特許第5854270号(P5854270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854270
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】後輪操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/14 20060101AFI20160120BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   B62D7/14 A
   B62D5/04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-32776(P2012-32776)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-169801(P2013-169801A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 加寿也
(72)【発明者】
【氏名】東頭 秀起
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−085390(JP,A)
【文献】 実開平01−010465(JP,U)
【文献】 実開平05−034080(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/14 − 7/15
B62D 5/04
B62D 6/00
F16H 25/00 − 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四輪操舵車に適用可能な後輪操舵装置であって、
長さ方向に変位して、両端に連結される後輪を転舵させるためのラック軸と、
前記ラック軸に備えられたねじ軸部分と、
前記ねじ軸部分に外嵌され、前記ねじ軸部分とボールを介してねじ結合しているボールナットを含み、前記ボールナットと前記ねじ軸部分との相対的な結合位置を変化させることにより、前記ラック軸を長さ方向に変位させるためのボールナット装置と、
前記ボールナットに形成された係合凹部と、前記ラック軸に形成されたガイド凹部と、前記ラック軸が予め定める中立位置にあるときにおいて、前記ラック軸の変位を禁止するために、前記係合凹部およびガイド凹部の両方に嵌まり、前記ボールナットの回転を禁止するための固定部材とを有するロック装置と、
を含むことを特徴とする、後輪操舵装置。
【請求項2】
前記固定部材は、
前記係合凹部に嵌まる回転禁止部と、
前記回転禁止部よりも前記ラック軸側へ突出しており、前記回転禁止部が前記係合凹部に嵌まるよりも先に前記ガイド凹部に嵌まるセンタリング部と、
を含むことを特徴とする、請求項1記載の後輪操舵装置。
【請求項3】
前記ガイド凹部は、前記ラック軸の周方向全域に亘って設けられた環状溝を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の後輪操舵装置。
【請求項4】
車速が所定速度以下の場合には前記固定部材を前記係合凹部およびガイド凹部から退避させ、車速が前記所定速度を上回ると前記固定部材を前記係合凹部およびガイド凹部の両方に嵌める制御手段を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の後輪操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、四輪操舵車に適用可能な後輪操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪操舵車において後輪を操舵する後輪操舵装置が知られている(特許文献1および2参照)。特許文献1および2で開示された後輪操舵装置は、左右の後輪に連結されたラック軸と当該ラック軸に噛合するピニオン軸とがラックアンドピニオンを構成しており、ピニオン軸が回転駆動されることでラック軸が軸方向にスライドし、これによって、後輪の転舵が達成される。
【0003】
特許文献1および2で開示された後輪操舵装置は、ラック軸を中立位置でロックして後輪の転舵をロックするためのロック機構を有している。このロック機構は、ラック軸に設けられた溝と、この溝に対して進退自在なピンとを含んでいる。中立位置にあるラック軸の溝にピンが嵌まり込むことによって、ロック機構によるラック軸のロックが達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−165099号公報
【特許文献2】特開平8−268314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2のロック機構のようにラック軸の溝にピンが嵌まり込むことでラック軸がロックされる場合、溝に嵌まり込んだピンには、後輪が路面から受ける反力(一般乗用車の場合には最大で18000N程度)が、ラック軸から直接作用する。よって、ピンにかかる負担が大きくなるので、ロック機構の破損を防ぐために、ロック機構を高剛性に構成しなければならず、この場合、ロック機構が大型化してしまう。
【0006】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、後輪の転舵をロックする構成にかかる負担を軽減し、当該構成の小型化を図ることができる後輪操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、四輪操舵車(1)に適用可能な後輪操舵装置(11)であって、長さ方向(X)に変位して、両端に連結される後輪(3)を転舵させるためのラック軸(40)と、前記ラック軸に備えられたねじ軸部分(46)と、前記ねじ軸部分に外嵌され、前記ねじ軸部分とボール(54)を介してねじ結合しているボールナット(52)を含み、前記ボールナットと前記ねじ軸部分との相対的な結合位置を変化させることにより、前記ラック軸を長さ方向に変位させるためのボールナット装置(43)と、前記ボールナットに形成された係合凹部(68)と、前記ラック軸に形成されたガイド凹部(76)と、前記ラック軸が予め定める中立位置にあるときにおいて、前記ラック軸の変位を禁止するために、前記係合凹部およびガイド凹部の両方に嵌まり、前記ボールナットの回転を禁止するための固定部材(75)とを有するロック装置(44)と、を含むことを特徴とする、後輪操舵装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記固定部材は、前記係合凹部に嵌まる回転禁止部(77)と、前記回転禁止部よりも前記ラック軸側へ突出しており、前記回転禁止部が前記係合凹部に嵌まるよりも先に前記ガイド凹部に嵌まるセンタリング部(78)と、を含むことを特徴とする、請求項1記載の後輪操舵装置である。
請求項3記載の発明は、前記ガイド凹部は、前記ラック軸の周方向全域に亘って設けられた環状溝を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の後輪操舵装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、車速が所定速度以下の場合には前記固定部材を前記係合凹部およびガイド凹部から退避させ、車速が前記所定速度を上回ると前記固定部材を前記係合凹部およびガイド凹部の両方に嵌める制御手段(25)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の後輪操舵装置である。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、ロック装置は、路面からの反力が作用するラック軸を直接ロックするのではなく、ラック軸のねじ軸部分に外嵌されたボールナットの回転を禁止することによって、ラック軸を間接的にロックするから、ロック装置にかかる負担を軽減し、その分、ロック装置の小型化を図ることができる。
請求項2記載の発明によれば、ロック装置の固定部材では、先にセンタリング部がラック軸のガイド凹部に嵌まってラック軸を中立位置にセンタリング(位置決め)してから、回転禁止部がボールナットの係合凹部に嵌まるので、確実にラック軸を中立位置でロックすることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、ガイド凹部が環状溝であるので、固定部材が環状溝における周方向のどの部分に嵌まっても、ラック軸を(長さ方向における)中立位置にセンタリングすることができる。
請求項4記載の発明によれば、車速が所定速度を上回ると、確実にラック軸を中立位置でロックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る四輪操舵車1の模式的な平面図である。
図2A図2Aは、ボールナット装置43および解除状態のロック装置44の模式的な要部断面図である。
図2B図2Bは、ボールナット装置43およびロック状態のロック装置44の模式的な要部断面図である。
図3図3は、ボールナット装置43およびロック装置44の模式的な要部斜視図である。
図4図4は、変形例に係るボールナット装置43およびロック装置44の模式的な要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る四輪操舵車1の模式的な平面図である。
なお、以下では、図1における四輪操舵車1の姿勢を基準として、四輪操舵車1の方向を規定する。具体的には、図1では、紙面左側が四輪操舵車1の左側で、紙面右側が四輪操舵車1の右側で、紙面上側が四輪操舵車1の前側で、紙面下側が四輪操舵車1の後側である。図1の左右方向が四輪操舵車1の車幅方向である。図示された太線矢印は、四輪操舵車1の進行方向を示している。
【0014】
図1を参照して、四輪操舵車1は、左右1対の前輪2と、左右一対の後輪3と、四輪操舵システム4とを含んでいる。
前輪2および後輪3のそれぞれは、ホイール5と、ホイール5に取り付けられるハブ6と、ホイール5に外嵌されるタイヤ7とを含んでいる。
四輪操舵システム4は、前輪操舵装置10と、後輪操舵装置11とを含んでいる。
【0015】
前輪操舵装置10は、ステアリングホイール12と、入力軸13と、トーションバー14と、出力軸15と、中間軸16と、ピニオン軸17と、ピニオン18と、前側ラック軸19と、タイロッド20と、ナックルアーム21と、ウォームホイール22と、ウォーム23とを含んでいる。さらに、前輪操舵装置10は、第1電動モータ24と、制御手段としてのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)25と、トルクセンサ26と、車速センサ27とを含んでいる。
【0016】
ステアリングホイール12は、入力軸13に連結されていて、入力軸13は、トーションバー14を介して出力軸15につながっている。入力軸13、トーションバー14および出力軸15は、同軸状に配置されていて、これらのまとまりは、ステアリングシャフト28を構成している。ステアリングホイール12を回転させると(操舵すると)、ステアリングシャフト28がステアリングホイール12とともに回転する。この際、トーションバー14が捩れることによって、入力軸13および出力軸15は回転方向においてずれるように相対的に変位する。出力軸15は、ユニバーサルジョイント29を介して中間軸16につながっていて、中間軸16は、ユニバーサルジョイント30を介してピニオン軸17につながっている。ピニオン軸17には、ピニオン18が連結されている。
【0017】
前側ラック軸19は、車幅方向に沿って長手であり、車幅方向において所定範囲内でスライド可能である。前側ラック軸19の長さ方向途中(ここでは、長さ方向中央)には、ラック31が当該長さ方向に亘って形成されている。ピニオン18とラック31とが噛み合っており、ラックアンドピニオン機構が構成されている。前側ラック軸19の長さ方向両端には、タイロッド20が連結されている。
【0018】
ナックルアーム21は、各前輪2のハブ6に取り付けられている。ナックルアーム21には、四輪操舵車1の車体(図示せず)から延びるキングピン32が挿通されており、各前輪2は、キングピン32を中心に転舵することができる。また、左側の前輪2のナックルアーム21は、リンクピン33を介して左側のタイロッド20に連結されており、右側の前輪2のナックルアーム21は、リンクピン33を介して右側のタイロッド20に連結されている。
【0019】
ウォームホイール22は、出力軸15に対して一体化されている。ウォーム23は、ウォームホイール22と噛み合っている。ウォーム23には、第1電動モータ24の出力軸(図示せず)が連結されている。第1電動モータ24が駆動されると、ウォーム23が回転し、これに伴って、ウォームホイール22が回転する。ウォームホイール22は、回転することによって、ステアリングシャフト28およびステアリングホイール12に補助トルクを与える。なお、第1電動モータ24とステアリングシャフト28との間には、ウォームホイール22およびウォーム23以外の伝達機構が介在されていてもよい。
【0020】
ECU25は、第1電動モータ24の駆動を制御する。トルクセンサ26は、ステアリングホイール12を回転させたときに、回転方向において入力軸13と出力軸15との間で生じる相対的な変位量に基づいて、ステアリングホイール12の回転トルク(操舵トルクともいう)を検出する。車速センサ27は、四輪操舵車1の車速(進行速度)を検出する。
【0021】
図1では、左右の前輪2は、転舵しておらず、中立状態(転舵角が零の状態)にある。このときの車幅方向(長さ方向)における前側ラック軸19の位置を中立位置という。前側ラック軸19が中立位置にあるとき、ピニオン18は、ラック31の長さ方向中央部分と噛み合っている。この状態で、ステアリングホイール12をいずれかの方向(ここでは、図1における時計回りの方向)へ回転させると、ステアリングシャフト28、中間軸16、ピニオン軸17およびピニオン18がステアリングホイール12と共回りする。そして、ピニオン18の回転に伴って前側ラック軸19が車幅方向におけるいずれか(ここでは、左側)へスライドする。前側ラック軸19のスライドに連動して、各前輪2のナックルアーム21においてタイロッド20につながった部分が前側ラック軸19のスライド方向へ変位し、これに伴って、左右の前輪2は、キングピン32を中心として転舵する。
【0022】
この状態で、ステアリングホイール12を、先程回転させたときと同じ量だけ逆向きに回転させると、前側ラック軸19が中立位置に戻るとともに、左右の前輪2が中立状態に戻る。なお、左右の前輪2の転舵方向は、前輪2の周囲の破線矢印で示されている。
ここで、ステアリングホイール12を回転させる際、ECU25は、トルクセンサ26が検出した操舵トルク、および、車速センサ27が検出した車速に基づいて、ステアリングホイール12に必要な補助トルクの大きさを算出する。そして、ECU25は、当該大きさの補助トルクがウォームホイール22からステアリングシャフト28(ステアリングホイール12)に与えられるように、第1電動モータ24の駆動を制御する。このように、前輪操舵装置10は、いわゆる電動パワーステアリング装置を構成しているので、乗り手は、軽い力でステアリングホイール12を回転させることによって、前輪2を転舵させることができる。
【0023】
後輪操舵装置11は、後側ラック軸40と、タイロッド41と、ナックルアーム42と、ボールナット装置43と、ロック装置44と、ラック軸センサ45とを含んでいる。さらに、後輪操舵装置11は、前述したECU25や車速センサ27も含んでいる。
後側ラック軸40は、車幅方向に沿って長手であり、前側ラック軸19と平行に延びており、車幅方向において所定範囲内でスライド可能である。後側ラック軸40の長さ方向Xにおける途中(ここでは、長さ方向Xにおける中央)には、ねじ軸部分46が備えられている。ねじ軸部分46は、後側ラック軸40において後側ラック軸40の軸中心を中心とした螺旋状の溝(ねじ部)であり、後側ラック軸40の外周面において、長さ方向Xに亘って形成されている。後側ラック軸40の長さ方向Xにおける両端には、タイロッド41が連結されている。
【0024】
ナックルアーム42は、各後輪3のハブ6に取り付けられている。ナックルアーム42には、四輪操舵車1の車体(図示せず)から延びるキングピン49が挿通されており、各後輪3は、キングピン49を中心に転舵することができる。また、左側の後輪3のナックルアーム42は、リンクピン50を介して左側のタイロッド41に連結されており、右側の後輪3のナックルアーム42は、リンクピン50を介して右側のタイロッド41に連結されている。そのため、後側ラック軸40の両端には、左右1対の後輪3のいずれかが、タイロッド41およびナックルアーム42を介して、連結されている。
【0025】
図2Aおよび図2Bは、ボールナット装置43およびロック装置44の模式的な要部拡大図である。図3および図4は、ボールナット装置43およびロック装置44の模式的な要部斜視図である。
図2Aを参照して、ボールナット装置43は、ハウジング51と、ボールナット52と、軸受53と、ボール54と、第2電動モータ55とを含んでいる。
【0026】
ハウジング51は、後側ラック軸40と一致する位置に中心軸を有する中空円筒状であって、四輪操舵車1の車体(図示せず)に固定されている。ハウジング51の軸方向両端面は塞がれており、当該両端面の円中心位置には、ハウジング51内に連通する挿通孔56が形成されている。後側ラック軸40では、ねじ軸部分46およびその周辺部分が、挿通孔56に挿通されてハウジング51内に収容されている。この状態で、後側ラック軸40とハウジング51とは同軸状になっている。
【0027】
ボールナット52は、環状体であり、軸方向に所定の長さを有している。ボールナット52は、本体部57と、延設部58とを一体的に備えている。本体部57および延設部58は、いずれも環状体であり、軸方向に並んだ状態で同軸状に配置されている。図2Aでは、本体部57の左側に延設部58が配置されている。本体部57の外径と延設部58の外径とはほぼ同じであるが、本体部57の内径は、延設部58の内径よりも小さい。本体部57の内周面には、ねじ部59が形成されている。ねじ部59は、本体部57の軸中心を中心とした螺旋状の溝であり、本体部57の内周面の全域に形成されている。ボールナット52は、ハウジング51内に配置され、後側ラック軸40のねじ軸部分46に外嵌されており、後側ラック軸40およびハウジング51のそれぞれと同軸状になっている。この状態で、ボールナット52の本体部57のねじ部59が、ねじ軸部分46に対して径方向外側から対向している。
【0028】
軸受53は、環状の玉軸受であり、外輪53Aと、内輪53Bと、転動体53Cとを含む。1対の軸受53がハウジング51内に配置されている。1対の軸受53は、ねじ軸部分46の長さ方向X(図2Aにおける左右方向)に間隔を隔てている。1対の軸受53のうち、一方(図2Aにおける右側)の軸受53では、外輪53Aの外周面がハウジング51の内周面に対して内嵌されていて、内輪53Bの内周面がボールナット52の本体部57の外周面(本体部57において延設部58側へ偏った部分)に対して外嵌されている。他方(図2Aにおける左側)の軸受53では、外輪53Aの外周面がハウジング51の内周面に対して内嵌されていて、内輪53Bの内周面がボールナット52の延設部58の外周面(延設部58において本体部57から離れた側の端部)に対して外嵌されている。これにより、ボールナット52は、長さ方向Xにおける定位置において、1対の軸受53を介してハウジング51によって回転自在に支持されている。
【0029】
ボール54は、球体である。ボール54は、ボールナット52の本体部57のねじ部59とねじ軸部分46との間に多数介在されており、ねじ部59およびねじ軸部分46のそれぞれの溝に嵌まっている。これにより、ボールナット52は、ねじ軸部分46とボール54を介してねじ結合している。そのため、ボールナット装置43では、ボールナット52を回転させると、ボールナット52とねじ軸部分46との相対的な結合位置が後側ラック軸40の長さ方向Xにおいて変化する。これにより、ボールナット装置43は、後側ラック軸40を長さ方向Xに変位させることができる。
【0030】
後側ラック軸40が長さ方向Xに変位(スライド)すると、この変位に連動して、図1に示すように、各後輪3のナックルアーム42においてタイロッド41につながった部分が後側ラック軸40のスライド方向へ変位し、これに伴って、左右の後輪3は、キングピン49を中心として転舵する。なお、左右の後輪3の転舵方向は、後輪3の周囲の破線矢印で示されている。
【0031】
図2Aを参照して、たとえば、長さ方向Xから見てボールナット52を一方向に回転させると、後側ラック軸40が左側にスライドし、左右の後輪3は、右側へ転舵する(図1参照)。一方、ボールナット52を逆方向に回転させると、後側ラック軸40が右側にスライドし、左右の後輪3は、左側へ転舵する(図1参照)。このように、ボールナット装置43は、ボールナット52の回転を後側ラック軸40の往復移動に変換する。
【0032】
第2電動モータ55は、ロータ60と、ステータ61とを含む。ロータ60は、ボールナット52の延設部58の外周面において、周方向全域に亘って設けられている。これにより、ロータ60は、ボールナット52と一体化されている。ステータ61は、ハウジング51の内周面に固定されていて、ロータ60を非接触で取り囲んでいる。第2電動モータ55は、ECU25(図1参照)に対して電気的に接続されている。第2電動モータ55は、ECU25から指令を受けるとともに、車体(図示せず)から電力供給されることによって、駆動される。駆動された第2電動モータ55では、ロータ60が、ボールナット52を伴って、前述した一方向または逆方向に回転する。これによって、後側ラック軸40が長さ方向Xに変位し、左右の後輪3の転舵が達成される(図1参照)。なお、ECU25は、前輪2の転舵に連動して後輪3が転舵するように、第2電動モータ55を駆動させてもよい。たとえば、四輪操舵車1の旋回半径が小さくなるように、前輪2の転舵方向と後輪3の転舵方向とが逆になるように、ECU25が第2電動モータ55を駆動させてもよい。
【0033】
ここで、左右の後輪3が転舵していない(四輪操舵車1の直進方向に沿っている)ときにおける左右の後輪3は、中立状態にある。後輪3が中立状態にある状態において、後側ラック軸40の長さ方向Xにおける位置を「中立位置」ということにする。図1図4のいずれにおいても、後側ラック軸40は中立位置にある。中立位置は、予め定められた位置であって、後側ラック軸40が、中立位置から長さ方向Xにおけるいずれか(左側または右側)へスライドすることによって、左右の後輪3が転舵を開始する。
【0034】
図2Aを参照して、ロック装置44は、固定部材75と、アクチュエータ67と、係合凹部68と、ガイド凹部76とを有している。
固定部材75は、ボールナット52の本体部57に対して径方向外側かつ軸方向(後側ラック軸40の長さ方向Xと同じ)における外側(図2Aにおける右外側)に配置されている。固定部材75は、回転禁止部77とセンタリング部78とを一体的に含んでいる。回転禁止部77は、ボールナット52の周方向から見て、矩形板状である。センタリング部78は、回転禁止部77から後側ラック軸40側へ延びる柱状であって、その先端部(後側ラック軸40側の端部)78Aは、尖っている。センタリング部78は、先端部78Aにおいて、回転禁止部77よりも後側ラック軸40側へ突出している。
【0035】
アクチュエータ67は、固定部材75を支持するものであり、ソレノイド(図示せず)を内蔵している。アクチュエータ67は、ハウジング51に固定されている。アクチュエータ67によって支持された固定部材75は、アクチュエータ67側へ引っ込む退避位置(図2A参照)と、退避位置よりもボールナット52および後側ラック軸40側へ突出した進出位置(図2B参照)との間で進退可能である。固定部材75の進退方向(移動方向)は、後側ラック軸40の径方向(ボールナット52の径方向でもある)に沿っている。そして、アクチュエータ67(厳密には、前記ソレノイド)は、ONされることによって、固定部材75を進出位置まで進出させ(図2B参照)、OFFされることによって、固定部材75を退避位置まで退避させる(図2A参照)。アクチュエータ67は、ECU25(図1参照)に対して電気的に接続されている。ECU25は、アクチュエータ67のON・OFF(固定部材75の進退)を制御する。
【0036】
係合凹部68は、ボールナット52の本体部57の外周面の周上1箇所において、後側ラック軸40の長さ方向Xで回転禁止部77と同じ位置に形成されていて、ボールナット52の円中心側へ窪んでいる。図2Aおよび図2Bの係合凹部68は、図3に示すように本体部57の外周面と端面との角部分57Aを連続して切欠いているが、図4に示すように、係合凹部68は、本体部57の外周面において端面(角部分57A)から離れた位置に形成された穴であってもよい。この場合、固定部材75において、回転禁止部77は、センタリング部78と平行に延びる柱状になっており、センタリング部78よりも短くなっている。つまり、この場合の固定部材75は、回転禁止部77とセンタリング部78とに分岐している。なお、回転禁止部77の先端部(後側ラック軸40側の端部)77Aは、尖っていてもよい。
【0037】
図2Aを参照して、ガイド凹部76は、中立位置にある後側ラック軸40の外周面において、後側ラック軸40の長さ方向Xで固定部材75のセンタリング部78と一致する位置に形成されていて、後側ラック軸40の円中心に向かって窪んでいる。ガイド凹部76は、後側ラック軸40の周方向全域に亘って設けられた環状溝である。
後側ラック軸40が中立位置にあるとき、固定部材75の回転禁止部77と係合凹部68とが、後側ラック軸40の径方向における外側から、この順番で並び、当該径方向に沿う同一直線上に配置される(図3図4も参照)。また、後側ラック軸40が中立位置にあるときのみ、固定部材75のセンタリング部78およびガイド凹部76は、後側ラック軸40の径方向における外側から、この順番で並び、当該径方向に沿う同一直線上に配置される(図3図4も参照)。つまり、後側ラック軸40が中立位置にあるときのみ、当該径方向から見て、固定部材75と係合凹部68およびガイド凹部76とが重なるようになっている。
【0038】
そのため、後側ラック軸40が中立位置にある状態において、アクチュエータ67がONされると、図2Bに示すように、固定部材75が進出位置まで進出して、固定部材75の回転禁止部77が係合凹部68に嵌まり、かつ、固定部材75のセンタリング部78(先端部78A)がガイド凹部76に嵌まる。つまり、固定部材75は、係合凹部68およびガイド凹部76の両方に嵌まる。ここで、固定部材75では、センタリング部78が回転禁止部77よりも後側ラック軸40側へ突出しているから、回転禁止部77が係合凹部68に嵌まるよりも先に、センタリング部78がガイド凹部76に嵌まる。
【0039】
固定部材75が係合凹部68およびガイド凹部76の両方に嵌まること(特に、回転禁止部77が係合凹部68に嵌まること)により、ボールナット52の回転が禁止され、これに連動して、後側ラック軸40の長さ方向Xにおける変位(スライド)が禁止される。一方、後側ラック軸40が中立位置にない場合には、固定部材75が係合凹部68およびガイド凹部76のいずれにも嵌まらないので、後側ラック軸40は引き続きスライドできる。
【0040】
このような構成によれば、ロック装置44は、路面からの反力が作用する後側ラック軸40を直接ロックするのではなく、後側ラック軸40のねじ軸部分46に外嵌されたボールナット52の回転を禁止することによって、後側ラック軸40を間接的にロックするから、ロック装置44(特に固定部材75)にかかる負担を軽減できる。よって、負担を軽減できる分だけ、ロック装置44の小型化(簡素化)および小型化による低コスト化を図ることができる。また、固定部材75にかかる負担を軽減できる分、ロック装置44は、相対的に小さな力で、後側ラック軸40をロックできる。
【0041】
ここで、後側ラック軸40がスライドする際、ボールナット52は、1回転以上回転(多回転)するので、径方向においてボールナット52の係合凹部68が固定部材75の回転禁止部77と並んだ(係合凹部68および回転禁止部77の周方向位置が一致した)としても、後側ラック軸40が中立位置にあるとは限らない。そのため、後側ラック軸40が中立位置にないのに、係合凹部68および回転禁止部77の周方向位置が一致したからといって、固定部材75が進出位置まで進出してしまうと、後側ラック軸40が中立位置以外の位置でロックされてしまう虞がある。
【0042】
そこで、ロック装置44の固定部材75では、先にセンタリング部78が後側ラック軸40のガイド凹部76に嵌まって後側ラック軸40を中立位置にセンタリング(位置決め)してから、回転禁止部77がボールナット52の係合凹部68に嵌まるようになっている。つまり、回転禁止部77がボールナット52の係合凹部68に嵌まるのに先立って、センタリング部78が後側ラック軸40のガイド凹部76に嵌まることで後側ラック軸40の中立位置を探っているので、確実に後側ラック軸40を中立位置でロックすることができる。
【0043】
そして、ガイド凹部76が環状溝であるので、固定部材75が環状溝における周方向のどの部分に嵌まっても、後側ラック軸40を(長さ方向Xにおける)中立位置にセンタリングすることができる。また、ガイド凹部76が環状溝であれば、後輪操舵装置11の組み立ての際、固定部材75の位置を気にせず、後側ラック軸40をハウジング51にセットできる。
【0044】
なお、ボールナット装置43に、ボールナット52の回転に伴って後側ラック軸40が軸回りに回転することを防止するための回り止め機構(図示せず)が設けられているのであれば、ガイド凹部76は、環状溝でなく、後側ラック軸40の周上1箇所に設けられた穴であってもよい。ただし、後輪操舵装置11の組み立ての際、ガイド凹部76が固定部材75側を向くように、後側ラック軸40をハウジング51にセットする必要がある。
【0045】
前述したラック軸センサ45(図1参照)は、後側ラック軸40の長さ方向Xにおける位置(特に、後側ラック軸40が中立位置にあるか否か)を検出する。換言すれば、ラック軸センサ45は、後輪3(図1参照)が中立状態にあるか否かを検出する。
そして、ECU25(図1参照)は、車速センサ27の検出結果に基づいて、車速が所定速度(たとえば20km/h)以下の場合には、アクチュエータ67をOFFにして固定部材75を退避位置まで退避させる。これにより、固定部材75は、図2Aに示すように、退避位置へ向けて、係合凹部68およびガイド凹部76から退避する。この状態では、後輪3の転舵が可能になる。
【0046】
一方、ECU25は、車速センサ27およびラック軸センサ45の検出結果に基づいて、後側ラック軸40が中立位置にあり、かつ、車速が前記所定速度を上回ると、アクチュエータ67をONにして固定部材75を進出位置まで進出させる。これにより、固定部材75は、図2Bに示すように、係合凹部68およびガイド凹部76の両方に嵌まる。よって、車速が所定速度を上回ると、確実に後側ラック軸40を中立位置でロックすることができる。
【0047】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、係合凹部68は、単数に限らず、複数設けられていてもよい。また、四輪操舵車1に作用するセルフアライニングトルクを利用して、後側ラック軸40を中立位置に戻すこともできる。
【符号の説明】
【0048】
1…四輪操舵車、3…後輪、11…後輪操舵装置、25…ECU、40…後側ラック軸、43…ボールナット装置、44…ロック装置、46…ねじ軸部分、52…ボールナット、54…ボール、68…係合凹部、75…固定部材、76…ガイド凹部、77…回転禁止部、78…センタリング部、X…長さ方向
図1
図2A
図2B
図3
図4