特許第5854466号(P5854466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5854466高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854466
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/24 20060101AFI20160120BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160120BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   C08J11/24ZAB
   B09B3/00 304P
   B09B3/00 304Z
   B01J3/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-2150(P2012-2150)
(22)【出願日】2012年1月10日
(65)【公開番号】特開2013-142100(P2013-142100A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】柳原 尚久
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−300916(JP,A)
【文献】 特開2003−113125(JP,A)
【文献】 特開平4−316541(JP,A)
【文献】 特開昭54−66985(JP,A)
【文献】 特表平9−509977(JP,A)
【文献】 特開2002−324311(JP,A)
【文献】 特開2001−62424(JP,A)
【文献】 特開2006−231249(JP,A)
【文献】 特開2005−293710(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0318576(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/119742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/24
B01J 3/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収ないし廃棄された磁気テープ記録媒体を物理的に分解して、リール巻き磁気テープを分別・取出し、リール巻き磁気テープの磁気テープにヒネリを加えながら磁気テープを嵩高に巻きほどく手法、または、引きほどいた磁気テープを長尺なまま相互にからませて嵩高に保持する手法により、嵩高な磁気テープを得てからコアリールを破棄し、嵩高磁気テープを、反応容器中に導入して、反応容器を加熱・加圧し、100℃以上240.5℃未満の高温域、1MPa以上8.09MPa未満高圧域の亜臨界メタノールにより、嵩高磁気テープのベースフィルム樹脂を構成するポリエステルを熱分解し、メタノールに溶解したベースフィルム樹脂の分解生成物を系外に取出すことを特徴とする高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法。
【請求項2】
嵩高磁気テープを、メタノールを噴射しながら反応容器中に導入することを特徴とする請求項1に記載の高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法。
【請求項3】
160℃以上、210℃未満の温度域の亜臨界のメタノールで、嵩高磁気テープを熱分解することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリエステルをベースフィルムとする磁気テープ記録媒体を高温・高圧容器中で熱分解してポリエステル分解生成物のモノマー類等を得る、高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステルをベースフィルムとし、その片側表面に、ポリウレタンやポリ塩化ビニル等の塗膜バインダーと磁性粉とからなる磁性塗料を塗工した磁気テープ類の磁気テープ記録媒体は、例えば、VHSビデオテープや、コンピュータデータのバックアップテープなどとして多用されている。
【0003】
近年、これら磁気テープ類の磁気テープ記録媒体は、記録メディアがビデオテープから光ディスクに移行する等を契機に、大量に回収・破棄される傾向にある。
【0004】
磁気テープ記録媒体として市販されている製品の9割以上は、ベースフィルムを構成するポリエステルがポリエチレンテレフタラート(PET)であるので、ケミカルリサイクルすれば、PET由来の分解生成物である、フタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)を獲得することができる。
【0005】
一般的なVHS用テープはポリエチレンテレフタラート(PET)をベースフィルムとし、磁性粉(四酸化三鉄あるいは三酸化二鉄など)を主体とする磁性塗料が塗工された複合体である。
【0006】
ところで、1970年代後半に開発されたアナログ用VHS(Video Home System)用テープの用途は、2011年7月24日正午を刻限とする日本のテレビジョン放送の完全デジタル化政策によって、終焉を迎えることになる。したがって、約40年に渡り生産・販売・消費された膨大な量のVHS用テープは、今後しばらくの間に廃棄される運命にある。
【0007】
PETは枯渇資源である原油を出発原料とし、ナフサから得られるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とを縮重合して合成される化成品である。さらに、PETは清涼飲料水や炭酸飲料水容器に大量に用いられているPETボトルの製造原料でもある。また、化学繊維として広く用いられているポリエステル繊維の代表的製造原料としても知られている。一方、高純度の酸化鉄を得るためには、鉄粉を有機溶媒中で空気酸化しなければならない(下記非特許文献1を参照)。したがって、磁性粉を得るためには鉄鉱石の精錬を始めとする高エネルギーを要する数々の行程を経なければならない。
【0008】
しかしながら、上述したように高コスト・高エネルギーをかけて作製されたVHSテープは、今後、従来のプラスチック系廃棄物と同様、そのほとんどが埋立て処分又は焼却処理されてしまうであろうことは容易に想像される。しかし、埋立て処分では埋立て用地の確保が困難なこと、さらには埋立て後の地盤が不安定になるという問題がある。一方、焼却処理では炉の損傷、有害ガスや悪臭の発生、二酸化炭素ガス排出といった問題を抱えている。
【0009】
これらの処分・処理方法に拘わる諸問題を解決する一つの方策、すなわち、埋立て又は焼却処分される廃棄プラスチック量を軽減すると同時に、廃棄プラスチックを資源として有効活用するために、1995年(平成7年)に容器包装廃棄物法が制定され、プラスチックの回収再利用が義務付けられるようになった。その後、各種リサイクル法の施行に伴い、プラスチックを含む製品の回収リサイクルの流れは、年々加速する傾向にある。
【0010】
このような社会背景を考慮して、近年、プラスチック廃棄物を再資源化することが試みられている。プラスチックの主なリサイクル手段はマテリアルリサイクル、サーマルリサイクルならびにケミカルリサイクルに大別される。本発明に関わるPETはポリエステルの一種であり、その高分子主鎖中にエステル結合を有するため、加水分解あるいは加アルコール分解(アルコリシス)等の化学反応によりエステル結合が選択的に切断される。したがって、これらの反応を応用するとポリエステルが解重合し、元のポリエステルを合成するために必要なモノマー、あるいは他の有用な工業化学原料が得られるため、PETの再資源化ではケミカルリサイクルが主流になっているようである。その中でも、超臨界流体を用いるリサイクル法が多数発案されている。
【0011】
しかしながら、磁気テープ類のポリエステルフィルム表面には、ポリウレタンやポリ塩化ビニル等の塗膜バインダーと磁性粉とからなる磁性塗料が塗工され、フィルムの片側表面を覆っているので、ポリエチレンテレフタラート(PET)製ボトル容器のケミカルリサイクルの様に単純にはPET由来の分解生成物である、フタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)を効率良く獲得できない。
【0012】
磁気テープ類のケミカルリサイクルで解決すべき第1の課題は、塗膜バインダーと磁性粉とからなる磁性塗料の塗工層が、磁気記録ヘッドと摺動しつつ接触しても耐久するため、架橋バインダー成分などを含んで硬化されて調製されているので、比較的安定で、ケミカルリサイクル用の分解液の接触によるフィルム分解を妨げることである。
【0013】
磁気テープ類のケミカルリサイクルで解決すべき第2の課題は、超臨界メタノールなどの強い分解条件にさらすと、磁気テープのベースフィルム樹脂のポリエステルが分解して生成するのみならず、磁性塗工層のバインダー樹脂の分解生成物もメタノールに溶け出して混ざるので、PET由来の分解生成物である、フタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)を純度良く効率的に回収できないことである。
【0014】
これまでのところ、磁気テープ類のケミカルリサイクル上の諸課題に挑んで「磁気記録担体から原材料を回収する方法」を研究開発している事例は、下記特許文献に示されるものなど、ごく限られている。
【0015】
しかも、下記特許文献1で開示されている、磁気記録媒体から原材料を回収する方法は、磁気テープ類を細かく裁断してから、有機溶媒、分解触媒、界面活性剤、アルカリ薬剤を含む分解液中に投入し、超音波振動などを加えて撹拌処理することで、ベースフィルムと、磁性塗工層の塗膜とに分離してから、さらに其々を分解してケミカルリサイクルしようとする複雑な処理方法であり、コスト、設備、リサイクル品の純度などで問題が多い。
【0016】
この特許文献1の技術の主眼はPET樹脂から成るベースフィルムから磁性層を剥離することにあり、PET樹脂自身は積極的には分解されず、そのままフィルム形状で回収するとされている。しかし、残されたフィルムは、分解処理液との接触で複雑に化学修飾を受けているし、まだら模様で剥離・単層化されているにすぎないから、リサイクル品の活用も現実的には難しい状況にある。
【0017】
また、この特許文献1に記載されている分解反応条件に着目すると、強い塩基性媒体中で磁性テープを処理しているため、磁性塗膜の磁性粉の主成分である酸化鉄化合物、コバルト被覆酸化鉄などが加水分解等で変性している場合が多いことも、リサイクル品活用の難点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表平9−509977号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】和田守叶、”高分子新素材OnePoint-15 記録・記憶材料”、高分子学会編、共立出版、1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、以上のとおりの背景から、回収、破棄された磁気テープから、専ら、ベースフィルム樹脂を分解して分解生成物を純度良く取出すことを可能とする磁気テープの新しいケミカルリサイクル方法を提供することを課題としている。
【0021】
また、本発明は、分解されない磁性粉などの無機化合物を分離して回収することを可能とする、磁気テープの新しいケミカルリサイクル方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有している。
すなわち、回収ないし廃棄された磁気テープ記録媒体を物理的に分解して、リール巻き磁気テープを分別・取出し、リール巻き磁気テープの磁気テープにヒネリを加えながら磁気テープを嵩高に巻きほどく手法、または、引きほどいた磁気テープを長尺なまま相互にからませて嵩高に保持する手法により、嵩高な磁気テープを得てからコアリールを破棄し、嵩高磁気テープを、反応容器中に導入して、反応容器を加熱・加圧し、100℃以上240.5℃未満の高温域、1MPa以上8.09MPa未満高圧域の亜臨界メタノールにより、嵩高磁気テープのベースフィルム樹脂を構成するポリエステルを熱分解し、メタノールに溶解したベースフィルム樹脂の分解生成物を系外に取出すことを特徴とする高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法である。
【0023】
工程順に詳しく説明すると以下のとおりである。
A1)回収ないし廃棄された磁気テープ記録媒体を物理的に分解して、リール巻き磁気テープを分別・取出す工程、
A2)リール巻き磁気テープを嵩高にほどいてからコアリールを破棄する工程、
A3)嵩高にほどいた磁気テープを、反応容器中に、導入する工程、
A4)反応容器を加熱・加圧し、100℃以上240.5℃未満の高温域、1MPa以上8.09MPa未満高圧域の亜臨界メタノールにより、嵩高にほどいた磁気テープのベースフィルム樹脂を構成するポリエステルを熱分解する工程、
A5)メタノールに溶解したベースフィルム樹脂の分解生成物を系外に取出す工程、
の各工程を含む高温・高圧メタノールによる磁気テープのケミカルリサイクル方法である。
【0024】
また、上記構成に於いて、反応容器から、メタノールに溶解しなかった無機化合物などの残滓を取出す工程を含んでもよい。
【0025】
そしてまた、前記A2工程、即ち、「リール巻き磁気テープを嵩高にほどいてからコアリールを破棄する工程」が、リール巻き磁気テープのリール回転を拘束しつつ、磁気テープをリール巻き軸の軸方向から引きほどいて、磁気テープにヒネリを加えながら嵩高に巻きほどく手法、または/かつ、引きほどいた磁気テープを長尺なまま相互にからませて嵩高に保持する手法により、磁気テープ自体が、表面積が大きく、塗膜層のない裸のポリエステル表面(裏面)を大きく露出させた状態を作り出してから、コアリールを破棄する工程であること、
反応容器から、メタノールに溶解しなかった無機化合物などの残滓を取出す前記工程で、残滓中に磁石を投入して、主要な残滓である磁性粉を分離する工程を含むことも好ましい。
【0026】
上記した本発明の磁気テープのケミカルリサイクル方法は、技術的には次の特徴点として示される。
<第1の特徴>
本発明の磁気テープ類ケミカルリサイクル方法の第1の特徴は、回収ないし廃棄された磁気テープ記録媒体を物理的に分解して、リール巻き磁気テープを分別・取出し、リール巻き磁気テープを嵩高に巻きほどいて嵩高の表面積の大きい状態を作り出す点にある。
【0027】
従来のPET製品の一般的なケミカルリサイクル方法に準拠すれば、VHSビデオテープ製品などの磁気テープ記録媒体は、直接、カセットケース製品ごと、破砕・粉砕工程に導入されることになるが、ごく薄い磁気テープは、プラケースとともに破砕力を受けて、部分的に切断されるものの、大部分は巻き固められて表面積に乏しく反応性の低い、巻きテープ状態のままであるから、これら破砕物を高温・高圧メタノール中に投入してもケミカルリサイクルは遅々として進まない。
【0028】
また、上記した特許文献1のように、手間とコストをかけて磁気テープ類を細かく裁断しても、薄葉紙の如き薄片が増えるので、メタノール中に投入して強く撹拌しても、薄片の重なりは解すことができず、やはり、ケミカルリサイクルは遅々として進まない。
【0029】
これらに対して、本発明の磁気テープ類ケミカルリサイクル方法では、リール巻き磁気テープを、リール巻き磁気テープのリール回転を拘束しつつ、磁気テープをリール巻き軸の軸方向から引きほどいて、磁気テープにヒネリを加えながら嵩高にほどく手法、あるいは、引きほどいた磁気テープを長尺なまま相互にからませて嵩高に保持する手法などにより、表面積を大きく露出させた状態を作り出すことにある。
<第2の特徴>
本発明の磁気テープ類ケミカルリサイクル方法の第2の特徴は、嵩高にほどいた磁気テープのバルキーな纏まりを把持しつつ、反応容器中に導入して、磁気テープの殆どの表面、裏面に、分解溶媒であるメタノールを接触させる点にある。
【0030】
分解反応の初期段階で、メタノール噴射等による接触により、磁気テープの纏まりに大きな物理的ストレスを与えること無く、磁気テープの殆どの表面、裏面に、分解溶媒であるメタノールを接触させることができるので、続く反応容器内での分解反応で強く撹拌しなくても、反応が進む。
【発明の効果】
【0031】
上記のとおりの本発明方法に依れば、リール巻き磁気テープを分別・取得し、リール巻き磁気テープのリール回転を拘束しつつ、磁気テープをリール巻き軸の軸方向から引きほどいて、磁気テープにヒネリを加えながら嵩高にほどく手法、あるいは、引きほどいた磁気テープを長尺なまま相互にからませて嵩高に保持する手法により、表面積が大きく、塗膜層のない裸のポリエステル表面(裏面)を大きく露出させた状態を簡便に作り出すことができる。
【0032】
そして、嵩高にほどいた磁気テープのバルキーな纏まりを把持しつつ、メタノールを噴射しながら、反応容器中に導入して、磁気テープの殆どの表面、裏面に、分解溶媒であるメタノールを接触させるので、分解反応の初期段階で、メタノール噴射により、磁気テープに物理的ストレスを与えること無く、磁気テープの殆どの表面、裏面に、分解溶媒であるメタノールを接触させることができ、続く反応容器内での分解反応で強く撹拌しなくても、反応が進む。
【0033】
したがって、分解反応容器内で強撹拌せず、分解反応が相対的に早く進展する様に、分解溶媒である亜臨界メタノールの温度・圧力条件を選択できる。
【0034】
そして、本件第1の発明では、専ら、メタノールに溶解したモノマー等を含むポリエステル分解生成物を系外に取出すことができ、磁気テープ全体の約9割が純度の良いモノマーとして回収できる。
【0035】
他方、残滓は、殆ど磁性塗工層のバインダー樹脂と磁性粉であるから、取出してから成型用樹脂を加えて混練し成型加工すれば、磁石シートや、電磁波遮蔽シート等として活用できる。
【0036】
また、有機分解生成物は、それぞれ、化学原料として使用できるし、磁性粉は、そのまま同じ用途分野にてマテリアルリサイクルできる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、ポリエステルをベースフィルムとする磁気テープ記録媒体を高温・高圧容器中で熱分解してポリエステル分解生成物のモノマー類等を得る、高温・高圧メタノールによる磁気テープ類のケミカルリサイクル方法に関するものである。
【0038】
そこで、まず、本発明の分解・リサイクルの対象となる「磁気テープ記録媒体」の化学組成などの現状を把握しておく。
<ベースフィルムについて>
「磁気テープ記録媒体」の代表例は、VHSビデオテープである。VHSビデオテープは、1970年代に実用化され、最近まで量産されてきたもので、ポリエチレンテレフタラートをベースフィルムとしている。
【0039】
1990年代以降、ミニディジタルビデオテープ(miniDV)や、コンピュータバックアップ用データストレージのディジタルテープでは、ポリエチレンテレフタラートよりも高強度で高信頼性のポリエチレンナフタラートのポリエステルフィルムがベースフィルムとして使用されているが、高コストなので、市場シェアは、「磁気テープ記録媒体」全体の数%未満である。
【0040】
ポリエチレンナフタラートのベースフィルムを使用する「磁気テープ記録媒体」は、ミニディジタルビデオテープ(miniDV)や、コンピュータバックアップ用データストレージなど、ごく限られた用途製品にしか用いられていないし、当該用途製品であれば、製造メーカーに係わらず、必ずポリエチレンナフタラートのベースフィルムが使用されているので、本発明のA1工程、即ち、回収ないし廃棄された磁気テープ記録媒体の製品を物理的に分解して、リール巻き磁気テープを分別・取出す工程の直前か、直後に、製品の用途やサイズから目視で、ポリエチレンナフタラートの磁気テープを分別することが可能である。
【0041】
なお、厳密には、磁気テープのベースフィルムとして、上記したポリエステル系以外のポリマーを使用した特殊品もごくわずか上市されているが、上記と同様、目視分別が容易なので問題ない。
<磁気テープ記録媒体の基本構成について>
磁気テープ記録媒体の基本構成は、磁気テープの厚み・重量の8〜9割を占めるポリエステル系ベースフィルムと、磁気テープの厚み・重量の約1〜2割を占める磁性塗工表面層とからなる。
【0042】
厳密には、磁性塗工表面層とポリエステル系ベースフィルムとの間に、両者の接着強度を高めるための下塗り層が介在したり、ポリエステル系ベースフィルムの下側裏面に、テープの走行性や帯電防止性のためにバックコート層が設けられることもあるが、これらは、極めて薄い層で重量もごく微量なので、ケミカルリサイクルの観点からは重要でない。
<磁性塗工表面層について>
磁性塗工表面層を形成する磁性塗料の材料構成は、結合剤樹脂(樹脂バインダー)を主体とする有機成分と、磁性粉を主体とする無機成分とからなる。
【0043】
結合剤樹脂としては、塩化ビニル系樹脂やアクリル系樹脂と架橋剤を組み合わせたものなどが多用される。
【0044】
その他の有機成分としては、無機成分の分散を良好にするため、界面活性剤などがごく微量配合されている。
【0045】
磁性塗料の8〜9割は、磁性粉である。(塗工時の有機溶媒は除外する。)
磁性粉は、強磁性鉄系金属磁性粉、窒化鉄磁性粉、板状の六角晶フェライト磁性粉などが多用されている。通常は、平均粒子径が15〜40nmの範囲のものが保磁力や塗工作業性の点で好ましいとされている。
【0046】
近年、コンピュータ用データバックアップテープなどで用いられる磁性粉では、更に高い保磁力や信頼性を求められるので、コバルト被覆強磁性粉などの付加価値の高い磁性粉も多用されているので、分離回収出来れば有意義である。
【0047】
その他に配合される無機成分としては、導電性、帯電防止性、表面潤滑性のために使用されるカーボンブラック類や、表面研磨剤のアルミナ微粒子などが多用されている。
<ケミカルリサイクルの方法について>
前記A1工程からA5工程までのケミカルリサイクル方法で、専ら磁気テープのベースフィルム樹脂をケミカルリサイクルして、ポリエステルのモノマーなどの分解生成物をメタノールとともに系外に取出す。
【0048】
磁気テープ類の約8〜9割を占めるポリエステルが、ジメチルテレフタラート(DMT)、エチレングリコール(EG)などのモノマー類として純度良く回収できる。
【0049】
専ら磁気テープのベースフィルム樹脂をケミカルリサイクルできる様に、亜臨界メタノールの温度、圧力が工夫されている。
【0050】
ベースフィルム樹脂は、磁気テープとしての使用時に、伸び縮みして磁気記録信号が変質することの無い様に、フィルム化時、高倍率に延伸加工される。
【0051】
高倍率延伸の作業性のため、ベースフィルム樹脂では、磁気塗工層と異なり、三次元架橋が制限されているので、化学的な分解を受けやすく、選択的に分解し易い温度・圧力は、幾つかの試験片の熱分解テストを通じて、必ず見出すことができる。
【0052】
反応容器に残っている残滓は、もともとの磁気テープの約1〜2割に減量・減容しており、殆ど磁性塗工層のバインダー樹脂と磁性粉であるから、取出してから成型用樹脂を加えて混練し成型加工すれば、磁石シートや、電磁波遮蔽シート等として活用できる。
【0053】
磁性粉が、ごく微量のカーボンブラックやアルミナ粉とともに回収できる。
【0054】
ディジタル情報記録用の磁気テープでは、コバルト被覆磁性粉など付加価値の高い磁性粉が使用されているので、A1工程で、選別してから後続の工程を実施すれば、貴重な金属資源のリソース、いわゆる「都市鉱山」としても活用できる。
亜臨界ないし超臨界状態のメタノールを分解溶媒とする本発明のケミカルリサイクルの反応容器としては、例えば、ステンレスSUS316製の高圧反応容器などが用いられる。
【0055】
亜臨界メタノールでの分解反応については、反応温度100℃以上、240.5℃(メタノールの臨界温度)未満の温度域、好ましくは、160℃以上、210℃未満の温度域の亜臨界のメタノールで、専ら、ポリエステルベースフィルムを分解する。
【0056】
圧力範囲としては、1MPa以上、8.09MPa未満の範囲から適宜設定できる。その際、触媒等の添加物は一切使用せず、メタノールのみを用いる。
【0057】
PET由来の分解生成物はジメチルテレフタラート(DMT)とエチレングリコール(EG)であり、メタノール中に均一に溶解して得られる。これらの分解生成物は容易に分離・精製することができ、DMTとEGが単離できる。一方、磁性粉や、磁性塗料の樹脂バインダーは、反応に用いられる撹拌子(スターラーバー)に付着しているなどの状態であるから、磁性粉を主体とした残滓も容易に分離・回収できる。
【0058】
分離・精製されたDMTとEGはPETを縮重合して合成する際のモノマー原料として、あるいは他の化学製品の原料として再利用可能である。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
国産S社製の120分記録用VHSビデオテープ製品を分解して、リール巻き磁気テープを分別・取出した。
【0060】
リール巻き磁気テープを、回転出来ない様に把持しながら、巻き軸横方向にテープに捩れが加わる状態で巻きほどいて嵩高なテープの拳大の絡まりをつくった。
【0061】
嵩高にほどいた磁気テープの絡まり(数g)を、メタノール噴射しながら、1Lのステンレス製反応容器中に導入した。テープの絡まりが、反応容器中で充分に沈み込む深さまでメタノールを投入した。メタノールの総量は約500ccであった。
【0062】
反応容器を閉鎖して加熱・加圧し、150℃、3MPaの高圧域の亜臨界メタノール条件にして、5時間維持した。
【0063】
5時間後、反応容器を開けると、磁気テープのベースフィルムを構成するポリエステルがほぼ分解しており、磁気テープの形態をとどめず、磁性粉等からなる黒色の残滓が見出された。
【0064】
メタノール液を系外に取出して分析すると、PET由来の分解生成物であるジメチルテレフタラート(DMT)とエチレングリコール(EG)が、溶質の95%を占めていた。
【0065】
黒色の残滓は、殆どが磁性粉であり、その他、カーボンブラック、アルミナ粉も微量含まれていた。
【0066】
上述したように高コスト・高エネルギーをかけて作製されたVHSテープは、本発明の分解再生方法により、やや反応時間を要するものの、比較的単純なプロセスで、ケミカルリサイクルし易い形態に、成分を分別しつつ回収できるので、今後の応用が期待される。
【0067】
コンピュータデータのバックアップ用磁気テープなどでは、高記録密度、高保磁力が求められて、付加価値の高いコバルト処理磁性粉が使用されているので、それらを選択的に回収して分解再生出来れば、コバルト金属などのレアメタルを獲得する手段としても期待される。