(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、金属水酸化物および可塑剤を含有する。
【0014】
本発明に用いる水酸基含有化合物は、ポリブタジエンポリオール(A1)を含有する。
【0015】
本発明に用いるポリブタジエンポリオール(A1)としてはポリウレタン樹脂に使用される従来公知のものを使用することができ、平均水酸基価が20〜120mgKOH/gであることが好ましい。
【0016】
ポリブタジエンポリオール(A1)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して3〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。ポリブタジエンポリオール(A1)の配合量が上記範囲より少ないと、耐湿熱性、電気絶縁性が低下する傾向があり、上記範囲より多いとポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。
【0017】
本発明においては、さらにひまし油系ポリオール(A2)を用いることも好ましい実施形態である。前記ポリブタジエンポリオール(A1)と前記ひまし油系ポリオール(A2)の2種類のポリオール化合物を含有していることから、ポリウレタン樹脂組成物の混合時の相溶性が優れる。
【0018】
ひまし油系ポリオール(A2)としては、ひまし油、ひまし油脂肪酸、及びこれらに水素付加した水添ひまし油や水添ひまし油脂肪酸を用いて製造されたポリオールを使用することができる。このようなポリオールとしては、ひまし油、ひまし油とその他の天然油脂とのエステル交換物、ひまし油と多価アルコールとの反応物、ひまし油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物及びこれらにアルキレンオキサイドを付加重合したポリオールなどが挙げられる。
【0019】
ひまし油系ポリオール(A2)の25℃における粘度は、800mPa・s以下であることが好ましく、700mPa・s以下であることがより好ましい。官能基数は、1.0〜3.0であることが好ましく、1.2〜2.7であることがより好ましい本発明において官能基数は仕込み量から算出される平均水酸基数をいう。これらの範囲であれば、ポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が好適なものとなり、作業性が良好なものとなる。
【0020】
ひまし油系ポリオール(A2)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して3〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。ひまし油系ポリオール(A2)の配合量が上記範囲より少ないと、ポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向があり、上記範囲より多いと耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0021】
ポリブタジエンポリオール(A1)とひまし油系ポリオール(A2)は、イソシアネート基含有化合物(B)と反応させて得られる水酸基末端ウレタンプレポリマーであってもよい。
【0022】
前記ポリブタジエンポリオール(A1)と前記ひまし油系ポリオール(A2)の混合割合は、10/90〜90/10(質量比)であることが好ましい。上記範囲内とすることにより、ポリウレタン樹脂組成物の混合時の相溶性がより良好となる。
【0023】
本発明に用いるイソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)を含有する。イソシアネート基含有化合物がポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含有することにより、ポリウレタン樹脂の熱的耐久性が優れたものとなる。その理由は明らかではないが、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体の加水分解抑制効果によるものと推察できる。また、イソシアネート基含有化合物には、他のポリイソシアネート化合物(b)を含めることが出来る。他のイソシアネート化合物としては、イソシアヌレート変性体以外であれば特に限定されることなく、ビウレット変性体、アダクト変性体、二官能変性体、単量体等が挙げられる。
【0024】
ポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物および芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0025】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0026】
脂環族ポリイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0027】
芳香族ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0029】
ポリイソシアネート化合物としては、反応性、耐久性、粘度および作業性の観点から、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物が好ましく、脂肪族ポリイソシアネート化合物がより好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートが最も好ましい。
【0030】
また、上記ポリイソシアネート化合物には、ポリイソシアネート化合物と、ポリブタジエンポリオール(A1)及び/又はひまし油系ポリオール(A2)とを反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーも使用することができる。
【0031】
本発明のポリウレタン樹脂は、イソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、0.6〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.3であることがより好ましい。イソシアネート基と水酸基のモル比がこの範囲より小さいと硬化不良が生じる場合や得られる樹脂の耐熱性が低くなる場合があり、この範囲より大きいと硬化不良が起こる場合があるからである。
【0032】
本発明に用いる金属水酸化物(C)は、例えば、水酸化アルミニウムおよび/または、水酸化マグネシウムである。
【0033】
金属水酸化物(C)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物(X)100質量部に対して、40〜80質量部であることが好ましく、45〜78質量部であることがより好ましい。金属水酸化物(C)の配合量が上記範囲より少ないと、難燃性が低下する傾向があり、上記範囲より多いとポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。
【0034】
前記ひまし油系ポリオール(A2)および前記金属水酸化物(C)の質量比は(A2):(C)=1:5〜1:10であることが好ましい。上記範囲よりひまし油系ポリオール(A2)が多いと耐湿熱性が低下する傾向があり、ひまし油系ポリオール(A2)が少ないとポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。
【0035】
本発明に用いる可塑剤(D)としてはポリウレタン樹脂に使用される従来公知のものを使用することができ、このような可塑剤としては例えば、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレートなどのフタル酸エステル、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、アセチル化リシノール酸トリグリセリド、アセチル化ポリリシノール酸トリグリセリドなどのひまし油系エステル、トリオクチルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテートなどのトリメリット酸エステル、テトラオクチルピロメリテート、テトライソノニルピロメリテートなどのピロメリット酸エステル、トリクレジルフォスフェート、トリスキシレニルフォスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルホスフェート、トリフェニルフォスフェートなどリン酸エステルなどが挙げられる。耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性、経済性に優れ、かつ樹脂ケースにケミカルストレスクラックの生じにくさの観点から、これらのうちフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル、リン酸エステルがより好ましい。
【0036】
可塑剤(D)の配合量は、水酸基含有化合物(A)および可塑剤(D)の合計100質量部に対して、1質量部〜30質量部であり、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性に優れ、かつ樹脂ケースにケミカルストレスクラックの生じにくさの観点から、1質量部〜28質量部がより好ましく、5質量部〜25質量部がさらに好ましい。
【0037】
前記ポリブタジエンポリオール(A1)と前記可塑剤(D)の混合割合は、100/4〜100/35(質量比)であることが好ましく、100/7〜100/30(質量比)であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、良好な作業性を有しつつ、樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0038】
なお、本発明に用いるポリオール成分には、本発明の効果を損なわない程度に、ポリブタジエンポリオール(A1)およびひまし油系ポリオール(A2)以外のポリオールを配合することができる。このようなポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリブタジエンポリオールの水素化物およびポリイソプレンポリオールの水素化物などが挙げられる。
【0039】
また、本発明のポリウレタン樹脂組成物には、触媒、酸化防止剤、吸湿剤、防黴剤、シランカップリング剤など、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えばアルコキシシラン類、ビニル基含有シランカップリンク剤、エポキシ基含有シランカップリンク剤、メタクリル基含有シランカップリンク剤、アクリル基含有シランカップリンク剤などが挙げられる。
【0040】
本発明の混合粘度は、4万mPa.s以下が好ましく、3万mPa.s以下がさらに好ましい。これらの範囲であると作業性の点で良好である。なお、混合粘度は実施例に記載の方法で測定される。
【0041】
本発明の耐湿熱性は、85℃×85%RH×3000時間後において、硬度typeA5以上を保持することが好ましく、硬度typeA10以上を保持することがさらに好ましい。これらの範囲であると樹脂形状保持の点で良好である。
【0042】
本発明の難燃性は、UL94規格において、V−1レベルの難燃性を有することが好ましく、V−0レベルの難燃性を有することがさらに好ましい。
【0043】
本発明の電気絶縁性は、85℃×85%RH×3000時間後において、10の8乗 Ω・cm以上であることが好ましく、10の9乗 Ω・cm以上であることがさらに好ましい。これらの範囲であると電気絶縁性の点で良好である。
【0044】
本発明の耐ケミカルストレスクラック性は、25℃×60%RH×48時間後での臨界ひずみにおいて、0.5%以上であることが好ましく、0.7%以上であることがさらに好ましい。これらの範囲であると基板の筐体およびケース材にクラックが入らない点で良好である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のポリウレタン樹脂組成物および本発明のポリウレタン樹脂用原料組成物について詳細に説明する。なお、本明細書中に於ける「部」、「%」は、特に明示した場合を除き、「質量部」、「質量%」をそれぞれ表している。
【0046】
実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。
【0047】
(ポリブタジエンポリオール(A1))
A1−1:平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール
(商品名:Poly bd R−15HT、出光興産社製)
A1−2:平均水酸基価47mgKOH/gのポリブタジエンポリオール
(商品名:Poly bd R−45HT、出光興産社製)
(ひまし油系ポリオール(A2−1))
A2−1: ひまし油脂肪酸−多価アルコールエステル(官能基数2価)
(商品名:URIC Y−403、伊藤製油社製)
【0048】
(イソシアネート基含有化合物)
(ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B))
B1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体
(商品名:デュラネートTLA−100、旭化成ケミカルズ社製)
(他のポリイソシアネート化合物(b))
b2:ヘキサメチレンジイソシアネートの2官能型変性体
(商品名:デュラネートD201、旭化成ケミカルズ社製)
b3:ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体
(商品名:デュラネート24A−100、旭化成ケミカルズ社製)
【0049】
(金属水酸化物(C))
C1:水酸化アルミニウム
(商品名:水酸化アルミC−305、住友化学社製)
C2:水酸化マグネシウム
(タテホ化学工業社製)
【0050】
(可塑剤(D))
D1:ジウンデシルフタレート
(商品名:サンソサイザーDUP、新日本理化社製)
D2:トリスキシレニルフォスフェート
(商品名:TXP、大八化学工業社製)
【0051】
<実施例1〜10及び比較例1〜3>
表1に示す配合により、各実施例及び各比較例のポリウレタン樹脂組成物を調製した。調製に際しては、表1に示す成分のうち、イソシアネート基含有化合物(B)を除く成分を混合機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて2000rpmで3分間混合した後、25℃に調整した。続いて、この混合物に25℃に調整したイソシアネート基含有化合物(B)を加え、同上の混合機を用いて2000rpmで60秒間混合することにより、各実施例のポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
<評価方法>
【0054】
(混合粘度)
得られたポリウレタン樹脂組成物を25℃に調整し、混合開始から5分後の粘度をBH型粘度計を用いて測定した。
【0055】
(耐湿熱性)
1.試験片の作成
上記ポリウレタン樹脂組成物を5cm×5cm、厚み1cmの金型に流し込み、80℃で16時間養生した後、これを脱型することにより、耐湿熱性評価用の試験片を作成した。
2.耐湿熱性の評価
試験片を85℃×85%RH×3000時間処理後、硬度(タイプA)をJIS K6253で測定し、体積固有抵抗値を、東亜電波工業社製SE−10Eを用い、25±5℃、65±5%RHで500Vの測定電圧を印加し、60秒後の数値を測定した。下記の通り評価した。
○:硬度typeA10以上かつ体積固有抵抗値が10の9乗 Ω・cm以上
×:硬度または体積固有抵抗値が上記を満たさない。
【0056】
(難燃性)
難燃性は、UL規格のUL94(プラスチック材料の難燃性)に従って測定した。
【0057】
(体積固有抵抗値)
東亜電波工業社製SE−10Eを用い、25±5℃、65±5%RHで、試験片を500Vの測定電圧を印加し、60秒後の数値を測定する。
【0058】
(耐ケミカルストレスクラック性)
ABS試験片1(商品名:コウベポリシートABS、新神戸電機社製)を長軸100mm、短軸40mmの
図1に示す1/4楕円治具に取り付け、実施例の樹脂シート(シートの製法)を試験片表面に貼り付けしたあと、 25℃×60%の環境下に48時間放置し、亀裂が発生する位置Xを測定し、式1を用いて臨界ひずみ値を求めた。当該臨界ひずみ値に基づき、耐ケミカルストレスクラック性を下記のようにランク分けして評価した。
【数1】
ε:臨界ひずみ値
a:楕円長軸 100mm
b:楕円短軸 40mm
X:亀裂発生点 試験片の長軸に対する固定端から亀裂発生点までの距離 mm
t:試験片厚み 2.0mm
<評価>
○(クレーズまたはクラック発生の可能性が小さく、十分に実用可能):臨界ひずみ値(ε)0.7%以上
×(成形ひずみの大きな部分や応力集中の高い部分ではクラック発生の可能性が高い):臨界ひずみ値(ε)0.7%未満
【0059】
<評価結果>
実施例1〜10から分かるように、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、混合粘度が使用可能な範囲であり、また、作業性、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性に優れ、樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいことが分かる。
【0060】
一方、比較例1のように可塑剤が少ない系では、粘度が高くなり作業性が悪くなる。比較例2のように可塑剤が多い場合は、ケミカルストレスクラックが生じてしまう。また、比較例3のようにポリブタジエンポリオールを使用しない系では、耐湿熱性が低くなる。