(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、射撃訓練や式典等において、衝撃音、または衝撃音と煙及び火炎、を発生する空包が利用される場合があり、種々の空包が開示されている。
例えば、特許文献1に記載された従来技術には、発射薬が装填された空包の内部における先端近傍に配置されて、実際の飛しょう体と類似した形状を有するふた栓が開示されている。当該ふた栓は、空包の点火後、空包内部の圧力が所定圧まで上昇するまで破壊されずに維持され、更なる圧力上昇とともに破壊される。ふた栓の破壊後は、燃焼ガスが一気に排出されるとともに衝撃音が発生する。また、ふた栓の底部には、木質繊維板もしくは木質繊維板に類する強度及び密度を有する複数の栓用板が重ねられており、栓用板には、軸方向に貫通する複数の孔が形成されている。
また、特許文献2に記載された従来技術には、発射薬が装填された燃焼容器の頭部を、蓋となる金属性の破裂板にて密閉している空包が開示されている。そして破裂板には、燃焼ガスにて壊れ易くするための切り溝が設けられており、空包の点火後、燃焼容器内部の圧力が所定圧に上昇するまで破裂板は破壊されずに維持され、更なる圧力上昇とともに破裂板は破壊され、衝撃音が発生する。
また、特許文献3に記載された従来技術には、発射薬が装填された燃焼容器の頭部の蓋部に放射状の貫通スリットである排出孔を設けた、衝撃音発生装置が開示されている。衝撃音発生装置(空包に相当)の点火後、燃焼容器内の圧力の上昇に伴い、排出孔の開口面積が増大するように変形し、内部圧力を一定に保ち、使用環境温度が変化しても一定の衝撃音圧を発生させることができる。
また、特許文献4に記載された従来技術には、空包容器の先端の蓋部に、貫通孔の中間部分の径が絞られたノズルが形成されて、このノズルを内側から覆うように緊塞板が配置された空砲弾(空包に相当)が開示されている。ノズルの中間部分の径を絞ることで、噴出される燃焼ガスはこの絞られた部分にて音速に達し、音速に達した燃焼ガスにて空砲(空包)を後方に移動する推力を得て、自動的に装填部から空砲(空包)を排出できるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術では、燃焼ガスの圧力によって破壊された栓用板の破片や発射薬の未燃物等が砲の前方に飛散する可能性があるので、大勢の観客を集めた式典等での使用は好ましくない。なお、「飛散」とは、本明細書では、破片等が勢いよく飛び出し、飛び出した破片等が、飛び出した方向に直線状に勢いよく飛行する状態を指す。
また特許文献2に記載された従来技術では、燃焼ガスの圧力によって破裂板は切り溝に沿って大きく開口するので、特許文献1と同様に、発射薬の未燃物等が砲の前方に飛散する可能性があるので、好ましくない。
また特許文献3に記載された従来技術も、燃焼ガスの圧力によって排出孔の開口面積が増大するので、特許文献2と同様に、発射薬の未燃物等が砲の前方に飛散する可能性があるので、好ましくない。
また特許文献4に記載された従来技術も、燃焼ガスの圧力によって緊塞板が破れて燃焼ガスがノズルから噴出するように構成されており、特許文献1と同様に、緊塞板の破片や発射薬の未燃物等が砲の前方に飛散する可能性があるので、好ましくない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、破片や発射薬の未燃物等が勢いよく飛散することなく、より安全な空包を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る空包は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、軸方向における一方端が開口しており他方端に蓋部を有している筒状の容器である燃焼容器と、前記燃焼容器における前記一方端に取り付けられる底部材とを有し、前記底部材には、前記燃焼容器の外部と内部を連通する連通孔が形成されており、前記燃焼容器の内部には発射薬が装填され、前記連通孔には着火用の火管が装填され、前記火管と前記発射薬との間には点火薬が装填されている、空包である。前記蓋部には、前記燃焼容器の外部と内部を連通するとともに前記燃焼容器の内径よりも小さな径の貫通孔であるオリフィスが設けられている。そして、前記燃焼容器の内部において前記オリフィスと前記発射薬との間には、前記オリフィスの径よりも大きな径を有するとともに複数の貫通部が形成された飛散防止部材が配置されて
おり、前記飛散防止部材は、前記オリフィスの方向に向かって凹状となるように形成されている。
【0006】
この第1の発明によれば、燃焼容器の蓋部に設けられたオリフィスと発射薬との間に、複数の貫通部が形成された飛散防止部材を配置しているので、発射薬の未燃物等がオリフィスから飛び出すことを適切に防止することができる。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る空包であって、前記燃焼容器における前記蓋部が、当該燃焼容器の円筒面である側壁と一体的に形成されている。
【0008】
この第2の発明によれば、プレス加工等により一体的に形成されるため、剛性の確保と組み立てコストの低減を図ることができる。
【0010】
また、第1の発明によれば、燃焼ガスをよりスムーズにオリフィスに導くことが可能であり、所望する衝撃音量を適切に確保することができる。
【0011】
次に、本発明の第
3の発明は、上記第1の発明
または第2の発明に係る空包であって、更に、軸方向における両端が開口している筒状形状を有しているとともに前記燃焼容器の外径よりも大きな内径を有する容器である装填ガイドが、前記燃焼容器の周囲を覆うように前記燃焼容器と同軸状に、前記底部材に取り付けられている。
【0012】
この第
3の発明によれば、装填ガイドを備えることで、空包を火砲に容易に装填することが可能となり、非常に便利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。なお、
図1〜
図4においてX軸、Y軸、Z軸は直交座標を示しており、Z軸方向は空包1及び火砲100の軸方向(Z軸の向かう方向が砲口方向)を示している。
【0015】
●[空包1を構成する各部材(
図1)と、空包1を組み付けた状態(
図2)]
図1は空包1を構成する各部材の斜視図を示しており、
図2は空包1を組み付けた状態における断面図を示している。
図1及び
図2に示すように、空包1は、火管K1、底部材10、シール部材80、点火薬K2、点火薬スペーサ20、支持補助部材30、発射薬K3、飛散防止部材40、オリフィスクロージャ50、貫通孔であるオリフィス62が蓋部63に形成された燃焼容器60、装填ガイド70等にて構成されている。
なお、底部材10、点火薬スペーサ20、支持補助部材30、飛散防止部材40、燃焼容器60、装填ガイド70の材質には、鉄、ステンレス、アルミニウム、真鍮等の種々の金属を使用することができる。
【0016】
底部材10は、空包1の底部を構成しており、燃焼容器60を固定するためのネジ部11と、固定した燃焼容器60の内部と外部を連通するとともに火管K1を装填する孔である連通孔12と、シール部材80を嵌め込むシール溝13と、が形成されている。なおシール溝13は、底部材10における外周面であって、
図4に示すように火砲100と対向する面に形成されている。
火管K1は、底部材10の連通孔12に装填される点火具であり、例えば電流が流されると点火し、点火薬K2を着火する。
シール部材80は、例えばゴム等の円環状の弾性部材であり、シール溝13に嵌め込まれて、火砲100の薬室に装填された空包が燃焼した際、火砲100と空包1との隙間を密封する。なお、シール部材80は省略してもよい。
ネジ部11には、燃焼容器60の軸方向の一方端の側に形成されたネジ部61がねじ込まれる。
【0017】
点火薬スペーサ20は、底部材10の連通孔12の開口部に点火薬K2を保持するとともに、支持補助部材30を支持している。また点火薬スペーサ20は、点火薬K2の燃焼エネルギーを発射薬K3に伝搬するために、複数の貫通孔21が形成されたパンチングメタルや複数の貫通空間部が形成された金網等にて形成されている。なお、点火薬スペーサ20は省略してもよい。
点火薬K2は、点火薬スペーサ20にて連通孔12の開口部に保持され、火管K1によって着火され、発射薬K3を着火する。
支持補助部材30は、点火薬スペーサ20にて支持され、飛散防止部材40を燃焼容器60のオリフィス62の近傍に保持するように支持するとともに、発射薬K3を燃焼容器60内に均等に配置する収容スペースを形成している。また支持補助部材30は、発射薬K3の燃焼エネルギーを燃焼容器60内に均等に伝搬させるために、複数の貫通孔31が形成されたパンチングメタルや複数の貫通空間部が形成された金網等にて形成されている。なお、点火薬スペーサ20から飛散防止部材40までの空間に発射薬K3がぎっしりと詰められていれば、支持補助部材30を省略してもよい。
また、支持補助部材30を省略して、飛散防止部材40を燃焼容器60の内部に圧入して位置を固定してもよいし、燃焼容器60の内部に飛散防止部材40をろう付けして位置を固定してもよい。
【0018】
飛散防止部材40は、支持補助部材30に支持され、燃焼容器60の他方端に形成された蓋部63の内側の面に近接するように配置されている。また飛散防止部材40は、発射薬K3の燃焼ガスを燃焼容器60のオリフィス62に導くとともに、発射薬K3の未燃物等を通過させずに塞き止めるための所定径の複数の貫通孔が形成されたパンチングメタルや複数の貫通空間部が形成された金網等にて形成されている。なお、所定径は発射薬K3の種類や形状等に応じて設定されるが、例えば4[mm]程度の径である。
なお、以後、飛散防止部材40の貫通孔と貫通空間部を合わせて「貫通部(41)」という。
また飛散防止部材40は、オリフィス62の方向に向かって凹状となるように形成されているが、
図3(D)に示すように、スペーサ部材43を用いた場合は凹状でなくてもよい。
発射薬K3は、燃焼容器60内における点火薬スペーサ20と飛散防止部材40の間の空間に装填され、点火薬K2によって着火され、空包1の衝撃音、または衝撃音と煙及び火炎を発生させる。
【0019】
オリフィスクロージャ50は、空包1の保管時に燃焼容器60の内部に空気中の水分が通過しにくく、且つ雨中における空包1の取り扱いにおいて雨滴が燃焼容器60の内部に浸入することを防止するものであり、オリフィス62を覆うサイズを有し、オリフィス62を覆うように接着または粘着されてオリフィス62を封止する。
なお、オリフィスクロージャ50は封止が目的であり、着火後の燃焼容器60内の内圧を所定圧まで高めるものではないため、材質としては金属箔、プラスチック板、樹脂板、アルミラミネート箔、防水性を有する紙、等を使用することができる。
オリフィスクロージャ50は、封止が目的であるので、燃焼容器60の外側に取り付けられていてもよいし、燃焼容器60の内側に取り付けられていてもよい。
またオリフィスクロージャ50は、発射薬K3の燃焼による燃焼容器60の内部の圧力が上昇することにより容易に破れ、破れた際の破片が、前述した「飛散」状態とならない質量となる必要がある。オリフィスクロージャ50の材質として、金属箔またはプラスチック板または樹脂板を使用する場合、厚さは0.5[mm]以下(より好ましくは0.2[mm]以下)とすると、飛び出した破片は直線状に勢いよく飛行せず、はらはらと舞い落ちてくるので「飛散」しない。またオリフィスクロージャ50の材質として、アルミラミネート箔または紙を使用する場合、厚さは1[mm]以下とすると、飛び出した破片は直線状に勢いよく飛行せず、はらはらと舞い落ちてくるので「飛散」しない。
なお、オリフィスクロージャ50は省略してもよい。
【0020】
燃焼容器60は、軸方向における少なくとも一方端が開口している筒状の容器である。開口している一方端には、底部材10のネジ部11にねじ込むネジ部61が形成されている。また他方端の蓋部63には、燃焼容器60の内部と外部を連通するとともに、燃焼容器60の内径よりも小さな径の貫通孔であるオリフィス62が形成されている。オリフィス62は、発射薬K3による燃焼容器60内の圧力(例えば5[MPa]〜100[MPa])を保持し、発射薬K3の安定燃焼と衝撃音を確保する。
なお、燃焼容器60は、底部材10に、ネジ止め、溶接、ろう付け等にて固定可能であるが、発射薬K3や点火薬K2を内部に装填してから固定されるので、熱や火花や火炎等を用いないネジ止めとすることが好ましい。
蓋部63は、燃焼容器60に、ネジ止め、溶接、ろう付け等にて固定可能であり、また燃焼容器60の円筒面である側壁64と一体的に形成とすることも可能である。剛性の確保と組み立てコストの低減を考慮すれば、一体的に形成とすることが好ましい。
また、燃焼容器60と底部材10との固定方法をネジ止めとする場合には、工具での締め付けが容易となるように蓋部63の一部に凹部または凸部を設けることが好ましい。
なお、オリフィス62の径と、発射薬K3の種類及び量は、所望する衝撃音量(例えば100[dB]〜130[dB])に応じて適宜設定される。
【0021】
装填ガイド70は、
図4に示すように火砲100の薬室に空包1を装填する際の取り扱いを容易にする、あるいは火砲100に付属する自動装填機による自動装填を可能とするものであり、軸方向における両端が開口した筒状形状を有している。そして
図2に示すように装填ガイド70は、燃焼容器60の周囲を覆うように、燃焼容器60の軸ZCと同軸状となるように一方端が底部材10に固定されている。固定方法は、溶接、ろう付け、ネジ止め等、いずれであっても構わない。また、装填ガイド70の他方端は、火砲100の薬室に空包1を装填する際の案内となるテーパ部71を有しており、他方端の開口孔72から衝撃音、煙及び火炎が排出される。
また、装填ガイド70は省略してもよい。
【0022】
なお、上述したパンチングメタルは、例えば開孔率が10[%]〜70[%]のものを使用することができる。同様に、上述した金網は、例えば空間率が30[%]〜80[%]のものを使用することができる。
発射薬K3には、シングルベース、ダブルベース、トリプルベース、マルチベースなどを使用することができる。
点火薬K2には、黒色火薬、シングルベース点火薬など一般の弾薬に使用されている点火薬を使用することができる。また点火薬K2は布製の袋に収納されていても良い。
また、燃焼容器60内に火炎を抑制するためにアルカリ金属塩からなる消炎剤を配置しても良い。また消炎剤は布製の袋に収納されていても良い。
【0023】
●[飛散防止部材40の形状及び配置と、燃焼ガスの流れ(
図3)]
図3(A)は飛散防止部材40の外観を示す斜視図であり、
図3(B)は燃焼容器60の内側から見たオリフィス62と、オリフィス62の近傍の面であるオリフィス近傍面62Mを示す図である。
なお、燃焼容器60の内側から見たオリフィス62の周囲の面において、縁部となる面(
図3(B)中の符号62N)は、オリフィス近傍面62Mには含まない。
また
図3(C)は、
図3(A)に示す飛散防止部材40を燃焼容器60内に配置した場合において、発射薬K3による燃焼ガスの流れを説明する図である。
また
図3(D)は、平板状の飛散防止部材40Aとスペーサ部材43を燃焼容器60内に配置した場合において、発射薬K3による燃焼ガスの流れを説明する図である。
また
図3(E)は、平板状の飛散防止部材40Aを、スペーサ部材を用いることなく燃焼容器60内に配置した場合において、発射薬K3による燃焼ガスの流れを説明する図である。
なお、
図3(C)〜(E)ではオリフィスクロージャ50の記載を省略している。
【0024】
発射薬K3による燃焼ガスをスムーズにオリフィス62から排出させて所望する衝撃音量を確保するためには、
図3(B)に示すオリフィス近傍面62Mに、飛散防止部材40が接触しないようにすることが好ましい。
例えば
図3(E)に示すように、平板状の飛散防止部材40Aをオリフィス近傍面62Mに接触するように配置すると、
図3(E)中に点線にて示すように一部の燃焼ガスは、オリフィス近傍面62Mに行く手を阻まれてオリフィス62に到達することができない。この場合、所望する衝撃音量を確保できなくなったり、燃焼容器60内の圧力が高くなりすぎたりする可能性がある。
【0025】
これに対して
図3(A)に示す形状(オリフィス62に向かって凹形状となる茶碗型)を有する飛散防止部材40を、
図3(C)に示すように、オリフィス近傍面62Mに飛散防止部材40が接触しないように配置すると、
図3(C)中に点線にて示すように燃焼ガスは、飛散防止部材40の貫通部41を通り、滞りなくオリフィス62に到達して燃焼容器60の外部にスムーズに排出されるので、好ましい。
また、平板状の飛散防止部材40Aであっても、
図3(D)に示すように、飛散防止部材40Aと燃焼容器60の蓋部63の内側との間にスペーサ部材43を配置して、オリフィス近傍面62Mに飛散防止部材40Aが接触しないように配置すると、
図3(D)中に点線にて示すように燃焼ガスは、飛散防止部材40Aの貫通部41を通り、滞りなくオリフィス62に到達して燃焼容器60の外部にスムーズに排出されるので、好ましい。
【0026】
●[空包1を火砲100の薬室に装填した状態(
図4)]
図4は、空包1を火砲100の薬室(火砲鎖栓102と火砲筒部101にて形成された空間)に装填した状態を示す断面図である。
図4に示すように、底部材10における外周面であって火砲100の内周面(火砲筒部101の内周面)と対向する面には、底部材10の外周面と火砲100の内周面との隙間を密封する円環状のシール部材80が設けられている。
【0027】
本発明の空包1は、本実施の形態で説明した外観、形状、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。