(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1および2に記載の製造方法は、高価なフッ素化剤を用いるため工業的な製造には不向きであった。
【0007】
非特許文献3に記載の製造方法は、液相法および気相法共に収率が低かった(それぞれ28%、11%)。また、気相法は毒性の高い酸化水銀を活性炭に担持した触媒を必要とし、さらに反応装置が複雑で操作も煩雑であった。
【0008】
一般にジェミナルジフルオロ化合物の製造においては、目的物中のジフルオロメチレン(CF
2)基が芳香環に直接結合するか否かで収率が大きく影響されることが知られている。例えば、アセチレン化合物の三重結合にフッ化水素を2分子付加させるジェミナルジフルオロ化合物の製造方法が報告されているが[J.Org.Chem.(米国),1979年,第44巻,p.3872、非特許文献3]、2,2−ジフルオロヘキサンおよび3,3−ジフルオロヘキサンは高収率で得られるが(それぞれ70%、75%)、α,α−ジフルオロエチルベンゼンは低収率でしか得られない[液相法18%。比較例1;1−ブロモ−4−(1,1−ジフルオロエチル)ベンゼンも5%未満]。また、トリフルオロメチルカルボニルオキシ(CF
3CO
2)基を2つ有するアシラールを経るカルボニル化合物の脱オキソジフッ素化反応が報告されているが[J.Fluorine Chem.(オランダ),2010年,第131巻,p.29、特開平1−199922]、1,1−ジフルオロシクロヘキサンは記載の高収率(91%)を再現できるが、α,α−ジフルオロエチルベンゼンは全く再現できない[記載収率90%、比較例2;10%未満、1−ブロモ−4−(1,1−ジフルオロエチル)ベンゼンも15%程度]。さらに、本発明者らは、含フッ素硫酸エノールエステル類をフッ素化剤と反応させる工程を含むジェミナルジフルオロ化合物の製造方法を特許出願しているが(特願2011−166797/ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法)、本製造方法においても目的物中のCF
2基が芳香環に直接結合する場合は収率が有意に低下した(比較例3vs.4)。
【0009】
上述の通り、高収率を期待し難いα,α−ジフルオロ芳香族化合物(CF
2基が芳香環に直接結合)の製造において、毒性の高い触媒を必要とせず、反応装置が簡単で操作も簡便であり、安価で且つ収率良く工業的に製造できる方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、非特許文献3においてフッ素化剤として用いられていたフッ化水素を“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”に置き換えることにより、所望の反応が極めて良好に進行することを見出し、本発明に到達した。フッ素化剤としてフッ化水素が用いられていた時の問題点であった、加水分解体(原料基質がα−クロロスチレンの場合はアセトフェノン)やタールの副生が格段に抑えられ、目的物が高収率で得られることを明らかにした。
【0011】
具体的には、本発明者らは、1−クロロ−1−芳香環置換エテン類を“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”と反応させることによりα,α−ジフルオロ芳香族化合物が収率良く製造できることを見出した。1−クロロ−1−芳香環置換エテン類は、1位の芳香環部位が芳香族炭化水素基または置換芳香族炭化水素基であり、且つ2位の2つの置換基が共に水素原子であるものが好ましく、得られる生成物が医農薬中間体として特に重要である。“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”は、“ピリジンとフッ化水素とからなる塩または錯体”あるいは“トリエチルアミンとフッ化水素とからなる塩または錯体”が好ましく、“ピリジンとフッ化水素とからなる塩または錯体”が特に好ましく、安価に大量規模で安価に入手することができる。
【0012】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明4]を含み、α,α−ジフルオロ芳香族化合物の製造方法を提供する。本発明で開示する製造方法は、従来一切報告されておらず新規である。
【0013】
[発明1]
一般式[1]:
【化1】
【0014】
[式中、Ar
1は芳香環基または置換芳香環基を表し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Ar
1とR
1、Ar
1とR
2、あるいは、R
1とR
2は共有結合により環式構造を形成することもできる。]
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類を、有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体と反応させる工程を含む、一般式[2]:
【化2】
【0015】
[式中、Ar
1、R
1およびR
2は一般式[1]と同じである。]
で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物の製造方法。
【0016】
[発明2]
一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類が、一般式[3]:
【化3】
【0017】
[式中、Ar
2は芳香族炭化水素基または置換芳香族炭化水素基を表す。]
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類であり、一般式[2]で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物が、一般式[4]:
【化4】
【0018】
[式中、Ar
2は一般式[3]と同じである。]
で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物である、発明1に記載の方法。
【0019】
[発明3]
有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体が、ピリジンとフッ化水素とからなる塩または錯体、あるいは、トリエチルアミンとフッ化水素とからなる塩または錯体である、発明1または発明2に記載の方法。
【0020】
[発明4]
有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体が、ピリジンとフッ化水素とからなる塩または錯体である、発明1または発明2に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明で用いる1−クロロ−1−芳香環置換エテン類および“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”は、比較的安価に大量規模で安価に入手することができる。また、採用する反応条件が緩和なため選択性が高く収率も良好である。さらに、毒性の高い触媒を必要とせず、反応装置が簡単で操作も簡便である。この様に、本発明はα,α−ジフルオロ芳香族化合物の工業的な製造方法として非常に有用である。
【0022】
また、本発明は、非特許文献3に比べて優位性が明らかである[比較例5;非特許文献3を参考にして1−ブロモ−4−(1,1−ジフルオロエチル)ベンゼンを同様に製造しても収率は低い]。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のα,α−ジフルオロ芳香族化合物の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、公開公報や特許出願等の特許文献、その他の非特許文献および成書は、参照として本明細書に組み込まれるものとする。
【0025】
一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類のR
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す。その中でもR
1およびR
2が共に水素原子が好ましい。該アルキル基は、炭素数1〜18の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)のものである。該芳香環基は、炭素数1〜18の、フェニル基、ナフチル基およびアントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。該置換アルキル基および置換芳香環基は、それぞれ前記のアルキル基および芳香環基の、任意の炭素原子または窒素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素のハロゲン原子、ニトロ基、メチル基、エチル基およびプロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基およびブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基およびブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基およびブチリルオキシ基等の低級アシルオキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基、ならびにヒドロキシル基の保護体等である。さらに、該置換アルキル基は、前記のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合が、任意の数および任意の組み合わせで、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合に置き換わることもできる(当然、これらの不飽和結合に部分的に置き換わったアルキル基は、前記の置換基を同様に有することもできる。また、これらの不飽和結合にフッ化水素が付加する可能性もあるが、本発明の好適な反応条件を採用することにより所望の反応だけを選択的に行うことができる)。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1〜6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。また、前記の“係る置換基は”の“芳香環基”には、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、ホルミルオキシ基、低級アシルオキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基およびヒドロキシル基の保護体等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。
【0026】
一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類のAr
1は、芳香環基または置換芳香環基を表す。該芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類のR
1およびR
2に記載した芳香環基および置換芳香環基と同じである。その中でも芳香族炭化水素基または置換芳香族炭化水素基が好ましい。
【0027】
一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類のAr
1とR
1、Ar
1とR
2、あるいは、R
1とR
2は、共有結合により環式構造を形成することもできる。具体的には、Ar
1とR
1、Ar
1とR
2、あるいは、R
1とR
2の間で、任意の炭素原子同士で(窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を介することもできる)、且つ任意の数および任意の組み合わせで、共有結合により環式構造(例えば、単環式、縮合多環式、架橋、スピロ環、環集合等)を形成することもできる[但し、共有結合に関与することができない置換基(水素原子)は除かれる]。
【0028】
一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類としては、Ar
1が芳香族炭化水素基または置換芳香族炭化水素基であり、且つR
1およびR
2が共に水素原子であるものが好ましい(一般式[3]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類に対応)。
【0029】
一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類は、日本化学会編 第4版実験化学講座19 有機合成I 炭化水素・ハロゲン化合物 丸善株式会社 p.416〜460、日本化学会編 第5版実験化学講座13 有機化合物の合成I 炭化水素・ハロゲン化物 丸善株式会社 p.374〜443等を参考にして同様に製造することができる(参考例1、2)。原料基質の調製方法によっては、一般式[5]:
【化5】
【0030】
[式中、Ar
1は芳香環基または置換芳香環基を表し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表し、Ar
1とR
1、Ar
1とR
2、あるいは、R
1とR
2は共有結合により環式構造を形成することもできる。]
で示されるα,α−ジクロロ芳香族化合物が副生成物として含まれる場合がある。該副生成物からも本発明の目的物であるα,α−ジフルオロ芳香族化合物が比較的収率良く得られることがある。よって、一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類に、一般式[5]で示されるα,α−ジクロロ芳香族化合物がマイナー成分(1−クロロ−1−芳香環置換エテン類>α,α−ジクロロ芳香族化合物の関係)として含まれる場合も、本発明の請求項に記載した原料基質として扱う。
【0031】
“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”における有機塩基は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、N−メチルピペリジン、4−メチルモルホリン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,3,4−コリジン、2,4,5−コリジン、2,5,6−コリジン、2,4,6−コリジン、3,4,5−コリジン、3,5,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等である。但し、これらに限定されず、有機合成において一般的に用いられる有機塩基も採用することができる。その中でもトリエチルアミンおよびピリジンが好ましく、ピリジンが特に好ましい。これらの有機塩基は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。また、反応系中で調製された”有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”も、本発明の請求項に含まれるものとして扱う。例えば、原料基質と有機塩基を含む混合物(必要に応じて反応溶媒も含む)に、フッ化水素を徐々に加える場合等である。
【0032】
“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”の有機塩基とフッ化水素のmol比は、100:1から1:100の範囲で用いれば良く、50:1から1:50が好ましく、25:1から1:25が特に好ましい。アルドリッチ(Aldrich、2009−2010カタログ)から市販されている“トリエチルアミン1molとフッ化水素3molとからなる錯体”または“ピリジン〜30%(〜10mol%)とフッ化水素〜70%(〜90mol%)とからなる錯体”を用いるのが便利である。
【0033】
“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”としては、“ピリジンとフッ化水素とからなる塩または錯体”または“トリエチルアミンとフッ化水素とからなる塩または錯体”が好ましく、“ピリジンとフッ化水素とからなる塩または錯体”が特に好ましい。
【0034】
“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”の使用量は、一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類1molに対して、フッ化水素(HF)として1.4mol以上を用いれば良く、1.6〜2000molが好ましく、1.8〜1000molが特に好ましい。
【0035】
本発明は、一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類を酸触媒の存在下に“有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体”と反応させることにより、一般式[2]で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物が格段に収率良く得られる場合がある。但し、本発明の好適な反応条件を採用することにより、酸触媒の非存在下でも所望の反応を円滑に行うことができる(本発明に酸触媒は必須でない)。係る酸触媒としては、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、過塩素酸、フルオロ硫酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、三弗化ホウ素、三弗化アンチモン、五弗化アンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、三弗化二塩化アンチモン、五弗化ヨウ素および七弗化ヨウ素等の無機酸、ならびに2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。これらの酸触媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0036】
反応溶媒は、n−ヘキサンおよびn−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタンおよびα,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン系、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランおよび2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル系、酢酸エチルおよび酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミドおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリルおよびプロピオニトリル等のニトリル系、ならびにジメチルスルホキシド等である。その中でもハロゲン系、エーテル系、アミド系およびニトリル系が好ましく、ハロゲン系およびエーテル系が特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0037】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類1molに対して0.0001L(リットル)以上を用いれば良く、0.0005〜30Lが好ましく、0.001〜15Lが特に好ましい。本反応は、反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0038】
反応温度は、−50〜+150℃の範囲で行えば良く、−40〜+125℃が好ましく、−30〜+100℃が特に好ましい。
【0039】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質、反応剤および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0040】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[2]で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物を得ることができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、分別蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により高い純度に精製することができる。
【0041】
[実施例]
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
フッ素樹脂ライニングの反応容器に、下記式:
【化6】
【0043】
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類5.60g(ガスクロマトグラフィー純度64.1%、α,α−ジクロロ芳香族化合物17.9%、計20.5mmol、1.00eq)と塩化メチレン26.0mL(1.27L/mol)を加え、5℃に冷却し、“ピリジンとフッ化水素とからなる錯体”3.54g(フッ化水素含有率65.0%、フッ化水素として115mmol、5.61eq)を加え(2相系)、同温度で40分、室温で終夜激しく攪拌した。反応終了液をクロロホルム50mLで希釈し、水20mLで洗浄し、水30mLで洗浄し、5%炭酸カリウム水溶液30mLで洗浄し、10%食塩水で洗浄し、回収有機層を
19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式:
【化7】
【0044】
で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物が15.1mmol含まれていた。内部標準法による収率は74%であった。回収有機層のガスクロマトグラフィー分析より変換率と純度は、それぞれ97%、78.7%(4−ブロモアセトフェノンが4.1%)であった。回収有機層の
1Hと
19F−NMRを下に示す。
【0045】
1H−NMR(基準物質;Me
4Si、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;1.89(t、3H)、7.46(Ar−H、4H)。
【0046】
19F−NMR(基準物質;C
6F
6、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;73.93(q、2F)。
【実施例2】
【0047】
フッ素樹脂ライニングの反応容器に、下記式:
【化8】
【0048】
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類5.00g(ガスクロマトグラフィー純度99.5%、35.9mmol、1.00eq)と塩化メチレン36.0mL(1.00L/mol)を加え、5℃に冷却し、“ピリジンとフッ化水素とからなる錯体”5.55g(フッ化水素含有率65.0%、フッ化水素として180mmol、5.01eq)を加え(2相系)、20℃で3時間10分激しく攪拌した。反応終了液をクロロホルム30mLで希釈し、水10mLで洗浄し、水20mLで2回洗浄し、5%炭酸カリウム水溶液30mLで洗浄し、10%食塩水10mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、回収有機層を
19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式:
【化9】
【0049】
で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物が19.7mmol含まれていた。内部標準法による収率は55%であった。回収有機層のガスクロマトグラフィー分析より変換率と純度は、それぞれ98%、75.6%(アセトフェノンが0.6%)であった。回収有機層の
1Hと
19F−NMRを下に示す。
【0050】
1H−NMR(基準物質;Me
4Si、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;1.92(t、3H)、7.47(Ar−H、5H)。
【0051】
19F−NMR(基準物質;C
6F
6、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;74.02(q、2F)。
【0052】
[参考例1]
トルエン289mL(0.576L/mol)に、五塩化リン131g(629mmol、1.25eq)と下記式:
【化10】
【0053】
で示される4−ブロモアセトフェノン100g(502mmol、1.00eq)を加え、油浴温度を73℃に設定し、3時間攪拌した(塩化水素が発生)。反応終了液にトルエン116mLを加え、氷水300mLに注ぎ込み、回収有機層を水200mLで洗浄し、10%食塩水200mLで洗浄し、減圧濃縮することにより、下記式:
【化11】
【0054】
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類の粗体154gを得た。
【0055】
上記で得られた1−クロロ−1−芳香環置換エテン類の粗体全量を分別蒸留(沸点92〜104℃、減圧度0.3kPa)することにより、精製品77.4gを得た。精製品のガスクロマトグラフィー純度は74.6%であり、下記式:
【化12】
【0056】
で示されるα,α−ジクロロ芳香族化合物と4−ブロモアセトフェノンがそれぞれ21.2%、1.7%含まれていた。純度換算した収率(α,α−ジクロロ芳香族化合物も含む)は66%であった。精製品の
1H−NMRを下に示す。
【0057】
1H−NMR(基準物質;Me
4Si、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;5.54(d、1H)、5.77(d、1H)、7.52(Ar−H、2H)、7.62(Ar−H、2H)。
【0058】
[参考例2]
下記式:
【化13】
【0059】
で示されるエチルベンゼン212g(2.00mol、1.00eq)に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.84g(11.2mmol、0.00560eq)を加え、内温20〜50℃で撹拌しながら塩素(Cl
2)ガスを1.00mol/時間で4時間30分吹き込み(計4.50mol、2.25eq;α,α−ジクロロ化)、内温113〜134℃で2時間30分撹拌した(脱塩化水素化)。同様の反応を繰り返し行い、反応終了液を合わせて分別蒸留(沸点86℃、減圧度3.5kPa)することにより、下記式:
【化14】
【0060】
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類の精製品288gを得た。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.5%であった(α,α−ジクロロ芳香族化合物は含まれていなかった)。純度換算した収率は52%であった。精製品の
1H−NMRを下に示す。
【0061】
1H−NMR(基準物質;Me
4Si、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;5.52(m、1H)、5.76(m、1H)、7.36(Ar−H、3H)、7.63(Ar−H、2H)。
【0062】
[比較例1]
フッ素樹脂ライニングの反応容器に、フッ化水素220mg(11.0mmol、19.9eq)と塩化メチレン0.300mL(0.543L/mol)を加え、5℃に冷却し、下記式:
【化15】
【0063】
で示される1−ブロモ−4−エチニルベンゼン100mg(0.552mmol、1.00eq)を加え(2相系)、同温度で2時間激しく攪拌した。反応終了液をクロロホルム5mLで希釈し、水5mLで洗浄し、5%炭酸カリウム水溶液5mLで洗浄し、回収有機層を
19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式:
【化16】
【0064】
で示される1−ブロモ−4−(1,1−ジフルオロエチル)ベンゼンが27.6μmol未満しか含まれていなかった。内部標準法による収率は5%未満であった。回収有機層のガスクロマトグラフィー分析より変換率と純度は、それぞれ100%、0.6%(4−ブロモアセトフェノンが87.5%)であった。
【0065】
[比較例2]
下記式:
【化17】
【0066】
で示されるアセトフェノン1.00g(8.32mmol、1.00eq)に、トリフルオロ酢酸無水物4.37g(20.8mmol、2.50eq)を加え、35℃で4日間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より変換率と、下記式:
【化18】
【0067】
で示されるCF
3CO
2基を2つ有するアシラール、および、下記式:
【化19】
【0068】
で示されるトリフルオロ酢酸エノールエステルの純度は、それぞれ52%、15.2%、16.4%であった。反応終了液に対して特開平1−199922の実施例1と同様の後処理操作を行い、さらに同様のフッ素化工程を行ったが、下記式:
【化20】
【0069】
で示されるα,α−ジフルオロエチルベンゼンが0.832mmol未満しか含まれていなかった。内部標準法による収率は10%未満であった。
【0070】
別に原料基質として4−ブロモアセトフェノンを用いて同様のアシラール化工程とフッ素化工程を行ったが、対応する1−ブロモ−4−(1,1−ジフルオロエチル)ベンゼンの収率は15%程度であった。
【0071】
一方でシクロヘキサノンは、1,1−ジフルオロシクロヘキサンを収率87%で与えた。
【0072】
[比較例3]
フッ素樹脂ライニングの反応容器を−5℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素3.45g(172mmol、20.0eq)、下記式:
【化21】
【0073】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類2.00g(8.61mmol、1.00eq)、クロロホルム0.200mL(0.0232L/mol)とトリフルオロ酢酸196mg(1.72mmol、0.200eq)を加え、−5℃で3時間15分攪拌した。反応終了液をクロロホルム10mLで希釈し、水10mLと5mLで2回洗浄し、10%炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、10%食塩水5mLで洗浄し、回収有機層を
19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;ヘキサフルオロベンゼン)で定量したところ、下記式:
【化22】
【0074】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が6.59mmol含まれていた。内部標準法による収率は77%であった。
19F−NMRを下に示す。
【0075】
19F−NMR(基準物質;C
6F
6、重溶媒;CDCl
3)、δ ppm;71.45(m、2F)。
【0076】
[比較例4]
フッ素樹脂ライニングの反応容器を−5℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素1.56g(78.0mmol、19.7eq)、下記式:
【化23】
【0077】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類1.00g(3.96mmol、1.00eq)、クロロホルム0.100mL(0.0253L/mol)とトリフルオロ酢酸90.3mg(0.792mmol、0.200eq)を加え、−5℃で3時間攪拌した。反応終了液をクロロホルム5mLで希釈し、水5mLと2.5mLで2回洗浄し、10%炭酸カリウム水溶液5mLで洗浄し、10%食塩水2.5mLで洗浄し、回収有機層を
19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;ヘキサフルオロベンゼン)で定量したところ、下記式:
【化24】
【0078】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が0.396mmol未満しか含まれていなかった。内部標準法による収率は10%未満であった。
[比較例5]
【0079】
フッ素樹脂ライニングの反応容器に、フッ化水素1.84g(92.0mmol、20.4eq)を加え、−5℃に冷却し、下記式:
【化25】
【0080】
で示される1−クロロ−1−芳香環置換エテン類1.06g(ガスクロマトグラフィー純度74.6%、α,α−ジクロロ芳香族化合物21.2%、計4.52mmol、1.00eq)を加え(2相系)、同温度で30分、5℃で1時間攪拌した。実施例1と同様の後処理操作を行い、回収有機層のガスクロマトグラフィー分析より変換率と、下記式:
【化26】
【0081】
で示されるα,α−ジフルオロ芳香族化合物の純度は、それぞれ100%、10.0%未満(4−ブロモアセトフェノンが63.5%)であった。