特許第5854216号(P5854216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854216
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】遠心分離機
(51)【国際特許分類】
   B04B 15/08 20060101AFI20160120BHJP
   B04B 13/00 20060101ALI20160120BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20160120BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   B04B15/08
   B04B13/00
   F04B37/16 A
   F04C25/02 H
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-8348(P2012-8348)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-146667(P2013-146667A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】春木 慎一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 廣之
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−230085(JP,A)
【文献】 特開2011−025176(JP,A)
【文献】 特開2010−149047(JP,A)
【文献】 特開2010−131560(JP,A)
【文献】 特開2001−104826(JP,A)
【文献】 特開2010−104944(JP,A)
【文献】 特開平05−054802(JP,A)
【文献】 特開2011−255250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00−15/12
F04B 37/16
F04C 25/02
F04F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転室と、該回転室内に設置され試料を保持して遠心分離するロータと、該ロータを回転させる駆動部と、前記回転室内の気体を室外に排気する補助真空ポンプ及び油拡散ポンプで構成する真空ポンプ装置とを具備する遠心分離機に於いて、
前記油拡散ポンプの油が収納されるボイラ内に、油温度を検出する手段と油面を検出する手段とを兼ねた検出手段を設けたことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
請求項1記載の遠心分離機に於いて、
前記検出手段が、最小必要量の油面レベルでは油面に浸って露出せず、油面が前記油面レベルより低下した場合に油面から露出する位置に設けられていることを特徴とする遠心分離機。
【請求項3】
請求項2記載の遠心分離機に於いて、
前記検出手段がサーミスタであり、前記サーミスタに一定時間通電して自己発熱させ、一定時間通電後のサーミスタ温度から油面を検出することを特徴とする遠心分離機。
【請求項4】
請求項2又は3記載の遠心分離機に於いて、
前記検出手段が油面から一部露出の場合は油補給の指示情報を出すとともに遠心分離動作は継続し、
前記検出手段が油面から完全露出の場合は遠心分離動作を中断することを特徴とする遠心分離機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の遠心分離機に於いて、
前記ボイラ内の油面を検出した結果、その油面が所定のレベル以下の場合、その情報を表示機能を有する装置に表示することを特徴とする遠心分離機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータが高速回転する回転室を高真空に保つための油拡散ポンプを有する遠心分離機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、チューブ等に収容された試料をロータに保持し、このロータを風損による温度上昇を防止するために減圧される回転室(ロータ室)に設置し、電動モータ等で構成される駆動装置で高速回転させることによって、ロータに保持した上記試料を遠心分離するものである。
【0003】
一般的に、ロータの回転数が毎分40,000回転を越えるいわゆる超遠心分離機は、下記特許文献3に開示されているように、ロータの回転による回転室内の空気とロータとの風損による摩擦熱によりロータ及び試料の温度が上昇するのを抑制するために、回転室内を高真空状態にまで減圧する真空ポンプ装置、並びに回転室内の真空圧力を検出するセンサ及びセンサ検出回路からなる真空圧力検出手段を備えている。
【0004】
大気圧から高真空状態にまで減圧する真空ポンプ装置は、大気から13パスカル程度の中真空まで減圧する補助真空ポンプと、中真空から1パスカル程度の高真空まで減圧する油拡散ポンプとを直列に接続した構成となっている。油拡散ポンプは、貯蔵した油を加熱するためのボイラと、ボイラを加熱するヒータと、ボイラで加熱されて蒸発・気化した油分子がその中心部を上り周囲部から下向きに勢いよく一方向に噴射されるジェット気流発生部と、ジェット気流発生部で噴射された高速の油分子が壁面に当たり冷却され油を液化させ、この間周囲にある気体分子は油分子に飛ばされ下の方に圧縮される冷却部と、回転室に接続される空気の吸気口と、補助真空ポンプに接続される空気の排気口等から構成される。
【0005】
ロータの回転による回転室内の空気とロータの風損による摩擦熱によって、ロータ及び試料の温度上昇を抑制するために、通常、回転室内を真空ポンプ装置で大気圧から減圧して例えば13パスカル程度の中真空に達するまでは、予め設定された例えば毎分5,000回転の一定低回転数の状態でロータを回転させるいわゆる真空待機動作を行い、この中真空に達した後に毎分数万或いは十数万回転にロータを加速し遠心分離している。
【0006】
或いは、ロータ回転に伴う風損によって試料の温度が上昇するのを極力抑制したい試料の遠心分離を行う場合には、13パスカル程度の中真空に到達した後にロータを初めて回転させるいわゆる真空スタートの動作を行う。
【0007】
このような、真空ポンプ装置を備える遠心分離機では、下記特許文献1や特許文献2に開示されるように、温度センサにより油拡散ポンプのボイラの拡散油を蒸発・気化させるヒータ温度を調整して油拡散ポンプの動作を制御することが行われている。
【0008】
また、下記特許文献3に開示されるように、回転室の真空度を真空センサで検出することにより油拡散ポンプの動作を制御することが行われている。
【0009】
また、ここで使用される油拡散ポンプに於いては、真空化のための油ジェット噴射を作る油の量の管理は通常行われておらず、必要真空が得られなくなってから油を追加するか、又は油を交換して使用されているのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−104826号公報
【特許文献2】特開2011−25176号公報
【特許文献3】特開2008−23477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記真空ポンプ装置を備えるこの種の遠心分離機に於いて、上記したように真空スタートの場合、13パスカル程度の真空圧力に達するまでの時間は従来10分間以上を要するため、遠心分離開始までの時間が長く作業能率が悪かった。また、13パスカル程度の真空圧力では毎分数万或いは十数万回転数にロータを回転させる高遠心力による長時間の遠心分離では、この真空条件下でもロータ回転に伴う風損により試料の温度が上昇するため、1パスカル程度の高真空の状態でロータを回転させる必要がある。
【0012】
もちろんロータ室となる回転室の内壁面はペルチェ素子等で適切な温度に保ち高速回転中のロータを冷却する手段を設けているが、中真空の状態では空気の密度が低くなるため空気の対流により冷却できず、輻射熱による冷却に頼ることになる。このためロータを冷やす力すなわち冷却力は小さいので、ロータの周囲はできるだけ高真空に保ち空気とロータの摩擦熱による風損を低く抑える必要がある。
【0013】
これらを解決するために、油拡散ポンプ内の油を加熱するヒータを強力なものにし、更には、上記ヒータを例えば全周加熱可能なカートリッジヒータ等を用いてヒータ部の熱が油へ効率よく伝達するようにして、油拡散ポンプ内の油が蒸発・気化するまでの時間を短くして大気圧から高真空まで減圧する時間を短時間にし、半分程度まで短縮することは可能であり、更に、油拡散ポンプ内の油から活発に蒸気が発生するようにボイラを高温に保ち、高真空に維持することも可能である。
【0014】
周知のように、ボイラを高温に保つと、油拡散ポンプのボイラの加熱量が増加してジェット気流発生部から噴射する蒸発・気化した油分子の量は増加し、その気化した油分子の冷却されなかった一部は油拡散ポンプの排気口から補助真空ポンプへ連続して排出されるため、油拡散ポンプ内の油貯蔵量が減少して、頻繁に給油メンテナンスを必要とするという問題が発生する。
【0015】
これらの満足した特性を得るには、特許文献2によれば、回転室と、該回転室内に設置されるロータと、前記回転室内を減圧するための油拡散ポンプ及び補助真空ポンプと、前記油拡散ポンプのヒータ部温度を制御する制御装置とを具備する遠心分離機に於いて、油拡散ポンプのヒータに加熱効率の良いカートリッジヒータを使用し、前記制御装置は前記油拡散ポンプの前記ヒータ部温度を所定期間経過後に第一の所定温度から第二の所定温度に変化させて制御し回転室内真空度を大気圧から超高真空まで安定させて到達させれば良い。
【0016】
しかし、特許文献2で見られるように油の温度の代わりとしてヒータの温度を検出し、その温度を制御する方法は、本来管理すべきボイラ内の油の温度を測定しその数値をもってヒータ出力を制御する方法に比べてヒータ周りの風の流れやその風の温度による影響を受け易く、風量、空気温度の変動によって油温度とヒータ温度の相関が崩れる場合が生じる。またカートリッジヒータの場合は加熱部温度を直接測定することはできず、カートリッジヒータのボイラの外部に設けたフランジ部にサーミスタ等の熱検知部材を設置して測定を行う為、実ヒータ温度とフランジ部の温度も風量、空気温度の影響を受け易く相関が崩れる場合が生じる。
【0017】
また、前記のように、油拡散ポンプ内の油はボイラにより加熱されて蒸発・気化して油分子となりジェット気流発生部から噴出して油拡散ポンプのハウジングに衝突し冷却されるが、油拡散ポンプの吸引口近傍はポンプ内の圧力とポンプに繋がる配管の圧力には極端に大きな差が無い為、油拡散ポンプ内の油分子が配管方向に拡散したり、冷却されなかった一部は油拡散ポンプの排気口から補助真空ポンプへ排出されるためボイラ内の貯蔵油量は長期的には減少し、その減少分により油の追加や交換を必要とするという問題が発生する。
【0018】
特に遠心分離機で使用される油拡散ポンプの場合、一般の真空装置とは異なり安価製作の為に回転室(ロータ室)と油拡散ポンプの間にバルブ等の遮断機構を設けないことが多く、油分子の逆拡散現象によるボイラ内の油量の減少は避けられないものとなっている。
【0019】
遠心分離機の場合、油拡散ポンプの油量が減って必要な高真空が得られなくなるとロータを高速で回転させることが出来なくなるので油拡散ポンプの油量の管理は重要であるが、通常の遠心分離機では油拡散ポンプは、遠心分離機の下部又は下部後方に設置されており、一般に油量管理として行われているボイラ部への覗き窓設置を行っても、それによる油量の管理は困難である。
【0020】
また、遠心分離機のニーズとして、油拡散ポンプによる必要真空性能が得られなくなる前に、事前にその可能性を使用者にアナウンスして欲しいというものがある。
【0021】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点をなくし、ロータが設置される回転室内の真空を安定して維持可能で、かつ使用する油拡散ポンプの油量が必要量あるかどうかを検知可能な遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のある態様は、回転室と、該回転室内に設置され試料を保持して遠心分離するロータと、該ロータを回転させる駆動部と、前記回転室内の気体を室外に排気する補助真空ポンプ及び油拡散ポンプで構成する真空ポンプ装置とを具備する遠心分離機に於いて、
前記油拡散ポンプの油が収納されるボイラ内に、油温度を検出する手段と油面を検出する手段とを兼ねた検出手段を設けたことを特徴とする。
【0023】
前記態様に於いて、前記検出手段が、最小必要量の油面レベルでは油面に浸って露出せず、油面が前記油面レベルより低下した場合に油面から露出する位置に設けられているとよい。
【0024】
前記態様に於いて、前記検出手段がサーミスタであり、前記サーミスタに一定時間通電して自己発熱させ、一定時間通電後のサーミスタ温度から油面を検出するとよい。
【0025】
前記態様に於いて、前記検出手段が油面から一部露出の場合は油補給の指示情報を出すとともに遠心分離動作は継続し、前記検出手段が油面から完全露出の場合は遠心分離動作を中断する構成であるとよい。
【0026】
前記態様に於いて、前記ボイラ内の油面を検出した結果、その油面が所定のレベル以下の場合、その情報を表示機能を有する装置に表示するとよい。
【0027】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る遠心分離機によれば、補助真空ポンプと油拡散ポンプで構成されている真空ポンプ装置を用いる場合に、油拡散ポンプの油が収納されるボイラ内の油温度と、油面とを検出しているため、ボイラ内の油を加熱するヒータ温度を検出する構成に比べて、油拡散ポンプ特にそのボイラ周りの温度や流れる風の量に影響されること無く油温度の管理が可能である。また、油拡散ポンプの油面検出により油の追加交換時期を知ることで、油拡散ポンプの油不足による真空性能不足を防止可能である。これらにより、ロータが設置される回転室内の真空を安定して維持可能である。また、1つの検出手段で油温度検出と、油面検出とを兼ねるため、構成の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係る遠心分離機の構成図。
図2】遠心分離機の油拡散ポンプの部分断面構成図。
図3】油拡散ポンプにおけるボイラ内のヒータとサーミスタの配置と油面の位置とを示した断面図。
図4】所定の油面の時の回転室の真空圧力の時間変化の例を示したグラフ。
図5】異なる油面レベルに対応したサーミスタの温度変化の例を示すグラフ。
図6】サーミスタによる油温測定と油面検出とを行う回路例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0031】
図1は本発明に係る実施の形態に係る遠心分離機を、図2はその油拡散ポンプ部分を、図3は油拡散ポンプにおけるボイラ部分をそれぞれ示す。遠心分離機100は、チューブ等に収容された試料を装着(保持)して遠心分離するためのロータ1と、ロータ1を高速に回転駆動する駆動部としての電動モータ2と、ロータ1が設置される回転室3と、補助真空ポンプ4と、油拡散ポンプ5とを備えている。補助真空ポンプ4と油拡散ポンプ5は真空ホース6で直列に接続され、回転室3と油拡散ポンプ5の間はパイプ7で接続されており、補助真空ポンプ4と油拡散ポンプ5とで回転室3内部を高真空に減圧するめの真空ポンプ装置を構成している。
【0032】
補助真空ポンプ4は、回転室3を例えば20パスカルの中真空まで減圧するための油回転真空ポンプやドライスクロール真空ポンプ等であり、油拡散ポンプ5は回転室3を高真空まで減圧するために設けられており、補助真空ポンプ4で減圧された中真空状態で油拡散ポンプ5の排気動作を開始するとさらに高真空にまで減圧することができる。
【0033】
遠心分離機100は、さらに油温度検出と油面検出を兼ねる検出手段としてのサーミスタ8と、制御装置9と、操作部10と、真空センサ11とを有している。サーミスタ8の第1の機能は油拡散ポンプ5のボイラ5a内の貯蔵油5bの温度を検出することであり、この貯蔵油5bの温度を検出することで油拡散ポンプ5内のヒータ5cの出力を制御装置9を介して制御している。サーミスタ8の第2の機能はボイラ5a内の貯蔵油5bの油面を検出することである(図3以降で後述する)。制御装置9は、ロータ1の回転駆動制御、補助真空ポンプ4や油拡散ポンプ5の駆動及び温度制御、及びサーミスタ8からの信号をもとに貯蔵油5bの温度及び油面の算出等を行う。操作部10は運転条件の入力やスタート及びストップを行うための入力装置であるとともに、各種情報(油面に関する情報や油補給の指示情報も含む)の表示・報知装置としても機能する。真空センサ11は回転室3の真空圧力を検出するものであり、真空センサ11からの信号をもとに制御装置9が回転室3の真空圧力を算出し、真空待機、真空スタートの情報に用いる。
【0034】
図2は、図1に示した遠心分離機100の油拡散ポンプ5の部分断面構成図であり、油拡散ポンプ5は、貯蔵油5bを加熱するためのボイラ5aと、ボイラ5aを加熱するヒータ5cと、ボイラ5aで加熱されて蒸発・気化した油分子がその中心部を上り周囲部から下向きに勢いよく一方向に噴射されるジェット気流発生部5dと、ジェット気流発生部5dで噴射された高速の油分子が壁面に当たり冷却され油を液化させ、この間周囲にある気体分子は油分子に飛ばされ下の方に圧縮される冷却部5eと、回転室3に接続される空気の吸気口5fと、補助真空ポンプ4に接続される空気の排気口5gとを有している。
【0035】
補助真空ポンプ4と油拡散ポンプ5で構成されている真空ポンプ装置が動作開始すると、補助真空ポンプ4により回転室3内は大気圧から減圧を始め、同時に油拡散ポンプ5のヒータ5cは油5bへの熱伝導の良いカートリッジヒータ等を用いて、油5bの加熱を開始し、それから油拡散ポンプ5により高真空に減圧可能である。
【0036】
ボイラ5a内に貯蔵する油拡散ポンプ用の油5bの沸点は種類によって異なり、例えば215℃である。油5bを加熱するヒータ5cは、例えばカートリッジヒータのように油の中にヒータを実装するタイプであり、ヒータ5cから油5bへの熱伝導が良く短時間で油の温度が上昇する。冷却部5eは、胴部5hとこの外周部に設けられた放熱フィン5jとを有している。
【0037】
本発明の実施の形態の動作を、図3のボイラ5a内のヒータ5cとサーミスタ8の配置と油面の位置とを示した断面図と、図4図3に示される油面の時の回転室3の真空圧力の時間変化を示したグラフにより説明する。
【0038】
図3に於いて、ボイラ5aの内部には例えば主成分がシリコンで沸点が215℃である油拡散ポンプ用の油5bが貯蔵され、ボイラ5aの中央部にはヒータ5cとして例えば棒状のカートリッジヒータが設置されている。またボイラ5aの側面からは耐熱性サーミスタチップを耐熱性ガラスに封入しセラミックタブレットと合体させることにより耐熱性を500℃まで向上させたサーミスタ8が温度センサとして突出するように設けられている。
【0039】
油拡散ポンプ用の油5bの使用開始時の油面は、ヒータ5cが余裕を持って浸る位置51aにあり、油面がこの位置にある時に油拡散ポンプ5を使用して遠心分離機100内の回転室3を真空にしたときには、図4の実線52aに示されるように所定の時間A1以内に所定の圧力B1以下となり、さらに所定の時間A2以内に所定の圧力B2以下となる能力を持つ。ここでA1とB1、A2とB2の関係は遠心分離機100が十分な遠心能力を発揮するために必要な回転室3の真空排気能力から求められた値である。そして、油拡散ポンプ5を使用していくと、前述のように真空時における油の拡散現象や補助ポンプ4による吸引により徐々に油量が減少していき、油面51bという図4の破線52bに示す油拡散ポンプ5として所定の時間A1に所定の圧力B1に達する能力となる油量、つまり最小必要量の油面レベルとなる。この油量では所定の時間A2以内に所定の圧力B2以内になるという性能は満足している。さらに、油拡散ポンプ5を使用していくと、油量はさらに減少し、油面がヒータ5cの中央部51dと前述の油面51bとの中間点51cにくると、油拡散ポンプ5の性能は図4の一点鎖線52cに示されるように、所定の時間A1以内に所定の圧力B1以下を満足できなくなる。さらに、油量が減少していき油面が図3の51d辺りになると、油拡散ポンプ5の真空排気能力は図4の点線で示される52dようになり、所定の時間A2以内に所定の圧力B2以下という能力さえも確保出来なくなる。
【0040】
次に、サーミスタ8を、図3に示す油面51bに対し貯蔵油5b内に埋没しさらに油面51bに接する位置に設置した場合の、油面レベルに応じたサーミスタ8の温度の変化に関して記す(サーミスタ8を用いた油面検出)。まず、油拡散ポンプ5のヒータ5cに通電せず、油5bが加熱されない状態でサーミスタ8に自己発熱用の所定電流、例えば30mAの電流を流したとき、油面51aから51bとサーミスタ8が油5bに全て浸る状態にある場合には、サーミスタ8の自己発熱により発生した熱は周りの油5bに吸収されてサーミスタ8自体は殆ど温度は上昇しない。また、油面が51b以下となってサーミスタ8自身が油面から現れて油5bへの放熱面積が減少すると、自己発熱時の上昇温度である150℃までは上がらないものの油5bの温度以上の温度を示す。そして、サーミスタ8の殆どが油面から現れた時には吸熱部がなくなるので150℃近くまで温度が上がる。よって、ヒータ5cによる加熱前にサーミスタ8に30mAの電流を流しその温度変化による抵抗値の変化を測ることによりサーミスタ8が油面に埋没しているか、一部表面に出ている(一部露出)か、又は全部が表面に出ている(全部露出)かの判断が可能になる。
【0041】
図5は、サーミスタ8の温度変化の例を示すグラフである。油拡散ポンプ5が動作しておらず貯蔵油5bが室温に近い時刻t1に於いて、サーミスタ8に所定の自己発熱用の電流、例えば30mAを所定時間Tcだけ通電してサーミスタ8を自己発熱させ、この時のサーミスタ温度を測定する。サーミスタ8が貯蔵油5bに浸っていれば、熱が貯蔵油5bに吸収されるため、温度変化81aのように温度上昇は小さい。しかし、サーミスタ8の一部が貯蔵油5bの油面に露出している場合は貯蔵油による熱吸収が少なくなり、温度変化81bのように所定の温度上昇が現れる。さらに、サーミスタ8が完全に油面から露出している場合は温度変化81cのようにより大きな温度変化が発生する。
【0042】
そこで、時刻t1から所定時間Tcが経過した時刻t2に於いて、一部が油面に露出し始めた場合のサーミスタ温度をTH1、また油拡散ポンプ5が必要な排気能力を維持できなくなるレベルまで油面低下したときのサーミスタ温度をTH2として定めておく。サーミスタの温度が所定の温度TH1を超える場合は、貯蔵油5bが減少し始めているので、使用者に貯蔵油5bの補給を促すアナウンスを行うことができる。また、サーミスタ温度がTH2を超えた場合は、遠心分離機100に必要な真空排気能力が発揮できないことをアラームメッセージ等でアナウンスすることができる。前記アナウンスはサーミスタ8の抵抗値からその温度を算出する制御装置9を介して操作部10で表示することや、音による報知等で行う。
【0043】
上記した油面検出は、例えば遠心分離機100の電源をオン(ON)したとき、あるいは停止している間(ヒータ5cには通電されていないとき)に所定の時間間隔たとえば30分ごと、あるいは真空引きを開始するとき(同時にヒータ5cに通電開始)等に行うとよい。
【0044】
図5における時刻t3以降は、真空引きの開始時(同時にヒータ5cに通電開始)に油面検出を行う場合の温度変化例を示している。運転開始の時刻t3に於いてサーミスタ8の温度が十分に低い場合には、サーミスタ8への自己発熱用電流(例えば30mA)の通電を開始し、所定時間Tc経過した時刻t4に於いて、温度変化82cのようにサーミスタ温度がTH2を超える場合は、油拡散ポンプ5の排気能力が発揮できないことをアラームメッセージ等で示して遠心分離を中断させる。温度変化82bであれば、貯蔵油5bの補給を促すアナウンス(操作部10での表示、音による報知等)を行った上で遠心分離を続行する。温度変化82aならば通常通りの遠心分離を行う。さらに、時刻t4を過ぎた後は、サーミスタ8への自己発熱用電流の通電を停止し、サーミスタ8の温度による抵抗変化を利用した油温測定を行う。遠心分離中の貯蔵油5bの温度はサーミスタ8による検出温度に基づいて、所定の温度THc近傍に維持される。
【0045】
ここで所定時間Tcはサーミスタ8のサイズや抵抗値等で異なるものの、概ね10〜30秒程度である。また所定の温度TH1は例えば70℃であり、TH2は例えば120℃、THcは例えば215℃である。
【0046】
図6に、サーミスタ8による油温測定と油面検出を行う回路例を示し、この回路は図1の制御装置9内に組み込まれている。通常の油温を測定するときは、直流電源103とグランド107aの間に、分圧抵抗104とサーミスタ8とを、接点105cと105bが接続されるように設定したスイッチ105を介して直列に接続する。そして、サーミスタ8の端子間に発生する電圧を電圧測定回路106で測定して分圧比を求めることによりサーミスタの抵抗値を求め、温度に換算することができる。直流電源103は例えば高精度の直流5Vであり、分圧抵抗104はサーミスタ8の自己発熱を抑えるため十分に大きな抵抗値、例えば15kオームである。
【0047】
油面を検出するときは、スイッチ105を接点105cと105aが接続されるように切り替え、直流電源101に接続された電流源102からサーミスタ8に所定の自己発熱用電流(油温測定時よりも大きな電流)を流して自己発熱させる。このときもサーミスタ8の端子間にはサーミスタ8の温度に相関する電圧が発生するので、電圧測定回路106で測定すれば、電流源102の既知の電流値と、測定した電圧値によってサーミスタ8の抵抗値を算出でき、サーミスタ8の温度を算出することができる。
【0048】
以上のことから、図4の破線52bに示す油拡散ポンプ5として所定の時間A1に所定の圧力B1に達する能力で、かつ所定の時間A2以内に所定の圧力B2以内になるという性能を満足することができる油貯蔵量時の油面、すなわち図3の油面51bに対し、貯蔵油5b内に埋没しさらに前記油面51bにサーミスタ8の一部が接するような位置にサーミスタ8を設置した場合、サーミスタ8によって油加熱用のヒータ5cの温度制御が可能になると共に、ヒータ5cの通電前にサーミスタ8にヒータ制御時より大電流、例えば30mAを流し、その抵抗値の変化からサーミスタ8の貯蔵油5bに対する露出具合の情報が得られる。その情報を図1の操作部10等に表示又は音によって報知することにより、遠心分離機100の使用者が油拡散ポンプ5の油の過不足情報を得ることができ遠心分離機100の真空性能が低下する前にメンテナンスをすることができるようになる。
【0049】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0050】
(1) 補助真空ポンプ4と油拡散ポンプ5で構成されている真空ポンプ装置を用いる場合に、油拡散ポンプ5の油が収納されるボイラ5a内の油温度と、油面とを検出する検出手段としてサーミスタ8をボイラ内部に設け、そのサーミスタ8によって検出される温度でヒータ5cの出力を調整し、回転室内真空度を大気圧から高真空まで安定させて到達させると共に、ボイラ内ヒータ5cを加熱していないとき(例えば加熱し始める前に)、あるいは加熱開始と同時にサーミスタ8に温度検出時よりも大きな電流を流して自己発熱させ、その抵抗値の変化からサーミスタ8がある位置での貯蔵油5bの有無の判断結果を操作部10で表示したり、遠心分離機使用者に油量の予測を通知したりすることが可能である。従って、油拡散ポンプ5の油不足による真空性能不足を防止可能で、ひいてはロータ1が設置される回転室3内の真空を安定して維持可能である。
【0051】
(2) ボイラ5a内の油温度をサーミスタ8で検出しているため、ボイラ5a内の油を加熱するヒータ温度を検出する構成に比べて、油拡散ポンプ特にそのボイラ周りの温度や流れる風の量に影響されること無く、油温度の管理が可能である。
【0052】
(3) 1つの検出手段としてのサーミスタ8で油温度検出と、油面検出とを兼ねるため、構成の簡素化を図ることができる。
【0053】
(4) サーミスタ8が最小必要量の油面レベルである油面51bから一部露出の場合は油補給の指示情報を出すとともに遠心分離動作は継続し、サーミスタ8が油面51bから完全露出の場合は遠心分離動作を中断する動作を制御装置9で行わせることで、風損に起因するロータ1及びこれで保持された試料の温度上昇を未然に防止可能である。
【0054】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0055】
図6では電流源102と分圧抵抗104を切り替えているが、本発明に於いては適切な定数を選定すれば油温測定、油面検出の双方に電流源あるいは分圧抵抗を用いることができる。またサーミスタ8は正特性、負特性ともに使用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 ロータ
2 電動モータ
3 回転室
4 補助真空ポンプ
5 油拡散ポンプ
5a ボイラ
5b 貯蔵油
5c ヒータ
5d ジェット気流発生部
5e 冷却部
5f 吸気口
5g 排気口
5h 胴部
5j 放熱フィン
6 真空ホース
7 真空パイプ
8 サーミスタ
9 制御装置
10 操作部
11 真空センサ
100 遠心分離機
図1
図2
図3
図4
図5
図6