(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の基本的思想.
実施の形態の詳細な説明に入る前に、この発明の基本的思想について説明する。もちろん、この基本的思想も本発明に含まれる。
【0018】
図1は同期電動機(以下、単に「電動機」と称す。なお同期電動機の特殊なものとして、スイッチトリラクタンスモータのように界磁を有しないものもある。しかしここでは同期電動機とは界磁を有しているものを指す。)における空隙磁束[λ](記号[]は特に断らない限りベクトル量を表す:以下同様)と、電動機における界磁磁束[Λ0]との関係を示すベクトル図である。界磁磁束[Λ0]は例えば電動機が永久磁石を有している場合には当該永久磁石によって発生するし、電動機が界磁巻線を有している場合には当該界磁巻線に電流が流れることによって発生する。
【0019】
電動機の回転と同期する回転座標系としてd−q回転座標系を導入する。ここではd軸を界磁磁束[Λ0]と同相に設定し、q軸はd軸に対して、電動機の制御によって回転させたい方向(以下、単に「回転方向」と称す)に向かって位相が90度進む。
【0020】
また回転座標系としてδ−γ回転座標系とδc−γc回転座標系とを導入する。δ軸はd軸に対して、γ軸はq軸に対して、それぞれ電動機の回転方向に向かって位相角φで位相が進む。δc軸はd軸に対して、γc軸はq軸に対して、それぞれ電動機の回転方向に向かって位相角φ
cで位相が進む。以下、説明の便宜上、δ軸のd軸に対する位相角φを実位相角φと称し、δc軸のq軸に対する位相角φ
cを推定位相角φ
cと称する。
【0021】
例えば、「一次磁束制御」として知られている電動機の制御方法では、空隙磁束[λ]と同相にδ軸を設定する。
【0022】
さて、空隙磁束[λ]は周知のように、電動機(より詳細には電動機が備える電機子が有する電機子巻線)に供給される電圧及び電流と、電動機の機器定数(例えばインダクタンス、電機子巻線の抵抗成分、界磁磁束)と、電動機の回転速度とで決定される。よって空隙磁束[λ]の推定値[λ^]は、上記の電圧及び電流、機器定数、回転速度の実測値(あるいは指令値、推定値)から得られる。よって電動機を制御する制御装置は、推定値[λ^]が空隙磁束[λ]の指令値[λ
*]と等しくなるように制御を行う。上述の「一次磁束制御」では、指令値[λ
*]のγ軸成分は0である。
【0023】
かかる制御においてδc−γc回転座標系を採用すると、推定位相角φ
cが実位相角φと一致することで、電動機の回転を適切に制御することができる。機器定数、回転速度、電動機に与えられる電圧及び電流が完全に把握されていれば、これらに基づいて得られる推定値[λ^]を指令値[λ
*]と等しくなるように制御することにより、空隙磁束[λ]が指令値[λ
*]と一致するからである。
【0024】
しかしながら、負荷の変動、外乱等により、推定位相角φ
cが実位相角φと相違することがある。かかる相違は、通常はフィードバック制御によって修正される。フィードバック制御に用いられる帰還量(ここでは単に「フィードバック量」と称す)は理想的には零であり、実際上は小さい範囲に収まる。しかしながらフィードバック制御によっても推定位相角φ
cと実位相角φとの相違が解消されない場合、フィードバック量は増大することになる。
【0025】
本発明はこの点に着目し、フィードバック量が所定の範囲を逸脱することを以て、電動機に異常が発生したと判定することを特徴とする。
【0026】
第1の実施の形態.
図2は上記の考え方に基づいて、本実施の形態にかかる電動機制御装置1の構成及びその周辺装置を示すブロック図である。
【0027】
電動機3は三相の電動機であり、不図示の電機子と、界磁たる回転子を備える。技術的な常識として、電機子は電機子巻線を有し、回転子は電機子と相対的に回転する。界磁は例えば界磁磁束を発生させる磁石を備える場合について説明される。
【0028】
電圧供給源2は例えば電圧制御型インバータ及びその制御部を備え、三相の電圧指令[v
x*]=[v
u* v
v* v
w*]
t(括弧の後の上付の“t”は行列の転置を示す。以下同様)に基づいて、三相電圧v
u,v
v,v
wを電動機3に印加する。これにより、電動機3には三相電流[i
x]=[i
u i
v i
w]
tが流れる。但し、電圧指令[v
*]や三相電流[i
x]が有する成分は、例えばU相成分、V相成分、W相成分の順に記載されている。
【0029】
電動機制御装置1は、電動機3に対し、空隙磁束[λ]及び回転速度(以下の例では回転角速度)を制御する装置である。空隙磁束[λ]は一次磁束とも称され、界磁磁
束と、電機子に流れる電機子電流(これは三相電流[i
x]でもある)によって発生する電機子反作用の磁束との合成である。
【0030】
電動機制御装置1は、座標変換部101,104と、電圧指令計算部102と、減算器105と、積分器106と、ハイパスフィルタ107と、定数倍部108と、判定部109とを備えている。
【0031】
座標変換部101は、三相電流[i
x]を、δc−γc回転座標系における電流[i
δγc]=[i
δc i
γc]
tに変換する。三相電流[i
x]は公知の技術、例えば検出器(不図示)を用いて測定することができる。
【0032】
座標変換部104は、δc−γc回転座標系における電圧指令[v
δγ*]を電圧指令[v
x*]に変換する。これらの変換には電動機3についての固定座標系(例えばUVW固定座標系)に対するδc−γc回転座標系の回転角θが用いられる。これらの変換は周知の技術で実現されるので、ここではその詳細を省略する。
【0033】
なお、電圧指令[v
x*]や三相電流[i
x]は、三相のUVW固定座標系の他、いわゆるαβ固定座標系(例えばα軸はU相と同相に設定される)や他の回転座標系で表されていてもよい。座標変換部101,104はこれらの座標系に対応した変換を行う。電圧指令[v
*]について採用される座標系は、電圧供給源2がどのような座標系に基づいて動作するかによって決定される。電圧供給源2と座標変換部104とは纏めて、電圧指令[v
δγ*]に基づいて電動機3に電圧[v
x*]を印加する電動機駆動部と把握することができる。
【0034】
積分器106は回転角速度ω
1に基づいて回転角θを計算する。回転角速度ω
1は、減算器105の出力として得られる。例えば一次磁束制御を行っていれば、電流[i
δγc]のγc軸成分i
γcをハイパスフィルタ107で直流分を除去し、さらに定数倍部108で所定ゲインKm倍した値が、減算器105によって回転角速度の指令値ω
*から差し引かれて、回転角速度ω
1が得られる。空隙磁束[λ]が適切に制御されれば、上述のようにφ
c=φとなり、よってω
1=ω
*となる。
【0035】
電圧指令計算部102は電圧指令[v
δγ*]の他、フィードバック量[B]及び「基本的思想」で述べた所定の範囲の元となる電圧誤差[Δv
δγ*]を出力する。判定部109はフィードバック量[B]と電圧誤差[Δv
δγ*]に由来する閾値とを比較し、電動機に異常が、例えば脱調が発生しているか否かを示す判定信号Zを出力する。
【0036】
図3は電圧指令計算部102の構成を示すブロック図である。電圧指令計算部102は、磁束計算部1021、フィードバック量計算部1022、フィードフォワード量計算部1023、電圧指令生成部1024、電圧誤差計算部1025、電圧指令出力制限部1026を備える。
【0037】
磁束計算部1021は電流[i
δγc]、回転角速度ω
1、電圧指令[v
δγ*]を入力し、推定位相角φ
c及び空隙磁束[λ
δγc]を出力する。空隙磁束[λ
δγc]は上述の推定値[λ^]を採用することができる。具体的には、推定位相角φ
c及び空隙磁束[λ
δγc]は以下のようにして求められる。
【0038】
一般に、電動機3の電機子巻線のインダクタンスのd軸成分L
d及びq軸成分L
q、電動機3に流れる電流のδ軸成分i
δ及びγ軸成分i
γ、電動機3に印加される電圧のδ軸成分v
δ及びγ軸成分v
γ、実位相角φ、界磁磁束の絶対値Λ
0、電動機3の電機子巻線の抵抗成分R、回転角速度ω
1、微分演算子pを導入すると、δ−γ回転座標系において次式の電圧方程式(1)が成立する。但し、[I],[J],[C]及びそれらの要素を囲む記号[]は行列を示す。
【0040】
よってこれと同様にして、電機子巻線のインダクタンスのd軸成分の設定値L
dc及びq軸成分の設定値L
qc、電動機3に流れる電流のδc軸成分i
δc及びγc軸成分i
γc、電動機3に印加される電圧のδc軸成分v
δc及びγc軸成分v
γc、推定位相角φ
c、界磁磁束の絶対値の設定値Λ
0c、電動機3の電機子巻線の抵抗成分の設定値R
c、回転角速度ω
1を導入しδc−γc回転座標系において次式の電圧方程式(2)が成立する。
【0042】
但し、電圧のδc軸成分v
δc及びγc軸成分v
γcは実測されないので、磁束計算部1021はこれらに代えて電圧指令[v
δγ*]=[v
δ* v
γ*]
tを採用して、推定位相角φ
cと空隙磁束[λ
δγc]とを求める。設定値L
dc,L
qc,R
c,Λ
0cは磁束計算部1021内に予め格納しておくことができる。
【0043】
さて、定常状態においては微分演算子pによる演算結果は0となることから、定常状態における電圧方程式は式(1)から下式(3)として導かれる。
【0045】
設定値L
dc,L
qc,R
c,Λ
0cと、その実際の値L
d,L
q,R,Λ
0との相違による誤差を電圧指令において修正するため、指令値[λ
*]とδc−γc回転座標系における空隙磁束[λ
δγc]との偏差を用いて、電圧指令[v
δγ*]は次式(4)のフィードフォワード量[F]とフィードバック量[B]との和で決定される。但しフィードバックゲインGλ(≠0)と、指令値[λ
*]のδ軸成分λ
δ*及びγ軸成分λ
γ*とを導入した。
【0047】
電圧指令生成部1024はフィードフォワード量[F]とフィードバック量[B]とを加算し、電圧指令[v
δγ*]を求める。
【0048】
フィードフォワード量[F]を生成するため、フィードフォワード量計算部1023は空隙磁束[λ
δγc]及び電流[i
δγc]を入力し、式(4)に従ってフィードフォワード量[F]を求める。即ち、フィードフォワード量[F]は、電流[i
δγc]、抵抗成分の設定値R
c、回転角速度ω
1及び空隙磁束[λ
δγc]を用いて定常状態における電圧方程式によって求められる。
【0049】
フィードバック量[B]を生成するため、フィードバック量計算部1022は空隙磁束[λ
δγc]及びその指令値[λ
*]を入力し、式(4)に従ってフィードバック量[B]を計算する。具体的には指令値[λ
*]と空隙磁束[λ
δγc]との偏差にフィードバックゲインGλを乗じる。フィードバックゲインGλはフィードバック量計算部1022において格納しておくことができる。
【0050】
式(4)においてはフィードバックゲインGλはスカラー量として示したが、空隙磁束の偏差に対して作用する2行2列の非零行列であってもよい。
【0051】
理想的には、フィードバック量[B]が0となれば、δ軸成分λ
δ*とδc軸成分λ
δcが、γ軸成分λ
γ*とγc軸成分λ
γcが、それぞれ一致していることになり、式(3)で示される定常状態が、δc−γc回転座標系における制御で実現できていることになる。
【0052】
さて、このようなフィードバック量[B]を用いたフィードバック制御が適切に行われていれば、実位相角φと推定位相角φ
cとの乖離が小さく、よって回転角速度ω
1とその指令値ω
*との乖離はないと近似することができる。この場合、電圧指令の誤差たる電圧誤差[Δv
δγ*]という概念を新たに導入し、空隙磁束[λ
δγc]の時間的変動をも考慮して、次式(5)が成立する。
【0054】
つまり電圧誤差[Δv
δγ*]は、電圧指令[v
δγ*]を、電動機3についての電圧方程式から得られる電圧値(R
c[i
δγc]+(p[I]+ω
1[J])[λ
δγc])から差し引いた値として定義される。電圧誤差[Δv
δγ*]は式(5)の第2式で近似できる。
【0055】
但し係数e
iI,e
iJ,e
Λ,e
vは、電動機3、電圧供給源2、及び電流[i
x](あるいは電圧供給源2に入力する電圧)の検出器(不図示)のそれぞれの諸元のバラツキ、並びに回転角速度ω
1により、電動機3の製造公差、動作温度の保証範囲で決定される変動幅の範囲内で変動する。よって電圧指令の誤差たる電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲は電流[i
δγc]、推定位相角φ
c、電圧指令[v
δγ*]の他、係数e
iI,e
iJ,e
Λ,e
vの変動幅にも依存する。
【0056】
つまり、電圧誤差[Δv
δγ*]は、電流[i
δγc]と、電圧指令[v
δγ*]と、電動機3及び電圧供給源2の製造公差及び動作温度の保証範囲と、電流[i
δγc]または電圧[v
x]を検出する検出器の製造公差及び動作温度の保証範囲と、回転角速度ω
1のうち少なくとも一つで決定される変動幅に基づいて設定される。
【0057】
より詳細には、当該変動幅は、電流[i
δγc]と位相が平行する(同相あるいは逆相となる)誤差e
iI[I][i
δγc]が変動する範囲と、電流[i
δγc]と位相が直交する誤差e
iJ[J][i
δγc]が変動する範囲と、界磁磁束[Λ0]と位相が直交する誤差e
Λ[sinφ
c cosφ
c]
tが変動する範囲と、電圧指令[v
δγ*]と位相が平行する誤差e
v[v
δγ*]が変動する範囲のうち少なくとも一つで設定される。
【0058】
ここで電圧誤差[Δv
δγ*]は、フィードバック量[B]に相当する(より具体的には[Δv
δγ*]=−[B]となる)。上述のように、電圧誤差[Δv
δγ*]は、実位相角φと推定位相角φ
cとの乖離が小さくなるようにフィードバック制御されていることが前提である。そして電動機3の動作が脱調した場合、この前提は成立しない。従って、そのような場合にはフィードバック量[B]は電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲を超えることとなる。換言すれば、フィードバック制御を行っているときにフィードバック量[B]が電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲を超えることを以て、電動機3の動作が脱調したと判断することができる。
【0059】
つまり電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲は、脱調の有無を判断する際の、フィードバック量[B]についての閾値となる。電圧誤差計算部1025は式(5)の第2式の右辺に従って電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲を計算すべく、推定位相角φ
c、電流[i
δγc]、及び電圧指令[v
δγ*]を入力する。
【0060】
例えば係数e
iI,e
iJ,e
Λ,e
vの変動幅の上限及び下限と、電流[i
δγc]、推定位相角φ
c、電圧指令[v
δγ*]を用いて、式(5)の第2式の右辺の各項の最大値及び最小値を求める。各項の最大値又は最小値の組合せを採用したときの電圧誤差[Δv
δγ*]を閾値としてフィードバック量[B]と比較する。係数e
iI,e
iJ,e
Λ,e
vは電圧誤差計算部1025で計算してもよい。その場合には、電圧誤差計算部1025には回転角速度ω
1も入力する。
【0061】
このことは、電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲が、当該変動幅の上限および下限
と、電流[i
δγc]と
、前記電圧指令との組み合わせにおける電圧誤差[Δv
δγ*]の最大値または/および最小値より設定される、と把握することができる。
【0062】
簡単には、フィードバック量[B]の絶対値の閾値として、下式(6)の右辺に示す電圧誤差[Δv
δγ*]が採りうる絶対値の最大を採用してもよい。
【0064】
あるいは下式(7)が成立するので、式(7)の最右辺を閾値として採用してもよい。これは演算量を低減する観点で望ましい。また最右辺には推定位相角φ
cを含まないため、磁束計算部10にて推定位相角φ
cを出力しない制御系にも適用できる。
【0066】
なお、定速運転中では、回転角速度ω
1は一定なので、|e
iI[I]+e
iJ[J]|,|e
Λ|,|e
v|は変化しない一定値となる。
【0067】
あるいはフィードバック量[B]と電圧誤差[Δv
δγ*]との比較を、δc軸成分、γc軸成分毎に行ってもよい。あるいはそれらの一方のみにおいて比較を行ってもよい。これは演算量を低減する観点で望ましい。例えば式(8)は、γc軸成分においてフィードバック量[B]と比較される電圧誤差[Δv
δγ*]のγc軸成分Δv
γ*の絶対値の最大を求める。よって式(8)の最右辺をフィードバック量[B]と比較してもよい。
【0069】
判定部109は、電圧誤差[Δv
δγ*]を入力し、上述のような閾値あるいは電圧誤差[Δv
δγ*]とフィードバック量[B]との比較を行って、判定信号Zを出力する。上述の閾値は例えば判定部109で生成するが、電圧誤差[Δv
δγ*]から閾値を求めるブロックを電圧指令計算部102において別途に設けてもよい。
【0070】
電圧指令出力制限部1026は判定信号Zと電圧指令[v
δγ*]とを入力する。判定信号Zが脱調を示すとき以外は、電圧指令出力制限部1026は電圧指令[v
δγ*]を出力する。判定信号Zが脱調を示すときには、電圧指令出力制限部1026は電圧指令[v
δγ*]に代えて停止指令Sを出力し、電圧供給源2の動作を停止する。これにより脱調の状態のままで電動機3を駆動することが回避できる。
【0071】
本実施の形態において、電流[i
δγc]や電圧指令[v
δγ*]などに基づいて閾値を設定することにより、運転状態に応じた適切な閾値が設定される。これは、脱調を検出する精度を高め、かつ誤って脱調と検出することを低減する観点で望ましい。
【0072】
また、製造公差および動作範囲の保障範囲で決定される変動幅に基づいて閾値を設定することにより、閾値を試験的に決定する必要性は低い。これは、閾値を試験的に決定する方法に比べて開発工数を大幅に減らすことができる観点で望ましい。
【0073】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態ではフィードバック量[B]を電流の偏差から求める技術を示す。具体的には式(9)に従ってフィードバック量[B]を求める。但しフィードバックゲインG
i(≠0)及び電流[i
δγc]の指令値[i
δγ*]=[i
δ* i
γ*]
tを導入した。第1の実施の形態と同様、フィードバックゲインG
iは電流の偏差に対して作用する2行2列の非零行列であってもよい。
【0075】
このようにしてフィードバック量[B]を求める場合、フィードバック量計算部1022には空隙磁束[λ
δγc]及びその指令値[λ
δγ*]を入力する代わりに、電流[i
δγc]及びその指令値[i
δγ*]を入力する。
【0076】
よって本実施の形態にかかる電動機制御装置1の構成は、第1の実施の形態にかかる電動機制御装置1の構成に対し、電圧指令計算部102には空隙磁束の指令値[λ
δγ*]ではなく電流の指令値[i
δγ*]を入力する点で異なる。
【0077】
図4は本実施の形態における電圧指令計算部102の構成を示すブロック図である。
【0078】
本実施の形態においても、電圧誤差[Δv
δγ*]は第1の実施の形態と同様にして決定することができる。そして第1の実施の形態と同様に処理を行って、脱調の有無を判定することができる。
【0079】
第1の実施の形態及び本実施の形態から、フィードバック量[B]は、電流[i
δγc]若しくは空隙磁束[λ
δγc]の一方と、当該一方についての指令値([i
δγ*],[λ
δγ*])との間の偏差に基づいて決定される、と把握することができる。
【0080】
第3の実施の形態.
本実施の形態ではフィードフォワード制御を用いずに、フィードバック制御のみを行う場合について示す。この場合、次式(10)で示されるように、電圧指令[v
δγ*]はフィードバック量[B]と等しくなる。
【0082】
図5は本実施の形態における電圧指令計算部102の構成を示すブロック図である。第1の実施の形態及び第2の実施の形態で示された電圧指令生成部1024は不要となり、フィードバック量計算部1022から電圧指令[v
δγ*]としてフィードバック量[B]が出力される。
【0083】
他方、フィードフォワード量計算部1023は第1の実施の形態及び第2の実施の形態で示されたようにしてフィードフォワード量[F]を計算する。そして第1の実施の形態及び第2の実施の形態で採用された電圧誤差[Δv
δγ*]は、そこからフィードフォワード量[F]を減じることによって補正される。本実施の形態では記号[Δv
δγ*]を、フィードフォワード量[F]を減じることによって補正された電圧誤差に対して用いている。
【0084】
つまり本実施の形態において電圧誤差[Δv
δγ*]は次式(11)で求められる。
【0086】
電圧指令[v
δγ*]としてフィードバック量[B]自体を用いるとき、式(11)で決定される電圧誤差[Δv
δγ*]を用いることにより、第1の実施の形態と同様に脱調の有無が判定できる。これは式(4),(5)から自明である。
【0087】
以上のことから、本実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に処理を行って、脱調の有無を判定することができる。
【0088】
もちろん、本実施の形態においても第2の実施の形態と類似して、フィードバック量[B]として電流の偏差とフィードバックゲインG
iとの積を用いてもよい。その場合、式(9)で求められるフィードバック量[B]が電圧指令[v
δγ*]として採用される。よって第2の実施の形態と同様に、フィードバック量計算部1022には空隙磁束[λ
δγc]及びその指令値[λ
δγ*]を入力する代わりに、電流[i
δγc]及びその指令値[i
δγ*]を入力する。
【0089】
このように、電圧指令[v
δγ*]を求めるのに、フィードバック量[B]のみとするか、フィードフォワード量[F]をも含めるかによって、電圧誤差[Δv
δγ*]が何に基づくが相違する。電圧指令[v
δγ*]がフィードフォワード量[F]に基づかない場合は本実施の形態のように、電圧誤差[Δv
δγ*]はフィードフォワード量[F]にも基づいて設定される。電圧指令[v
δγ*]がフィードフォワード量[F]に基づく場合には第1及び第2の実施の形態のように、電圧誤差[Δv
δγ*]は空隙磁束[λ
δγc]には基づかない(式(5)第2式参照)。
【0090】
フィードフォワード量[F]を、電圧方程式の一部の項を除いた項に基づいて設定しても良い。この場合、当該一部の項にも基づいて、電圧誤差[Δv
δγ*]が変動する範囲を設定する。
【0091】
変形1.
上記係数e
iI,e
iJ,e
Λ,e
vは、電動機3の機器定数のバラツキの他、回路上のバラツキの影響を受けることもあり得る。例えば係数e
iI,e
iJは電流[i
x]を検出する検出器(不図示)のバラツキの影響を受け、係数e
vは電圧供給源2が有する電圧制御型インバータ(不図示)に入力される電圧もしくは出力する電圧[v
x]を検出する検出器(不図示)のバラツキの影響を受ける。しかしながら、これらの回路上のバラツキは、電動機3の機器定数のバラツキと比較して電圧誤差[Δv
δγ*]に与える影響は小さい。よって回路上のバラツキは無視しても、脱調を判定することは実際上、可能である。
【0092】
検出器以外のバラツキについても、電圧誤差[Δv
δγ*]に与える影響は小さい場合には、これを無視しても脱調を判定することは実際上可能である。
【0093】
あるいは例えば、電圧誤差[Δv
δγ*]に与える影響が最も大きなバラツキのみを考慮してもよい。
【0094】
変形2.
フィードバック量[B]と比較される閾値たる電圧誤差[Δv
δγ*]の最大値は、電動機3について想定される運転範囲内の最悪条件を用いて予め計算し、記憶していてもよい。
【0095】
この場合、電圧誤差計算部1025の演算量は小さく、必要となるメモリも小さくて済む。あるいは単に閾値を示すテーブルにて電圧誤差計算部1025を代用することもできる。
【0096】
例えば回転角速度ごとに閾値が予め求められ、これらがテーブルとして記憶される。
【0097】
もちろん、閾値については、マージンを考慮して電圧誤差[Δv
δγ*]の最大値よりも大きく設定してもよい。
【0098】
変形3.
推定位相角φ
cは小さいので、これを零に近似して閾値を求めてもよい。
【0099】
脱調していない条件で推定位相角φ
cが取り得ると想定される範囲で、閾値を求めてもよい。例えば推定位相角φ
cが−90°〜90°の範囲で脱調せずに運転される場合(かかる制御は例えば一次磁束制御において採用される)には−1≦sinφ
c≦1、0≦cosφ
c≦1を採用して閾値を求める。
【0100】
推定位相角φ
cを零に近似したり、−1≦sinφ
c≦1、0≦cosφ
c≦1を採用して閾値を求める場合には、推定位相角φ
cそれ自体を求める必要がない。よって閾値を求める以外に推定位相角φ
cを求める必要がない制御においては、推定位相角φ
cを求めるための演算量(式(2)参照)を減らすことができる。
【0101】
また、脱調していない条件で推定位相角φ
cが取り得ると想定される範囲で、閾値を求めることは、想定外の運転範囲になった場合にも異常と判定できる利点がある。
【0102】
上記の種々の実施の形態及び変形は、互いの機能を損なわない限り、適宜に組み合わせることができる。
【0103】
上記のブロック図は模式的であり、各部はハードウェアで構成することもできるし、ソフトウェアによって機能が実現されるマイクロコンピュータ(記憶装置を含む)で構成してもよい。各部で実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0104】
マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。