(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  既存ダム堤体での貫通穴構築に際し用いるドーム形状の仮締切構造であり、複数のパーツが止水材を介して互いに水密に連結されてなり、かつ、これら複数のパーツは互いに分離可能に連結されているダム堤体の仮締切構造であって、
  前記複数のパーツのそれぞれは、前記仮締切構造の分割面にあたる箇所にリブが設けられ、隣接する前記パーツの前記リブ同士が、前記止水材を挟んだ状態で、ボルトで締付けられることにより互いに分離可能に連結されていることを特徴とするダム堤体の仮締切構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
  上記従来の仮締切構造における半球状止水壁をダム堤体に取り付ける際、或いはダム堤体から撤去する際、堤体上に設置したクレーンによる半球状止水壁の吊り下げや吊り上げなどの作業が必要となる。一方、半球状止水壁はかなりの重量物であるため、前述の吊り下げや吊り上げを行うためのクレーンも巨大なものとなってしまう。そのため、堤体上の限られた領域に巨大なクレーンを設置し運用する手間や、そうしたクレーンの手配や利用に伴うコストが増大しやすいといった課題が生じる。
【0005】
  そこで本発明では、従来よりも小型のクレーンを用いて施工することが可能な仮締切構造の技術を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  上記課題を解決する本発明のダム堤体の仮締切構造は、既存ダム堤体での貫通穴構築に際し用いるドーム形状の仮締切構造であり、複数のパーツが止水材を介して互いに水密に連結されてなり、かつ、これら複数のパーツは互いに分離可能に連結されている
ダム堤体の仮締切構造であって、前記複数のパーツのそれぞれは、前記仮締切構造の分割面にあたる箇所にリブが設けられ、隣接する前記パーツの前記リブ同士が、前記止水材を挟んだ状態で、ボルトで締付けられることにより互いに分離可能に連結されていることを特徴とする。
【0007】
  こうした仮締切構造によれば、例えば、各パーツのうち仮締切構造の下部をなすものから水中の所定位置まで順次吊り下ろして仮固定し、水中にて各パーツ間を連結することで仮締切構造を構成することが可能である。或いは、水中に設置した仮締切構造の上部をなすパーツから順次各パーツ間の連結を解き、パーツの吊り上げ作業を行うことで仮締切構造の撤去が可能である。このような場合、ドーム形状の仮締切構造自体がかなりの重量物であっても、施工時における吊り下げや吊り上げの対象物は仮締切構造を分割した各パーツとなり、巨大なクレーンを使用する必要は無い。そのため、堤体上の限られた領域に巨大なクレーンを設置し運用する手間や、そうしたクレーンの手配や利用に伴うコストを抑制することも可能となる。したがって本発明によれば、従来よりも小型のクレーンを用いて施工することが可能な仮締切構造を提供できる。
【0008】
  また、本発明は、
既存ダム堤体での貫通穴構築に際し用いるドーム形状の仮締切構造であり、複数のパーツが止水材を介して互いに水密に連結されてなり、かつ、これら複数のパーツは互いに分離可能に連結されているダム堤体の仮締切構造であって、複数のパーツが、水中において仮締切構造に生じる浮力以上の空中重量を備えた仮締切構造を分割したものであ
ることを特徴とする。各パーツを水中で連結して構成した仮締切構造において、その内空の排水を行うと大きな浮力が生じるが、仮締切構造の空中重量がこの浮力に抗しうるものであるため、特段の浮力対策を講じる必要が無く、効率的な仮締切構造の施工が可能となる。
【0009】
  また、上述のダム堤体の仮締切構造におけるパーツは、仮締切構造をドーム形状の頂部を中心に放射状に分割したものである、としてもよい。
 
【発明の効果】
【0010】
  本発明によれば、施工時に利用するクレーンを従来より小型のものと出来る仮締切構造を提供できる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態における仮締切構造の構造例を示す全体図である。
 
【
図2】本実施形態における仮締切構造の施工手順1を示す図である。
 
【
図3】本実施形態における仮締切構造の施工手順2を示す図である。
 
【
図4】本実施形態における仮締切構造の施工手順3を示す図である。
 
【
図5】本実施形態における仮締切構造の施工手順4を示す図である。
 
【
図6】本実施形態における仮締切構造の施工手順5を示す図である。
 
【
図7】本実施形態における仮締切構造の施工手順6を示す図である。
 
【
図8】本実施形態における仮締切構造の施工手順7を示す図である。
 
【
図9】本実施形態における仮締切構造の施工手順8を示す図である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0012】
  以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるダム堤体の仮締切構造の構造例を示す全体図である。本実施形態における仮締切構造100は、既存ダムの堤体1での、排砂坑などの貫通穴2の構築に際し用いる、堤体上流側の仮締切構造である。本実施形態の仮締切構造100は、
図1で示すように、断面がダム堤体上流側に凸である半楕円状の構造をなすドーム形状をなしている。この仮締切構造100は、止水材35を介して水密に連結した複数のパーツ30から構成されている。
図1に例示するパーツ30は、仮締切構造100をドーム形状の頂点を中心に4分割したパーツ30a、30b、30c、30dを含んでおり、各パーツ30において、仮締切構造100の分割面にあたる場所には当接リブ36が備わっている。各パーツ30の当接リブ36同士を止水材35を挟んで当接させ、この当接時に連通した各当接リブ36のボルト孔33(
図2等参照)にボルト34を挿通してボルト締結することで、パーツ30間の連結が図られる。こうして連結された各パーツ30も、各パーツの当接リブ36同士を固定しているボルト締結を解くことで連結が解除される。つまりパーツ30同士は分離自在に連結される。
 
【0013】
  また仮締切構造100の開口21は、貫通穴2の開口予定位置4aを囲むものである。この仮締切構造100の外周上部には、給気バルブ27とマンホール28が、また外周下部には排水バルブ29がそれぞれ備わっている。
 
【0014】
  給気バルブ27は、堤体2上の給気装置と適宜な給気経路を介して結ばれ、仮締切構造100の内空25に空気を導くためのバルブである。また、マンホール28は、仮締切構造100の内空25で作業を行う作業員の出入口となる開閉口である。このマンホール28は図示しないバルブを備えており、内空25とマンホール外との間の開閉が可能となっている。また、排水バルブ29は仮締切構造100の内空25から水を外部に排水するためのバルブである。
 
【0015】
  また、仮締切構造100はスカート部32においてダム堤体上流面3に当接される。このスカート部32は、仮締切構造100の開口21の周縁をダム堤体上流面3に沿って所定幅延長したものであり、ダム堤体上流面3に止水材7を介して当接する。なお、スカート部32にアンカー打設用孔が備わり、このアンカー打設用孔からダム堤体上流面3に向けアンカーを打設することで、スカート部32ひいては仮締切構造100をダム堤体1に仮固定するとしてもよい。
 
【0016】
  なお、上述してきたパーツ30が、水中において仮締切構造100に生じる浮力以上の空中重量を備えた仮締切構造を分割したものであるとしてもよい。各パーツ30を水中で連結して構成した仮締切構造100において、その内空25の排水を行うと大きな浮力が生じるが、仮締切構造100の空中重量がこの浮力に抗しうるものであるため、特段の浮力対策を講じる必要が無く、効率的な仮締切構造の施工が可能となる。
 
【0017】
  以下、本実施形態の仮締切構造100の施工および貫通穴2の施工の手順について詳細に説明する。
図2〜9は本実施形態における仮締切構造の各施工手順1〜8をそれぞれ示す図である。まず、
図2に示すように、ダム堤体1の水域側の水底にある地盤5に仮設構台50を設置した上で、仮締切構造100をなすパーツ30のうち、仮締切構造10の下部をなすパーツ30c、30dから、仮設構台50上に順次吊り下ろす(手順1)。仮設構台50は、堤体1の水域側の水底にある地盤5に予め設置される仮設構造物であり、上方より吊り下ろされてきたパーツ30を台上51にて受け入れ、該当パーツ30の各所を把持し固定する適宜な構造を有している。また仮設構台50における台上51の水底からの高さは、パーツ30らを連結させ構成した仮締切構造100の開口21が、上述した貫通穴2の開口予定位置4aを囲むよう、予め設定されている。
 
【0018】
  また、台上51に吊り下ろされたパーツ30cとパーツ30d(
図2では、一例としてパーツ30cの吊り下げ状況のみ示している)を、止水材35を介した当接リブ36同士の当接とボルト34による締結により、互いに連結する。ボルト34の締結作業は、水中に配置した潜水夫により行われる。
 
【0019】
  手順1に続き、
図3に示すように、仮締切構造10の上部をなすパーツ30a、30bを仮設構台50上に順次吊り下ろし、吊り下ろされたパーツ30aとパーツ30b(
図3では、一例としてパーツ30bの吊り下げ状況のみ示している)を、止水材35を介した当接リブ36同士の当接とボルト34による締結により、互いに連結する。また、パーツ30aについては、先に台上51にて連結済みのパーツ30c、30dのうちパーツ30dと、また、パーツ30bについては、先に台上51にて連結済みのパーツ30c、30dのうちパーツ30cと、上記同様に連結する。また、こうして組み上がった仮締切構造100は、開口21をダム堤体1に向け、止水材7を介してダム堤体上流面3に当接させる。
 
【0020】
  続いて、
図4に示すように、マンホール管8をクレーン81で堤体上より吊り下げて、仮締切構造100のマンホール28に接続し、マンホール28に接続したマンホール管8の上端に他のマンホール管8を順次接続していく(手順3)。このマンホール管8の設置に当たっては、堤体上流側の水域に作業台船40を浮かべて作業員を配置し、クレーン81で吊下したマンホール管8の位置決め、マンホール28とマンホール管8の連結、およびマンホール管8同士の連結といった作業に当たらせる。また、マンホール管8は堤体上流面3に対し、鋼棒など適宜な転倒防止材9で一時的に固定される。
 
【0021】
  次に、
図5に示すように、作業台船40上に設置したポンプ41より、給気ホース42を伸ばして仮締切構造100の給気バルブ27に接続し、仮締切構造100の内空25への圧力空気の給気を開始する(手順4)。また、それとともに、仮締切構造100の排水バルブ29を開き、仮締切構造100の内空25に存在する水を、上述の給気による空気充填に伴って排出し、内空25をドライ状態とする。上述の圧力空気の給気に際し、仮締切構造100の排水バルブ29から空気泡が噴出し始めたら、内空25において完全に排水がなされたことを意味するから、排水バルブ29および給気バルブ27を閉じ、マンホール28のバルブを開放して圧力空気を徐々に逃がし、内空25を大気圧とする。こうして内空25は大気圧となって、仮締切構造100は水圧によって堤体上流面3に押圧される。なお、内空25の水を排水するにあたっては、内空25に予めセットしておいた水中ポンプを、上述の給気バルブ27および排水バルブ29を閉じた状態で稼働させ、マンホール管8の上端から排水を行う方法を採用しても良い。
 
【0022】
  なお、仮締切構造100の内空25の排水を行った際に発生する浮力が、仮締切構造100の空中重量以下となるよう、仮締切構造100の設計を予め行っておけば好適である。例えば、水深17mの位置に直径10000mmの開口を備えた仮締切構造100を設置しようとした場合、凡そ18000kNの浮力が仮締切構造100に生じるという知見を本出願人らは得ているから、この浮力に抗しうる空中重量を備えるよう仮締切構造100の設計を事前に行っておく。浮力に抗しうる空中重量を仮締切構造100に求めるとしても、クレーンによる吊り下げや吊り上げの対象となるのは、仮締切構造100を分割したパーツ30であり、施工に当たって巨大クレーンは必要とならない。
 
【0023】
  こうしてドーム形状の仮締切構造100を貫通穴2における上流側の開口4の位置(開口予定位置4a)に設置して、仮締切構造100の内空25に作業空間を確保した後、
図6に示すように、連結したマンホール管8のうち最上部のマンホール管8の上部に、管理歩廊43を設け、堤体1の上部より移動してきた作業員がこの管理歩廊43、マンホール管8、およびマンホール28を通って仮締切構造100の内空25に入る(手順5)。内空25に入った作業員は、内空25が排水完了状態である事を確認する。一方で、堤体下流側からは、ローダー85など適宜な掘削機が貫通穴2を掘削しているものとする。内空25の排水完了状態の確認の後、ローダー85は、仮締切構造100の内空25と掘削済みの貫通穴2との間に残された部位の掘削を実行する。
 
【0024】
  この掘削が完了し、仮締切構造100の内空25と貫通穴2とが貫通したならば、
図7に示すように、閉鎖ゲート扉体用戸当り47およびベルマウス46の据え付けと空気管45の設置を行う(手順6)。この場合、いずれかのパーツ30と共に水中に吊り下げて、仮締切構造100の内空25に予め載置しておいた閉鎖ゲート扉体用戸当り47およびベルマウス46を堤体1に据え付け、また、貫通穴2において堤体下流から放流管48を搬入し、この放流管48を閉鎖ゲート扉体49およびベルマウス46と接続する。更に、閉鎖ゲート扉体49を閉鎖ゲート扉体用戸当り47およびベルマウス46に接続する。
 
【0025】
  この接続の完了後、放流管48と貫通穴2の内壁との間の空隙など所定領域にコンクリートを打設しておく。また、仮締切構造100の内空25で作業を行っていた作業員を、マンホール管8を介して水上の作業台船40上又は管理歩廊43上に退出させる。
 
【0026】
  続いて、給気バルブ27、排水バルブ29を開き、仮締切構造100の内空25への充水を行う。また、
図8に示すように、マンホール28に連結させていたマンホール管8を順次撤去し、仮締切構造100における上部のパーツ30a、30bと、下部のパーツ30c、30dとの連結を解除した後、上部のパーツ30a、30bをクレーン80によって吊り上げて撤去する(手順7)。
 
【0027】
  次に、
図9に示すように、仮締切構造100における下部のパーツ30c、30dと、仮設構台50との仮固定を解除した後、下部のパーツ30c、30dをクレーン80によって吊り上げて撤去する(手順8)。これらのパーツ30c、30dは連結を解いた上で吊り上げてもよいし、クレーン80の能力によっては連結を解かずに一体のまま吊り上げてもよい。下部のパーツ30c、30dの撤去がなされた後、仮設構台50を撤去し、工程は終了する。
 
【0028】
  なお、上述の実施形態においては、パーツ30らを全て個別に吊り上げ、ないし吊り下げる施工形態を例示したが、複数あるパーツのうち、一群のパーツを連結させた状態で吊り上げや吊り下げを行うとしてもよい。或いは、仮締切構造100の設置時には、堤体1上で組み上がった状態の仮締切構造100を水中に吊り下げる一方、仮締切構造100の撤去時には、仮締切構造100をパーツ30毎に適宜分割して吊り上げるといった施工形態を採用してもよい。いずれにしても、堤体1上に配置するクレーンの能力を含む施工条件に応じ、上記施工形態を柔軟に選択出来る。
 
【0029】
  このように本実施形態によれば、従来よりも小型のクレーンを用いて施工することが可能な仮締切構造を提供できる。
 
【0030】
  本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。