【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者は、前述の問題を解決するために試行錯誤を繰り返して、2つの新規な知見を見出し、これらの新規な知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明の特徴を説明する前に、これらの新規な知見を見出すまでの経緯について説明する。
【0009】
図6(a)(b)に示すように、接合品の接合面と対称面(相手側の接合品の接合面)を対向接触させて、単位体積当たりの摩擦入力熱量を接合品の接合面に付与することにより、接合品の接合面と対称面を接合することを想定した場合に、接合開始時における接合品の接合面の温度(加熱温度)と接合品の寄り開始時間及び寄り速度との関係について有限要素法による非定常熱弾塑性解析(1つ目の非定常熱弾塑性解析)を行い、この非定常熱弾塑性解析結果をまとめると、
図7(a)(b)に示すようになる。また、1つ目の非定常熱弾塑性解析においては、接合開始時における接合品の加熱深さを2.0mmに設定した。ここで、単位体積当たりの摩擦入力熱量とは、接合荷重と接合品の往復振幅と接合品の往復周波数との積によって規定される熱量のことをいい、寄り開始時間とは、接合品の接合面に単位体積当たりの摩擦入力熱量を付与してから接合品の対向方向(押圧方向)の変位を開始するまでの時間のことをいい、寄り速度とは、接合品の対向方向の変位を開始してから目標の寄り量(目標の変位量)になるまでの接合品の対向方向の変位速度のことをいい、加熱深さ(加熱長さ)とは、温度が接合面の温度の90〜100%になる対向方向の長さのことをいう。
【0010】
1つ目の非定常熱弾塑性解析結果によれば、
図7(a)に示すように、接合開始時における接合品の接合面の温度がその接合品の材料の融点の20%以上であれば、接合品の寄り開始時間を短くして、換言すれば、接合品の接合面の軟化を速めて、接合品の接合面から生じるバリの排出性(排出速度)を高めることができることが判明した。特に、
図7(b)に示すように、接合開始時における接合品の接合面の温度がその接合品の材料の融点の40%以上であれば、接合品の寄り速度を高めて、換言すれば、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性を更に高めることができることが判明した。これにより、本願の発明者は、接合開始時における接合品の接合面の温度がその接合品の材料の融点の20%以上、好ましくは40%以上になるように予め接合品の接合面を加熱しておくことにより、接合品を対称面側へ押圧する接合荷重(押圧荷重)を大きくしなくても、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性を高めることができるという、第1の新規な知見を得ることができた。
【0011】
図6(a)(b)に示すように、接合品の接合面と対称面を対向接触させて、単位体積当たりの摩擦入力熱量を接合品の接合面に付与することにより、接合品の接合面と対称面を接合することを想定した場合に、接合開始時における接合品の加熱深さと接合品の寄り開始時間及び寄り速度との関係について有限要素法による2つ目の非定常熱弾塑性解析を行い、この非定常熱弾塑性解析結果をまとめると、
図8(a)(b)に示すようになる。また、2つ目の非定常熱弾塑性解析において、接合開始時における接合品の接合面の温度は接合品の材料の融点の44%に設定した。
【0012】
2つ目の非定常熱弾塑性解析結果によれば、
図8に示すように、接合開始時における接合品の加熱深さが1.0mm以上であれば、接合品の寄り開始時間を短くして、バリの排出性を高めることができることが判明した。特に、
図8(b)に示すように、接合開始時における接合品の加熱深さが2.0mm以上であれば、接合品の寄り速度を高めて、換言すれば、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性を更に高めることができることが判明した。これにより、本願の発明者は、接合開始時における接合品の加熱深さが1.0mm以上、好ましくは2.0mm以上になるように予め接合品の接合面を加熱しておくことにより、接合品を対称面側へ押圧する接合荷重を大きくしなくても、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性をより高めることができるという、第2の新規な知見を得ることができた。
【0013】
続いて、本発明の
態様について説明する。
【0014】
本発明の第1の態様は、一対の金属部品の各接合面に発生した摩擦熱を利用して、一対の前記金属部品の各接合面を接合する摩擦接合方法において、一対の前記金属部品のうち少なくともいずれかの前記金属部品の接合面を加熱する加熱工程と、前記加熱工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向させた状態で、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に移動させることにより、一対の前記金属部品の各接合面を接触させる接触工程と、前記接触工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向接触させた状態で、一方の前記金属部品を対向方向に直交する方向へ他方の前記金属部品に対して相対的に往復移動させつつ、
一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧することにより、摩擦熱によって一対の前記金属部品の各接合面を軟化させて、一対の前記金属部品の寄り量が目標の寄り量よりも小さく設定した目標前の寄り量になると、一方の前記金属部品の相対的な往復移動を停止する第1接合工程と、前記第1接合工程の終了後に、一対の前記金属部品の寄り量が目標の寄り量になるまで、一方の前記金属部品の相対的な押圧動作を継続して、一対の前記金属部品の各接合面を据え込むことにより、一対の前記金属部品の各接合面を接合する第2接合工程と、を具備し、前記加熱工程の処理により前記
第1接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面の温度がその前記金属部品の材料の融点の20%以上になっていること
である。
【0015】
ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「金属部品」には、ガスタービンエンジン等のエンジンに用いられるエンジン部品の他に、種々の金属製の機械部品を含む意である。また、「対向方向」とは、一対の金属部品の各接合面が対向する方向のことをいう。なお、融点は、摂氏を単位にしている。
【0016】
本発明の第1の
態様によると、摩擦接合方法は前記加熱工程を前記接触工程の前工程(前記接合工程の前工程)として備えており、前記加熱工程の処理により前記
第1接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面の温度がその前記金属部品の材料の融点の20%以上になっているため、前述の第1の新規な知見を適用すると、前記
第1接合工程
及び前記第2接合工程中に、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧する接合荷重(押圧荷重)を大きくしなくても、一対の前記金属部品の各接合面の軟化を速めて、一対の前記金属部品の各接合面から生じるバリの排出性を高めることができる。
【0017】
本発明の第2の
態様は、
本発明の第1の
態様に加えて、前記加熱工程の処理により前記
第1接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の加熱深さ(温度が接合面の温度の90〜100%になる対向方向の長さ)が1.0mm以上になっていること
である。
【0018】
本発明の第2の
態様によると、前記加熱工程の処理により前記
第1接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面からの加熱深さが1.0mm以上になっているため、前述の第2の新規な知見を適用すると、前記
第1接合工程
及び前記第2接合工程中に、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧する接合荷重を大きくしなくても、一対の前記金属部品の各接合面の軟化を速めて、バリの排出性をより高めることができる。