特許第5854354号(P5854354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854354
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】絶縁電線の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20160120BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160120BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20160120BHJP
   B05C 9/14 20060101ALN20160120BHJP
【FI】
   H01B13/16 B
   H01B13/00 517
   H05B6/10 351
   !B05C9/14
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-177038(P2012-177038)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-35908(P2014-35908A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 善洋
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健治
(72)【発明者】
【氏名】木村 康三
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307335(JP,A)
【文献】 特開2003−257267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
H01B 13/00
H05B 6/10
B05C 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに沿うように延在し、かつ一方向に並列する複数の経路部分を有する一つの経路に沿って移動する導体に絶縁塗料を塗布して焼付けるための絶縁電線の製造装置であって、
各々が前記複数の経路部分の各々に位置する前記導体の部分を誘導加熱により加熱するための複数のコイルを備え、
前記複数のコイルの各々は、
前記複数の経路部分の各々において、前記経路部分が延在する方向に沿って延在し、前記経路部分を挟むように互いに対向し、かつ互いに接続された第1の延在部および第2の延在部を有し、
前記複数のコイルの各々の前記第1の延在部および前記第2の延在部が交互となるように前記一方向に直線状に並列し、
前記第1の延在部に流れる電流の向きと、前記第2の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されており、
前記複数のコイルのうち一の前記コイルの前記第1の延在部に流れる電流の向きと、前記一のコイルに隣接する他の前記コイルの前記第1の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されており、
前記一のコイルの前記第2の延在部に流れる電流の向きと、前記他のコイルの前記第2の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されている、絶縁電線の製造装置。
【請求項2】
互いに沿うように延在し、かつ一方向に並列する複数の経路部分を有する一つの経路に沿って移動する導体に絶縁塗料を塗布して焼付けるための絶縁電線の製造装置であって、
各々が前記複数の経路部分の各々に位置する前記導体の部分を誘導加熱により加熱するための複数のコイルを備え、
前記複数のコイルの各々は、
前記複数の経路部分の各々において、前記経路部分が延在する方向に沿って延在し、前記経路部分を挟むように対向し、かつ互いに接続された第1の延在部および第2の延在部を有し、
前記第1の延在部に流れる電流の向きと、前記第2の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されており、
前記複数のコイルのうち一の前記コイルの前記第1の延在部に流れる電流の向きと、前記一のコイルに隣接する他の前記コイルの前記第1の延在部に流れる電流の向きとが同じとなるように構成されており、
前記一のコイルの前記第2の延在部に流れる電流の向きと、前記他のコイルの前記第2の延在部に流れる電流の向きとが同じとなるように構成されており、
前記複数のコイルの各々の前記第1の延在部および前記第2の延在部が交互となるように前記一方向に直線状に並列した状態から、前記経路部分が延在する方向を中心として同じ向きに90°以下回転した状態で並んでいる、絶縁電線の製造装置。
【請求項3】
前記複数のコイルの各々は、前記複数のコイルの各々の前記第1の延在部および前記第2の延在部が交互となるように前記一方向に直線状に並列した状態から、前記経路部分が延在する方向を中心として同じ向きに45°以上90°以下回転した状態で並んでいる、請求項2に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項4】
前記複数のコイルの各々は、前記複数のコイルの各々の前記第1の延在部および前記第2の延在部が交互となるように前記一方向に直線状に並列した状態から、前記経路部分が延在する方向を中心として同じ向きに90°回転した状態で並んでいる、請求項3に記載の絶縁電線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造装置に関し、より特定的には、導体の加熱効率を向上させることが可能な絶縁電線の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導体上に絶縁塗料を被覆したエナメル線が知られている。エナメル線は、たとえば各種電気機器の配線、モータあるいは変圧器などの巻線として広く利用されている。
【0003】
一般に、エナメル線は、導体の外周面上に絶縁塗料を塗布し、焼付炉にて導体を加熱し絶縁塗料を焼付けて絶縁層を形成することにより製造される。エナメル線の製造に関しては、たとえば導体上にエナメルワニスを塗布し、導体を誘導加熱により加熱することにより、気泡の発生がない平滑な絶縁層を導体上に形成する方法などが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−136111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような誘導加熱による導体の加熱に使用されるコイルとしては、ヘリカル型コイルに限られず、たとえば導体の移動経路となる部分を挟むようにこれに沿って延在する竪沿型コイルなどを採用することができる。この場合、竪沿型コイルに所定の周波数の交流電流を流すことにより、導体において変化する磁力線を発生させることができる。そして、この磁力線の変化により導体に渦電流が発生し、その抵抗熱により導体が加熱される。しかし、このような竪沿型コイルによる導体の誘導加熱においては、複数のコイル同士の間の距離が小さい場合に導体の加熱効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、導体の加熱効率を向上させることが可能な絶縁電線の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に従った絶縁電線の製造装置は、互いに沿うように延在し、かつ一方向に並列する複数の経路部分を有する一つの経路に沿って移動する導体に絶縁塗料を塗布して焼付けるための絶縁電線の製造装置である。上記絶縁電線の製造装置は、各々が複数の経路部分の各々に位置する導体の部分を誘導加熱により加熱するための複数のコイルを備えている。複数のコイルの各々は、複数の経路部分の各々において、経路部分が延在する方向に沿って延在し、経路部分を挟むように互いに対向し、かつ互いに接続された第1の延在部および第2の延在部を有している。複数のコイルの各々は、複数のコイルの各々の第1の延在部および第2の延在部が交互となるように上記一方向に直線状に並列している。複数のコイルの各々は、第1の延在部に流れる電流の向きと、第2の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。複数のコイルの各々は、複数のコイルのうち一のコイルの第1の延在部に流れる電流の向きと、上記一のコイルに隣接する他のコイルの第1の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。複数のコイルの各々は、上記一のコイルの第2の延在部に流れる電流の向きと、上記他のコイルの第2の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。
【0008】
本発明者は、複数のコイル同士の間の距離が小さい場合に誘導加熱による導体の加熱効率が低下する原因について詳細な検討を行った。その結果、誘導加熱においてコイルに電流を流すことにより導体に発生する磁力線が、他のコイルに発生する磁力線により干渉を受け、その結果導体の加熱効率が低下していることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
本発明の一の局面に従った絶縁電線の製造装置では、複数のコイルの各々を上記のように構成することにより、コイルに発生する磁力線からの導体に発生する磁力線への干渉の影響を低減することができる。したがって、本発明の一の局面に従った絶縁電線の製造装置によれば、導体の加熱効率を向上させることが可能な絶縁電線の製造装置を提供することができる。
【0010】
本発明の他の局面に従った絶縁電線の製造装置は、互いに沿うように延在し、かつ一方向に並列する複数の経路部分を有する一つの経路に沿って移動する導体に絶縁塗料を塗布して焼付けるための絶縁電線の製造装置である。上記絶縁電線の製造装置は、各々が複数の経路部分の各々に位置する導体の部分を誘導加熱により加熱するための複数のコイルを備えている。複数のコイルの各々は、複数の経路部分の各々において、経路部分が延在する方向に沿って延在し、経路部分を挟むように対向し、かつ互いに接続された第1の延在部および第2の延在部を有している。複数のコイルの各々は、第1の延在部に流れる電流の向きと、第2の延在部に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。複数のコイルの各々は、複数のコイルのうち一のコイルの第1の延在部に流れる電流の向きと、上記一のコイルに隣接する他のコイルの第1の延在部に流れる電流の向きとが同じとなるように構成されている。複数のコイルの各々は、上記一のコイルの第2の延在部に流れる電流の向きと、上記他のコイルの第2の延在部に流れる電流の向きとが同じとなるように構成されている。複数のコイルの各々は、複数のコイルの各々の第1の延在部および第2の延在部が交互となるように上記一方向に直線状に並列した状態から、経路部分が延在する方向を中心として同じ向きに90°以下回転した状態で並んでいる。
【0011】
本発明の他の局面に従った絶縁電線の製造装置では、複数のコイルの各々を上記のように構成することにより、上記本発明の一の局面に従った絶縁電線の製造装置と同様に、コイルに発生する磁力線からの導体に発生する磁力線への干渉の影響を低減することができる。したがって、本発明の他の局面に従った絶縁電線の製造装置によれば、導体の加熱効率を向上させることが可能な絶縁電線の製造装置を提供することができる。
【0012】
上記絶縁電線の製造装置において、複数のコイルの各々は、複数のコイルの各々の第1の延在部および第2の延在部が交互となるように一方向に直線状に並列した状態から、経路部分が延在する方向を中心として同じ向きに45°以上90°以下回転した状態で並んでいてもよい。
【0013】
これにより、導体に発生する磁力線への干渉の影響をより低減することができる。その結果、導体の加熱効率をより向上させることができる。
【0014】
上記絶縁電線の製造装置において、複数のコイルの各々は、複数のコイルの各々の第1の延在部および第2の延在部が交互となるように一方向に直線状に並列した状態から、経路部分が延在する方向を中心として同じ向きに90°回転した状態で並んでいてもよい。
【0015】
これにより、導体に発生する磁力線への干渉の影響をさらに低減することができる。その結果、導体の加熱効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明の絶縁電線の製造装置によれば、導体の加熱効率を向上させることが可能な絶縁電線の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1の絶縁電線の製造装置の構成を示す概略斜視図である。
図2】コイルおよび導体に発生する磁力線の干渉を説明するための概略図である。
図3】実施の形態2の絶縁電線の製造装置の構成を示す概略斜視図である。
図4図3中の仮想の面IIに沿った断面を示す概略図である。
図5】コイルおよび導体に発生する磁力線の干渉を説明するための概略図である。
図6】コイルおよび導体に発生する磁力線の干渉を説明するための概略図である。
図7】関連技術におけるコイルおよび導体に発生する磁力線の干渉を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1の絶縁電線の製造装置の構成について説明する。図1を参照して、本実施の形態の絶縁電線の製造装置1は、一つの経路40を有し、この経路40に沿って導体3を移動させることにより導体3に絶縁塗料を塗布して焼付けるためのものである。この一つの経路40は、互いに沿うように延在し、かつ一方向(図1中破線D−Dに沿う方向)に並列する複数の経路部分40a,40b,40cを有している。絶縁電線の製造装置1は、複数の塗布槽10、複数のダイス装置20、複数のコイル30、および移動案内部材50を含み、さらに硬化装置(図示しない)などを含んでいる。複数の塗布槽10、ダイス装置20およびコイル30の各々は、複数の経路部分40a,40b,40cが延在する方向に沿って順に配置されている。なお、本実施の形態においては、塗布槽10、ダイス装置20およびコイル30が3組の場合について説明しているが、この組数は4つ以上であってもよく2つ以下であってもよい。
【0020】
各塗布槽10は、経路40に沿って移動する導体3に絶縁塗料を塗布するためのものである。塗布槽10は、導体3が通過することにより塗布槽10に充填された絶縁塗料を導体3の外周面に塗布することが可能に構成されている。塗布槽10には、たとえばポリアミドイミド樹脂ワニス、ポリイミド樹脂ワニスなどの絶縁塗料が充填されている。
【0021】
各ダイス装置20は、導体3に塗布された絶縁塗料の厚みを制御するためのものである。ダイス装置20は、導体3が移動する方向において、塗布槽10から見て下流側に配置されている。ダイス装置20は、導体3が通過することにより導体3に塗布された絶縁塗料の厚みを一定に制御することができるように構成されている。
【0022】
複数のコイル30の各々は、誘導加熱コイルであり、複数の経路部分40a,40b,40cの各々に位置する導体3の部分を誘導加熱により加熱するためのものである。各コイル30は、導体3が移動する方向において、ダイス装置20から見て下流側に配置されている。複数のコイル30の各々は、図1中破線D−Dに沿う方向に沿って間隔をおいて配置されている。複数のコイル30の各々は、等間隔に配置されていることが好ましく、たとえば15mmの等間隔で配置されている。
【0023】
複数のコイル30の各々は、複数の経路部分40a,40b,40cの各々において、経路部分40a,40b,40cが延在する方向に沿って延在し、当該経路部分40a,40b,40cを挟むように互いに対向する第1の延在部31および第2の延在部32を有している。第1の延在部31と第2の延在部32とは、屈曲部33により互いに接続されている。複数のコイル30の各々は、第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように、図1中破線D−Dに沿う方向に直線状に並列している。また、第1の延在部31および第2の延在部32は、図1中破線D−Dに沿う方向において互いに対向している。
【0024】
複数のコイル30の各々は、交流電源(図示しない)に接続されており、所定の周波数の交流電流を供給することが可能に構成されている。複数のコイル30の各々は、第1の延在部31に流れる電流の向きと、第2の延在部32に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。また、複数のコイル30の各々は、一のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きと、当該一のコイル30に隣接する他のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。また、複数のコイル30の各々は、当該一のコイル30の第2延在部32に流れる電流の向きと、当該他のコイル30の第2延在部32に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。すなわち、複数のコイル30の各々は、図1中の第1および第2の延在部31,32に沿って実線矢印に示す向きに電流が流れるように構成されている。
【0025】
移動案内部材50は、導体3の移動を案内するためのものである。上下の移動案内部材50によって、導体3の移動方向は適宜折り返されている。複数の経路部分40a,40b,40cの各々は、この上下の移動案内部材50の間に位置する部分である。
【0026】
次に、本実施の形態の絶縁電線の製造装置1を用いた絶縁電線の製造方法について説明する。図1を参照して、まず、導体3が準備され、絶縁電線の製造装置1にセットされる。この後、絶縁電線の製造装置1の動作が開始されて、導体3が経路部分40aに沿って移動し、絶縁塗料が充填された塗布槽10を通過する。これにより、導体3の外周面に絶縁塗料が塗布される。この後、絶縁塗料が塗布された導体3がダイス装置20を通過する。これにより、導体3の外周面に塗布された絶縁塗料の厚みが一定に制御される。
【0027】
次に、絶縁塗料の厚みが制御された導体3がコイル30を用いた誘導加熱により加熱される。これにより、絶縁塗料中の溶剤が気化して当該絶縁塗料が乾燥する。
【0028】
このようにして導体3が経路部分40aを通過した後、さらに経路部分40b,40cを通過することにより、経路部分40aと同様に経路部分40b,40cでも導体3への絶縁塗料の塗布および乾燥が繰り返される。そして、導体3を硬化装置(図示しない)において加熱することにより、絶縁塗料が硬化した絶縁層が形成される。このようにして、導体3に絶縁層が形成された絶縁電線が製造される。
【0029】
上記絶縁電線の製造方法において、導体3としては、たとえば銅線、銅合金線、錫めっき銅線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、鋼心アルミニウム線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線あるいは銅覆アルミニウム線などを採用することができる。また、導体3は、丸線であってもよく、また平角線であってもよい。
【0030】
また、絶縁塗料としては、たとえばエナメル被覆の構成樹脂を溶剤により溶解したものを採用することができる。この構成樹脂は、絶縁性および耐熱性が高い樹脂であればよく、たとえばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などを好適に採用することができる。また、溶剤としては、たとえばN−メチル−2−ピロリドンやクレゾールなどを採用することができる。
【0031】
以上のように、本実施の形態の絶縁電線の製造装置1では、複数のコイル30の各々は、第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように図1中破線D−Dに示す方向において並列している。また、複数のコイル30の各々は、第1の延在部31に流れる電流の向きと、第2の延在部32に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。また、複数のコイル30の各々は、一のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きと、当該一のコイル30に隣接する他のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。また、複数のコイル30の各々は、当該一のコイル30の第2の延在部32に流れる電流の向きと、当該他のコイル30の第2の延在部32に流れる電流の向きとが異なるように構成されている。これにより、コイル30に発生する磁力線から導体3に発生する磁力線への干渉の影響を低減することができる。したがって、本実施の形態の絶縁電線の製造装置1によれば、導体の加熱効率を向上させることができる。
【0032】
上記について、図2および図7を参照してより詳細に説明する。図7を参照して、まず、コイル30に交流電流を流すことにより、第1の延在部31および第2の延在部32の各々を中心として同心円状の磁力線b1,b2がそれぞれ発生する。ここで、図中の×印は紙面手前側から紙面奥側に向かい電流が流れることを示し、●印は紙面奥側から紙面手前側に向かい電流が流れることを示している。そして、当該磁力線b1,b2の影響により導体3に磁力線B1,B2が発生する。
【0033】
図7に示すように、複数(たとえば2つ)のコイル30が第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように一方向に直線状に並列し、一方のコイル30(紙面左側)の第1の延在部31に流れる電流の向きと他方のコイル30(紙面右側)の第1の延在部31に流れる電流の向きとが同じ(図中●印に示す向き)であり、かつ当該一方のコイル30の第2の延在部32に流れる電流の向きと、当該他方のコイル30の第2の延在部32に流れる電流の向きとが同じ(図中×印に示す向き)である場合、一方の導体3(紙面左側)に発生する磁力線B1と、当該他方のコイル30に発生する磁力線b2とが互いに打ち消し合うように干渉する。これにより、当該一方の導体3に発生する渦電流が小さくなり、その結果加熱効率が低下する。また、他方の導体3(紙面右側)に発生する磁力線B2も、当該一方のコイル30に発生する磁力線b1と互いに打ち消し合うように干渉する結果、磁力線Bと同様に加熱効率が低下する。
【0034】
これに対して、本実施の形態の絶縁電線の製造装置1では、図2に示すように、一方のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きと、他方のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きとが異なり、かつ一方のコイル30の第2の延在部32に流れる電流の向きと、他方のコイル30の第2の延在部32に流れる電流の向きとが異なっている。そのため、上記のような磁力線同士の打ち消し合う干渉が低減され、その結果導体3の加熱効率を向上させることができる。また、このように導体3およびコイル30の磁力線の干渉の影響を低減することにより、導体3の加熱効率を維持しつつコイル30同士の間の距離をより小さくすることができる。その結果、装置をよりコンパクト化することができる。
【0035】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2の絶縁電線の製造装置について説明する。本実施の形態の絶縁電線の製造装置2は、基本的には実施の形態1の絶縁電線の製造装置1と同様の構成を備え、かつ同様の効果を奏する。しかし、本実施の形態の絶縁電線の製造装置2は、複数のコイル30の各々の第1および第2の延在部31,32に流れる電流の向き、ならびに複数のコイル30の各々の配置において実施の形態1の絶縁電線の製造装置1とは異なっている。
【0036】
図3を参照して、複数のコイル30の各々は、実施の形態1と同様に、経路部分40a,40b,40cが延在する方向に沿って延在し、当該経路部分40a,40b,40cを挟むように互いに対向する第1の延在部31および第2の延在部32を有している。本実施の形態では、第1の延在部31および第2の延在部32は、図3中破線E−Eに沿う方向において対向している。
【0037】
複数のコイル30の各々は、実施の形態1と同様に、第1の延在部31に流れる電流の向きが、第2の延在部32に流れる電流の向きとは異なるように構成されている。また、本実施の形態では、複数のコイル30の各々は、一のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きと、当該一のコイル30に隣接する他のコイル30の第1の延在部31に流れる電流の向きとが同じになるように構成されている。また、複数のコイル30の各々は、当該一のコイル30の第2延在部32に流れる電流の向きと、当該他のコイル30の第2延在部32に流れる電流の向きとが同じになるように構成されている。すなわち、複数のコイル30の各々は、図3中の第1および第2の延在部31,32に沿って実線矢印に示す向きに電流が流れるように構成されている。
【0038】
図4は、図3中の仮想の面IIで導体3およびコイル30を切断した場合の断面を示している。図4に示すように、複数のコイル30の各々は、複数のコイル30の各々の第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように一方向(図中破線D−Dに沿う方向)において直線状に並列した状態から、導体3または各経路部分40a,40b,40cを中心として同じ向きに90°以下の角度θだけ回転した状態で並んでいる。第1および第2の延在部31,32の回転角度θは、好ましくは45°以上90°以下であり、より好ましくは90°である。これにより、第1の延在部31と第2の延在部32とが対向する方向(図中破線E−Eに沿う方向)と、上記一方向(図中破線D−Dに沿う方向)とは互いに交差した状態となっている。また、複数のコイル30は、各々が同じ回転角度θだけ回転した状態で並んでいてもよいし、各々が異なる回転角度θだけ回転した状態で並んでいてもよい。
【0039】
以上のように、本実施の形態の絶電電線の製造装置2では、図3および図4に示すように、複数のコイル30の各々は、第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように上記一方向(図中破線D−Dに沿う方向)に直線状に並列した状態から、導体3または各経路部分40a,40b,40cを中心として同じ向きに90°以下の角度θだけ回転した状態で並んでいる。そのため、複数のコイル30の各々が、第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように上記一方向(図中破線D−Dに沿う方向)に直線状に並列した状態に比べて、導体3に発生する磁力線への干渉の影響を低減することができる。
【0040】
上記について、図5および図7を参照してより詳細に説明する。上記のように、複数(たとえば2つ)のコイル30の配置および第1および第2の延在部31,32に流れる電流の向きが図7に示される場合、導体3に発生する磁力線B1,B2と、コイル30に発生する磁力線b1,b2とが互いに打ち消し合うように干渉することにより加熱効率が低下する。これに対して、本実施の形態の絶縁電線の製造装置2では、図5に示すように、複数(たとえば2つ)のコイル30は、第1の延在部31および第2の延在部32が交互となるように一方向に直線状に並列した状態から、導体3または各経路部分40a,40b,40cを中心として同じ向きに90°以下の角度θだけ回転した状態で並んでいる。そのため、磁力線B1,B2と、磁力線b1,b2とが互いに打ち消し合うように干渉することを抑制することができる。したがって、本実施の形態の絶縁電線の製造装置2によれば、実施の形態1の絶縁電線の製造装置1と同様に、導体3の加熱効率を向上させることができる。
【0041】
また、上述のように、本実施の形態の絶縁電線の製造装置2では、第1および第2の延在部31,32の回転角度θは、45°以上90°以下であることが好ましく、90°であることがより好ましい。これにより、導体3に発生する磁力線への干渉の影響をより低減することができる。その結果、導体3の加熱効率をより向上させることができる。
【0042】
上記について、図6を参照してより詳細に説明する。まず、一方の導体3(紙面左側)に発生する磁力線Bに対して、他方のコイル30(紙面右側)の第2の延在部32に発生する磁力線b1が与える影響について説明する。まず、第1および第2の延在部31,32の回転角度をθ、導体3と第1の延在部31および第2の延在部32との間のそれぞれの距離をd、導体3同士の間の距離をPとすると、上記一方の導体3の位置を原点(0,0)とした場合の上記他方のコイル30の第2の延在部32の位置ベクトルRは、R=(P,0)+d(−cosθ,sinθ)=(P−dcosθ,dsinθ)となる。そして、第2の延在部32に発生する磁力線b1は、位置ベクトルRを反時計周りに90°回転させたベクトルを位置ベクトルRの長さの2乗で除したものに比例するため、b1∝(−dsinθ,P−dcosθ)/(P2+d2−2Pdcosθ)となる。また、当該一方の導体3に発生する磁力線B(自己磁場)の単位ベクトルは、(−sinθ,−cosθ)となるため、磁力線Bおよび磁力線b1の内積I1は、I1=(d−Pcosθ)/(P2+d2−2Pdcosθ)となる。
【0043】
また、当該一方の導体3に発生する磁力線Bに対して、当該他方のコイル30の第1の延在部31に発生する磁力線b2(図示しない)は、磁力線b1と同様にして算出することができる。そして、磁力線Bおよび磁力線b2のベクトルの内積I2は、I2=(d+Pcosθ)/(P2+d2+2Pdcosθ)となる。したがって、当該一方の導体3に発生する磁力線Bに対する当該他方のコイル30全体に発生する磁力線b1,b2の干渉は、内積I1とI2とを加えた、I1+I2=2d(P2+d2−2cos2θP2)/((P2+d22−4P22cos2θ)の正負により判定することが可能である。すなわち、I1+I2>0の場合には磁力線Bは強められ、一方でI1+I2<0の場合には、磁力線Bを弱められる。そのため、P2+d2−2cos2θP2>0である場合、つまりcosθ<1/√2(1+d2/P2)である場合に、磁力線Bは強められる。ここで、Pがdに比べて著しく大きいため、d2/P2≒0と近似すると、45°≦θ≦90°の場合において、上記関係式が満たされる。したがって、45°≦θ≦90°が満たされるときに導体3の加熱効率をより向上させることができる。なお、当該他方のコイル30の第1および第2の延在部31,32に流れる電流の向きがそれぞれ逆向きである場合には上記関係式の不等号も逆になるため、cosθ>1/√2(1+d2/P2)である場合、すなわち0°≦θ≦45°である場合に磁力線Bは強められる。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の絶縁電線の製造装置は、導体の加熱効率を向上させることが要求される絶縁電線の製造装置において、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0046】
1,2 絶縁電線の製造装置、3 導体、10 塗布槽、20 ダイス装置、30 コイル、31 第1の延在部、32 第2の延在部、33 屈曲部、40 経路、40a,40b,40c 経路部分、50 移動案内部材、B,B1,B2,b1,b2 磁力線、I1,I2 内積、R 位置ベクトル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7