(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、動物の体内に埋設して個体識別のためのID登録用にアンテナコイル部品(タグ用コイル部品)が使用される場合がある。このようなコイル部品においては、円筒状微小カプセルに収容するために、小型微小化、特に径方向または幅方向の寸法を、例えば5mm以内と小さくすることが要望される。
【0003】
上記点から、導線が巻回されるコアには、端部に鍔部を有しない構造のものを使用することが小型化に有利となるとともに、コアの形状精度および反りの発生抑制の点でも有利となる。しかし、鍔部を有しないコアを使用した場合には、その長手方向外周に導線を複数層にソレノイド巻きに巻回した際に、巻線部の端部において巻き崩れが生じ易い問題がある。
【0004】
ソレノイド巻きは一端から他端に向けて導線を巻回して第1層を形成し、他端において一端に向かって反対方向に折り返して第1層の上に第2層を巻回するように繰り返す巻回法である。そして、巻幅方向端部の折り返し部分において、第1層の端部の上に折り返した第2層を巻回する際に、巻き崩れが発生しやすいものであり、巻き崩れによりコイル特性の不良要因となり、しかも巻き崩れが発生したまま導線の巻回を続けると巻き太りが発生し、巻き姿乱れにより小型微小化が阻害され、特に微小化が要求される上記タグ用コイル部品等においては微小カプセルに挿入できない問題がある。
【0005】
上記のような巻き崩れの防止策としては、融着線を使用して巻線部の導線を固定することが考えられている。融着線はボンドなどの結合剤を導線に塗布し、巻回した導線を相互に接合して巻き崩れの防止を図るものであるが、熱により結合剤が溶融して巻線形状が変形するため、特性が安定しないという問題が生じ、また、結合剤が熱膨張してコアに応力が作用し、耐応力特性が大きくなるなどの問題があり、融着線によらない巻き崩れ防止策が好ましい。
【0006】
また、巻き崩れ防止対策を目的としたものではないが、巻線部の端部を下層から上層に移行する際に、1巻回分ずらして上層の巻回を開始し、コアの鍔部の端面との間に楔状のスペースを形成する技術が、下記特許文献1に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の巻線構造では、若干の巻き崩れ防止効果が期待できることが図面上では考えられるが、実際の細い導線の巻回においては、1巻回分ずらすことは実現困難であり、特に手作業により導線の巻回を行う場合には実施困難である。また、1巻回分ずらしても、下層端部の巻回が緩んで、下層導線上に上層導線が乗り上げずに下層導線間の隙間に入ることが頻発し、有効な手法ではない。
【0009】
特許文献1に記載されたコアには鍔部が形成され、この鍔部により実質的に巻線部の巻き崩れ防止が図られており、鍔部の形成が不可欠となっている。そのためコイル部品のサイズが大きくなり、前述のようなアンテナコイル部品(タグ用コイル部品)の要求に答えることができない問題を有している。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、コアに鍔部を有することなく小型化が図れ、また、融着線を使用しないでも巻き崩れを生じることなくソレノイド巻きが行えるように構成したコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るコイル部品は、以下の特徴を備えている。
【0012】
すなわち、本発明に係るコイル部品は、
鍔部を有しない棒状のコアと、コアの長手方向外周に
融着線によらない導線が下層から上層に順次折り返して巻回されるソレノイド巻きに複数層巻回された巻線部とからなるコイル部品であって、
前記巻線部の各巻回層
において、下層巻回層の端部と上層巻回層の端部との間に
、複数巻回分の
スペースを有する巻き崩れ防止用ずれ
部が設けられ、
この巻き崩れ防止用ずれ部は、前記巻線部の各巻回層の巻幅方向両端部に配置され、
前記巻き崩れ防止用ずれ部には、一端が前記下層巻回層の一端と接続されるとともに、他端が前記上層巻回層の一端と接続される中間巻き部が設けられ、
下層巻回層から上層巻回層に移行する場合に、下層巻回層の端部から折り返して
前記中間巻き部は、前記複数巻回分の巻き崩れ防止用ずれ
部の下層巻回層の上に、この部分の下層巻回層の巻回より少ない巻回で、
前記コアの長手方向に対して斜めに
形成され、
前記上層巻回層および下層巻回層の巻回密度は前記中間巻き部の巻回密度よりも密とされていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るコイル部品において、前記巻線部が分割巻きされ、各分割巻き部において、各巻回層の巻幅方向両端部に、下層巻回層の端部と上層巻回層の端部との間に複数巻回分の
スペースを有する巻き崩れ防止用ずれ
部を設定して
融着線によらない導線を巻回するように構成することができる。
【0014】
その際、前記巻線部の分割巻きは、最下層の巻回層においても各分割巻き部に分割されていることが好適である。
【0015】
上記「複数巻回分の巻き崩れ防止用ずれ
部」における「複数巻回分」とは、導線径などの特性によるが、4〜10巻回分が好適であり、良好な巻き崩れ防止が図れる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るコイル部品によれば、鍔部を有しない棒状のコアと、コアの外周に導線が下層から上層に順次折り返して巻き崩れ防止用ずれ
部を設定して巻回されるソレノイド巻きに複数層巻回された巻線部とで構成されていることにより、以下の作用効果を奏することが可能である。
【0017】
すなわち、鍔部を有しない棒状のコアを使用することにより、コアの径または幅を小さくすることができ、サイズの低減によるコンパクト化が可能となり、例えば、微小のアンテナコイル部品(タグ用コイル部品)の要求に対応することができる。
【0018】
また、ソレノイド巻きによる巻線部の各巻回層の巻幅方向両端部に、下層巻回層の端部と上層巻回層の端部との間に複数巻回分の巻き崩れ防止用ずれ
部を設定していることにより、前記コアに鍔部がなくても、巻き崩れが発生することがなく、巻き太りの発生も伴うことなく、導線が整然とした整列状態に巻回された巻線部が構成されることで、安定したコイル特性を確保することができる。
【0019】
さらに、上記巻線部において、下層巻回層から上層巻回層に移行する場合に、下層巻回層の端部から折り返して複数巻回分の巻き崩れ防止用ずれ
部を、少ない巻回で斜めに移行して上層巻回層の密な巻回を開始することにより、各巻回層の巻き崩れ防止用ずれ
部に該当する端部の巻線を外側から押さえるように緩み止めの巻回が行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止することができ、安定した特性を長期間維持することができる。これに加えて、端部巻線部の外径が小さくなり、巻線の巻き始め部分または巻き終わり部分の配線が容易に行える効果を有している。
【0020】
また、前記巻線部が分割巻きされている場合においても、各分割巻き部の各巻回層の両端部に、下層巻回層の端部と上層巻回層の端部との間に複数巻回分の巻き崩れ防止用ずれ
部を設定して導線を巻回していることにより、巻き崩れの発生と緩み止め巻回による巻線乱れの発生を防止することができ、ソレノイド巻きでの分割巻きによる特性を安定して長期間維持することができる。
【0021】
その際、特に、巻線部の分割巻きが最下層の巻回層においても各分割巻き部に分割されている場合には、良好な分割巻き特性が確保できるものである。
【0022】
なお、巻線部の重積する巻回層の数、分割巻きの分割数、および巻き崩れ防止用ずれ
部の巻回数等は、コイル部品の用途、要求性能等に応じた仕様に基づいて適宜設定されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るコイル部品の実施形態について、上記図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係るコイル部品10は、
図1,2に示すように、鍔部を有しない棒状の磁性体によるコア20と、該コア20の長手方向外周に導線3が単純にソレノイド巻きに複数層巻回された巻線部30とを備えてなる。巻線部30は、図示の場合、下層から第1巻回層31、第2巻回層32、上層の第3巻回層33の3層の巻回層により構成されている。
【0026】
ソレノイド巻きの巻線構造を説明すれば、まず、導線3をコア20の左端20Aの近傍から、端部に若干のスペースを残して密に第1巻回層31の左端部31Aの巻回を開始する。
【0027】
上記第1巻回層31の巻回が、コア20の右端20Bの端部に若干のスペースを残して所定位置にまで巻回した第1巻回層31の右端部31Bに到達すると、この部分で折り返して第1巻回層31の上に第2巻回層32の右端部32Aの巻回を開始する。
【0028】
上記第2巻回層32の巻回を開始する際には、第1巻回層31の右端部31Bから複数巻回分(
図1の場合、8巻回分)の巻き崩れ防止用ずれ
部D1を設定して、第2巻回層32の右端部32Aの巻回を開始する。
【0029】
この第1巻回層31の右端部31Bから第2巻回層32の右端部32Aへ移行するときの導線3は、第1巻回層31の右端部31Bから折り返して前記巻き崩れ防止用ずれ
部D1を、少ない巻回(
図1の場合、1/2巻回)で斜めに移行して第2巻回層32の密な巻回を開始するように、斜め巻回31C
(中間巻き部)を行って緩み止め機能を持たせる。つまり、巻き崩れ防止用ずれ
部D1に該当する端部の2巻回以上の巻線3を外側から押さえるように緩み止めの斜め巻回31Cが行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止している。
【0030】
次に、第1巻回層31の上に第2巻回層32の右端部32Aから左端部32Bに向けて導線3を所定数だけ密に巻回して、その下層に位置する第1巻回層31の左端部31Aから、所定の巻き崩れ防止用ずれ
部D2を設定した位置に至る。この左端部32Bにまで巻回すると反対方向に向けて折り返して、第2巻回層32の上に第3巻回層33の左端部33Aの密な巻回を開始する。この折り返しのときには、上記と同様に、第2巻回層32の左端部32Bに巻き崩れ防止用ずれ
部D3を設定するとともに、この巻き崩れ防止用ずれ
部D3を、少ない巻回(
図1の場合、1/2巻回)の斜め巻回32C
(中間巻き部)によって移行して第3巻回層33の左端部33Aから密な巻回を開始する。この場合にも、斜め巻回32Cによって緩み止め機能を持たせ、巻き崩れ防止用ずれ
部D3に該当する端部の2巻回以上の巻線3を外側から押さえるように緩み止めの斜め巻回32Cが行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止している。
【0031】
続いて、第3巻回層33を左端部33Aから右端部33Bにまで導線3を所定数だけ巻回する。最上層の第3巻回層33を右端部33Bまで巻回すると、この右端部33Bの位置は、その下層に位置する第2巻回層32の右端部32Aから、所定の巻き崩れ防止用ずれ
部D4を設定した位置である。第3巻回層33の右端部33Bまでの巻回を終了した導線3は、前記第1巻回層31の巻き始めの導線3と共に、不図示の回路部に接続するために導出される。
【0032】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係るコイル部品50は、
図3,4に示すように、鍔部を有しない棒状の磁性体によるコア20と、該コア20の長手方向外周に導線3がソレノイド巻きに複数層巻回された2つの分割巻き部70,80を有する巻線部60とを備えてなる。
【0033】
上記巻線部60は、図示の場合、コア20の左半分に左分割巻き部70をソレノイド巻きに巻回した後に、コア20の右半分に右分割巻き部80をソレノイド巻きに巻回して構成してなる。各分割巻き部70,80は、それぞれ下層から第1巻回層71,81、第2巻回層72,82、第3巻回層73,83の3層の巻回層により構成されている。
【0034】
巻線構造を説明すれば、まず、導線3をコア20の左端20Aの近傍から、端部に若干のスペースを残して左分割巻き部70の第1巻回層71の左端部71Aの密な巻回を開始する。この第1巻回層71の巻回が、コア20の中央部近傍の所定位置にまで巻回した第1巻回層71の右端部71Bに到達すると、この部分で折り返して、第1巻回層71の右端部71Bから複数巻回分(
図3の場合、7巻回分)の巻き崩れ防止用ずれ
部E1を設定して、第2巻回層72の右端部72Aの巻回を開始する。
【0035】
その際、第1巻回層71の右端部71Bから第2巻回層72の右端部72Aへ移行するときの導線3は、第1巻回層71の右端部71Bから折り返して前記巻き崩れ防止用ずれ
部E1を、少ない巻回(
図3の場合、1/2巻回)で斜めに移行して第2巻回層72の密な巻回を開始するように、斜め巻回71C
(中間巻き部)を行って緩み止め機能を持たせる。つまり、巻き崩れ防止用ずれ
部E1に該当する端部の2巻回以上の巻線3を外側から押さえるように緩み止めの斜め巻回71Cが行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止している。
【0036】
次に、第1巻回層71の上に第2巻回層72の右端部72Aから左端部72Bに向けて導線3を所定数だけ密に巻回して、その下層に位置する第1巻回層71の左端部71Aから、所定の巻き崩れ防止用ずれ
部E2を設定した位置に至る。この左端部72Bにまで巻回すると反対方向に向けて折り返して、第2巻回層72の上に第3巻回層73の左端部73Aの密な巻回を開始する。この折り返しのときには、上記と同様に、第2巻回層72の左端部72Bに巻き崩れ防止用ずれ
部E3を設定するとともに、この巻き崩れ防止用ずれ
部E3を、少ない巻回(
図3の場合、1/2巻回)の斜め巻回72C
(中間巻き部)によって移行して第3巻回層73の左端部73Aから密な巻回を開始する。この場合にも、斜め巻回72Cによって緩み止め機能を持たせ、巻き崩れ防止用ずれ
部E3に該当する端部の2巻回以上の巻線3を外側から押さえるように緩み止めの斜め巻回72Cが行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止している。
【0037】
続いて、第3巻回層73を左端部73Aから右端部73Bにまで導線3を所定数だけ巻回する。最上層の第3巻回層73を右端部73Bまで巻回すると、この右端部73Bの位置は、その下層に位置する第2巻回層72の右端部72Aから、所定の巻き崩れ防止用ずれ
部E4を設定した位置である。
【0038】
第3巻回層73の右端部73Bまでの巻回を終了した導線3は、第2巻回層72の右端部72Aに対する巻き崩れ防止用ずれ
部E4に加えて、第1巻回層71の右端部71Bに対する巻き崩れ防止用ずれ
部E1を含めたずれ量を、少ない巻回(
図3の場合、1/2巻回)の斜め巻回73C(
中間巻き部:実際は背面側)によって移行して、コア20の外周における左分割巻き部70の第1巻回層71の右端部71Bに続いて、右分割巻き部80の第1巻回層81の左端部81Aの巻回を開始する。なお、上記斜め巻回73Cは、
図3において背面側に位置しており、破線で描画すべきであるが、明確となるように実線で描画している。
【0039】
右分割巻き部80の第1巻回層81の巻回が、コア20の右端20Bの端部に若干のスペースを残して所定位置にまで巻回した第1巻回層81の右端部81Bに到達すると、この部分で折り返して、第1巻回層81の右端部81Bから複数巻回分(
図3の場合、6巻回分)の巻き崩れ防止用ずれ
部E5を設定して、第2巻回層82の右端部82Aの巻回を開始する。
【0040】
その際、第1巻回層81の右端部81Bから第2巻回層82の右端部82Aへ移行するときの導線3は、第1巻回層81の右端部81Bから折り返して前記巻き崩れ防止用ずれ
部E5を、少ない巻回(
図3の場合、1/2巻回)で斜めに移行して第2巻回層82の密な巻回を開始するように、斜め巻回81C
(中間巻き部)を行って緩み止め機能を持たせる。つまり、巻き崩れ防止用ずれ
部E5に該当する端部の2巻回以上の巻線3を外側から押さえるように緩み止めの斜め巻回81Cが行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止している。
【0041】
次に、第1巻回層81の上に第2巻回層82の右端部82Aから左端部82Bに向けて導線3を所定数だけ密に巻回して、その下層に位置する第1巻回層81の左端部81Aから、所定の巻き崩れ防止用ずれ
部E6を設定した位置に至る。この左端部82Bにまで巻回すると反対方向に向けて折り返して、第2巻回層82の上に第3巻回層83の左端部83Aの密な巻回を開始する。この折り返しのときには、上記と同様に、第2巻回層82の左端部82Bに巻き崩れ防止用ずれ
部E7を設定するとともに、この巻き崩れ防止用ずれ
部E7を、少ない巻回(
図3の場合、1/2巻回)の斜め巻回82C
(中間巻き部)によって移行して第3巻回層83の左端部83Aから密な巻回を開始する。この場合にも、斜め巻回82Cによって緩み止め機能を持たせ、巻き崩れ防止用ずれ
部E7に該当する端部の2巻回以上の巻線3を外側から押さえるように緩み止めの斜め巻回82Cが行われて、巻き崩れの防止に加えて緩み止めによる巻線乱れの発生を防止している。
【0042】
続いて、第3巻回層83を左端部83Aから右端部83Bにまで導線3を所定数だけ巻回する。最上層の第3巻回層83を右端部83Bまで巻回すると、この右端部83Bの位置は、その下層に位置する第2巻回層82の右端部82Aから、所定の巻き崩れ防止用ずれ
部E8を設定した位置である。
【0043】
第3巻回層83の右端部83Bまでの巻回を終了した導線3は、前記左分割巻き部70の巻き始めの導線3と共に、不図示の回路部に接続するために導出される。
【0044】
<その他の変更態様>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に態様が限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態においては、コア20の形状は断面円形の丸棒形状を想定しているが、断面矩形または断面楕円もしくは長円形の扁平棒形状でもよく、その他、小型化が可能な種々の形状のものに変更することが可能である。