(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854417
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】2次元フォトニック結晶レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20060101AFI20160120BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/323
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-171933(P2010-171933)
(22)【出願日】2010年7月30日
(65)【公開番号】特開2012-33705(P2012-33705A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】坂口 拓生
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 和也
(72)【発明者】
【氏名】國師 渡
(72)【発明者】
【氏名】宮井 英次
(72)【発明者】
【氏名】三浦 義勝
(72)【発明者】
【氏名】大西 大
【審査官】
河原 正
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−038063(JP,A)
【文献】
特開2002−033549(JP,A)
【文献】
特開2010−109223(JP,A)
【文献】
特開2009−038062(JP,A)
【文献】
特開2006−156944(JP,A)
【文献】
特開2000−275418(JP,A)
【文献】
特開2010−114384(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/062084(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlαGa1-αAs(0<α<1)又は(AlβGa1-β)γIn1-γP(0≦β<1, 0<γ<1)を母材とする母材層内に、空孔から成る異屈折率領域が周期的に設けられた2次元フォトニック結晶層と、
前記2次元フォトニック結晶層の上に積層されている、Alを含有するp型又はn型の半導体から成るエピタキシャル成長層と、
前記エピタキシャル成長層の上に積層されている、Alを含有するp型又はn型の半導体から成るクラッド層
を有し、
前記エピタキシャル成長層におけるAlの含有率が、前記クラッド層におけるAlの含有率よりも高い
ことを特徴とする2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項2】
前記母材層が、前記αの値が異なる複数の層、前記αの値が特定の値である1層若しくは前記αの値が異なる複数の層及びGaAsから成る層を有する複数の層、又は前記β及び前記γの値のうち一方若しくは両方が異なる複数の層が積層されている構造を有していることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項3】
前記母材層を構成する複数の層のうち、前記エピタキシャル層に最近接する層におけるAlの含有率が0.1以下であることを特徴とする請求項2に記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項4】
前記母材層がGaAsから成る層を有していることを特徴とする請求項2又は3に記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項5】
前記エピタキシャル成長層の材料がAlxGa1-xAs(0<x<1)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル法による作製に適した構造を有する2次元フォトニック結晶レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2次元フォトニック結晶を用いた新しいタイプのレーザが開発されている。2次元フォトニック結晶とは、誘電体から成る母材に屈折率の周期構造を形成したものであり、一般に母材とは屈折率が異なる領域(異屈折率領域)を母材内に周期的に設けることにより作製される。この周期構造により、結晶内でブラッグ回折が生じ、また、光のエネルギーにエネルギーバンドギャップが現れる。2次元フォトニック結晶レーザには、バンドギャップ効果を利用して点欠陥を共振器として用いるものと、光の群速度が0となるバンド端の定在波を利用するものがあるが、いずれも所定の波長の光を増幅してレーザ発振を得るものである。
【0003】
2次元フォトニック結晶レーザでは、2次元フォトニック結晶構造を有する層(以下、「2次元フォトニック結晶層」とする)の異屈折率領域を空孔とすることが多い。これは、母材と空孔との屈折率差を大きくすることができ、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を向上させることができるためである。
【0004】
特許文献1には空孔(異屈折率領域)が母材内に周期的に並んだ2次元フォトニック結晶構造を有する層の上に、別途作製された層を重ねて加熱することにより融着(熱融着)させる方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、この方法で作製した2次元フォトニック結晶レーザでは、熱融着を行った2次元フォトニック結晶層と、この2次元フォトニック結晶層の上に積層した層(以下、「上部層」とする)の融着面における界面準位のため、これらの界面において電気抵抗が高くなる。そのため、動作電圧が高くなり、レーザの連続発振が生じにくくなってしまう。また、熱融着を行う際に空孔の形状が崩れてしまい、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能が低下してしまうことがある。
【0006】
一方、特許文献2には、GaNを母材とし、空孔が周期的に形成された2次元フォトニック結晶層の上に、AlGaNを直接、エピタキシャル成長させることにより上部層を形成する方法が記載されている。
【0007】
特許文献2に記載の方法は、大別して、(i)空孔を残したまま上部層を形成する方法、(ii)空孔を埋めつつ上部層を形成する方法、(iii)柱状の異屈折率領域を先に形成し、その周囲をエピタキシャル成長により埋めることで母材を形成しつつ上部層を形成する方法、の3つである。
【0008】
(ii)及び(iii)の方法では、異屈折率領域が空気以外の材料(具体的には上部層と同じ材料)で埋められることになる。このような構造では、異屈折率領域を空孔とした場合に比べて光の閉じ込め効果が低下するが、その一方で単一モード且つ大面積でレーザ発振させやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-332351号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/062084号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の方法では、2次元フォトニック結晶層と上部層の界面において電気抵抗が高くなるという問題は生じない。しかしながら、(i)の方法では、上部層をエピタキシャル成長させる際に空孔の一部が上部層の材料で埋まってしまい、空孔の形状が変化してしまうという問題がある。また、(ii)及び(iii)の方法については、空孔内や柱状の異屈折率領域の間を上部層の材料で完全に埋めることが難しく、空洞が形成されやすいという問題がある。これらの場合、屈折率の周期構造が不完全なものとなってしまい、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能が低下するという問題が生じる。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、2次元フォトニック結晶層の上部層をエピタキシャル法により形成する際に、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を低下させないようにした2次元フォトニック結晶レーザを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザは、
Al
αGa
1-αAs(0<α<1)又は(Al
βGa
1-β)
γIn
1-γP(0≦β<1, 0<γ<1)を母材とする母材層内に
、空孔から成る異屈折率領域が周期的に設けられた2次元フォトニック結晶層と、
前記2次元フォトニック結晶層の上にエピタキシャル法によって作製される、Alを含有するp型又はn型の半導体から成るエピタキシャル成長層と、
前記エピタキシャル成長層の上に積層された、Alを含有するp型又はn型の半導体から成るクラッド層
を有し、
前記エピタキシャル成長層におけるAlの含有率が、前記クラッド層におけるAlの含有率よりも高い
ことを特徴とする。
【0013】
なお、本願では、各層の相対的な位置関係を示すために、便宜的に「上」、「下」という語を用いるが、これらは、作製時の各層の向き及び作製後の2次元フォトニック結晶レーザの向きを限定するものではない。
【0014】
2次元フォトニック結晶層の上の層をエピタキシャル法により作製するには、2次元フォトニック結晶層の温度を600℃前後にまで上昇させる必要がある。しかしながら、例えば異屈折率領域が空孔である場合など、2次元フォトニック結晶層において空孔が設けられた状態でその上部層をエピタキシャル法により作製すると、このような高い温度ではマイグレーションが生じて空孔の形状が崩れてしまうことがある。一方、Al
αGa
1-αAs系材料や(Al
βGa
1-β)
γIn
1-γP系材料は高温においても堅固であるため、上部層をエピタキシャル成長させる際に空孔の形状が崩れてしまうことがなく、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を高く維持することができる。
【0015】
前記エピタキシャル成長層の材料としては、Al
xGa
1-xAs(0<x<1)が望ましい。Al
xGa
1-xAsはAlの含有率によってガスの拡散長が異なり、その成長特性が変化する。そのため、下部層であるフォトニック結晶層の構造に応じてxの値を最適値とすることで、上記と同様に、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を高く維持することができる。
【0016】
また、前記エピタキシャル成長層は、そのまま発光ダイオード(LED)におけるp型又はn型のクラッド層として用いることができるが、このクラッド層を別途エピタキシャル成長させるための再成長界面層として用いることもできる。上記のように、フォトニック結晶層の構造に応じてxを変化させるため、エピタキシャル成長層をそのままクラッド層とすると、フォトニック結晶層の構造に応じてクラッド層の組成も変化することになる。一方、再成長界面層を導入すれば、フォトニック結晶層の構造によらずクラッド層を作製することができるため、より自由度の高い構造で2次元フォトニック結晶レーザを製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザは、2次元フォトニック結晶層の上部層をエピタキシャル法により作製するのに適した構造を有する。本発明の構造では、エピタキシャル成長の際に、2次元フォトニック結晶層に設けられた空孔が変形したり崩れたりすることがない。また、上部層であるエピタキシャル成長層の材料をAl
xGa
1-xAsとし、xの値をその成長特性に基づいた最適値とすることにより、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を高く維持することができる。さらに、エピタキシャル成長層を、p型又はn型のクラッド層をエピタキシャル成長により作製するための再成長界面層として用いることにより、2次元フォトニック結晶レーザの構造上の自由度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの第1の実施例を示す斜視図。
【
図2】2次元フォトニック結晶層の構造の一例を示す上面図。
【
図3】実施例1の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法を示す縦断面図。
【
図4】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの第2の実施例を示す縦断面図。
【
図5】実施例2の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法を示す縦断面図。
【
図6】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの第3の実施例を示す縦断面図。
【
図7】空孔の深さhと最大幅dを説明するための図。
【
図8】実施例3の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法を示す縦断面図。
【
図9】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの第4の実施例を示す縦断面図。
【
図10】実施例4の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法を示す縦断面図。
【
図11】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの第5の実施例を示す縦断面図。
【
図12】実施例5の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜
図12を用いて、本発明
、及び本発明には属しないが本発明に関連する2次元フォトニック結晶レーザの実施例を説明する。
【実施例1】
【0020】
実施例1の2次元フォトニック結晶レーザ10は
本発明には属しないが本発明に関連するものであって、
図1に示すように、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13、キャリアブロック層14、2次元フォトニック結晶層15、第2クラッド層(エピタキシャル成長層)16、コンタクト層17、が順に積層された構造を有している。そして、基板11の下には下部電極18が、コンタクト層17の上には上部電極19が、それぞれ設けられている。
【0021】
2次元フォトニック結晶層15は、
図2に示すように、板状の母材層152内に、円形や三角形等の平面形状を有する空孔151が周期的に形成されている。本実施例では、母材層152の材料にはAl
0.1Ga
0.9Asを用いる。これは、この材料が高温においても堅固であり、後述のように第2クラッド層16をエピタキシャル法により作製する際に温度を上昇させても、空孔151の形状が崩れてしまうことがないためである。
【0022】
なお、母材層152の材料は本実施例のものには限らず、Al
αGa
1-αAs(0<α<1)又は(Al
βGa
1-β)
γIn
1-γP(0≦β<1, 0<γ<1)を用いることができる。前者は近赤外領域の波長を持つレーザ光を発振させる場合に、後者は赤色領域の波長を持つレーザ光を発振させる場合に、好適に用いることができる。
【0023】
第2クラッド層16の材料には、2次元フォトニック結晶層15の上にエピタキシャル法により作製することが可能なものを用いる。第2クラッド層16の材料には、本実施例ではp型のAl
0.65Ga
0.35As、即ち+3価である(Al
0.65Ga
0.35)サイトに微量の+2価の不純物を添加したものを用いる。なお、第2クラッド層16の材料は本実施例のものには限らず、p型のAl
xGa
1-xAs(0.4≦x<1)を好適に用いることができる。Al
xGa
1-xAsは、xの値が大きくなるほどガスの拡散長が短くなり、空孔151内に侵入しにくくなる。そのため、空孔151内に不要なp型Al
0.65Ga
0.35Asの結晶が形成されることを抑制することができる。
【0024】
2次元フォトニック結晶層15及び第2クラッド層16以外の各層は、本実施例では以下のものを用いる。基板11の材料にはn型のGaAsを、第1クラッド層12の材料にはn型のAl
0.65Ga
0.35Asを、それぞれ用いる。これらはGaAsのGaサイト又はAl
0.65Ga
0.35Asの(Al
0.65Ga
0.35)サイトに微量の+4価の不純物を添加したものである。活性層13にはInGaAs/GaAsの多重量子井戸から成るものを用いる。キャリアブロック層14にはAl
0.4Ga
0.6Asから成るものを用いる。コンタクト層17にはp型のGaAsを用いる。なお、これら各層にも、上記以外の材料を用いることができる。
【0025】
また、本実施例とは逆に、基板11及び第1クラッド層12にp型の材料を用い、第2クラッド層16及びコンタクト層17にn型の材料を用いてもよい。
【0026】
次に、
図3を用いて、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10の製造方法の一例を示す。まず、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13、キャリアブロック層14を順に、気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する。次に、キャリアブロック層14の上に、母材層152を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(b)。続いて、母材層152の上面にレジスト21を塗布し、電子ビームリソグラフィ法により、空孔151の配置に対応したパターンを該レジスト21に形成したうえで、エッチング法により母材層152に空孔151を形成することにより、2次元フォトニック結晶層15を作製する(c)。
【0027】
その後、レジスト21を除去し、2次元フォトニック結晶層15の上に第2クラッド層16を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(d)。また、第2クラッド層16をエピタキシャル成長させる間、2次元フォトニック結晶層15を約600℃に加熱する。このような温度に加熱すると、仮に母材層152の材料がAlを含有しないGaAsであるならば、マイグレーションが生じて空孔151の形状が崩れてしまうおそれがあるが、本実施例では母材層152の材料にAl
0.1Ga
0.9Asを用いることにより空孔151の形状を保持することができる。
【0028】
このように第2クラッド層16が作製された後、第2クラッド層16の上にコンタクト層17を気相法でエピタキシャル成長させる。そして、基板11の下側に下部電極18を、コンタクト層17の上に上部電極19を、それぞれ蒸着法で作製することにより、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10が得られる(e)。
【実施例2】
【0029】
図4を用いて、本発明に
は属しないが本発明に関連する2次元フォトニック結晶レーザの実施例2を説明する。本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Aは、実施例1における2次元フォトニック結晶層15の代わりに、以下に述べる2次元フォトニック結晶層15Aを用いたものである。それ以外の構成は実施例1の2次元フォトニック結晶レーザ10と同じである。
【0030】
2次元フォトニック結晶層15Aは、Al
0.65Ga
0.35As(α=0.65)から成る第1母材層1521Aの上面に、Al
0.1Ga
0.9As(α=0.1)から成る第2母材層1522Aが第1母材層1521Aよりも薄く形成された、2層構造の母材層152Aを有する。母材層152A内には、空孔151Aが実施例1と同じ形状及び周期で形成されている。第2母材層1522Aは、第1母材層1521AよりもAlの含有率が低いため、後述の製造工程において酸化しにくい、という特長を有する。
【0031】
図5を用いて、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Aの製造方法を説明する。まず。実施例1と同様の方法により、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13及びキャリアブロック層14を順に、気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(a)。次に、キャリアブロック層14の上に、第1母材層1521Aを気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(b)。続いて、第1母材層1521Aの上に、第2母材層1522Aを気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(c)。ここまでの各工程は、同一のチャンバ内で原料ガスを変更することにより行う。
【0032】
次に、実施例1と同様に、電子ビームリソグラフィ法及びエッチング法を用いて、母材層152A内に空孔151Aを形成する(d)。この工程は、エピタキシャル法以外の方法を用いているため、それ以前の各工程とは異なるチャンバ内で行う。続いて、チャンバを元のものに変更し、第2母材層1522Aの表面に、第2クラッド層16を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(e)。その後、実施例1と同様の方法によりコンタクト層17、下部電極18及び上部電極19を作製することにより、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Aが得られる。
【0033】
このように、空孔151Aを形成する工程の前後においてはチャンバを変更する必要があり、その際に母材層の表面が酸化するおそれがある。本実施例では、第1母材層1521Aの材料よりも酸化しにくい材料を第2母材層1522Aに用いることにより、母材層の表面が酸化することを抑制している。
【実施例3】
【0034】
図6を用いて、本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの実施例3を説明する。本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Bは、実施例1における2次元フォトニック結晶層15と第2クラッド層16の間に、Al
xGa
1-xAs(0.4≦x<1)から成る再成長界面層31を設けたものである。
【0035】
また、空孔151は、平面形状の最大幅dを200nm以下とすると共に、深さhと最大幅dの比h/d(アスペクト比)を1.3以上5以下とする。ここで、最大幅dは、空孔151の平面形状内に収まる最長の線分の長さをいう(
図7)。例えば空孔151の平面形状が円の場合には直径が、正三角形の場合には辺が、正三角形以外の三角形の場合には3辺のうちの最長の辺の長さが、それぞれ最大幅に該当する。
【0036】
本実施例では、再成長界面層31におけるAlの含有率xを比較的高い値にすると共に、アスペクト比h/dを1.3以上とすることにより、再成長界面層31の原料ガスが空孔151内に侵入しにくくなるようにしている。そのため、空孔151内に再成長界面層31の材料から成る結晶が形成されることが抑制される。なお、hが大きすぎたり、dが小さすぎたりすると、空孔151の2次元周期構造が十分に形成されないことがあるため、アスペクト比h/dの上限は5とした。
【0037】
図8を用いて、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Bの製造方法を説明する。まず。実施例1と同様の方法により、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13、キャリアブロック層14及び2次元フォトニック結晶層15を作製する(a)。次に、2次元フォトニック結晶層15の上に、再成長界面層31を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製し、空孔151の上部を塞ぐ(b)。その際、上記のように、空孔151内に再成長界面層31の材料が侵入することが抑制される。また、母材層152の材料に上記のものを用いているため、この工程においてマイグレーションが生じることを防ぐことができる。続いて、再成長界面層31の上に、第2クラッド層16を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(c)。その後、実施例1と同様の方法によりコンタクト層17、下部電極18及び上部電極19を作製することにより、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Bが得られる。
【実施例4】
【0038】
図9を用いて、本発明に
は属しないが本発明に関連する2次元フォトニック結晶レーザの実施例4を説明する。本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Cは、実施例3における再成長界面層31の代わりに、Al
xGa
1-xAs(0<x≦0.8)から成る再成長界面層31Aを設ける。それと共に、2次元フォトニック結晶層15C内に、空孔151の代わりに、再成長界面層31Aと同じ材料から成る異屈折率部材32を周期的に設ける。異屈折率部材32は、平面形状の最大幅dを200nm以下とすると共に、アスペクト比h/dを0.1以上1.2以下とする。なお、最大幅d及びアスペクト比h/dの定義は空孔151の場合と同様である。
【0039】
本実施例では、再成長界面層31AにおけるAlの含有率xを比較的低い値にすると共に、アスペクト比h/dを1.2以下とすることにより、再成長界面層31Aを作製する際に、空孔151内に再成長界面層31Aの原料ガスが侵入しやすくなるようにしている。なお、hが小さすぎたり、dが大きすぎたりすると、空孔151の2次元周期構造が十分に形成されないことがあるため、アスペクト比h/dの下限は0.1とした。
【0040】
図10を用いて、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Cの製造方法を説明する。まず、実施例1と同様の方法により、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13及びキャリアブロック層14及び2次元フォトニック結晶層15を作製する(a)。但し、ここで作製された2次元フォトニック結晶層15は実施例1と同様に空孔151を有するものであり、未だ異屈折率部材32は形成されていない。次に、2次元フォトニック結晶層15の上に再成長界面層31Aを、空孔151内に異屈折率部材32を、同時に気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(b)。その際、上記のように空孔151内に原料ガスが侵入しやすくなるため、空洞を生じることなく異屈折率部材32を形成することができる。また、母材層152の材料に上記のものを用いているため、この工程においてマイグレーションが生じることを防ぐことができる。続いて、再成長界面層31Aの上に、第2クラッド層16を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(c)。その後、実施例1と同様の方法によりコンタクト層17、下部電極18及び上部電極19を作製することにより、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Cが得られる。
【実施例5】
【0041】
図11を用いて、本発明に
は属しないが本発明に関連する2次元フォトニック結晶レーザの実施例5を説明する。本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Dでは、2次元フォトニック結晶層15Dは、キャリアブロック層14の上面に周期的に配置された柱状の異屈折率部材32Aと、異屈折率部材32Aの周りに埋め込まれた母材152Bから成る構成を採っている。本実施例では、異屈折率部材32Aの材料はAl
xGa
1-xAs(0<x≦0.8)には限定されず、他の半導体材料や誘電体材料を用いることもできる。また、2次元フォトニック結晶層15Dの上面には、母材152Bと同じ材料から成る再成長界面層31Bが形成されている。その他の構成は実施例1と同様である。
【0042】
図12を用いて、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Dの製造方法を説明する。まず、実施例1と同様の方法により、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13及びキャリアブロック層14を作製する。次に、キャリアブロック層14の上に、異屈折率部材32Aの材料から成る異屈折率領域前駆層33を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(a)。続いて、電子ビームリソグラフィ法及びエッチング法を用い、周期的に配置された柱状の領域を残して、異屈折率領域前駆層33を上面から途中まで除去する。これにより、異屈折率領域前駆層33の下側の一部が残って形成されたスペーサ層33Aの上に、柱状の異屈折率部材32Aが形成される(b)。次に、スペーサ層33Aの上に、母材152Bを気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する。そして、母材152Bが異屈折率部材32Aの上面まで形成された後もエピタキシャル法により結晶の作製を継続する。これにより、異屈折率部材32A及び母材152Bの上に再成長界面層31Bを形成する(c)。そして、再成長界面層31Bの上面に、第2クラッド層12を気相法でエピタキシャル成長させることにより作製する(d)。その後、実施例1と同様の方法によりコンタクト層17、下部電極18及び上部電極19を作製することにより、本実施例の2次元フォトニック結晶レーザ10Dが得られる。
【0043】
本発明は上記各実施例には限定されない。例えば、母材層は材料が異なる複数の層から構成することができ、それらの層のうちの1層はAlを含有しないGaAsから成る層であってもよい。その場合であっても、母材層全体がGaAsから成る場合と比較すると、マイグレーションの影響を抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
10、10A、10B、10C、10D…2次元フォトニック結晶レーザ
11…基板
12…第1クラッド層
13…活性層
14…キャリアブロック層
15、15A、15C、10D…2次元フォトニック結晶層
151、151A…空孔
152、152A…母材層
1521A…第1母材層
1522A…第2母材層
152B…母材
16…第2クラッド層(エピタキシャル成長層)
17…コンタクト層
18…下部電極
19…上部電極
21…レジスト
31、31A、31B…再成長界面層
32、32A…異屈折率部材
33…異屈折率領域前駆層
33A…スペーサ層