特許第5853869号(P5853869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5853869ホスホリルコリン基含有化合物及びその製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5853869
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】ホスホリルコリン基含有化合物及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/09 20060101AFI20160120BHJP
   A61L 29/00 20060101ALN20160120BHJP
   A61L 31/00 20060101ALN20160120BHJP
   A61L 15/00 20060101ALN20160120BHJP
   A61K 8/55 20060101ALN20160120BHJP
   A61K 47/48 20060101ALN20160120BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160120BHJP
【FI】
   C07F9/09 VCSP
   !A61L29/00 B
   !A61L31/00 B
   !A61L15/00
   !A61K8/55
   !A61K47/48
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-129766(P2012-129766)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-253043(P2013-253043A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】山本 宣之
(72)【発明者】
【氏名】牧 俊央
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−126192(JP,A)
【文献】 特表2004−505898(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050918(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/104167(WO,A1)
【文献】 特開2013−001645(JP,A)
【文献】 Yabusaki, Kenichi K.; Wells, Michael A.,Facile synthesis of 1-acyl ethylene glycol-2-phosphorylcholines,Biochimica et Biophysica Acta, Lipids and Lipid Metabolism,1973年,296(3),546-8
【文献】 Van den Bosch, H.; Aarsman, A. J.; Slotboom, A. J.; Van Deenen, L. L. M.,Specificity of rat liver lysophospholipase,Biochimica et Biophysica Acta, Lipids and Lipid Metabolism ,1968年,164(2),215-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/09
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される、ホスホリルコリン基含有化合物。
【化1】
【請求項2】
式(2)で示される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、水素とを触媒存在下に反応させることを特徴とする請求項1記載のホスホリルコリン基含有化合物の製造法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化安定性に優れ、皮膚に対して滑らかな感触を示し、化粧品材料等として使用可能な、ホスホリルコリン基含有化合物及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホリルコリン基を有する化合物は、優れた保水性や生体適合性を示すことから、機能性保湿剤として多くの化粧品に配合されている。
ホスホリルコリン基を有する化合物としては、例えば、レシチンなどの天然リン脂質が知られている。該天然リン脂質の長所としては、細胞膜に類似した構造であるため肌への親和性、安全性が高いことなどが挙げられる。
しかし、不飽和アルキル基を有する天然リン脂質は、不飽和部分の酸化に起因する変色や臭気が生じるなどの欠点がある。また、飽和アルキル基を有する天然リン脂質は、一般にアルキル基が長鎖であるためワックス状になりやすく、肌に塗布した場合に重い感触になるといった問題がある。
そこで、非特許文献1には、長鎖不飽和アルキル基に替えて、アセチル基またはプロピオニル基を導入したホスホリルコリン化合物が提案されている。該化合物は、長鎖不飽和アルキル基に起因する酸化安定性を改善することはできるが、皮膚に対する滑らかな感触には乏しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Biochimica et Biophysica Acta,296(1973) 546-548
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、酸化安定性に優れ、皮膚に対して滑らかな感触を示す新規なホスホリルコリン基含有化合物及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意検討を重ねた結果、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに水素を添加することにより、一分子中に短鎖分岐飽和アルキル基とホスホリルコリン基を有する化合物が得られ、該化合物が、優れた酸化安定性と、皮膚に対する優れた感触とを示すことを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明によれば、式(1)で表される、ホスホリルコリン基含有化合物(以下、本発明の化合物と略すことがある)が提供される。
【化1】
また本発明によれば、式(2)で示される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCと略記する)と、水素とを触媒存在下に反応させることを特徴とする本発明の化合物の製造法が提供される。
【化2】
【発明の効果】
【0007】
本発明の化合物は、酸化安定性に優れ、皮膚に対して滑らかな感触を示すという特性をし、更には、ホスホリルコリン基を有するので、該基に基づく保湿性や生体適合性等の種々の効果を安定的に得ることが期待できる。従って、本発明の化合物は、化粧品材料等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で合成した化合物の1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
図2】実施例1で合成した化合物の31P−NMRスペクトルを示すチャートである。
図3】実施例1で合成した化合物のESI−MASSスペクトルを示すチャートである。
図4】実施例1で合成した化合物のIRスペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のホスホリルコリン基含有化合物は、上記式(1)で表される構造の、一分子中に短鎖分岐飽和アルキル基とホスホリルコリン基を有する2−メチルプロパノイルオキシエチルホスホリルコリンである。
【0010】
本発明の化合物は、例えば、上記式(2)に示されるMPCと、水素とを触媒存在下に反応させる、本発明の製造法により得ることができるが、この方法には限定されない。
前記触媒としては、例えば、パラジウム、パラジウム炭素、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、コバルト、クロム、チタン、サマリウムが挙げられる。
【0011】
本発明の製造法において、反応は、例えば、触媒存在下、MPCを溶解した溶液中に水素を供給する方法により行うことができる。
MPCを溶解させる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、クロロホルム、またはこれら2種以上の混合物を挙げることができる。
また、反応には、重合反応を抑制するために、例えば、4−メトキシフェノール等の重合禁止剤を用いることもできる。
【0012】
反応温度は、通常0℃から室温の範囲が好ましいが、例えば、−20℃から室温の範囲、もしくは50℃程度までの範囲で行なってもよい。50℃を超える場合には重合反応が進行するおそれがある。反応時間は、通常、3〜72時間程度である。
【0013】
上記反応により得られた本発明の化合物は精製することが可能である。該精製は、例えば、触媒を濾過などにより除去した後、溶媒を減圧濃縮して本発明の化合物を乾固させ、アセトニトリル等の非プロトン系極性溶媒中で加熱溶解、冷却により結晶化させ、これを乾燥させて回収する方法、あるいは濃縮後の固体をアセトンやアセトニトリル等の溶媒中で攪拌洗浄し、減圧乾燥する方法により行うことができる。
【0014】
本発明の化合物は、例えば、化粧水、乳液、クリーム等の化粧料、難溶性薬物の可溶化剤や分散剤、ホスホリルコリン抗体に対する人工抗原(ワクチン)、点鼻剤、皮膚外用剤等の医薬用途、コンタクトレンズの表面処理剤や洗浄剤、口腔用の洗浄剤や保湿剤、金属、ガラス、ゴム、プラスチック等の表面親水化剤、繊維用平滑剤、繊維用帯電防止剤に用いることができる。
【実施例】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例
2−メチルプロパノイルオキシエチルホスホリルコリンの合成
MPC 10.0g(34mmol)をフラスコに仕込み、これにエタノール90gを加えて均一溶解させた。別に、事前にパラジウム炭素(5%)を0.72g(1mol%)加えてあるナスフラスコに、MPCエタノール溶液を加え、激しく撹拌した。続いて真空ポンプを用いてナスフラスコ中の空気を水素に置換し、室温で24時間攪拌した。次いで、ケイソウ土を濾過助剤として用いて濾過を行い、得られた濾液からロータリーエバポレーターにて溶媒を減圧留去した。得られた結晶について以下に示す条件で、1H−NMR分析、31P−NMR分析、IR分析及び質量分析を行った。結果を以下に示す。また、1H−NMRスペクトルチャートを図1に、31P−NMRスペクトルチャートを図2に、ESI−MASSスペクトルチャートを図3に、IRスペクトルチャートを図4にそれぞれ示す。
以上の結果から、得られた結晶は、式(1)に示される2−メチルプロパノイルオキシエチルホスホリルコリンであることがわかった。
【0016】
NMR分析
測定装置:日本電子社製JNM−AL400、
溶媒:CDCl3
試料濃度:10mg/g、
積算回数:16回(1H−NMR)、64回(31P−NMR)。
IR分析
測定装置:日本分光社製FT/IR−460plus、
測定法:KBr法、
積算回数:16回。
質量分析(ESI−MS)
測定装置:Waters社製Q−micro2695、
試料濃度:100ppm、
検出モード:ESI+
キャピラリー電圧:3.54V、
コーン電圧;30V、
イオン源ヒーター:120℃、
脱溶媒ガス:350℃。
【0017】
1H-NMR(400MHz,CDCl3)
δ1.13(6H,d,J=6.84Hz)、2.53(1H,sep,J=6.84Hz)、3.39(9H,s)、3.84(2H,brs)、4.04(2H,m)、4.24(2H,m)、4.32(2H,brs)。
31P-NMR(400MHz,CDCl3)
δ0.85(q,J=18Hz)
【0018】
試験例1(感触評価)
実施例にて合成した2−メチルプロパノイルオキシエチルホスホリルコリン、比較として、非特許文献1に記載の方法に準拠して合成した、1−アセチルエチレングリコール−2−ホスホリルコリン(比較例1)又は1−プロピオニルエチレングリコール−2−ホスホリルコリン(比較例2)それぞれ1.0gを水に溶解させ、1重量%水溶液の化粧水を調製した。
得られた化粧水を、20人のパネルの皮膚に塗布してもらい、指で塗り広げながら乾燥させた後に、その感触を以下の基準で評価してもらった。結果を表1に示す。
評価基準
◎:パネル16人以上が滑らかさが良い又は重い感触がないと認めた。
○:パネル12人以上16人未満が滑らかさが良い又は重い感触がないと認めた。
△:パネル6人以上12人未満が滑らかさが良い又は重い感触がないと認めた。
×:パネル6人未満が滑らかさが良い又は重い感触がないと認めた。
【0019】
【表1】
【0020】
試験例2(酸化安定性評価1:臭気)
実施例にて合成した2−メチルプロパノイルオキシエチルホスホリルコリン、天然リン脂質であるレシチン(和光純薬社製)又はスフィンゴミエリン(BIOMOL International社製)それぞれを、60℃の恒温槽にて3ヶ月間保存した。3ヶ月後の各試料の臭気を以下の基準で官能評価した。結果を表2に示す。
評価基準
○:臭気なし、または微弱、△:弱い臭気がある、×:強い臭気がある。
【0021】
【表2】
【0022】
試験例3(酸化安定性評価2:着色性)
実施例にて合成した2−メチルプロパノイルオキシエチルホスホリルコリンと、天然リン脂質であるレシチン(和光純薬社製)又はスフィンゴミエリン(BIOMOL International社製)それぞれの10%エタノール溶液を調製した。このエタノール溶液に水を加えて溶質濃度0.1%の水溶液を調製した。これらの水溶液を60℃の恒温槽に3ヶ月保存した。3ヶ月後の各試料の着色を以下の基準で外観評価した。結果を表3に示す。
評価基準
○:着色なし、または微弱、△:薄い着色あり、×:激しい着色あり。
【0023】
【表3】
図1
図2
図3
図4