特許第5854507号(P5854507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5854507バイオマス系廃棄物の利用方法及びセメント原燃料化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5854507
(24)【登録日】2015年12月18日
(45)【発行日】2016年2月9日
(54)【発明の名称】バイオマス系廃棄物の利用方法及びセメント原燃料化装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20160120BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160120BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20160120BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20160120BHJP
   C04B 7/44 20060101ALI20160120BHJP
   C10L 5/46 20060101ALI20160120BHJP
【FI】
   C04B7/38ZAB
   B09B3/00 Z
   C02F11/00 C
   C02F11/00 M
   B09B5/00 M
   C04B7/44
   C10L5/46
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-39474(P2012-39474)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-173651(P2013-173651A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−176492(JP,A)
【文献】 特開2010−194860(JP,A)
【文献】 特開2006−272289(JP,A)
【文献】 特開2010−043269(JP,A)
【文献】 特開平03−098700(JP,A)
【文献】 特開2010−120778(JP,A)
【文献】 特開2007−238363(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0066860(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00〜7/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス系廃棄物を、仮焼されたセメント原料、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダスト、又は生石灰の少なくともいずれか1つと混合し、該混合物を、比重の低い粉分と、比重の高い粉分とに分別し、該比重の低い粉分をセメント製造用の燃料として利用し、該比重の高い粉分をセメント製造用原料として利用することを特徴とするバイオマス系廃棄物の利用方法。
【請求項2】
前記混合物から廃プラスチックを除去し、除去したプラスチックを5mm以上50mm以下に破砕してセメントキルンバーナから吹き込むことを特徴とする請求項1に記載のバイオマス系廃棄物の利用方法。
【請求項3】
前記バイオマス系廃棄物は、一般家庭から排出される生ごみ又は/及び排泄物を含むことを特徴とする請求項1又に記載のバイオマス系廃棄物の利用方法。
【請求項4】
バイオマス系廃棄物を、仮焼されたセメント原料、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダスト、又は生石灰の少なくともいずれか1つと混合する混合装置と、
該混合装置から排出された混合物を、比重の低い粉分と、比重の高い粉分とに分別する分別装置と、
該分別装置によって分別された前記比重の低い粉分と、前記比重の高い粉分とを、各々別々にセメント製造装置に供給する供給装置とを備えることを特徴とするバイオマス系廃棄物のセメント原燃料化装置。
【請求項5】
前記混合装置から排出された混合物から廃プラスチックを分別する分別装置と、
該分別装置によって分別された廃プラスチックを5mm以上50mm以下に破砕する破砕装置とを備え、
前記供給装置は、前記破砕装置で破砕された廃プラスチックをセメントキルンバーナに供給することを特徴とする請求項に記載のバイオマス系廃棄物のセメント原燃料化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス系廃棄物の利用方法等に関し、特に、一般家庭から排出されるバイオマス系廃棄物をセメント原燃料化して利用する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一人の人間が排出する生ごみや排泄物の量は、各々約250g/日と約100g/日であるが、前者は焼却処理され、後者は下水として処理場に集められ、資源として活用されていない。これらの総量は、日本国内で約900万トン/年、約360万トン/年となり、産業界から排出される下水等を合わせると、水資源や下水処理コストは大きな社会負担となっていた。
【0003】
そこで、本出願人は、セメントキルン等のセメント製造設備を廃棄物の処理に有効に活用するため、ロータリーキルン又はロータリードライヤーを用い、ごみ袋に収容された生ごみを含む都市ごみ等の廃棄物をそのままロータリーキルン又はロータリードライヤーに投入し、発酵処理する方法等を提案した(特許文献1及び2参照)。
【0004】
また、特許文献3には、おが屑及び糞尿を撹拌して微生物により分解処理し、家庭用トイレや、各種のイベント等で臨時に設置される仮設トイレとして利用できる糞尿の分解処理装置が提案されている。この装置による分解処理物は、堆肥や土壌改良材として有効利用することができる。
【0005】
上記生ごみや排泄物以外の家畜排泄物、食品廃棄物等のバイオマス系廃棄物は、以下に示すように種々の方法で処理されている。
【0006】
家畜排泄物、わら、もみ殻等の動植物の有機物は、堆積又は撹拌して腐熟させてコンポスト化することで、微生物によって有機物を分解し、その際に発生する熱により水分を蒸発させ、病原菌等を死滅させるなどして衛生的で安全なものとしている。
【0007】
また、メタン発酵は、家畜排泄物等に含まれる有機物を酸素のない状態で微生物の活動によって分解し、最終的にメタンと二酸化炭素とを生成する。
【0008】
上記コンポスト化、メタン発酵以外にも、もみ殻等の固体バイオマスを空気の供給を遮断するなどして加熱して炭を生成したり、生ごみ等を減容化する炭化や、バイオマス系廃棄物を加圧熱水の中に置いて加水分解と熱分解でガス化する水熱ガス化や、バイオマス系廃棄物を高温高圧中の熱水中で熱分解して気相、水相、油相を得る水熱液化等の技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−191059号公報
【特許文献2】特開2001−191060号公報
【特許文献3】特開2003−47573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1及び2に記載の方法は、発酵処理に3日程必要とし、発酵処理等のための運転コストも考慮する必要がある。
【0011】
一方、特許文献3に記載の装置を用いることで、分解処理物を得て堆肥や土壌改良材として有効利用することができるものの、処理される排泄物の量は、日本全体で発生する排泄物の総量に対してごく僅かである。
【0012】
また、コンポスト化やメタン発酵は、設備が大掛かりになると共に、処理に長時間を要し、運転コストも高いという問題があった。さらに、炭化についても装置コストが高く、水熱ガス化や水熱液化は、パイロットプラントが運転されているが、商用プラントはまだ建設されていないのが現状である。
【0013】
そこで、本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであって、装置コスト及び運転コストを低く抑え、処理に要する時間を短縮しながら、バイオマス系廃棄物を有効に利用する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、バイオマス系廃棄物の利用方法であって、バイオマス系廃棄物を、仮焼されたセメント原料、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダスト、又は生石灰の少なくともいずれか1つと混合し、該混合物を、比重の低い粉分と、比重の高い粉分とに分別し、該比重の低い粉分をセメント製造用の燃料として利用し、該比重の高い粉分をセメント製造用原料として利用することを特徴とする。
【0015】
そして、本発明によれば、バイオマス系廃棄物を仮焼されたセメント原料等を用いて高温で滅菌処理すると共に、バイオマス系廃棄物に含まれる水分量を低下させることで、移送や運搬が容易になるように改質することができる。また、バイオマス系廃棄物に生石灰を混合した場合には、生石灰より生じた消石灰はアルカリ性であり、バイオマス系廃棄物の腐敗や雑菌の繁殖を防ぐ効果がある。これによって、バイオマス系廃棄物を焼却処理したり、この廃棄物に水を添加することなく、そのままセメント原燃料として有効に利用することができる。ここで、『そのまま』とは、『エネルギーを使用した積極的な乾燥、又は造粒装置等を用いた積極的な固形化、粒状化等を行うことなく。』という意味で使用しており、セメントキルン等に投入する前の放置、搬送による自然乾燥、撹拌による流動化、他の原材料との混合等の操作までをも排除するものではない。さらに、比重の低いバイオマス系廃棄物の粉分を燃料として、比重の高い仮焼されたセメント原料の粉分等をセメント製造用原料として各々に適した用途に用いることができる。
【0017】
前記バイオマス系廃棄物の利用方法において、前記混合物から廃プラスチックを除去し、除去したプラスチックを5mm以上50mm以下に破砕してセメントキルンバーナから吹き込むことができる。これにより、バイオマス系廃棄物に廃プラスチックが含まれている場合でも容易に対応することができる。また、バイオマス系廃棄物の細粉、粒状の廃プラスチック及び処理媒体としての生石灰等を、各々補助燃料、代替燃料及びセメント原料として利用することができ、最適な廃棄物のサーマルリカバリーや水資源の利用削減を図ることができる。
【0018】
前記バイオマス系廃棄物の利用方法において、前記バイオマス系廃棄物は、一般家庭から排出される生ごみ又は/及び排泄物を含むことができる。
【0019】
また、本発明は、バイオマス系廃棄物のセメント原燃料化装置であって、バイオマス系廃棄物を、仮焼されたセメント原料、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダスト、又は生石灰の少なくともいずれか1つと混合する混合装置と、該混合装置から排出された混合物を、比重の低い粉分と、比重の高い粉分とに分別する分別装置と、該分別装置によって分別された前記比重の低い粉分と、前記比重の高い粉分とを、各々別々にセメント製造装置に供給する供給装置とを備えることを特徴とする。
【0020】
そして、本発明によれば、上述のように、バイオマス系廃棄物を移送や運搬が容易になるように改質し、バイオマス系廃棄物の腐敗や雑菌の繁殖を防ぐことで、バイオマス系廃棄物を焼却処理したり、この廃棄物に水を添加することなく、そのままセメント原燃料として有効に利用することができる。また、比重の低いバイオマス系廃棄物の粉分、比重の高い仮焼されたセメント原料の粉分等を各々に適した用途に用いることができる。
【0022】
前記バイオマス系廃棄物のセメント原燃料化装置において、前記混合装置から排出された混合物から廃プラスチックを分別する分別装置と、該分別装置によって分別された廃プラスチックを5mm以上50mm以下に破砕する破砕装置とを備え、前記供給装置は、前記破砕装置で破砕された廃プラスチックをセメントキルンバーナに供給することができる。これにより、上述のように、バイオマス系廃棄物に廃プラスチックが含まれている場合でも容易に対応することができ、最適な廃棄物のサーマルリカバリーや水資源の利用削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、装置コスト及び運転コストを低く抑え、短い処理時間で、バイオマス系廃棄物を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るバイオマス系廃棄物の利用方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、バイオマス系廃棄物を、仮焼されたセメント原料、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダスト、又は生石灰の少なくともいずれか1つと混合し、セメント製造用の燃料又は/及び原料として利用することを特徴とする。
【0026】
バイオマス系廃棄物とは、一般家庭から排出される生ごみや排泄物、家畜排泄物、食品廃棄物、林業や畜産業で排出される廃棄物、もみ殻、し尿等をいう。
【0027】
仮焼されたセメント原料とは、セメント焼成装置のプレヒータや仮焼炉で仮焼されたセメント原料であって、セメントキルンに投入される前に分取されたものなどをいう。
【0028】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダストとは、例えば、セメント焼成装置に付設されている塩素バイパスシステムで得られたダストの粗粉であって、塩素濃度が比較的低く、カルシウム濃度の比較的高いダストをいう。
【0029】
次に、本発明に係るバイオマス系廃棄物の利用方法の一実施の形態について、図1を参照しながら説明する。
【0030】
一般家庭1のシンク2やトイレ3から排出される生ごみや、排泄物からなるバイオマス系廃棄物Wに、セメント工場11のセメントキルン12の窯尻13から抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダストDを添加し、ミキサー車4のミキシングドラムで撹拌混合する。バイオマス系廃棄物WにダストDを混合することで、高温でバイオマス系廃棄物Wの滅菌処理を行う共に、バイオマス系廃棄物Wに含まれる水分量を低下させて運搬を容易に行うことができる。
【0031】
次に、バイオマス系廃棄物WとダストDの混合物Mを篩装置(分別装置)5に供給し、混合物Mを比重の低い粉分Lと、比重の高い粉分Hとに分別し、比重の低い粉分Lをセメント焼成用燃料(補助燃料)としてセメントキルン12に吹き込み、比重の高い粉分Hをセメント原料としてセメントキルン12に投入する。これにより、比重の高い粉分H及び比重の低い粉分Lを各々に適した用途に用いることができる。
【0032】
また、図示を省略するが、一般家庭1から排出される生ごみには、容器・包装系の廃プラスチックも混入しているが、バイオマス系廃棄物Wをミキサー車4のミキシングドラムに投入する前に、バイオマス系廃棄物Wに混入した廃プラスチックを分別し、分別した廃プラスチックを5mm以上50mm以下に破砕してセメント燃料として利用することができる。
【0033】
以上のように、本実施の形態によれば、バイオマス系廃棄物WとダストDの混合物Mから、比重の低い粉分Lをセメント焼成用の補助燃料として用いることができ、分別した廃プラスチックの破砕物を化石燃料の代替燃料として用いることができ、比重の高い粉分Hをセメント原料として利用することができるため、最適な廃棄物のサーマルリカバリーや水資源の利用削減を図ることができる。
【0034】
尚、上記実施の形態においては、ミキサー車4のミキシングドラムでバイオマス系廃棄物Wと、セメント工場11のセメントキルン12の窯尻13から抽気した燃焼ガスを集塵して得られたダストDを混合したが、このダストDに代えて、またダストDと共に、仮焼されたセメント原料や、生石灰を混合することができ、これらすべてを同時に混合してもよい。特に生石灰を混合した場合には、生石灰より生じた消石灰はアルカリ性であるため、バイオマス系廃棄物Wの腐敗や雑菌の繁殖を防ぐ効果がある。
【0035】
一般に強アルカリ性(pH11以上)においては、アルカリ耐性菌等の微生物を除き、微生物が死滅し腐敗が起こりにくくなることが知られている。生石灰を混合した場合には、生石灰より生じた消石灰はアルカリ性であり、その添加量を調整し、pHを11以上にすることで、バイオマス系廃棄物Wの腐敗や雑菌の繁殖を防ぐことができる。アルカリ耐性菌とは、Bacillus属、Alkaliphilus transvaalensis、Alkalibacterium indicireducens、Halobacterium属等をいい、本発明では対象としない。
【0036】
また、上記実施の形態においては、バイオマス系廃棄物Wとして一般家庭1から排出される生ごみや排泄物を例示したが、その他のバイオマス系廃棄物を利用することもできる。
【0037】
さらに、ミキサー車4のミキシングドラムでバイオマス系廃棄物WとダストDを混合したが、一般的に用いられている混合装置を用いてもよく、ミキサー車4や混合装置からセメント工場11への比重の高い粉分Hや比重の低い粉分Lの搬送及び供給も、一般的に用いられている搬送装置や供給装置を用いることができる。
【0038】
また、上述のように、篩装置5を用いて混合物Mを比重の高い粉分Hや比重の低い粉分Lに分別してセメント工場11で利用するのが好ましいが、必ずしも篩装置5を設置する必要はなく、混合物Mをそのまま窯尻13等に投入することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 一般家庭
2 シンク
3 トイレ
4 ミキサー車
5 篩装置
11 セメント工場
12 セメントキルン
13 窯尻
D ダスト
H 比重の高い粉分
L 比重の低い粉分
M 混合物
W バイオマス系廃棄物
図1