【実施例1】
【0026】
図1は、本発明に係るX線検査装置の概略構成を示す図である。当該X線検査装置は、X線源1から照射されるX線をディテクタ2にて検出することで、検査対象物のX線撮像を行い、その撮像結果に基づいて検査対象物の検査を行う装置である。X線検査装置においては、X線源1は、ガイド7上に搭載され、図示しないモータの駆動力によってガイド7上をZ軸方向(
図1に示すZ3軸方向)に移動する。また、X線源1からのX線を検出可能な位置にディテクタ2を位置決めするためにXYステージ3が配置されている。このXYステージ3は、Z軸方向に直行するXY平面上を移動可能である。当該XY面上のX軸方向(
図1に示すX1軸方向)の移動は、ガイド4に沿って図示しないモータの駆動力によって行われ、当該XY面上のY軸方向(
図1に示すY1軸方向)の移動は、ガイド5に沿って図示しないモータの駆動力によって行われる。
【0027】
更に、
図1に示すように、XYステージ3に垂下するようにディテクタ2が取り付けられているが、このXYステージ3とディテクタ2との距離(
図1に示すZ1軸方向の距離)は、図示しないアクチュエータによって変更可能である。このようにX線源1のZ3軸に沿った移動、およびディテクタ2のZ1軸に沿った移動により、検査対象物とX線源等の相対的な距離を変更することが可能になり、その結果、検出結果の倍率等を調整することが可能である。
【0028】
ここで、
図1に示すX線検査装置では、X線源1からのX線が照射される領域(以下、単に「照射領域」という)に、検査対象物20が搬入されるための構成が設けられている。具体的には、複数の検査対象物20を収容した搬送トレイ8が、ガイド6に沿ってその照射領域に搬送される。なお、
図1は、9個の検査対象物20が搬送トレイに収容された状態で、撮像のためのX線照射領域に搬送された状態を示している。このような照射領域への搬送は、Y軸方向(
図1に示すY2軸方向)の搬送となる。また、
図1に示すX線検査装置では、搬送トレイ8が照射領域内の任意の位置に存在できるように、Y軸方向(
図1に示すY2軸方向)およびそれに直交するX軸方向(
図1に示すX2軸方向)に移動可能とされる。この結果、搬送トレイ8に複数の検査対象物20を収容した状態で、X線源1に対して各検査対象物20の位置や姿勢を異ならせることができる。なお、搬送トレイ8の搬送およびX線源1に対する位置等の調整のための駆動源は、X2軸およびY2軸に沿った駆動力を供給する図示しないモータである。
【0029】
更に、搬送トレイ8における検査対象物20の収容状態について、
図4Aに基づいて説明する。搬送トレイ8には、検査対象物を収容できる空間としての凹部8aが複数形成されている。この凹部8aの1つには、1つの検査対象物20が収容されるものであり、したがって、
図1に示す搬送トレイ8には、9つの凹部8aが形成され、それぞれに検査対象物20が収容されている。そして、検査対象物20が凹部8aに収容された状態において、検査対象物20は凹部8aの開口部から突出する箇所がないように、該凹部の深さが設定されている。なお、各凹部8aへの検査対象物20の収容については、従来技術によるロボットのマニピュレータ等を利用してもよい。
【0030】
このように構成されるX線検査装置の各軸の駆動は、制御装置9からの指令に基づいて行われる。制御装置9は、内部にRAMやROM等のメモリを有し、X線検査のための各種のプログラムを実行可能なコンピュータとして形成される。また、
図1に示されていない各種のセンサ(例えば、位置を検出するセンサ等)と制御装置9は電気的に接続され、その検出値を利用してX線検査のための処理が行われる。
【0031】
ここで、
図1に示すX線検査装置では、検査対象物20とX線源1との相対位置を異ならせて、複数のX線撮像を行い、その撮像結果を踏まえて3D画像を生成する。このようにすることで、検査対象物20の詳細な検査が実現可能となる。なお、X線撮像を用いた
3D画像の形成については、従来技術であるので本明細書ではその説明は割愛する。このように複数回のX線撮像を行うために、X線検査装置では、搬送トレイ8に複数の検査対象物20を、対応する凹部8aにそれぞれ収容した状態でX2軸方向とY2軸方向に移動させ、その都度、X線源1とディテクタ2によるX線撮像を行う。しかし、このように搬送トレイ8の移動を行うと、その移動に起因した振動が搬送トレイ8内の検査対象物20に伝わり、凹部8a内で微小ながらも検査対象物20の位置や姿勢がずれるおそれがあり、X線検査に必要な3D画像を精度よく作ることが難しくなる。
【0032】
そこで、本発明に係るX線検査装置では、上記のようにX線撮像に際して、搬送トレイ8をX線源1に対して相対移動させる場合に、検査対象物20の位置ずれ等が発生しないように、凹部8a内に収容されている検査対象物20を好適に固定する構成(
図1に、固定装置10として示される構成)を採用した。その固定構成について、
図2、3に基づいて具体的に説明する。
図2は、X線検査装置において、固定装置10が搬送トレイ8上に配置された状態を上方から見た図である。なお、説明を簡便にするために、
図2においては、ディテクタ2およびXYステージ3等の構成は省略している。また、
図3は、
図2におけるA−A断面図である。
【0033】
これらの図に示すように、固定装置10は、非金属またはアルミニウム等のX線透過度の高い金属で形成されたフレーム11と、その下面に設けられた、スポンジやゴム等の非金属またはアルミニウム等のX線透過度の高い金属で形成され、弾性力を付与し得る弾性部材12とで構成されている。この弾性部材12は、搬送トレイ8に設けられた凹部8aを全て覆うことが可能な程度の面積を有する一枚のシート状に形成されている。そして、X線源1とディテクタ2によるX線撮像が行われる前に、固定装置10による検査対象物20の固定が行われる。その固定の具体的な状態について、
図4Aおよび
図4Bに基づいて説明する。
【0034】
図4Aは、固定装置10における弾性部材12の下面が、搬送トレイ8に触れていない状態(
図3を参照)を示している。すなわち、
図4Aは、固定装置10を搬送トレイ8の上方に配置している状態を示すものであり、この状態では、固定装置10による検査対象物20の固定はまだ行われていない。そして、固定装置10が搬送トレイ8に近接するように下降されていくと、弾性部材12の下面が先ず搬送トレイ8の表面に接触する。更に、固定装置10が下降されていくと、弾性部材12が弾性変形していき、凹部8aの中に弾性部材12の一部が入り込んでいくとともに、凹部8a内に収容されている検査対象物20に接触し、押圧力を伝えていく。そして、最終的に固定装置10の下降が完了し、その下降状態が保持されるように搬送トレイ8に対して固定装置10が固定された状態に至る。なお、この状態を
図4Bに示すが、
図4Bは、弾性部材12と検査対象物20との接触状態を容易に把握できるように、固定装置10を切断した状態で示している。
【0035】
図4Bに示すように、固定装置10が搬送トレイ8に対して固定された状態に至ると、弾性変形した弾性部材12が、凹部8内の検査対象物20に対して弾性による押圧力を付与している状態となる。その結果、検査対象物20は凹部8a内に固定された状態となり、上述したようにX線撮像に際して、搬送トレイ8をX線源1に対して相対的に移動させても凹部8a内で検査対象物20が位置ずれ等を起こさない。なお、固定装置10を形成するフレーム11および弾性部材12は非金属であるため、X線源1から照射されるX線はこれらを透過する。したがって、この場合、ディテクタ2で検出されるX線撮像には影響は及ばない。
【0036】
ここで、
図1に示すX線検査装置における検査対象物20のX線検査のための制御について、
図5に基づいて説明する。
図5に示す検査制御は、搬送トレイ8に複数の検査対象物20を収容した状態で、各検査対象物20のX線撮像による3D画像を取得して、その
検査を行うための制御である。当該検査制御は、制御装置9によって実行される。
【0037】
先ず、S101では、搬送トレイ8に収容された検査対象物に対して行われるべき検査プログラムが選択される。当該検査プログラムは、制御部内のメモリに記憶されており、検査対象物20において行われるべき検査内容を考慮して、検査プログラムの選択が行われる。そして、選択された検査プログラムに応じて、X線源1およびディテクタ2を用いたX線撮像の回数や、X線源1に対する搬送トレイ8の相対的な位置等が設定されることになる。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0038】
S102では、X線検査装置におけるX線の照射領域に、複数の検査対象物20を収容した搬送トレイ8が搬入される。上記の通り、当該搬入はY2軸方向に沿った搬送トレイ8の移動であり、搬送トレイ8の停止位置は赤外線センサ等を利用して適宜制御される。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0039】
S103では、より正確な搬送トレイ8の位置決めが行われる。具体的には、搬送のためのガイド6の間の距離は、搬送トレイ8が円滑に搬送されるように、搬送トレイ8の幅よりも若干広く設定されている。したがって、S102での搬送トレイ8の停止処理においては、Y2軸方向の位置は比較的精度よく維持されているが、X2軸方向の位置は特段の調整がなされていない。そこで、S103ではX2軸方向の、搬送トレイ8の位置決めが精度よく調整される。例えば、X2軸方向において基準となる位置決めプレート等に搬送トレイ8を押し当てる等して、その位置決めを行う。S103の処理が終了すると、S104へ進む。
【0040】
S104では、
図4A、
図4B等に基づいて説明したように、位置決めが行われた搬送トレイ8に対して、その上方から固定装置10を下降させることで、弾性部材12を利用した検査対象物20の、凹部8a内での固定を行う。S103で搬送トレイ8を適切に位置決めしているため、搬送トレイ10に対して固定装置10を適切な位置に下降させることが可能となる。S104の処理が終了すると、S105へ進む。
【0041】
S105では、S101で選択された検査プログラムに応じて、X線源1およびディテクタ2を用いたX線撮像の条件の読み込みが行われる。例えば、検査に必要な3D画像を得るために、X線源1に対して搬送トレイ8が取るべき相対的位置と、その撮像回数等の条件の読み込みが行われる。S105の処理が終了すると、S106〜S108の処理が繰り返し行われる。すなわち、S106では、X線源1からのX線照射による撮像が行われ、そして、次の撮影条件に応じた搬送トレイ8の位置決めを行うために、搬送トレイ8のX2軸方向およびY2軸方向の移動が行われる。なお、ディテクタ2によって撮像されたデータは、撮像が行われるごとに、制御装置9内のメモリに記憶される。そして、S108においては、X線源1からのX線照射による撮像が終わったか否かが判定され、肯定判定されればS109へ進み、否定判定されれば再びS106以降の処理が行われることになる。
【0042】
そして、S108では、一つの搬送トレイ8に収容された複数の検査対象物20に対して行われた、複数回のX線撮像結果に基づいて、当該複数の検査対象物20の検査判定が行われる。この検査判定における具体的な処理は、S101で選択された検査プログラムに応じて行われる。例えば、検査対象物20における欠損の有無等を、複数回のX線撮像結果から生成された3D画像に基づいて判定される。なお、この検査判定の結果は、X線検査装置の、図示しない表示装置や報知装置等を通して、検査者に対して通知される。S109の処理が終了すると、S110へ進み、そこでは、X線検査装置の照射領域から、検査済みの搬送トレイ8を搬出する。なお、この搬出時には、固定装置10による固定を解除するために、搬送トレイ8に対して押圧されていた固定装置10を上昇させる。
【0043】
このように行われる検査制御では、複数の検査対象物20に関する検査を一回の検査制御によって行うことができる。このとき、X線撮像を行う前に、固定装置10によって、各検査対象物20を、それぞれが収容されている凹部8aに対して固定するため、X線源1に対する搬送トレイ8の相対的移動に起因する、検査対象物20の位置ずれ等を確実に防ぐことができる。また、X線撮像時に検査対象物20とディテクタ2との間に固定装置10が存在することになるが、固定装置10は非金属で形成されるため、X線撮像結果に影響を及ぼすことはない。
【0044】
なお、固定装置10の全てを非金属の部材で形成する必要はなく、少なくとも、X線が照射される領域において、非金属部材等のX線を透過しやすい部材が使用されればよく、それ以外の領域では、X線検査装置の強度や部品の耐摩耗性を考慮して、必要な部材を使用することが可能である。また、上記実施例では、複数回の撮像を行うにあたり、X線源1に対して搬送トレイ8を移動させたが、それに代えて、搬送トレイ8を固定した状態でX線源1を移動させてもよく、また、搬送トレイ8およびX線源の両者を移動させてもよい。いずれにせよ、固定装置10による固定が行われた状態でX線撮像が行われるため、搬送トレイ8もしくはX線源1が移動することで生まれる機械的な振動により、検査対象物20が凹部8a内でずれるのを確実に回避することができる。
【0045】
<変形例>
上記の実施例においては、搬送トレイ8上には、検査対象物を収容するための凹部8aが設けられていたが、本変形例においては、
図6に示すように、各凹部8aにつながるように窪んで形成され、且つその深さが凹部8aの深さよりは浅く設定されている切欠き部8bおよび8cが更に設けられている。
図6は、搬送トレイ8の上方から見た図であるが、本変形例では、
図6の縦方向には切欠き部8bが設けられ、横方向に切欠き部8cが設けられている。これらの切欠き部には、検査対象物20は収容されない。
【0046】
このように凹部8aより浅い切欠き部8b、8cが設けられると、
図4Bのように弾性部材12が搬送トレイ8に対して押圧されたときに、弾性部材12の一部が凹部8aだけでなく、各切欠き部8b、8cにも入り込む。その結果、凹部8aに収容されている検査対象物20に対して、その側方から弾性部材12が接触するようになり、以て、検査対象物20をより安定的に凹部8a内に固定することが可能となる。また、このように切欠き部8b、8cが設けられることで、凹部8a内に収容されている検査対象物20を、そこから取り出すのも容易となる。