲であることが好ましいが、上記のように、熱硬化性樹脂(A)と親和性のある構造を有するが塩基性官能基を有しない分散剤と併用する場合、分散剤(C)の割合は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対し1.45〜3.78重量部の範囲であることが好ましい。すなわち、上記分散剤(C)の配合量が少なすぎると、樹脂組成物の粘度が高くなりカーボンブラック(B)の充分な分散安定性が得られず、所望の導電性を発現できないからであり、逆に上記分散剤(C)の配合量が多すぎると、カーボンブラック(B)に作用しない余剰の分散剤が存在することとなり、繊維束に沿って分布する粒子状のカーボンブラック同士の間隔が広がり過ぎ、所望の導電性を発現できないからである。
【0031】
なお、上記樹脂組成物には、必要に応じて、硬化(架橋)促進剤、硬化(架橋)促進助剤、助剤、可塑剤、老化防止剤、収縮防止剤、オゾン劣化防止剤、消泡剤、垂れ止め剤、有機溶剤、無機充填剤(タルク、マイカ、炭酸カルシウム、カオリン、ワラストナイト、ミルドファイバー)等を適宜添加してもよい。
【0032】
つぎに、本発明の導電性シャフトは、例えば以下のようにして作製される。
【0033】
すなわち、連続ガラス繊維を束ねた状態で、熱硬化性樹脂(A)を主成分とし、その硬化剤(D)、カーボンブラック(B)、および特定の分散剤(C)を含有する樹脂組成物の入った
槽に引き込み、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を、所定の長さに切断する。また、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込む際に、繊維の表面への露出を抑えるために不織布(材質としては、ポリエステル系、ガラス系、アラミド系がある)を設定しても良い。このような特殊な製法により、少ないカーボンブラック量で電気パスルートをつくることができ、目的とする本発明の導電性シャフトを良好に製造することができる。
【0034】
特に、上記含浸処理に用いる樹脂組成物を、三本ロールにより混練処理することが、カーボンブラックの凝集がより解消され、得られる導電性シャフトの導電性をより高めることができることから、好ましい。なお、上記混練処理は、硬化剤を加える前に行い、硬化剤を加えた後に再度混練を行うが、このときの混練は、硬化剤が樹脂組成物中に混ざればよいため、手撹拌、羽撹拌およびロールによる混練のうち、いずれかの処理で構わない。その中でも、羽撹拌が簡便で好ましい。
【0035】
また、上記含浸処理に用いる樹脂組成物の粘度を、0.5〜60Pa・sの範囲にすることが、上記特殊な製法を良好に行うことができることから、好ましい。なお、上記粘度は、硬化剤を添加する前に測定したものであり、JIS K 7117に準拠し、B型粘度計を用いて、温度:室温(28℃〜35℃)で測定した値である。
【0036】
上記含浸処理した樹脂組成物の、金型内での熱硬化は、100〜160℃で、1〜15分間程度の熱処理で行われる。
【0037】
上記金型内での熱硬化により得られた長尺の繊維強化樹脂成形品は、切断機等により所定の長さに切断され、目的とする導電性シャフトとなる。
【0038】
なお、上記一連の製法は、一般的な引抜成形機を用いて行うことも可能である。
【0039】
また、上記シャフトの表面には、適宜、金属めっき、金属粉またはグラファイトからなる導電コーティング層を形成することが好ましい。すなわち、上記のように導電コーティング層を形成すると、シャフトの表面に連続ガラス繊維が露出するおそれが解消され、シャフト表面の導電性が発現しやすくなり、さらに、シャフトの曲げ剛性が向上するようにもなるからである。また、上記導電コーティング層によってシャフトの導電性を補うことにより、シャフト作製時における連続ガラス繊維の含浸処理に用いる樹脂組成物のカーボンブラック量をより抑えることができる。その結果、上記樹脂組成物の高粘度化を抑えることができ、シャフトの引抜成形がより行いやすくなるため、シャフトの生産性をより向上させることができる。なお、上記導電コーティング層は、シャフト外周面(側面)のみに対し形成されていてもよいが、シャフトの端部表面、つまりシャフトの切断面に対しても形成されていたほうがよい。すなわち、このようにシャフト端部表面にも導電コーティング層が形成されていると、シャフトの端部と外周面との間の導電性が良好に発現されるようになるからである。ところで、上記シャフト表面とは、シャフト外周面とシャフト端部表面との両方を含む趣旨である。
【0040】
上記導電コーティング層を、金属めっきにより形成する場合、例えば、亜鉛ニッケルめっき,ニッケルめっきといった、電解めっきあるいは無電解めっきを、常法に従いシャフト表面に施すことにより、形成することができる。また、上記導電コーティング層を、金属粉やグラファイトにより形成する場合、例えば、SUS,アルミニウム等からなる金属粉やグラファイト粉末を有機溶媒に分散させた塗工液を、シャフト表面に塗工し、乾燥させることにより、上記導電コーティング層の施工を行うことができる。なお、上記金属粉とグラファイト粉末とを混合分散させた塗工液で、上記のように導電コーティング層を形成してもよい。また、上記塗工液には、塗膜強度を高める観点から、適宜、ウレタン、エポキシ、アクリル、ポリエステル等の樹脂バインダーを含有させてもよいが、導電性の点では、このような樹脂バインダーを含有させないほうが好ましい。また、上記コーティング前のシャフト表面を、予めエッチング処理により粗化し、上記導電コーティング層の定着性を高めるようにしてもよい。上記エッチング処理は、アルカリ溶液、ふっ酸溶液等による化学的処理や、ウェットブラスト等による物理的処理により行われる。
【0041】
上記のようにして得られた本発明の導電性シャフトは、その電気抵抗値が1×10
6Ω未満であることが、OA機器用導電性ロールの軸体としての機能を充分に発揮することができるため、好ましい。
【0042】
そして、本発明の導電性シャフトを軸体とするOA機器用導電性ロールは、その軸体の性能に起因し、OA機器用導電性ロール(特に、帯電ロールや現像ロール)として優れた機能を発揮することができる。
【0043】
なお、本発明の導電性シャフトは、帯電ロールや現像ロールの他、トナー供給ロール、給紙ロール、転写ロール、クリーニングロール等のOA機器用ロールの軸体としても、優れた性能を発揮することができる。その他にも、本発明の導電性シャフトは、防塵ロール、彫刻ロールなど産業用ロールの軸体や、さらに、各種製品の構造部材等としても用いることができる。
【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0045】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0046】
〔熱硬化性樹脂(A1)〕
不飽和ポリエステル樹脂(ユピカ3140、日本ユピカ社製)
【0047】
〔カーボンブラック(B1)〕
デンカブラック(平均粒径35nm、DBP吸油量160ml/100g)、デンカ社製
【0048】
〔カーボンブラック(B2)〕
シーストTA(平均粒径122nm、DBP吸油量42ml/100g)、東海カーボン社製
【0049】
〔分散剤(C1)〕
アルキルアンモニウム塩(BYK−9076、BYK社製)
【0050】
〔分散剤(C2)〕
銅フタロシアニンスルホン酸アンモニウム塩(SOLSPERSE5000、日本ルーブリゾール社製)
【0051】
〔分散剤(C3)〕
SOLSPERSE88000、日本ルーブリゾール社製
【0052】
〔分散剤(C4)(比較例用)〕
酸基をもつコポリマー(BYK−W9010、BYK社製)
【0053】
〔分散剤(C5)(比較例用)〕
球状構造のブロック共重合体(DISPERBYK−2155、BYK社製)
【0054】
〔硬化剤(D1)〕
パーロイルTCP、日油社製
【0055】
[実施例1〜9、比較例1〜3]
上記熱硬化性樹脂と分散剤とを配合し、羽撹拌を行った後、カーボンブラックを加え、三本ロールにて混練した。その後、硬化剤を加え羽撹拌を行い、樹脂組成物を調製した。なお、上記各成分の配合割合、上記混練時の三本ロール間隙は、後記の表1および表2に示す通りとした。
【0056】
続いて、連続ガラス繊維を束ねた状態で、上記調製の樹脂組成物の入った
槽に引き込み、連続ガラス繊維を樹脂組成物に含浸させた後、金型に引き込み熱硬化させ、それにより得られた長尺の繊維強化樹脂成形品を切断し、直径6mm、長さ300mmのシャフトを作製した。なお、以下の計算式(1)で求められるシャフトのガラス繊維含有率(Vf値)が、後記の表1および表2に示す通りとなるようシャフトを作製した。
【0057】
【数2】
【0058】
このようにして得られた実施例および比較例のシャフトに関し、下記の基準に従い各特性を測定し、評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0059】
〔粘度測定〕
三本ロールにて混練した後の樹脂組成物の粘度(硬化剤を添加する前の粘度)を下記の条件で測定した。
・装置:TOKI SANGYO社製、VISCOMETER TVB−10(TVR)・ローター種:H7
・回転数:60rpm
・測定環境:室温(28℃〜35℃)
【0060】
〔電気抵抗値測定〕
電気抵抗値は、評価対象の形状(断面積と長さ)により数値が異なる。そのため、シャフトの形状を、直径6mm、長さ300mmに統一して、その電気抵抗値を、テスター(MODEL3021、HIOKI社製)を用いて測定した。測定は、上記形状のシャフトの端部断面に計測針を当てて測定を行った。そして、その電気抵抗値が1×10
3Ω未満であったものを◎、1×10
3Ω以上1×10
6Ω未満であったものを○、1×10
6Ω以上を×と評価した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
上記結果より、実施例1〜9のシャフトは、比較例のシャフトに比べ、電気抵抗値が低く、導電性に優れていることがわかる。なお、比較例において、さらにカーボンブラックの配合量を高めたところ、樹脂組成物の粘度の急激な上昇(60Pa・s以上)がみられ、実施例や比較例の成形方法を適用してシャフトを製造することができなかった。
【0064】
[実施例10]
実施例1と同様にして作製したシャフトの表面全面に、下記のコーティング処理1により、導電コーティング層の形成を行った。
〔コーティング処理1〕
まず、シャフトを、200g/LのNaOH水溶液を用いて、温度40℃で10分間エッチング処理した。ついで、上記シャフトを、Pd触媒付与剤(OPC−50インデューサー、奥野製薬工業社製)に40℃で5分間浸漬し、表面にPd触媒を付与した。続いて、上記シャフトを、活性化剤(OPC−150クリスター、奥野製薬工業社製)に25℃で5分間浸漬し、Pdイオンを金属化させた(活性化処理)。このようにして、シャフトの表面全面にめっき前処理を行った後、上記シャフトを無電解ニッケルめっき液(TMP化学ニッケルHRT、奥野製薬工業社製)に40℃で10分間浸漬し、厚み0.5μmの無電解ニッケルめっき層(導電コーティング層)を形成した。
【0065】
[実施例11]
実施例4と同様にして作製したシャフトの表面全面に、上記コーティング処理1により、導電コーティング層の形成を行った。
【0066】
[実施例12]
実施例6と同様にして作製したシャフトの表面全面に、上記コーティング処理1により、導電コーティング層の形成を行った。
【0067】
[実施例13]
実施例6と同様にして作製したシャフトの表面全面に、下記のコーティング処理2により、導電コーティング層の形成を行った。
〔コーティング処理2〕
シャフトの表面全面に、イソプロパノール、ジメチルエーテル等の有機溶剤にグラファイト粉末が分散されたスプレー剤(グラファイトスプレー、ファインケミカルジャパン社製)をスプレーし、室温で1時間ほど乾燥させた後、さらに60℃で乾燥させ、導電コーティング層を形成した。
【0068】
[実施例14]
実施例6と同様にして作製したシャフトの表面全面に、下記のコーティング処理3により、導電コーティング層の形成を行った。
〔コーティング処理3〕
シャフトの表面全面に、トルエン、ジメチルエーテル等の有機溶剤にSUS粉末が分散されたスプレー剤(ステンレススプレー、ファインケミカルジャパン社製)をスプレーし、室温で1時間ほど乾燥させた後、さらに60℃で乾燥させ、導電コーティング層を形成した。
【0069】
[実施例15]
実施例6と同様にして作製したシャフトの表面全面に、下記のコーティング処理4により、導電コーティング層の形成を行った。
〔コーティング処理4〕
シャフトの表面全面に、トルエン、ジメチルエーテル等の有機溶剤にアルミニウム粉末が分散されたスプレー剤(ファイン・ヒートリフレクター、ファインケミカルジャパン社製)をスプレーし、室温で1時間ほど乾燥させた後、さらに60℃で乾燥させ、導電コーティング層を形成した。
【0070】
[実施例16]
実施例6と同様にして作製したシャフトの表面全面に、下記のコーティング処理5により、導電コーティング層の形成を行った。
〔コーティング処理5〕
シャフトの表面全面に、ブタン、プロパノール等の有機溶剤にグラファイト粉末とアルミニウム粉末が混合分散されたスプレー剤(ノンシーズ、ファインケミカルジャパン社製)をスプレーし、室温で1時間ほど乾燥させた後、さらに60℃で乾燥させ、導電コーティング層を形成した。
【0071】
【表3】
【0072】
上記結果より、実施例10〜16のシャフトは、実施例1〜9のシャフトよりも、さらに電気抵抗値が低く、より導電性に優れていることがわかる。
【0073】
一方、下記の基準に従い、シャフトの曲げ弾性率の測定を行ったところ、実施例1の曲げ弾性率が43GPaであったのに対し、実施例10の曲げ弾性率が46GPaであり、実施例4の曲げ弾性率が43GPaであったのに対し、実施例11の曲げ弾性率が46GPaであり、さらに、実施例6の曲げ弾性率が52GPaだったのに対し、実施例12の曲げ弾性率が56GPaであった。このように、導電コーティング層の形成により、曲げ弾性率の向上効果が認められた。
〔曲げ弾性率〕
直径6mm、長さ125mmに統一したシャフトのサンプルに対して、JIS K7017 に準拠し、25℃温度下で、シャフトの三点曲げ試験(圧子半径:5mm、支持台の半径:2mm、支点間距離:100mm、試験速度:50mm/min)を行い、その曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0074】
なお、上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。