【実施例】
【0033】
下記実験例及び実施例において使用する「ARK−1菌株」、「ARK−2菌株」及び「ARK−3菌株」は、2002年に岡山県浅口市金光町で栽培したブドウから分離したリゾウム・ヴィティスに属する菌株であり、それぞれ「リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(受託番号:FERM BP−11426)」、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(受託番号:FERM BP−11427)及びリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(受託番号:FERM BP−11428)」として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国際寄託されている。これらの細菌学的性質、遺伝学的性質及び病原性は前述の通りである。
【0034】
実験例1:(根頭がんしゅ病発病抑制効果)
ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のそれぞれを、PSA平板培地で3日間培養した後、各菌体を滅菌蒸留水に懸濁して菌濃度1.0×10
7個/mLの菌液(a)を作成した。また、比較例として、非病原性アグロバテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株、及び非病原性リゾビウム・ヴィティスVAR06−32株についてもPSA平板培地で3日間培養した後、各菌体を滅菌蒸留水に懸濁して菌濃度1.0×10
7個/mLの菌液(a)を作成した。ブドウ根頭がんしゅ病菌である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株をPSA平板培地で3日間培養した後、菌体を滅菌蒸留水に懸濁して菌濃度1.0×10
7個/mLの菌液(b)を調製した。
本発明の菌(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)又は比較例の菌(非病原性アグロバテリウム・ラジオバクターK84株、非病原性リゾビウム・ヴィティスVAR06−32株)を含む菌液(a)と、リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27の菌液(b)と、を体積比にて1対1の割合で混合したもの5種を接種源とした。なお、対照として、リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27の菌液(b)も接種源として用いた。その接種源(合計6種)に爪楊枝の先端を浸し、一接種源当たり7〜10株のブドウ(品種:ネオ・マスカット、1年生苗木)に該先端を突き刺して接種した。1株のブドウあたり茎の7〜10か所に接種した。接種したブドウ苗木は温室内で3か月静置した後、接種部位のがんしゅ形成の有無を評価した。
評価の結果を、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみを接種した無処理区(対照)、アグロバテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株(比較例)、非病原性リゾビウム・ヴィティスVAR06−32株(比較例)の結果とともに、表1に示す。なお、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみを接種した無処理区(対照)のブドウ苗木の写真を
図1のAに示し(矢印で示すようにがんしゅ形成が認められた)、ARK−1菌株の菌液を混合したものを接種したブドウ苗木の写真を
図1のBに示した。表1は、上記の試験を3回反復して行い、その平均値を算出したものである。表1の防除価は以下の数式により算出した。
防除価=100×(無処理区の発病率−非病原性菌株と混合して接種した区の発病率)/(無処理区の発病率)。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す如く、本発明の菌株であるARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株は、ブドウ根頭がんしゅ病菌である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみを接種した無処理区及び比較例の菌株を接種した区と比較して根頭がんしゅ病の発病率が顕著に低く、根頭がんしゅ病に対して高い防除効果を認めた。なかでも、ARK−1菌株は、高い防除効果を認めた。
【0037】
実施例1:(本剤の製造例)
まず、PS(Potato sucrose)培地を調製した。じゃがいも300gの煎汁、Ca(CO
3)
2・4H
2O 0.5g、Na
2HPO
4・12H
2O 2.0g、ペプトン5.0g及びサッカロース20gを蒸留水1000mLに溶解させオートクレーブ滅菌しPS培地(以下、「PS」ともいう。)を調製した。このように調製したPS培地に、ARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株を各々別々に接種し(いずれも、前述の凍結保存物を解凍し、その一白金耳量(2mg)を接種した。)、30℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各菌株を生きた状態で含有する生菌体含有培養液(本剤)を得た。
【0038】
実験例2:(阻止円形成による評価)
上記実施例1で製造した3種類の生菌体含有培養液(本剤)をそれぞれ浸み込ませた直径8mmのペーパーディスクを、シャーレ内部のPSA平板培地の上に置いて27℃で24時間培養した。24時間の培養後、そのシャーレのふたの内側に直径9cmの濾紙を敷き、クロロホルムをその濾紙に1mL滴下してふたを戻して30分間室温で燻蒸した後、濾紙を外して60分間静置しクロロホルムをそのシャーレ内部から完全に蒸発除去した。その後、予め表2に記載する各種根頭がんしゅ病菌株をPSA平板培地で3日間培養した後、滅菌蒸留水に懸濁して作成しておいた菌濃度1.0×10
8個/mLの各菌液を、上記で作製した各培地に、1枚(シャーレ1個)当たり2mLの割合でスプレーで噴霧して接種し、27℃で48時間培養後、ペーパーディスク周辺の形成される阻止円の大きさを測定した。その結果、表2に示すとおり、ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株は供試した全ての根頭がんしゅ病菌株に対して、その増殖を抑制した。
【0039】
【表2】
【0040】
実験例3:(ブドウ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある野外の圃場において圃場試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を1.0×10
9個/mLに調整し、これを本剤として用いた。ブドウ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211674株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211676株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−60株、及び病原性リゾビウム・ヴィティスVAT07−1株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(1.1m
2)あたり、上記で得られた培養物20Lを土壌に混和して汚染圃場とした。ブドウ(品種:ピオーネ、2年生苗木)の根を束ねて全長の1/2の位置で切断し、根部を菌濃度1.0×10
9個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり4本を定植した。各処理区6反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。なお、無処理区とは、本剤で浸漬処理をしないで定植したブドウを意味する。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表3に示すとおり、本剤(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)で浸漬処理することにより、ブドウ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、ブドウ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。
なお、無処理区(対照)の汚染土壌にブドウ苗木をそのまま定植したものを6か月後に掘り起こしたブドウ苗木の写真を
図2のAに示し(矢印で示すようにがんしゅ形成が認められた)、ブドウ苗木の根をあらかじめARK−1の菌液に浸漬した後に汚染土壌に定植したものを6か月後に掘り起こしたブドウ苗木の写真を
図2のBに示した(がんしゅ形成が認められない)。
【0041】
【表3】
【0042】
実験例4:(ブドウ根頭がんしゅ病の防除例・土壌灌注処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を1.0×10
8個/mLに調整し、これを本剤として用いた。ブドウ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211674株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211676株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−60株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−68株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−80株、病原性リゾビウム・ヴィティスVAT07−1株、及び病原性リゾビウム・ヴィティスAt−90−23株、をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、土壌を300g詰めた直径9cmビニルポット(植木鉢)あたり、上記で調製した培養物100mLを土壌に混和して汚染土とした。ブドウ(品種:ネオ・マスカット、1年生苗木)を1ポットに1本定植した後、本剤を1ポットあたり50mL灌注した。各処理区60ポットで試験し、定植4か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表4に示すとおり、本剤(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)を土壌に灌注することにより、ブドウ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、ブドウ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。
【0043】
【表4】
【0044】
実験例5:(リンゴ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある野外の圃場において圃場試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を2.0×10
8個/mLに調整し、これを本剤として用いた。リンゴ根頭がんしゅ病菌株に属する病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)ARAT001株、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ARAT002株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR8株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR11株、及び病原性リゾビウム・リゾゲネスNEARNo.9 3/2株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(6.0m
2)あたり100Lを土壌に混和して汚染圃場とした。リンゴ(品種:フジ、2年生苗木)の根を束ね、根部を菌濃度2.0×10
8個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり11本を定植した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表5に示すとおり、本剤(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)で浸漬処理することにより、リンゴ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、リンゴ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。
【0045】
【表5】
【0046】
実験例6:(バラ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において実施した。なお、上記の各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を5.0×10
8個/mLに調整し、これを本剤として用いた。リンゴ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)ARAT001株、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ARAT002株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR8株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR11株、及び病原性リゾビウム・リゾゲネスNEARNo.9 3/2株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した(なお、リンゴ根頭がんしゅ病菌はバラにも強い病原性を有するため、ここではリンゴ根頭がんしゅ病菌を供試した。)。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、土壌を600g詰めた直径15cmビニルポットあたり、上記培養物200mLを土壌に混和して汚染土とした。バラ(品種:ローテローゼ、1年生苗木)の根を束ねて全長の1/2の位置で切断し、根部を菌濃度5.0×10
8個/mLの本剤に浸漬して24時間静置した後、1処理区あたり15本を定植した。なお、1本を1ポットに定植し、1処理区を15ポットにて形成した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表6に示すとおり、本剤で浸漬処理することにより、バラ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、バラ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。
【0047】
【表6】
【0048】
実験例7:(トマト根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において試験を実施した。なお、各生菌体含有培養液を水道水で希釈して菌濃度を5.0×10
8個/mLに調整したものを、本剤として用いた。リンゴ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)ARAT001株、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ARAT002株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR8株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR11株、及び病原性リゾビウム・リゾゲネスNEARNo.9 3/2株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した(なお、リンゴ根頭がんしゅ病菌はトマトにも強い病原性を有するため、ここではリンゴ根頭がんしゅ病菌を供試した。)。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、土壌を300g詰めた直径9cmビニルポットあたり、上記培養物100mLを土壌に混和して汚染土とした。トマト(品種:桃太郎8、実生、発芽4週間後)の根を束ねて全長の1/2の位置で切断し、根部を菌濃度5.0×10
8個/mLの本剤に浸漬して10分間静置した後、1処理区あたり40本を定植した。なお、1本を1ポットに定植し、1処理区を40ポットにて形成した。各処理区3反復で試験し、定植3か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表7に示すとおり、本剤で浸漬処理することにより、トマト根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、トマト根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。
【0049】
【表7】
【0050】
実験例8:(モモ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある野外の圃場において圃場試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を2.5×10
8個/mLに調整し、これを本剤として用いた。モモ根頭がんしゅ病菌株に属する病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)Pch−Ag−2株をPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。この菌体をPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(4.2m
2)あたり100Lを土壌に混和して汚染圃場とした。モモ(品種:白鳳、2年生苗木)の根を束ね、根部を菌濃度2.5×10
8個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり13本を定植した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表8に示すとおり、ARK−1菌株またはARK−3菌株を有効成分とする本剤で浸漬処理することにより、モモ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、モモ根頭がんしゅ病に対して高い防除効果が得られた。とりわけARK−1菌株は極めて高い防除効果を示した。
【0051】
【表8】
【0052】
実験例9:(ナシ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理)
実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において実施した。なお、上記の各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を2.5×10
8個/mLに調整し、これを本剤として用いた。ナシ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)P−Ag−1株およびP−Ag−6株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(4.2m
2)あたり100Lを土壌に混和して汚染圃場とした。ナシ(品種:豊水、2年生苗木)の根を束ね、根部を菌濃度2.5×10
8個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり13本を定植した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。
防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。
その結果、表9に示すとおり、本剤で浸漬処理することにより、ナシ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、ナシ根頭がんしゅ病に対して高い防除効果が得られた。とりわけARK−1菌株は極めて高い防除効果を示した。
【0053】
【表9】
【0054】
実験例10:(種子発芽率向上例)
岡山県内で栽培されていたブドウ(品種:ピオーネ)中から分離したリゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株およびARK−3菌株をポテト・デキストロース液体培地で27℃、2日間培養し、遠心分離機により培養菌体のみを得た。これを蒸留水にて10
8個/mLに調整した。
市販されているミツバ、パセリ、ニガウリの種子を前記の手法で調製した菌液に60分間浸漬し、浸漬種子を得た。この種子を育苗培土に播種し、温室内で育苗した。播種2週間後に発芽率を調査した。なお、比較例としては、各種種子を水道水に60分間浸漬したものを用いた(実験例10−1)。
また、市販されているミツバ、パセリ、ニガウリの種子を育苗培土に播種し、覆土する前に培土および種子表面に実施例1で調製した菌液を500mL/m
2の割合で土壌灌注処理した。土壌灌注処理後、覆土を行い、温室内で育苗し、播種2週間後に発芽率を調査した。なお、比較例としては、水道水を500mL/m
2の割合で土壌灌注処理したものを用いた(実験例10−2)。
何れの試験も、発芽率は子葉が地上部において完全に展開しているものを発芽とみなして、以下の式(1)により算出した。
発芽率(%)=(発芽数/播種数)×100。
その結果、表10に示すとおり、リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株およびARK−3菌株を培養して得られた菌体を未発芽の種子に作用させることは、植物種子の発芽率を向上させることが示された。
【0055】
【表10】
【0056】
以上述べたように、本発明の新規な微生物ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも根頭がんしゅ病に対して極めて優れた防除効果を示した。
また、本発明に係わる微生物ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも冷凍保存でき、使用にあたりその一部を取り出して容易に増殖できるので、取り扱いが簡単である。
また、本発明に係わる微生物ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも自然界に存在する非病原性リゾビウム・ヴィティスに属するものであり、安全性に優れ、環境への影響が少ない。
以上の通り、本発明に係わる非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株はいずれも根頭がんしゅ病に対して高い防除効果を示すことから、根頭がんしゅ病の防除剤として、農業分野および園芸分野で広く適用できる。
【0057】
そしてさらに、本発明のリゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株およびARK−3菌株は、根頭がんしゅ病防除作用だけでなく植物種子発芽率向上作用を併せ持つことから、一度適用するだけで2つの効果を期待することができる。このような効果は農作物生産において、コスト削減と作業簡易化に役立つ。また、本発明の菌株は自然界から分離されたことから、環境や生態系に悪影響を及ぼすことはなく、安全性が高いという利点がある。
【0058】
本発明を要約すれば次のとおりである。
【0059】
すなわち本発明は、実際の作物生産現場において安定的な根頭がんしゅ病防除効果や植物種子発芽率向上効果を発揮し、生物農薬等として使用可能な非病原性菌を提供することを目的とする。
【0060】
そして、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分とすることで、根頭がんしゅ病防除剤、及び/又は、植物種子発芽率向上剤等を提供できる。さらに、当該剤を植物あるいは植物種子に接触させるステップを含んでなる、根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法も提供できる。
【0061】
本発明において国際寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)。
(2)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)。
(3)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)。